4.教会で教えを請おう
(心配しましたよー! あれから全然連絡来ないしどうしちゃったのかとずっと心配で全然眠れませんでしたよー!!)
「あ……悪い、おはようエルテスよく眠れたかな……って眠れなかったか。ごめん」
やっぱり女神も寝るんだ。夜の連絡は控えよう。
今俺は街の中央の広場にあるベンチに座って街と行き交う人を眺めている。
この広場の中央には女神像がある。
俺が会った女神エルテスとは全然別人だ。剣とか構えて勇ましい。ジャンヌダルクあたりを想像してもらえば間違いないか。なにがどう伝わったらあのエルテスがこうなるのか教えていただきたい。
まだ早朝だ。誰も俺に目を止めない。世紀末ファッションのせいで目も合わせてくれないな、うん。早く着替えたい。
だから普通の平民がどんな服着てるかを観察するのだ。金を儲けたら着替えを買おう。
銀貨7枚銅貨21枚じゃ銀貨100円、銅貨10円として日本円だと910円?あんなチンピラが金いっぱい持っているわけないしな。金の価値わからんけど。
で、まずエルテスにおはようを言うために女神紋を耳に当てて起動する。
(あれからどうしてたんですかー?)
「とりあえず近くにあるタリナスって街に来てる。そこでこっちの着替えと金を少々調達してたよ」
(あっすいません! 着の身着のままで佐藤さん放り出しちゃいました! あーやっちゃいましたね私。って着替えとお金って、どうやって調達したんです?)
「ターミネーター方式」
(なんですそれ……)
「目立つかっこで怪しいところをうろついて、からんできたチンピラを返り討ちにして身ぐるみ剥ぐっていうか……」
目立つカッコ。会社名入った作業服ね。全裸は……勘弁してください。
(ひどいですー!)
「いいじゃん街の掃除になって俺も必要なもの手に入って若者も改心させられていいことだらけだよ」
(まあいいですけど……。で、これからどうするんですか?)
「月に一度あの場所に戻って壁をかけなおす」
(待ってください――――――――!)
いきなり大声になって顔をしかめる。
「わかってるわかってるって、冗談だってば」
(それただの時間稼ぎです。問題の解決になってません!)
俺はため息ついてそれに答える。
「世界を二つに割るってのはな、まあようするに鎖国だけどダメなんだよそれは」
(佐藤さんもそう思います?)
「ああ、文明レベルってのは火薬とか帆船とか石油とかのちょっとした発明発見程度で爆上げされることがあってな、双方にすごい差ができたりするわけだ。そうすると片方は原住民が絶滅させられたり植民地にさせられたりするんだよ。俺の世界でもあったことだ。俺が生きてる間壁を維持してたってなにも解決しないさ」
(そうなんですよねー……)
「平和を維持するには文明レベルを調整して混ぜ合わせて差が無いようにしてお互い戦争しても得が無いようにするのが一番だ。まあ理系の俺でもニュース見てればそれぐらいはわかる」
(その通りです。ああやっぱりいい人に頼めたような気がします。やっぱり日本人って素敵です!)
「ちょっと待て、こういうこと前にほかのやつを頼んだことがあるのか?」
エルテスはちょっと黙ってから語り出す。
(いえ、過去教会が召喚した勇者なんですけど、アメリカ人の時はチート能力で無双しまくって自分が正義顔して大変でしたし、フランス人もイタリア人もハーレム作ってやりたい放題、アジア系の人はもう要求ばっかりすごくってそのくせ仕事はからっきしというぐあいでして……)
「……うんわかるなんとなくわかる」
(今の勇者も日本人なんですよ)
「なに――――!!」
おおお、そりゃ話が早いかも。ぜひ会いたい。
「どんなやつだ!」
(鈴木三郎っていう学生さんです。オタクでゲーマーでなんていうかその……)
「……あーわかった。つまり調子に乗ってるんだろ」
(……おっしゃる通りです)
急に会いたくなくなった。
エルテスと通信する俺は、現代の日本ならケータイでそうやって話してる奴はそこら中にいるので別に珍しい光景じゃないのだが、周りの人から見ると一人でブツブツとなんだか気味悪い奴に見えたかもしれない。
そろそろいいだろう。
「じゃ、俺はこれから情報収集するから、また報告する」
(はい、楽しみにしています)
さてと立ち上がってマップで覚えた場所に向かう。
朝、鐘の音と共に教会の扉が開く。扉の前には浮浪児やら浮浪者やら貧乏そうな人間が並んでいて無言のまま入っていくのでついていく。
祭壇の前にベンチが並んでいるので後ろのほうに座っていると、神父か伝道師らしき人が現れてみんなに挨拶をし、祭壇に向かって祈りを捧げた。そして教義の講釈が始まる。
教会というのは情報を得るには良い場所なのではないかと思う。
お国柄や雰囲気、やっていいことと悪いこと、人々の暮らしぶりから文化レベルに国の歴史と得られる知識は幅広い。それに教義を除いてウソを教えられる可能性が非常に低い。
そう、神様に関する限り神話のほとんどは信者を騙すためのウソなのだが、そこに目くじらを立ててはいけない。笑って流すべきだろう。
「このように女神パスティール様は魔族を追い出し、私たちに正義を指ししめられたのです」
え――――?
女神様ってエルテスじゃないの? 初耳!
まあそこは突っ込まない。
女神パスティールは600年ぐらい前の初代勇者だ。魔族と人間になんとなく分かれていたこの大陸で初めて人間を率いて魔族を攻め滅ぼすべく立ち上がったのがパスティールらしい。
理由は不明である。そして魔王を倒した初の勇者となる。
それ以前にも勇者はいたのか、魔王を倒すことに成功したのかはわからない。それ以前の記録が無いのだろう。とにかくその勇者が魔王を倒し、魔王の勢力地を半分ぐらい占領したがその没後、国の救世主として神格化されている。
この国の女神様はエルテスみたいな本物の神様じゃなくて、実在の人物だということだ。キリストや釈迦みたいなものか。
初代勇者は女神、後の男の勇者は武神と呼ぶ。
なぜ人間側の軍を連合軍と呼ぶかと言うと、王国軍と教会軍の合同だからだ。パスティールは召喚された勇者ではなく、王国で生まれた人らしい。これ以後王国では勇者と言える能力を持った人が現れることがなくなってしまったので、教会が異世界から勇者を「召喚」して再び攻め込む。
魔王は倒されても数年ぐらいで復活するらしい。
ほとんどの勇者は魔王に倒されてしまうのだがたまに魔王が倒されることがあるので馬鹿にできない。
つまりこのパスティール教は、この大陸は神が人間に与えたものでありその一部を魔族が不当に占拠している。なので魔族を絶対悪として見ていて魔族滅ぼすべし、そのためならどんな手段でも正義であるということである。
うん、ダメだ。この宗派はダメだな。ダメの典型だ。
一方的に魔族に攻め入ったパスティールもなに考えていたのか今となってはわからないが、教会がどんな悪いことも神の名のもとに正当化するやつらになってしまっている。最悪だな。
その後、浮浪者たちに交じって薄っぺらいパンと薄いスープをもらって追い出された。
信者をつかむにはまず胃袋からか。並んでいた人は教義なんてどうでもよくこの配給の飯が目当てだったのだろう。
これはもっと他の都市もまわってみて、国や宗教がどうなっているのかよく調べなくては。
世界で一番旨い物を食っている日本人の俺にはとにかくこの町の飯はマズ過ぎる。