作戦開始
「門の前に二人の男が立っているよ。私が始末しようか?」
「いや、確かに真城ちゃんなら瞬殺できるだろうけど、爆発で血が飛び散るのはマズイな。門が血で染まったら後から入ってくる信者が警戒するし。」
真冬の夜に抑えたくとも抑えきれない寒さに震え、建物の目の前にある草叢が特にお生い茂っている場所に真城ちゃんと伏せて潜んでいた。
目の前の建物はウチの館と負けない大きさだ。
元々は市役所だか銀行の建物だったらしい。
こんな見るからに食料もない建物にある用は一つだけだった。
太陽が真上に昇る昼に仲間の一人が食料と生存者の探索中に信者を発見し、尾行をしてこの建物に入る瞬間を見たのだ。
しかし、その仲間も直後に発見され信者に捕まってしまった。
その一部始終を俺とディーラーが無線を通して聞いていたのだから大変だ。
ディーラーが数時間で救出の作戦を練り、当日の夜中に決行という驚きの早さだ。
その作戦に選ばれたのが強行突破向きの能力を組み合わせた俺と真城ちゃんと言うわけだ。
門前に直立不動でいる男二人は突撃銃と拳銃と無線機を携帯しているがこれはどうにかなる。
門の付近には監視カメラもなく暗殺すれば気付かれないだろう。
ベルトの右側に装着したナイフの位置を確認する。真城ちゃんもそれに合わせてナイフを取り出しやすくする。
ギリギリまで抜いてはダメだ。ナイフのリーチは短く構えてしまっては無力さを披露するだけ。
ナイフの良さはその短さの為に武器の携帯を気付かれにくい事にある。
現にあの男達には一本もありかを見極めれないだろう。
殺しの準備は出来た。合図が必要だ。
「合図はどうする?」
ディーラーの計画では合図までは流石に指示していない。
「次に強い風が吹いたら突撃しようよ。今日は風があるし景気がいいよ。」
真城ちゃんはニヤリと笑った。
「またあの軍人の事か。戦う者の味方をするって言ったって、そいつは死んでるだから意味がないと思うんだけどな・・・。」
「分かってないねー。ほら、風が吹くよ。」
真城ちゃんの言葉通りに冷たい突風が吹き荒れた。
それも運良く追い風だ。
俺と真城ちゃんがおもむろに立ち上がる。門の警備員は目を瞑って拭っていた。
砂でも入ったのだろうか。
「ほらね。」
真城ちゃんが地を蹴り一気に数メートル先まで加速し、移動している。
負けじと走り出しナイフを抜く。
二人の内の一人がこちらに気付いた。
その時には既に横にいたもう一人の男は真城ちゃんに刺殺されていた。
男は突撃銃を構える。何かを言っている様に見えるが風の音で掻き消される。
だが、もう目の前にいる。
決して発砲しない銃を払いのけ、もう片手にある機能しない無線機も落とし、心臓奥深くまでナイフを突きつけた。
男は抵抗もなく後ろに倒れる。
「よし。」
俺達の仕事をまずは一つ片付けた。
「言ってみようー!」
真城ちゃんの合図と共に、数十人は居る筈の敵地へと行進する。
ただ一人の仲間を救いに。