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7.武器を選ぼう



 掲示板を眺める。

 ここには依頼が薄くスライスした木の板(紙より安いらしい)に書き込まれていて吊るしてある。

 さながら神社の絵馬のようだ。

 見てみると傭兵募集が多い。そういえば今戦時中だったな。魔王軍との。

 一定の期間、領主、貴族に雇われる形でランクに応じて給料が支払われる形だ。パーティごとまとめて雇う場合の料金体制もちゃんとある。平時まで軍を維持するのは金がかかりすぎるのでこうして兵役が必要な時だけ傭兵を雇うのは合理的だ。

 今後、軍に潜り込みたい場合は利用することがあるかもしれない。


 俺の用事はとりあえず実績作りだ。

 依頼の困難さ、報酬の金額、依頼達成による実績のレベルアップ、全部どうでもいい。

 ここでなにかやっておけば一年後ハンター資格を剥奪されることが無いからなんか一つだけやっておく。ただそれだけ。


 さて7級でも受けられるとなると……小動物ぽいやつの捕獲、野生動物の駆除、薬草の採取、うん日帰りでもできそうだ。

 そこで一番楽そうな薬草採取でも……と手を伸ばすと下から手が伸びてかっさわれた。

 見るとなんか魔法使いぽいカッコした女の子がこっちを見上げてる。


 ……残念。美少女じゃない。

 これは現実なんですアニメやファンタジーやライトノベルじゃないんです。

 こんな世界でフラグなんて立ちようがありません。


 とりあえず無視してウサギ肉の調達でも……と思ったらそれも奪われる。

「おいオッサン」

 不躾な物言いで少女が声をかけてくる。やめやめ。少女じゃなくてクソガキでいいや。

「あんた薬草なんかわかんのか? 魔物がウジャウジャいる森の中で薬草摘んで生きて帰れんのか?」

 無視。

「足長ウサギだって獲れんのかよオッサン。弓も魔法も無しでどうやって獲るっていうんだよ」

 無視無視。

「聞いてんのかオッサン、はあー……これだから素人は」

 うぜえ。激しくうぜえ。

「あんた今日からハンターなんだろ。なんにもわかんねえじゃねえか。さっきポンと入会手数料払ってたじゃん。金持ってんだろ? アタシを雇えよ」


 森林オオカミの駆除。手を伸ばすとそれも取られる。

「話きいてんのか! お前みたいなズブの素人が森林オオカミ一匹だって獲れるわけねえじゃねえか! こういうのは7級だってちゃんとパーティ組んで体制整えて挑むもんなんだよ! そんなこともわかんねえでやろうとすんなよ!」


 もう俺の服をつかんでぐいぐい引っ張る。まわりのゴツいハンターたちも面白そうにニヤニヤ笑いしながらこの騒ぎを眺めている。

 あまりにもうるせえのでクソガキをじろりと睨んでやる。


「だーかーらーっ! 護衛してやるからアタシを雇えよ。アタシの魔法ならそんなやつらイチコロだからさっ! 金貨一枚のところ銀貨50枚でやってやるからさ!」


 悪い。美少女だったら考えたが。

 やろうと思えばこのクソガキの手より素早く札を取るのは簡単なんだがやったらよけいモメそうだ。

 上を見るとワイバーンの討伐がある。ランク指定は無し。なんだあるじゃん。

 報酬は書かれていないけど出来高なんだろう。もうこれでいいや。


「あっ……」


 高いところにあるのでクソガキも手が届かなかったようだ。

 そいつを持ってさっさと出口に向かって外に出る。


「死ぬな……。あいつ間違いなく死ぬわ」

「よかったなメアリ(受付の嬢ちゃん)。入会手数料丸儲けで」

 なんかそんな声が聞こえたけど気にしない気にしない。


 さて俺はこれでハンターになったわけだけどやっぱりなにか武器持ってないとカッコがつかないということがよくわかった。でないとあんなクソガキみたいなおかしなやつにこれからも絡まれ続けるということになる。

 そんなわけで町はずれの武器屋に着いた。

 中に入ってみると当たり前だがまあずらりと武器が並んでいる。やっぱり剣が多いが槍、弓、盾と一通りなんでもある。値段はピンキリだ。

「いらっしゃい。兄ちゃんハンターか?」

「ああ」

 店員はかつてのハンター……という風ではなく職人風のオヤジである。

 兄ちゃんとは言われたが俺とそんなに齢はかわらんだろ。

 店の裏は工房になってるようだ。自分でいろいろ作るのだろう。

「何を使うんだ?」

 うーんと考える。考えてみればここまで素手でチンピラを叩きのめした覚えしかない。

 あとは魔法か。魔法ならいろいろ使っている。

「素手と魔法かな」

「武器いらねえじゃん」

 ですよねー。オヤジあきれてるよ。


「武器持ってないといろんな奴に絡まれてさ。なんかめんどくさくてしょうがないんだよ。なんかこう持ってて邪魔にならなくてぶん殴っても相手死なないでせいぜいケガぐらいで済むようないい感じの武器ってなんかないかな」

 武器についてはド素人もいいとこな俺なのでこの際正直に話してみる。

「ふーん……腕にはだいぶ自信があると……。そう考えていいんだな?」

 オヤジが妙に感心する。

「まあ魔法使いならそれでもいいか……。普通杖でぶん殴るもんだけどな。そういう杖なら魔法屋に行け」

「杖なんて邪魔になるだけだろ」

 オヤジが驚く。

「……魔法使いってのは普通杖が無いと魔法が出せないんだが」

 あ、そうなの? 俺ってかなり特殊なの?


「まあいいか……。護身用の打撃武器だな。これなんてどうだ」


 がちゃんがちゃんがちゃん。オヤジがテーブルの上にいろいろ並べる。

 その一つに俺の目が釘付けになる。

 おおおおお!!

 あるのか!

 この世界にもあるのか!

 なんでこんなものがあるんだ!!


 全長は40cmぐらい。鋼鉄製で握り手の横から太刀もぎの(カギ)が飛び出している。表面はなめらかでサビ一つなく黒染めされた六角棒でズシリと重い。磨かれた表面にわずかに槌跡がありよく鍛えられたハガネでできた逸品であることはエンジニアの俺から見ればすぐわかる。握り手にはリングがついていて昔はそこに房がついていた。鮫皮に紐巻きだったはずの握り手は今は皮に変えられている。

 それはどこからどう見ても十手であった。

 そう、あの時代劇の捕り物で出てくるあの十手だ!


「これにするわ」

「はやっ。ちょっと待て兄ちゃんもっとよく考えろよ」

「いやこれでいいわ。俺これなら使い方わかるから」

「わかる? ホントか? 俺でもよくわからん武器なんだが……」

 オヤジが不思議そうな顔で俺を見る。


「オヤジが作ったんじゃないの?」

「まさか。そんな使い道もわからん武器作るかよ。えらく古いもんでな。なんか大昔死んだやつが持ってたものだ。出所については俺もさっぱりわからん」

「いくらだ」

「殴れる武器が欲しいってやつには全員見せているんだが20年でこれ欲しがったやつはあんたが初めてだ。年代物なのは間違いねえが売れ残りだからな。正直俺もどう値段つけていいかわからんのだが金貨一枚でどうだ」

「買った」

「いいのかよホントに。もっといい武器やオススメも安い奴もあるんだぜ」

「武士に二言はない」

「ブシってなによ。……まあいいわ。わかるやつに使ってもらえるなら武器も嬉しいだろ。あんがとな」

 テーブルの上に金貨を一枚置く。


「で、これは俺の勉強のために聞くんだが、それってどうやって使うんだ?」

 オヤジは興味津々である。武器が好きで武器屋やってるんだろうから当然だろう。

 俺もサービスで教えてやることにする。

「これはな、まずこう使う」

 そういってズボンの(俺は35歳だからパンツとか言わないのだ)中に刺す。ちょうどカギの部分がベルトに引っかかるので落ちない。ジャンパーを羽織っているから外からは見えなくなる。

とんがっている部分は無いので体にあたっても痛くない。


 オヤジはめちゃめちゃがっかりする。

「なんだそのためのでっぱりかよ……」

「こう使うこともできる」

 引っこ抜いてズボンからベルトに刺しなおす。外からも見えて抜きやすくなった。バランスは最高だ。

 これを作った職人の腕がうかがえるというものである。

 昔召喚された日本人が奉行(ぶぎょう)かなにかだったのかもしれないな……。

 きっと本来は帯に差していたはずだ。

「意外とつまらねえ」

「で、だ。なんでもいいから剣で俺に切りかかってみろ。折れてもいいもう捨てるやつにしろよ」

「お前俺を舐めてるだろ」

 オヤジ、面白くなってきたのかニヤニヤ笑いながら木箱につっこんである何本かあるうちの一本の剣をつかんで引っ張り出す。


「領軍の練習用剣だ。新しいのを納入したので古い奴を引き取ってきた。刃はついてねえから切れねえけど俺が打った剣そんな細っこい棒で折れると思うなよ。当たっても知らねえからな!」


 オヤジは両手剣を構えてふりかぶり、俺に向かって振り下ろす。

 ガキンッ!

 俺はとっさに十手を逆手で抜いて、ひじまで棒身をピッタリ当てて腕で剣筋を滑らせてかわす。

「おぅっ……なるほど」

「本気でいいぜ」

「なめんなよっ!」

 オヤジの斬撃が来る。それをことごとく十手で受けてかわす。

「防御はそれなりにできるようだな。でも攻撃はどうやってやるんだ?」

 もう一度振り下ろしが来る。十手をくるりと回して逆手から順手に持ち替える。

 ガキッ!

 それを十手の鉤の部分で受け止める。

 そのままねじりあげて腕を振り上げるとオヤジの手から剣がすっぽ抜けて上から落ちてくるのを横払いする。

 カキンッといい音がして剣が真っ二つに折れて吹っ飛ぶ。

「あとは、わかるな」

 ぴたり、とオヤジの頭に十手の棒身(ぼうしん)が押し付けられる。当たってれば頭蓋骨はグシャグシャだ。


「……いい武器じゃねえか。それにしてもよく知ってたな」

 オヤジは両手を上げて汗をだらだら垂らしながらにやりと笑う。

 俺も(相手は美少女、相手は美少女)と念じながら今できる一番いい笑顔で返す。


「テレビで見たからな」

 死んだじいちゃんとテレビ見た後よくやってたチャンバラごっこが役に立ったぜ。

 ありがとなじいちゃん。



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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう役って美少女というより、 新人をカモにする不良おっさんハンターの役目だと思うんだけど、 美少女でもない、普通の少女?が絡んでくるってのは、 珍しくていいね。定番はないに越したことは…
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