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血濡れた恋 番外編  作者: つよちー
2/4

Another story 前編

【注意】

本編を読んでいない方はそちらからお読み下さい。

この小説には暴力的な描写があります。


本編に登場したグレイドとアイリスの逃避行を描いていきます。

静寂に包まれた部屋でただ孤独に白く輝くナイフを眺めていた。これで今まで何人の人間の命を奪ってきただろうか。目を閉じれば脳裏に浮かぶ、俺に殺された奴らの顔が。それは全て恐怖に歪んだ顔だった。命の尊さなど分からなくなる程の沢山の人間を殺した。扉がノックされ開く。

「グレイド、仕事だ」

ナイフを鞘に納め立ち上がり部屋を出て仕事へ向かった。クライアントの依頼はある一家を皆殺しにして欲しいとのことだ。その一家は父親、母親、息子の三人家族だそうだ。俺は頷きその依頼を受けた。その一家の家へ向かう。冷えた空気が包む街はとても静かだった。息を吐けば白くなる。その一家の家に着いた。周りを見渡し人がいないのを確認する。ベルを鳴らしナイフを鞘から抜く。しばらくすると扉がゆっくりと開いた。俺は中に押し入り扉を無理矢理開いた。そして扉を開けた母親と思わしき女の首にナイフを突き刺し横に掻っ切った。女は何が起こったか分からないままに首から血を流してその場に倒れた。あとは父親と息子だけだ。部屋を探し回ったが、一階には誰も居なかった。あとは二階か。階段を足音を消すことなど全くせず上がっていく。階段の突き当たりに扉があり、俺はその扉を開けた。部屋の奥に男がいた。こいつが父親か。男は驚き後ろに下がる。俺はゆっくりその男に近付く。男は打つ手立てがないのかその場で右往左往している。そして窓を開けて飛び出そうとした。俺はすぐさま男の服を掴んで後ろに引っ張った。男は怯えたように叫び、そこに容赦無く首にナイフを突き刺す。血が溢れて床に血溜まりとなって広がる。ナイフに付いた血が滴り落ちる。後ろで物音がした。振り返ると男がいた。俺はそいつが逃げる前に即座に首を掴み締めた。男は必死に抵抗したが何も出来ずそのまま気を失った。首から手を離すと男はその場に崩れ落ちる。首にナイフを刺して死んだのを確認した。これで仕事は完了だ。家を出ようと階段の方へ歩こうとしたら廊下から一人の女がこっちを覗き込んでいた。この家には三人しか居なかった筈だがと少し疑問に思ったが目撃者は殺すというルールに従い俺に襲いかかった。床に倒して上に覆い被さるように乗り首にナイフを突き立てる。女は少し驚いたが何故か笑った。

「ありがとう....」

彼女が何故礼を言ったのか理解出来なかった。俺は石になったかのように固まった。女に突き立てていたナイフの血がぽとっと彼女の首に落ちた。ハッと俺は我に帰り女から離れた。女は不思議そうに俺を見つめて悲しそうに俯いた。俺はその場から逃げるように家を出た。一体何なんだあいつは。あの言葉を聞くまで俺は人間は皆死を恐れていると思っていた。でも、あの女は死を目の前にして怯えず、むしろ嬉しそうだった。俺はそれをずっと疑問に思いながらアジトに戻り仕事は終えたと報告した。あの女のことは伝えなかった。血のついたナイフを洗い流し待機するための部屋に入った。俺はずっとあの女のことを考えていた。俺は今まで、人は皆死を恐れていると思っていた。しかし彼女はそうじゃなかった。彼女は死を望んだ。何故死を望んだのか俺には理解できなかった。静寂に包まれた部屋で茫然とそのことをずっと考えていたが、結局何も分からないままだった。部屋の扉が開かれ、再び俺は仕事を頼まれた。


数日後、殺しの仕事を続けいつの間にかあの女のことは忘れていた。仕事を終え家へ帰り扉の鍵を閉める。狭い部屋の殆どを埋め尽くしているベットに寝転ぶ。明日も人を殺すのか。そう考え寝返りをうつと目の前にある壁に小さな蜘蛛がいた。俺はそれをそっと指に乗せて眺める。ベットから立ち上がり窓を開けて外にその蜘蛛を放った。そのときにふと思った。こんな小さな命を助けるのにどうして人間は容易く殺すのだろうかと。すると玄関がゆっくりとノックされた。こんな時間に何だろうと少し警戒心抱きながらそっと鍵を外し扉を開けた。そこに居たのはあのとき殺せなかった女だった。俺は彼女がこの家を訪ねたことに驚いて言葉が出なかった。彼女を凝視しているとあることに気付く。服が薄着一枚だけのことに。そして長い髪もボサボサだった。俺は彼女の肩を掴んで中に入れた。そしてベットに座らせて毛布を被せた。彼女は不思議そうに俺を見つめていた。俺はそれからそっと目を逸らした。ベット以外に座る場所はないかと右往左往していたが無かったので仕方なく躊躇いがちに彼女の隣に座った。息を吐くと白くなるくらい寒い部屋には静寂しかなく、彼女と俺の吐息しか聞こえなかった。俺は戸惑いながらも彼女に話しかけた。

「一体何をしに来たんだ....?」

そう言うと彼女はゆっくりと俺の方を向いた。月明かりに仄かに照らされた彼女の素顔は綺麗に見えた。

「どうして私を殺さなかったの?」

俺は俯いた。彼女がそれを聞くためにここに来たのか。そんなことのために。普通なら自分が何故殺されなかったのかなど知りたくもないだろう。だが彼女はそれを知ろうとここまでやって来た。だが俺にはきっと彼女が求めている答えは言えないだろう。

「そんなこと....俺にもわからねえよ」

そう答えると彼女は俺から顔を逸らし俯いた。その姿は何とも悲しい感情に包まれていた。俺はこの気まずい空気を変えたく立ち上がった。そしてグラスを手に取り飲み物を入れ彼女に渡した。彼女はそれをそっと受け取ると突然泣き始めた。俺はどう対応するべきか分からず戸惑った。少し控え目に彼女の背中を摩る。それでも彼女は泣き止まずにずっと泣いていた。俺は背中を摩る事しか出来ず、彼女が泣き止むまでずっとそれを繰り返していた。彼女が落ち着くと俺は彼女の背中からそっと手を離した。

「落ち着いたか....?」

そう聞くと彼女は小さく頷いた。そして手に持った飲み物を一口飲んだ。俯く彼女の表情はボサボサの長い髪で隠れていて読み取れなかった。

「とりあえずさ、名前教えてくれよ」

彼女はすぐには答えなかった。人の名前を聞くときはまずは名乗ってからだな。

「俺はグレイドって言うんだ」

名前を彼女に教えると彼女は俯いたまま

「アイリス....」

と枯れた声で名乗った。

「アイリスか....いい名前だな」

心にもないことを言ったが彼女は一切反応を示さなかった。無反応な彼女に困りながらも俺は必死に彼女に話しかけた。歳はいくつだ。家はどこだ。好きなものはなんだとくだらないことを聞くが彼女はどれにも答えなかった。一体何なのだろうか。彼女を追い出そうと立ち上がり腕を掴んだ瞬間、彼女は酷く拒絶をした。そこで俺は何かに勘付き、彼女を押し倒した。

「えっ....いやっ」

彼女は抵抗し俺から逃れようとする。俺は彼女を抑えつけ服を捲った。露わになった肌には無数の痣があった。やっぱりな。きっと彼女は俺が殺した一家から暴力を振るわれていたのだろう。そう思うとあの一家がとても憎らしく思えた。彼女はすっかり抵抗しなくなり、小さく泣いていた。俺は彼女の服を直しそっと離れた。彼女は少し警戒しながらも不思議なものを見るような目で俺を見ていた。

「手荒な真似して悪いな」

彼女は体を起こし、少しはだけた服を直して毛布を体を隠すように身に纏った。

「襲われるのかと思った....」

「俺が発情した猿にでも見えるか?」

笑いながらそう言うと彼女は苦い顔をした。俺は少し苦笑いをしながら

「冗談だよ」

と言った。それでも彼女は表情を変えない。居心地が悪くなり俺はベットに座り直した。時計に目をやるともう日にちが変わっていた。部屋もすっかり冷えて息を吐くと白くなった。

「寒いな....」

ふとそう呟くとそっと何かに覆われた。彼女が被っていた毛布だ。

「おい、俺よりもお前の方が寒いだろ」

「別に大丈夫。私は慣れてるから」

そんなこと言っておきながらも彼女は小さく体を震わせていた。俺は毛布を彼女に被せ返した。

「強がってんじゃねえよ。お前は女なんだから、無理すんな」

彼女は毛布を少し撫でて顔を赤らめて顔を逸らした。

「初めてだよ。私を女として見てくれたの」

「そうか....」

少し悲しみが混じった彼女の声は救いを求めるような重みがあった。残念だが、俺は手助けをするだけで手を差し伸べることはない。そう思い俺は壁にもたれかかって目を閉じた。横で布が擦れる音がする。片目を開けて横を見ると彼女が横になっていた。こういうところは素直なんだな。寒さに寝付けずひたすら目を閉じていると彼女の安らかな寝息が聞こえてきた。こうして普通に眠るということはここは彼女にとって安心できる場所になっていることなのだろうか。俺にとってはただの睡眠と食事を取るためだけの場所だ。安心も不安も何もない。


翌朝、目が覚めると隣には毛布だけが置いてありアイリスは居なかった。俺は慌てて毛布を手に取り家を飛び出した。周辺を探し回り近くの路地裏で彼女を見つけた。その瞬間俺は安心した。自分でも何故そんな感情抱いたのか分からないが気に留めず、座り込んで俯いた彼女の側に寄り毛布を被せた。

「こんなとこで何してんだよ、戻るぞ」

そう言っても彼女は俯いたままだった。俺は彼女の腕を掴んで立ち上がらせようとしたが彼女はそれを振り解いた。俺は溜息を吐いて彼女の隣に座った。

「何してるの....?」

「お前の真似」

「意味わかんない....どうして私と関わろうとするの?」

「なんとなくだ」

そう言うと彼女は驚いたように俺を見つめた。そしてまた俯いた。

「戻る気になったか?」

すぐには答えなかったが彼女はしばらくすると立ち上がった。俺も立ち上がり彼女に手を差し伸べた。彼女はそっと手を乗せ俺はその手を掴み路地裏を出た。家に戻るまでの間、俺は彼女と一言も会話を交わさなかった。家に着いた途端、俺は彼女をベットに座らせ俺も隣に座った。

「いつ抜け出したんだ?」

そう聞くと彼女は叱られている子供のように小さくなって答えた。

「貴方が眠ったすぐ後」

「理由は?」

「貴方が怖いから。あのとき、服を脱がそうとしてきたし」

「誤解されるのは仕方ないが、あれはお前の体に痣とか傷があるかどうか確かめただけだ。お前を襲おうとしたわけじゃない」

「本当に....?」

「本当だ」

そう言っても彼女は俺を信じ切れないような目で見ていた。そこで俺は彼女が今までどれだけ辛い目に遭ってきたかを察した。俺は彼女の肩にそっと手を乗せた。

「お前がどれだけ酷い目に遭わされたかは大体想像できる。だからお前が人間不信になるのも仕方がない。でもよ、世の中誰しもお前が想像してるような酷い奴ばっかりじゃねえんだ。まあ殺し屋の俺が言うのも癪に障るけどな」

彼女の肩に乗せた手を下ろし、少し乱れた毛布を綺麗に直した。

「お前は、本当に死んでもいいって思ってるのか?」

そう訊くと、彼女は悲しい表情で俺を見つめた。

「死ぬよりも辛いことされたんだよ。死にたいに決まってるじゃん....」

俺をじっと見る目は救いを求めていた。だが、それは死による救いではないと一目で分かった。その顔は、俺が今まで殺してきた人間が死ぬ直前に見せた表情と同じだ。死を恐れた顔だ。

「嘘をつくな。お前は死にたいなんてちっとも思ってない。死ぬよりも辛い目に遭ってもお前は生き続けたいと思っている」

「違う....私は....生きたいなんて....」

混乱する彼女を俺は堪え切れずに抱き締めた。

「自分に正直になれよ。偽り続けたって良いことなんか一つもない」

そう言うと彼女は小さく泣き出しやがて子供のように泣き叫んだ。

「死にたくないっ....死にたくないよぉ」

嗚咽しながらそう叫ぶ彼女の頭を撫でて泣き止むまでずっと抱き締めた。俺の背中に手を回し強く抱き締める彼女を優しく慰める。彼女の体は小さくてとても弱々しく感じた。しばらくすると、彼女は泣き止み落ち着いた。そっと彼女を離すと彼女は涙で濡れた顔で俺を見つめて首を振り俺を離さなかった。俺から離れたくないのか。俺は彼女に優しく微笑み頭を撫でた。すると彼女は俺に体を委ねた。しばらく彼女に抱き締められたまま俺は茫然としていた。そして彼女はゆっくり俺から離れた。俺は立ち上がり彼女の頭を撫でて仕事へ向かった。道中ずっと彼女のことを考えていた。彼女のあの不安に駆られた表情。俺から離れたくないと訴えるような表情だった。鞘に収めたナイフがいつもより重たく感じる。仕事場に着き待機する部屋でしばらく待っていると名前を呼び出された。そしていつも通り依頼を受け殺しに行った。標的は父親と母親、そして息子の三人家族だそうだ。何故彼らが標的になるのかは知らされていない。これまでもそうだった。標的がいる家に着き俺はいつも通り周りに人がいないか確認する。そしてベルを鳴らす。中から足音が聞こえてくる。やがてそれが扉の目の前で止まる。扉の鍵が外され開かれる。俺は無理矢理それを押し開けて扉を開けた人間を殺した。父親だった。そしてそのまま中に入り首に刺さったナイフを抜いた。廊下をしばらく歩くとキッチンが見えた。そしてそこで母親が料理をしていた。俺はゆっくり近付き、気配に気付き俺の方を見た女の首にナイフを突き刺した。女は叫ぼうとしていたが血が口から溢れてボコボコと音を鳴らしただけだった。そして動かなくなり女は死んだ。あとは息子だけだ。何処にいるのか探そうとした瞬間、廊下の方から叫び声が聞こえた。急いで廊下に行くと、小さな子供が父親の死体に必死に問いかけていた。

「パパ!パパぁ!」

俺はそっと近付き父親の死体に縋る子供にナイフを突き立てた。その瞬間、俺の頭の中で何かが弾けた。ナイフを持つ手が震え出した。今日まで幸せだった家族を何の感情も抱かず無慈悲に殺す自分に恐怖した。俺は怖くなってナイフを投げ捨てた。ナイフが床に落ちる音で子供は顔を上げ俺に気付いた。俺は慌てて家を飛び出して逃げるように自分の家に向かった。

前編と後編に分けさせて頂きました。本編でも簡潔に言っていましたが、グレイドとアイリスはこうして出会ったのです。

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