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21.魔王様とデートしよう


「いやあ人間の世界は面白いのう!」

 そりゃあな。ワイバーンぐらいで困り果ててる人間みたら魔王様にしたら面白くてしょうがないさ。

「あの男も面白かったの。なんだかんだ言って新米のわしらを心配してくれてるのがようわかるしの。もっとからかってみたかったの」

「いらん苦労させちゃって俺は心苦しいよ……。さて次は武器屋行くか」

「武器か! そりゃあ面白そうだの!」

「スキップすんなスキップ」




「兄ちゃん嫁いたのか……」

「佐藤カーリンと申しますじゃ。よろしくお願いいたしますのじゃ」

 ……もうそれでいいや。面倒くさい。


 あれからナイフは改良され、剣鉈(けんなた)みたいになっていた。

 柔らかい鉄と固い鉄を重ねて叩き合わせて、刃を片刃(片面だけ研いである)にしてある。

 うん、これも一つの完成形だ。枝払いとかに便利だぞ。

 俺たちが刃物談議に盛り上がってる間カーリンは店の武器をあれこれ物色する。

 特に興味を引くものはないらしい。もしかして魔族のほうが製鉄技術も上なのか?


「嫁さんはなにを使うんだ?」

「槍とか剣とか盾だとかどこでも考えることは一緒じゃのう……。わしも一通りなんでも使えるのじゃが、わしの場合は結局ぶん殴るのが一番強かったの」

「武器いらねえじゃん……」

 ですよねー。このやり取りも二回目ですね。


「まあそれにしても女が一人でふらふらしてるとガラの悪い男に絡まれてやっかいだからな。護身用になんか目立つやつ持ってるだけでもいらんトラブルはだいぶ減らせると思うぞ。奥さん美人だしな」

 照れるな照れるな、にやけるなよカーリンお世辞だおべっかだ社交辞令だ。

 まあ周りが虎とかテルテルボーズやトカゲやワンコやガイコツじゃあ美人だと言ってもらえることなどまったくないわな。


「マサユキも武器もっておらんの。ここで何を買ったのじゃ?」

「これだよ」

 そう言って十手を出す。

 ズボンに差すのは座ったりするときに邪魔なのでだいぶ前からジャケットの内ポケットに穴を空けてそこにぶら下げるようにしていた。

「武器持っておったのか。気づかんかった……。これはまた変わっておるのう。こんな短い鉄棒じゃ殴ることにしか使えんの」

「剣を防いだり剣を折るとかねじ獲るのに使う。犯罪者を殺さずに捕まえるための俺の国の古流武具なんだ」

「犯罪者などぶっ殺すほうが後が面倒でなくてよいがの」

「なんだよその暴れん坊将軍……。とにかく人を殺すのはダメだ。和平和平」

「まあわしのとこでもぶっ殺すのは誰かを殺した奴だけじゃ。そうじゃのうぶん殴っても相手が死なずに追い払えるようなものはなにかないかの」


 武器屋のオヤジが腕を組んで考える。

「奥さんも相当使えると考えていいんだな? 武闘家が使うとなると……、これなんてどうだ」

 おっ。棍か。(かし)の木でできてる硬くて丈夫な木の棒だ。シンプルな分応用が広くリーチも長い万能武器だしいい選択だぞ武器屋。


 カーリンが渡してもらってひゅんひゅんと軽く振る。

「……ちょっと軽すぎるのう。もっと重くて頑丈なやつが欲しいの」

「……すげえな奥さん、じゃこれはどうだ。鉄芯入りだぜ」


 おーっ! いわゆる如意棒(にょいぼう)だね。西遊記で孫悟空が使う奴だ。ハガネの芯金を硬い樫で包んでタガをはめてある。日本人にもすっかりおなじみな武器だ。

「うん気に入った、これがよいの! これにするのじゃ」

 びゅううううううんっ。見えねえよ。扇風機みたいに回転させてぴたっと止める。

 堺正章の顎がはずれるわ。

「すげえな奥さん……。金貨1枚でいいぞ悪魔仮面」

「悪魔仮面って誰だよ」

「いやなんか魔族の残党狩りでな、勇者を邪魔して魔族を逃がした悪魔がいて勇者がぶちのめしたんだが惜しいところで逃げられたんだと。そいつが仮面つけてたから悪魔仮面らしい」


「……勇者マジ殺す」


 武器屋のオヤジが手を振って笑う。

「はっはっは、教会の話だ。マジに受け取るな。でも勇者と引き分けとか凄いじゃないか」

 このままじゃ俺の別名が「悪魔仮面」で定着しちまうよ。


「マサユキはその悪魔仮面になにか心当たりがあるのかの?」

「これだよ」


 そう言って、俺はバックパックから例のマスクを取り出して顔に当て後ろに縛った。

 カーリンはゲラゲラと大笑いだ。

 俺だって悪魔仮面なんてネーミングは願い下げだよ。

 せめて「仮面の悪魔」とかもうひとひねりしてほしかったわ。



「やっぱり肉は焼くに限るのうっ!」

「おう、コレのほうが断然旨いわ」

 二人で焼肉屋に入って素のステーキを注文した。付け合わせは温野菜だが、今はカーリンがこっそり持ち込んだ醤油ダレがある。店員の目を盗んで鉄板の上でジュージュー焼けた肉に振りかける。

「この焼いた鉄板の上に肉を載せて持ってくるのはいい考えじゃな! 冷めるのも遅いしアツアツをいただけるのがよいの」

「こんな恐ろしくマズい肉が、カーリンがちょっとなにかやってくれるだけで旨くなるよ。本当にありがたい……」

「ここまで全部マサユキに金を出してもらっとるからの。これぐらいはなんともないの」

「とりあえずワイバーンは明日だな。今日はこのまま街を見て回るか」

「それがよいのーーっ!」


 服屋に行ってカーリンの着替えを少し買う。下着とかパンツとか。

 カーリンの服は実用一点張りのハンター風で間違いなく魔族ぽい感じはしないのでまあだいたいこのままでいいのだが、スカート風キュロットが気に入ったようでそれも買ってやる。あと羽が出せるよう背中が大きく開いたタンクトップ。

 カーリンはノーブラなのがなかなかそそるのだが、それは脇の下が空いた魚釣り風の短いベストで隠れている。ノーブラなのはブラしてると羽が出せなくなるからだ。巨乳でなくてよかったよ。

 下着の素材が柔らかくきれいなのでこれには驚いたようだ。いや見せに来なくてもいいから。

 奥で着替えて、それまで着ていた下着類は風呂敷みたいなのにくるんで持ってきた。長い黒髪を首の後ろあたりできれいなリボンで結んで後ろに垂らしたら人間よりすこしとんがってる耳が出たのでやめさせた。

 リボン可愛かったのでこれはもったいなかったな。

 まあそのままでも見た目アラサーだがそれなりにかわいい。まさかこれが魔王とか魔族とか、誰も思わないだろう。

 羽さえ出さなきゃ。


「あれはなんじゃっ!」

「芝居小屋だよ。今人気らしいな」

「芝居か。魔族じゃ年に一度お祭りでやるぐらいじゃな……。年中やっとるとは人間は贅沢なものじゃのう」

「『美女と魔物』か」

「わしとマサユキじゃの」

「やかましいわ」


 せっかくなので二人で見ることにする。

 あ、カーリンの如意棒は収縮魔法の【コントラクション】をかけて今は30cmぐらいに小さくしてある。伸び縮み自在のまさに「如意棒」だな。

 今はカーリンの腰のバッグに横向きに差してある。

 引き抜いて片手でぐるんっと一回、回すと【コントラクション】が解除され元の長さに戻るように調整しておいたから俺がいないときや、いざという時も安心だ。


「(王もおらんのになんで王子なんじゃ。ここは王でいいじゃろの……)」(小声)

「(いや王子様のほうが女性客にウケがいいし……)」(小声)

「(領土も臣民もおらんのに城だけあるなんておかしいじゃろ!)」

「(そこ突っ込まないで)」

「(魔女も王子もセコいのう器が小さすぎるの)」

 カーリンのツッコミが的確すぎる。


「(……こやつらなんでいきなり歌いだしたり踊りだしたりするんじゃあ!)」

「(いやこれミュージカルだから)」

「(あれが美女ってちょっと納得いかんのう)」

「(歌も踊りもできてしかも美女ってそんなにいないからっそこは許してあげてっ)」

 こういうのはいろいろお約束があるからね。そこは割り切ろうよ。


 まあこういうのは見ていれば慣れるし受け入れられる。

 ストーリーが進むにつれて、カーリンが黙るようになる。

 もう真剣に見てる。

 笑ったり、ダンスの間他の客と一緒に音楽に合わせて手拍子打ったり、涙ぼろぼろ流したり。

 ああ、同じだ。魔族も人間も、同じことで感動できる。

 魔物と人間の美女が結ばれて、物語はハッピーエンド。

 幕が下りてカーテンコールがあり、カーリンも立ち上がって夢中で拍手してる。


「ふわぁ……」

 カーリン、顔をうっとりさせてもう暗くなった街をふわふわな感じで歩いている。

「歌も踊りも素晴らしかった……。特にあの音楽はすごかったの。あんなに大勢でいっぺんに演奏すると迫力がすごいのう……」

 生のオーケストラで観るミュージカルなど、俺の世界でも最高の贅沢だよ。

 俺の手を握ってリズムを取って歩く。ステップステップステップ。楽しそうだ。

「人間の芸術はすごいのう!! これだけはもう負けを認めるしかないのっ!」

 手をひいてカーリンをくるんと回して抱き止め、もう一度手を伸ばしてくるくる回す。

「文化だな。人間の一番すごいところだと俺は思う」

「あの劇団、魔王領にも来てほしいのう。あの演目なら、皆も楽しめるじゃろ」

「おう、和平がなったら劇団ごと招待しような」


 カーリンは手を放してくるくる回ってぴたっと止まってこっちを見る。

「だが、あのラストは変えさせてもらうがのっ! なんであそこで人間に戻るんじゃ! 魔物のままのほうがずっといい男だったじゃろが! だいなしじゃ!」

 ……あ、そこはやっぱり魔族なのね魔王様。


 勇者三郎も泊まってた一番いい宿を奮発する。人間領の最初の夜だしな。

「シングルの部屋を二つ」

「同室でよい」

「ん?」

「わしはつつつつ妻じゃ。めおとじゃ」

「それで?」

「断固同室を要求するっ!」

 顔真っ赤にして目つぶってぷるぷる震えながらカーリンが訴える。

「じゃ、スゥイートで」

 その様子があんまりにもかわいくて、金貨一枚を払って俺は笑いながらキーを受け取った。


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