変り種
汗で濡れた服を一階の共同の洗濯機に突っ込む。後はミッちゃんが洗濯してくれるはず。
急いで二階に上がり一番奥の自分の部屋で着替えてまた戻り階段のすぐ脇にある部屋に向かう。
木製の飾り気のない扉を三回ノックする。
「誰だ」
「ジョンだ」
入れ、とディーラーの声で扉を開ける。
ガラス製のテーブルの両脇にソファーが置いてあり右側にディーラー、左側には痩せている青年の男が向かい合って座っていた。
ただ、男は若かった。
髪は肩まで伸びている。だが髭は生えてないらしく顎はスッキリしている。
「こんにちは」
挨拶をすると男は軽く会釈する。
ディーラーが座っているソファーに俺も腰がける。
男は居心地が悪そうに見えた。
指が忙しなく動き目が空虚を見つめている。
「どこまで聞いた?」
ディーラーの手元にある紙を覗きこむと紙をディーラーが俺に渡す。
生存者を発見し保護した場合はその状況とその後に幾つか質問をする。
その状況と対応がまとめられた紙だ。
【真城が病院で医療器具や食糧の探索中に廊下で歩いている男を発見。信者と思い攻撃の体制をとったが、男は直後に倒れ気を失う。】
【拘束した上で館に引っ張り目が覚めた男は敵意もなく凶器もなく何もないようなのでディーラーに面倒な尋問を任せる。by真城ちゃん】
筆跡が代わり、
問(名前は?)
答(分かりません)
問(今までどうやって天国教を凌いで生きてきた?)
答(分かりません)
問(能力の行使はできるのか?)
答(分かりません)
三つの質問を読んでこの男から分かった事は、何も分からないという事だけだ。
「どうなっている?」
ディーラーにこのふざけた内容が本当か聞く。
「俺にも分からないし、彼にも分かっていないらしい。」
困ったように。ディーラーが頭を抱える
。
前に座っている男は俯き独り言のように言う。
「どうやら記憶がないらしいです。」