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84  胡蝶の夢

 

葵:

(あー、またこの夢じゃん)


 夜のような漆黒の空。巨大な神殿に続く長い階段を、一歩、また一歩と歩いていくのは、『あたし』だった。あたしは、後ろの高い場所からあたしを見ているようでもあり、自分で階段を登っているようでもあった。夢にありがちな不思議な感覚。


葵:

(この夢、苦手なんだよねー)


 あたしにとっては、まぁ、悪夢みたいなものだ。

 階段の左右には人の形をした石像のようなものが並んでいる。それも何万体あるのか分からないほど、たくさんだ。そして夢の中の『あたし』は、“とある場所”に向かって何の迷いもなく歩いていく。そこ、ちったぁ、悩めよ。


 これが『何なのか』はよく分からない。起きたらあんまり覚えていないんだよね。


 ときたま、不思議に思うことがある。

 〈冒険者〉の身体って奴は、死んでも蘇る。これは死なない能力である『不死身』よりも厄介な、『不滅の存在』という奴だ。

 『不死身』の場合、どうにか殺す手段を見つけて、殺してしまえば、そのまま復活できないって可能性もある。不死身なら死んだことがないだろうから、復活する能力まで備わっているとは限らないからね。


 ところが、ゲームキャラクターとしての〈冒険者〉は、あっさりと死ぬ。死にまくる。そして、いくら死のうがまるで気にしない。何度だって蘇ってくる。ゲームセンター風に言えば、『無限の連コイン』状態だ。マナーなんてありゃしない。殺せるけど、殺せない。うーんと、決着を付ける手段がないって感じかな。


 もしも、そんな『面倒な存在』が世の中に実在していたとしたら、どんな感じなんだろう? 物質的に考えて、そのあまりの『消滅しなさ』具合にドン引きしてしまいそうだ。煮ようが焼こうが、斬りつけようが、ドロドロに溶かそうが、もっと核ミサイルを使おうと、まるで消滅させることは出来ない。いや、消滅はする。しても、ただ何事も無かったように戻ってくる。ダイヤモンドのような物質的な硬さとは違う。死んで、消滅して、でも戻ってくる。そんな『柔らかい硬さ』があるのだ。これはもう、カーズ様のように宇宙をさまよう漂流の刑にするしかないかもしれない。ま、帰還呪文を使えばどっかの街にもどっちゃうんだけどね。


 ゲームだった時は、ログアウトしちゃえば画面から消える。知り合いの使うキャラがログアウトした場合は、居なくなる。ゲームを終了しちゃうから、その後はどうなるのか分からないわけだ。それで何の問題もなかった。だってゲームなんだもん。


 だけどだよ? ゲームが現実になっちゃったとしたら、不滅の〈冒険者〉の肉体は、プレイヤーが離脱した後で一緒に消えちゃうのだろうか? こういうニッチな問題って、同人誌とかの薄い本ではネタにされるものなんだけど、ログアウト・ゲートの側でずっと待機してるかもしれないんだよね。

 まぁ、薄い本の場合だと、プレイヤーの精神が入っていない肉体が放置されてたりすると、途端に性的な悪戯をする展開になるわけなんだけども。そういえば〈冒険者〉の身体には処女膜が無いって話もあって、それは実は……。なんてね! おいおい、シャレになってないって。


葵:

(もう直ぐか……)



 夢独特の時間ワープが発生して、目的地の近くまであたしは既に歩いて来ていた。次の瞬間、振り向いたあたし自身と目が合ってドキリとする。……そうだった。いつもココで振り返るんだよね。目が合ったと思ったのはこっちのあたしだけで、向こうのあたしは誰もいないのを残念そうにして、先に進んでいくのだけど。


 えっと、何の話をしてたんだっけ…………?

 そうそう。不滅の〈冒険者〉の身体がどっかに放置されてるかも、ってところだったよね。だけど、〈エルダー・テイル〉は20年も続いているゲームな訳で、中には飽きてやめちゃったりする人もいるわけで、それはそれなりの数がいる訳ですよ。


 ゲームを止めちゃったプレイヤーからすれば、二度とログインしなければ済む話かもしれない。でも、この世界からすれば不滅の存在を産み出しちゃった訳で、それは果てしなく蓄積され続けるのかもしれないんだよ。だって、飽きて辞めちゃって、ゲームをアンインストールしていたとしても、またダウンロードして、基本コース分の料金を支払えば、元のキャラクターを使うことが出来ちゃったりするんだもの。現実側でもそんな感じなのだ。じゃあ、ゲーム側はどうなってしまうのか? これまで産み出された、もうログインされることのない、もしくは〈大災害〉に巻き込まれずに済んでログインしていなかった大多数の〈冒険者〉の身体は、一体どこにあり、数はどのくらいになるのだろうか?


 それはちょうど、この階段の左右にみっちりと置かれている膨大な数の石像ぐらいの数になるのかもしれない。となれば、この場所はあたしにとってのログアウト・ゲート神殿のイメージってことになりそうなのだ。


 そうして悪夢の終点にたどり着く。途中で時間ワープしているから短かったけど、長い長い時間の果てにここにたどり着くのだ。……これがあたしの悪夢。しかも最後の展開が鬱なんだよねぇ。



葵:

「うあぁぁ……」


 泣きたいのか、笑いたいのか、悲鳴のような声を出し、一体の石像に近付いていくあたし。それは若かりし頃のあたしによく似た石像だった。16歳の自分をモデルにした昔の姿。〈施療神官〉のクラスを使っていたころのあたしだった。アイテムロックのためにメイン装備は売り払うことが出来なかったのよ。2年、というか3年近く前のものだけど、当時のハイクラス装備。まぁ、幻想級は持ってなかったから、もうとっくに時代遅れになっちゃってるんだけど。


 未練だよねぇ。

 ユフィちゃんに先生ヅラしていろいろと教えるようになったから、こういう夢をみるようになっちゃったんだと思う。〈施療神官〉のクラスのままだったら、今頃、ダーリンと一緒に、おまけでジンぷーも連れてってやって、冒険していたのは自分だったんだろうなーって考えるもん。考えなきゃ嘘だよ。


 昔の身体が目の前にあるのに、何もできない。足手まといのあたし。無力感に苛まれなきゃならない理由なんて、ホントはないのにね。





 ――目を覚まし、寝ながら涙を流していた自分を発見する葵。悪夢の中身はおぼろげでしかない。泣いていたから悪夢だったのだろうと思うような、曖昧さだけが残った。胸の寂しさを埋めるように、隣に寝ているレイシンに抱きつく。


レイシン:

「…………怖い夢をみたの?」

葵:

「わかんない」


 ――レイシンは優しく声を掛け、葵の頭を撫でた。まるで起きていたかのように。葵は悪夢をみる度にそうしてしがみついていたので、レイシンはまただろうと思ったのかもしれない。

 

レイシン:

「どんな夢だったの?」

葵:

「なんか、ずーっと階段を登ってる夢」

レイシン:

「ふうん。そうなんだ?」


葵:

(蒼い月……?)


 ――暗いのは夜だからだろうと思ったが、葵はどこかに何か違和感を感じていた。違和感の正体について考えを巡らせていたとき、ふと、蒼い月を見たような気がした。

 しかし、そんな夢の記憶も、まどろみの中で空想とごちゃまぜになってしまう。夢の扉が再び開かれ、ゆっくりと落ちていく。


 微かな寝息を立てる葵の姿に安堵して、レイシンも再び眠りにつくのであった。





 起き抜けに、いつものようにさつき嬢への報告を始める。


シュウト:

「そんな訳で、居ついて『ウッ』となったら、『マンゴー』だが『マンボウ』だかを言わなきゃいけないことになりまして……」

さつき:

『ははは。面白いじゃないか。ウチの連中に真似させてもいいかもしれないな』

シュウト:

「どこが面白いんですか? 悪ノリし過ぎですよ。本当に、最悪じゃないですか」

さつき:

『……うーんと、シュウト君』

シュウト:

「はい」

さつき:

『どうやら君が勘違いしているようだから言うのだけど』

シュウト:

「なんでしょう?」

さつき:

『実戦で居ついてたら、即、死に直結するぞ。マンゴーだとか言う程度のペナルティなんて、曖昧で軽すぎると思うのだが、違うかな?』

シュウト:

「それは……、そうかも、しれません」

さつき:

『ジン殿は、奥深い配慮をなさる方だと思うぞ』

シュウト:

「…………」


 こうして改めて言われると、真っ当な事だったのかもしれないと思う。なぜか、さつき嬢の言うことだと心にキチンと届くのだ。だが、ほんのりと美化しすぎている部分があるように思えてならない。


シュウト:

(本当にそうならいいんですが、時々なぁんにも考えていないような気がして……)


 口に出して言えないことも、間々あるのだった。





シュウト:

「おはようございます」

ジン:

「うーす」

葵:

「オッス、おはようさん」

シュウト:

「……なんだか、いつにも増してグッタリですね」


 さつき嬢との念話を終えて、降りて来たのだが、ジンがソファでヘタバっていて、明らかにパワーダウンしている。


ジン:

「うむ、中華を食った後にな……」

ユフィリア:

「おはようございまーす!」

葵:

「うおっ、まぶしっ!?」


 こちらはキラキラモード全開、ビッカビッカと輝きまくりのユフィリアだった。そもそもキラキラ輝いてみえるというのは目の錯覚のはずなのだ。しかし、その目の錯覚自体を疑ってしまうような、もっと〈冒険者〉に発光機能があるような気がしてくるほどの輝きっぷりである。……実は何かの特技でも使っていて、ライトエフェクトでも発動させたのでは?などと考えてしまう。

 葵は無言でジンを指さし、その指を移動させてユフィリアを指し示した。そう示されると、確かにエネルギー的なものが移動したような気がしてくる。


ユフィリア:

「シュウト、おはよー!」

シュウト:

「おはよう。今日はまた、一段と輝いてるね」

ユフィリア:

「…………。葵さん、やだ、どうしよう。シュウトが壊れちゃった!」


 口元に手を当てたユフィリアが目を見開き、大変に失礼な発言を繰り出してくる。どこまでお騒がせキャラなのだろうか。


シュウト:

「……それ、どういう意味?」

ユフィリア:

「だって、あのシュウトがだよ? 女の子にホメ言葉をいうだなんてありえないもん。……天変地異の前触れ?」

ジン:

「ぶははははは!」

シュウト:

「僕はナマズか何かなのか……」


 爆笑するジンを恨めしげに見やる。一方のユフィリアは『熱があるのでは?』とばかりにオデコに触れてくる。


ユフィリア:

「悪いものでも食べた?」

シュウト:

「だから、本当に輝いて見えるんだって!」

葵:

「もう、アレだね。〈大災害〉も全部シュウくんのせいなんじゃないの? こっちに来る前に誰かホメたりした?」


 単に見たままを言ったつもりだったのに、信じられない暴言をはかれてしまった。やはり余計なことを言うべきではないらしい。

 ひと通りの挨拶を終えると、くるりと振り向き、本命らしきジンのところへ向かうユフィリアだった。


ユフィリア:

「ジンさん、おはよ!」

ジン:

「……おう」


 笑顔のユフィリアに対して、微妙に視線を逸らしたままのジン。

 何をするのかと思いきや、ソファに座ってグッタリ中のジンに抱きついてしまうユフィリアだ。


葵:

「ワォ! だいたーん、スリー!」

ジン:

「おー、おー、そんなにまぁ、そんなにまぁ、俺のコトが好きか」

ユフィリア:

「うん。大好き!」

ジン:

「しょうがないヤツだなー」


 嬉しそうに抱きついているユフィリアの髪を撫でて余裕たっぷりのジンだった。なんだかこのまま見ていては悪いような気分になってきた。


ユフィリア:

「ね、昨日の続き、しよ?」


 キラキラモード全開なのに、そこから更に期待に満ち満ちた『女の子』の表情(?)的なものでオネダリしている。(聴いてていいのか、この会話?)


ジン:

「昨日、さんざんした(、、)だろ?」

ユフィリア:

「もっと」


 至近距離でジンを見つめている。カップル表現的にいうと、『お熱い』どころか『灼熱の業火』そのままだ。ジンの方はクールなダンディという雰囲気で、ユフィリアのオネダリを躱しているのか、単に()らしているのか、どちらかだろう。


ジン:

「だから、後にしろよ」

ユフィリア:

「やだ。今がいい」

ジン:

「だーかーらー、俺は遊園地のアトラクションじゃないんだっつの!」


 ジンの側が耐えきれず、『愛し合うカップルごっこ』を投げる。要するに、ユフィリアは合気技をかけて欲しいだけなのだろう。途中からだいたい分かってはいたのだが、別の可能性だってホンのちょっとはありえた訳であり、うんぬん。


ユフィリア:

「でも遊園地なんかより、ずっと楽しいよ?」

ジン:

「だー! そういうことじゃねぇ!」

ユフィリア:

「……嫌だった? ごめんなさい」


 抱きついていた手を放し、下がる。しょんぼりと肩が下がって、寂しそうだった。


葵:

(ここで『引き』ですかい。こりゃ、魔性が目覚めるんじゃ?)

シュウト:

(……?)


ジン:

「わーった。……1回だけだぞ?」


 いじらしいというのか、常にガンガン押してくるタイプのユフィリアが素直に引き下がると、超モヤモヤさせられてしまう。ジンもそれで耐えきれなかったのだろう。


ユフィリア:

「……いいの?」

ジン:

「そこの、広いとこでな」

ユフィリア:

「うんっ!」


 「ホレよ」とジンが腕を開くと、幸せそうな笑顔でユフィリアは抱きついていった。ジンはため息をひとつ吐き、一瞬、真顔になったと思ったら、「フッ」というかけ声と共に合気を掛ける。途端にユフィリアはコロリンと小さく床に転がっていた。派手さは何もない。床に転がったユフィリアは、起きあがらず横になったままでクスクス、クスクスと笑い続けていた。


ニキータ:

「まだやってるの? ……本当に飽きないわねぇ」


 リビングにやってきたニキータは呆れた声を出しつつも、ユフィリアの元に真っ直ぐに近づき、彼女を起こして服を優しく叩き、ホコリを払ってやっていた。


ユフィリア:

「だってすごいんだもん。ニナもやってもらえばいいのに」

ニキータ:

「それにしたって、ハマり過ぎでしょ。ジンさんのことも考えてあげないと」

ジン:

「そうだぞ、そうそう」

シュウト:

「って、アレからどのくらいやってたんですか?」

ジン:

「どのぐらいだ?」

ニキータ:

「夜中までだから、3時間ぐらい?」

シュウト:

「3時間って……」


 3時間もかけてエネルギーを吸い取ったのだろうか、とんだ吸血鬼(吸精鬼?)もいたものだ。


ジン:

「こっちも覚えたてだから、良い練習にはなったんだけど、終わりにさせてくんなくってさー。もう身体がもたねーよ」

葵:

「フフン、ユフィちゃんに抱きつかれて、幸せ満喫しちゃったんじゃないのぉ?」

ジン:

「正直、最初の内はな。しかし、30分もすれば飽きるっつーの。あーあー、小池栄子ぐらいオッパイがあればもっと楽しかったんだけどなー!」

ニキータ:

「最っっ低」

ユフィリア:

「んー、おっぱいあった方が良かった?」モミモミ

ジン:

「……いちいち本気にするんじゃねーよ。また後でやってやっから。床が綺麗なトコでな?」ぽんぽん


 珍しくおっぱいのサイズを気にするユフィリアの頭を、ぽんぽんと撫でるジンだった。なんだかんだとまた仲良くなっているらしい。


ユフィリア:

「じゃあ、いっぱい掃除しなきゃだね! よーし、がんばっちゃお!」

ジン:

「な、なんですと?」


 ユフィリアの方は合気投げをして貰えるのがよっぽど嬉しいのか、ギルドホーム中を徹底的に掃除しまくりそうな勢いだ。その予想外の返しに青ざめるジンだった。





 日課の室内練習を終えたところで、鎧を身につけて外へ。シブヤ郊外の隠れ家的練習ポイントへ移動し、今度はカカトダッシュの練習を始める。


ジン:

「最初はつま先キックも使う形で覚えていこうな。70点の方法ではあるが、居つきを無くすのが最優先だからな。カカトで加速しつつ、つま先を最後にチョコッと利かせる感覚だ。体重を移動させるストロングの使い方はせずに、ファストパワー的に鋭く。キックへの依存度はなるべく下げてやるんだ」


シュウト:

「弱く蹴るんですか?」

ジン:

「最初の内は、カカトの加速だけじゃ足りないだろうから、つま先キックでも加速してやればいい。短期間の練習でに実戦運用するにはコレしかないからなー。しかし、最終的には、つま先のキックはモモ上げを加速させるためのものにしていくんだ」

ユフィリア:

「モモ上げ?」

ジン:

「モモ上げの練習をやってみれば、分かるかな?」


 モモ上げはかなり得意な分野だった。『走ること』が〈暗殺者〉に適した運動であるためかもしれない。


ジン:

「腸腰筋というインナーマッスルを使ってモモ上げをするんだが、フトモモの前の筋肉は力を抜いてやるんだ。つま先で軽く蹴って、モモ前の筋肉は抜いてやる」


 はじめの内は、息を抜いて、お腹をヘコませつつモモ上げを練習するのだが、もうこの頃になると、特にお腹をヘコませなくても腸腰筋でのモモ上げが出来るようになっていた。

 つま先で軽く地面を弾くように蹴り、その勢いを利用して素早くモモを上げてしまう。フトモモの前側の筋肉はリキんでいない。ジンに言われたことがそのまま素直にできると、もの凄く気分が良かった。自慢したくなるぐらいに。


ジン:

「いいじゃねーか。意外とやるな、シュウト」

シュウト:

「ありがとうございます!」


 心の中だけでガッツポーズを決める。ドヤ顔も心の中だけにしておく。


ジン:

「超高速移動運動は、傾倒度がボトルネックになっている。傾倒度ってのは、身体をどんだけ深く倒せるかってことだ。まぁ深く倒すだけなら誰だって出来るんだが、そのままだと地面と仲良くするばっかりだから、深く倒れつつ、どうにか身体を支えなきゃならない。そのための腸腰筋モモ上げってことなわけだ」


 カカトダッシュといい、腸腰筋モモ上げといい、重要なパーツは先に教わっていたことが分かって来た。どうやら倒れるよりも速く、継ぎ足が出来ればいいらしい。


ニキータ:

「カカト・ワイプはどうすればいいんでしょうか?」

ジン:

「あーっと、それな。まず普通に歩いてても、人間はワイプ動作を入れてるものなんだよ」


 ユフィリアが例題として普通に歩てみせる。前に足を着く所から、後ろに移動して蹴り出すまでが綺麗にワイプ動作になっていた。


ジン:

「キックとワイプは共存できない。蹴ろうとする意識が強いと、ヒザ周りの筋肉を使いたがってしまうからだ。ワイプはヒザを抜いて足を全体的に使う動作系で、フトモモの裏や腰回りを使う。

 キック動作はおまえ等にも馴染みがあるし、理解していることで知覚しやすい。一方でワイプ運動は何気なくやっている割に馴染みがない。理解していないし、できない。このため、咄嗟に使われると動作を知覚しにくくなる」

シュウト:

「つまり、武蔵の剣ですか?」

ジン:

「いや、一拍子の動きだな。例題を見せよう」


 最初に自分が、次にジンの順でショートダッシュすることになる。距離は5m程度だろうか。


ジン:

「じゃあ、やってみれ」

シュウト:

「行きます」


 『普通に、最速で』という注文なので、そのままダッシュを掛ける。瞬間的に沈み込み、そこから最大加速。峰越えの話を聞いてしまった後では、これでは遅いということが自覚できてしまう。


葵:

「やっぱり、シュウ君は速いねぇ」

ユフィリア:

「うん。すっごいよ!」

シュウト:

「えと、ありがとう」


 女子特有の誉めなれた感じについていけてない感覚。近頃は戸惑うこともなくなってきたけれど、なんとかお礼が言えるようになるのが精一杯だ。


ジン:

「今のはかなり短かく見せていたが、峰越えをやっていたのが分かるだろう。次の瞬間の移動速度がかなりのものだったから目で追いにくかったかもしれないが、『いつダッシュするか?』ってこと自体は分かり易い」

ユフィリア:

「そう言われると、そうなのかな?」

ニキータ:

「タイミングは読めるから、避けるぐらいならどうにかなりそうな気がするわね」

葵:

「うむうむ」

ジン:

「じゃ、今度は俺の番だな(、、、)。そんでもって頭に巻くのはバンダナ」

葵:

「オヤジギャグが出るようなトシになっちゃったか~」

ジン:

「ギャース。言うんじゃなかった。トホホ~」

ユフィリア:

「ジンさん、がんばって!」

ジン:

「そこで応援するな、イヤミかっつの」

シュウト:

「ははは……」


 苦笑いの混じった乾いた笑いが出たのだが、見逃されたようだ。


ジン:

「じゃ、いくぞー」

ユフィリア:

「はーい」

シュウト:

「お願いします」

葵:

「3・2・1……Q!」


 反射的な反応を強引に押さえつける。瞬間的に跳ねて逃げようとするのを『大丈夫だから』と止まったままでいる。

 ジンは予兆のない所から、一息に自分のすぐ近くまで移動して来ていた。何も持っていない手には殺気によって作られた幻の剣が見え、刃の根本に相当する拳がアゴに触れそうな位置に置かれていた。


ジン:

「……わかったかな?」

ユフィリア:

「なんとなく」

ジン:

「じゃあ説明してみ?」

ユフィリア:

「んーと、シュウトのはシュッてしゃがんでから、ビュッ!てダッシュしてるけど、ジンさんのはいきなりドン!ってなる感じ」

ジン:

「だいたいあってるな」

ニキータ:

「こうして比べてみると、いつ来るか?というタイミングがまったく分からない動き方ですね」

葵:

「おっかねぇーなー、もう」

ユフィリア:

「これも『武蔵の剣』っていうの?」

シュウト:

「いや、違うと思う」


 否定の言葉が口を衝いて出たため、仲間たちの視線を集めてしまったことに少しうろたえる。『武蔵の剣』の場合、まるっきり反応できないはずなのだ。今回は動き出してから反応できる時間が確かにあったと思われる。

 普段から見せている激烈なる突進の正体は、カカトダッシュによる峰越えのない一拍子の動きに、その秘密の何割かがあるのだろう。


ジン:

「フフン。どうやら見えたようだな。誉めてつかわす」


 ごしごしと頭を撫でられるのを甘んじて受け入れる。


ニキータ:

「今のがカカトダッシュなのは分かりますが、ワイプ動作だけでここまで動けたりするんですか?」

ジン:

「まぁ、これはオリジナルの『カカト瞬動』だ。ちょいとシュウトのスピードが出てやがったんで、対抗して使ってみたんだがな。イケてただろ?」

シュウト:

「……また新技ですか」

ジン:

「フフフ、説明しよう! カカト瞬動とは……っ!」


 ――カカト瞬動とは、マンガなどで見られる瞬間移動技を再現したものである。

 従来のマンガ表現における瞬動術の場合、足の裏から『気』もしくは『魔法力』などを放出するため、かなり問題の多い技になってしまっている。これをそのまま再現しようとする場合、足から足の裏に向けてエネルギーを放出することで、素直に下方向にエネルギーを出すことになるため、移動方向はその反作用で上方向になってしまう。


 漫画的瞬動術を実際に使用する場合、ほぼ水平に近い方向でエネルギーを操作しなければならないのだが、足裏から発する魔法的エネルギーでは、足裏の摩擦力ではまるで足りないことも分かっている。このため、最低でも床にくっつくような性質の力を出しつつ、視覚認識が困難なレベルでの水平噴射力とを両立させなければならない。


ジン:

「……というわけで、足裏から気を放出するのはダメなんだ。俺はこの問題を、カカトの先っちょの骨に気を集めることで解決した訳だ。ワイプ運動をちょこっと加速する程度の使い方しかできないけど、まぁまぁだったろ?」

シュウト:

「それって、僕らにも出来ますか?」

ジン:

「んー、まず普通に動くするところからやらないと、あんまり意味が……」

葵:

「いくぜ東北!」

ジン:

「ドアホウ、やめとけっつー……」

葵:

「舐めるな、ジンぷー。カカト瞬動っ!」

ジン:

「レイ!」


 レベル23の葵だったが、こういうコトはレベルに関係なく出来るものらしい。カカト部分に集められた魔力が幽かに光りを帯びる。見事な魔力操作能力だった。次の瞬間、ジンが叫び、レイシンがダッシュする。


 体重の軽いロリ体形の葵だが、その足が加速され、そのまま前に投げ出される。カカトで生まれた推進力が大き過ぎたようで、胴体中央付近の重心を軸にして、逆上がりのように回転した。足が天を突き上げ、頭は襟首をつかんで引き落とされたかのように下へ。足と頭の位置が回転して逆になる。頭から墜落するまでのホンの一瞬の間、動きが止まって見えた。このままだと葵は頭から地面に落ちる。


 咄嗟に、助けるべくダッシュしようとしたのだが、居つきの為に動けなかった。峰越えを終えるまでの空白時間が、あまりにももどかしい。つま先に力が入っていたため、カカトが浮いてしまっている。カカトが浮いているとどうやってもパワーを出す方法がない。これが峰越えの空白時間、居つきなのだろう。

 カカトを降ろして加速するかで迷うが、前傾による峰越えが終わるまでの時間と大差がない。カカトを降ろそうと思うと後退のベクトルを発生させることになるので出来ないのだ。〈冒険者〉の体は反応速度も筋力も高いが、どれだけか高性能だろうと、人体構造上、動けないものは動けない。反応速度が高い分だけ、居つきによる停止状態を長く感じてしまう。


 葵がストンと落下していく。峰越えが終わったタイミングで、すべりこんだレイシンが葵を無事にキャッチしていた。動きかけた自分とユフィリアは慌てて止まることになった。


 ――この様に、『カカト瞬動』を思いきり使おうにも、カカトにロケットブースターが付いているようなものであるため、頭もしくは胴体の重心を中心に回転運動が起きて、簡単にすっ転ぶように出来ている。身体が重ければ重いほど、停止慣性が強く働き、運動量の逃げ場は回転運動へと転換され、結果、回ってしまうのである。


レイシン:

「間に合ったかな」

葵:

「うん。ありがと、だーりん」

ユフィリア:

「危なかったね、師匠」

葵:

「いやぁ、頭から落ちたって、別に大したことないんだけど、……なんかゴメンね」


 位置的にジンは自分とユフィリアが邪魔して助けに入れないポジションにいた。レイシンへの指示出しの早さは圧倒的であり、レイシンの動き出しもハイレベルなものだった。


ジン:

「……と言うわけだ。こうなっちまうから、弱めに使うのがコツだな」

シュウト:

「間に合ったからいいようなものの……。本当に、残念な技が好きですよね」

ジン:

「べ、べつに残念な技が好きってわけじゃないんだからねっ! たまたま結果がそうなっちゃうだけであって……」

葵:

「まーまー。オリジナル技の考案って、こういう試行錯誤なしにはあり得ないもんねー」

ジン:

「特技のラインからはずれた技術を開発しようとすると、どうしてもなー」

レイシン:

「はっはっは」


 峰越えが癖になっているせいで、とっさに動けなかったことを自覚する。こういう咄嗟の状況が不意に現れるのだとすれば、キチンと練習しておかなければならないだろう。ペナルティも言っていなかったので、小さな声で誰にも聞こえないように言っておくことにする。ジンに強制されたからではなく、咄嗟に動けなくて、葵を助けられなかったことに対しての、自分への罰のつもりで。


シュウト:

「(……マンゴー……)」ボソッ

ニキータ:

「…………ッ……」


 かなりの小声だったにも関わらず、聞かれてしまったらしい。目が合ったのだが、先に逸らされてしまった。強く唇を引き結び、笑わないようにと堪えてくれているようだが、肩はプルプル震えていた。


ジン:

「じゃあ、最初は歩くところからだな。カカトでスッと移動する練習から。……ニキータ、どうした? 挙動不審だぞ」

ニキータ:

「す、すみません」

ジン:

「じゃ、おまえからやってみろ」


 こうして『一拍子の動き』の練習が始まった。





 カカト移動の手始めにカカト歩きをするのだが、これにはカカト立ちが必要になる。ジンが言うには、内くるぶしの真下の重心落下点とカカトの先端(骨端)までの距離が重要なのだとか。カカトで立って、カカトでダッシュするのでは、速く動けないらしい。そもそも現代人はカカトが身体感覚的に抜け落ちてしまっている人も多いそうだ。


 『スッ』と一拍子で動く。これが上手く行くと、感覚的に気持ち良い。意識的に練習すると意外に簡単なのだが、実戦で使えるかどうかは、その場になって見なければ分からない。明日はドラゴン狩りの日なので、実際に使って試す良いチャンスになるだろう。

 一拍子の動作が出来るようになれば、始動性が高まることで回避力がアップすることが考えられる。攻撃時も動きが読まれにくいので、懐に入る動作などで高速化が見込める。使いこなせたら戦力が劇的に向上してしまうだろう。


 がんばろうとするとつま先に力が入り、カカトが浮きやすく、ヒザの力でキックしようとしてしまう。ギュッと力を入れるのは気持ちいいから、それをしないと不安になってしまうのだ。こうして力を入れようとすれば峰越えをしなければならない。そうなるとどうしても始動性は落ちる。根性の力では、人体構造の問題点を越えることは出来ない。それは〈冒険者〉の高性能な体であっても変わらない。高性能な肉体を、高性能なものとして使いこなせるかどうかが問題なのだ。


ユフィリア:

「ねーねー、ジンさん」

ジン:

「なんじゃら、ホイ」

ユフィリア:

「今からリベンジしてもいい?」

ジン:

「んー、誰に? 俺か?」

ユフィリア:

「うーうん。シュウト」


 お騒がせな人がまた何か始めようとしている。ジンは「お好きにドーゾ」と気楽なものだった。

 少し前にユフィリアの攻撃を10分、躱し続けられるかどうか?という対決をしたことがある。その結果、ジンとの組み手の権利をゲットしたのだが、今度の時間は5分でいいらしい。楽勝である。


シュウト:

「別にかまわないけど」

ユフィリア:

「じゃあ、真剣勝負だからねっ!」


 何の準備があるのか、ニキータや葵の元に戻っていった。化粧でもするつもりなのだろうか?


ジン:

「おい、シュウト」

シュウト:

「なんでしょう?」

ジン:

「んー。……ユフィリアはともかく、葵は舐めない方がいい。あのバカ、何か仕掛けてくるぞ。勝算もなく仕掛けてくるヤツじゃない」

シュウト:

「はぁ……」


 たとえ何か罠があるにしても、実際に戦うのはユフィリアなのだ。今の彼女に負けるとは思えない。ジンが葵を警戒する理由がいまいち理解できなかった。一応、警戒しておくべきか。


ユフィリア:

「いくよっ!」

シュウト:

「ああ」

石丸:

「では、始め!っス」


 石丸の砂時計が回転したのが合図だった。突進してくるユフィリアの攻撃を難なく躱す。カカトダッシュで向こうも始動性が上がっているかもしれないので、その分だけ距離をとっておく。こちらも始動性が上がっているかを確かめるテストに丁度良いだろう。


 繰り出される連続攻撃を、確かめるようにひとつづつ躱していく。問題になりそうな要素は見当たらなかった。ジンの心配しすぎだろう。


ユフィリア:

「ならっ!」


 後退するユフィリア。何をするのかと思いきや、呪文詠唱を始めてしまう。本来ならば、この時は攻撃の大チャンスなのだが、こちらから攻撃はしないというルールだった。どうしたものか?と考えつつ、様子を見る。


ジン:

「ほう、考えたな」

葵:

「ふっふっふ」


ユフィリア:

「聖なる光よ!」


 目を焼く魔法の閃光。これは腕を上げて目を護ってやればいい。距離もあったので不意打ちで直視しなければ問題ない。閃光の余韻に距離を詰めてくるのだが、そんな単純な攻撃を受けるほど鈍くはない。

 これでユフィリア側に攻めのバリエーションが増えたということだろう。単純に魔法が使い放題になってしまうのは面白くない。次の魔法の時に、少し脅かしてやろうと画策する。


 運動神経の良いユフィリアは、前回よりも格段に上手くなっている。油断していると一撃もらってしまうかもしれない。余裕がある場合にカカトダッシュを利用しつつ、安全第一で回避を続ける。

 ユフィリアが再び後退。またしても呪文詠唱の構えだった。


ジン:

「あ、バカ」


 ユフィリアの呪文詠唱を妨害するべく、間を詰める。魔法特技を使う場合、魔法使いたちは移動することが出来ない。逆に言えば、移動してしまえば魔法の行使は失敗する。ならば、呪文詠唱中のユフィリアを軽く突き飛ばすなどして移動させてしまえばいいのだ。


 鎧を着ている彼女の肩の付近を,優しく押して移動させようとした時だった。


シュウト:

(……!?)


 呪文詠唱中のユフィリアは、愛用するメイスを振りかぶって殴りかかってきていた。アイコンからの自動詠唱では、呪文の途中でキャンセルすることなど出来ない。詠唱を確認してから接近したはずなので、つまりこれは有り得ないタイミングの攻撃だった。

 そこにカカト歩きによる一拍子の動きが加わっている。ここまで敢えて使わずに取っておいたのだろう。完全に罠にハメられてしまっている。


シュウト:

(間に合わ……)


 耳にジンの「バカ」という言葉が耳に残っていたためか、瞬時に回避に転じていた。真後ろに体を投げ出して倒れ込む。その動きにユフィリアの目が丸くなった。最初の一撃目は危ういタイミングで空振りに終わった。初撃はこれでどうにかなったが、問題はその後のフォローだ。

 背中から無防備に地面に落ちる衝撃は強烈だった。しかしここで慌てると失敗する。ユフィリアの動きを見て、倒れている自分へ追撃を確認しなければならない。運任せにはできない。不意打ち失敗の空振りで慌てた彼女は、動きが単純なものになっていた。それでも状況は圧倒的に不利なままだ。まずは次の攻撃を外し、その上で起きあがらなければならない。

 仰向けに寝たまま、彼女の膝頭を蹴りつける。これで攻撃のタイミングを外し、素早く横に転がって回避。一回転、二回転。すぐ横の地面にメイスがぶち当たる。二回転半で四つん這いになり、素早くダッシュしてピンチからの脱出に成功する。


ユフィリア:

「うっそー!?」

レイシン:

「おおー」

石丸:

「残り30秒っス」


 その後の30秒は無難に逃げ続ける。今回は、やけに長く感じる5分間だった。


シュウト:

「危なかった、本当に……」

ジン:

「まぁ、いい経験になったな」

シュウト:

「はい」


 ジンの警告を無視して葵を甘く見ていたため、冷や汗をたっぷりとかくハメになってしまった。信じられない罠を仕掛けてくる。移動すれば魔法の使用は中断される。それを逆に利用するためだけに、マニュアル詠唱を使わせていたのだろう。しかもこちらが魔法を妨害するところまで読まれているとは……。


葵:

「ステキャンだよ。魔法をステップでキャンセルして攻撃や回避に繋げるの。いしくんの『ジュークボックス』がヒントになってるんだけどね」


 石丸のジュークボックスという技は、マニュアル詠唱を部分重複させ、それを連続させる技だ。どうやらカニ祭りの時に見て思いついたらしい。


ジン:

「石丸先生、使えそうか?」

石丸:

「これまで魔法を早く使うことばかり考えていたっス。ありがたく使わせてもらうっス」

葵:

「うむ。……というか、ジンぷーがすべて悪い。完璧な計略だったのに」

ユフィリア:

「そうだよ、いっぱい練習したんだから」ぷくー

ジン:

「すまん。つい……」

葵:

「つい、じゃないから!」


 確かにあそこで「あ、バカ」の一言が無かったら、たぶん避けられなかったと思う。ジンは一目でマニュアル詠唱であることに気が付いていたのだろう。基本となる戦闘センスにかなり差があるのだ。


ユフィリア:

「ヒドい。ジンさんはやっぱり、シュウトの方が大事なんだ……」

ジン:

「バカ言うな、俺の気持ちも知らないで!」


 そうこうしている内にイチャラブ劇場が始まってしまう。責任の一端は自分にあるわけであり、あの、その……。


シュウト:

「すみませんでした。僕の、負け、でいいです」

ユフィリア:

「やった、私の勝ちでいいの?!」

ジン:

「ダメだ。引き分け、もしくは無効試合に決まってんだろ」

ユフィリア:

「えーっ、どうして?」

葵:

「エコひいきー、ブーブー」

シュウト:

「あのぉ、別に負けでもいいんですけど?」

ジン:

「うるさい、おまえは黙ってろ」

葵:

「ははぁん。……あたしのユフィちゃんの勝ちは認められない、と?」

ジン:

「なんだよ、まだちゃんと勝ってねーだろうが!」


 どうやら師匠同士のプライドに抵触していたようだ。ここで自分が負けを認めると、ジンが葵に負けたことになってしまうのだろう。師匠と呼んだり、弟子を名乗ろうとしたら怒る癖に、なんという我が儘だろう。


シュウト:

「惜しかったけど、無効なんじゃしょうがないよね」

ニキータ:

「フフフフ」


 少し無理して強がってみたのだが、ニキータに笑われてしまった。見透かされている気がしないでもない


ユフィリア:

「むー、シュウトのバカちん! ジンさんのぷっぷくぷー!」

ジン:

「誰がぷっぷくぷーだ、ゴラァ!」


 葵の策も信じられないものだったが、それを完璧に実行したユフィリアも大したものだ。レベルが低いからと油断している訳には、もういかない。彼女には才能があると認めるしかないだろう。こうしていて追いつかれてしまう前に、こちらもみっちり修行しなければ。こうなったらジンのためにも、そう簡単に負けるわけにはいかないのだから。

 

 

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