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31.教会の手のひらで踊ってみよう


「あははははっ! はははっ! ふうふう……はははは!」

 カーリンが目から涙流して笑う。

「さすがですわ教会、なかなかやるものですわ。おなかが痛いですのよ」

 そのキャラまだ続くんですか。


「笑えないよまったく」

 チラシにはこう書いてある。


 『勇者ヒュウガ・アスカ様が不落の第11ダンジョンを討伐成功!』

 もう跡形もなく消し去ったと、あの武神ツェルトでさえ落とせなかった第11ダンジョンを討伐したと、ダンジョン討伐などハンターも含めて三十年ぶりの快挙だと。

 しかもそれを勇者たった一人で成し遂げたと。


「あの野郎俺の手柄を全部横取りしやがった!」

 カーリンがケラケラ笑いながら言う。

「うふふふっ、それは違いますわ。勇者様はこのことはまだ知らないはず。教会が勝手に勇者の手柄にしてしまったんですわきっと」

 気持ち悪いんですけど、気持ち悪いのでスルーさせていただきます。


「なんでそんなに可笑しいの」

「わたくしは嬉しいのです。わたくしたち魔族は悪だくみが苦手です。嫌いと言ってもいいぐらいですわ。だからマサユキ様がなにか良くないことを考えるたびに密かに心痛めておりました」

「そんなこと考えてたの?」

「だから、マサユキ様よりずっと悪だくみがお上手な者たちがいて、マサユキ様が悪事で完敗する。そんなところが見られて心安らかに思います。マサユキ様は悪だくみではまだまだ赤子のごとし。教会の敵ではありませんわ。わたくしにはそれがとても好ましく思えるのです」

「くっそーこの仕返しは必ずしてやるからな」

「はいはい、今日はもうお食事を取って、お風呂にお入りあそばされませ。わたくしが体を洗って差し上げますわ。疲れた殿御をお慰めいたしますのがおなごのつとめでございます。さ、どうか心安らかに……」


 うん、それならいいかも。

 うん、このキャラいいかも。




 翌日、勇者が凱旋してくると教会の騎馬が駆け回って市民に知らせていたので、カーリンと二人で宿の窓からこっそり見る。

 先頭に旗立てて教会の兵が先導し、街を馬の列が歩いてくる。

 うおお――――という大歓声が上がりすげえことになってる。

 白馬に乗って三郎がやってきた。


「得意満面じゃの」

 あ、あのキャラはもうやめたんですか。

 うんそっちのほうがいいわ。でもあれはたまにやってほしいかも。

「得意っていうか、なんかもう笑顔がこわばっててムリヤリぽくて怖いんですけど」

 三郎にしてみれば身に覚えのないことで、さすがに居心地悪いというかむしろ針のむしろ? どういう公開処刑? って感じだと思う。

 後ろに続くパーティーの女の子たち、シラーっとした顔して無表情です。

 さすがにそろそろ三郎に愛想が尽きてくるころかもしれません。

 これだけの三郎の失態続きを一番間近でその目で見てきているわけですからね。

 ハーレムパーティー崩壊もあり得ます。

 うおおおおおお……! ぱちぱちぱちぱち……。

 何も知らず大歓声を上げる民衆が哀れです。

 三郎の精神崩壊が心配ですね。


 そのまま三郎のパレードの列はこの街一番の宿の前で止まり、教会の制服を着た連中が槍を掲げる中、三郎が馬を降りて宿に入る。


「あ、教会には戻らないんだ」

「女神像に近寄るのも禁止かのう」

 くそう、教会に戻ったら俺の【ウェザリング】が炸裂するのに。

 あれは三郎の目の前でやらないと意味ないからな。

 しかしそれって教会側、ウソですって自ら認めてるようなもんだぞ。


「女神パスティール様に何一つ後ろ暗いことが無いのなら、堂々と教会まで凱旋して女神像に勝利を捧げるがいいの。それをやらせないのは市民とてどうにもおかしいと思うはずじゃ」

「そうだな」

「ライバルの教会も、国王も、いいかげん偽りの勇者を怪しんでおるはずじゃ」

「ああ、それを払拭するには本当は魔王討伐が一番いいんだが、それが不可能である以上……」

「もう一つぐらい、教会どもがなにか手を打ってきそうじゃの」

「そうだな……ふわぁあ……っ、まだ眠いわ」

「わしは腹が減った……。湯を沸かしてくるから、それまで寝ておれ。あとでなにか食べに出かけようの」



 あれからまた数日様子を見たのだが、パスティール教会のライバル、モーガン教会の弾劾告発がすごいことになってきた。

 なにしろ魔王討伐は失敗、タリナスの女神像と教会崩壊、それにダンジョンコア採掘の失敗に第11番ダンジョンの崩壊がただの地崩れで実際には勇者はその後に来ただけで討伐をしていないときたもんで、ウソだいやそっちがウソだと国を二分しての大騒ぎになっている。

 なによりモーガン教会の調査隊が三郎より先に11番ダンジョンに行っており、すでにダンジョンが崩壊済みなのを知っていたのが痛い。


 なんで俺みたいな部外者でもそんな事情が分かるかというと、モーガン教会が街角に立ってこれらの事実を街頭演説しているからだ。そりゃあもう選挙運動みたいに。

 モーガン教会が演説を始め、パスティール教会の弾劾を訴えると、パスティール教会の者が殴りかかって乱闘騒ぎまで起きている。もうこの騒ぎを知らない市民などいない状態だ。

 勇者を宗教裁判にかけるべしと強硬姿勢のモーガン教会に対して、我こそが正統な勇者教会でありそのような誹謗は不当というパスティール教会の対立は日に日に激化している。

 ツェルト教会? もちろん静観だ。

 うん、なんかいい感じに盛り上がっておりますな。

 

(ちっともファンタジーっぽくありません!)

「まあまあ、ここまでは俺も意図してなかったよ。はっはっは」

(三郎くんもう一歩も外に出られないじゃないですか!)

「そんなことになってんの? あっはっはっは」

(笑い事じゃないです)


「個人的な興味なんだけどさ」

(はい)

「別にどうでもいいことなんだけどさ」

(はい……)

「三郎ハーレムどうなった」

(…………解散しました)

「あっはっはっはっはっ!」

(教会の手先で事実上お目付け役で三郎くんの手綱(たづな)にぎってたあの僧侶の黒い子がですね、教会に呼び戻されちゃいまして)

「わっはっはっは」

(それにつれて他の子たちも自然解散と言いますか)

「はっはっは」

(なんか最後は、『それじゃっ!』とか軽――く流されちゃって、三郎くんぽかーんですわ)

「こええ――――女こええなやっぱ」


(それに比べて、あの魔王様をあそこまでメロメロにしてしまう佐藤さんの手腕に脱帽ですわ)

「手腕とかいうな。愛だよ愛」

(なにかコツがあるのでしょうかねぇ)

「そりゃああるけど、人に教えるようなことじゃないし」

(べっべつに聞きたいとかないですから! 知りたいとか思ったことも無いですから!)

「知りたきゃ俺の女神紋の盗聴でもしてろ」

(だって音声だけじゃ……)

「してんじゃねえか」

(しっしてませんしてません)



「なにを一人でブツブツにやけておる。気持ち悪いのう」

 聖堂前の石階段を、カーリンが両手にアイスクリーム持って上がってくる。

 アイスクリームがあるのはいいな。王都の周りは牧場があり牛乳も採れて、氷魔法が使えるやつがこれ考え出した。いや旨いよ実際。添加物のない天然ものだ。一本銅貨50枚(500円相当)とめちゃ高いけど。いや日本の観光地でも500円のソフトクリームとかあったから高くもないか。

「考えごとさ。俺の癖だから気にすんな」

「人目が無いところでやってほしいのう。ほれ食え」

「おう、ありがとう」


 あれからカーリンは『王都の休日』がすっかり気に入ってしまい、劇をもう一度見た後、今日は劇に出てきた王都の観光ポイントを順に回ってデートしている。

 劇では書き割りの絵だった背景も、リアルで見るとカーリンも大興奮だ。


「街は大騒ぎになっとるの。どっちの言い分が正しいのかわからんくてツェルト教会に顔を出す市民も増えておるようじゃ。列が出来とった」

「この騒ぎを治めるために、そろそろ国が動くかな」

「そうじゃのう、乱闘騒ぎが起きるたびに衛兵が大忙しじゃからの」


 夕暮れになり、宿屋街に戻ると、掲示板に大きな板で広報が貼られ、人だかりができていた。



         『王国武闘会開催』


 王国一の強者を決めるため、闘技場において武闘会を開催する。

 観客の安全を図るため、魔法は使用禁止。

 防具、装備は自由。

 予選、本選共に刃引きされた武器または打撃武器のみを使用。

 参加資格は、王国騎士、教会騎士、貴族領所属騎士、一級ハンターとする。

 優勝者と準優勝者は国王陛下と拝謁し直々に名誉を(たまわ)る機会を与える。

 なお、この武闘会には勇者ヒュウガ・アスカも参加する。

 主催・受付 王都ハンターギルド

            以上。


「これだっ!!」

「これだのっ!!」


 よかったなエルテス、ファンタジーっぽく盛り上がってきたぞ!



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― 新着の感想 ―
[一言] むしろやるだけやって責任(結婚)取らなくていいのだから、 主人公と違って純愛路線ではない、 三郎みたいな軽薄なタイプには、 都合のいい展開なのでは?と思えなくもない だってあいつ3人の女の子…
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