53 逆転と不一致
ジンとユフィリアはイケブクロを出発してから、特に意味もなく大回りに北側からアキバにアプローチするルートで歩いて来ていた。山手線伝いのイメージに近い。
どこかで『内側』に入ってしまい、中央線ルートでアキバにアプローチする方が近道なのだが、歩き慣れないルートを行く方がなんとなく冒険っぽく、普段と景色が違うことでユフィリアが喜ぶかもしれないという程度の、感覚的な周り道を楽しんでいた。
ジン:
「うん、だいぶサマになってきたな」
ユフィリア:
「いつもの戦い方を、ちっちゃくしただけだもん」
ジン:
「いや、初めてにしてはよく動けてる。……君は、良いセンスをしている」
と、某赤い彗星的な言い回しで褒めてみるジン。
ユフィリア:
「やっぱり? そうだと思った(笑)」
ネタ会話は通じていなかったが、得意げな顔をして笑って見せるユフィリアは冗談に冗談で返していた。
ジン:
「ほほう、なかなかの自信だ。それでは試させて貰おうか。この私に何処までついてこれるかな?」
某赤い彗星っぽいセリフを続けるジンは、まるっきり大人気ない大人の見本のようだったが、ユフィリアが気にしていないのでなんとなく救われていた。
この時2人は、戦闘中に念話で回線を繋いだままにして、ジンが指示を出しながらの連携戦闘をやっていた。ソロ戦闘の応用2人バージョンである。
ジン:
「もうそろそろアキバだな」
ユフィリア:
「ちょっと汗かいちゃったね。そういえば、アキバに温泉ができたんだって」
ジン:
「そうらしいな。でも、入っちゃダメだからな」
ユフィリア:
「どうして? その内にニナと行こうと思ってたのに」
ジン:
「そりゃあ…………っていうか、その話は後でな」
ユフィリア:
「?」
その時、ジン達に向かって話しかける声が聞こえてきた。
謎の声1:
「ヘイヘイヘ~イ、そこのお前ら、いい気になってんじゃねーの?」
謎の声2:
「マジ、ムカツク」
謎の声3:
「イチャついてっし」
ジン:
「イチャついてねっし」
謎の声3:
「イチャついてっし! 超イチャついてっし!!」
と軽薄な印象の、痩せぎすな男が三人現れた。最初に声をかけて来た一人などは、胸のあたりをはだけさせたりしていて、見た目からして少々ウザい。
ユフィリア:
「こんにちは☆」
PKの集団っぽいのは分かっているだろうに、ユフィリアが先制の挨拶攻撃をかました。機先を制され、「お、おう」などと曖昧な返事を返す男達。通常であれば、この挨拶だけでも戦闘意気を挫かれてしまうこともあるのだが、今回はあまり効き目が無かったらしい。
その様子をみながら、何事も無いような素振りで剣を抜き放つジンだった。
現在、ジンのミニマップには5人分の反応がある。表に出てきたのは3人。全員が90レベルの〈冒険者〉で、謎の声1から順に〈盗剣士〉のジュン、〈守護戦士〉のマシュー、〈武士〉のサブリナである。
サブリナ:
「うおぉ!? 超マブじゃん」
マシュー:
「ホントだ。カワイイ」
ジュン:
「つか、めちゃスゲー」
ユフィリア:
「あはっ、アリガト♪」
ジン:
「……んで、何の用? もう行ってもいいか?」
サブリナ:
「いいわけねっし!」
ジン:
「はいはい、そんで?」
いいから早く喋れと、紙面に配慮したかのような態度のジン。
サブリナ:
「ウチらは“カップルバスター”だ」
ジン:
「は?」
ユフィリア:
「んー、カップルバスターって、何?」
ジン:
「俺も聞いたことないな」
顔を見合わせて「?」を浮かべる二人。
ジュン:
「つか、カプバスってのは、イチャイチャカップルを狙うPKのことだ」
サブリナ:
「ウチらの造語だし」
ジン:
「へー。カップル狙いか。……じゃあ、俺たちには関係ないな?」
ユフィリア:
「そうなんだ?」
サブリナ:
「んなわきゃねっし!」
ジン:
「うむ、なかなかのツッコミ愛にあふれてるヤツだ」
ユフィリア:
「……でも、アキバの近くってPKしちゃダメなんじゃなかった?」
ジュン:
「つか、この辺はちゃーんと禁止区域外だっつの」
マシュー:
「大丈夫。ルールは守ってる」
ジン:
「PKの癖にルールねぇ。じゃあ、なんでこんなトコで待ち伏せしてんだ? 人なんかくんのか?」
ジュン:
「つか、オレらはアサクサに行くカップル狙いだかんな。お前等はたまたま逆方向から来たけど」
ユフィリア:
「ふぅ~ん。じゃあ、アサクサに何かあるの?」
サブリナ:
「今、アサクサで交尾するカップル増えまくりだし、連れ込み宿までできてっし」
マシュー:
「イチャイチャ外道」
ユフィリア:
「連れ込み宿って?」
ジン:
「ラブホテルの古い言い方だな」
PK集団の割にペラペラと喋るので何となく会話が続いてしまい、剣を持て余し始めるジンだった。
ユフィリア:
「……なんだろ、みんなちょっと女の子みたい」
ジン:
「だな。なんかオカマっぽい」
サブリナ:
「オカマじゃねっし!」
マシュー:
「うん、オカマじゃない」
ジュン:
「つか、オレらは女だからな」
ジン:
「じゃあ、オナベ…………いや、『ネナベ』なのか?」
マシュー:
「そう」こくこく
ユフィリア:
「えっと、ネナベって何?」
ジン:
「オカマは分かるだろ? その反対がオナベ。インターネットでオカマのフリをしてるネットオカマを略してネカマ。その反対のネットオナベを略してネナベってことだな」
サブリナ:
「アタシらは男キャラ使って遊んでただけだし。それがイキナリゲームの中とかマジイミフだよ。……てか、マジチンコついてっし」
この世界の元となっていたゲーム〈エルダー・テイル〉には、以前からボイスチャット機能が標準で搭載されていたため、ある程度までは声だけで性別を区別することができ、そのことがゲームキャラとそのプレイヤーの性別を一致させる圧力になっていた。
MMORPGは元来コミュニケーションを主眼とするゲームであったこともあり、他者と交流を行うプレイヤー達はこのボイスチャットによって性別を一致させようとする流れが生まれていた。数年前にキャンペーンで外観再決定ポーションが無料配布されたのも、ボイスチャットの普及に伴って性別の一致を促す目的もあったと言われている。
もともと日本では性別を逆転させて遊ぶのはそれほど珍しいことではなかった。リアルタイムの通信能力が爆発的に強化され、多人数のボイスチャットが成立したのは比較的最近の話なのだ。
このボイスチャット以前は文字でのやりとりを行っていたため、性別を誤魔化すことはそれほど難しくなかった。その大半はネカマである。MMOの男性プレイヤー比率が圧倒的であったため、ネナベはマイナーな存在でしかなかったのである。
時代背景的には、携帯電話やインターネットを含むエンターテイメントの多様化が、2000年以降『ライトヲタク』を増加させたことが大きい。男女を問わず、任天堂製の携帯ゲーム機などに小さい頃から触れる機会が増え、やがてヲタクと一般人の境界が曖昧になる『ヲタクの一般化』が傾向として現れはじめたのが2010年ごろ。そうしてMMOも含めたネットゲームを楽しむ女性人口の増加が誘発される環境が整っていくことになった。
これらは若い世代がヲタク文化圏に気軽に参入することができるようになってきたことを意味し、ヲタク的生活様式を卒業しなかった古い世代と(少なからぬ混乱をもたらしながらも)同居を始めていた。ゲームはヲタク的な文化圏だったはずが、ライト層の参入によって『そうでもなくなって』いったのである。一部のコアゲーマーが廃人などと呼ばれるようになるのも、ライト層と区別しようとする心理が根にあったと考えられる。
ネナベの台頭は、これらライト層の増大を背景としたMMORPGへの女性参加率の上昇が主な原因と考えられる。単純に女性が増えれば、一定割合で存在するネナベも増加することになるからだ。
ボイスチャット導入以前からネットを利用していた層は、ゲームと現実との性別の不一致を敢えて楽しむことも選択に入っていたが、それらは(どちらかと言えば)マニアックなプレイングだと言えた。積極的に女性のフリをして男を騙したり引っかけたりたりすること自体を楽しむプレイヤーはそこまで多くはない。
もう少しライトな層では、気楽に遊びたい性別でゲームを楽しんでおり、男のフリ、女のフリ自体は目的としていない。女性キャラの方が『見た目が良い』などの理由が多い。その結果、騙すつもりはなかったのに『勝手に勘違いされた』という方向で性別逆転現象を捉えることが多い。
ヲタクとしての濃さというものに世代はあまり関係がなく、もっと『個々人の問題』であるため、一概に若い世代・古い世代という分類で決めつけることはできないのだが、ボイスチャットが存在することが当たり前となっていれば、前提が違ってくる部分はある。
ゲーム自体を目的とし、他者との交流を避けるソロプレイヤーや、知り合いだけの『閉じた輪』で遊ぶプレイヤーの場合、ボイスチャットが性別を一致させる圧力とはなりにくい。その結果、大ギルドでは性別の不一致が少なく、小ギルドでは性別の不一致が多い傾向になる。
このような複数の要因が絡み合い、様々なところで性別の不一致はそれぞれの理由で楽しまれていたのであったが、〈大災害〉によって事情は一変してしまっていた。彼ら(?)もその被害者だったということになる。
ジン:
「じゃあ全員なのか?……そっちで隠れてる2人も?」
木の陰から「そうでーす」という声が聞こえ、もう一人は繁みから手だけにょっきり現して、手首で頷くジェスチャーを返して来た。
あっさりと伏兵を看破していることをバラしたジンもジンだったが、隠れている2人もノリが良いというべきか、会話に参加したかったのかもしれない。
サブリナ:
「女なのにチンコついてっし。こんなんじゃ彼氏とか作るの無理だし」
ジン:
「ははは(苦笑) それでPKって、もの凄い逆恨み臭がするけどな」
心ない台詞にやりきれない沈黙が場を覆い尽くす。PKが良くないことだというのは彼ら(?)も分かってはいるのだろう。ここが分水嶺だった。
ジン:
「正直、カップル退治とはすばらしい心がけだと思う」
ユフィリア:
「ジン、さん……?」
普通であれば、相手の心情を察した上で『理解を示した』という系統の上辺的発言となるが、ジンの場合は完全に本音である。
ジン:
「……しかしだ。非モテの第一人者であるところの俺様を狙ったのは万死に値する。今日はツレがユフィリアだし、勘違いしても仕方がない部分もあると認めてやる。というわけで、今回は特別に見逃してやってもいいぞ?」
遥か百万光年の彼方からの、上から発言だった。
ジュン:
「つか、フザケンナ!」
ユフィリア:
「でも、やめといた方が良いと思うよ?」
気の毒そうに、心からの同情で言葉をかけているユフィリアだったが、まるっきり無視された。女の子相手では彼女の魅力であっても、その驚異的な威力は半減してしまう。
サブリナ:
「カノジョの前で醜態晒したくなきゃ金目のものを置いてけ。……てか、その子 可愛いからちょっとイタズラしてぇ」
マシュー:
「それ、なんかわかる」
謎の声4:
「あたしも!」
ユフィリア:
「えっ? えええっ?」
サブリナの提案に、仲間たちも目の色が変わっていった。ネナベであるから中身は女性のハズだったが、体が男だからなのか、ムラムラとした欲望の視線でみられてユフィリアが狼狽える。イタズラ心に点いた炎は消えそうに無い。
ジン:
「うし、決裂だな? テメーラ大神殿行きか、土下座で謝罪か選びやがれ!!」
むしろ戦いを望んでいた雰囲気がジンの台詞からはうかがえた。
本来、この5対2の状況で勝ち目などはない。サブリナ達が強気なのは自分たちが圧倒的に有利なためだ。見逃すかどうかを決めるのは彼女達(?)であって、ジンではない。
壁役1、回復役1のジン達に対して、敵は前衛3、回復役1、補助1の構成である。それぞれ『回復役を守る』という前提で戦うことになるため、壁役がタウンティングを行って回復役への攻撃を阻止しつつ、敵前衛へのダメージを重ねていくことになる。
敵側はアタッカーを含めた3人がジンに対して武器攻撃を行う。ユフィリアの回復力を越えた分がダメージとして蓄積され、HPを削りきればジンは死亡することになるだろう。
反対に相手からみれば〈守護戦士〉であるジンの攻撃力はそれほど高くないはずなので、前衛の3人にダメージを与えて『数の不利』をひっくり返すことはまず不可能だと言える。
この様に、回復役がいれば人数の多い側が負けることなどはちょっと考えられない。
……ところがジンの場合、〈竜破斬〉を使えば一瞬で壁役を倒すことが可能である。ヘイトによる攻撃優先順位から解放されれば、さっさと突破して回復役を仕留めることも容易い。レイシンがいる場合などは、壁役を瞬間的に交代して突破を図ることができる。
だがしかし、今回ジンは遊ぶことにしていた。〈竜破斬〉抜きで5人と戦おうというのである。
戦端が開かれると、敵に合わせる形で互いにタウンティングを行う。ユフィリアとの念話を繋いで小声で指示しながら、押されつつ後退をかけていく。回復役との距離が大体20mを越えると魔法が届かなくなるため、伏兵の2人は慌てて出てくることになる。〈森呪遣い〉のトガと〈付与術師〉のイッチー。こうして不確定要素を消したところで反撃に転ずる。
〈守護戦士〉でメインタンクのマシューがまずひっくり返った。突進から盾でジンに強打されたのだが、全く反応できていない。腹を上にした転倒で、俗に『青天』と言われる状態である。
すかさずフォローに入った〈盗剣士〉ジュンの連撃を剣で巻き込み、間を詰めてストップさせる。ジンの背後を狙う〈武士〉サブリナに対して、ユフィリアがメイスを使った渾身の一撃を見舞った。兜が凹むほどの衝撃。ジンの指示通りに盲点からの攻撃だった。起きあがろうとしていたマシューのところへジュンを蹴りで吹き飛ばして妨害。サブリナがユフィリアをターゲットしようとしたところで、逆にジンからの一撃まで貰ってしまう。敵ヒーラーのトガは慌てて回復呪文を唱え始め、〈付与術師〉のイッチーは攻撃補助から防御系の補助呪文に切り替える。
この様にユフィリアの攻撃力を利用しての戦術は、いわばデート中ゆえのサービスの一環だった。彼女を活躍させて喜ばせようとしているのだ。 余裕まんまんのジンが、一人でも三人を相手にできる理由は別にある。
双身体。
ジンは体の左右をバラバラに使って戦うことが出来る。攻防同時制御を行う時に使うのがこのダブルなのだ。
元々は割体と言われる武術系の身体運用能力のことで、中心軸が発達してくると体の左右の半身をズラして使えるようになる。そのまま割体の完成度が高くなってくると、それぞれの割体にも中心軸的なものが生成される。これを中心軸に対して側軸と呼ぶ。側軸の形成によってそれぞれの割体が機能的に制御されると共に、割体同士の連携が強まり、深まっていく。左割体の側軸を中心とした回転運動で右割体が使えるようになるので、右腕の攻撃による威力が大きく増すことになるのだ。中心軸の機能はドアでいう蝶番のような動きも含まれるため、中心軸と左右の側軸を自在に使い分けたりコラボさせながら動作を制御できるようになっていく。しかも割体によって左右の半身を前後にズラしながら中心軸や側軸を機能させいくとなると、外側から見ただけではわからない複雑な動作や、高威力の攻撃が可能になってくる。
ジンの使っている双身体とは、割体によって分けられた左右の体に対して、それぞれに無心による戦闘モード、ゲーム風に言えばオートアタックを発動させるところに意義がある。
オートアタックとは、ターゲットした敵に対して自動的に攻撃を加える機能のことである。ゲーム時代はこの自動的な攻撃機能によって攻撃を加えつつ、アイテムの使用や特技の選択を行っていたのだ。このオートアタックの機能によって指示を出し続けなくても、しばらくは戦いを継続させることが可能であった。
〈大災害〉以後、ゲームが現実になったことで、オートアタックは少し違ったものに変化している。戦う意思があれば、体が自動的に動いて戦闘を可能にしてくれるのである。機能的にみればやってることは同じだが、プレイヤーが見ている場所や感覚がまるっきり違う。敵を叩けばその衝撃が腕を伝って肩に響くのだ。
この世界に取り残されたプレイヤーが戦うことができるのは、このオートアタックの機能によるところが大きい。大半のプレイヤーが掴み合いの喧嘩もろくに経験していない状態であっても戦闘を行うことができるようになっている。
これら通常のオートアタックは、ジンがダブルを発生させたことによって、シングルと呼ぶべきものになる。このシングルでは、ダブルと戦力的に大きな開きが生まれてしまう。たとえばシングルでは最上級の戦闘技術を持つ〈ハーティ・ロード〉のさつき嬢であっても、ジンが攻防同時制御を使い始めた途端に封じ込まれ、ほぼ一方的に打ちのめされている。
〈武士〉や〈盗剣士〉の使う二刀流では、シングルによって二つの武器を連携させて戦うことになる。これがダブルによって二つの武器を使えるようになったとすると、次元の異なった戦闘力を持つことが可能である。左右の腕が独立して動くため、攻撃予測が出来なくなり、防御が著しく困難になるのだ。
二刀流などで左右の腕が別々の生き物のように感じられるようになるには、内部で割体や側軸の形成が欠かせない。シングルの状態で幾ら二刀を鍛え、高めても、それはひとかたまりの連携としか感じられないのである。しかもダブルならば小手先や腕だけの動作とはならない。半身を動員して高い威力を発揮させることができるのだ。
この能力は攻撃だけのものではない。防御でも理屈は同じである。つまるところ、ダブルによる攻撃はダブルでしか防ぐことはできない。
ジンは、双身体で戦いながら、ユフィリアに指示も出しつつ戦っている。トリプルやクワドラプルも問題なく操ることが可能だ。
右半身と左半身で別々の敵の別々の動作に対処しながら、攻防を自在に制御していき、時々は蹴りまで加わって場を完全に自分の支配下に置いてしまっていた。それでも、ユフィリアのペースに合わせているために死人は出ていない。
ジン:
「オラオラどうしたぁ? 土下座で謝罪すっか? それとも大神殿かぁ?」
〈付与術師〉の強制睡眠魔法アストラル・ヒュプノを、ユフィリアと一緒に回避しつつ、じっくりといたぶりながら追いつめて行く。サブリナ達は勝ち目のないことは既に悟っていたため、互いに身の振り方を決めかねて迷いが生まれていた。今や回復役のトガは火の車であり、あちらこちらに回復呪文をひっきりなしに掛け続ける作業で目一杯という状態だ。
特技を使おうとしていたサブリナを盾で突き飛ばし、ヒーラーのトガにぶつけて回復も同時に妨害。すかさずマシューに対して剣による重たい一撃を加える。ユフィリアとの距離が開いていたため、間合いを調整するついでにジュンのみぞおちにヒザも入れておく。エグるようなヒザの一撃に悶絶するジュンの背後に周り、ユフィリアと合流。ジュンが邪魔になる位置取りでマシューの追撃を妨害。〈付与術師〉のイッチーが慌てて後退するのと入れ替えに、サブリナが突っ込んでくる。ユフィリアがジュンにダメージを追加。
ジン:
「……ラストだ。ジャンピング土下座、もしくは大神でn」
サブリナ:
「すいまセンっしたぁー!!」
さりげなく要求を吊り上げていたジンがすべてを言い切る前に、まずサブリナが飛び上がり、空中正座からの見事なジャンピング土下座を決めた。練習したことがあるのか?と訊きたくなる出来映えである(10点満点) それを見て次々と跳び上がる仲間達。綺麗に五人がジャンプから地面に頭を擦り付けていた。半泣きである。
ジン:
「チッ……」
その舌打ちに土下座組の背筋が凍る。
もう完全に殺す気でいたのだが、ジャンピング土下座でジンはその機会を逸してしまった。まさか、本気で謝罪してくるなど思いもしない。
こうして戦いは(ややあっけなく)終わった。
サブリナ:
「いやぁ~、旦那にはかないやせん」
ジン:
「ヨイショとかイラネーよ」
ジュン:
「つか、ホント、スンマセンっした」
ユフィリア:
「PKとか、あんまり続けない方がいいと思う」
サブリナ:
「それはもう、お二人がそうおっしゃるんでしたら~」
ジン:
「いや、別に続けたきゃ続けてもいいぞ?」
ユフィリア:
「……ジンさんどうしちゃったの?」
ジン:
「いやいや、上辺の説教よりも実際にやってみて、失敗して痛い目を見た方が勉強になるんだって。人間なんてテメーで失敗しなきゃ変わらないんだって」うんうん
ユフィリア:
「もう、そんなこと言って人のデートの邪魔したいんでしょ」
ジン:
「かもな?(笑)」
サブリナ:
「いやはや、仲睦まじくて結構でございますな!」
ジン:
「ゴマをすらんでいいっちゅの」
イッチー:
「でも、ホントに可愛いね。何歳?」
ユフィリア:
「今年でハタチです」
トガ:
「若くていいなぁ」
マシュー:
「ホントだね」
ジュン:
「今度、一緒に遊ぼうよ」
ユフィリア:
「うん。オッケーだよ」
ジン:
「コラ、PKとつるむな」
イッチー:
「二人はホントに付き合ってないんですかぁ~?」
ジン:
「そうだよ、悪いか」
ジュン:
「もったいねー」
サブリナ:
「じゃあさー、今度いっぺんおねーさんと遊んでみない? あたしのチンポ、かなりデケーぞー? ……うぼあっ?!!」
段々と調子にのってきたサブリナが、ユフィリアの肩に手を回して誘惑しようとしていたところに、ジンの蹴りが顔面にクリティカルな感じでヒットした。
ジュン:
「それ、嫉妬じゃん。やっぱ好……ごはぁっ?!!」
ストンピングでトドメを刺そうとしている無言のジンを全員で必死になって止めようとしがみつく。数分後、戦闘終了時よりも被害が拡大した混沌とした状態になっていた。
降参した相手に一方的に攻撃をしかけているジンの方が、雰囲気的には悪人にしか見えないのだが、負けたPKに対する処遇としてみれば、異常なほどに寛大なのだ。
これ以上の危険をさけるように、ペコペコと頭を下げながらサブリナ達は退散した。最後にはPK集団にも避けられるような危険人物というアベコベな話になってしまった。最後に〈カトレヤ〉のメンバーには手を出さないようにと釘を刺しておくのも忘れなかった。
ユフィリア:
「ジンさん、女の子には優しくしなきゃダメなんだよ?」
ジン:
「バっカだなぁ、体が男だったら男みたいなもんだろ」
ユフィリア:
「あっ、そっか。……ん? んんん?」
ジン:
「んじゃ、アキバに行くか」
からかわれたユフィリアがまだ悩んでいたが、気にせずに先を促す。
ユフィリア:
「……そういえば、どうして温泉に入っちゃいけなかったの?」
ジン:
「そりゃ、さっきの連中みたいなのがアキバにはまだまだたくさん残ってるからだよ。ネカマと一緒の風呂に入るなんてぞっとしないだろ。ネカマはオカマと違って、中身は完全に男なんだぜ」
ユフィリア:
「そっか。水着を着なきゃいけないよね」
ジン:
「そういう問題じゃ、ないと思うがな」
これもまた、たくさんある問題の一部なのだろう。何が正解かを見極めるのは、ジンにも難しい。
ユフィリア:
「ね、アキバの前に、アサクサに寄ってもいい?」
ジン:
「ああ、そりゃ構わんが……、このタイミングでそういうことを言われると、連れ込んで欲しいのかと思っちまうだろ」
ユフィリア:
「連れ込む?…………ち、ちがうのっ!」
慌ててぱたぱたと手と首を振るユフィリア。
ユフィリア:
「カップルが行く街だし、なんだか面白そうだなって。お店とか色々増えてるかもでしょ?」
ジン:
「フッ、ホテルしかなかったりしてな。とりあえず、行ってみっか」
ユフィリア:
「いこいこっ♪」
ちょい速度優先で更新させていただきます。
後でセリフなどは修正するかもですが、大枠で文意などの変更は予定しておりませぬ。
新キャラが絡むと枚数が飛んでいきますね。この内容で1話分の1/3程度かな?とかで見積もっていた自分のアホさ加減が笑えます。わっはっは。
( TДT)