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75  カニ祭り

 

ジン:

「ふざけんなよ! 何が『新 鮮 な 海 の 幸』だ!」

アクア:

「カニって日本人には高級食材だって聞いたわ。どうぞ遠慮しないで、み~んな食べちゃっていいんだから。……うわぁ、とっても美味しそう! 」

ジン:

「食い切れるわけねーだろ!」


 朝早くからアクアが来ていたことで、朝食は豪華だった。軽い運動をした程度では昼食の時間になってもあまり食べられそうにない。昼を抜いていいのではないかと言うとジンがひとりで反対した。「おお、昼食を抜くなど、トンでもない!」……するとアクアが「目先を変えて日ごろ食べないものを食べればいいじゃない?」などと言い出し、「新鮮な海の幸なんてどう?」と提案した。あからさまに怪しむジンだったが、イベント好きのユフィリアが行くと言えば、なんだかんだで弱い。

 結果、シブヤの〈妖精の輪〉からアクアの指輪の力で転移した先に待っていたのは、アスコットクラブとその亜種らしきモンスターの大群だった、といいうわけである。1000匹はくだらないだろう。なんというか、海系のクエストに呪われてるんじゃなかろうか。


ユフィリア:

「ところで、ここってドコ?」

アクア:

「国の名前を訊かれても答えられないわ」

ジン:

「お前、そのぐらい勉強しとけよ」

アクア:

「ウルサイのよ。東の隅っこの国の住民が偉そうにしないで」

ユフィリア:

「じゃあ、もしかして海外? 別さーばー?」

アクア:

「地中海ね。長靴(イタリア)よりも東よ」

石丸:

「バルカン半島っスか?」

ユフィリア:

「やったね、初ヨーロッパ♪ ……アクアさんって、凄いなぁ~」

アクア:

「フフ、こんど好きなところに連れてってあげる。行きたい場所を考えておきなさい」

ユフィリア:

「えっとね、私、パリに行きたい……」

アクア:

「ヴィア・デ・フルール? いいわよ」

ジン:

「意外とアリガチだな。理由はあんのか?」

ユフィリア:

「うん。もうハタチだからフラカジ(※)が着られるの。だからコート欲しくって」


 (※)フランスカジュアルの略語。洋服の話でござる。


葵:

「おおぅ、ユフィちゃんそっち系いっちゃう人?」

ユフィリア:

「うん。大っ好きなの!ニナにも着て欲しいんだけど……」チラッ

ニキータ:

「…………」←気が付いてないフリ

葵:

「あー、デコルテかぁ。スゲェ似合いそうなのにネ」

ユフィリア:

「でしょ! 葵さんからも説得して!」

シュウト:

「あの、盛り上がっているところ申し訳ないんだけど、カニは放置でいいの?」


 ……と、男性陣にはさっぱり意味不明の内容で盛り上がるユフィリアたちだった。


 ――この場合のコートとは、トレンチコートのことである。フラカジは特に流行に左右されにくく、『シンプルで可愛い』から『シックで色気のある大人風』までカバーする様式美のようなものとされる。定番アイテムを使っていてもオシャレに見せる方法論があるのだ。

 日本では毎年のように新しい流行のコートを買うのがベストのように思われているため伝わりにくいが、ユフィリアの『コートが欲しい』は特別な一着の話である。自分の体形にぴったりとマッチするトレンチコートは一生モノになるという。


 『もうハタチだから』と言っているのは、日本のティーンズファッションは、その名の通りに十代向けのファッションであるため、言葉は悪いが『ハタチ以上はオバサン』扱いされる(ことがある)。

 今年ハタチになるユフィリアは、フラカジに憧れつつも『ハタチまでは』と我慢していたのである。ハタチ前からフラカジを着て悪いことはないのだが、流行に左右されにくいフラカジを、ハタチ前から着ることは難しいらしく、ティーンズファッションの卒業にあわせて切り替えていこうとしていたのは現実的な選択なのだった。

 そうしてさっさと自分のスタイルを決めていくサバサバ感に、葵は驚いていたのである。ティーンズファッションが終わっても“とりあえず”周囲の様子を見て決めようと思っている内に、「気が付けば迷子になってました」というアリガチなパターンを華麗に回避しているユフィリアなのであった。


ジン:

「で、あの小ガニの軍団を一匹づつ潰して回るのかよ?」

ユフィリア:

「カニさんなら任せて!」

ジン:

「じゃあ、あとは任せた」ぽん

ユフィリア:

「うん。……あれっ、ジンさんは?」

ジン:

「後ろから生暖かい視線で応援しててやろう」

シュウト:

「……せめて手分けしましょうよ(苦笑)」


 カニ退治に自信を見せたユフィリアに、ジンは丸投げしようとする。冗談の類いだとは思うが、面倒臭そうにしているので本気かもわからない。


葵:

「アハ、もうちょい効率良くやらないとね」

アクア:

「で、何かアイデアがあるの?」

葵:

「こういう場合、ジンぷーがどうにかするでしょ」

ジン:

「だーら、〈守護戦士〉は広域殲滅が苦手なキャラ特性だっつの!」

アクア:

「なら、〈妖術師〉(ソーサラー)の出番な訳ね」

ジン:

「ぐぬぬ。……石丸先生、すまんが頼まれてくれるか?」

石丸:

「もちろんっス」こくり

シュウト:

「えっと、どうやればいいんですか?」

ジン:

「お前だったらどうやるんだよ?」

シュウト:

「えーっと……、敵を集めて来て、範囲魔法で叩けばいいのでは?」

ジン:

「実行の際の問題点、注意点は?」

シュウト:

「それは、ヘイトの管理と、敵を集めるのをどうやるか? じゃないでしょうか」

ジン:

「だったら、簡単だろ。問題は石丸の負担だけだ」

ユフィリア:

「そうなの? いしくんに集まるヘイトは?」

ジン:

「俺が引き受けてもいいんだけど、今回はアクアがいるからな。アレも使えるんだろ?」

アクア:

「当たり前でしょ」

ユフィリア:

「アレって、何?」

ニキータ:

「〈臆病者のフーガ〉。後衛のヘイトを低く抑える効果を持つ永続式の援護歌ね」

アクア:

「じゃあ決まったわ。シュウトとレイシンは足を使ってカニを集めて来て。後は石丸が魔法でまとめて叩けばOKね」



 至極簡単な打ち合わせを経て、戦闘開始である。自分は囮になって、敵を誘導する役目(PULL)を任される。本陣から100m以上離れたポイントで、レイシンともバラバラの位置取りだ。これは〈妖術師〉(ソーサラー)の最大攻撃距離が100mほどだからで、逆にいえば〈妖術師〉は100mを越える距離の敵を集めることができないためだ。

 攻撃呪文のスペシャリストである〈妖術師〉だが、最大攻撃距離では〈召喚術師〉(サモナー)に一歩譲ることになる。しかし、仲間内の〈召喚術師〉はレベル23で固定のため、今回の戦いには不参加。今頃は隠れて見ているだろう。


 石丸の攻撃呪文がスタートの合図になる。重複詠唱法により超速度で次々と炸裂する魔法が、ジンやアクアが待つ本陣にアスコットクラブを引き寄せつつあった。自分たちは詠唱中のために動けない石丸のところへ敵を集めるように動くのである。


シュウト:

(来たっ!)


 のし掛かるような圧力を、歯を食いしばって堪える。アクアの超威力の永続式援護歌は、100mを越える距離も無視して有効だった。音圧による圧迫感と、それによる(ひる)みから回復すれば、活力やエネルギーが沸き上がってくるのだ。あらゆる意味で強烈なバフだった。


 自分が標的になるように適度に攻撃しつつ、石丸の攻撃範囲へと何度も敵をおびき寄せる。あまり速くても処理が追いつかなくなるだろうし、遅くても時間が掛かって良くない。どのくらいのペースがいいだろう?と思った所で念話がかかってきた。


葵:

『もしもしシュウくん?』

シュウト:

「葵さん、なんです?」

葵:

「あたしが指示出しするから、よろしくね。いい感じだけど、もうちょっとカニちゃん集めてみよっか。まず西の海岸線を……」





 ニキータの見たところ、すべてが順調だった。短い打ち合わせにも関わらず、上手くいってしまうのが不思議だ。敵をかき集めているシュウトやレイシンの動きが鍵になっているのだが、少なすぎず、多すぎずの丁度良い塩梅なのである。


ニキータ:

(葵さんが指示出ししてるみたいね)


 〈D.D.D〉でもやっていることで、俯瞰する部隊を配置するようなものだ。外から視点を補うことで、全体を統括する方法だろう。


 ユフィリアと一緒にジンの左右でカニと戦いながら、舌を巻いていた。

 壊れた性能なのはジンだけではない。アクアは言うに及ばず、レイシンや葵も高性能なのだ。シュウトも新進気鋭のハイランカーならば、石丸も並の術者ではない。誰よりもユフィリアの才能を分かっているのは自分だろう。……そうなると普通の人間でしかない自分は、置いて行かれるのではないか?という不安な気持ちを自覚してしまうし、そんな事は飛び越えてしまって、呆れて物もいえないような気分になることもしばしばだった。この集団はかなり(、、、)間違っている。


 そもそも、ジンやアクアを前にしてしまえば、少しぐらいの才能なんてまるで意味をなさないのである。けちょんけちょんにされているシュウトを見ててホッとしてしまうのは、(あまり趣味は良くないが)かなり救われているところだった。


 ネガティブな思考になった原因は、石丸の大活躍にある。

 重複詠唱法とは、再使用規制中にマニュアル詠唱を始めてしまい、再使用規制が解除されたタイミングで呪文を発動させるという荒技、もはや反則技である。しかも、この手法が持つ弱点を、アクアが1人で帳消しにしてしまっている。

 1つは、大量に消費されるはずのMP。これは超威力の〈瞑想のノクターン〉により、消費量に匹敵する膨大な量の供給が行われている。石丸も供給量に合わせてアレンジしながら詠唱を続けているようなので、MP切れの心配はなさそうだ。

 もう一つは、大量に集めるはずのヘイト。こちらも超威力の〈臆病者のフーガ〉の使用によって打ち消してしまっているらしい。おざなりな壁役として、ひたすらカニを叩き斬っているジンのヘイト値の方が大きいようなので、アスコットクラブたちは石丸には見向きもしない。


 10人に満たないパーティでこの戦闘力は尋常ではない。気が付けば海岸線を満たしていた1000体を越えるであろうアスコットクラブたちはその数を半数以下に減じてしまっていた。



アクア:

「よくも騙してくれたものだわ。こんな子も隠してたなんて」

ジン:

「隠してねーだろ。お前が気が付かなかっただけだ」

アクア:

「(聞いていない)まるで音楽の詰め込まれた宝箱のよう……。そう、名付けるとすれば『ジュークボックス』ね!」

ジン:

「それを言うなら『宝石箱や~!』だろ。ていうか、お前の〈臆病者のフーガ〉こそ、まるで『対人恐怖症の引きこもりフーガ』だけどな」

アクア:

「フンッ、もっと褒めてもいいのよ?」

ジン:

「ケッ!」

ユフィリア:

「けんかしちゃダメー!」


 反りが合わないのか、合いすぎる(、、、、、)のか、何だかんだと反発しあう2人に割って入るようにユフィリアが仲裁する。


ジン:

「……つーか、飽きた」

ユフィリア:

「ジンさんどうしたの? もうちょっとだから、がんばろ?」

ジン:

「やだ。ボクチン、がんばるのキライだもん」

葵:

「アレっしょ、意味がないって言いたいんでしょ?」

ユフィリア:

「意味?」

ジン:

「チッ、……こんなカニいじめして何が楽しいんだよ」

アクア:

「…………」

葵:

「この海辺にも小さい村はあるんじゃない? 『港の形をした廃墟』ってだけじゃなさそうじゃん」

ジン:

「あー、人、いるのかー?」


 目的と手段でいえば、アスコットクラブを倒すのは手段に相当する行為なのだろう。それが戦い始めたとたんに、手段そのものが目的化してしまっている。それを嫌がったのか、ジンはこの行為を『カニいじめ』と批判した。

 しかし、気になるのはアクアの沈黙の方だ。何かがまだ他にありそうな気がする。


葵:

「おおっ!? 新手が接近中! もしもし、シュウ君? あのモンスってばなーにー?」

ユフィリア:

「……でっかいカニさん?」

ジン:

「あれなら、まー戦い出がありそうだけど」


 接近していたのは、ギガスシザースという大きな鋏を備えたカニ系のモンスターだった。個々のレベルも70を越えているし、ノーマルランクではなく、パーティランクの相手だった。それが続々と数を増して来ている。10体を越え、15体を数えたところで、少しばかりキャパシティをオーバーするのでは?と背中に冷たい汗を感じてしまう。単純計算するとこれだけでパーティ15個ぶんの戦力になってしまう。


ジン:

「このぐらいならまー、戦ってやらんでもない」

ニキータ:

(つまり、敵が弱いからやる気が出なかった訳ね)


シュウト:

「……戻りました!」

ジン:

「お疲れい」

レイシン:

「じゃあ、あの大きいのを倒すのでいいんだね?」

葵:

「石丸くん、一匹づつおびき寄せる感じでよろしくね?」

石丸:

「…………」

 

 詠唱中の石丸から返事は無く、かわりに軽く頷いたようにみえた。直後、攻撃呪文が飛んでギガスシザースに命中する。ゆっくりとこちらに移動を開始する大ガニ。「カモーン!」と手ぐすねを引いて待ちかまえるジン。


 アクアはまだ何も言わない。それが気になって仕方のないニキータだった。





 狙った所にズバリ命中する。

 その手応えの良さにテンションが上がっていく。弓が狙った所、もしくは狙った場所よりも良いポイントに的中してしまう。動いている相手を狙ってもキレイに当たるのだから、驚くほかにない。


シュウト:

(上達するようなこと、何かしたっけ……?)


 狙いを大きく外しそうな所でもピタリと当たるため、感覚がおかしくなりそうだ。操作精度の次元がひとつ上がって感じる。今日がたまたま絶好調の日、でなければ、何かが影響しているに違いない。

 アスコットクラブを相手に弓を使うのは矢の無駄使いだと思って控えていたのだが、ジン達と一緒にギガスシザースと戦うために弓を使い始めた途端にコレだ。


シュウト:

(あー、手をさすったりしたから、かな?)


 20メートル先の1センチの範囲を狙うのだとすると、手元の操作単位は1ミリの数分の1、もしくは数十分の1になりそうな話だった。弓そのものの訓練をしていなくてこれだけ違うということは、元々かなりのロスを被っていたと思わなければならない話だろう。


シュウト:

(だけど、これってオリンピックの金メダル級以上なんじゃ?)


 考えてみると、自分の能力を遙かに超えた結果なのだ。……更によく考えてみると、〈冒険者〉の90レベルは素で金メダリストの数倍の実力を持っている気がする。一旦はそれで説明が付きそうな話だった。


シュウト:

(『下手な練習をやるより実力がつく』って、本当だったのか……)


 手元の感覚に意識を向けると、射る前から当たるかどうか分かる気がして、上がりっぱなしだったテンションが少し萎えた。……というか、ドン引きだった。


シュウト:

(ヤバい。ちょっと凄過ぎるよ、なんなんだコレ……)


 ジンに泣きつきたかったが、戦闘中なので止めておいた。オーバースペック過ぎて何かが怖い。「お前バカじゃねーの?」などと言われたら安心してこの能力を使える気がする。

 ……というところまで考えて、自分の頭の悪さにうんざりした。これも儀式のようなものだと思って諦めるしかないのだろう。ハイスペックを持て余しながら、次には『これを無くしたらどうしよう?』という新たな不安を抱えるハメになった。気分はまるでジェットコースターだ。


シュウト:

(当たり前って、なんだったんだろう……?)

ジン:

「何をボケてやがる、向こうをフォローしろ!」

シュウト:

「すみません!」


 世の中は無常だ、と思って気分を出していると、ジンに怒られた。ある意味で望みが叶ってしまった。

 深く考えるタチなのだが、深く考えないようにして次々と矢を射ていく。関節部分(カニだから、節?)を狙っても、当然みたいに連続して的中した。これで気分が直ぐに良くなる。


葵:

「シュウ君、やるぅ~!」


 関節部に突き刺さったままの矢がギガスシザースの動きを阻害し、ぎこちなくさせた。

 ぺろりと一杯、また次の一杯と、大きなカニを食い散らかしていくジン。全力のオーバーライドは不使用だが、〈竜破斬〉で致命傷を与えていく辺りは同じだ。仲間達もドラゴンと戦う経験によって成長しているためか、いつもにまして順調だった。



アクア:

「来た……」ニヤリ



 戦闘中にも関わらず、ニキータが武器を下ろした。その様子を見て、彼女の見ている方向を確認する。

葵:

「ふぉおおおぉ!!」


 ギガスシザースを数倍する巨大なハサミがゆっくりと海から顔を出す。そのまま上陸しようとしているソレは、巨人でも食べきれるかどうかという代物だった。例えるならば、未来SFに出てくる火星軍の多脚戦車のようなものだ。


シュウト:

「レイドボス級が、どうして!?」


 その名をラストキャンサーといった。

 レベル92、レイド×2クラス。硬質の甲羅に覆われ、所々が鋭く尖っているのはカニ系モンスターと共通した特徴だが、このクラスの甲羅ともなると、生半可な金属よりも堅牢となる。

 大規模クエストも経験しているシュウトですら、名前も聞いたことがないことから察するに、海外サーバーの独自モンスターだろう。端的に言えば、ドラゴンと同クラスの強さを持つ難敵だろう。



ユフィリア:

「でっかいカニさんと戦ってたら、もっとでっかいカニさんが出てきちゃった!」

ジン:

「……でへへへ。いいね、いいよ! たぎって、キターぁあああ!!」


 だらしなく顔をゆるませたジンは、唇を舐め、叫んだ。強い敵と戦うのが喜びなのだろう、生き甲斐と言わんばかりだ。


ニキータ:

「ギガスシザースたちも倒してる途中なのにっ! もうっ!!」


 まっとうな意見で苛立つニキータ。その矛先はモンスターなのかジンなのか。両方かもしれない。


葵:

「ねぇ! あんなデッカいの、どうするの?」

ジン:

「潰す!」

葵:

「いや、それは分かったから、作戦は?」

ジン:

「そんなモンいるか、踏みにじる!」

シュウト:

(……ですよねー?)


 戦術などは、相手とぶつかったところで自然と出てくるものなのだ。それはドラゴンと戦っている経験から分かるようになっていた。余計な作戦は、余計でしかない。


ジン:

「あ゛っ…………?」


 飛び出して行こうとしたところで、機先を制されたかのように、ジンの動きが止まった。



アクア:

「ククク、あはははははは!!!」


 唐突にアクアが笑い始める。その哄笑はどこかで聞いたことがあるもののような気がした。


ジン:

「……このアマ、ハメやがったな!!?」


 勢いをまして襲いかかってくるギガスシザース、海から全身を表し、こちらに向かってこようとしているラストキャンサー。

 それでも、それなのに、武器を下ろし、背を向けてアクアを睨みつけるジン。


シュウト:

「ちょっ、来ますよ、ジンさん!?」


 しかし、集めてあったヘイトすら無視して、ギガスシザース達は自分たちの脇をすり抜けるように避けて、逃げていく。


ユフィリア:

「超でっかいの、来た!」


 ラストキャンサーの接近にも、ジンは動かなかった。戦闘開始距離にまで接近しているのにも関わらず、防御姿勢もとっていない。ジンが動かないためか、味方パーティもまるで戦い方を忘れてしまったかのように動けなかった。


シュウト:

「クッ!」


 前に出て、弓を構える。一瞬でも時間を稼げればいいからだ。ジンが動き始めればそれで間に合うのだし、いつでも勝てるという確信がある。


 ……その時だった。



葵:

「うっそぉぉぉー!!???」


 何かが巻き付いた。

 そのまま白っぽい何かがラストキャンサーを海に引きずり戻そうとしていた。レイドボス級を超える超々巨大サイズの『何か』。

 数本の脚で逃れようとあがく巨大蟹の装甲にベキリとヒビが入った。鉄を超える強度のそれを、触手のようなものはいとも呆気なく破壊してのけた。それほどの何かが、あの海の向こうに、いる。


 原理的に考えて、レイド×2を超える敵は、レイド×3か4ということになるだろう。しかし、レイド×4であっても、ここまでの大きさを備えているとは思えない。確かに、例外は存在している。神竜のような規格外のモンスターも居ることはいるのだから、その海バージョンということだろうか。……その場合、自分たちが勝てるはずがない。


 海の一部にがっぽりと穴が空き、ラストキャンサーが吸い込まれていく。抵抗むなしく海水と共に、穴の中へ消えた。



ユフィリア:

「超でっかいカニさんが、食べられちゃった……」



 その後の展開を思って頭が痛くなりそうな気がするシュウトだった。

 

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