13.壁を見に行こう
「……おぬし、わしの側近にならんかの?」
キター! 器でけえ。さすが魔王様、言うと思ったわ。
二人並んで飛んでいく。まあゆっくりランデブーという感じでそれほど速いスピードじゃない。
「四天王でもいい。三食飯つけて屋敷をやるしエロエロなサキュバスのメイドも付けるがどうだの?」
なにそれちょっと心動いちゃう。
「っていうかそれ五天王になっちゃいますよね」
「かまわぬ。今だって5人おるしの。もともと5人いようが6人いようが四天王は四天王じゃ」
いろいろと問題あると思うんですけどいいんですかねそれで。
「人間が魔王の側近ってちょっと」
「魔族は変わり者が多いし、面白い奴が大好きじゃ。案外文句でないと思うぞ」
「そういうことではなくてですね」
「うーむ、魔族ならよろこんでコケる条件だがの。特にエロエロなメイドは見逃せぬ案件じゃ。絶倫な主人を世話してやるとサキュバスも悦んでわしの株もあがるがの」
「やめてください俺の中の魔王様の株が暴落してしまいます」
「おぬし、もうすでに雇い主がおるんじゃな?」
鋭い。伊達に魔王はやってない。
「まあそうです。雇われているわけじゃなくて、戦争をやめさせるように頼まれているわけですが」
「だがその方法をわしと一緒に考えることはできる。今後いかなる場合でもわしと話をすることを許す。わしのことを好きなだけ利用してもらって構わんぞ」
「そんな、魔王様を利用するなんて」
「魔王はご利用していただくためにある。わしは臣民の奴隷じゃ。なにも遠慮はいらぬ」
やべえ涙でそう。
俺の中のメインヒロイン来たかもしんない。
「このへんです。ぶつかると痛いんで降りましょう」
ゆっくりと降りてゆく。
「壁などどこにもないぞ」
「そのまま前に歩いていくと見えない壁みたいなものがあるんですよ」
ごつっ!
あ、しまった魔王様ぶつかっちゃった。
「……つー……」
うん魔王としての威厳と戦っているんだねわかります。
ぺた、ぺたぺたぺた。壁に触ってるよ。
「この壁はどこまであるんじゃ?」
「上は飛んでいけないぐらい高く、横は何日かかるかわからないぐらいあります」
「面妖な……魔力を全く感じぬところが不思議だの。ちょっと離れておれ」
たったったったった。
「その倍ぐらいじゃー!」
たったったったったったったった。
「いくぞおー……んぐぐぐぐぐ――……魔王パーンチ!」
どぐわぁああああんんん!
うおっ、壁に虹の歪み出た!
ニュートンリングだよ。平面がゆがむときに光の干渉で虹の輪ができるやつ。
すげえ、これを歪ませたのか。勇者よりつええんじゃねえか?
「魔王キーック!」
轟音すげえ。虹色がぐらんぐらん揺れている。
これもう完全に勇者より強いわ。三郎くんご愁傷様。骨はどっかに投げ捨ててやるよ。
魔王こっち向かって走って来た。
「伏せておれ。んーんんーむーむーむーふんっふんっ――――っ魔王ファイアボール!」
微妙に無詠唱になりきれていませんけどうぉおおおおおお!! 魔法陣! 魔法陣出た!
ホントにあるんだ!
すげえ本物のファンタジーだっ! か……かっこえええええええ!!
でもそれなんですか元気玉ですか白色彗星ですかそれ撃つんですか放射線とか出ませんかそれ。
どごおおおおおおんんん!!
もう爆風すげえ。
あのキノコ雲はなんなんですか魔王様あのクレーターはどういうことですか。
三郎くんの秒殺が決定したな。骨も残らねえ。
「うーん……。下の土まで固まってるとは……。穴掘ってくぐることもできんのう。これだけやってもびくともしないとは神が造ったと言われても信じてしまうのう」
ひゃーとんでもないわ。魔法ってすげえんだな。人間の連合軍が使ってた魔法とケタが違うわ。
俺のメニューの下にある魔法とかもしかしてこれぐらい威力あるのかも。
怖い。やりたくねえ。
「勇者も魔王も遮る壁か……。確かにこれがあれば戦争は止められるがのう……」
「和平も友好もできないと……」
そう、これは時間稼ぎにしかならないのだ。
「おぬし、どうやって帰るんじゃ? これではおぬしも戻れぬの。魔王城に来ぬか?」
「あ、俺は通れるんで」
手を壁にあててぐっと力をいれると、ぐぬぬぬぬーっと手が刺さっていって、俺は壁の向こうに抜け出した。
「おいっおいおい! 待て待て待て! このまま行ってしまう気かのっ!」
魔王様が壁を両手でばんばんたたいて焦り出す。かわいい。
「俺がいれば魔王様も抜けられますよ。手をとって」
俺が壁に手を通して手のひらを出すと、魔王様はそれをちょっとためらいがちに握る。
「いいですかー、手離さないでよー」
魔王様の手を引っ張ってこっちに連れてくる。
顔がラップに張り付けたみたいに引き延ばされて思わず吹き出す。
「ぷはぁっ……」
振り向いて壁を触る。ちゃんとそこに壁がある。
「……今ならわしをさらって逃げることもできるのう」
「おたわむれを」
「おぬし、わしより強いじゃろ。隠すな」
「またまたぁ……さっきのアレ見てそんなこととても言えませんて」
「だっておぬし、今まで一度もわしを怖がったりしておらんではないかの」
「そりゃ魔王様今まで一度も俺を殺そうとしてないですし」
「わしではお前を殺せんの。こんな壁作れるやつをどうやったら殺せるんじゃ?」
バレバレか。
「おぬしはこちらに一人で来た。今みたいに二人で通れるかどうかはやってみたこともないはずじゃ。でもできることを知っていた。だからこれはおぬしが作った壁じゃ」
「借り物の力です」
「おぬしの雇い主のかの? おぬしの雇い主はもしかしたら神なのかもしれないの」
魔王様が俺を見てさみしげに笑う。
「わしは戻らねばならぬ」
「はい。じゃ手をどうぞ」
魔王様の手を取ってもう一度二人で魔王領側に抜ける。
「名前を聞いておらなんだの」
「佐藤雅之です」
「わしの名前を憶えておるかの?」
「魔王カーリン様です」
「次からわしと話すときはカーリンと呼べ。わしもサトウと呼ぶからの」
「マサユキのほうが名前です」
「敬語もやめてくれるとよいのう。もうおぬしはわしの友じゃからの」
「わかった。カーリン、なにか思いついたら今度は報告に来るよ」
「わしからは連絡できぬからのう……」
「この壁は時間稼ぎだ。実はあと10日ぐらいで消えちゃうよ」
「そうなのかのっ!」
「必要があったら張りなおすけど、それまでにもうちょっと色々調べたりやったりすることがある」
「わしもそれちょっとやってみたいのう。面白そうじゃ」
「魔王がこっちきたら大騒ぎになるわ。軍隊動くって!」
「それぐらいはうまくやるがのう……」
「……」
「必ず報告に来るのだぞ。マサユキ。武運を祈っておるぞ」
「了解」
そういって俺は壁を抜け、【フライト】で空に飛びあがった。
振り向くとカーリンは手を大きく振っていた。
うんかわいいよカーリン見た目アラサーだけど。
カーリンかわいいよ100歳超えてるけど。
大事なことなので2回言いました。
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