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20.魔王様にお仕事を紹介しよう


 てくてく二人で歩いてゆくと、タリナスの城門が見えてきた。

 衛兵が入る人をチェックしているので列ができている。


「すごいのうー……。こんな壁を街にぐるりと囲んでおるのか」

「領主の城を中心に街全体を防衛しているんだ」

「ここまで麦畑しかなかったが、農民は守ってもらえないのかのう?」 

「まあ戦争になればここに逃げ込むんじゃないのかな」

「こんな壁で囲ってしまっては、街がこれ以上大きくなれんの」

「ん……言われてみれば確かに……。まあ増改築はできるかも」


 俺たちの番になり、ハンターカードを見せる。これがあればフリーパスだ。

 カーリンの分は入城税を衛兵に銀貨二枚払えば通してくれる。

 かなりドキドキしていたカーリンだったが、すんなり通れて驚いたようだ。


「警備ザルだのー!」

「魔王城なんか衛兵もいなかったじゃないか」

「こーんな立派な城壁を作っておいてこんなにかんたんに通れるのはわけがわからぬの」

「そりゃ敵兵や魔物が攻めてきたら見ればわかるしな。通るのは商人とか行商とかハンターだけだし俺たちみたいに手ぶら同然で荷物も無いと調べたりする必要も無いからな」

「大きい街じゃのー! 人もいっぱいじゃ……。石畳もできておる……」

「雨が降ってもぐしゃぐしゃにならないからな」

「あの建物はどうやって作ってるのじゃ? あんなにたくさんの四角い石をどうやってそろえるのじゃ」

「あれはレンガだよ。粘土を四角く作って焼いてブロックにし、積み重ねれば壁のできあがりさ」

「木造よりよいのかの?」

「レンガの建物は100年以上持つからな。屋根とか中の仕切りは木造だよ」

「粘土の家かの? なんで最初から粘土で作らん。あとで中と外でわらを燃やせば焼けるじゃろ」

「いやそれじゃ大きい建物は作れないだろ……。いいか、こういうのは『レンガ』というやつが規格通りの大きさしてるから大量に作れて大量に流通してだな……」


 もうカーリンは見るもの聞くものがすべて珍しい。これは魔族にもできそうだとかこんなものは無駄じゃとか批評に忙しい。ただ、全体として人間の多さ、その生産力にやはり圧倒されている感じである。


「腹が減ったの。ちと早いが昼飯にせんかの」

「カーリンが早くしろっつーから朝飯抜きで飛んできたもんなあ……」

「すまんの。この国の食べ物を食べてみたかったから腹を減らしておこうと思うての」

「……期待すんなよ」


 そうして、俺がまあマシだと思ってるレストランに入る。

 俺が適当に、まあ食えると思ってるものを注文した。


「食器が銅だの」

「そうなんだよー、陶器は高いしすぐ割れちゃうし庶民はこれだな」

「熱くて持てんの。口をくっつけることもできないのう」

「だからなんでもスプーンとフォークで食べる」

「肉でも野菜でも全部小麦と煮てあるのう……。他に料理のしようがあるだろうにの」

 そう言って野菜と肉のスープを食べてみる。


「塩味じゃの」

「塩味だね」

「なんの出汁も工夫もないの」

「ないね」

「人参とか玉葱とか、一緒に煮込めば甘味も出てマシになるのになぜそうせん」

「……そういうのが無いのかもな」

「腸詰はこちらにもあるのだのう……。煮てあるだけか。なぜ燻製にせん? 保存するために腸詰にするのにこれでは意味がなかろうに……。薬草とか入れれば香りも良いし、保存も利くのにもったいないのう」

 ブツブツ二人で文句を言いながら食べているので厨房からの視線がだんだん険しくなってくる。


「(……こんなものでよく金を取る気になるのう)」小声。

「(……パン食え。パンで腹を膨らませるんだ)」小声。


 店を出て、怒る。

「人間は何百年もなにをやっとったんじゃ! 食い物がまずくて誰が生きるために働こうと思うのじゃ! だいたい農民をなんだと思っとる。こんな小麦ばかり作らせてなんの工夫もせんとよういままでやってきたのう!」

 小麦は保存も利いて流通させやすくてなにしろ儲かるから領主が作らせたがるんだよな。戦略物資でありこの国の経済の中心だ。


「まてまてカーリン、これはチャンスなんだぞ」

「どういうことじゃ?」

「つまり、魔族にも人間に売れるものがあるってことだ。魔界のうまいもんをどんどんこいつらに売ってみろ。醤油や味噌や酢にみりんに砂糖、こっちの人間もうまいと思うはずだからちゃんと商売になるぞ」

「それはいいかもしれぬのう! ……しかし、売れるほど作るのも大変じゃの。わしら自分で食うだけしか作っておらぬからの」

「最初は少しでいいのさ。それで旨い料理が作れることを広めて、だんだん増やしていけばいいし」

「食い物を売って金が入れば、この国の物を買うこともできるようになるかのう」

「俺が見たところ紙とか鉛筆や漆器もこの国なら喜んで買うと思うぞ。そのために、まず和平だ! どうだ、やる気が出たか?」


 カーリンがにっこり笑う。

「おうっ出た出た。人間どもにこんなマズい物を食わしておくのは気の毒じゃ。わしがなんとかしてやるかのっ」

「おう、その意気だ」

「それはそうとわしはカネを持っておらん。お金は便利だから人間の真似をして魔族でも商人どもが使っていて手形とか証文と一緒に取引しておる。まだまだ流通量は少ないがな。これを増やしてゆくのも今後の課題じゃ」


 手形や証文が発達すると最終的には紙幣になる。

 印刷された紙一枚が金貨と同じ価値を持つようになるんだが、それをやるには信用が必要だ。

 国が、あるいは国営の中央銀行がその価値を保証する。そんな制度がまだないうちは、金貨みたいに貨幣そのものが価値を持つ形が長く続くことになる。この世界にはまだまだ早いな……。


「わしはこの国で金を稼ぐことが何かないかの? このままマサユキに奢っててもらうばかりというわけにもいかん」

 おうったいしたやる気だ。これは期待できるぞ。


「俺はこの国では一応ハンターということになっている」

「狩人かの?」

「それだけじゃなくて、依頼があれば何でもやる。食材の動植物の採取、危険な魔物や野生動物の駆除、旅人の護衛、危険な地帯の調査とか腕っぷしがいる仕事全般を引き受けてる職業だな。これは金さえ払えば誰でもなれるがそれで儲けるには実力が必要だ」

「おう、わしはいつも畑を荒らす魔物を退治しておったぞ。魔王の仕事の中で一番多い依頼がそれじゃ!わしにピッタリな仕事じゃな!」

「正直言うと俺たちみたいに身元が確かじゃない奴でもなれるのはこのハンターしかないんだよな……。それじゃ、異論もないということでカーリンにもハンターになってもらいましょうかね」


 そうして、二人でハンターギルドに向かう。

 いつも騒がしいハンターたちはもう仕事に行ってフロアは空いてるようだ。

「カーリンはここの字読めるか?」

「まあなんとかの。人間も魔族も元は古代文字じゃからかのう……共通しとるところが多いの。考えてみればわしとマサユキも普通に会話できとるのう」

 うんそこは異世界言語翻訳能力なのかもしれないので自信ありません。

 まあもしなんかあればカーリンは超ド田舎出身ってことにすれば訛りか方言で誤魔化せるだろう。


 ギルド受付のメアリさんの前に行って話す。

「すいませんギルド加入希望なんですけど」

「サトウさんじゃないですか!」

「先日はどうも」

「もうとっくにほかの街にいっちゃったのかと思ってましたよ」

「この人ギルド加入希望者です。カード作ってもらえませんか」

「えっ……ええ……。あの、で、ギルドマスターがお会いになります。二階行ってもらえませんか?」

 なんか厄介ごとな予感がする……。

 これは先にカーリンの手続きをしてしまったほうがいいかもしれない。


「その前にこちらの……」

「よろしくたのむの」カーリンがぺこりと頭を下げる。

「は……はい。ではご説明させていただきます」

 俺と同じ説明をされ、書類を渡されたカーリンがすらすらと書き込んでいく」

「登録料として金貨10枚をいただきます」

「はい」

 これは俺がポンと出す。金銭感覚のないカーリンはその恐ろしい大金にちょっと不思議そうな顔をする。

「(マサユキ、もしかしてこれけっこう大金なのではないのかの?)」

「(大丈夫、俺とカーリンなら一日で稼げる金だ)」

「(ホントかの?)」


 実は俺にはダイヤモンドを製造するという小技があるのだが、それをやるとカーリンに白い目で見られるのは間違いないのでやめておこうと思う。


「はい、カードです。ハンターギルドへようこそ。ご武運をお祈り申し上げます」

 カーリンはそれを受け取ってニコニコと嬉しそうだ。

「マサユキとおそろいじゃなっ!」

「よかったな。見せてみろ」

 やっぱりランク7級からだな。

 ……。

 ……。


 カーリンの両肩をつかんで前後左右にゆする。


「『サトウ・カーリン』ってなんだよ!」

「だ、だってこうすれば旅をするにも宿に泊まるにも面倒がないと思ったのじゃ! このほうがいろいろ便利じゃろうと思ったのじゃっ! このほうがこの先ぜ、ぜ、絶対に役に立つのじゃ!」

「『28歳』ってなんだよ!!」

「だってマサユキとあんまり離れていたらおかしいと思ったからじゃ! マサユキよりち、ちょっと若いぐらいでちょうどいいと思っただけじゃ!」

「ちょっとじゃねえよ! ずうずうしいにもほどがあるわっ!」


「あの、サトウさん?」

 

 やばいメアリさん青筋立ってる。そういえばメアリさんも一見アラサーでしたわ。

「ギルドマスターがお呼びです。二階へどうぞ」



 タリナス・ハンターギルド支部のギルドマスター、ジョーウェルがめっちゃ不機嫌そうに俺を見る。

「もうとっくに街を出て行ったと思ってたぞ」

 そしてカーリンをじろじろ見る。

「佐藤カーリンと申しますのじゃ。夫がいつもお世話になっておりますのじゃ」

 そう言ってぺこりと頭を下げる。夫ってなんだよ夫って。


「はあ……、お前どこまでハンター舐めてんだよ。ハンターってのはな、いつ死ぬかわらかんようなヤクザな稼業だぞ。女房持ちのハンターなんて聞いたことねえよ。そういうのはハンター引退するか仕事やらんでも遊んで暮らせるぐらい金を稼いでからするもんだ」

 あきれたようにカーリンに言う。

「奥さん、あんたな、こんないい歳になってから旦那がハンターやりたいなんて言い出したら普通止めるだろ! 未亡人になりたいか? ハンターと結婚したがる女なんて普通いねえよっ! 今までなにやってたか知らねえが登録料ポンと払えるぐらい稼いでいたならそっちの仕事のほうがいいじゃねえか。いまからでもまともな職についてもらうようこいつに言ってやれよ!」


「わしもハンターになったのでの。別に問題ないのう」そう言ってカードを見せる。

「『わし』だの『じゃの』だのどこのド田舎から来たんだよ……。世間知らずもいいとこだぜ奥さんよ。ハンター舐めんな!!」

 そう言って机をバンと叩いて立ち上がる。

 うわー怒ってるよ怒ってるよ。まあそりゃ心配して忠告してくれてるんだからありがたいけどさ。


「いろいろ言いたいことはあるが……実はアレから調べてみた。俺が自分でタラン高原まで馬で行ってきたわ。お前ホントにワイバーンの首ロープで絞めて捕まえたんだってな。農家のオヤジが見ていたし、獲物にも首を絞めた跡があったわ。まあ俺はそんなの今でも信じないけどな」


「おう、わしの夫は強いからの」

 カーリンがすっげードヤ顔でジョーウェルを見る。調子乗んな。


「例のワイバーンが討伐されたんで、縄張りが空いたんだな。別のワイバーンが入ってきてる。前より小さいらしいが今度は二匹だ。お前ホントにワイバーン倒せるなら行ってこい。そうしたら今度こそ認めてやるしランクもタダで上げてやる。報酬は2匹で前と同じ金貨30枚だ。領主がな、一人でワイバーン倒せるようなやつがいるならギルドに頼んでパーティ組んで倒させるより安上がりだって喜びやがってな。村で評判になってたからギルドも今更とぼけることもできん。まったくこっちには迷惑な話だ。全部お前のせいだからな!」


「マサユキ、まさか断らんじゃろな?」

 もうカーリンが目をキラキラさせて俺を見る。

「わかった、やる。やるよ」

「よしっわしの初仕事じゃ。マサユキは手出し無用じゃぞ。わしも自分の食い扶持は自分で稼ぎたいからの」


「ふっざけんなっ!!」

 ジョーウェルが絶叫する。


「奥さん、アンタどうやってあんなもん獲るつもりだ!」

「魔法ぶっつければチリも残ら……むぐぐぐっぐ」

 面倒なのでカーリンの口を塞ぐ。

「終わったら報告しろ。獲物の場所もだ! 窓口じゃねえぞこの部屋でだ。一人でワイバーン倒してきたなんて奴が窓口に来たら他のハンターが発狂するわ。今度こそ獲物はギルドが全部回収してギルドの儲けにする。こっちとしちゃそれでも今後のことを考えりゃ大損なんだからな。文句ないな!」

「はいそれでいいです」

「お前の実力が全部ウソで、できれば失敗してきてもらえれば俺としてはありがたい……。ワイバーン二匹がたった金貨30枚なんてギルドもハンターもやっていけなくなるわ……。行っていいぞ」


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