第一段、『あの日』
もう一つの作品と同時進行で進めて生きたいと思いますので、よろしくお願いします。
「父様、今日はどちらに行かれるのですか?」
幼いながらもとても澄んだ声が渡り廊下に響いた。声の主の目の前には体格の良い男性が立っており、素の立ち姿にはとても品があった。どこぞの貴族のようでどこぞの騎士のようでそれらを両立させたようなものがその男性から感じ取ることが出来る。
父様、と呼ばれた男性は声の主に気付きゆっくりと振り返る。
「───、今日は殿下のところだよ。使いが私のところに来たものでな、明日は覚醒の儀があるからお前も行かないといけないけど……ま、いいか。一緒に行くか?」
「うん」
父様にそう言われた声の主は嬉しそうにそう返事をすると優しく頭を撫でられた。
「私は殿下に謁見してくるから、その間ルミナ様のところで遊んでいるといいよ。どうやらルミナ様はお前のことを気に入っているようだからね」
父様は自分の子供の頭をポンポンと二回ほど軽く叩く。これは父親なりの愛情表現の一つだった。
───は父に連れられ、王宮へ足を運ぶと父と別れ王族直属の近衛と長い廊下を歩いていた。
「いつもルミナ王女と遊んで頂きありがとう御座います。───様」
「僕はお礼を言われるようなことはしてないよ」
「いえ、謙遜なさらずとも。女王様が亡くなって塞ぎ込んでいたルミナ王女を昔見たいに笑えるようにしてくださったのは───様なのですよ。それはこの王宮にいる誰もが知っていることです」
「それはルミナ様が強かったってだけだよ。僕はそれを補助しただけだしね。これは言い過ぎかな」
「貴方という人は。だからルミナ王女も心を許したんでしょうね。着きましたよ、───様」
幼いながらも騎士のような立ち姿を見せる少年は近衛にお礼を言うと、中庭にいる王女の下へ歩いて行く。
「ご機嫌は如何ですか、ルミナ第一王女殿下」
少年がそう言葉を発するとルミナと呼ばれた少女は不機嫌そうになる。
「堅苦しいわ。いつものようにルミナでいいって言ってるのに。いつもみたいに言ってくださらないと部屋に戻りますわ」
「分かりました。ルミナ様」
「だ・か・ら、ルミナでいいわ。それと敬語禁止!」
少年は頭を掻きながら苦笑する。
「分かったよ。ルミナ……」
それを聞いたルミナは満足そうに笑みを浮かべると少年に向かって抱き付く。
「今日は何をして遊びますの?私としてはかくれんぼがいいですわ。前回私が負けてしまいましたし」
「了解。範囲はどこでもいいの?この王宮全てだとさすがに広過ぎるんじゃないのかな?」
「大丈夫ですわ。この王宮は私の家。つまり、どこに隠れても見つけられますから」
少年はやはり苦笑する。そしてわかったよと承諾した。
◇◇◇◇◇
「また、あの日の夢か……」
少年は重たそうな眼をゆっくりと開けると白い天井……いや、そこにはどこまでも続いているであろう大空が広がっていた。
穏やかに吹く風が少年の頬を撫でると、少年は体を起こし大きく背伸びをした。辺りを見回して見ると、本当にどこまでも続いていそうな地平線が見え、近くにはそれなりに大きな都市もある。少年は都市から少し離れた丘で居眠りをしていた。
傍らには読みかけの本が落ちており、どうやらこれを読んでいる最中に転寝をしてしまったようだ。その本を自前の鞄に仕舞いこむと服に付いた土や草をポンポンと払う。
日が昇り始めた頃にこの場所に来ており、いつの間にか日が真上にある。どうやらかなり時間が経過したようだ。
「ふあ~。さて、と」
少年が立ち上がると大きな都市がある方から一人の少女が赤みのかかった黒のセミロングの髪を片手で抑えながら少年の名前を呼んでいる。
「アウルさん!やっぱりここでしたか。マスターが呼んでいましたよ」
「ああ、分かったよ。行こうか」
アウルと呼ばれた少年は片方の袖を風に靡かせながら少女のいる都市の方へと歩き出した。