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89  心の問題

 ビル探しに失敗してエルムにすべて押しつけた後、アクアから「誰も居ないんだけど?」と念話が掛かってきた。ジン曰く、「たまにはレイにも休みが必要」という事で、本日はアキバで夕食にすることに決め、アクアにも来るように伝えて合流を待つことになった。


ジン:

「刃ァ~も~の~の゛~、プゥ~ロォ~?」


 その合流待ちの間に、ちょっとしたことで喧嘩を売ってしまう大人げ絶無の人がひとり。



 道端の人だかりが気になって近寄ると、料理のデモンストレーションをやっていた。包丁捌きをみるに、腕の良さそうな〈武士〉の料理人らしい。料理人――刃柴は、マグロ程ではないが、かなり大きな魚を手際よく3枚におろしたのだが、その後で何気ない一言を付け加えていた。


刃柴:

「ははっ、どうだ! 料理人こそ『刃物のプロ』だぜ!」


 腕の良い職人の主張に肯く人が大半である。……しかし、隣で一緒に見ていた連れの人だけは、青筋を立ててイチャモン付け始めてしまった。恥ずかしいというか、なんというか。


ジン:

「刃ァ~も~の~の゛~、プゥ~ロォ~?」

刃柴:

「んだよ、……そうだろ?」

ジン:

「笑わすなよ、若造。いつから料理人が刃物のプロになったんだ。そんなんマンガの中だけの話だぜ。動かない肉や野菜を切ってる程度の話じゃねぇか。プロの料理人にだって、まともな知識も、技術もないのが実状だぞ。そもそも言葉もない、概念もない、だから体系も生まれるはずがない。結局、技術が歴史として蓄積されていかない。それでいて現場の人間は二言目には経験とか言いやがる。個々人の才覚頼みの癖して、それを共有しようともしない。なのに、料理人が刃物のプロ? 馬鹿にし過ぎだ。だいたい本当に技術が欲しいヤツは、困って武術を習いにいくもんだろうが!」

シュウト:

(あ~……、弱いものイジメじゃないのかな? コレ)


 可哀想だけど、反論の余地があるとは思えなかった。既にジンの側につく人間が現れ始めている。これは前提として『この世界』ではみんなが刃物を使っているからだ。戦闘になれば剣で身を守り、敵を倒している。それなのに、料理人が『たかだか刃物を使っている程度』のことで、自分たちだけがプロみたいなセリフを言えば、流石に微妙な位置付けになってしまう。


シュウト:

(僕ですら、刃物を使っているわけだし……)


 その傲慢さは、見逃してあげてもいい程度の内容でしかない。だけど、ささやかなれど、悲しい気持ちはある。結局は日頃から料理をしてくれていることに対する感謝の気持ちが優先されている、という話か。


刃柴:

「こんの野郎、そこまで言うんだったら勝負しろ!」

ジン:

「どうせアレだろ? ジャガイモの皮むきとか、キャベツの千切りとか、そういうのが『刃物のプロ』さんの言うテクなんですよねー? ああ、そういうのだったら確かに勝てないわ。はい、俺の負け、負け~」

刃柴:

「ふざけんな、コノ。……おい、アレを出せ!」

仲間らしき男:

「ちょっと待てって、落ち着けよ!」

刃柴:

「うるせぇ!」


 〈刀吉楼〉なる自分のギルドの仲間を押しのけ、刃柴は屋台の後ろに隠してあったものの布を取り払う。……そこにはかなり大きな肉の塊がぶら下げられていた。肉の塊と言うよりは、もはや牛一頭と言っていいサイズ。喧嘩の風情に盛り上がり始めていた周囲のギャラリーからも、これには感嘆の声が上がった。


刃柴:

「どうだ! これが俺たちの、〈鉄火牛〉だ!」


 拍手が沸き起こり、刃柴に少しだけ余裕が戻って来て見えた。聴衆の前で恥をかかされ、引っ込みが付かなくなっていたのだろう。


アクア:

「何よ、面白そうなことになってるじゃない?」

シュウト:

「アクアさん、お疲れさまです」

アクア:

「ふぅん、……なるほどね」

シュウト:

「なんですか?」


 ニヤリと笑うと、周囲にも聞こえる良く通る声で解説を始めてしまった。解説役になってしまうつもり、らしい。


アクア:

「わからない? あの肉、あれだけで200キロか300キロはあるじゃない」

シュウト:

「ええ、それが?」

アクア:

「もし、アレがモンスターだったとしたら、どうしてあのサイズを確保できたかが問題になるはずでしょう?」

シュウト:

「そういえば……」


 聴いていた周囲からも合点がいったのか、疑問の声が上がる。動物カテゴリーであれば、丸まま確保できるが、モンスターのカテゴリーだとドロップアイテムになった部分以外は消えてしまうのだ。


アクア:

「……となれば、消滅までのわずかな時間に全て皮を剥ぎ、内蔵を落とすなどして、あのサイズで手に入れたけことになるんじゃないかしら」

野次馬A:

「だが〈鉄火牛〉の皮膚は、鉄のように硬いんじゃ……?」

刃柴:

「どうやら物の価値が分かる人間がいるらしいな。コレが、俺たち〈刀吉楼〉の技術だ!」


 観客から喝采を浴び、自信を取り戻したのか、これで刃柴が優勢の状況である。


アクア:

「それともう一つ。ああいう風に牛をぶら下げるのは、実は大変だったと思うわ。現代ならともかく、こっちの世界でやるには器具が無いでしょう」

〈刀吉楼〉の女性メンバー:

「そうなんです! 銀髪のおねーさん、ありがとう!」


 〈刀吉楼〉メンバーの苦労をねぎらうような追加文言に、向こうの女性メンバーは泣きそうな顔でお礼を言っていた。人の気持ちが分かるということは、とても大切なことのように思えた。こういう部分からして、もう人間力の差というべきかもしれない。


 ここまで無言だったジンが一言。


ジン:

「で、勝負ってのはどうするんだ?」

刃柴:

「この〈鉄火牛〉に切り付けて、より深く刃を入れた方が勝ちっていうのでどうだ?」

ジン:

「ほぅ……」


 ジンがマジックバッグから自分の得物、ブロードバスタード・ソードを引き出す。逸品というわけではないが、その武器むき出しの無骨さに観客が息をのむ。怪物と戦うための、正しい意味での『暴力装置』だ。


刃柴:

「まて、ここで使うのはコイツだ」

ジン:

「包丁、だと?」


 同じ長さ、同じ性能の包丁を用意し、どちらを使うかジンに先に選ばせる刃柴。特に吟味して選ぶ気配もなく、ジンはサッと手に取ってしまった。


ジン:

「なるほど、いいものだな」

刃柴:

「刃を入れるのは一回だけ。勝敗が曖昧な場合、中心付近の切り込みの深さを確認する。……実際にやって見せた方が早いだろう。説明を兼ねて、俺が先にやる」


 すると刃柴は時間を掛けてじっくりと観察し、刃の通りやすい場所を探っていった。見極めたのか、一歩下がり、袖をまくりあげる。


刃柴:

「いくぜ…………!」


 なかなかの雰囲気を持っている。リキみの無い横顔に集中力が見える。

 右手に持った包丁を左手で押さえながら、ズブリと肉に刃を突き立て、そのままズルズルと刃を入れていく。早さは全く無いが、刃の根本まで突き入れてあって、これはかなり深い。


アクア:

「なかなかやるわね、彼。どうやら〈料理人〉のスキルを上乗せさせているみたいね。アレだと戦闘にも応用できるかも?」

シュウト:

「なるほど」


 総合すると、こうした勝負方法の選択・設定などを含めて上手かった。包丁を武器に選ばせたりしていることもあって、こうなるとジンが勝てるかどうか微妙になって来ている。あの小さな包丁でどうするつもりなのやら。

 ジンには無敵の〈竜破斬〉がある。刃柴は何も指定しなかったので特技を使ったとしても、あの特技では、包丁のサイズ分までしか切れない。それだと良くても引き分けになってしまうだろう。


刃柴:

「どうだ!」

ジン:

「……じゃあ、俺の番だな?」

刃柴:

「ヘッ、やめんなら今のウチだぜ? もし俺に勝てたら、あの肉、全部くれてやるよ!」

ジン:

「待ってろ。そのセリフ、すぐに後悔させてやる」


 ジンが軽く一歩踏み出すと、空気感が変化した。戦闘モードというよりは、切断モードと呼んだ方が良さそうな鋭い気配。敏感な観客数人も表情を変えていた。


 牛の状態などお構いなしで包丁を振り上げる。片手のまま、しかも青いエフェクトなどは発していないままだ。


ジン:

「フッ!」


 ムチのような柔らかな腕の動き。肉の抵抗を感じさせずに、上段から下段まで一息で切り抜けてしまう。このあたりはさすがだった。

 その後、一拍あったかどうか。……肉の左半分がズレ落ち、重たい音をさせて転がった。その半分が失われたことにより、右側も支えていた器具ごとバランスを失って倒れてしまう。大きな音がして、天幕が全体的にメチャクチャな感じになっていた。


ジン:

「……刃が短いなら、衝撃波で切ればいいじゃない?」


 などと、どこかの王女のようなセリフを言うジン。〈守護戦士〉の特技・パルスブレードを使ったらしい。

 それにしたところで、状況が予想を超えてしまっている。これを見ていた観客は、誰も、何も言えなかった。


刃柴:

「……き、きたないぞ!」


 いち早く回復し、口を開いたのは当の刃柴だった。


ジン:

「何が?」

刃柴:

「特技を使っていいなんて言ってないだろ!」

ジン:

「使っちゃダメだなんて一言もなかったろ。 ここにいる観客は全員証人みたいなモンだぞ?」

刃柴:

「ぐっ……。審判! どっちの勝ちだ? アンタが決めてくれ!」


 アクアの方に向かって叫ぶ刃柴だった。解説役から審判役にされ、彼女は眉をひそめる。彼女はジンの知り合いなのだが、だからといって無条件でジンの味方をする訳ではない。そんな贔屓が必要な関係ではない気がする。公平なジャッジを期待したらしいが、どちらかと言えば、勝ちたくて選んだ相手だったろう。


アクア:

「残念だけど、見た通りでしょう」

刃柴:

「だが特技を使っちまったら、刃物の勝負にならないだろ!」

アクア:

「わからないかしら? 彼が特技を使ったのは、貴方のせいよ」

刃柴:

「……? どういうことだ」


ジン:

「シュウト、こっちこい!」


 落ちた左半分の肉の所で手招きされる。アクアと刃柴の会話を聞いていたい気もしたのだが、とりあえず呼ばれたら行くしかない。


シュウト:

「なんですか?」

ジン:

「約束だから持って帰る。コレ、お前のところに入れろ」

シュウト:

「僕のマジックバッグに入れるんですか? …… 入るかなァ?」

ジン:

「俺はあっちの右側のを入れていくから、な?」

刃柴:

「ちょっと待て、この肉ドロボー!!」

ジン:

「なに言ってんだ? 俺が勝ったんだ、もう俺の肉だろ常識で考えて」

刃柴:

「ダメに決まってんだろ!?」

アクア:

「……ね、言ったとおりでしょう?」


 アクアが自然な足取りで近づいてきて、刃柴の後ろから声を掛けた。


刃柴:

「なんの話だ? つか、もうあっちに行っててくれよ!」

アクア:

「貴方が『肉をあげる』なんて言うからよ。あのまま普通に刃を入れてたら、料理人じゃない彼のせいで、この牛が一頭まるまる食べられなくなっていたかもしれない。でも、こうして特技を使ったことで、『調理』ではなく『物理破壊』として認識されているんじゃない?」


 考えが足りていなかったのか、青ざめる刃柴。ジンの切断面は輝くような美しさで、肉が本物のままであることを示している。

 更にアクアは距離を詰め、耳元で彼だけに聞こえるようにささやく。


アクア:

「あんな包丁で特技を使って、本当に『この威力』になるのかしら? 貴方になら、分かるわよね?」


 刃柴の心が折れたのが分かった。彼は敗北を認め、これでジンの勝利が決した。

 後は〈刀吉楼〉のギルドメンバー総出で謝罪大会である。刃柴みずから頭を下げ、「全部は勘弁してください!」ということで、約20キロのブロック肉で決着となった。


シュウト:

「なんか、イチャモンつけて20キロのお肉をかすめ取っただけなんじゃ?」

アクア:

「……そういう見方もあるかもしれない。けれど、正当なパフォーマンスへの対価という考え方もあるわ。切断のプロフェッショナルによる最高度のパフォーマンスよ。真の問題は、それに何人が気付けるか?ということだけど」

シュウト:

「なるほど……」


 もし、こんなパフォーマンスが見られると分かっていたのなら、自分ならお金を払ってでも見に来ていただろう。もちろん、それが予告されていればの話だ。


ユフィリア:

「……ねぇねぇ、これってなんの騒ぎ?」

ジン:

「んー? お肉を分けて貰っただけさ」

シュウト:

「後で話すよ。移動しましょう」


 ユフィリア達がやってきたので、目立ってしまう前にその場を後にした。





ジン:

「んで、そっちは最近どうなんだよ?」

アクア:

「そうね、今だとローマで大きな動きがあるわ」


 選んだのは、以前にも利用した個室のある酒場だった。テーブルに料理が並ぶまでの間、さっそくユフィリアが戦利品の報告を始めていた。それから一通りの料理を堪能し終わり、ちょうど雑談が始まったところだ。


アクア:

「基本的にどこの国でも、『街の中』で権力争いをする形になっているわね。闘争を常態化させることで、均衡を生み出している訳ね」

ユフィリア:

「みんな殺し合いしてるの?」

ジン:

「冷戦みたいな睨み合いってことだろう」

アクア:

「小さい例外はいくつもあるのだけど、日本みたいな所は珍しいわね」

葵:

「それで、ローマじゃ何が起こってんの?」

アクア:

「一つは、聖女と呼ばれる人物が現れて、宗教的な象徴になり始めていること。……もう一つの方が重要で、フランス最大にして最強の戦闘ギルドが、ローマへの移住を決めたわ。しかも、第2位の規模の生産ギルドを引き連れて、ね」

シュウト:

「それって、この街で言えば〈D.D.D〉がロデ研を連れて出て行っちゃうような話ですよね……?」


アクア:

「フランスの約1/3が、パリ、この世界でいうヴィア・デ・フルールから、イタリアのローマ、この世界でいうセブンヒルへの移住を決めたことになるの。そんなことをしてのけたのが、『赤き暴風』っていう〈守護戦士〉ね。その結果、彼――レオンは、かなりの広域を巻き込んで『中心』と『周辺』を生み出してしまった」

シュウト:

「どういうことでしょう?」

ジン:

「さっさと権力争いを止めて、ローマへの移住を決めたってことだろ。当然、こうなればパワーバランスは崩れる。パリは大混乱だろう。つまり、その男は意図的に『中心を決めた』ってことになるな」

葵:

「そうなれば周囲の街、ううん、周辺の国からだって、プレイヤー達が集まり始めるだろうね。人の集まっている所に、人は集まる習性があるもん。セブンヒルが中心になって、他は周辺化するわけでしょ?」

ジン:

「やがてローマが無視できない程の影響力を持つようになれば、街中の権力闘争なんてやっていられなくなるだろう。こうなっちまえば、どうしたってローマに対抗しなきゃならなくなる。協力しなければ、『権力争いをするだけの価値なんて無い街』になってしまうんだからな」

シュウト:

「ですが、……もともとの争いの種って、アキバの場合だと『旨みのあるゾーンを独占するため』でしたよね?」

ジン:

「部分的にはそうだが、この世界だとある程度まで人間が集まって生きていかなきゃならない。新料理法とスキルシステムの関係から、1人1技能が前提になっちまってる。

 人が減れば、ゾーンの奪い合いがなくなる意味もあるかもしれないが、共同体として生活を維持できる最低人数がどのくらいか?ってのはあるだろうな」

葵:

「技術的な進歩・発展から取り残されれば、不安にもなるだろうし、結局は不便だから魅力も感じなくなる。シブヤから人が消えたのも同じだよね」

アクア:

「それだけじゃないのよね。周辺の都市でも『人類の反撃はローマから始まる』って言ってたわ。念話を使って、広域でプロパガンダも同時に展開しているみたい。長距離を移動できる戦闘力のある〈冒険者〉達は、もうセブンヒルへ移住するかで悩んでいるみたい」

ジン:

「マメなこった」

アクア:

「この星の裏側では、ローマが中心になるわ。今の流れなら、これは動かないでしょうね」

シュウト:

「かなりの人数が集まりそうですけど、食料とかは大丈夫なんですか?」

ジン:

「歴史的に考えれば、シチリアを確保するのが大前提だな」

アクア:

「……もともとセブンヒルは珍しい複合都市なの。単なるプレイヤータウンじゃなくて、〈大地人〉とその貴族達も同じ街で生活しているから、食料も集まり易くなってる」

ニキータ:

「マイハマとアキバが合体したような場所ってことかしら?」

ユフィリア:

「私、行ってみたい!」

アクア:

「向こうがもう少し落ち着いたら、ね?」


 なんだか凄そうな話だったが、どのくらい凄いことなのかはよく分からなかった。規模が自分の想像を超えてしまっている。


ジン:

「ところで、『聖女』ってのは何者だ?」

アクア:

「噂じゃあ『奇跡の使い手』って言われてるわね。彼女を中心に新しいギルド〈聖堂教会〉が作られたんだけど……」

葵:

「キリスト教がモチーフ?」

アクア:

「当然。……お題目は『すべてのプレイヤーを救済するためのギルド』らしいけど、そこにレオンが仲間と共に入ってしまったのよ。これでチェックメイト。

 ヨーロッパ最大のプレイヤータウン『花の都(ヴィア・デ・フルール)』から、半分近いプレイヤーを連れ出して『辺境化』させ、しかも自分たちは単体の巨大ギルドをローマに作り出した。今後、この流れは更に加速する。誰も見たことがない規模の巨大ギルドが誕生するわ」

 

 普段と変わらないようでいて、その口調にはかすかに興奮している様子が感じられる。アクアにしても、かなり『面白いこと』に感じているのだろう。


葵:

「人間も、なかなか捨てたもんじゃないね」

ジン:

「だが、結局は天才だのみってことだ」

アクア:

「行動力も、視点もスケールが桁違いだものね。一つ一つのアクションが周囲に巨大な影響を与えてしまっている。変革と言ってもいい。既に英雄視され始めているわ。『ナポレオンの再来』ってね」

ジン:

「それじゃ、結果は島流しだな。……まぁ、〈ノウアスフィアの開墾〉と関係なく帰還できるかどうか調べんのは、ローマの連中にお任せでよさそうだな」

シュウト:

「そうかもしれませんね」


 問題は、〈ノウアスフィアの開墾〉が関係している場合なのだ。舞台は極東の日本にならざるをえない。


ジン:

「…………んで、その男、ちったぁ強いんかい?」

アクア:

「フフン。そこら辺も桁外れみたいよ?」

ジン:

「ふぅーん」


 瞳に走る興味の色を一瞬で消し、つまらなさそうに相槌を打つジンであった。





 ――同じ時刻、同じ酒場の、違う個室にて。


静:

「もうダメ、絶対嫌われた、嫌われたよぅうううう」


 もう何度目なのか、静がテーブルにかじり付くようにしながら、涙目になって同じセリフを繰り返している。小さな可能性をさぐっては、『やっぱりダメ』だの、『絶対嫌われた』だのと言ってばかりいる。あまりにも未練がましい。あの日の飲み会からもう一週間も経っているのに、まだ後悔している。しかし、それが静という女の子だった。


まり:

「でも、ボミったんじゃしょうがないって~」

りえ:

「諦めよう、そうしよ? ……よし、敵がひとり減った」にやりん

静:

「やだ、やだぁ!」


 まり&りえコンビと飲みで合流したのだが、さっきからずっと静をイジって楽しんでいた。よくも飽きないものだと思う。

 まり&りえの二人組は、ごく普通の女の子だ。だからといって『普通じゃない』というのもよく分からなかったりする。

 まりは、外見的には髪も短くてサッパリ・サバサバしてそうに見えるが、中身は凄く女の子。逆にりえは髪も長くて女の子している外見なのに、中身はサバサバしていた。


サイ:

「やっぱり、死ぬほど後悔した」

静:

「だって、だってだよ? まつりちゃんだって……」

サイ:

「今は、サイ」


 私は本名のまつりで呼ばれるのがあまり好きじゃない。いろいろと理由はあるのだが、お祭り騒ぎとは縁が遠い性格という事もある。

 祭はサイとも読める。サイは超能力の接頭語『PSY』に通じている。だから、プレイヤーネームもハンドルネームも昔からサイと名乗っていた。強そうな名前が良い。弱い自分は好きじゃない。


りえ:

「フフ。サイってシュウトさんの『お気に』だもんね?」

サイ:

「そんなことない。ただ、タンク役だっただけ」


 断じてお気に入りではなかったと思う。メインタンクは連携の要になるので、丁寧に教える必要がある。そこは役得だったかもしれない。


まり:

「だけど、途中まで女の子って気がついてなかったよね」

りえ:

「マジで?!」

まり:

「そんで包囲戦の始まりの時、そー太じゃなくてサイをメインに選んじゃったじゃない?」

りえ:

「そうだったっけ?」

サイ:

「……(こくり)」

まり:

「後で女の子だって知って、そーとー狼狽えてたよ。『やっちゃった!』みたいな顔してたし」

りえ:

「きゃははははは!」


 でも、あの時は嬉しかった。実力で選ばれたと思ったから。もし、女だと知られていたら、きっとそー太を選んでいたと思う。一時は、女だと知っていても、それでも選んでほしいと考えたこともあった。けれど、そー太とそこまで実力差があるわけでもない。これで選ばれたりしたら、『女だから依怙贔屓された』と思ってしまったかもしれない。

 ……なので後から考えてみると、一番良い形だったのではないかと思っている。気付かれていなかったから、実力だけで評価して貰うことが出来た。


りえ:

「サイのって、装備が男の子だよね。もうちょっと女の子っぽいパーツも混ぜてみたら? 花柄のバンダナとか腕に巻くだけでも違うと思うよ?」

サイ:

「それは……」


 その発想は不思議と無かった。女性向けのものは、女の子女の子している鎧が多いのだが、可愛いというよりもエッチなのだ。肌を出すものも多い。だから、ちゃんとしたものを選ぶと男性向けのものになってしまう。だけれど、一部分にそれらしいものを混ぜたら、誤解されなくて済むのかもしれない。


静:

「水着アーマーの時代は終わった、時代は下乳アーマーだ!とかって聞いたことあるけど」

まり:

「……そんなんだから、シュウトさんに」

静:

「やめて! 隊長のことは忘れさせて!」

りえ:

「『残念だよ、静は僕のこと、忘れたいんだね? でも僕は、君の事は忘れたくない……』」←シュウトの真似

静:

「ぎゃー!」

まり:

「あんま似てないじゃん」

りえ:

「うそ、似てるでしょ? けっこう自信あったんだけど」


 かなり美化した感じのモノ真似だったが、雰囲気はあっていた気がする。


静:

「ひっく、えっぐ(涙)」

りえ:

「んで、結局はどうするの?」

サイ:

「どう?」

まり:

「あたしらもそろそろ落ち着きたいというか。身を固めたいというか?」

りえ:

「まりちゃん結婚する相手、いたの?」

まり:

「違うってば。シュウトさんトコのギルドに入れて貰おうよって話。静がこんな調子だと、ねぇ?」

サイ:

「申し訳ない」


 口の軽い静が軽い調子で「入れてくださーい」とか言うものだとばかり思っていたのが、蓋を開けてみると逆に足を引っ張る側だったりした。酷くやらかしてしまったため、恥ずかしくて、もしくは怖くて顔を合わせられないと言っている。


りえ:

「赤音ちゃんとレイラは?」

まり:

「レイラは男いるからパスだって。赤音ちゃんは不思議っ子だから分かんない。どっちでもいいっぽいよー」

りえ:

「敵は少ない方がいいよね」

まり:

「そこは誘ってやれよ!」

りえ:

「やだなー、……冗談だよ?」きゃぴっ

静:

「レイラって彼氏いるんだー、いいなー彼氏。 あたしにも優しくしてくれる素敵な人いないかなぁ?」

まり&りえ:

「「いない」」

静:

「しどい!?」

サイ:

「隊長のことは、もういいの?」

静:

「えーっ、だってさー。一瞬、『何このゴミ?』みたいな目で……。ああん、思い出しただけで死ねそう!というか、もう死ぬ」

りえ:

「うん、死んじゃえ」

まり:

「お姫さまダッコなんてしてもらって、更にキスまで要求しといて、その体勢のままボミったんでしょ? そりゃ女としてゴミでしょ?」

りえ:

「ゴミだね」

静:

「やーめーてー! もう死ぬ! 死ねる! お願い、誰か殺してぇ~!」


 静は荷物から毛布を取り出して、羽織った(かぶって半分引きこもった)。真夏の夜なのに、寒けすら感じているのかもしれない。

 ちなみに、まりの言う『ボミる』は、嘔吐の英単語 vomit から来ている、らしい。


まり:

「だけどさー、あたしらって、仮にシュウトさんのギルドに入ったとして、そこで居場所があるのかな?」

りえ:

「居場所? ……なければ作るまででしょ!」ふんす

まり:

「あの最後の夜にさ、すっごい美人いたじゃん?」

りえ:

「お尻ぺんぺんされてた人?」

まり:

「違う。そっちもだけど、居たじゃん〈D.D.D〉と一緒に来たお姫様ライクな人。別の生き物っていうか、もう同じ人間じゃない、みたいな?」

りえ:

「はいはい。エルフのお姫様を地で行ってる感じの?」

まり:

「そうそう。あの二人、二人ともが隊長のギルドだったんだよね」

りえ:

「ぐう強敵」


 なるほど、言われてみると(女子的な意味で)巨大な戦力差がありそうな気がする。


りえ:

「だけど、シュウトさんの付き合ってた子とはタイプ違うじゃん」

まり:

「そこかなぁ?」

りえ:

「そこでしょ。つか、あたしはたぶんイケると思ってる」

静:

「ど、どうして?」

りえ:

「戦力があるからね」


 戦力と言いながら、手で自分のバストを揺らせてみせる。冗談にしても、ちょっと、それはどうなのか。


静:

「あぐっ。ズルいよ、それズルだって!」

りえ:

「静には少しばかり厳しいかもね、現実ってヤツは。でぇ~もぅ~、まりちゃんだったら大丈夫だよ~!」

まり:

「ヤメい! 揉むんじゃない!」

りえ:

「ヌルフフフ。やわやわ~」


 確かにあのユミカという人は、背の割にかなりの戦力があった。りえにも大きな戦力があるが、この中では、なんといってもまりが一番の大戦力だ。比較して、自分と静はさしずめ巨大資本の前に運命を翻弄されてしまう小企業のごとき存在感しかない。何を食ったらあんなになるのだ。キャラ作成の時に『盛った』としか思えない。エルダーテイルはMMORPGではなくOSORPG――オッパイ詐欺オンラインRPG、に違いない。


まり:

「どっちにしても、なんか切っ掛けがないとねぇ」

りえ:

「また飲み会あればいいんだけどぉ」

静:

「……ゴメン、まだ無理」

サイ:

「自業自得」





アクア:

「問題は、貴方の魂に強さがないことよ。表現者にとっては致命的、良く言っても大きなハンデね」

ニキータ:

「はぁ……」


 シブヤに戻り、しばらくしてからアクアのレッスンが始まった。一曲歌ってみるように言われ、その通りにすると、評価の代わりに『魂が弱い』と結論を下されてしまう。サラりと致命的などと言われても、どうしたらいいやらわからない。


アクア:

「このままだと、歌い手としての成功は望めない。それはこの世界では、イコールで強くなれない、ということよ」

ニキータ:

「その、魂を鍛えるということは可能なんですか?」

アクア:

「出来なくはないと思うけど、止めた方がいいわ。大抵の場合、女の子は身を持ち崩すことになるから。レイプされたりとかが多いし、クスリも含めて重犯罪に手を染めるケースもある。失恋程度なんて、成功してる歌手でも普通に通る道だもの」

ニキータ:

「ああ……」


 よく耳にする『芸能界の派手なゴシップ』などは、魂を鍛え、高める手法として機能しているのかもしれない。


アクア:

「みんなそういうものに躊躇がないの。それ以上に、歌手としての成功を望んでいるとも言える。そういう魂の強さが、結局は成功を引き寄せたりするのかもしれないわね。もっと言えば、そうやって何かを表現せざるを得ないところまで自分を追い込んでいる。大抵は自分自身を癒すため。でもそれが、歌を聴く人達の心も癒す音楽を生み出す切っ掛けになっている」


 そこまでの覚悟が自分にあるのか?と言われれば、やはり無い。


アクア:

「ただ、……『あの男』なら、貴方の才能を高めるぐらいのことは平然とやるかもしれないわ。だけど、どこまでが才能で、どこからが魂なのかは私にも分からない。そもそも魂なんて無いのかもしれない。けれど、最後の最後で魂のような『何か』が強いかどうか問われる時が来るわ。だから、貴方は貴方に向いている分野を見つけるのが賢明だと思う」


 『あの男』とはジンのことだろう。ジンもまた、才能と運を区別していた。人の手では届かない『不可侵領域』のようなものを、二人とも感じているのかもしれない。


アクア:

「『形に囚われる必要はない』なんて言う場合もあるけれど、それは自分の形やスタイルを見つけることが出来た一流の人間にだけ通用する言葉よ。貴方のように魂に強さが無い場合、『自分らしさ』がどんなものか分からないままかもしれない」

ニキータ:

「では、どうすれば?」

アクア:

「まずは、人のスタイルを真似することね」

ニキータ:

「真似、ですか?」


アクア:

「そもそも真似から学習は始まるでしょう? 初学者は人の真似をするべきよ。自分に特徴がないなら、他人の特徴を吸収すればいい。

 ……それでも、ある程度から先は自分らしさを追求する必要がある。人真似が推奨されない理由は、自分の個性を見失ってしまうからだし、『自分の個性』が邪魔をするからなの」

ニキータ:

「自分の個性が、邪魔になる?」

アクア:

「真剣に真似をしようとする時、個性の無さはスタイルの邪魔をしない。それだってきっと個性になる。本当に何も持っていない人間なんていないわ。ただ、その時のその個性が『通用するかどうか』が話として別というだけ。人間の人間らしさは、輪郭によって決まるし、それは他者の中で見出されるものでしかない」

ニキータ:

「輪郭……?」


 もうこのぐらいから意味が掴み切れなくなっている。それを察したのか、強引に纏めに入るアクアだった。


アクア:

「ともかく! 表現において『自分の世界』を持たないことは、これ以上は無いほどのハンデだけど、逆に武器にもできる、ということよ!」

ニキータ:

「具体的に、どうすれば?」

アクア:

「演じなさい。名優にはカメレオンと呼ばれる人もいるわ。様々な役柄をその都度、その状況に応じて変化させられる人達がね」


 ぼんやりとモノマネ芸人ぐらいのイメージで話を聴いていた。そっくりに演じるテクニックは驚嘆すべきものがあって、あまりああいう風になれるとは思えなかったのだ。しかし、役者を目指せと言う。

 『女は全員が女優』などと言われるが、こうして俳優・女優を引き合いに出されると、こう、あまり身の丈に合っていないような気がしてしまう。


アクア:

「……私はね、自由自在にあらゆる声が出せるけれど、その代わりに『自分だけの声』は失ってしまったの。だから今でも、どんな声で、どういう風に歌えばいいのかはよく分からないままだわ」

ニキータ:

「それは……」


 〈吟遊詩人〉として、歌い手としても圧倒的な実力を持ち、常に自信に満ちあふれて見えるアクアでも、こういう風に何かに悩んでいると聞かされて不思議な感覚になる。彼女こそ個性の固まりのようにしか見えない。そんな彼女の抱える問題に比べれば、今の自分は何も悩んでいないような気にさえなってくる。


アクア:

「本来、人はそれぞれが持っている武器で戦わなければならない。でも、こうなった以上、私も様々な声を試しているわ。それでも何が最高なのかは、未だに分かっていない。世界には様々な個性があるし、その全てが美しいわ。あらゆるものがスペシャルなのよ。……こうなってみて、それが良く分かるようになったわ。 それは、きっと貴方も同じなんじゃないかしら?」

ニキータ:

「同じ、ですか?」


 何が同じなのか分からなかったが、微笑むばかりでアクアは教えようとはしなかった。


アクア:

「まず、私を思いっきり真似なさい。……そうね、それが上手く出来たら私のコーラスに入れてあげる。貴方が第一号よ。光栄に思うことね!」





シュウト:

「ダメか……」


 ベッドでしばらく目を瞑っていたのだが、どうにも眠れそうにない。体を起こしてから、暗視の特技を使った。ここはスイッチ一つで電気が付くような世界ではないし、光をどうにかするのは手間なので、暗いと暗視を使う癖が付いてしまっている。


 戦闘用の装備に着替え、練習に使う弓と矢を持ったか確認して、そのまま窓から飛び出した。大した高さはないし、深夜のギルドホームを歩くのに比べても気を使わなくていい。ストンと軽い着地を決める。大した音など出ないし、出さない。


 ぼんやりと月を眺めながら、街の外へ。周囲を確認し、散歩も兼ねた遠回りをしながら、隠れ家的練習スペースへと向かう。

 コマンド一つで明かりの点る魔法のランタンを、マトにする木の所に置く。そこそこ離れた位置にまで移動。自分自身は暗闇に紛れてしまっていた。ランタンの明かりもここまでは届かない。


 弓を構え、矢をつがえる。同時に心を沈め、無へと近付けていく。膨らんだ『気』をコントロールして、矢に乗せた。指先の感覚を尖らせ、放つ。……暗闇から浮き出すように矢が現れ、マトに使っている木に突き刺さった。


シュウト:

「ふぅ……」


 モヤモヤとした気持ちが軽くなる。矢と共に気持ちを飛ばしてしまったからだ。これはベヒモスと戦った時に気が付いた特殊な効果の一つで、感情まで矢に乗せて飛ばすことができるらしい。それを応用して、眠れなくなるとこうして矢を射るため、何度かここに来ていた。


 また一本、さらに一本と矢を射る。心がからっぽになるまで、こうして矢を射続けるのだ。そうして最後まで矢を射ると、やがてぽっかりと心に穴が空き、何も感じられなくなる。


 矢をつがえて、射る。


ジン:

「なるほど、こういうワケか。ただの自主練かと思いきや」

シュウト:

「…………」


 気付かれるとしたらこの人しかいないので、少しだけ予想はしていた。いつか、何か言われるかも知れないと思っていたし、……実は言って欲しかったのかもしれない。


ジン:

「随分と、まぁ、悲しい矢を撃ってんじゃねーの?」

シュウト:

「その、眠れなくなると、こうするのがいいのかな、と」

ジン:

「ふぅ~ん。別にいいけどさー。新必殺技『失恋の矢』ってか?」


 バレバレ過ぎていてどうしようかとも思ったが、何本か矢を射てしまっていたためか、あまり何も感じなかった。


ジン:

「失恋の痛みをあんまり顔に出さないと思ったら、こういう風にしてたとはねぇ。なるほど、考えやがったな」

シュウト:

「いけませんか?」

ジン:

「別に。……そういうお前は、自分でどう思ってんだよ?」

シュウト:

「思い出まで消えるわけじゃないんです。それだったらこんな事してません。ただ、辛いのが嫌で、仕方なく……」

ジン:

「青春だねぇ。……俺の〈竜破斬〉は、気の循環・蓄積から溢れた余剰エネルギーを使っている。そういう風にするにはまだまだ時間が掛かるだろう」

シュウト:

「はい……」

ジン:

「フフッ。お前、もっとさぁ、『尽きせぬ心』みたいなのを見つけろよ。汲めども汲めども、尽きることのない正義の矢を放つ、みたいな」

シュウト:

「昔のヒーロー物か何かですか?」

ジン:

「そんなのも居たかな? どっちにしても、そのままだったら戦ってる最中に、戦う理由だとかを失っちまうかもしれないだろ」

シュウト:

「それは…………でも、体は動きます、から」


 体が動けば、迷惑は掛からないと思った。


ジン:

「うへぇ。めんどくせぇ。んー、ま、好きにしてみろ。よくよく吟味することだ。…………っと、そうだ」

シュウト:

「なんでしょう?」

ジン:

「その『感情の矢』、一本分ぐらいは残して上がれ。悲しみと向き合うのも修行だ。心配しなくても、どうせしばらくすりゃ、なんも感じなくなる。今ぐらい落ち込んどく方がいい」

シュウト:

「…………わかりました」


 ジンが去った後も、矢を射続けた。惰性の動きで最後の一矢を取り上げたところで、矢筒に収めなおす。


 矢にして一本分の悲しみぐらいは、引き受けるべきなのかもしれない。空っぽになって部屋に帰ってくると、横になっても眠れないままボーッと明け方まで起きていることも多かった。睡眠は短時間でも平気なので問題は無かったけれど、この日はよく眠れた。


 何も感じなかったけれど、悲しみを捨ててしまうことにどこか罪悪感があったのかもしれない。それを感じたくなかったのかも、しれない。

 

 

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