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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

受験戦争

作者: しにがみ。

俺の姉は、優秀な人だった

年の差は2年あったけど、小さいころから姉には敵わないって感じてた

小学校のときは、六年間通知表が5か4で埋まってた

友達もたくさんいて、下級生からも好かれてた

卒業式では両手が手紙とプレゼントでいっぱいになるくらい

テストじゃ常に90点以上、運動もそこそこできる

球技が苦手なのはご愛嬌ってことで

将来は作家になりたいって言ってた

国語が得意で、文章を書く作業が大好きな姉にぴったりだと思った

月に40冊は本読んでて、かなりの読書家だった

ちょっと気が強いとこもあったけど

まとめ役とかよくやってたな

そんな姉に比べて俺は、ほんと、欠陥だらけだった

一言で言うと、姉と正反対

テストじゃ20点がいいとこ

いたずら坊主で先生からよく呼び出しくらってた

特に国語が嫌いで、0点をとったこともある

文章を読むのが大嫌いで、漫画すら読まなかった

小1のときとかは、俺のロッカーの整理整頓しに来てくれてた程、姉は面倒見が良かった

だから、先生の姉に対する評価はすごく高いもので、入学当初は「あの子が弟君なのね」と俺は期待の眼差しで見られていた

けど、俺が欠陥だらけの馬鹿だとわかると、すぐに姉と比較された

「おねえちゃんはとっても優秀なのに」

そんな心の声が聞こえてきそうだった

けど、馬鹿は俺のせいなんだ

姉は俺が幼稚園のころから手書きのプリントを作ってくれて、勉強を教えようとしてくれていた

けど俺は見向きもしなかった

むしろ、うっとおしくて仕方なかった

けど姉は、俺のスポーツの才能に気づいてくれた

小さいころから走ったり、球技が得意なのに気づいて、才能を伸ばそうとしてくれていた

野球チームに入ってからは、スイングや投球フォームをよく研究してくれて、俺も実力を伸ばせた

そのころの姉は、本当にきらきら輝いて見えた


姉が中学生になった

そのころから、姉はがらりと変わった

何が、というか、すべてだ

いつも元気に笑ってた姉の雰囲気は、どこか冷たく孤独な感じに変わった

学校に行くときは毎日必ずマスクをつけていた

小学校では、週に2回は遊びに行っていたのに、全く遊ばなくなっていた

一年のときは、学年2位をとっていた成績も、2年のときは20番代になっていた

友達が少ないことが俺にでも分かった

姉は学校が大嫌いだった

そして、姉は、二次元に引き込まれていた

ボカロ、アニメ、ラノベ、ゲーム、ネット

部活よりアニメを優先し、口ずさむ歌はボカロばかり、姉の本棚はラノベで埋まっていった。作家の夢はいつしかラノベ作家に変わった

ゲーム友達と何時間もゲームをやりこんでいた

ネット友達との繋がりが姉の命だった

小学校のころから名門高校を目指していた姉だが、いつしか通信制高校がいいと言い出していた

そのころ俺は小学校5年生になっていた

小5にもなると姉が戦ってきていたものがわかってきていた

ヒエラルキー、グループ、学力、ルックス、才能

どろどろした人と人との関係が浮き彫りになっていた

気づけば、俺はスポーツが得意で発言力の強い男子だった

大人になるほど世界は難しくなるんだ、と初めて思った

姉はこの世界を必死で行きぬいてきていたのだ

まだ小さかったあの頃は姉のきれいな部分だけしか見えていなかった

中学に入ったころから、しきりに、「死ね」「死ぬ」「ムカつく」「消えろ」と気に食わない奴のことを呪わんばかりの勢いだった

相変わらず馬鹿な俺に向かって、「世界に有害だから死ね」「お前いる価値無いから」「さっさと消えろ」と言ってくるほど、口も悪かった


姉が三年になった

親は無自覚だが、かなり受験について口うるさかった

ゲームも取り上げられ、姉はストレスで爆発しそうだった

姉は受験生ということも忘れているかのように毎日ネットにのめりこんでいた

そんな姉に、親は「もっと焦れ」「勉強しろ」「考えているほど甘くない」と言葉をかけ続けていた

ある日、姉と親で口論になった

「お前はこの高校に行きたいんだろ! だったらもっと勉強しろよ! 死に物狂いで勉強しろよ!」と怒鳴られていた

けど俺は知っていた、姉が本気で通いたいのは通信制高校なのだ

その後、姉は自室に入った瞬間

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」

と甲高い声で叫んでいた

隣の部屋にいた俺は信じられなかった

あんなにも輝いていた姉がいつの間にか狂っていた

俺も中学生になって、テストやら部活やら課題やらに追われていた

その間に姉はどんどん壊れていたのだ

受験という名の怪物に壊されていた

世の中には『受験戦争』という言葉がある

けど、受験は戦争じゃないし、勉強は戦いじゃない

勝ちも負けもない

受験でストレスを抱えるのは変な話だし、勉強を押し付けられるのも可笑しい話だ

俺は思う

姉の破壊を止められなかった俺、本気で行きたがった高校をすげなく駄目と言った両親、両方悪いと思う

姉は何を思ったのか

優秀な姉がどのようにしてあのような結論に至ったのか

馬鹿な俺にはわからない

けど姉は、天才だった

勉強、スポーツ、何でも長年やってきたかのように軽々こなす

優秀、とか、秀才、でもない

姉は天才だ

これだけは世界中に叫べる

俺の姉は天才だ

だから、姉の出した答えは正しいのだろう

俺や親なんかが出した答えよりきっと何百倍も正しい

あの姉が出した答えなのだから正しいのだ



俺は最後まで姉ちゃんを信じるよ




今日、姉が死んだ






≪あとがき のようなもの≫

ここまでお読みいただきありがとうございます

しにがみ。と申します

受験を題材に書こうと思ったのですがなんかちょっと違う感じになりました

短編では人のリアルを切り取るように書いていきたいと思います

けど、結構オールマイティに書きます

いつか連載では異世界ものとか書くと思うので、そちらもよろしくお願いします

ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました

それでは、またいつか


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