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終わる歯車仕掛けの世界  作者: シナミカナ
美しき我らの地獄よ
9/39

日課清算

完全に日は暮れる。

辺りが暗闇に包まれると天国教の動きがより活発になる。

日が昇っている間は大抵ミサや会議をしているからだ。

朝から動き回って疲れているこちらには勝ち目はない。素直に要塞(館)へ帰るのが一番なのだ。



エントランスには誰もいない。皆に権兵衛を紹介したかったが少し遅かった様だ。



「それじゃ、もう寝ます。」

と、真城ちゃんは疲れたようで部屋に帰って行く。

エントランスにある真城ちゃんとトランプをしたソファーに腰がけ胸ポケットからタバコを取り出し火をつける。

今日の出来事について考えていると権兵衛が近づいてくる。



「ちょっと良いですか?」


「良いとも。」

そう答えると権兵衛は机を挟んだ向かいのソファーに座る。

タバコの箱を差し出すが、権兵衛は頭と手を横に振った。



前に座った権兵衛は口を閉ざしたままだった。

気まずい沈黙が続く空気に耐えられず口を開く。



「何か思い出したか?」



「いいえ、まだ何も・・・。」


その一言だけを発し、再び気まずい沈黙が支配する。

権兵衛は指をせわしなく動かし、顔はこちらを見ないように辺りを見渡していた。

落ち着きがないのは性分なんだとうか。話題を探そうにも記憶が見つからない様子だ。

彼がこの館に来て今日一日は暇もなかっただろうし無理もない。



だが、記憶喪失の男を天国教の前に顔を出さざる得なかった。

もし、権兵衛はが本当は信者であったなら今が安全であっても記憶を取り戻せば危険となる。

それも今日の殺した信者の反応から見て『白』と決断した。



「あの、能力について聞きたいのですが・・・。」

と権兵衛は普通では触れない話をする。

能力は人の限界を超えた力ではあるが、同時にその能力自体に限界がある。

能力を隠している間は迂闊に近寄れないがタネを明かせば対策を練られる。

だから、能力を見た信者は皆殺しか、あくまで能力の欠片しか見せない。



しかし、あまりに巨大すぎる力はどうしても噂として流れてしまう。

北に住んでいてもう死んだ船をも転覆させる突風を吹かせる軍人だとか

南に住んでいるこれもまた死んだと噂の目の前にいる敵をどこからか狙撃させる女性だとか。

噂はどことなく流れいくものだ。



「生存者全てが持っている力だよ。俺達が生きていく術で天国教が全人類を天国行きにする術さ。」


「でも、僕にはつかえませんよね。」


「今のとこはね。」

彼はイレギュラーな存在ではあるが能力を使えないのは彼だけじゃない。



「むしろ、能力を行使できる人間の方が少ないんだよ。誰かと似たような能力もあれば、異端な能力もある。自分の能力を自覚できないと使えない。」

信者の内、能力を行使できる人間は一握りしかいない。

奴らは暇もなく本能のように人を殺し続ける。

だから、行使できる能力は全てが殺人に結びつくものだと暫定されている。

能力を行使できる信者が少ないのも、試行する暇がないと考えられている。

この分、基本暇なこちらに利がある。



「ま、君の能力については後々考えるから少し休もう。」

数本目のタバコをもみ消す。

いつもは眠気さましに吸うモノだが、いくら吸ったところで疲労には敵わない。



「君の部屋は二階の一番手前だろう。俺の部屋は一番奥だから何かあったら訪ねてくれ。」

フカフカのソファーから重い腰を上げる。



「はい。ありがとうございました。おやすみなさい。」

彼が疲れを伴った笑顔で返す。



まだソファーに座っている権兵衛を尻目に部屋に戻る。

部屋の扉は内開きだ。誘い込まれるように部屋に入り着替えもせずベッドで横になる。

そしてふと、この館の扉は全て内開きではないのだろうかと考える。

この館を建てた人はきっと粋な人だろうと思っている内に眠りについていた。

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