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オリジナル武器でファンタジー世界を無双  作者: ソルラ
Episode:01 ~人と人の出会いは突然に~
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魔法の発現

 クオンが異世界に転生し、4年の月日がたった。この世界で生きていくことにしたクオンはまずはこの世界の常識から学ぶことにした。なまじ地球の頃の記憶があるため、少し苦労はしたが努力のかいあって普通の子供らしく過ごせている。


 その日は、母親のリンナと父親の【ラウス】ともに家を空けている日であった。まだ4歳のクオンは勝手には出かけてはいけないので、ラウスの書斎へと向かった。

 クオンの家は地球の頃の一般的な家と同じぐらいの規模だがなぜか書斎がある。蔵書数はあまりないがそれなりに数は置いてあるため、クオンは良く書斎に入っては読書をしている。


 読書を初めてまだ一年足らずだがクオンは自身が転生したこの世界のことを理解し始めていた。それも書物に書いてあるものが正しい場合のみだが。

 クオンが転生したこの世界は多くの書物に一律として【スラベール】と書かれていた。何故、一律かというとその時代時代で呼び名が変わってきているため、今の時代の呼び名として呼んでいるだけだからだ。

 スラベールの主だった大陸は二つ。人族が住む【アーカディア】と魔族が住む【メルスディア】だ。そのほかにも細々とした列島などがあるが人族も魔族も住んでいないので国はない。


 人族とは祖を同じとする三種族のことをいい、呼び名はそれぞれ、【人間】、【ドワーフ】、【エルフ】だ。


 人間は地球の人間ともあまり変わりのない種族だ。ただ、スラベールの生物の固有能力として空気中の自然魔力を吸収して魔力を生成する器官を体内に持つ。


 次にドワーフは背が低く、筋肉質な体は肉厚で横に広い外見をしている。元々、山肌などに穴を掘って住居にして暮らしており、そのころから掘り当てた鉱山から取れる鉱物資源を用いて鍛冶技術に長けて来たという経験があるため、今の外見になったのも狭い鉱山の坑道で効率よく作業するためだとも言われている。

 男性も女性も髪や髭を伸ばして編むことに外見の美を見出しており、若いころから伸ばしてきた物はドワーフにとっての誇りになっている。

 種族全体で手先が器用で凝り性という気質から、多くの者が鍛冶師などの物作りを起点とした職業で身を立てている。ドワーフの大半が技術者であることに誇りを持つ者が多いため、その道に進む者が増えるのも当たり前だと言えるだろう。

 

 人族最後の種族、エルフは他の二種族とは大きくかけ離れた特異な種族となっている。

 外見的には人間に近く、誰もが美しい容姿をしており、耳が長く尖っているのが最大の特徴になっている。さらに、長い寿命に裏打ちされた高い知識を持ち、魔法能力では他の二種族を大きく引き離すほどの力を持つ。

エルフとひとまとまりにされているが、エルフの中でも種族が三種族に分かれている。一番数が多く、一般的にエルフと認識されているエルフ。エルフの上位存在である【ハイエルフ】。ハイエルフが長大な寿命を生きた果てにごくわずかな人物の実行き着ける最上位の存在【エルダーハイエルフ】だ。

この三種族を【エルフ三種族】と呼ばれるが、種族によって大きく寿命が違う。普通のエルフは500年ほどだがハイエルフは倍の1000年は生きるとされている。エルダーハイエルフについては数も少ないうえに、最初のエルダーハイエルフがいまだに健在のため、はっきりとはしていない。

 エルフの種族の特徴としてはある程度の年齢を重ねるとその時点からほぼ容姿が変化しなくなる。変化しなくなってから変わる唯一の時が寿命の限界の時だ。エルダーハイエルフの場合はハイエルフの寿命限界を過ぎるとまた若くなると言われている。

長大な寿命に高い魔法能力を持つエルフだが、他の種族との交流をほとんど絶っていて、【アルフヘイム】という国の中で引きこもって暮らしている。そのため、エルフと会えるのはほぼ高貴な身分の者に限ってくる。



 人族と同じように魔族も祖を同じとする三種族のことを言う。それは【魔人】【獣人】【フェアリー】の三種族だ。


 魔人は浅黒い肌を持ち、肩甲骨のあたりに黒い文様を持つのが種族の特徴とされている。そのほかはほぼ人間と同じような容姿だ。

 寿命もエルフと同じぐらいの500年近くは生き、エルフと同等の魔法能力を持つが、器用なことが種族全体で苦手で、大雑把な人物が多いため、高範囲の攻撃魔法などを好むものが多い。


 次に獣人は獣の耳と尻尾が付いた容姿をしており、身体能力が高いが、その代わりに、魔力が極端に少なく、使える魔法も少ない種族だ。少ない魔力を効率よく使うための【魔纏術まてんじゅつ】という物がある。


 最後の種族フェアリーは他のどの種族とも違い、魔法なしで空を飛べる唯一の種族となっている。エルフと同じような美しい容姿をしているが、耳の尖りは短く、背も少し低めだ。最大の特徴として背中に羽があり、羽に少量の魔力を通すことで空中を飛ぶことが出来る。魔法能力もエルフや魔人には劣るがそれでも強力だ。


この六種族がこのスラベールに住む種族となっている。クオンの両親は二人とも人間で、クオンも自分が人間だということも理解できた。


 クオンが住むのはアーカディア大陸の東側にある人族が統べる国の一つ【ヘクセルカ王国】だ。このアーカディア大陸は中央を南北に山脈が走っており、山脈によって東西に分かたれている。人族が暮らすのは大陸の東側のみだ。何故、東側のみかというとそれはこの世界に存在する生きとし生きる者にとっても天敵である【魔獣】と【瘴獣】が原因だ。

 この魔獣、瘴獣は生きる者への破壊衝動が本能の中心になっているため、自分たち以外の生き物を見つけると襲い掛かって来る。しかし、魔獣はその魔法能力は強力だが、襲い掛かってこなければ放っておいてもいいのだが、瘴獣はそうはいかない。瘴獣はその体から瘴気と言われる有害な汚染物質をだし、辺りを汚染していく。汚染された大地は長い間植物も育たない不毛の大地になってしまう。さらには生き物も長く浴びていれば死に至らしめるほどの効力を持つため、積極的な討伐がされている。討伐されなければ瘴気を浴びた魔獣も瘴獣と化すのが厄介な特性だ。倒すには体のどこかにある心臓とも言うべき瘴結晶を破壊する必要がある。


 この魔獣、瘴獣はアーカディア大陸の西側に主に生息するため、人族は東側に住んでいる。ただ、東側にも全く魔獣や瘴獣がいないわけでもないため、安心はできない。



 クオンが住むヘクセルカ王国のほかに人間が統べる国は四つある。他の二種族に関してはドワーフが二つ、エルフが一つの国をもち暮らしている。この八つの国をまとめて【東部八大国オストユイット】と呼ぶ。



書斎に入った久遠は少し高めのところにある本を取ろうとしていた。しかし、なかなか届かない。背伸びをしても本まで本の数cm足りないのだ。あと少しで届きそうなのでジャンプをして取ろうとしていた時に本棚から一冊の本がクオンの頭めがけて落ちてきた。本を取ろうと必死になって本棚を揺らしすぎたのだ。


「いった~」


 本はそのままクオンの頭に直撃。角が当たったようでしばし悶絶していたクオンだが、ジッとしていためすぐに痛みは引いていった。


「いったい何の本が落ちてきたんだ?」


 クオンはそばに落ちていた本を拾うと、表紙を向けた。すると、目を少し見開いてから口に笑みを浮かべる。


「『初めての魔法』」


 クオンが口にした通り、落ちてきたのは初心者用の魔法に関する教本だった。クオンは魔法を何度もリンナが使っているのを見てきているが、実際に使ったことはない。過去に一度やってみたいといったが、まだ早いと言われて断念していたのだ。しかし、あれから一年たっている。今なら大丈夫だと思い、さらにはこの部屋にある本は全部読んでもいいと言われているのでクオンは読むことにした。

 部屋に備え付けられている机の前に来ると、椅子に座って『初めての魔法』を開いた。



 “魔法”

 前世になかったその技術を初めて見た時から心惹かれるものがあった。

 武具ものを専門に集めていたクオンだが、ファンタジー系のRPGもそれなりにプレイしていたこともあり、魔法も十分に魅力的な存在だった。

 両親は前回のことがあるので許可してくれるかが怪しいため、自分で魔法を学びたいと画策したが、ここで問題が出た。魔法を学ぼうにも、クオンの住む村【フォールグリン】で魔法を使えるのは久遠の両親のラウスとリンナだけだったということだ。これでは、学ぼうにも学べない。そこでクオンが考えたのが書物に頼ることだった。そのためには、ある程度の文字が読めなければならないが、幸いにもクオンの家にはそれなりの蔵書数があり、両親のどちらも文字が読めるため、文字を学ぶのには困らなかった。

 クオンが文字を学びだしたのは3歳を少し過ぎたあたりからだ。この年代から文字を学び始めるのはたとえ国の特権階級である貴族の子弟ですら早いことだ。その恩恵もあり、クオンは少し小難しい本でもスラスラとはいかないが読み進めることが出来た。

 子供というのは座学を苦手とするのだというのがスラベールでも一般的だった。だが見た目的にはまだ4歳であるクオンだが、中の精神は25年以上を生きた大人のそれである。文字さえ読めれば、内容を読むのは全く苦ではなかった。

 むしろ物が者だけにただ、勉強するより断然に楽しめ、ある種の遊び感覚で学んでいくというのも大きな効果を見せた。そこに、子供特有の柔軟な学習能力を上乗せして、クオンは恐るべき速さでほんの内容を理解していくことが出来た。


 クオンが開いた『初めての魔法』は主に三つの章に分かれていた。

 第一の章は魔法の理論的な解釈を分かりやすく説明している。

 この世界で魔法と呼ばれているのは、魔力を使い世界へと干渉し、様々な現象を起こす技術のことを指す。

 魔法を使うのに必ず必要とされる魔力はスラベールに生きるほぼすべての生物が持っている。しかし、魔力の量は一定ではなく大きく個人差が出ている。何故、大きく個人差が出るかというと、それは、魔力の精製方法と貯蔵量が関係している。

 この世界の大気中には魔力が含まれている。その魔力は【自然魔力】呼ばれるが、自然魔力はそのままでは何の効力も持たない。しかし、この世界の生物は自然魔力を体内に取り込み、魔力へと精製する機能を持ち合わせている。さらには、ある程度の量の魔力は体内にため込むことが出来るのだ。

 魔力量は一度に取り込める自然魔力の量と、一度に精製できる魔力量、さらには体内にため込むことが出来る魔力量が関係してくる。取り込める量と精製できる量は魔力回復力に関係しているがそれも含めて個人の魔力量としている。

 ここで厄介なのが、ため込む量――つまりは魔力貯蔵量だ。取り込める量――自然魔力吸収量と精製できる量――魔力精製量はある程度鍛えることが出来るが、魔力貯蔵量は先天的とされ、生まれたころから変わらないのである。

魔力貯蔵量が少ないものはいくら魔力回復力を鍛えて、継続的に魔法が使えても、魔力を大量に使う大規模魔法は使えないため、強力な大規模魔法が華とされている今では魔力貯蔵量が魔法使いの優劣のほとんどを決めているといっても過言ではない。


 魔法を使うのに必須なのが魔力のほかにもう一つある。それが【魔法演算回路領域マギア・オペレーション・ドメイン】である。これは、魔力を持つすべての生物が持っている仮想器官で、その役目は魔法式の構築と処理である。魔法は魔法演算回路領域で構築、処理された後、言霊によって世界に響かせることで発動する。地球で言う呪文や術式は魔法式として主に魔法演算回路領域で構築されるため、実際に口に出すのは言霊だけとなっているのがこの世界の魔法だ。しかし、この魔法演算回路領域にも個人差が存在し、演算処理が苦手な者は補助の役割として詠唱を行う。逆に優れている者は言霊さえ発せずに無詠唱で魔法を発動することが出来、さらには二つの魔法式を同時に処理する、平行演算処理という高度な技もできるとされている。

 この魔法演算回路領域は鍛えれば鍛えるほど、処理能力が上がり、魔法式を高速で構築することが出来るようになる。

 しかし、この魔法演算回路領域を鍛えるには地道で長い時間がかかる。そのためか、ある程度訓練したら鍛えるのをやめる人がほとんどとなっている。


三つ目に必要となってくるのは魔法式の知識になる。魔法式は中心となる【九大基礎式エレメント・ベーシック】とその周りに配置されている【補助式アシスタンス】で構成される。中心となる九大基礎式は魔法属性を表し名の通り九つある。

 魔法属性は【火】【水】【風】【土】【氷】【雷】【光】【闇】【無】とあり、それぞれ特性があるがこの章では省略される。

 補助式は魔法の階級などを示したもので、魔法の方向性を決める役割も兼ねている。


このように魔法を使うのに必須になっているのは魔力と魔法演算回路領域の処理能力、さらには魔法の知識。この三つが合わさって初めて魔法が使えるようになる。



 クオンは次々とページをめくり、すぐに第二章へと突入した。

 初めて魔法第二章は魔力を感じろという物だった。

 第一章でこの世界の生物は多かれ少なかれ魔力を持つとあったので、第二章は妥当な内容だった。

 書かれていたのはまずはリラックスして横になり、目を閉じて心臓のあたりを意識しろという内容だった。魔力を精製する能力とため込む能力は心臓のあたりにあるため、心臓のあたりを意識するのはとても当たり前のことなのだ。


 クオンはいったん椅子から降りて床に寝転がった。ベッドではないが、クオンは床でもリラックスはできるのでいいのだ。

 目を閉じて意識を心臓のあたりにもっていくと、ほんのり暖かい感じがした。暖かさを感じてすぐに初めて魔法を見ると、ほんのり暖かい感じが魔力となっている。

 クオンは魔力を感じることに楽々と成功して次の章へと移った。


 第三章はついに魔法を使ってみる章だった。

 この世界には魔法の適性で使えない魔法は無く、なんとなく不得手があるだけだ。そのため、初めて魔法には九属性の基本式と初めて魔法使うときに必ずやる基本ともいうべき魔法階級の基礎中の基礎である下級式が含まれた補助式が書かれていた。

 後のページになってくると、それらを組み合わせてある魔法式と特性、現象の起こり方に補助の役割をする詠唱呪文まで書かれていた。かなり詳しく書いてある初めての魔法の教本にクオンはたびたび感心していた。

頭にしっかりと九属性全ての基本式と補助式を覚えたクオンは残りのページもあっという間に読み終わり、初めての魔法を持ったまま自室へと行った。


 クオンが自室を与えられたのは4歳の誕生日の日だった。6畳ぐらいの部屋だがまだ体が小さいクオンにはまだまだ広いと感じられる。部屋には机と椅子が1セットとベッド、それになぜか化粧台のようなものも置かれていた。化粧台にはきっちりと鏡も付いており、その目の前を通るとクオンは若干ため息をつく。それはなぜかというとクオンの容姿が関係している。

 鏡に映ったクオンの容姿は、青みがかった銀色の髪の中にいくつもの赤い髪がメッシュのように存在している。母親に似たのか顔つきもだいぶ少女らしくなっているのに加え、目も母親に似て赤色だ。きめ細かい白肌に加え腰まで伸びた髪が女の子らしさを倍増させている。ここまで母親に煮るというのはすごいことなんかじゃないのかとクオンは度々《たびたび》思っている。唯一父親のラスウにいているところと言えば目つきが若干だが釣り目がちというところだけだろう。


 ため息をつきながら化粧台の横を通り過ぎクオンはベッドに腰を下ろした。ついで、どの魔法を試してみようかと考える。そこで考え付いたのが水属性の魔法だった。

 なぜ水属性かというと、他の属性は試すのに問題があるからだ。火属性は言うまでもなく家事なる。風属性はいいかと思ったが、風は見えないと思ったので試すのには向いていない。土属性は部屋が汚くなりそうだし、雷も燃える。氷属性もいいかと思うけど、水属性と比べると地球でも基本ともいえる水属性に軍配が上がる。後の三属性は後に回したいだけだ。


 クオンは仮想器官である魔法演算回路領域にて水属性下級である【水球アクアボール】の魔法式を構築し、構築した魔法式に魔力を送る。クオンはことも何気にやっているが、魔法式の構築スピードも魔力を魔法式に送ることも初めて魔法を習う子供にはなかなかできないことだ。まず、魔法式の構築だが、最初に魔法を使う人はまずここで躓く。まだ慣れていない状態でいきなり魔法演算回路領域を使って魔法式を構築するのにはかなりの難度になる。それもそのはず。動かしたことのない器官を動かし始めるのだ。いくら仮想器官と言え、体の一部には変わりない。慣れないときは動きもぎこちない動きになるのも当然とも言えるのだがクオンはことも何気に魔法式を構築し、さらには構築スピードも一般的に魔法使いと呼ばれる人たちとも張り合えるほどのスピードだった。次に魔力を魔法式に送ることだが、普通は魔力を動かすことに苦労する。感じることは簡単だが動かすにはそれなりの努力が必要なのだ。この二つだけを見てもクオンが少しおかしいことは明白だがこの場所にそれを指摘する人物はいないため、クオンはそのまま続ける。

 魔法式を通した魔力を右手から外に出す。すると右手の上で水が現れ球の形を形取った。


「お、結構簡単じゃん」


 常人はここまで来るのには最低でも一週間はかかるものなのをクオンは知らないための簡単だと言えるのだ。しかも、言霊を発せずに無詠唱で魔法を使っていることにクオンは気付いていなかった。


 魔法の発現に成功したクオンはだんだんと嬉しくなり、やがてガッツポーズをした。その時の動きで初めての魔法の教本が床に落ちてしまったので、水球に消えろと念じて消してから、本を拾おうとして屈んだ時にそれは見えた。

 丁度落ちた時の衝撃で最後のページがめくれていた。そのページは何も書かれていない真っ白なページだとクオンは思っていたが、よく見るとほんの少しだが凹凸おうとつがあることが分かった。限りなく平坦に近いので注意して見なければ分らないようなものだ。クオンがそれに気づいたのは本当に偶然と言っていい。


「これって、魔法式だよな」


 指でなぞりながら確かめてみるとそれは魔法式だった。だたし、基礎式は光属性だと分かるが、補助式が全くクオンには分からない。この補助式はかなり高位のものらしい。

 なぜ、初めての魔法の教本に高位の魔法式が隠すように掘られているのかはわからないが、興味のわいたクオンはこの魔法式に魔力を流してみることにした。クオンは物体に掘られた魔法式に魔力を流すやり方は知らないが、なんとなく魔力を手から出せばいいと思い、それを実行した。


 魔法式は瞬時に魔力を通し、少し光った。クオンはもっと眩い光を発するものだと思っていたから少し拍子抜けていたが、すぐに魔法式に目が囚われる。正確には魔法式が書いてあったページにだが。

 魔法式が書かれていたページには次々と文字が現れていった。ここに書かれていた魔法式は文字を表すための魔法式だったようだ。

 文字はやがて文になり、言葉を表していった。完全に現れた言葉は次のようだった。


『この本を読み、魔法式へと魔力を流した者へ。

 この本は通常は初めての魔法という魔法初心者用の教本のていを模しているが、本質はこの魔法式の先にある。この先にはボクが生涯をかけて研究した魔法への知識が詰まっている。この本の本質を見つけた君にはその知識を自由に使っていい。どう使うかは君の自由だ。だた、ボクの思いだけは知っておいてほしい。ボクは魔法をこの世界の生きとし生きる者たちを幸せにするものだと思っている。だから、本当は悪しきことには使ってほしくはないんだが、この本が読まれる頃にはボクはいないだろうし、君に何かを言うこともできない。願うはこの知識が魔法の発展に貢献してくることだろうか。自由に使っていいと言っておきながらも願うことを許してくれ。後は君次第だ。

 君に魔法の大いなる風が吹くように願っているよ


                     ――オルヴィオ・S・ブランデイル』


 オルヴィオ・S・ブランデイルという人物がこの本の作者らしいとクオンはわかった。そこで、クオンはあることに気付いた。最後のはずの魔法式のページの後ろに新たに紙が数ページ分追加されているのだ。つい先ほどまでは確かに魔法式ページは最後に会った。クオンは新たにできたページをめくりながらあることを推測した。

 先ほどの文に書いてあった、この本の本質は魔法式の先にあるという言葉は、つまり魔法式を発動させると新たにページが追加されることを意味していたのではないかと。魔法の初歩を覚えたばかりだが、クオンはこの推測に自信を持っていた。

 新たに追加された部分を読みながらクオンは新たなことを発見した。何と数ページ追加されただけかと思ったがどんなにページをめくっても終わらないのである。どうやら、最初の魔法式と同じように魔法でページが次から次へと追加されているようだ。

 興味深いことに新たに追加されたページにはこの本の作者オルヴィオ・S・ブランデイルの発見した技術や知識が膨大な量にわたり書いてあった。中には、この世界の魔法にとっての新発見もあったが、魔法の基礎しか学んでいないクオンには関係なく、どんどんその知識を吸収していった。

 前世から本をよく読んでいたクオンは読む速度や理解力も高い。それでも、量が膨大なため、全部読むのに半日以上かかってしまい、結局読み終えたのは日が沈む直前だった。


 本を読み終えたクオンはもうすぐ両親が帰って来るのに気付き急いで初めての魔法をベッドの下に隠した。この本をまだ手放すには早いと思っての行動だ。

 こうして、クオンの初めての魔法の日は終わりを迎えた。


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