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50  ゴー&ストップ

  

ジン:

「シュウトよ、何を畏れる必要があるか! むしろ相手を畏れさせい!」

ユフィリア:

「女の子を怖がらせちゃダメ!」

ジン:

「だからさー、ちょっとつまんなさそうな顔しててみ?『私と一緒じゃ楽しくないですよね……』みたいな定番のセリフを言うって。そしたらアレだよ『一緒に居られるだけで嬉しいよ』とかテキトーに言ってハグとかチューとかすりゃいいだけだろ?」

ユフィリア:

「そんなことしたら可哀想!」

ニキータ:

「考え方が薄汚い……」

ジン:

「あのなぁ、どっちにしろ今のままだと『このセリフ』を言われるハメになるんだぞ。 その時ちゃんと対処できないと相手が傷つくんだからな! 考えてもみろ、『いつも一緒にいるユフィリアさんたちと比べたら、私と一緒じゃ楽しくないですよね?』みたいな文脈なんだぞ? 女に慣れてないシュウトじゃ、ハグだのチューだの無しで対処できるわけねーだろうが!」

ユフィリア:

「最初から楽しければ、そういう風にならな、い!」

シュウト:

「だんだんお腹が……」


 ついにはストレス性の腹痛を感じ始めるシュウトだった。


ユフィリア:

「女の子はね、優しくされたいものなんだよ?」

ジン:

「ケッ、そんなの男だって同じだろ」

ユフィリア:

「ジンさんは、意地悪だから分からないんだよ」(つん)

ジン:

「なんだそりゃ!? 俺ほどの紳士を捕まえて、よくそういうことがいえんなー」

ユフィリア:

「紳士だったらもっと優しい言い方するよ」

葵:

「どっちかってーと、変態紳士だよね(笑)」


 ああすればいい、こうすればいい、の応酬に加えて、ジンとユフィリアが互いに突っかかることで、話はこじれて長引く一方であった。


ユフィリア:

「シュウトは難しく考えずに、普通にしてればいいんだからね?」

シュウト:

「普通って、いったい……」

ニキータ:

「次はキス、みたいにギラギラされてると帰りたくなるでしょ?……というか、帰るわ」

葵:

「よほど好きじゃないと、ガツガツしてんのはちょっとねー」

シュウト:

「ギラギラ、ガツガツ?」

ジン:

「基本は、『もっふもふ』だろ?」


 アドバイスされるごとに方向が定まらなくなっていく。どうやら相談したこと自体が間違いだったと気付いたのは、ずいぶんと後になってからのことだった。


シュウト:

「なんだか、だんだん嫌になって来たんですが……」

ジン:

「おいおい、大丈夫か? ……ホレみろ! お前ら女子の理想を押しつけようとするから、若者がまたひとり、ここに潰されようとしているではないか!」

葵:

「ジンぷーは、女の子とどうやってエッチなことをするかって話ししか言ってないけどな」

ユフィリア:

「ジンさんのえっち」

ニキータ:

「下心が丸見え」

ジン:

「かーっ、これだからガキ娘は困る。男のスケベ心こそが人類繁栄の(いしずえ)ですよ? エッチな雰囲気はセクシーさと表裏一体! みんなババアになったら誰っからもエロい目で見てもらえなくなんだ。その時になって俺の正しさを悟ったって遅いんだからな!」


 無理矢理にエロ心を肯定しようとするジンに引き気味になる女性陣。ただひとり、葵だけが微妙な顔でコメントを付け加える。


葵:

「うーん、こればかりはジンぷーにも一理あるなぁ。あたしもつい昨日ぐらいまでは、高校入りたてのぴちぴち15歳だったけど、気が付けば既に3……永遠の23歳だもん。時間は侮ってちゃいけないだーねぇ」

ジン:

「だなー」

シュウト:

「2人で老け込まないでください……」


 溜め息混じりのシュウトに埒が開かず、葵が合掌するように手を叩き、話題を転換させた。


葵:

「ここはシンプルに、経験を積めばいいんじゃない? デートの予行練習をしてみるとかってのが定番っしょ!」きらん☆

シュウト:

「そこまでするのは、ちょっと……」←単に負担が増すだけと思った

ユフィリア:

「私だったら別にいいよ?」あっけら

ジン:

「それなら俺もデートの予行練習とやらがしてみたいね」にまにま

ユフィリア:

「もう、ジンさんは今、関係ないでしょ?」

ニキータ:

「だけど、ユフィはちょっと相手役には相応しくないと思う」

ユフィリア:

「そうかな?」


 最高ランクの美人とのデートであるから、普通に考えれば難易度がとても高そうに思えるのだが、ユフィリアとの場合は例外で、その難易度は予想を遙かに下回って低い。性格的になんでも楽しそうにしてしまうことや、お喋りなことで話も回り易く、あまり負担にならない。一緒にいるのが楽なのだ。彼女とデートに行けば、ほぼ確実に他の女性が面倒でやりにくいという印象に変わってしまう。


 またデートに行って至近距離で微笑みかけられたりすれば、惚れないでいる方が難しかったりする。それでは流石に本末転倒だろう。練習の方が本番に成りかねない。

 加えて、万が一、ユミカにデートの練習風景を見られたり、そんな噂が耳に入ったとしたらどうなるだろう。彼女は友人として立場を失うことになってもおかしくない。


ジン:

「じゃあ、ニキータがやるんだな?」

ニキータ:

「えっ?」(ドキ)


 完全に自分を対象外と認識していたらしく、不意打ちに目が覚めた様子のニキータだった。すかさず追い打ちをかけるアクア。


アクア:

「ふぅーん、満更でもなさそうね」

ニキータ:

「そんなこと……」

ジン:

「あー、嫌だったか? シュウトの相手じゃ、なぁ?」

ニキータ:

「いえ、そういうつもりは……」


 シュウトを傷つけないように、否定を重ねることになってしまうニキータであった。どうにもグダグダである。


ジン:

「うし、練習な。ちょっとデートに誘ってみろ」

シュウト:

「えっ……?」


 少しばかり居住まいを正したニキータと、正面から視線がぶつかってしまう。居たたまれなさとも違う何かの感覚に、心のNG警告が乱舞する。


シュウト:

「ちょっと難しすぎませんか? その、お、お手本とかがないと!」

ジン:

「手本って、普通に誘うだけだぞ?」

シュウト:

「いえ、その普通っていうのが分からないから困っているわけで。ジンさんお願いしますっ!」

ジン:

「何を慌ててんだか。 まぁ、いいけど……」


 ニキータの方に向き直るジン。ジト目を軽く逸らすニキータ。


ジン:

「な、たまには2人でメシでも食いに行こうぜ」

ニキータ:

「それって、酔わせてセクハラするつもりですか?」にっこり


 軽い調子で食事に誘うジンだったが、辛辣な返しをするニキータに苦笑いする。自分で言ったセリフの揚げ足を取られた形である。


ジン:

「誘う以上はそういう気分が無いとは、言わないけど?」

ニキータ:

「セクハラが目的でしたらお断りします」

ジン:

「きっついねぇ~。じゃあ、ランチならどうだい?」


 性欲を肯定し、嘘を言わないジンに対して、笑顔で断りを入れるニキータだ。しかし、ジンも負けていない。冗談っぽく拒絶を受け流し、すかさず要求を下げて再アタック。


ニキータ:

「ランチ、ですか?」


 予想外の提案だったようで、顔つきがいったん素に戻る。


ジン:

「ランチだとしたら、店の外の明るいオープンテラスなんかで食うのもいいよな? もちろん酒も無しで構わない」


 実際に行ったらどうなるのか?という状況の描写を盛り込み、イメージを膨らませつつ、不安を取り除くように言葉を継ぎ足していく。


ジン:

「それに、外の方が俺にとっても具合がいい」

ニキータ:

「それはどういう意味で?」

ジン:

「イイ女を連れてるってアキバの連中に見せびらかしたいだろ?」にっこり

ニキータ:

「…………」

ジン:

「そのぐらい期待さしてくれたっていいんじゃねーの? それとも、もしかして……」

ニキータ:

「良いでしょう。そのぐらい、どうってことありませんから」


 デートに誘うといったお遊びの即興会話で、断りを入れてしまう大人気のなさを自覚していたものの、「嫌なものは嫌だ」と言ってしまえる部分がニキータにはある。その代わりに、貸し借りでいえば『借り』に近い負い目を感じてしまう。女性をアクセサリー代わりにしようとするジンの言い方に文句がないでも無かったが、その程度であれば(負い目もあるので)許容範囲である。「イイ女」「見せびらかす」は共に褒め言葉になるので悪い気はしない。


 ここでジンは挑発に転じる。デートの約束を取り付ける前から、その先の「イイ女かどうか?」といった勝負をふっかけて順序を逆にしてしまっていた。引っ込み思案の大人しい子なら嫌がりかねないところだが、ニキータの場合は強気に振る舞うため、この手の勝負から逃げることは敢えてしないという読みである。ジンが言い掛けた「それとも、もしかして自信がないとか?」といったセリフはダメ押しのつもりだったが、彼女は最後まで言わせるつもりすらなかった。

 ニキータはランチデートにOKしながら、何を着ていくか早くも頭の中でチョイスを始めていた。


アクア:

「案外、ノリ気よね?」

ニキータ:

「……そんなことは、ないですよ」


 アクアのツッコミで我に返ったものの、平静を取り繕い動揺を表面に出さないニキータであった。


ジン:

「ギリギリだったけど、相手がニキータじゃ巧くやった方だろ。……こんなん出ましたけど?」

シュウト:

「あ、はい」


 いきなり断られてどうするのかと思ったが、相手の反撃を受け流して小技に切り替え、当てに行ったところまではシュウトにも理解できた。『普通に誘う(だけ)』というテーマからは大きく変わってしまったような気もしたが、参考になったと言えなくもない。


ユフィリア:

「じゃあ、次は私の番だよね?」

ジン:

「何の話をしているのかな?」


 うすうす感づきながらも、スルーしようと試みるジン。


ユフィリア:

「私も誘って欲しいなって」

ジン:

「え~、今はいいって」

葵:

「まぁまぁ、例題だから、ねっ?」にやにや


 笑顔のユフィリアが期待に満ちた眼差しでジンの方を見ている。どうやら自分も誘われてみたいようだ。


ジン:

「じゃあ、簡単にだぞ?」

ユフィリア:

「うん。 ……ねぇねぇ、ジンさん、遊びに行こ?」

ジン:

「って、お前から誘ってどうするよ ……あーっと、どこ行きたい?」

ユフィリア:

「うん。何処でもいいよ?」

ジン:

「出たよ。この『何処でもいい』ってのが厄介なんだ。……ほんっと、何処でもいいの? だったらホテル行こうぜ。ホテル」

ユフィリア:

「ヤー! エッチな所は無し!」(><)

ジン:

「なんだよ、どこでもいいって言ったじゃん。すっごい優しくする。絶対。約束する」

ユフィリア:

「もう~、ニナの時はちゃんと誘ってたのに……」


 顔色が変わって泣き出しそうに見え、ジンが慌て始める。


ジン:

「じゃ、じゃあ何か希望を言えって。行きたい所とか、食いたいものとか何でもいいぞぅ?」

ユフィリア:

「じゃあ……牛丼が食べたい」

ジン:

「ああ、それは俺も食べときたいな」


 『何でも良い』以外の意見を言ったら、とりあえず賛同して相手の思考を方向付けていく操作を意図していたのだが、ジンの場合、牛丼は本気で食べたいと思っていた。自然さを装うまでもなくナチュラルな賛同である。


ジン:

「じゃあ、牛丼 食いに行くか~。それだけじゃアレだし、もうちょっと膨らませようぜ? もう少し行きたいところとか、やりたいこととかってないか?」

ユフィリア:

「また『何でもいい』って言ったら、『じゃあエッチしよう』って言うんでしょ?」

ジン:

「とうじぇんネ」←?

ユフィリア:

「じゃあー、景色の良いところ?」

ジン:

「いいね。それだと夜空とか夕焼け、高いところからの景色、なんてのもあるな」

ユフィリア:

「んと、日の出は?」

ジン:

「わははっ、日の出はダメだろう。一晩いっしょに居る事になっちまうぞ? そりゃ、俺は嬉しいけどニキータが心配するって」

ユフィリア:

「そっか、そうだね」


 葵にアクア、ニキータは揃って(どの口が言うか!)と思ったが、ユフィリアの『何でもいい』を封じた後、ジンは優しさや親切心に目覚めたかのように態度を変えていた。


ジン:

「この辺りで、安全で高い場所っていうと……イケブクロの〈陽光の塔〉か。あそこ屋上に出られたっけかな? とりあえずモノは試しだ。行ってみるか?」

ユフィリア:

「うん。なんだか探検みたい」

ジン:

「そりゃそうさ。何せ俺たちは〈冒険者〉だからな」


 機嫌が良くなってきたユフィリアの笑顔を正面から受け止めて、ジンも微笑みを返していた。

 見ていた側からすれば、(最初からエロ発言を入れなければいいのに)としか思えない仕事ぶりに呆れてしまう。特にシュウトはエロ発言を真似できそうにないので、とてもではないが参考にできそうもない。


ユフィリア:

「じゃあ、明日がいい!」

ジン:

「…………これって、練習だよな?」

ユフィリア:

「予行練習でしょ? 楽しみにしてるね!」

ジン:

「ああ……あ、あれっ?」


葵:

「まぁ、こんなトコかな。どうだった、シュウくん?」

シュウト:

「真似できそうにない部分が多いのが、気になりました」

ジン:

「フッ。オジンにはオジンの戦い方があるっちゅー訳ですよ。……でもまぁ、俺もむかし、オヤジがエロ発言ばっかしやがるから、ズリーと思ってたんだよなぁ」

葵:

「父親ゆずりかい!」


ジン:

「でもま、こうして自分でやってみると、エロいことだけ言えばいいってもんでもないんだがなぁ。エロのインパクトが強い分、『思いやり』だとか『優しさ』がないと、嫌がられるばっかりで巧く行かなかったりするんだぜ?」

アクア:

「もう少し研究が必要みたいね」

ジン:

「ほっとけ」


 ジンにも苦労があり、その先にも上達の道がありそうなのは、頭では分かる話だった。……しかし、この先10年、15年と年輪を重ねた自分が、『エロオヤジ』なキャラになれるか?と考えると、どうにも無理そうな気がするシュウトであった。


ジン:

「いいか、シュウト? 『何でもござれ』なタイプは3種類に分類される」

シュウト:

「何でもござれ、ですか?」

ジン:

「不安だから相手に合わせたいだけの奴と、単に頭の中が整理されていないだけの奴が大半なんだが、中にはユフィリアみたいに『マジで何でも良い』ってのもいるんだ。しかし、騙されてはイカン」

シュウト:

「はぁ」


 まったくピンと来ていない顔のシュウトである。


ジン:

ユフィリア(あいつ)がエッチ無しだったように、何でもござれであっても許容範囲というものがあるのだよ。それを決めているのは『コンテクスト』だ。互いのコンテクストのぶつかり合いが会話であり、コミュニケーションというものなのだ」

シュウト:

「……以前にも話してましたけど、コンテクストって何なんですか?」

ジン:

「文脈、もしくはコンテクストとは、大まかには『背後状況』のことだ。言葉・テクストは表層的なものでしかないから、背後の状況に重ねてみて、はじめて総体的な『意味』が成立することになる。コンテクスト抜きでの意志疎通なんて、ダシ無しの味噌汁みたいなものだ」

アクア:

「日本人はハイコンテクストに依存し過ぎでしょ。異文化交流では、表現したものに比重が置かれる『ハイコンテント』の方が重要。男女関係がもっとも身近な異文化交流なのを忘れないことね」

ジン:

「情報伝達はローコンテクスト(=ハイコンテント)が正解かもしれないが、異文化交流だからこそ、他人とのコンテクストの違いに敏感にならなきゃ判断を間違うわけだろ?」


シュウト:

「すみません、もう少し噛み砕いた表現でお願いできませんか?」

ユフィリア:

「そうそう」


葵:

「相手のキャラの理解するだとか、『いま置かれている状況』を把握することがコンテクスト的なものかなぁ。たとえば、楽しみにとっておいたアイスを家族に食べられちゃって、悲しいとか怒ってる、なんてのも背後状況でしょ?」

シュウト:

「あぁ、その場合だとアイスを食べに連れていけばいいんですね?」

ニキータ:

「それは分からないでしょ」

ユフィリア:

「うん。逆に、食べたくない気分になってるかも」

シュウト:

「あっ、違うんだ?」


 こうした具体例に対して女性陣は強かった。逆にシュウトはこの辺りで理解が追いつかなくなる。


ジン:

「その辺りがコンテクストの重要性ってことだな。相手のキャラによって対応が変化してくるわけだな。……俺もそんなにわかってる訳じゃないんだが、アイスをみると悲しい気分を思い出すから嫌だって考える女の子もいるっぽいぞ」

シュウト:

「そんなの、予想できるとは思えないんですが?」

葵:

「だから、付き合うんじゃないさ。長くというか、『深く』付き合えば、ある程度まで分かるようになるものだよ」

シュウト:

「あ、はい……」


 やさしく諭すような葵の微笑みに、少しばかり目からウロコが落ちた気分になっていた。


ジン:

「もう待ち合わせだのは決めちまったのか?」

シュウト:

「いえ、まだこれからです」

ジン:

「さっさと約束しちまえよ」

シュウト:

「それって、どうすれば?」

ジン:

「まだダメっですかい……」


 ぐずぐずしているのは自分でも分かっていたが、踏ん切りが付くような理解には至っていない。何かがズレて感じるのである。


アクア:

「ああ、もう! イライラして来た!シュウト!」

シュウト:

「はい」

アクア:

「目的を記述するのよ!」


 いい加減に見ているのにも飽きて来た様子のアクアが、この状況を叩き潰すべく動き始める。


シュウト:

「目的……?」

アクア:

「デートの目的とは何?」

シュウト:

「デートの目的は…………わかりません」


 真っ白である。ジンの言うようにするのであれば、キスやセックスをするための作業、などとなりそうだったが、それは女性陣から否定されている意見でもあった。


アクア:

「視点を変えるわ。なら、戦闘の目的は何?」

シュウト:

「えっと、敵に勝つことです」

アクア:

「もっと細かく!」

シュウト:

「敵に被害を加えること……」

アクア:

「それだけなの?」

シュウト:

「味方の被害を押さえること。最終的に勝利すること」

アクア:

「そのぐらい言えればいいわ。戦闘とは、戦略や作戦を成功させるため、敵もしくは障害を排除するために行う交戦のことであり、狭義には敵に対して損害を与え、自軍の損失を最小化し、結果的に敵を殲滅もしくは潰走させること、などと定義できるでしょう」

シュウト:

「はい」

アクア:

「では、デートの目的とは何?」

シュウト:

「相手に被害を与えること、ではなさそうですね……」


 もっとも、ジンの言い方を踏襲するならば、性的なモラルといった要素にダメージを与え、自分の(性的な)目的を達成する、という側面があるような気がしないでもない。

 しかし、いまはそんな余談に頭を使っている場合ではなかった。


シュウト:

「ええと、女性を喜ばせること、でしょうか?」

アクア:

「50点! それに加えて、貴方も楽しむこと、仲良くなること、でしょ」

シュウト:

「戦闘とは、真逆ですね……」

アクア:

「いい? 君は無難なデートをして、無難に済ませたいみたいだけど、そんなんじゃ、端っから目的は達成できないわ! 作戦行動における目標は常に少し高めに設定すべきものなの。完全成功を意図して、ようやく通常の成功が望めるんだから!」

ジン:

「うーん、お説ごもっとも」うんうん


アクア:

「それから、相手の女の子も『人間』だってことを忘れて欲しくないわ。物みたいに扱って、計算通りに巧くいくと思ったら大間違いだからね? そこのところを忘れないように!」

シュウト:

「はい」

ジン:

「わはははは」


 アクアの顔はシュウトに向けられてはいたが、明らかにジンに対して文句を言っていた。


ジン:

「じゃあ、俺も一句、謡うとするかね。目的は分かったとして、じゃあ行動の指針をどうすればいいのか?というのが次の問題だろう」

シュウト:

「そう、思います」

ジン:

「パターン化しての対処は簡単そうに見えるが、実際にはあまり巧い方法ではない。相手がパターン外の行動をしてきた時に対処が分からなくなる危険があるからな。これは戦闘と比較して考えれば分かることだろう?」

シュウト:

「戦闘であれば、状況を見極めることが重要ですね」

ジン:

「そういうこった。まぁ、戦闘も恋愛も、使う道具が違うだけで、やることは対して違わないハズなんだけどな」

葵:

「その言い方は、それはそれで危険な気もするけどねー(苦笑)」


 シュウトの場合、戦闘では膨大な時間や経験といった裏付けがあるからこそ、とっさの機転やアドリブを利かせることができるのだし、自信を持つに至っている。一方でデートには何の裏付けもないことが不安の原因であり、アドリブ能力の無さが不安の根源なのだと分かって来た。


 ここまでの会話を応用するならば、アドリブに対する不安から、パターン化しての対処を求めてしまうのは、『コンテクストの問題』があるため危険だということになりそうだった。

 ふと、別の話を思い出す。


シュウト:

「相手に合わせるだけが正解じゃなくて、自分に相手を合わさせることで、パターン化した対処が可能になるってことですか?」


 午前中、アキバまでの道中でのジンとの会話内容からの応用である。


ジン:

「おっとぉ、そいつは中々、悪くはないが……」

ユフィリア:

「だけどそんな風に扱われたって知ったら、誰だって嬉しくないよ?」

ジン:

「そうだな。しかし、『技』ってのはそういうものだ。型通りに対処しようとすれば自分も型通りになるし、そう扱われれば相手もそのカタチに近づいていく。それはそれで戦術ってもんだが、その場合は誰であれ型にハメてしまうわけだから、相手を変えても自分の戦法を変えなければ、結果も同じことに成りやすい」

葵:

「ダメンズウォーカーとかもそんな感じだねぇ。自分にとって最悪の人を見抜いて選んでしまう癖があるだとか、相手のあまり良くない素養を引き出してダメな人間にしちゃう、だとかって言われてる」

ジン:

「自分の成功パターンになる場合もあるが、いっちまえば、『巧く当てはまる相手』を探さなきゃならない。もしかしたらユミカって子に当てはまるかもしれないが、どっちにしても、最初から巧く行かねーだろ」

シュウト:

「そう、ですよね……」


 ユミカ相手に巧く主導権を握ったままパターンに当てはめて、そのまま成功・勝利できるか?と考えれば、そんな自信があるわけもない。そんな自信があるなら、そもそもこんな風に相談などしていなかっただろう。


ジン:

「案ずるなシュウトよ。俺様がとっておきの秘策を授けてやろう」

シュウト:

「秘策ですか?」

葵:

「また怪しいことを言うつもり?」

ジン:

「ふふん。昔から多くの知識が歴史の闇に消えて行ったわけだが、これは生き残ったものの中でも秘中の秘というべきものの一つなのだ。古来より伝わる男女の交わり、その秘技を纏めたものを『房中術』という。その中でも最も有名な金言、それこそが『接して漏らさず』の教えであーる!」

シュウト:

「『房中術』……ですか?」

葵:

「アホだ。デートの話してんのに性の奥義って……」

ジン:

「早とちりするんじゃない。いいかシュウト? 本番行為のみをセックスだと考えるのはよくある浅はかな過ちなのだ! もともと『セックス』という言葉の語義からして、男女の性別といった意味があるわけで、セックス=性行為という認識は間違っているのだ。同様に、性の奥義ともなれば、デートにも使える高度な指針が含まれていないとどうして言えるのだろうか!? ここは敢えて言い換えてしまうべきなのだ。デートの最初から最後までがセックスなのだと言っても過言ではないのであーる! 」

シュウト:

「は、はぁ……」

アクア:

「壮大なるバカの極みね」


ジン:

「いいか! 『接して漏らさず』の教えは、本番行為をしてもザー●ンを漏らしてはいけない、といった『具体的な教え』のことだと考えられている。しかし、これを拡大して解釈するとだな、ストップ&ゴー、というか、『ゴー&ストップ』ということになる。……ここからが難しい辺りだぞ? デートとは仲良くなるための行為だ。しかし、仲良くなった先には何が待っている? もうめっちゃ仲良くなったらどうなる?」

シュウト:

「えっと、結婚ですか?」

ジン:

「ドゥアホゥ! 性交が先! 結婚は後なの! おまえは人の話を聞けっちゅうの。いいか? ここには矛盾が隠されているのだ。仲良くはしたい。でも急にえっちなことしちゃらめぇ!ってな」

葵:

「野郎が『らめぇ』とか言うな!」

ジン:

「分かるか?(ハァ、ハァ) ナオン共は『仲良くしたい』けど『仲良くするのはダメ』と言っているのだ!」

葵:

「キメェ! 息を荒くすんな!!」

シュウト:

「……急に仲良くしてはいけないってことですか?」

ジン:

「そう! だから、ゴー&ストップなのだよ。これは『スローリィ』ではない。まず相手の許す範囲で行けるところまで行くんだ。そーして、なるべく仲良くする。しかし、行き過ぎた行為は厳禁だ。女子は暴走を恐れている。しかし冒険は歓迎らしい。故に、ゴー&ストップ。つまり、エッチしても中に出したりはしない、ってことなのだぁ!」どどーん!


 ジンの演説は『荒ぶる波濤』のごとき勢いであったが、聞いていた女子の面々は『静謐なる湖面』も真っ青の、ドン引き状態になっていた。

 真剣な面持ちで何事かを考えているシュウトに、ニキータが「ちょっと、真に受てないでしょうね?」と声を掛けていた。


ジン:

「まぁ、いつの時代も女子はデートだの前戯を長くしろ!と言い、男は早く本番をさせろ!と言うんだけどな。本番じゃ感じられない子もそれなりの割合でいるみたいだし、だから『前戯に時間を掛けろ』という意見になるのだろう」

ニキータ:

「セクハラ的発言のオンパレードね」


シュウト:

「そうか……」

ジン:

「むむっ、ついに理解したか?」

シュウト:

「…………それって、本番にたどり着く前にたくさん時間を掛ければ、その分だけ喜んでもらえるってことなんですよね?」


 何かに光明を見いだしたらしきシュウトの表情が、安堵にゆるむ。


ジン:

「……いや、待て。悟ったつもりになるな!戻ってこい、シュウト!?」

シュウト:

「大丈夫です! 皆さんの意見を参考に、優しく、紳士的に、なるべく仲良くなるように心がけます。……今からちょっと念話してきます!」



 ――シュウト退場。



ジン:

「あーあ。……いっちまいやがんの」

葵:

「やれやれ。ジンぷーはちょっと暴走してたんじゃない?」

ジン:

「いやー、言い過ぎてんのは分かってたんだけど。なんか手応えがなくってなー。本気で大丈夫なんかな?」

葵:

「知らんがな」

アクア:

「まだまだ時間が掛かりそうね~」

ニキータ:

「ユフィも、これで分かったでしょう?」

葵:

「そうそう」

ユフィリア:

「なにが?」


 ニキータのセリフに頷く葵だったが、良く分かってなさそうな表情のままのユフィリアだった。


ニキータ:

「……というわけで、明日のお話はキャンセルで」


 ジンの方に向かってデートのキャンセルを代弁した。しかし。


ユフィリア:

「……何で? キャンセルしないよ」


 あっさりと言い切る彼女に信じられないという視線が集まる。


葵:

「ユフィちゃん、こんなセクハラおっさんに騙されちゃだめよ!」

ジン:

「そうそう、騙されちゃアカン!」

ニキータ:

「ユフィ、どうして?」

ユフィリア:

「騙されちゃダメなんでしょ? だったら行かなきゃ!」


 ほんわかオーラに説得は無理だと悟る。振り返ってもの凄い殺意を発して睨み付けてくるニキータに、ひるんだジンが少しばかり空気を読んで工作を試みる。


ジン:

「でもホラ、俺って明日とか忙しいし? また今度にしようぜ?」

アクア:

「……あら、貴方がいなくても別に問題はないと思うけど?」←悪ノリ

石丸:

「大丈夫っス。任せて欲しいっス」←親切心

レイシン:

「はっはっは。デートに行きたいんでしょ? 明日は代わりに仕事しておくから」←追撃も自在


 料理の仕込み中だったレイシンが現れて、華麗に追撃を決めていく。話を面白そうな方向に持って行こうとする悪い大人達の前に、ギルドは二分しかけたが、葵があっさりと転んだため形成が決まってしまう。苦い顔をしているのはニキータとジンの2人ばかりである。


ジン:

「クッ、なんって友達甲斐があるんだろうなぁ、こういう時に限って!」

ユフィリア:

「じゃあ、決まりっ!」


 

 こうして翌日、二組のデートが行われることになった。

 

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