第12話
この激情は消えない、脆い私の命が果てない限り
この狂気は消えない、世界が悲劇を生むことをやめない限り
花の香りが漂うのを感じた。
小鳥のさえずりも聞こえてくる。
優しい風は屋敷の庭の木々を揺らしている。その木々の葉の重なり合う音が、どうしても懐かしく感じてしまう。
郷愁とも言うのだろうか。
その場所の音も匂いも暖かさもすべて、あの一番幸せだった時と同じ優しい感覚だった。
そんな懐かしさを感じたガルナは目を覚まさざるを得なかった。そしていつも通りゆっくりと体を起こす。
良い天気の日はよくこの庭で昼寝をする。太陽の暖かい日差しと、優しい風の音や鳥の声に包まれながら深い呼吸をしてくつろぐのだ。
時折、庭に屋敷の者たちが出てきて食事をしようと誘われる時もある。そんな時は昼寝を止めて、すぐに準備を手伝い、食事を始めて友と語り合うのだった。
もしも一度だけ過去に戻れるならば、この優しくて平穏な時間に戻ることを選ぶだろう。
こちらまで清々しい気分になるほど明るい妻。
無邪気で純粋で、あどけない子供たち。
そして幼い頃からずっと共に過ごしてきた大切な親友。
そんな愛する人々と何の柵もなく過ごしていたこの美しい世界。かけがえのない場所。
この世界こそ、守り通したい宝物なのだ。
ガルナは庭の真ん中にあぐらで座りながら、その美しい光景を放心状態のまま、見つめた。
すると後ろの方から人影が来るのを感じる。
ふと振り向くとそこには懐かしき親友の姿があった。
「ランバート……か」
突然現れた彼はガルナのすぐ隣に座る。
どうしてかわからないが、彼の顔が見えなかった。思い出せないのだろうか、忘れてしまったのだろうかとも思ったが、確かにその佇まいも雰囲気も、すべて恩人であるランバートのものに相違ない。
なぜ、今ここに彼がいるのか、そもそもなぜ自分がここにいるのか、ガルナに考える余地はなかった。
どうでもよかった。
ただ、ガルナは安らいだ心のまま、ランバートの細い肩に寄り掛かる。
「疲れた?」
「……ああ」
ガルナは力なく答えた。
顔は見えなくとも、ランバートの口調や態度で彼が柔らかくて優しい笑みを浮かべているのが何となくわかる。いつもはもっとお調子者でふざけたことばかり言う奴だが、この時はひどく落ち着いた優しい雰囲気が彼にあった。
その優しさが嬉しかった。すべてを任せたくなった。だからどうしていつものような浮わついた感じが無いのかと問うこともできなかった。
「ガルナは頑張り屋さんだね」
「そうかもな……」
「そんな君だからこそ、ここまで生きて来られたんだよ」
「……そうだろうか」
ガルナは上の空で言葉を返していく。
この優しい時間に浸ることばかりに夢中になって、なかなかランバートの話が頭に入って来ない。
しばらく沈黙の時間が続いた。
その間隔が、自分はこの場所にいていいのだろうかという現実的な疑問を深めさせる。
やや我に返りそうになりつつあったちょうどその時、ランバートは軽快な口調で言った。
「ガルナ、ちょっと休もうよ。これから皆と一緒に庭で食事を始めるんだ。君にも来てほしい」
ガルナはぼんやりとしたまま、ゆっくりと頷いた。
しかし次にランバートは先程よりも寂しい口調で言う。
「でもね、まだ君の席は準備できてないんだ。まだ君は成すべきことをしていないのだから」
(成すべきこと……)
ガルナは目を閉じる。
「俺の成すべきことは、何なんだ」
淡々とした覇気のない声で、ガルナは問いかける。
その問いに、ランバートは「ふふっ」と一つ小さく笑って答えた。
「もう君は、それを知っているだろう?」
――そのすぐ後、一際強い風が勢いよく吹いた。
舞い上がった木の葉や花びらが肌に当たるのを感じたガルナは目を開ける。
気付けばランバートの姿はなかった。
しかし周りを見て彼の姿を探すこともしなかった。
彼は元々会えるはずのない人物なのだから、きっとあれは妄想の姿なのかもしれない。
彼が現れた理由を考えすぎてはいけないと思い、ガルナはぼんやりとしたまま、また寝転がり、両手両足を広げて空を見上げた。
澄んだ美しい青空が視界に広がる。風に揺れる木の葉や花びらがちらつく。
『もう君は、それを知っているだろう?』
先程ランバートに言われた言葉がまた頭の中に流れる。
(何をすれば、俺はこの場所へ戻れる)
考えるつもりだったが、いまだ頭は冴えず、ただ何も考えないまま目の前に広がる青空を眺めた。
その瞬間、青空以外の全ての景色が変化する。
屋敷ののどかな庭にいたはずが、一瞬のうちにごつごつとした岩の転がる広い荒野になった。
そして舞っていたはずの木の葉や花びらが、赤いものに変わる。その赤いものが何なのかすぐにはわからなかったが、よく目を凝らしてみればその正体を理解するのに難くなかった。
血だ。
血が舞っているのだ。
その景色の大きな変化があまりにも突然のことで、ガルナは起き上がることを忘れた。仰向けで倒れたまま、青空と、舞う赤い血を見ることしかできない。
しばらくその景色を見ていると、やがて視界に強い光が差し込んでくる。
その光が眩しすぎて、ガルナは思わず手で目の前を覆った。
しかし自身の手のひらを見てあることに気付き、目を丸くする。
手には赤い血がびっしりとこびりついていたのである。
その手についていた血を見ただけで、ガルナは自分の運命を悟った。
** ** **
目を覚ませば、いつもの気怠い朝が、異常な程に清々しいことを感じた。
ガルナはひょいと体を起こす。普段は吐き気をしてしまうようなひどい夢にうなされて、汗まみれの不快な気分のまま重い体を起こすというのに、その時はやけにすっきりとした、安心した気持ちで朝を迎えることができた。
この八年を苦しめていた悪夢が消えていたのだ。
どうしてあの残酷な夢が消えていたのかすぐにわかった。
ウィンスタードが死んでしまったからではない。
彼が死ぬという予知そのものが消えたからだ。
そう確信した時、この上ない幸福感に満たされた。ずっと待ち望んだ結果を、この運命の日にやってきてくれたのだ。ここ最近では感じることのできなかった大きな安堵感を覚えた。
何よりもウィンスタードが死んでしまう筋書きが消えたことが大きな喜びであり、心の底から嬉しく思えた。
喜びのあまり、手が震えて上手く外着に着替えることができない。
感極まって涙が出そうにもなった。
しかしやがて着替える手を途中で止めて、ガルナは肩を落とす。
ガルナは、ウィンスタードが死なずにすむ代わりに、自分が死ぬ夢を見た。
別にウィンスタードが生きていられる未来が認められたのであれば、自分が死んでしまっても構わないと思っていた。だから死ぬことなど恐れてはいない。
それでもやはり心残りがあることは否めなかった。ましてやこんなにも突然訪れたなら、その最期が迫り来る前にやり残したことを早くやり遂げなければならないという焦燥に駆られるのは当たり前である。
生憎、予知は起こる時であればその日の内に起きてしまう。ウィンスタード以外は殆どがその予知夢通りの死に様を遂げていった。
ガルナはため息をついた。
ふと、ウィンスタードのことを思いつく。そして自分が死んだ後、彼はどうなるのだろうと頭によぎる。
そのことを考えるだけで、どうしても申し訳ない気持ちが溢れてくるのだ。
だが、この戦いは自分が死ぬことで鎮まるのではないかとガルナは思った。
これに関しては確信ではなく希望だった。自分の死によって、この天界との戦争が終わって欲しいと願った。
鼻で笑ってしまうような、都合の良い希望である。
(だが俺は、この運命に従うべきだ)
運命の筋書きに沿わなければ、地上界には厄災が起こってしまう。
それはもしかしたら、人類の敗北に繋がるのではないか。
着替えも終わり、複雑な気分の中、自室を出る。
ガルナは兵舎を出る途中の廊下でセリファに出会った。
「……よう、セリファ」
セリファは不敵に笑い、いつもの高慢な口調で語りかける。
「早いじゃないですか、ガルナ。よく眠りましたか?」
「まぁな。……あぁ、いつもよりずっとよく眠れたよ」
するとセリファは笑みを深め、また皮肉っぽく言った。
「私に寝首をかかれる可能性もあるというのに、呑気な人ですね」
いつもであれば彼女の度々発せられる皮肉に何か言い返しているところだが、その時は特別気に障ることもなかった。
むしろそのように横柄な態度を取る娘が可愛いかった。
きっとその態度は、今まで肉親がいなかった間ずっと寂しかった感情がさせているのだろうと勝手に思った。
それを正直に言ってしまえば彼女は怒るはずだから口にこそ出さなかったが、あんなにも懐いていた我が娘だ。口では強がっているけれど、この八年間本当に寂しかっただろう。
ガルナはふと、娘にひとつ聞きたいことがあったのを思い出す。
今までずっと気になっていたことなのだが、やはりかける言葉に迷う。
単刀直入で言った方が良いだろうか、とも思ったが、ガルナは次に低い声で呼びかける。
「なぁセリファ。お前は……」
――俺のように、人の死を知ることができるのか。
そう尋ねたかったが、ガルナは寸前のところで問いかけるのをやめた。
(この子にそんな能力があっても無くても、どうでもいいことだ……)
呼びかけられ次の言葉を待っているセリファを見たら、本当に聞きたかったことを聞く気が失せていた。
ガルナはセリファの頭に手を置いて軽く撫でる。
突然のその行為に、セリファは口を尖らせ、手を振り払う。だがそんなのも構わず、ガルナは低い声で言った。
「……ウィンを。助けてやってくれ。ずっとあいつのそばにいてやってくれ」
何を言ってやればいいかわからなくて、直前まで考えに考えて出た精一杯の言葉だった。
「そんなこと、言われなくてもわかっています」
セリファは軽く睨みながら言った。
「お前たちなら、きっと幸せになれるさ」
ガルナは次にやや穏やかな口調で言ったが、セリファは睨んでいる目をさらに鋭くする。
「その言葉をウィン様にも言うようでしたら……殺しますよ、ガルナ」
「あー、そうかい」
そんな返答をされるとは思わず、ガルナは生返事を返してから、兵舎から出ようとセリファの横を通る。
「ガルナ」
セリファは去ろうとするガルナを咄嗟に呼びかける。振り返って見れば、彼女の目つきはいまだ真剣そのものだった。
「あなたが何を考えているのか正直よくわかりませんが、抜けがけは止してください。あの人がどうお思いになるのか、あなたなら理解できていますよね?」
わざわざ一番の悩みどころを突いてくるものだ、とガルナは心の中で苦笑をした。ガルナはまたセリファに背中を向けて、少しだけ口元を綻ばせた。そしてやや間を開けてから答える。
「……わかっているさ」
ガルナはその後、セリファとは何も喋らぬまま、兵舎を出た。
** ** **
昨夜から強くなった風はいまだに衰えず、この広い荒野の土埃を飛ぶ。
カザール平原は草原の多い民族居住地だったが、八年前にあったセゼル火山の大噴火により、民族も家畜もいなくなり、一部では草原が枯れて荒野になってしまった地域もあった。
そのまさに草のひとつもないような枯れた大地の上に、エルス大陸の様々な国の兵士の混じる軍勢が、東の方角――天空に浮かぶ結晶を眺めながら、南北に並んでいる。
大軍の先頭に立つ指揮官ウィンスタードもまた、馬上で静かに結晶を見上げていた。
あの場所から天使はここに飛び降りて、人間を襲い始める。その事実は確実であり、結晶に近寄って天使に襲撃を受けたという者が他にも多く現れた。
皆が「天界」と呼ぶあの結晶は人類にとって危ないものだったのだ。
だからこそ、ウィンスタードは素早く決戦を挑むためにここに全軍を敷き、戦いに備えたのである。
ウィンスタードはこの大軍の並ぶ光景こそが、天界を煽るための唯一の手立てであり、宣戦布告であると考えた。
このことをギルミナ国王や、他国の王に伝えると、あまり現実的ではないと口々に言い、良い反応こそはしなかったが、あの結晶が現れた今民衆の心は不安に満ち溢れているため、一刻も早く決着をつけて大陸にいるすべての人に平穏を与えるべきだという意見にまとまり、こうしてカザール平原に進軍をしたのである。
民衆の不安は極限状態まで高まっていた。こういった不安は、各地で暴動や略奪、殺戮を起こさせる。民衆が仕事を放棄、つまり軍を支える人手がなくなる前に、天界と決着をつけなければならないというのは、皆心の中でわかっていたかもしれない。ウィンスタードの背後にずらりと並ぶ兵士たちはもう既に覚悟を決めたような頼もしい面持ちだった。
しかし、中には「これから勝てやしない戦に協力しなければならないのか」と言いたそうな、顔のひきつっている兵士もいた。
この状態の軍隊での指揮力が今は完全なものではないことをウィンスタード自身も承知の上だった。
だが、もちろんこの戦場に何も策を施していないわけではない。
本拠点から早馬で二十分はかかるだろう今いるこの位置には、魔術で操作できる地雷がうめられてある。
以前のように天使が大群で来た場合、まず防御の堅い分隊が天使をおびきだし、地雷の真上に誘導させる。次にその分隊は本拠点とは反対の方向へ移動し、天使の軍勢を本拠点の軍と分隊とで挟むような陣形を作る。そして天使が攻撃してくる前に本拠点側の分隊の魔術師たちが地雷を発動させ、地雷の真上にいる天使たちの翼を一気に損傷させる。地雷の中身とは単なる瓦礫であるため、比較的簡単な作りで安価だが、魔力でたくさんの内容物を勢いよく地上へ吹き出させるため、威力は期待できそうに見えた。
さらに、本拠点には五十台の魔術砲台がある。以前、ディレクトリアで戦場に着いていった時に見た砲台と同じような作りだが、ウィンスタードが威力と射程を限界まで強化したものだった。これならカザール平原内のどの位置にも砲を放つことができる。
ウィンスタードはディレクトリアに幽閉されていた時からこの地雷や砲台の設計を始めていた。ハドレニア王に戦場へ来いと呼ばれたその時はあまり良い気持ちはしなかったが、あの時着いていっていなければ、これほどの早急な準備も質の良い兵器にすることも到底叶わなかっただろう。
こういった作戦を本番に順調に進めることで、兵士たちに希望を持ってくれることをウィンスタードは密かに祈った。
** ** **
天使に戦いを挑むために軍を並べてから半刻が過ぎる。
後ろの兵士たちの中に並んでいたガルナが、神妙な面持ちのままウィンスタードを呼び掛ける。
そして馬を寄せて、前方を眺めながら言った。
「南の方角の地雷に気を付けろ。発動しない可能性がある」
いきなりそう伝えられたウィンスタードはすぐに反応することはできなかった。
ガルナは魔術の関わる作戦には参加することになっていない。だから地雷のことはあまりよく知らないはずだった。
「それとあと半刻すぎたら、地雷が発生しなかった時のための魔術師をあの方角へ配置するんだ。発動しなかった後に魔術師を送るでも遅くはないが、慎重になった方がいいだろう」
ウィンスタードは落ち着いた声色で話し続けるガルナに少し違和感を抱き、眉を寄せる。
「なぜそう思う」
ガルナはウィンスタードに目を合わせて、また落ち着いた低い声で言った。
「ただ、そう思っただけだ。今言ったことなら頭の片隅にでも置いておけばいい」
突然根拠のない予想を真剣に告げられて、ウィンスタードは変に思ったが、ガルナはそのことだけを告げればすぐに自分の持ち場へ戻っていった。
ガルナには本拠点護衛の分隊長を任してある。この地雷源のある場所は本拠点から近くない距離だというのに、なぜわざわざそんな根拠の見えない予想を伝えに来たのだろうか。
ウィンスタードは不思議に思いながら、持ち場へと帰るガルナの背中を見ていた。
それからまた天空に浮かぶ結晶を眺めながら天使が現れることを待っていたところ、先程ガルナに言われた言葉をふと頭の中で繰り返した。
何を根拠に言ったことなのか、わざわざここまで来て言うほどの確実性のある予想なのかわからず、ウィンスタードはガルナの言葉通りのことを実行しなかった。
確かに、戦場での行動とは予想も織り混ぜなければ自陣の負けを呼ぶ可能性があるが、ガルナの言った予想はまだ実行するには話が早すぎる。ましてやまだ天使の現れていない今、そんな適当なことを易々と従うわけにはいかない。
だが、ガルナがここから帰っていって半刻をすぎてから、ウィンスタードはあることに気付く。
結晶から強い魔力の反応を感じる。結晶を見上げ、よく目を凝らせば、そこからは多くの天使が地上へ向かい始めているのを確認することができた。
短い間にも、天使たちは結晶から十、二十と這い出てくる。遠い上空には、もう既に百を軽く越すほどの数の天使が浮かんでいた。
(やはり、来たか……)
その光景を見た兵団の兵士たちは一瞬どよめくものの、ウィンスタードはすぐさま突撃の合図を下す。
「前衛部隊よ、我々の援護を信じて、天使を地雷源に誘導せよ!」
兵士たちは馬の手綱を引き、地雷源へ駆けて行く。魔術師の部隊も身構え、地雷発動の詠唱を唱え始める。
まだ天使が地上へ降りるには時間があるが、地雷発動の詠唱はかなり長いため今の内に唱えておかなければ間に合うことはない。ウィンスタードは魔術師の詠唱の速度も指示した。
天使が地雷源に来た時と、詠唱を唱え終える時を同時にさせる瞬間を見計らうのがウィンスタードのこの第一の作戦での務めである。
天使は動きが速いため、その瞬間をちょうどに合わせるのは考えるだけでも至難の業だが、始まりの戦闘を安定させるためにも成さなければならない。
戦闘が安定したとしても、ウィンスタードは本拠点へと戻り、指揮官として全体の指揮をしなければならない。
こうして戦闘が始まってしまえば、指揮官として請け負うには致し方がない業務量だった。
だが今では忙しいと感じる暇はない。
次々と地上へ降りてくる天使に兵士たちが対抗している様子を見ると、手に汗を握ってしまうほどに焦燥する。
天使に地雷を当てるためにも、押されてはいけない。
ウィンスタードは魔術師たちに詠唱の指示をしつつ、天使の軍勢を食い止める兵士たちの支援をした。
そして詠唱が唱え終わる頃に差し掛かると、ウィンスタードは兵士たちに合図をかける。兵士たちは次々と天使と打ち合うのをやめて、ウィンスタードがいる方向とは逆の方向へと素早く退却する。
すぐに天使の軍勢を挟んだ形になり、そのちょうどの頃、地雷発動の詠唱を唱え終わる。
天使が動く隙を与えてはならない。
ウィンスタードは地雷発動の合図を下した。
地雷源の真上にいる天使たちは、爆発で勢いよく飛び散る石の餌食となる。
地雷には拳より大きめの石をたくさん詰め込んでいたため、一体の天使を貫く石の量は多く、翼だけではなく頭に命中して絶命する天使も多かった。
翼を傷つけられた天使たちは次に痛みにもがきはじめることを、兵士たちも魔術師たちも既にわかっている。地雷がすべて爆発し終えると、すぐに兵士たちは天使の首を狙いに行った。
(成功したか……このままなら、おそらく兵士だけで殲滅できるだろう)
ウィンスタードは少し安心したものの、まだ気は抜けない。
今放った地雷とは宣戦布告の威嚇攻撃のようなものだった。これ程までの攻撃をしたなら、決戦を挑もうという意思表示になると思い、この地雷作戦を実施した。
地雷を放ち、第一派の天使を殲滅した後にも、天界が天使をここへ送るようであれば、次には魔術砲台を使って迎え討つという作戦へと移らなければならない。そしてそのまま大決戦となる計画なのだ。
ウィンスタードは手綱を引いて、後ろへ振り返り、本拠点へと戻ろうとした。
だが、一人の兵士が早馬でこちらに向かってくる。ウィンスタードの前に止まり、とても慌てた様子で事態の報告をする。
「私は第四班の兵士の者です。南部の魔術地雷がうまく発動せず、現在天使の攻撃に押されています……!!」
「何だと!?」
ウィンスタードはそう驚きの声をあげ、そして南の方角を見た。遠くてあまり向こうの様子はわからないが、こちらの部隊の戦闘の雰囲気と違うことがわかる。
その時ウィンスタードは先程ガルナに言われたことを思い出す。
(彼の言っていたことが真実になったなど……)
だが、なぜ?
なぜそんなことがわかるのだ?
ウィンスタードはそんな疑問で頭がいっぱいになり、一瞬だけ固まってしまう。
しかし、兵士の声ですぐに我に返る。
「司令官、どうか援軍を……!!」
「あ……あぁ、すぐに魔術師を向かわせる。その間、何とか耐えていてくれ!」
ウィンスタードは地雷の詠唱をさせていた魔術師たちを南部の支援へ行くよう命令した。地雷はもうこの地に無いが、魔術師の技は天使の翼を素早く傷付けるのにとても有力だ。第一派すべての天使を相手にするわけでもないのだから、殲滅することはできるだろう。
一瞬、自分も現地へ向かおうかとも思ったが、今は本拠点へと戻って魔術砲台の準備を行いたかった。
そしてガルナに、なぜ南部の地雷が発動しないことがわかったのか問いたかった。
本拠点へ向かうため馬を走らせている間、先ほどガルナに言われた予言が、また頭の中に繰り返される。そしてなぜ、彼の言っていたことが本当になったのかを考えた。
だが疑問が生まれるばかりで、やがて考えることもできなくなると、ウィンスタードは馬の足をさらに早めた。
本拠点は地雷のあった戦場よりもずっと静かな場所だった。向こうでかすかに戦いの喧騒が聞こえるが、ウィンスタードはそんな音も聞こえないぐらいに無我夢中でガルナの姿を探した。
テントへ入り、真っ先にすぐそこにいた兵士に問いかける。
「ガルナはどこにいる」
「はっ、ガルナ様なら奥に……」
兵士がすべて言い切る前に、ウィンスタードの足はテントの奥へと向かっていた。
見ればガルナは自身の部隊の兵士と会話をしている。
そこに無理やり間に入るように、ウィンスタードはガルナに向かって問う。厳しい口調にはなるのは抑えたが、それでも真剣で強い口調だった。
「お前の言っていたことが真実になったぞ……実際に南部の地雷が動かなかった。……なぜだ。なぜあんな事態になるということが分かったんだ?」
そう言うと、ガルナは一瞬だけ驚いた表情になるが、すぐに真剣な表情になり口を開く。
「いいや、ただそう思っただけだ」
「ただそう思っただけだ、って……? そんなはずもなかろう……? お前の言っていたことが、そのまま真実となったのだ。わけがわからない」
「俺だってわけがわからないさ。だが、俺は予想と助言をするだけだ。信じるも信じないもお前たち次第だが……」
ウィンスタードは眉をひそめた。そして言葉を失ってしまう。
そんな不可思議なこと理解ができなかった。
地雷が発動しないという点も、そしてその発動しないものが南部の地雷という細かい部分まで合っていた。
これがただ単純に思っただけの適当な予想だとは信じ難かった。
呆気にとられていたウィンスタードだったが、テントの出入口から一人の兵士が走ってこちらに状況を伝えに来たので、われに帰って兵士の方に振り返る。
兵士は跪き、しっかりとした口調で述べた。
「北東部から少数の天使が出現いたしましたが、何とか鎮圧に成功いたしました!! ただいま平原の全域の戦況が落ち着いている模様です……!」
すると先程までガルナと話していた兵士が目を丸くさせて、唖然とした表情のままガルナの方を見る。
「ほ、本当に真実となった……ガルナ殿、あなたは一体……」
「気を抜くな。次にもまた奴らは来るぞ」
その会話に、ウィンスタードはまた眉を寄せる。そして「何を言ったのか」と疑問の表情を浮かべているのにガルナが気付くと、淡々とした口調で先に答えた。
「天使が地雷源に来る時に、その一派から本拠点へ近い側に漏れる天使が複数いたんだ。勝手に軍を動かしてすまなかったが、北東部に軍を送り、鎮圧させた」
「それもガルナの予想……だったのか?」
ガルナは静かに頷く。
ウィンスタードは無意識のうちにガルナの外套を掴んで引き、声をやや荒らげて言った。
「なぜそんなことがわかる!? ありえないだろう、そんな……まるで未来のことが、わかるかのように……」
するとガルナは困惑するウィンスタードの肩に手を置いた。そしてウィンスタードだけに聞こえるよう耳元で言った。
「わかるよ。今日はやけに鮮明に、人の命運だけでなく、すべてのことが頭の中に入ってくる。……不思議だよな、なぜこんなにわかるのか、俺でもわからない」
その口調は、どこか寂しげな雰囲気があった。
ウィンスタードは言葉を失い、何も言えなかった。ガルナは耳元から離れ、そのまま真剣な表情となって進言する。
「第二波が来る。その前に魔術砲台の準備を進めさせろ」
「……あ、あぁ……」
ガルナは、まだ呆然としているウィンスタードの頬に軽く手を当てる。ウィンスタードも戦時にぼんやりとしてしまうのはいけないとわかっているからか、すぐに気が付く。
視界には、真剣で、やや厳しい表情をしたガルナの顔が映る。
けれど目が合えばすぐに、穏やかで柔らかい笑みを浮かべてくれた。だが少しだけその笑みに苦しそうな雰囲気がどことなく感じ取れた。
(ガルナ、お前は……)
――いったい、何者なのだ。
なぜ事態の予知ができるのかの次には、そんな疑問が頭の中を満たした。
思えば彼の出生を知る者は誰一人いない。ガルナ自身を、ガルナを拾ったランバートでさえも、彼の生まれた場所や親を知る者はいなかった。
今までずっとそばにいた人なのに、その正体は全く知らず、そしてさらにわからなくなってくるその現状に歯がゆさを感じた
けれど彼の目を見つめていると、その質問をすることができなくなる。そのことすら謎に感じてしまい、余計に頭が混乱してくる。
しかし、こんなことで混乱しているよりもまず、戦いに集中しなければならない。ウィンスタードは気を取り直して、兵士たちに向かって言った。
「今から魔術砲台で迎え来る天使に砲を食らわす。砲台担当の魔術師と兵士は早急に準備へ行くのだ」
砲台のある場所へと向かい、早速魔術師と兵士たちは砲台の準備に取り掛かる。
先ほど最前線の兵士が一人本拠点に戻ってきて、第一波の天使は殆ど殲滅できたとの報せを伝えに来た。第二波もまだ結晶からは出てきていないようで、カザール平原には一体の天使もいない状態となる。砲台の準備を進めるには絶好の機会だ。
魔術師たちが詠唱を始め、砲台には魔力で作られた砲が装填される。
もしこれの引き金を引けば、五十を超えるすべての砲台から砲が放たれる。最初は半数が砲を撃ち、当たらなかった天使のために後にもう半数を撃つというのが作戦であった。砲が放たれると、中に入っているたくさんの石や鉄くずや瓦礫が、命中する場所に散らばるように勢いよく降り注ぐ。天使のその翼を容易に傷つけることはできるだろう。
「セリファはどこにいる?」
ガルナが神妙な面持ちのまま、ウィンスタードに尋ねる。
突然尋ねられて即座に答えることはできなかったが、ウィンスタードは冷静のまま伝えた。
「彼女なら……ここからすぐ北東にある拠点だ」
セリファには北東の拠点の副分隊長を務めさせた。もしもの時の即戦力と、本拠点への連絡を兼ねた役割を担っている。
ガルナは北東の方角を一瞬だけ向いた後、頷いて、軽く礼を言ってからまたその場にいる兵士たちと同じように天空の結晶を見上げて天使たちを待った。
(もしかしてまた何か予知を悟ったのだろうか……)
ウィンスタードは心の中で薄く感じたが、それを問いかける勇気は無かった。そしてガルナと同じように、天空に浮かぶ結晶を見ながら天使の再攻撃を待ち始める。
しばらくすると第二波の天使が結晶から這い出てくる。
相手も様子見をしてから攻撃を繰り出しているのか、数は第一波の天使よりも多く来ているように見えた。百五十、二百、いやもっと上の数かもしれない。
天使は一度地上に降りてから本拠点に向かって走り出す。
ウィンスタードはうまくまとめて攻撃できる頃合を見計らうため、すぐに魔術砲台を撃たせず、天使たちの進行をしばし待った。
魔術師により装填された砲を撃つのは兵士の役目だ。彼らもまた、発射の命令にすぐ対応できるよう、引き金に手をかけていた。
押し寄せる天使たちが、砲のよく散らばる距離まで来た時、ウィンスタードは魔法で発射の合図の音を鳴らす。その合図をした直後に、南北に並ぶ砲台の半分が、天使めがけて一気に砲を放っていく。
砲が飛んでいくと、内容物を包んでいた膜が破裂し、音を鳴らしながら膜の中にあった石や鉄くずや瓦礫の雨が、天使の頭上から降り注ぐ。
砲を武器で叩き割ったり、器用に避けて行く天使もいたが、やはりその大きく飛び出している背中の翼や耳、肩の翼に命中してしまう天使もいた。そんな天使たちはすぐに弱まり、どんどん体勢を崩していく。
もちろん一回目の砲を回避した天使は本拠点へ向かって進行を続ける。
その天使に攻撃をするためにもう半分の砲をすぐに発射をした。
すべての砲台の砲を放ち終えると、本拠点の周辺にある拠点の兵士たちが武器を手に取って弱まる天使たちの首を狙いに行った。
ウィンスタードは本拠点護衛の兵士や、次の砲台に砲を装填するため詠唱を唱えている魔術師たちと共に、その戦いの光景を見守る。
戦いの優劣は五分五分。修行を積み重ねてきた兵士は次々と天使の首を落としていくが、翼を傷つけられたとしても動きの冴えている天使が大きな槍をふるい、兵士たちを蹴散らしていく。
(増援として魔術師たちも加勢させるか……しかし砲の詠唱を終わらせねば……)
ウィンスタードは唇を噛みつつ、その交戦を見続けた。
やがて負傷をしたため本拠点に戻ってくる兵士があった。衛生兵の数も足りなくなり、ウィンスタードはすぐさま兵士たちの治療に取り掛かる。怪我人を入れるテントは一気に兵士のうめき声と血に溢れていく。
戦場がどうなっているのか確認をしたいが、その間にも負傷兵が続々と運ばれてくる。
やがて魔術師の詠唱は終わり、負傷兵の面倒を見に来てようやく戦況を見に行くことができた。
しかししばらくすると、早馬で兵士が一人、本拠点へ向かってくる。
見ればその兵士は返り血に塗れているセリファだった。やや慌てたようすでこちらに駆け寄ってくると、ウィンスタードの前に跪き、事を伝えた。
「申し上げます……! 北東第三班と五班の拠点を天使に潰されました。私の所属する四班も応戦していたのですが、援護が間に合いません。増援をお願いします」
そこでガルナは自身の武器を持って、ウィンスタードに申し出る。
「ウィン、俺が行こう。本拠点に向かってきている敵なら、俺の役割だ」
しかしウィンスタードは首を横に振る。
「……いや、お前はこの本拠点を見ていてくれ。兵士たちの手当てをしつつ、頃合いを見て砲台を撃たせろ。私ならすぐに戻るつもりだ、すぐに鎮圧させてこよう」
ウィンスタードは早馬に乗って、セリファと共に北東の拠点へ援護に行こうとする。
しかし、すぐには行かず、少しの間を開けてからガルナの方を振り返って、真剣な目付きと強い口調で言った。
「ガルナ……この拠点から離れることを許さない。絶対に、ここにいてくれ」
その念押しにガルナは少し驚いた様子だったが、すぐに冷静になり低い声で「あぁ」と返事をして持ち場へと戻った。
彼を信じていないわけではない。
ただこの戦場に来てから、ガルナにどこか神妙で別人のような雰囲気があって、不安になっていたからだった。
彼の落ち着きよう、そして彼が言うことすべてが現実になる点を見て、まるで遠い人のように感じてしまう。
それがとても悲しかった。
ウィンスタードは援護に行くべき場所まで馬を走らせながら、セリファに問いかける。
「……セリファ。……お前は予知を信じるか?」
「予知、ですか?」
脈絡もなく突然問いかけてしまったものの、セリファは冷静のまま答える。
「そんなものがあれば、このような戦場で苦労しませんよ」
生傷と返り血にまみれている彼女が言うと、何となく説得力があるように聞こえる。
(そうだ。予知など、そんな易々とできるわけがない)
そんなものが実際にあれば、この戦争だけでなく今までの犠牲者も少なかったはずだ。
そしてきっと八年前も、生家を守ることができたはずだ。
そう決めつけることで心の中のわだかまりを削ぎ落とすと、ウィンスタードは戦いに向けて集中し始める。
北東の拠点で苦しい戦いを続けているのが見えてくる。
ウィンスタードは近くまで寄ると馬から降りてすぐに援護の魔法を展開する。
天使は周囲に五十以上はいるだろう。
負傷した兵士ばかりで仲間の助けは望めないが、ここは即座に鎮圧しなければならない。
ウィンスタードはセリファを支援しつつ、群がる天使たちに次々と魔法を放ち始めた。
** ** **
砲台から砲が放たれる音が、けたたましく鳴り響く。
二回目に砲を天使に撃つときには、あまり連続して撃つことはできない。一気に撃ってしまえば、味方兵士に当たる可能性もあるため、ガルナは慎重に砲を撃たせた。
しかしこのまま砲の攻撃を続けることができないということは、ガルナは既に見通していた。
ウィンスタードが本拠点から離れて半刻もしない内に、一部の砲台が天使の投げた槍によって壊されるのは予知通りだった。
砲台が何台か潰され、使い物にならなくなると、詠唱だけをするように言われていた魔術師は次々と戸惑っていく。
本拠点側の兵士は皆揃って精鋭だが、さすがに魔術師の支援無しであの天使の大群に挑むには、ウィンスタードのいない今確実に指揮力不足だった。
だからか、兵士や魔術師は揃ってガルナにこれからどうすればいいのかと尋ねてきた。
それでもガルナは冷静のまま、数の減っていく砲台をただ撃たせるのみだった。
実のこと、ガルナは、本拠点は正面からは叩かれることはないことをわかっていた。
そんなことよりも別の難題がこの後に迫り来ていたのである。
「隊長! 別の方角からこの本拠点に迫ってきています……!」
分隊の部下が慌てた様子で伝えに来る。
「南西拠点の殆どが全滅……! 天使が本拠点へ着くのも時間の問題です!」
「わかった。俺たちが行こう。お前は本拠点の防御を固めてくれ」
「そんな……私も行きます」
「いや、残ってくれ。本拠点護衛の兵士が現地に一人もいないのは避けたいからな」
そう言うと、部下は悔しそうな顔をしていたが、納得してくれたのか一つ敬礼をして言った。
「ご武運を」
ガルナはそれに頷き、自分の分隊の兵士を連れて、南西へと馬を走らせた。
ふと、ウィンスタードのことを思った。
きっと彼は、勝手に本拠点から離れたことに怒るだろう。
実際、ガルナは、こんなことで約束を破りたくはなかった。
彼が増援へ行く寸前、「本拠点から離れるな」と真剣な目付きで言った時、ガルナは思わず彼の言う通り、本拠点に留まっていたい気持ちが溢れた。
生きたいという気持ちに溢れた。
(あの子のために、生きる道もあったのだろう)
けれどそんな選択は、すべてのものを消滅させる行動に過ぎない。
ガルナは小さな部隊を引き連れて移動している間、何度も涙を流してしまいそうになった。
ウィンスタードに嘘をついてまでも、自分の筋書きに沿うことが本当につらかった。
そして今朝に考えたことがまた頭の中に流れ出す。
(自分が死んだら、あの子はどうなってしまう?)
――わかりきっていることだ。
(彼にとって人生で一番長くそばにいる人物はこの俺だ)
彼を正しい道に導くのも、危機から救うことも、彼の涙を拭いてやることも、すべて彼の両親の代わりにやってきた。
やがて彼を支えることが、親代わりとしてではなく、心の底から守りたいという気持ちになった。
幼い頃から、ランバートという「主」が命綱だった。「主」がいたからこそ今まで生きてこられた。
だからこそ「主」のいない世界は耐えられないほどの虚しさがあるとわかる。
今まで生きる糧として信じていたランバートがこの世にいない今、ウィンスタードさえも失ってしまった世界など想像もできない。
彼が死ぬことでその虚無が深まるなら、ガルナは自分の命を投げ捨てても構わないつもりだった。
ガルナは、ウィンスタードが悲しい思いをする未来よりも、彼がこの世から去る未来の方を恐れた。
それは自分という存在がこの世に無い未来だとしても、嫌だった。
ガルナは南西拠点に着くと、早速馬に乗りながら天使と戦い始める。
天使の数を想定する余裕はなかった。
とにかく視界には、武器を持って身構える天使に埋め尽くされている。
ガルナも、部隊の部下も、死に物狂いの戦い方だった。
ただ必死に、殺した。
仲間や天使の返り血にまみれても、怯まずに戦った。
だが、しばらくしてからガルナはもう自分の部隊の兵士がいなくなっていることに気付く。足元を見れば、部下の無惨な死体がごろごろと転がっていた。
既に乗っていた馬も死体に潰れ、ガルナは荒野の上に、天使の軍勢を前にして、多くの死体の周りに立っていた。
周りには無残にも傷つけられて息絶えてある兵士たちが多くいるのに、自分には一つの傷もついていないことがわかる。
そもそも天使はガルナの攻撃を受けることや武器で受け止めることはあっても、攻撃をしかけることはなかったのだ。
(……なぜだ)
ガルナは血塗れの大剣を握った。血でぬめって、ずるりと落ちてしまいそうだったが、しっかりと持った。
そして悔しさに歯を食いしばり、低い声で言った。
「そんなに、俺の存在は、お前たちにとって"特別"なのか……」
兵士たちの苦しそうな死に顔、無残に飛び散った血や肉片。それが目に入る度に、ガルナは怒りで視界が揺れた。
そして武器を構えるばかりで何も動こうとこない天使たちを睨んで、叫んだ。
「俺は死の運命を宣告された!! お前たちは役目を果たせ、筋書き通りにならない命をその手で止めてみろ!!」
すると、冷静だった天使たちは突如として動揺し始め、一気に戦場の流れが変わる。
それにも構わず、ガルナは続けて叫び、訴え続ける。
「俺は人間だ、この世界で生きた一人の人間だ。お前たちが蔑み、虐げる人間の内の一人だ!! だからこそ、俺は人間を守る。愛する者の生きる世界を守る。お前たちもその手で、自分の愛する世界のために、俺を殺すがいい!!」
ガルナは無我夢中で天使の軍勢を蹴散らした。
どれだけの天使を斬ったのか、わからないぐらいに戦った。
死の宣告を受けたということを理解したのだろうか、天使は次々と攻撃をしかけてきた。
最期までに足掻けるだけ足掻きたかった。
ウィンスタードが八年前にそう決意したように。
彼を阻む者をできるだけ多く無くせるように。
息絶えた天使から剣を抜いて、身を引いたその時だった。
天使の槍が、四方八方から伸びてきて、ガルナの腹周りを一度に突き刺した。
ガルナは身動きができなくなり、口から勢いよく血を吹き出す。
天使たちの槍が腹を貫通し、身に付けていた鎧が割れていく。そして次には重苦しく、激しいほどの痛みに襲われた。
そのまま全身に力が入らなくなり、持っている武器を地面に落とした。
天使たちの槍が一気に抜けると、ガルナは崩れるように地面に倒れた。
息ができない。体に力が入らない。
そのくせに凄まじいほどの痛みが増し、冷や汗も流れる。
ガルナは仰向けになり広く広がる青空を見た。
視界には天使はいない。
ただ真っ青の美しい空が目に映っていた。
(そうか……俺は)
この光景を見たのか。
この美しい青空を、あの死の予知夢で見たのだ。
だが赤い血は舞っていない。
その違いだけで、その青空が余計美しく見えた。
――。
どれぐらい闇に浸っていたのかわからない。
けれど短い時間だということはわかった。
聞き覚えのある声が聞こえたからだ。
「――ガルナ! ガルナ!!」
闇から目を覚ました直後の、ぼんやりとした状態のまま、ガルナはゆっくりと目をあける。
そして声の主を見ると、思わず涙がこみ上げてきてしまいそうな感覚に襲われた。
「…… ……ウィ……ン……」
口の中に血の味が伝わる。
ウィンスタードは涙を流しながら、ガルナのおびただしい出血を抑えている。そしてしゃくり上げそうな、不安定な声で叫んだ。
非常に必死な表情だった。
「ガルナ!! 私の声が聞こえるか、聞こえていたら少しだけでいいから頷いてくれ。何も喋るな、動くな!!」
ガルナは段々と痛みの感覚が舞い戻ってきて、息が荒くなる。意識が今にも飛びそうな中、そんな必死なウィンスタードをただ眺めた。
ウィンスタードは治療を行うつもりだった。
「……めろ…… ……」
「喋るなと言っただろう!! ……大丈夫だ、私が助ける……絶対、あなただけは絶対に死なせない……!」
治癒魔法の展開を終え、治療に取り掛かるが、なかなか傷はふさがらない。
傷が塞がったとしてもこの出血量では無駄なことだ。
ガルナは治療をするウィンスタードの手を止めた。
「な、何をする!? このままでは、あなたは…… ……」
治療の手が止められ、治癒の魔法陣はふっと消える。
ガルナはウィンスタードの頬に触れて、かすかな声で呟いた。
「もう、いいよ…… ……ウィン……お前もよく、…… …… ……頑張った……」
「だめだ……まだ、まだやることがたくさんあるだろう……!? ガルナ、こんなところで死ぬなんて、絶対に許さないぞ……!!」
涙声のままそう言うと、ウィンスタードは再び治癒魔法の展開を始める。
それでもガルナは、この魔法は間に合わないということがわかっていた。
この後の未来がまったく見えてこなかったからだ。
「最期に……一度でいい……お前の、……笑った顔が、見たいなぁ……」
荒い息がどんどんと大きくなっていく。
心臓の動きが吐き出してしまいそうな程に加速していき、口の中からまたたくさんの血が溢れて出てくる。
けれどそんなのよりもつらかったのは、目の前にいるウィンスタードの、泣きじゃくる悲しい顔だった。
「そんなの……帰ってからいくらでも見られるだろう……! だから……だから生きるんだ、耐えてくれガルナっ……最期だなんて、嫌だ……!」
ガルナはまた、ウィンスタードの頬に手を触れた。そして彼の目をじっと見つめる。
大きく見開いた若草色の瞳から、大粒の涙がこぼれている。
「ウィン…… ……生きて、くれ……お前にはその、力が、ある……権利、が、ある…… ……だから……」
「もう喋らないでくれ……頼む……」
「……きっとお前なら……生きれる……から…… ……」
突如口から大量の血が、吹き出て言葉が遮られる。激しく咳こみ、ウィンスタードはとても動揺した様子だったが、ガルナは息を落ち着かせてから途切れ途切れの声で言った。
「お前の……お前の幸せに、生きる……世界が、見たかった…… ……」
ウィンスタードは首を横に振り、震える声で言う。
「い、嫌だ……そんな、私はまだ……あなたに何も、恩返しをしていない……のに……」
重苦しく鋭い痛みをずっと感じていたが、ガルナは精一杯の穏やかな笑みを浮かべた。
お前も恩返しができずに先立たれる気持ちを味わうのだろう。
そんな時、お前は何をするのだろうか。
この戦争を終わらせて、誰かと愛し合うようになって……先立っていった者たちのことなど忘れてしまえるぐらいに幸せになってくれるのだろうか? それが一番理想的だが、きっと不器用なお前ではそんな方向に気持ちを持っていくことは難しいだろう。
この戦争が終わればお前はどうなる? 変われるか? 今までのままか?
ガルナは薄れていく感覚の中、少しの間だけ、彼の将来について想像をしてみた。もう見ることのできない先の未来を心に思い浮かべた。
死の運命にようやく従うことができて清々しい気分ではあるが、不安な気持ちもあった。
結局、置いていかれるのもつらいが、置いていく方もつらいのだと、心の底からわかった。
「お前が、俺を……こうして、看取ってくれるだけで……十分さ…… ……」
――ありがとう。
そう言いたかったが、ガルナは全身から力が抜けて声を出すことはかなわなかった。
やがてウィンスタードの頬から手が離れ、地面に落ちる。
どんどん意識が遠のいていく。
もう、口を開く余力すらも無かった。何も聞こえない。何も感じない。
ただ目の前が霞んで、暗くなっていく。
(俺はもう、逝くのか……)
一人で泣きじゃくる、我が子のような青年を目の前にして。
それもそれでいいかもしれない。
この世界が救われることを信じて、逝こう。
ガルナはただ、意識が離れるその優しい感覚に身を委ねた。
――。
再び闇から開放され、気が付けば周りは見覚えのある花畑だった。
すぐそばには幼い頃からずっと過ごしてきた屋敷がある。
(ここは……)
ガルナは目を丸くした。倒れていた場所はオルストロ家の屋敷の庭だった。
信じることができず、周囲を見渡す。
だがその匂いも、景観も、穏やかさも、すべて正真正銘、幸せに満ち溢れながら過ごしていた屋敷だった。
「ガルナ」
突然後ろから、聞き覚えのある懐かしい声がガルナを呼びかける。
振り返れば、優しい笑みを浮かべた恩人が、こちらに手を差し伸べて立っていた。
「……ラ、ランバート……?」
ガルナはその懐かしい光景に涙がこみ上げてきてしまいそうになる。
目の前に旧き友がいる。
そして背景には懐かしき"生家"がある。
自分を人間にしてくれた、そして人間以上の幸せを授けてくれた、神聖な場所。
その場所に帰って来られた事実に、ガルナは喫驚せざるを得なかった。
何よりもランバートが目の前にいること自体、ガルナにとっていまだ信じることができない。
ガルナが何かを問いかける前に、ランバートはガルナの手を引いて立ち上がらせ、そして落ち着いた口調で言った。
「君が来るのを待っていたよ、ガルナ」
今やその声すらも懐かしい。夢で聞いた声よりも、ずっと現実感のある響きだった。
「……あぁ……俺は、本当に――」
最後まで言うのは、何故か躊躇ってしまった。
周りの景色がこんなにも平穏で、そして懐かしい友が目の前にいるこの現状で、自分の死など物騒なこと言いたくもなかった。
ランバートは邪気のない、穏やかな笑みを浮かべながら、次にガルナに提案を投げかける。そして向こうにあるテーブルを指差して言った。
「さぁ、疲れただろう? 皆で食事をしよう、準備は整ってる。ネリスィールも、リフィスも、オリワルハも、皆あそこで君を待っているよ」
その光景を見て、ガルナは思わず嘆くように声をもらす。
妻も友人も、皆晴れ晴れとした表情でこちらを見ている。テーブルの真ん中にある、大きな椅子が、「早くこっちへ来て、座って」とでも言うようにとても目立った。
ランバートがそのテーブルへ向かおうとするが、ガルナはすぐに止める。
「お、おい待て……待ってくれ、ランバート」
そこへ向かう前に、ランバートに質問したいことがあった。
ガルナは眉をよせながら、真剣な表情で彼に問う。
「ウィンは……ウィンたちは、どうなる……?」
ランバートはそう問いかけられて、一瞬きょとんとした表情になる。
けれどすぐに優しく微笑んで、はっきりと答えた。
「君が導いた」
** ** **
どれだけの時間が経ったかわからない。
辺りは恐ろしいほど静かだった――いや、茫然としてしまい、ウィンスタードには辺りの音が何も伝わらなかっただけかもしれない。
天使や兵士の死体が多く横たわっているが、そんなものに目を止めることはなかった。
ウィンスタードはただ虚ろのまま、目の前に横たわる恩人の亡骸を眺めた。
心の中で何度も、また動いてくれることを祈った。
だが、それは叶うはずもない。
涙は流しきってしまったのか、もう出なくなっていた。虚ろでぼんやりとしたまま、ガルナの穏やかな死に顔をその目に焼き付けた。
悲しみの次には悔しさと怒りが沸いた。
耐えられないほどの、燃え上がるような激しい怒りが心の底から沸き出た。
ウィンスタードは無意識のまま立ち上がった。
そしてガルナの死体をまたいで、ふらふらとした足取りでその結晶の真下へと向かう。
それと同じ頃、本拠点の護衛を任されていたセリファはウィンスタードとガルナを探すために、一時本拠点から離れて南西の拠点周辺を歩いていた。
そこは本当に奇妙な景色だった。
兵士の死体も天使の死体もどちらも混じって横たわっている。
その死臭や光景がとても不快に感じたが、セリファはひたすら彼らを探す。
死体を避けるように歩いていくと、とある死体に目を止める。
そして目を丸くして、思わず唖然としてしまう。
そこにはボロボロに傷ついて倒れているガルナの姿があった。
もうすでに事切れていることがすぐにわかるほど、悲惨で酷い有様だった。
――冗談だと思っていた。
今朝、ガルナはまるで自分の死をほのめかすようなことを言っていた。
ガルナが言っていたこととは、戦士にとって禁句の言葉。それを真剣な口調で言われたから、妙で少し頭に引っかかっていたが、まさか本当にこんな事態になるとは、露ほども思わなかった。
「……本当に逝ってしまうなんて……。あのお方のことを、何も考えていなかったのですか……」
震える声で静かにつぶやいたが、その調子には怒りの色があった。
セリファは目の前にいる戦士を心の底から恨んだ。
ガルナがいなくなれば、一番悲しがるのが誰なのかもうわかりきっていることだ。セリファにとっては認めたくないことだが、彼がいなくなれば確実にウィンスタードの心は傷つくだろう。
ガルナはそれを考えないで、勝手に先に逝ったとはどうしても思えない。
実際に「わかっている」と言ってくれたのだ。
きっと何か思うことがあって、ウィンスタードが悲しむとわかっていても、こうして最期まで戦ったのだ。その理由は、どう考えたとしても知る由もないことだろうが……。
けれどそんな彼の無責任さが、セリファにとって腹立たしかった。
自分の想う人を傷付ける行為をしてくれたこの男を心の底から憎く思った。
(あなただけは、あのお方が平常のままで生きるためにも、生きていなければならなかったのに)
拳を握り締め、唇を噛み、どんどんと増してくる悔しさと怒りを必死に堪えた。
その憎い魂の宿っていた死体を、満足するまで引き裂きたい。腸を抉ってやりたかった。バラバラにしてやりたかった。元の姿がわからなくなるほどもっとボロボロにしてやりたかった。
それでも今はウィンスタードを探さなければならない。この怒りを発散させる余裕などない。
セリファはもう一度冷静になって、辺りを見回す。
そして遠くにふらふらと歩いているウィンスタードの後ろ姿を見るや、すぐに彼のそばへ走り向かう。
「ウィン様!!」
セリファはウィンスタードの名を叫んだ。
それでも彼は振り向きもしない。それどころか、歩みを止めることもしなかった。
肩を落とし、足元のおぼつかない歩き方で結晶の方へ向かっている様子や、その背中を見るだけでも悲痛さを感じた。きっと絶望にうちひしがれていて、背後からの声に耳を傾けることなど到底できないのだろう。
その姿を見ていると胸が痛くなり、セリファは一瞬だけ怯んでしまったが、諦めずに再び懸命にウィンスタードの名を叫ぶ。
そしてようやく彼に追いつき、彼の肩を引く。
振り向いたウィンスタードの顔は、恐ろしさを感じてしまうほど険しい表情をしていた。その目は今までに見たことがない程に鋭く、光の無い虚ろな目だった。
その普段と違う様子のウィンスタードに、セリファは真剣な口調で諌める。
「いけません、ウィン様……早く戻ってください!! 一人で行くのは危険です!」
「……黙れ」
厳しい口調で言われ、セリファは余計にたじろぐ。
その後何を言うことも、動くこともできなくなった。
彼のその険しい表情を見ていると、彼の歩みを止めることを諦めたくなってくる。
(ガルナであれば、止められたのだろうか)
セリファはどんどんと離れていくウィンスタードを虚ろな目で眺めながら、地面に座り込んだ。
彼を止められない自分が情けなかった。
そして肩を落とし俯いて、この世にくだされる審判を待った。
けれどセリファにとって、この世がどんな命運になるか、どうでもよかった。
一番嫌だったのは、心から愛するウィンスタードが傷つくことだった。
身体的にも、精神的にも……それと同じぐらいの痛みが、セリファの心を傷つける。
ウィンスタードが傷つく度に、自分にも力が入らなくなることを、セリファは感じた。
だからこそ、セリファは彼の選択に、自分の命を委ねるつもりでいた。
** ** **
結晶の真下へ着いたウィンスタードは、空を見上げた。
相変わらず天使が結晶から出てくるのが見える。そして何体もの天使が武器を構え、地上へ降りようとこちらに向かっていた。
彼らはまた、人々を殺しに来るのだろう。
今も。今までも、これからも。
――何て、馬鹿らしいのだろうか。
ウィンスタードは、荒野に横たわって並ぶ兵士たちを見て、心の中で呟いた。
この戦場で最後まで戦おうとした自分がとても情けなく思えた。そして無駄な苦しみを生んでしまったことを、とても申し訳なく思い、深く後悔した。
所詮、地上界は天界に勝てやしないのだ。
わかっていたはずだった。
だが、試してみたかった。
その理由が、恩人のためなのか、自分のためなのかまったくわからない。それでも最後まで足掻けるだけ足掻いて死ぬことが一番理想的だと本当に思っていた。
しかし、それは愚策だ。
結局、誰も苦しまないで終われる世界の方が、ずっと理想的なのだ。自分にも、そしてすべての生命にも、素晴らしく理想的な最期を与えることこそが良き選択なのだ。
それによって背負うものは罪などではない。救済である。
生きることの幸せは望めなくても、死ぬことの恐怖も悲しみも無い。そんな無の世界こそが、世界の救済に繋がるのだ。
向かい来る天使たちにも構わずに、ウィンスタードは天界へ届くように大きな声で叫んだ。
「天界よ、なぜこんなにも我々を虐げる……なぜ、こんなにも我々の領域を侵すのだ……!? これが人類への懲罰だと言うのか!!」
ウィンスタードは両手を広げ、言葉を続ける。
「そんなにも人類が憎いというのなら、私がすべてを背負おう!! 私が、この世界の人間、先立ってしまった者の魂すべての罪を私が背負おう!! こんな悲しい世界、私はもう、見たくない……!」
無意識の内に、一つの魔法の詠唱を唱え始めた。
これで人々の意識を、精神をすべて救うことができる。大切な者が死ぬなどという、悲しい思いを誰も抱かないですむ。
こんな悲しい世界を終わらせることができるのなら、重い罪すらも、許されるだろうと思った。
たとえすべての生命をこの手で殺したとしても……。
ウィンスタードは無意識のまま、サルヴァドールの詠唱を唱え始めた。
ガルナのいない世界でこのまま生きたとしても、どうせ虚無のまま生きる運命だろう。
(それならば、今ここで、すべてを無くしたとしても、構わない)
――。
しかし詠唱が唱えている途中、ウィンスタードの頭上に何かが光り輝いた。
とても強い、真っ白な光だった。
ウィンスタードはその光に心を奪われ、ついに詠唱を唱えることをやめる。
その優しい感覚がとても心地よかった。もっと、ずっと、その穏やかな感覚の触れたい、その美しい光に包まれていたい……そう思ったウィンスタードは、目の前の真っ白な光に手を伸ばす。すると光はウィンスタードの手を優しく引き、ゆっくりと吸い込んでいく。そして奥にある、一際強い光に触れると、辺りの光がもっと強く輝き出したため、ウィンスタードは目をぎゅっと瞑る。
その光はエルス大陸中に伝わった。そして全生命が注目した。
動物も、植物も、人間も……誰もがその光の眩しさに目を瞑り、そして神秘的な優しさに包まれていった。
この強い光がエルス大陸を照らした日を境にして、地上界は天界に侵略されることが無くなったという。




