夏想灯郷(なつのともしび) 作 刹那
……私は思い出したんだ
昔の、小さな頃の記憶を
……ある夏の日
私は花火を見た
手元でパチパチ光る、小さな灯り
勢い良く煌めき、火花を吹き出す手筒
空へ舞い上がり、轟音を響かせる大輪の炎華
……どれも、輝いていた
……ある夏の日
私は山へ行った
一面に広がる、大木の緑
澄み渡る、湿った自然の空気
頂きから眺めた、麓の絶景
……どれも、清々しかった
……ある夏の日
私は海へ行った
白く長い砂浜に、蒼く大きな海
照りつける暑い日差しと、波打つ冷たい水飛沫
赤いシロップのかかった、海の家のかき氷
……どれも、綺麗だった
……ある夏の日
私は夏祭りに行った
提灯が連なり、人々で賑わう神社と露店
なかなか当たらない射的に、すぐに破けてしまう金魚すくい
いい香りのする焼きそばや、ほんのり温かくて甘いクレープ
……どれも、楽しかった
……今年の夏の日
私は思い出していた
……あの懐かしい日々を
……あの純粋な頃を
……あの自由な自分を
……どれも、もう過ぎ去ってしまった
夏の軌跡は帰ってこない
いくら手を伸ばしても
自然と目から熱いものが零れる
……懐かしすぎて
……寂しくなって
だから、私は空へ声を響かせる
……静かにそっと
“もし奇蹟があるのなら、もう一度、私を……あの夏に連れて行って………”
……流れた涙と同じ瑠璃色の空は、あの日と変わらず
夏の思い出を
懐かしい記憶を
……暑い日差しと共に、刻み続けていた
作者マイページ(刹那)
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