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決戦への準備 その8

シミュレートをするというのは、なかなかに難しいものです。特に、百年単位ともなれば、かなり厳しい状況になってしまうように思います。また、南蛮との関わりは、あまり良い結果を生み出す予定とはしていません。

 今回のイベントは、史実の永禄三年、宣教師による足利義輝との謁見がひとつのカギとなります。

静寂の中に、冷たい冷気が流れ込むように、平伏する二人を迎える。

「ふぅん。(つま)の留守に、愛妾と旅行かい。(こもる)

冷却された世界が、さらに冷え込んでいく。

「それは・・・申し訳ありません。ただ、ぼくは、(ゆう)姫のために、何ができるかがわかりません」

「だから、旅をするのかい」

「ぼくは、何も知らず、この地に来ました」

「神隠しの件は聞いてるよ」

「この地は、ぼくがいたところとかなり違います」

「違いを知りたいってことかい」

「はい。それに、少し急いでもいます」

「何があるんだい」

「南蛮です」

「南蛮?」

「南蛮は、実際には遥か西方の国々で、デウスという神一人を信じる教えです」

「南蛮人は、天主教という教えの教主に従っています」

「その天主教が問題になるのかい」

「天主教の教主は、異教徒を奴隷にする権限を国の王に与えています。この国でもそれは同じようです」

「由布院の拉致のことかい」

「えぇ、南蛮貿易は儲かります。だから、奴隷として売買する大名もでてくるんじゃないかと思います」

「それを止めるってことかい」

「彼の国も同じですが、南蛮の国々にしても、あやかし(ひとならざるもの)を認めていないと思います。少なくとも、わたしの知る南蛮の国々は、あやかし(ひとならざるもの)を悪魔と呼んで殺してきた国々です」

「ほんとかい」

「それを急ぎ、確認したいのです。ぼくは、(つま)です。(つま)あやかし(ひとならざるもの)というだけで殺させるわけにはいきません。

 渡辺綱(わたなべのつな)が望んだのは、あやかし(ひとならざるもの)と人が共に棲むことができる世界であった思います。

 だからこそ、一天万乗の大君が下に同じだと言い切ったのです」

「・・・続けな」

「一天万乗の大君が下は、この国にしか及びません。連れ去れてしまえば、どのような扱いを受けるかは、考えたくもありません。だからこそ、南蛮という国を知らなければならないと思うのです。

 また、この国では肉を食することは、あまり進みません。それは、仏教の教えというのもありますが、あやかし(ひとならざるもの)が共に棲む世では、食べる肉への覚悟が必要だからです。

 だが、南蛮の者達は、獣として狩り、皮や肉を獲ります。まして、異教徒を殺すにためらいもありません。

 そしてこの国の領主達にとっては、南蛮船がもたらす、鉄砲や硝石といった品々の魅力が、この国への布教許可をもたらしているかと思います」

「まぁ、鋼の鏃や刀剣、そして鉛玉ってのは、あやかし(ひとならざるもの)殺すために、人が生み出した武器だからね」

「鉛は人には毒ですが、あやかし(ひとならざるもの)は死ぬのですか」

「人や獣にも毒なら、あやかし(ひとならざるもの)にも毒さ」

「今なら、鉄砲は高価で威力も低く、撃つのにも時間がかかります。ですが、二匁玉が撃てる鉄砲であれば、鎧を撃ち抜けます。鉄砲の数が増え、使われるようになれば、戦の多くは鉄砲で死んでいくことになります」

「戦場では、手当ても十分にできぬからか」

「はい。鉄砲は威力が強く、鉛玉が小札を巻き込んで人体にめり込みます」

「そのばで取り出せなければ、鉛の毒も回るということか」

「はい、小太刀か何かを焼いて、撃たれた場所を開き、鉛玉を取り出さねばなりません。結果として、失血が多くなり死に至るやもしれません。鉛玉が、身体を貫通して抜けた方がまだ、身体に残る毒は少なくなります」

「弓、刀や鑓には役に立つが、鉄砲には効かないということか」

「二分程の鉄板で鎧を造れば、鉄砲では抜けなくなりますが重すぎます」

「鋼なら一分くらいかな、(こもる)

「鋼なら一分か、五厘でもいけるかも知れない」

「ふうん。鋼で胴を造ると売れるかな」

「それでもかなり重くならないかな」

「まぁ、今でも十貫近くあるんだ、おなじくらいで出来れば売れるかな」

「商売は、後にしな先に進めな」

「はい、すみません。

 鉄砲は、数が増え、威力があがり、早く撃つこともできるようになります。結果的には、数十年も経てば、銃には人であれあやかし(ひとならざるもの)であれ、勝てなくなります。戦は、人ではなく、数で進められてしまいます。人の戦は、この数十年が最期となります」

「それまでに、この国を纏めなければならないということかい」

「はい。今は三好長慶殿が、畿内の纏めとなりますので、彼の人に一度お会いしたいと思います」

「確か、天主教に許状をだしていたな」

「はい。堺を含めて、許状の改めを願い出ます」

「許状の改めとは」

「南蛮人であっても、この地で犯した罪はこの地の法で裁くことです。

 ・日本は、八百万の神々があり、他神を認めないことを認めないとする

 ・天主教そのものについては、神のひとつであり、個人の思い次第である

 ・領主は強制して、教徒としてはならない

 ・人の売買を禁止する

 ・貿易は、商売によるもので、今後とも商売を続けること

 ・国法に従う限り、商人でなくても、訪れることは構わず

 ・国内にて、国法を破れば、いかなる国の者であれ、構わず国法にて罰する

 これが、南蛮人に向けて発する、最低限の心得となります」

「カグチ、この場の言葉を黙れるか」

「それは、ごめん」

「カグチ?」

「あたいは、貉だ。貉は伊勢斎宮から付けられる。あたしは、虎姫さんに付けられて、(こもる)(おなご)になった。だからといって、伊勢斎宮や主上に伝えるのは止めれない。だから、あたいを殺して口を封じてもらっても良い。ただ、少し待って欲しい」

(やや)を授かったか」

「たぶん。貉は、(おなご)として満足すれば、(やや)を宿せる身体になる」

へっ、それなに。子供って、えぇぇぇえぇ

「京洛や三好への繋ぎは、心当たりがあるのか」

「一月くらいあれば、伊勢斎宮から京洛への繋ぎを付けて延命院に向かうこともできます。時期が良ければ、山科卿に延命院へ来てもらえるかと思います」

「言継卿か」

「延命院の酒を飲みに来ますから」

「前に来たときは、龍潭寺の酒樽も空にしていったからな。わらはからも文を書こう」

「はい」

「あ、あのぉ、子供ってぼくの子ですか」

「悪い。あたいの子だよ」

「へっ」

「貉の(やや)は貉になる。だから、伊勢斎宮の預かりになるのさ。悪いけど、お前には抱かせてやれない」

「えっ、そんな」

「貉は、自分たちでは子供が出来にくい。できた例もあるけど、百年に一度あるかないかさ。だから、貉にとって、貉の子は、一族で育てる一族の子なんだ。相手がだれであろうとそれは変わらない」

「ただ、何年かして貉の子が大きくなったら、父親の守護貉になることが多いからね、何年かすれば逢えるとは思うよ。良ければ、嫁ぎ先を紹介してくれれば良い」

「嫁ぎ先って」

「貉の寿命は三十年程だからね、あたしも来年には二十になるからね、これが最後の(やや)かもしれないさ。ありがと」

「ありがとって、子を産んだことが無いの」

「言ったろ、貉は、(おなご)として満足すれば(やや)を宿せるって、満足できなきゃ(やや)はできないんだ。あたしは、今まで満足したことは無いよ」

満足って、ほんとに良かったのかな?ぼくは、嬉しいけど、でもさ

「・・・でも、そんな身体で旅に出て大丈夫なの」

「貉の子は斎宮で預かる。それに、延命院より安全に子供が産める場所は少ないからね」

「そっか、医薬院でもあるんだ。山科卿も、延命院の人なの?」

「近衛さんが、今の藤原長者で、延命院の後見役だからね。使いで、山科様が良く来てたのさ、供物を受け取りにさ」

「供物?」

「延命院で造られる薬酒やあたしの梅酒は、鑑札が山科卿だからね。毎年、一樽は貰っていくよ」

「鑑札って?」

「鑑札ってのは、効能がありますよっていう鑑定をおこなった札のことさ、売る時に鑑札を付けて売るから、鑑札の代金を毎年払ってるからね」

「あぁ、鑑定をおこなった札かぁ毎年払うんだ」

「だから、売値には、鑑札代が入っているよ」

「鑑札は山科卿に書いて貰うの?」

「あたしの梅酒の鑑札は、山科卿にしてもらっているんだ。狗嬪(くびん)の薬酒は、近衛様の鑑札だよ」

狗嬪(くびん)も酒を造ったの?」

「はい。少し」

「どんなお酒なの」

「薬用酒ですが、飲んでみますか」

すっと、立って小瓶に用意していた薬酒を、猪口に入れてくれた。色と匂いも強い薬酒だった。なんか、見たことがありそうな色だったりした。飲んでみると、やっぱし有名な薬種の味がした。

「ウコンとか芍薬とかで造るの?」

「ほぉ、ご存知ですかな」

「量とか中身は良く知らないけど、薬酒や薬湯はいくつか飲んだことがある」

「ほぉ、なかなかですな」

狗嬪(くびん)の酒は、造るのに金がかかるからね、あまり他では見れないさ」

「延命院には、薬樹園があるって言ってたけど、見せては貰えるのかな」

「何かお探しですか」

「檸檬ってさ、ぼくの知識では、外つ国にしかなくて、日本に無かったけど、かなり多く栽培されているって聞いた」

「はい、瀬戸内では松浦党が塩飽から讃岐にかけて栽培しております」

「他にどんなものがあるのかなって思って」

「最近は、南蛮人が新世界と呼んでいる地域を原産にしているものが、最近はいってきていると思います。延命院で学んだ者の中には、明や天竺、南蛮といった地域へ出掛けていった者達も多く、様々な薬樹が集められています」

「明や天竺とかに出掛けていくの?」

「それほど多くはありませんが、松浦党の船で琉球へ渡り、明や天竺へ旅をする者もおります」

「それって、ずっと続いているの」

「そうですね、(はやて)様が延命院に移られてからは、数人が琉球や明の広州あたりへ出掛けていたと聞いています。人によっては、天竺やその先の大秦あたりまで出掛けていったと聞いています。南蛮船が、この国へ来るようになったのが最近です」

大秦ってローマだよな、

「そんな遠くまで行ってたの?」

「はい。檸檬は、(はやて)様の嫡男(れん)様が、天竺から運んだものと記されています」

(れん)様って凄いね。いろんなところへ旅してったの」

「10年ほどかけて天竺で学び、さらに西へ旅をして10年修行されたと聞いています」

「修行って仏教とか」

「いえ、天竺より西にある町で湯女男(ユナニ)医術を学んだと記されています」

ユナニ医術って、アラブとかだったっけ。

「師が投獄され、逃れる時に一緒に逃げて、暮らしていたといわれています。亡くなられた後に延命院へ戻り、師の本を訳した”治癒之書”や”湯女男”が、延命院に納められています」

凄い日本人が出たー、下手なチートより凄くね。

「新大陸にも芋とかあると思うけど、来てないのかな」

「琉球から来たものが多いですが、いくつかは新しい芋や種があったかと思います」

「ぼくの世界だと、芋類やカボチャ、辛子とかが新大陸から来ているけど、すでにあるのかなって思って」

唐辛子、ジャガイモ、さつまいも、カボチャ、入って来ていれば、サツマイモとジャガイモが救荒作物として使える。

「それほど多くはありませんね。檸檬は天竺からですし、芥子や胡椒は既に栽培しております。芋類もいくつかありましたが、毒を持つのが確認されています」

「それは、丸っこい、握りこぶしくらいの芋ですか」

「そうですが」

「それは、多分ジャガイモという芋です」

「ご存知ですか」

「ジャガイモは、寒い地域でも荒地でも作れる芋です。花から出来る実は毒を持ち、茎から地中にできる芋も芽や緑色の皮は毒を持ちます。ですが、地中にできる芋は食べれます」

「ほぉ、荒地でもできるですか」

「はい。そう聞いています。救荒作物として年に二回は収穫が見込めます」

「年二回ですか」

「はい。もう少し回数を増やすこともできますが、連作すると畑が荒れ収穫が見込めなくなります」

「芋は他にありましたか」

「遠州で育てたいのですか」

「はい、ただ、遠州だけでなく、駿河、三河を含めて造りたいと思います」

「なぜじゃ、遠州だけで良いではないか」

「遠州だけが豊かになっては、三河や駿河に恨まれましょう」

「恨まれては、損をすると」

「はい、充分収穫が見込めるようになれば、延命院を通じて、他の地域でも造ってもらってもいいと思います」

「遠国へもか」

「はい。ジャガイモは、寒さに強い芋ですから、奥州あたりでも造れると思います」

「ふむ。毒性を取り除けば、食べれるということですな」

「はい」

「延命院にはありますから、他の薬樹を含めて確認してもらい、造り方や料理法を含めて伝授いただければ、鑑札を起こしましょう、美味しい料理となれば、山科様あたりへ供してみて願えば叶えられましょう」

「鑑札は、カグチの名でお願いできますか」

「まて、お前の鑑札だぞ。あたいは、いいよ」

「だめだ、(やや)を抱けないとしても、せめて父親の真似事をさせて欲しい」

「ん。でもさ」

「それに、カグチは、多くの子を養っているだろ。その子達も育てたいから」

「もう、わかったよ」

ぷいっと横を向いたけど、なんか泣き顔になっている。可愛いっ

「お待ち。まだ、鑑札はできてないよ」

あ、ギュッとしそうになった自分が止まる・・・

「すみません」

「まぁ、(こもる)は良いのか、鑑札は、売れれば一財産となる」

「ん。そうですね。ぼくは、このままで構いません(ゆう)に捨てられたら、それまでのおのこであったということだと思います」

「ほほほ、面白いのぉ・・・狗嬪(くびん)彩女(あやめ)も一緒に行ってやれ」

「ははっ」「・・・はい」

一呼吸遅れて、彩女(あやめ)の声がする。

彩女(あやめ)(やや)が欲しいのかや」

「いえ、そんな。姫様より先に(やや)を宿しては困ります」

真っ赤になって俯いてしまった。

「ならば、皆は支度して、京洛へ向かうことができよう」

「は、道筋は、先の話では、沓掛から大高へ抜けて、伊勢に渡り、亀山から伊賀を抜けて古都にでるとのことでしたな」

「うん。伊勢では、カグチの話をしないといけないし、海を渡った方が早いよね。尾張から美濃に行くのは、まだ難しいだろうから」

「それでよろしければ、ご案内いたしましょう」

「よろしく」

彩女(あやめ)は、本当に良いの?無理しなくても良いんだよ」

「いえ、これ以上、姫様の(つま)に悪い虫をつけては、侍女狐としての立場がありません。ご一緒致します」

「そ、そう。ごめんね」

「あたいは悪い虫なのか」

「そうは言いませんが、姫様より先に(やや)をなすのは失礼でございます」

「へぇ、そうかい」

お互いの視線がバチバチと火花が散るようにぶつかっている・・・雰囲気が怖いよぉ・・・


 明日の出発準備で、カグチが戻り、ようよう解放されて、自分の準備を進めて、宵闇の褥で休もうとしたら、狐灯篭を持って、彩女(あやめ)さんが入ってきた。

「あの、私のようなものでは、ご不足でしょうが、精一杯努めます」

「え、なんで、不足なの」

「いえ、わたしは、姫様やカグチ様のように大きくありませんし・・・」

少し、残念そうに、自分の胸乳(おっぱい)を見る。

「それは、確かに(ゆう)胸乳(おっぱい)は好きだけど、彩女(あやめ)さんの胸乳(おっぱい)だって好きだよ」

「それでは、誰でも良いということではありませんか」

「ごめん。大きいのと小さいのって言われると、大きい方かなって思うけど、大きすぎてもだめかなって思う。(ゆう)胸乳(おっぱい)が好きっていうのはあるけど、胸乳(おっぱい)ってだけじゃないし、えっとぉ、大きな身体が好きだからって、大きすぎてもダメだって思うし・・・」

なんか、必死で説明していると、噴き出したように笑い声がした。

「もう、良いですよ。(こもる)様は、ほんとうに姫様がお好きなのですね」

「うんっ」

「それなら、もう構いません」

「そ、そぉ・・・ふぅ~」

ほっと一息つこうとすると

「だから、精を絞らせてもらいます」

「へっ、えぇぇぇっ」

と押し倒されてしまったとさ。どっとらはい。

 さて、次回は、伊勢、伊賀を抜けて、南都(奈良)、堺、難波、京洛への旅となります。はてさて、どうなることとなりますか。フランシスコ・ザビエルらが始めたカトリック教会のイエズス会は、奴隷制に反対した結果としてかなりの弾圧を受けていたようです。まぁ、国境を越えて、法王にのみ忠誠を誓う存在というのは、既存権力にとっては管理できませんからね。

 ただ、キリストの教義における、悪魔がそのまま実在するような社会は、彼らにとっては悪夢な結果であったように思います。

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