42 それぞれの選択
ジン:
「よし、このぐらいでいいだろ」
全クラス中最高のMP量を誇る〈妖術師〉が、ヘイトも気にせず範囲攻撃魔法を(常軌を逸した速度で)乱れ打ちした結果、ごく短時間の内に200体ほど居たと思われるモンスターの、実に7割までを撃退するという脅威的な戦果をあげていた。……実際には途中から潰走する敵モンスターが増えていったためにどうにかなった、というのが真相ではあったが。
ジン:
「シュウト、ここはもういいぞ。先に走ってけ」
シュウト:
「ジンさん達はどうするんですか?」
ジン:
「石丸は俺が乗せていく。ぶっつけで2人は無理だからな」
『乗せていく』『2人は無理』とはなんだろうか。オンブでもするつもりなのかと考える。全力のジンなら石丸を背負ってもかなりの速度で走れるのかもしれないが、それならば一緒に走っていけばいいはずだ。
シュウト:
「一緒に走って行かないんですか? 今度は何を?」
ジン:
「無論、新必殺技出すよ。無論っ」
どうやら「無論」と言いたいだけらしい。ジンが何を考えているのかはシュウトには予想も付かない。後から説明されると、何となく論理的に見えたりする(こともある)。
ジン:
「じゃあ、1分後にこっちも出発すっから、俺に追いつかれたら罰金な?」
シュウト:
「なんかズルくないですか、それ」
ジン:
「とりあえず、真っ直ぐ行け。まだその辺にいるだろうから」
シュウト:
「分かりました。困ったら念話します」
文句をいいつつも、さっさと走り出す準備をしていた。しつこく襲ってくる敵を次々と時代劇のヒーローのように切り捨てているジンに「お先です」とだけ声を掛けて、返事も待たずに飛び出す。
空気が重い。もたれ掛かるように前傾しながら更に回転を上げていく。今は、ほぼ太股を交互に上げるだけで走っている。地面に対するキックはカカトダッシュを習得したシュウトであってもロスにしかならない。地面に軽く触れるぐらいの感触で十分で、強く踏むだけでも上に跳ねてしまうのだ。
シュウト:
(木の上って走っていけないのかな。アレって速いんだろうか?)
木の枝のしなりが反動になって、ジャンプの飛距離になるのかもしれないが、野生の肉食獣が獲物を追いかけているような速度(時速100キロ付近)で走っているのだから、今更かなぁ?と思っていた。
体幹部をしっかりと移動させる。インナーマッスルの使用、モモ裏の筋肉を意識すること。習った数々の項目をチェックしながらも、シュウトの感覚は周囲の情報取得に忙しく働いていた。現在の速度では、小石や木の根につまづくと簡単に転倒して事故になるためだ。一歩ごとにどこを踏むのかを連続してチェックし続けている。
口元を強めに引き締める。さっきから暴力的な風により、「い」を言う時の形に口が歪みそうになっていた。そうそう格好良いとはいかぬものである。
ジン:
「だいぶ速くなってきたなぁ、アイツ……」
石丸:
「そろそろ1分っスが」
ジン:
「じゃあ、こっちもそろそろ行くか。背中に乗ってくれ」
あらかた敵を片付け終えたジンは、剣を納めると、盾だけ持った状態で石丸をオンブする。首に回された腕を右手で押さえ、〈フローティング・スタンス〉を起動。
ジン:
「いくぞ。 しっかり掴まれ」
好んで使用するシールド突進の特技を選択。緑のエフェクトを残しつつ、爆発のようなロケットスタートがかかる。特技の移動距離が終わり、短めの技後硬直が発生しても勢いのままに滑り続けている。
これは〈フローティング・スタンス〉を応用し、高速で滑って移動しようとする試みであった。ジンは勢いを殺さない様にしながら、再使用規制の解除とともにシールド突進を再使用する。一気にスピードが上乗せされ、その場から姿が消え、見えなくなっていた。
◆
しばらくしてシュウトが追いついた時には、霜村たちの戦いはようやく終局を迎えるところだった。長丁場の戦闘は他のモンスターグループの追加もあり、一時は困難な状況に陥っていたが、アギラの連れてきた最精鋭メンバーや、葉月たちが合流したことで士気を盛り返し、次々とモンスターを撃破していた。勝ちは決定的なものでもはや覆ることはない。彼らは残敵の掃討に移っていた。
遠目からだいたいの状況を把握したシュウトは、戦闘に参加するべく走りながら弓を取り出した。速度を落として矢をつがえ、低く長いジャンプから空中で矢を放つ。こうして遠距離からの支援を行いつつ、周囲で手薄そうな場所を探して援護の矢を送っていく。
ユフィリア:
「シュウト!」
こちらを目敏く見つけたユフィリアが合図を送ってくる。軽く手で挨拶を返すと、次の場所へと移動した。
各所で状況終了の報告が始まっていた。〈ハーティ・ロード〉のギルドマスター、アギラは気炎を上げたままで、敵を求めてあちこちを走り回っている。
アギラ:
「他に敵はいねぇか? アイツらで最後なんだな?」
弥生に敵の数を確認すると、最後の数体を潰しにダッシュする。
アギラ:
「うおおおっ!ラストだオラァ!死ね死ね死ね死ね!」
強引な割り込みに慣れっこの傷顔守護戦士が無言でその場を譲る。
――こうして戦闘は終わりを迎えた。
霜村:
「呆けてる暇はないぞ!ここから直ぐに移動する!損害の確認いそげ!村人の点呼も忘れるな!」
アギラ:
「おっひょっひょ~、シモが仕事してやがる」
霜村:
「うるさい、貴様、畳むぞ」
アギラ:
「上等。やれるもんならやってみろや!」
霜村:
「へっぽこモンクが!」
アギラ:
「役立たずブシめ!」
コブシをぶつけ合わせ、腕を打ち合わせると、最後はお互いの胸にコブシで触れた。ハイタッチのようなもので、なんらかの合意に達したらしい。そこに葉月がやってきていた。
葉月:
「……ギルマス、どうしてここに居るのですか?」
アギラ:
「おぅインテリ、元気してたか」
葉月:
「ナカスへは行かなかったのですか?」
アギラ:
「行ってきたぜ。それから超スピードで戻ってきた」
親指を立ててサムズアップ。
葉月:
「それで、街の中へは? ナカスの街に『登録』して来ましたか?」
アギラ:
「いや、面倒だったから入る前に……」
葉月:
「…………」
無言で剣を抜く葉月に、アギラは全く懲りていない対応をする。
アギラ:
「バーカ、嘘に決まってんだろ。だいたいオメーらは心配しすぎなんだよ。要は死ななきゃいいってだけだろ?」
容赦なく切り付ける葉月の剣を躱し、続く斬撃から跳び下がって逃げた。メンバーとの過激なコミュニケーションは定番のものだったが、このノリに付いていけないと〈ハーティ・ロード〉に居るのは厳しい。
これで〈ハーティ・ロード〉側は(ナカスにいる者達を除いて)全員が揃ったことになる。ここで、霜村から正式にナカスへの撤退がメンバーに告げられた。
予想外だったメンバーも多いようで、反応は様々だ。それでも一番騒いでいたのは、到着したばかりのアギラ達だった。「なんだそりゃ!? いま戻ってきたばっかだぞ!」という怒鳴り声はなかなか生々しいものがある。
ユフィリア:
「ジンさん達、遅いね?」
シュウト:
「おかしいな? 直ぐに追いついて来るって口振りだったのに」
〈ハーティ・ロード〉のナカス行きと直接関係ないシュウト達は、ジン達の心配をしていた。念話してみようかと思っていると、アギラと葉月とがこちらに近付いてくる。
西の“喧嘩師”の異名はシュウトも耳にしていた。変わり者でもあって、かなりの有名人だ。シュウトは話したりした事が無かったが、総じて(良い意味でも、悪い意味でも)面倒臭いヤツだと言われていた。
どうするつもりなのかと様子を伺っていると、アギラはニキータのところへ真っ直ぐに近付いていった。シュウトには葉月が話しかけてくる。
葉月:
「追いついて来たのはキミだけかい?」
シュウト:
「ジンさん達なら、直ぐにくると思います」
葉月:
「いないのか、いや、逆に都合が良いかもしれないな」
シュウト:
「何の用でしょう?」
葉月:
「我々〈ハーティ・ロード〉は、これからナカスへと向かう。これで、当初の依頼通りに、君たちにはナカスまでの護衛をして貰うことになるわけだが……」
シュウト:
「そういえば、最初はそういう話でしたね」
2人は同じ苦境を味わった者同士が醸し出す『お互いの苦労への理解』をまったりと漂わせていた。
葉月:
「ああ、随分と昔の話みたいに感じている。と、話が逸れたな。……ギルド〈カトレヤ〉に対して、正式にこの依頼をキャンセルしたいと思う」
シュウトにすると少し意外な内容でもあった。何となく〈港町コウベ〉までは村人を護衛していくつもりでいたためだ。それに、随分と親切な気がしていた。普段の葉月なら、付いてきたければご勝手に?と放置しそうなものだ。
葉月:
「村人の護衛なら、ギルドマスター含めて6人の援軍がいる。ここからなら君たちの手を借りなくても大丈夫だろう」
シュウト:
「なるほど、そうかもしれませんね」
意外そうなこちらの顔を見て、説明を付け加えたようだ。(言い出しっぺの)ユフィリアなら〈港町コウベ〉までは同行したいというかもしれないなぁと心で思いながらも、理由には納得する。
葉月:
「さて、キャンセル料金の件なんだが、こちらとしても正式な手続きを踏む以上、当然、支払いたいとは思っている。しかし……」
シュウト:
「しかし?」
演技がかった口調の葉月に先を促す。最後にどんな冗談をいうつもりなのか、ちょっと楽しい気分になる。
葉月:
「キミの要請によって、私はミナミへ警告を発した。これは我々の活動という観点からすると、大きなマイナスを生む行為だった。よって我々からも損害を君たちへ請求する必要が生まれてしまった。これを請求するにしても具体的な金額を決めるのは困難で、主観に大きく依存せざるを得ない。また、我々がナカスへと向かう以上,君たちの支払い期限はこの場で、今すぐということになってしまう。よって、君たちの事情を考慮し、大変遺憾だが、仕方がないので、キャンセル料金と相殺してチャラということにしてあげよう」
シュウト:
「要するに、支払いたくないんですね?(笑)」
さて、なんと言い返そう?と考えていると、葉月は魔法の鞄に手を突っ込み、モゾモゾと何かを取り出そうとしていた。葉月から突き出された袋を受け取ると、ずっしりと重い。中味は金貨のようだ。先手を打たれたらしい。
シュウト:
「これは?」
葉月:
「謝礼だよ」
シュウト:
「何に対する謝礼ですか?」
言外にジンに対しての謝礼かどうかを尋ねてみる。
葉月は口角を上げるようにして笑みを作って答えた。
葉月:
「もちろん、食事に対する謝礼さ。約束は守らないとね」
シュウト:
「そう来ますか……」
巧い落とし処だと思う。どうやら尻尾を切って逃げてしまったらしい。この辺りで手打ちにしろということだろう。
葉月:
「もちろん、大半は君たちが勝手にやったことなのだが……、ふーみんを助けて貰ったことには、感謝しておくよ」
シュウト:
(ふーみんさんを、助けた……?)
何の話なのか分からない。高速で思考を回すのだが、まだ話が先に続いている。
葉月:
「もう一つは、まだ礼を言うには速すぎる。だろう?」
シュウト:
「……ナカスへ行って、それからどうする気ですか?」
葉月:
「さてね。できる限りのことをしてみるつもりだよ。それが『あの話』を知った者の義務であり、権利、なによりも自由であるのだから」
決意をたたえたその瞳に、シュウトは頷き返した。それぞれの場所でお互いにできることをするのだ。この世界のために。
アギラ:
「あのよ、俺の名前はアギラってんだ。お前は、何てんだ?」
ニキータ:
「キャサリンよ、キャシーでいいわ」
アギラ:
「そうか!キャシーだな?」
場外が響めく。ギルマスの不思議な動向に聞き耳を立てていた仲間達が驚いたためだ。アギラが自分の名前を名乗るのはかなりのレアケースである。
何の話をしているのかと気になっていたシュウトが近付くと、どうやら雰囲気的には口説かれているらしいことが分かったが、ニキータがなめらかにに口からデマカセを言っていたので、思わず吹き出してしまった。アメリカの青春ドラマか、お水の源氏名みたいに感じたのだ。
嘘を付いているところを見られたニキータは瞬間的に表情を曇らせていたが、シュウトは笑っていたためそれには気が付かなかった。
アギラ:
「あ゛?……って、お前、キャサリンじゃねーじゃねーか!」
ニキータ:
「チッ」
アギラ:
「その舌打ちはなんだゴラア!」
シュウトに笑われたためか、脳内メニューからニキータのステータスを確認して、嘘の名前なのを知ってしまったらしい。
平然と舌打ちするニキータ。つかみ掛かりそうな勢いのギルマスを、メンバーが慌てて羽交い締めにして止める。4人がかりだ。ニキータはと言えば、しれっと明後日の方を向いて関係なさそうな態度を決め込んでいた。その強気はどこから?と思うシュウトであった。
睦実:
「さつきちゃん……」
さつき嬢はしばらく前から葉月たちが現れた方向を眺めていた。つまりは、ジン殿が来ないかと思って待っていた。背後から声を掛けてきた睦実に反応して振り返る。
さつき:
「どうした、睦実?」
さっちんでは無いのか?といぶかしむ。何度も止めてくれと頼んでも止めてくれなかったではないか。
睦実:
「シュウト君たちね、ここでお別れなんだって」
さつき:
「そうか…………」
せめてご挨拶して、今までのお礼を言っておきたいのだが……。まだまだ、学びたいことも多い。朝練があんなに楽しかったのは初めてだった。
さつき:
「なら、シュウト君たちに挨拶してこないとな。これでしばらく会えなくなってしまうだろうから。いこう、睦実」
睦実:
「…………」
さつき:
「睦実?」
思い詰めているような表情だった。動きを止めた睦実の肩に触れる。それが切っ掛けになったのか、ため込んでいた感情が、堰を切ったように彼女の口からあふれ出していた。
睦実:
「さつきちゃん! シュウト君達と一緒に、アキバに行こう?」
さつき:
「睦実、……どうした?」
睦実:
「だって、このままココにいてもいいの? 気になっている人がいるんでしょう? 本当はさつきちゃんは一緒に行きたいはずだよ。それなら私も、私も一緒に行くから!ねっ? きっと、楽しいよ。そうしよう? そうだよ、こうなったら、あたしも本気でシュウト君ねらっちゃっおうかなぁ~」
無理をして、痛々しい睦実が見ていられなくて、抱きしめる。
さつき:
「私のことを、もう『さっちん』とは呼んでくれないのか?」
睦実:
「え? なんで? いつも嫌がってたのに」
さつき:
「大丈夫だよ、もういいんだ。もう分かったから」
大切な友を、その名で呼ぶ時が来たのだ。いつか言おうと思っていた言葉だが、その機会は案外早くに訪れた。
さつき:
「むっちゃん。今までずっと、守っていてくれたんだね」
睦実の口元がわななき、瞳から涙がこぼれる。
申し訳ないことをしていた。彼女はずっと覚えていてくれたのだ。「さっちん」というのは、「私は覚えてるよ」という意味だったのだろう。剣道を始めたのは、むっちゃんを守りたかったからなのだ。それなのに、稽古の忙しさにいつしか幼い日の記憶が薄れ、友情の思い出が淡く消え去ってしまっていた。
さつき:
「すまない。……きっと、竹刀で頭を叩かれすぎちゃったんだと思う」
睦実:
「なにそれ? ひどいよぉ~」
泣きながら笑う睦実をもう一度抱きしめる。その耳元で自分の往く道を宣言する。
さつき:
「むっちゃんがいて、仲間のみんながいて、オマケでギルマスとかもいる、『ここ』が、私の居場所なんだ」
そうして泣きじゃくる睦実の頭をしばらく撫で続けていた。
睦実:
「…………だけど、あのオッサンのことはどうするつもりなの?」
さつき:
「ええ? いや、いいんだ。良くないんだけど、ほら、ユフィさんとかいるし? 絶対に勝ち目とかないし? いや、そうじゃなくて、そういうのとはちょっと違うというか。アレだよ? そう、敬愛なんだ。尊敬の気持ちの方が大きいというか?」
睦実:
「ユフィちゃんは付き合ってないって言ってたけど、やっぱりそばにピッタリくっついてないと……」
さつき:
「ううっ、それは、その通りなんだけど」(◎_◎)
だんだんと頭が混乱してきたさつき嬢は、目をぐるぐるさせながら、活路を見いだすべく、思い切った行動に出ていた。生前、師であった祖父は、「焦って来ると、無茶な手段に出るところがあるから気を付けなさい」と言っていたが、まさにそんな感じであった。
軽く決意するとシュウトのところにずんずんと歩いていく。そして、
さつき:
「シュウト君!」
シュウト:
「は、はい」
さつき:
「いい機会だ。この際、お互いにフレンドリストに登録しようじゃないか?」
またもや場外がどよめき、「そんなにイケメンがいいのか!?」と怨嗟の声が黒い波動となってシュウトの背中に突き刺さる(気のせいである)。
シュウト:
「はぁ、それは構いませんが、なんでまた?」
さつき:
「君は、その、兄弟子のようなものじゃないか。何かあったら、ちゃんと報告するのだぞ?」
シュウト:
「わかり、ましたけど…………兄弟子なのに、報告ですか(苦笑)」
さつき:
「少なくとも3日に1度は連絡をくれ。いや、その日の練習を朝・昼・夜と、その都度、教えてくれてもいいんだが」
シュウト:
「ま、まとめてご報告したいと思います」
さつき:
「わかった。そうしてくれてもいい」
各自が短い別れの挨拶を済ませていた。シュウトの所に来ていた睦実が、ユフィリアとお別れの握手をしようと囲んでいた〈ハーティ・ロード〉の仲間たちを蹴散らして抱きしめる。ニキータは弥生と話していたが、長瀬友がうっとりした表情で腕を絡ませて、至近距離から見つめていて話しにくそうにしていた。レイシンは泣いているラヴィアン少年の頭に手を置いて慰めていた。
アギラ:
「じゃあな、キャシー、また逢おうぜ!」
ニキータ:
「それは無いわね。永遠にさようなら」(にっこり)
アギラ:
「ケッ!ふざけんな。アキバぐらい、いつでも行けるってんだ!」
ニキータ:
「はいはい」
睦実:
「シュウトくーん、じゃあねー!元気でねー!」
シュウト:
「睦実さんも!」
さつき嬢が軽く手を上げ、そしてジンが来るはずの方向をチラりと見てから、そのまま去っていった。
ユフィリア:
「ふふっ、恋の予感?」
ニキータ:
「冗談でしょう? あんな単細胞、30分もしたらこっちのことなんて忘れてるわよ」
ユフィリア:
「気に入らなかったかぁ。それじゃあ仕方ないね?」
ニキータ:
「……それより、ジンさん達、遅すぎるんじゃない?」
シュウト:
「そろそろ念話してみようか」
ユフィリア:
「待って! 来た!」
念話を使おうと脳内メニューを開いたところで、ユフィリアが豆粒大のジンを発見していた。
イイイィィーーーーーーーーーーーーーーーイィィーーーーーーーーーーーーーーーンン
まるでバックストレートを駆け抜けるF1マシンの如きスピードで、眼前を通り過ぎて行く。4人共そろって首を左から右へと動かしてみてしまった程だ。
何事かを叫んでいたらしきジンは、前回り回転受身を試みていたが、モーターレースのクラッシュ映像のように、吹き飛ばされる木の葉よろしく舞い上がって何度か転がり、そのまま下生えに突っこんだ後も止まりきれず、ボウリングの玉のように樹木にストライクをかましていた。
途中で手を離して降りていた石丸は、ゴロゴロと何十回か回転したところで、シュウト達の目の前に『しゅた』っと立ち上がって止まり、パンパンと埃を払う余裕すらあった。
(沈黙)
誰も何も言えずにいると、しばらくしてジンが四つん這いで出てきて、ユフィリアに回復を要求していた。とりあえず小走りで向かう。
シュウト:
「大丈夫ですか?」
ユフィリア:
「ジンさん、背中痛いの?」
ジン:
「うんにゃ、足の裏。火ぶくれで歩けん」
説明によると、超スピードで滑るまでは良かったのだが、ブレーキが無いことと、摩擦熱によって足の裏が燃えるように熱くなるそうで、辿り着くまでに時間が掛かってしまったらしい。途中に何度か休憩して、自然治癒による回復と、足裏の装甲が元に戻るのを待っていたために時間が掛かったらしい。
シュウト:
「それなら走ってくればいいじゃないですか。みんなもう行っちゃいましたよ」
ジン:
「うむ、カッコ良く登場しようと思ったんだがなぁ。いいスピード出てたろ?」
ニキータ:
「……大クラッシュを見られなくて、返って良かったかも」
ユフィリア:
「あははっ」
ニキータの毒舌にユフィリアが笑っていた。ジンは頭を書いて渋い表情を作る。
ジン:
「そうか、終わったか…………」
〈ハーティ・ロード〉の一団が立ち去った方向を見るともなく眺めて呟くと、ゆっくりと立ち上がった。
シュウト:
「帰りますか?」
ジン:
「いや、帰る前にミナミの陣容を偵察といこうぜ」
レイシン:
「近寄れるかな?」
ジン:
「ダメ元だろ」
この偵察は意義が大きい。ミナミの危機対処能力や、兵の動員力などの大まかなものが読み取れれば対処がしやすくなるためだ。情報は少しでも多いほうがよい。
そうして、馬を召喚して約1時間、東へ行こうと試みたのだが、残念ながら近付くことは叶わなかった。ジンのミニマップを使ってすら、敵と遭遇せずに移動することは出来なかったし、そうして敵と出会ってしまえば、戦わずに突破することは出来なかった。徐々に敵との遭遇回数が増えて来たところで、ギブアップする。
ジン:
「こりゃ、無理だな」
レイシン:
「そうだね。帰ろっか?」
ユフィリア:
「うん! 帰ろう?」
馬を降りると、鞍を外して放してやる。ジンがミニマップで周囲の索敵をする。帰還呪文はその使用に時間が掛かるため、使用中は無防備になってしまうためだ。
シュウト:
(問題は、ここだ……)
ジンがオーケーを出すと、それぞれが脳内メニューから帰還呪文を選択。最後に登録された都市へと戻るべく、オートでの呪文詠唱が始まった。しばらくして、ユフィリア達の足元に転移魔法陣が浮かび上がると、ジンは静かに手を下ろして唱えているフリを止めた。
気配に気が付いたユフィリアの目が見開かれた。口元はそのまま詠唱が続いてたため、「なぜ?」と問い詰めるような意思を視線に込めて、ジンを見ている。
ジン:
「すまん。3日、いや4日で戻る」
咎めるような視線を残して、ユフィリアは消えた。次々に転移していく仲間たち。それを見送るジン。
ジン:
「で、お前は知ってたんだな、シュウト?」
軽く頷くと、ジンは面倒なことになった、とばかりに溜息をついていた。
メリー苦しみます(イブ)
クリスマス連休に愛の呪いを。リア充共に怨念の祝福を!
くけけけけけ orz