表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/41

14.魔法の練習をしてみよう


 壁から500km離れているタリナスに向かって俺は巡航速度時速100kmで飛んでいた。

 MP消費とMP回復が丁度釣り合う速度なのでこれならMP消費は無くいくらでも飛んでいられる。

(ぐふっぐふふふふふふ)

「気持ち悪いわエルテス」

(フラグが立ちましたねえ――!)


 ここまでの経緯を説明するとエルテスはそりゃあもう一部始終を全部俺から聞き出したのである。

 たぶん向こうで(計画通り)みたいな顔をしてるに違いない。

「なにがフラグだ。100歳超えてるばーちゃんだよカーリン」

(おおーうもう呼び捨てですかぁ?)

 お前それが目的で俺選んだんじゃないだろうな。確かに俺好みのいい女だったけどよ。

 

「ラノベ風のハッピーエンドだと魔王、女だし一瞬勇者と魔王のカップリングとか最近の流行りでアリかと思ったけど、今のあのチャラい勇者とあの魔王じゃ絶対なさそうだな」

(まあそうでしょうねえ)

 高校生の勇者からみればカーリン、オバサンだし巨乳じゃないし、カーリンもあんな生意気なガキ見たとたんに消し炭にしちゃうのは間違いないな……。

 それで俺か、若い奴じゃなくておっさんな俺なわけか。


「魔族の話聞けたけどな、エルテスの最初の説明とだいぶ違うんじゃねーか?」

(そうですか?)

「人間も魔族を攻めてるけど、魔族側も人間を攻めたりしてるんじゃなかったのかよ」

(大昔は本当にそんな感じでした。100年ぐらい前にも魔王に滅ぼされて今は廃墟になってる人間の都市とかありますよ)

「今の魔王も先代の魔王もいい人そうだったけど」

(先代の魔王は例の頭にきて人間の都市一つ壊滅させた魔王です。その報復に魔王が勇者に倒されて、それっきり人間側の侵略はぱったり止まっていたんですけど今回ひさびさに勇者召喚に成功したあのパスティール教会がちょっとハイになってるってところですねえ)

 あの勇者じゃあな。あんなのに頼っていいのか教会。


「先代と戦った勇者はどうなったんだ? 魔王倒したんだからそのまま侵攻しなかったのか?」

(先代魔王倒したその場で魔王の娘さんにチリ一つ残らず燃やされましたよ)

「カーリンつええ……」

(100年も戦争が無いと魔王軍もちょっと平和ボケしましたかね。今の魔王の統治がいいだけにちょっと人間側優勢かもしれませんね)

「その点は心配ないな。三郎くんとカーリンと両方と会ってみた感じでは三郎くん、カーリン相手に5秒持たねえよ」

(アハハハハハハハッ、そうでしたかアハハハハッ、ハハハハ、おなか痛い……)

「もしかしてエルテス、三郎嫌い?」

(チャラすぎて寒気がしますわ。ナルシストもだいぶ入ってますし)

 女神に嫌われてる勇者とか浮かばれなさすぎ。


(パーティー見ましたぁ? キレイどころの巨乳女子ばっかり集めてハーレム作ってキモいったらありゃあしませんよ)

「まあその通りだ。若いんだからしょうがないが俺みたいにフツーが一番となるにはそれなりに失敗経験が必要だろうさ」

(そこ詳しく)

「やかましいわ」


 タリナスの街から外れたところに着地する。

 まっ昼間に空を飛んでいるところを誰かに見られたら大騒ぎになる。

 青いスーツに赤いマントとかのインパクトのあるコスチュームとか着てない俺は、素で飛んでしまうとあとで誤魔化しようがない。それじゃタリナスの町にいられなくなってしまう。

 場所は前にダイヤモンドを作った岩場地帯だ。ここなら誰にも遠慮なく魔法を使うことができる。


 考えてみると俺はここに来てから攻撃魔法というやつを一度も使ったことが無い。

 木炭を圧縮してダイヤを作った【コンプレッション】を人間に使うとえらいことになりそうだとか、死体を処分するときは便利そうだとか怖い考えもちょっと浮かぶのだが、攻撃魔法としては使いにくい。

 あの「魔王ファイアボール」カッコよかったのでちょっと真似してみたいというのもある。

「わしより強い」とカーリンに言われた手前あれより強力な魔法は出せるようにしておかないとあとで恥をかくこともあるかもしれないし。


 まず【ファイアボール】。これぐらいは無詠唱で出しておけるようにしておけば咄嗟に便利だろう。

【ファイアボール】と念じて下手投げの小さいモーションでひゅっと手を振ると狙ったところで火球がボンッと爆発する。


 不思議だ……。火球が手にできて飛んでいくのとは違う。

 狙ったところで爆発が起きるのだ。思っていたのと違う。でもこれなら相手は避けられないから普通の魔法使いが使うファイアボールよりかなり有利だろう。

 威力はまあ人間に当たったら弱い奴ならそれだけで気を失いそうな感じだ。

 火が出るのではなく爆発なので当たっても燃えたりしない。対人用にピッタリだ。


「【キロファイアボール】っ」

 どこーん! うんこれは手榴弾ぐらいかな。数人まとめて吹っ飛ばせそうだ。


「【メガファイアボール】っ」

 どっかーん!!

 おうっ。これぐらいから対物用というか戦車もぶっ飛ばせそうな威力になる。

 軍事的にはこちらが有効だろう。


 これぐらいまでのMP消費は微々たるものだ。パラメーターはいじれるのだが名前のついている魔法についてはあらかじめ使いやすい出力に調整済みということか。

 さてそれでは……十分距離を取ってと。

「【ギガファイアボール】っ」

 おうっこのあたりから溜めが必要だぞ。頭の上になんか水蒸気の塊みたいな白いボールができて、それを触らずに投げつける感じになる。

 火の玉じゃないのがちょっと不思議だ。

 どぐぅわああああんんん!!!!!!

 うおおお「魔王ファイアボール」出た!!

 岩、木っ端みじんだよクレーターできたよ!


 俺にもできたな! これでカーリンと並んだ感じだ。

 これ以上のやつはあるんだけど必要ないだろう。っていうか使ってみるのが怖い。

 ここで使ったらキノコ雲が上がってタリナスから警備兵が飛んでくるわ。


「エルテスさあ……」

(はい?)

「前から思ってたんだけど、俺の使う魔法って、この世界で言う魔法となんか根本的に違うだろ」

(はいっ! 佐藤さんなら絶対それ気づくって思ってました!)

「だよなぁ絶対おかしいと思ってたんだよな。物理パラメーター好きなようにいじれるっておかしいだろ」

(この世界の魔法という奴はですねえ、いわゆる超能力なんです。物理と関係ありません)

「ほう」

(つまり精神エネルギーなんですよ。自分の体力、精神力をエネルギーにしています)

「つまり使うとおなかが減ると。エネルギー保存の法則にちゃんと合っていると」

(そうです。だから魔法使いは人間が出せるパワーを魔法に変換しています)

 うんつまりそれかめはめ波だよねわかります。


 人間のエネルギーでも人を簡単に殺すことはできる。

 たとえば人間ってのは殴っても死なないけど、ハンマーで殴ったり包丁で刺したりすると使ってる体力は同じでも格段に威力が上がる。

 魔法を使うっていうのはその延長線上にあるわけだ。パワーの源は人間の力だが武器や使い方で威力が何十倍にもなる。


「じゃあ魔王様が使ってた『魔王ファイアボール』とかはなんなの? 魔王様めっちゃ食うの?」

(魔王クラスになると使っているのは自然エネルギーです。周りから自然エネルギーを少しずつ集めて放出することができるんです。魔法陣はエネルギーを集めるためのものですからね)

 元気玉ですか! やっぱりあれ元気玉だったんですね! 魔王様が実は界王様だったなんて衝撃の事実です!


「俺の魔法はみんなが魔力を感じないって言うんだけど、俺の魔法ってのはなんなの?」

(核力です)

「は?」

(核力です。いわゆる核エネルギーですね)

「はあああああ?!」

 斜め上すぎるわその事実!


(つまりファイアボールとかだとですね、空気中の水分子を水素と酸素に分離してそこから含まれる水素を核融合してヘリウムになる過程で消費される質量を熱エネルギーにしています)


「待てよ――――――――!」

(はい)

 荒野に俺の絶叫が響き渡る。


「それって水爆だよね水素爆弾だよね――――!」

(はい)

「なんちゅうものを使わせるんですか女神様――――!」

(……佐藤さんて核エネルギー反対派ですか?)

「いやそんなことはないよ俺はエンジニアだから有効利用できるエネルギーはなんでも利用すればいいって合理主義者ですから原発に反対したりはしませんよですけどね」

(それはよかった)

「そこらでぽんぽん核融合とかしてたら放射線とか放射性物質が拡散したりとかとんでもないことになるでしょうがぁあああ!」

(そこを『放射能』と言わないところはさすが理系ですねえ。ちゃんと放射線も放射性物質も全部熱エネルギーに変換されますから安全性は私が保証しますよ! 体に優しいクリーンエネルギーですから!)

「いや攻撃魔法が体に優しいとかないから」

(まあこの際です。極小範囲で微エネルギーだけ取り出す核融合炉を簡易的に作り出しているだけですし、使っている水素も微量ですから空気が乾燥していても大丈夫ですし、固いこと無しで)

 それであの威力ですかそうですか。


 いやあこれ(おおやけ)になったらものすごい反対運動が起きそうなんですけど。核拡散防止条約違反で国連で制裁措置が俺に科せられてしまいそうなんですけど。特にあの大量破壊兵器にうるさい常任理事国が黙ってないと思うんですけど。IAEAが査察に来たらどうすんですか国連軍が俺に攻めてきたらどうすんですか。


(物理法則を自由にいじれる、世界を管理する女神の特権みたいなものですね。女神魔法といいますか、物理魔法という新ジャンルというか、とにかく佐藤さんはその使い手ということで)

 なあ、そこにロマンはあるのかいエルテス様……。


「じゃあ俺が消費しているMPって?」

(発動とコントロールに使ってるだけで魔法で使ういわゆるマジックポイントとは違う物です)

 はあ、俺が使っている魔法はつまり全部魔法じゃなかったと。

 あんなすごいスピードでMPが回復するのはそのせいでしたと、はいなんか納得です。


「それはそうと、そうすると俺の魔法は他の魔法使いとかには絶対に真似できない?」

(当然そうなります)

「俺がかけた壁とかも、魔法では解けないと」

(魔法では無理ですね。物理魔法ですから物理的には破壊できます)

「どうやんの?」

(電子が分離してプラズマになるまで温度上げるとか荷電粒子をぶつけて核を破壊するとか?)

 あっそりゃ無理だわ無理無理この世界の科学力じゃ絶対無理。ヤシマ作戦でもやらんかぎり突破できんということですね。


 それから俺はメニューにある役に立ちそうな魔法をせっせと使ってみて、それぞれの効果、威力などをテストしまくったのであった。

 岩場が更地になりそうな勢いなんですけど反省が必要でしょうか。

 あとでガンにかかったり髪の毛が抜けてハゲになったらエルテスさんは責任とってくれるんでしょうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ