覚えのある痛み
私はこの痛みを知っていた。
膝のちょっとしたかすり傷。
小学生の時に転んでついた傷だった。
指の切り傷は最近の、慣れない料理をしたばっかりに切った傷だ。
この痛みを知っていた。その時の感情も気持ちも僅かながらフラッシュバックする。
痛みのある場所に意識を傾ける毎にその時の痛い記憶を思いだし意識を逸らせようとしても他の傷が疼く。
全身に冷たいナイフを刺し入れられているかのような痛みが思考を支配する。
流れ出る血はタイムリミットを表していた。
このまま放っておけばどうやっても体は動かなくなる。
その前に決着を。
敵を見据えようと重く憂鬱な顔を前に向ける。
すぐ目の前にはジョンさんが血溜まりに倒れていた。
どうして今まで気付かなかったのだろうか。
その体にはどれも致命傷とも取れる傷が無数に刻まれていた。
ジョンさんもそれらの傷の全てに見覚えがあるのだろうか?
それとも、あれほどまでに傷を重ねると忘れてしまうものなのだろうか。
「死に損ないを仕留めるだけで僕は良いんだ。簡単なものだろう?」
ジョンさんの向こう側から男が歩いてくる。
瀕死の・・本当にまだ生きているかさえ怪しいジョンさんにアイツがそれ以上近付けば自分がどういう行動を取るか分からない。
痛みに屈してただ目の前でジョンさんが殺されるのを立ち尽くして見ているだけだろうか?
それとも、ナイフを片手にアイツに突っ込んで行くのだろうか?
元凶の奴がジョンさんのすぐ側で静かに立ち止まり、腰に手を伸ばして拳銃を取り出した。
ゆっくりとジョンさんの頭に銃口が定まる。
それと同時に、いや、それよりもずっと速く地面を蹴りナイフを構えて飛び込んでいく。