23.強盗を退治しよう
「きゅきゅわ――――!」
「強盗じゃ!」
叫ぶなりカーリンが空中に身を躍らす。
ちょっちょっと展開速い速い!
異世界のイベントでやっとかなきゃならんことの一つだろうけど説明なしでいきなりは速いって!
俺もドラミちゃんの鞍を蹴ってカーリンの後を追う。
「なんだって――――!」
「ドラミちゃんが強盗見つけたんじゃ! 馬車が襲われておる!」
ひゅるるるるるるぅぅぅぅぅう。スカイダイビングで自由落下する眼下に馬車を取り囲んで大勢がチャンバラ中だ。
これはアレやっとかんと。『一生に一度は言ってみたいセリフシリーズ』のリストはまだまだいっぱいあるからな。
「どっちに付く?!」
「決まっとるわ!!」
「だろうなっ!」
惜しい、全員男だわ。
ひゅごおおおおおおおおおおっ。ぶゎさっ!!
「羽見られんなよ!」
「わかっとるわっ!」
仰角上げて水平飛行からカーリンは羽の収納、俺は【フライト】を切ってその勢いのまま山賊丸出しの汚いカッコの男の尻を蹴り飛ばす。
どっがぁああああん!
土煙上げて二人の男が吹っ飛び、俺たちはチャンチャンバラバラのど真ん中に着地する。
「見参!」
カーリンが腰の後ろに縛ったバッグから如意棒を引っこ抜いて片手でくるりとやると【コントラクション】が解除されびゅんっと伸びる。
全員がいっせいにこっちを見……
どがっ、ぼこっ、がきんっ、どこんっ、ぼきっ、どかんっ!
あ、これ俺いらんわ。一人一撃だもん。
俺はより緊急度が高い倒れている護衛のハンターらしい男たちの【ヒーリング】に専念する。
……せっかくの捕り物なのに俺の十手の出番ないのかよ……。泣けるわ。
落ち着いてみると馬車二台、御者と客と護衛ハンターという隊列で、盗賊は十三人もいた。倒すのに15秒ぐらいしかかかってないけど。
護衛のハンターは二人倒され一人が刀傷を負っていた。俺の治療で今は三人とも起き上がれるようになっている。
「そこな商人! 縄はあるかの?」
「はい! 売るほどございます」
ノリいいな商人。
カーリンが気絶している盗賊を見事な手際で縛り上げる。それも魔王様の仕事ですかそうですか。SMの亀甲縛りみたいなプレイとはレベルが違います。後ろ手にして暴れようとすると首が締まるという日本伝統の捕縛術と同じですね、プロフェッショナルなお仕事です。魔王様でなくて女王様と呼ばせてください。
「助かったよ……助太刀ありがとう。俺たちは3級ハンターの……」
「これより此度の荷馬車強盗未遂の一件について吟味いたす! 一同座れ!」
なんか始まった――――――――!!
強盗十三人、亀甲縛りの上にまとめて繋げられてひとまとめにされ、それを復帰したハンター三人が取り囲み、客の商人風のおっさん三人、御者二人が並んで座る。
「最初にこやつらを発見したのは誰じゃ?」
「俺です」ハンターの一人が手を上げる。
「こやつらはなにをしとった」
「半分が森からいきなりバラバラと現れて道を塞ぎました」
「その時剣は抜いておったか?」
「はい」
「ふむ、危害を加える様子だったのは明らかだの。斬り合いになる前にこやつらからなにか声をかけられたか?」
「いいえ、すぐ戦闘になりました」
「先に斬りかかったのは誰じゃ」
ハンターが手を上げる。
「それも俺です。仲間に『盗賊だ!』と言いながら突っ込みました」
「うむ、前に抜刀した集団がおるのじゃ、先に攻撃したからと言って不当とは言えないの」
どこの遠山金四郎ですか。ハンターの連中つられて敬語になってるし……。
「前にいたのは六人だったので俺とコイツでなんとかなるかと思ったんですが……」といって仲間の一人を指さす。
「後ろからも同数でかかられて、一人でいた俺が最初に斬られちまって」
倒れてたハンターの一人が言う。
「後ろから来た連中はいきなり斬りかかってきたのかの?」
「はい」
「是非に及ばぬの。お前たちは最初から全員殺す気でかかってきたのかの?」
カーリンが縛り上げられている盗賊に鋭く目を配る。
「いいえっとんでもない! 殺す気なんて……」
「最初から全員抜刀して取り囲むのは命のやり取り、殺す意思ありと取られて当然じゃ。覚悟があっていたしたのであろうからこの期に及んで言い訳は許さぬ」
「いえっ俺たちはただ脅して積み荷を盗れればそれで……」
「一流の強盗なれば剣抜かずとも取り囲むだけで脅しはできる。護衛一人問答無用で斬り倒すのは盗賊として三流、ド素人じゃ。お頭は誰じゃ」
「……」
「この強盗団の頭は誰じゃ?」
「……」
「仕方あるまい。言うまで一人ずつ殺していくかの」
「俺だ!」
一番ゴツい片目の男が声を上げた。カーリンが一番最初に蹴り飛ばした男だ。
「ふむ、やはりお前か。おぬしダウラン・ポステルじゃの?」
「なっなぜ……」
「ハンターギルドの手配書にあった片目の男とはおぬしのことじゃ」
すげえなカーリン! あんな掲示板の似顔絵よく覚えてたな!
あの一瞬でリーダー見分けて真っ先に蹴り飛ばすなんて流石です。
「その方、申し開きを聞こう」
おうっ、番組終了8分前か。
「なぜ盗賊などに身を落としたのじゃ……」
そこから――――!?
そこから自供させるのかい!
なんでも最初はハンターで、実績を上げて騎士にまでなったのだが、大臣の不正に巻き込まれ投獄され、その間に妻と子供を病気で亡くし、恩赦を餌に魔王討伐軍に組み入れられたが、その時部隊にいた貴族の一人が不正を働いていた大臣の息子だったことがわかり復讐のため暗殺を計画したがそこを勇者に阻止されて討伐軍を脱走しここまで逃げてきて食い詰めた上での犯行とこのことである。
なんだよそのジャンバルジャン……。
っていうか三郎いらんことすんなよ……。ほんっとお前はガッカリな勇者だよ。
「……おぬし、国が憎いならなぜ国に仇なさぬ。大臣が憎いならなぜ大臣に仇なさぬ。おのれより力なき者に仇なしてなんとする。罪なき民草の幸せを奪ってなんとする。刃を向ける相手が違うのではないのかの。不正あらば正す方法は他にもあろう。力ふるうべき相手を間違えるな。力あるものは力に相応しい行いをする義務がある。守るべきもの、弱きものは己の背におらねばならぬ。力尽き刀折れ前に倒れた時、おぬしは一片の後悔もなく死ぬことができるのか。こんな死に方はおぬしの望んだものなのか。おぬしは……」
説教モード入っちゃいました。ジャンバルジャン号泣です。
つられてみんな泣いています。さすがです魔王様。
大岡越前でもここまではやってくれません。
カーリンがむせぶ片目の男の肩を優しくぽんと叩いて、縛られた隣の男に言う。
「次はおぬしじゃ。おぬしなぜ盗賊家業になど身を落としたのじゃ」
十三人全員にやるんですか――――っ!
「ちょっちょっとまってカーリン、日が暮れるって」
「そうか、そうじゃの。では……」
すっくと立って、盗賊を見渡す。
「裁きを申し渡す!」
ごくり……。
「全員縛り首じゃ!」
「えええええええええええ――――――――っっっっ!!!!」(合唱)
今までの説教はなんだったんですか――――っ!!
ぱこん!
思わずカーリンの後頭部をぶん殴る。
「じ、冗談じゃ冗談じゃ、魔王ジョークじゃっ!」
「いつもこんなことやってたのかよっ!」
「お約束じゃ様式美じゃ父上も毎回やっておったのじゃ!」
「まさか、『……のところ特別の温情をもって』とか言って罪を軽くしてやるのか?」
「なんでわかるんじゃ。つまらんのう」
どうなったかというと「この国にも法があろう。この国の法に従うのがよかろうの」というわけで全員連れて行くことになった。
馬車に縄でつないで盗賊の十三人と、それを監視するハンター三人をてくてくと歩いてついてこさせる。
護衛ハンターの連中にさすがに三人で十三人の監視は無理なので、俺たちに同行してほしいと頼まれたのだ。一瞬、【コントラクション】で全員縮めて箱に詰めようかと思ったのは口にしない。
「これだけいても取り囲める荷馬車はせいぜい二台、護衛のハンターも相手にしてわずか三、四人の客の旅の持ち金を十三人で分けてなんとする。ちょっと考えれば盗賊など割に合わぬとわかるであろうの」
「……辛かったのう。一番幸せだったはずの子供時代を奪われたのじゃ。しかしの、自分の子らに同じ思いをさせてよいのか、おぬしは自分が欲しかった幸せを、子らに与えることはできたはずじゃ」
歩いている間ずーっとカーリンのお説教というかカウンセリングが順番に続く。
十三人もう全員ぐずぐず泣きながらついてきて気持ち悪い。
そうして、借りてきた猫の子のようにおとなしくなった盗賊たちをつれて日が暮れるころに俺たちの目的地である宿場町パルタリスに到着した。
護衛の三級ハンターたちとその街のハンターギルドに十三人を連れてきた。
あまりのことに田舎街のパルタリスギルドは大騒ぎになる。
「今回はほとんどあんたたちに助けられた。俺たちは護衛料だけもらうから、やつらの賞金はあんたたちで受け取ってくれ」という。
3級パーティーとして護衛任務は今回は厳しい結果になったが、盗賊に1級手配者がいたので依頼失敗とはならず護衛料はもらえるそうだ。
それも悪いと思うので山分けにしようと言ったのだが、俺たちが7級ハンターだとわかると3級ハンターのこいつらはもう恥ずかしくて絶対に受け取れないとがんばるので、盗賊たちの売れそうな武器とか装備はこいつらにやることで妥協した。
「カーリンさんは俺たちなんかよりずっと強いし、サトウさんのヒールもすごい腕前だ、パーティーに入ってほしいよ」と言うが丁重にお断りする。
「盗賊の賞金は十三人全部合わせて金貨25枚です」
「……」
これはさすがにびっくりだ。日本円で250万円ってことになる。
カーリンと俺で蹴とばしたダウラン・ポステルともう一人は1級手配されていた奴らしくて額が大きい。なんでそんな大物がこんな田舎町ウロウロしてたのかと思うのだが二人とも魔王討伐軍からの脱走兵で国の要注意人物らしい。
なんでもこいつらの証言次第では貴族の首が何人か飛ぶレベルだとのこと。
「お恥ずかしい話なのですがここパルタリスは田舎町でして、お二人に渡せる賞金の手持ちがないのです。一週間いただければ王都から使いが来て関係者の引き渡しができますのでそれまでお待ちいただきたいのですが」
パルタリスのギルドマスターが言う。事務系っぽいインテリタイプだ。
「いやあそんな暇はないですね。俺たちすぐ次の街にいかないといけないし」
「ふーん……」
マスターが困った顔をする。
「今回はこの町に来るついででしたから別に賞金無しでもいいですけどね。俺たち7級ハンターだから、本来護衛の仕事とか資格ないし」
「いやっそんなわけには……って7級なんですか!」
マスターが驚く。
「1級の手配者って1級クラスのハンターでないと捕えられないって意味なんですが。それを7級で……。カードを見せていただいてよろしいですか?」
あの蹴とばされただけで吹っ飛んだあいつらがか?
ぐずぐず泣きながら俺たちについてきたあいつらがか?
なんだかなぁー……。
「ではこういうのはどうでしょう。お二人のハンターランクを私の権限内で少し上げさせていただきます。通常かかるランクアップの手数料を今回の賞金との相殺ということでいかがでしょう?」
「ランクは上げなくてもいいからちょっとは賞金ほしいかな」
「……では金貨10枚とランクアップ。これでどうでしょう」
「ランクが上がるのかのっ! マサユキまさか断らんだろうの!」
目キラキラさせてこっちを見る。カーリンは金よりランクのほうが嬉しいみたいだな。
「だってランクが高ければ受けられる仕事も増えるのじゃ! 上げてもらったほうが嬉しいのじゃ!」
「いや俺たちの目的は別にランクアップじゃ……まあいいか」
俺もカーリンには弱くなってきたなあ。
「よろしいですか? ではしばらくお待ちください」
マスターが部屋を出ていって、戻ってきた。
「賞金の金貨10枚です。お納めください。カードをお返しします」
ちらっとカードを見る。
「……1級になってるじゃねーか!」(怒)
「はい」
「わしも1級じゃ――――!」と言ってカーリンはニコニコだ。
「ええ。たったお二人で1級手配者二人を含む十三人を一気に捕えたんだから当然です。お手並みは同行の3級パーティーから聞きました。ハンターの1級試験の課題は1級相当の依頼完遂ですから既にクリア済みと認められます」(ニヤニヤ)
「はめやがって……」
「ハンターギルドの財産は優秀なハンターの人材です。1級に匹敵する実力者を7級で遊ばせておくなんてもったいなくてできません。今後もご活躍を期待していますよ」(ニヤニヤ)
「お前絶対ジョーウェルから連絡受けてたろ」
「はて、知りませんよそんなこと?」(ニヤニヤニヤニヤ)
「俺ハンターになってまだ十日ぐらいしか経ってないんだけど」
「期間は関係ありません」
「カーリンに至ってはまだ二日目だ」
「前例がないわけじゃありません。退役騎士など即日1級で発行されます」
「どこまで人材不足なんだよ」
「ワイバーンの討伐にパーティーを用意できない程度には不足しています」
「やっぱり聞いてんじゃねーかジョーウェルから!」
あのおっさん俺の言うこと「信じない」とか言ってしっかり手まわしていやがった。自分のギルドのメンツは守り、金を出し惜しみしつつワイバーンの部位は全部手に入れ、使えそうなハンターはちゃっかり使えるようにしてしまう。
やり手だなジョーウェルよ。
あっちのほうが上手だったってことかね。




