新入り
知らせは意外に早かった。
真城ちゃんとトランプで遊べるゲームを一通り終えた頃にディーラーと男が階段から降りてくる。
「権兵衛だ。」
ディーラーが男の肩に手をやり言う。
「分かった。」
「分かったよ。」
俺と真城ちゃんが頷く。
権兵衛と名付けられた男が生きてエントランスまで降りて来た。この事実はディーラーが彼を館に住まう者として認めた事を表している。
過去に何人か天国教のスパイと思われる者をあの部屋で葬ったが、彼の物差しが正しかった事を祈る。
ドッシリと重くなった腰をあげ権兵衛に手を差し出す。
「ジョンだ。よろしく頼む。」
「よろしくお願いします。」
権兵衛は微笑みしっかり手を握る。
彼の手は骨のように細く白かった。
「真城です。よろしく。」
真城ちゃんも同じように小さな手を差し出す。
「この手で館まで運ばれた事をお忘れなきよう。」
誇らしげに胸を張って彼女は言う。
「はい。ありがとうございます。」
権兵衛は彼女に微笑み手を握り返す。
今まで運良く病院で隠れていたとしても、廊下で倒れているとなるとそのままでは、天国教に殺されていた事は分かり切っていた。
それを真城ちゃんが一人でここまで引きずってきた命の恩人ということをあまり理解していないだろう。
そして、小柄な彼女はこの場に居る男三人よりもずっと強いって事も。
「なんとなく分かっていると思うけどさ、名前は『名無しの権兵衛』から取ったんだ。」
ディーラーが10日は寝ずに考えた名前だよ、なんていう風に言う。
「安直でとても分かりやすかったよ。」
どうにもディーラーにはネーミングセンスはなかった。