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251  アウェイからホームへ


葵:

「新しいお友達を紹介するね?」

 

 新ギルド〈EW〉も結成され、そろそろアキバに帰ろうかという頃、葵が女の子を連れてきた。黒髪のおかっぱといえばいいのだろうか。


コッペリア:

「コッペリアはコッペリアといいマす。チーズケーキが好きデす」

ジン:

「……その子、誰? ヒロインの出番を喰ってジャイアントキリングかました、世界で大人気の、双子の鬼の片割れ?」

葵:

「なげーし、リゼ○じゃねーし!(苦笑) だから、コッペちゃんだってばよ」


 いつものことながら、なんのネタかは、僕にはわかりません。


シュウト:

「えっと、葵さんのMP供給で協力してた人、ですよね?」

葵:

「そっそ。なかよくしたげてね?」


 水中神殿を探している時、ジンも気付いてなかった場所を探り当てていた。それとペルセスの地下迷宮でリズムゲームをやらされた際、地獄の永久ループにハマりそうだったところを助けてくれたのも彼女だ。機械的という意味では石丸と少し似ている気がする。だけど会ってみたら、なんかちょっと違うような気も? 全体的に、何かズレているような気が……?


コッペリア:

「大容量ストレージが自慢デす」ゆっさかゆっさか


 なぜか自分のおっぱい(大きめ)をゆさゆさとし始めた。……どう反応していいのかわからず、僕はフリーズした。フリーズしておくのが最も安全だと信じている。


ジン:

「頭が痛いんだが。ちなみに、おっぱいと記憶容量にどんな関係が?」

コッペリア:

「元マスターがバストサイズとストレージのサイズを比例させマした。なので、一目でその大きさがワかりマす」ゆっさかゆっさか

葵:

「あっはははは。この子、botなんだって~(笑) おもろいっしょ?」


 なぜか、botって言われたのに、ポージングを決めていた。


ジン:

「この頭たゆんたゆんがbot? ……あのbotってか?」

コッペリア:

「たゆんたゆんではナく、ばいんばいんデス。訂正を求めまス」


 定められた行動を繰り返すタイプのAI? 人工知能というには不完全な代物という認識だったけれど、……まるで生きているように見える。生きているようにしか、見えない。

 

ジン:

「お前さぁ、……変なの拾ってくんなよ(ため息)」

葵:

「ハァ~!? キサマにだきゃぁ言われる筋合いはねぇ! 2対1であたしの勝ちだろうが! おおぅ!?」


 猫型ロボ風モンスターと、吸血鬼の真祖レイドボスを連れて帰ろうとしている訳で、あんまり人のことを言える立場ではないような気もする。

 ちなみに僕は、〈四天の霊核〉(エレメンタル・コア)をゲットしました。いわゆるクエストアイテムだったので、そのまますんなりと譲ってもらえて助かった。戦力ダウンしなくて安堵が半分。さすがに愛着が湧いてきていたので、嬉しさも半分。いや、半分より大きいかも。


ジン:

「流石に分が悪いか(汗)……んで、どうするんだ?」

葵:

「アキバに連れて帰るよん。チーズケーキが食べられるなら来てもいいんだって」

シュウト:

「チーズケーキって……(苦笑)」


 本当にbotなのかもしれない。チーズケーキで国を跨いで移動する決断が、果たして僕にできるだろうか。……無理です、すいません。


ジン:

「チーズケーキって2~3種類なかったっけ? どれが好きなんだ? 俺はフワフワした軽すぎるやつは苦手でな。レアチーズのどーんと重いのが好きだ」

コッペリア:

「チーズケーキの地平は無限に広がっていまス。ドれも素晴らしいものデスが、基本となる3種類ではベイクドもどっしりとした食べ応えがあると指摘しなければなりませン。また、フワフワしたスフレタイプは別名を『じゃぱにーず ちーず けいく』といい、作成難易度が高めな上級者向け。お味も上級なものだと考えマす」

ジン:

「それウィキペディア読んでるだけだろ? 本当に喰ったことあんの?」

コッペリア:

「……ベイクドは別名を『にゅーよーく ちーず けいく』といいまス。で、あれバ、レアタイプはどこの地名が相応しいのデしょう……?」

ジン:

「こいつ、誤魔化しやがった」


 深く考えるだけ無駄だな、と受け入れることにした。僕もなんだかんだと場数を踏んでしまっている。悲しいかな、こうした理解不明への耐性が身につきつつあるのかもしれない……。


葵:

「そんなんで連れて行きたいってお願いしたら、〈EW〉の予備連絡員みたいな形で派遣してもらえたんよ。ジンぷーといしくんが同時に動いちゃうと、あっちとこっちで連絡が付かなくなるかもしんないから」

シュウト:

「なる、ほど」


 本当にbotなのか知らないけれど、アキバに固定させて、予備の連絡要員として使うつもりのようだ。……たぶんチーズケーキを食べさせとけば文句を言わないだろう、とかの、非人道的な理由で。


シュウト:

「イッチーさんのデザート、絶品ですもんね」

葵:

「チーズケーキは頼んであるから、帰ったら食べようね」

コッペリア:

「早く、行くべきでス。急いデ、行くべきデす」


 なんとも()しの強いbotである。帰ろうにも、アクア待ちなのでこちらではどうしようもない。


 そこに現れたのは、縦・横に大きな『熊男』だった。二代目皇帝ウルス。レオンのところの副官だ。レオンも一緒なのだが、不機嫌そうにむっつりと横を向いている。

 体を折り畳むように小さくなって、ジンに礼を言ってきた。


ウルス:

「ジン、世話になった」

ジン:

「おう。ほんとだぞ、本当にお世話してやったかんな!」

ウルス:

「ありがたい。いくら感謝してもしたりない」

ジン:

「まー、なァー!さんざん鍛えてやったってのに、後ろから殴りかかって来やがるしよぉー。不意打ちに失敗したと思ったら、舌打ちかましやがんの! いやぁ、参っちゃったなー! ほんっと、お世話しちまったぜぇー!!」

レオン:

「…………クッ」


 はい、そうです。このネタでネチネチと攻めて、新ギルド〈EW〉にも無理矢理に加入させました(告げ口)


ウルス:

「ふははは! 2人は仲が良いのだな!」

ジン:

「ちょっと待て。……お前、なんか器がでかくなった?」

ウルス:

「これからも、レオンをよろしくお願いする」


 今後も裏方に徹するしかないレオンだが、こうして戻ってきただけでウルスたちは満足なのかもしれない。泣きそうな笑顔で何度も礼を述べる2代目皇帝に、ジンも毒気が抜かれたようで、ネチネチ言うのを諦めていた。



 最後に、可憐という概念が仮初めに人の姿をとってみたら、こうなるっていう美少女が、ジンの腕の中に飛び込んでいった。性格的には可憐にほど遠い気がしなくもない。なんというか、外見の評価というバイアスは、内面の評価にも強く影響するものだと、このごろ深く理解できた気がする。


ヴィオラート:

「ジン様っ。……行って、しまわれるのですね?」うるうる

ジン:

「ああ。でもユフィの誕生日が終わったら、すぐ戻ってくる予定だ」

ヴィオラート:

「……えっ? そうなの、ですか?」ぱちくり


 武器作ったり、鎧をこさえたりで、ジンは割と直ぐローマに戻る予定になっている。僕も付いていきたい。隙あらば、付いていくつもりである。


ヴィオラート:

「では、……またわたくしに、逢いに来てくださるのですね?」


 涙のお別れモードを取りやめ、ラヴい再開の約束に切り替えた模様。女の子って、なんだかんだ(したた)か。


ジン:

「んなこといって、お前の方が忙しいんじゃねーの?」

ヴィオラート:

「ジン様よりも大事な用事などありません!」

ジン:

「ほんとに~?」にやにや

ヴィオラート:

「ほんとです~ぅ。……ただ、周りの皆様のご迷惑になってしまうので、それで仕方ない時もちょっとあるだけです。わたくし、いっぱい、いっぱい我慢しているのですよ!」

ジン:

「そっかそっか。大変だな」

ヴィオラート:

「大変なのです。いっぱい『よしよし』して貰わないとダメなのです!」

ジン:

「おー、よしよし」

ヴィオラート:

「でへへ~(嬉)」


 イチャイチャしてそこそこ満足したらしい。これでしばらくローマの安寧は約束されたも同然である(←あんまり大袈裟でもなかったり)


ヴィオラート:

「ユフィ。誕生日パーティーに出席できなくてごめんなさい」

ユフィリア:

「大丈夫。気にしてくれて、ありがと!」

ヴィオラート:

「これ、プレゼントです。受け取ってください」

ユフィリア:

「やーん! うれしいっ!」

ヴィオラート:

「がんばって選びましたっ」


 ずっ友ごっこをやってる間にアクアが来て、帰宅のお時間になった。〈スイス衛兵隊〉のみんなに見送られ、ローマ郊外の妖精の輪へ。そして情緒もへったくれもないほどの一瞬で、カンダの〈妖精の輪〉に到着した。


ユフィリア:

「こっちはもう、暗くなっちゃってるんだね」


 ローマとの時差は約8時間。日本の方が遙か東に位置するため、時の訪れは8時間も早い。従って、僕らは『8時間後の世界』にワープしたように感じることになる。

 カレーパーティーを朝一番で開催した関係で、セブンヒルではまだお昼前の時刻だった。10時に移動したとしても、日本では18時。1月中旬では日が沈むのはまだまだ早い。今日は、お昼ご飯の感覚でこちらの夕食を食べ、後は時差調整の日になる。……さすがに、今夜は夜更かししてしまいそうだ(苦笑)


アクア:

「じゃあ、また」

ジン:

「おう。連絡する」

ユフィリア:

「アクアさんっ、またねっ!」

アクア:

「ユフィも」


 そしてアキバへ。なぜだか正門のイメージがある南側から入る。


ジン:

「オラッ、100レベル様が先に行けよ」

シュウト:

「ちょっ、押さないでください」


 無理矢理に先頭を歩かされて、久々のアキバへ。……しばらく歩いたものの、何も起こらりませんでした。


葵:

「ぶわっはははは! なんも起こんねーでやんの!」

ジン:

「……なんか、こう、無意識に気配が薄いとか?」

タクト:

「見えてても、見えていないレベル……」


 ジンたちに乗っかって調子こいてるタクトにムカチーンと来たけれど、我慢してやった。『やった』のである(大事なことなので2回ね)。やはりこういう時は、ユフィリアとかの目立つ人材を有効に活用するべきだと思うです。……影が薄くたって大勢に影響はない。ないったらない。


ジン:

「あれ? なんか変、だな……?」

ユフィリア:

「どうかした?」

ジン:

「わからん。なんだ?」

葵:

「へっへー。忘れ物ならまた取りに行けばいいじゃん」

ジン:

「そういうことじゃないんだが、なんかを忘れてる気が……」

葵:

「んなこと言われてもなー。聞いてる感じだと『無い』系の違和感?」


 微妙そうな顔しているジンだったが、まぁ、ジンにしかわからない何かだろうということで、そのまま歩いて幽霊ビルへ(対外的には精霊ビル)向かう。銀葉の大樹まではそう時間は掛からない。


 扉を開け放ちながら、葵が叫んだ。



葵:

「ハッピーハロウィーン!」

ユフィリア:

「えーっ!?」

シュウト:

「季節感っ!」

葵:

「にゃはははは。じゃあじゃあ、『あ はっぴー ぬー いやー!』……どーよ、今度のはあってるべ!」


 扉を開けといて、どうして漫才を続けるのか。久しぶりのメンツの出迎えは、キョトンとした顔でのものになってしまった。ほんと、ごめんね。


そー太:

「……マジで、帰ってきた!」

星奈:

「っ! っ!」

咲空:

「おっ、お、お……」


葵:

「うむっ。出迎え 大儀である。王の帰還ぞ? 厳かに出迎えよっ!!」


 マイペース! 本日も我らがギルマスは平常運転だった。


咲空:

「お帰りなさいませ! マスター、みなさん」

ユフィリア:

「ただいま~。帰ったよー」

星奈:

「……!」にゃーん


 しばらく玄関で再開のシーンをやってから、二階で帰還の報告をした。留守番のエルンストたちにも挨拶しておく。


エルンスト:

「無事に戻ったようだな」

ジン:

「おう」

名護っしゅ:

「まったくよぉ、もう戻ってこねーかと思ったろ!」

りえ:

「本当ですよ、隊長! ……まさか、あたしのこと忘れてませんよね?」

シュウト:

「えっと、……誰だっけ?」

りえ:

「やっぱりー!?」

シュウト:

「ウソだよ(笑) ただいま、りえ。3週間ぽっちで忘れたりしないよ」

りえ:

「ふえーん(涙) そんな冗談もこなせるようになっちゃったんですかぁ? 新しい女ですか?」

静:

「こらー、りえが独り占めすんな!」

りえ:

「うへへへへ。隊長はこのおっぱいで悩殺しちゃうのです」


 おっぱいか、おっぱいはいいよね。うん。柔らかいです(遠い目)

 こういうやりとりも久しぶりだ。正直、ずっと、ホームなのにアウェイを感じてきた。けれど本物のアウェイを経験してみると、ここがホームなのだと、ようやく理解できた気がする。


葵:

「はい、ちゅうもーく! あたらしいオトモダチを紹介するね? まず、いつの間にかそこにしれっと座って、お茶を楽しんでるカレ」


 レイシンの運んできたお茶を、優雅に口元に運ぶのは吸血貴公子カイン(レイドボス)だった。


カイン:

「(くぴり)むっ、……いい仕事をしている」

レイシン:

「ありがとう」はっはっは

リコ:

「ええええっ!? いつの間にぃぃぃ!????」


 「うおっ、またイケメンが増えたっ!?」「かっちょイイ!」とかの評価だった。いやいやいや、ちょっとはステータス表記を確認しようよ。


葵:

「ちなみに、吸血鬼の真祖で『レイドボス』だから。喧嘩売ると死ぬよ。 ……あんま楽には、死なせてくんないかも?」


 何人かがビクッと震えた。自分に注目が集まっていることを察すると、座ったまま上から目線で応じる。


カイン:

「……フン。多少の不作法には目を瞑ってやるが、死にたくなければ、せいぜい弁えておくことだ」


 そう、弁えておかなきゃいけない。特に1名、ヤバイのがいる。


シュウト:

「そー太、気を付けろよ!」

そー太:

「オレかよ!」

ジン:

「お前だな」

名護っしゅ:

「おまえだろー」

エルンスト:

「自分でもわかっているだろう?」

そー太:

「ひっでー! ……わぁったよ、気を付け、マス」

朱雀:

「あの、レイドボスって……?」


 朱雀もなんだか久しぶりだ。常識のある人がいて良かった。近年、常識人の不足は、深刻な社会問題となり果てている。


葵:

『24人とか、96人で戦う、あのレイドボスだよ。レイド×1で表示されてっと思うけど、本性はレイド×4だかんね』

静:

「なんの救いもない情報(苦笑)」

ジン:

「このギルド、ん?、この街? この国?で一番強い個人だ。ハンパなく強え。だからって手ぇ出すなよ?」ニヤニヤ

サブリナ:

「一番って、……あんたよりも?」


 サブリナは、元PKプレイヤーの1人で、現ケイトリンの取り巻きである。イメージ的には『アクロバティック土下座師』だ。


ジン:

「んー、こいつはさほど頑張らなくても俺たちを殺せるが、俺はけっこう頑張らないと勝てない。その差だな」

名護っしゅ:

「その言い方だと、がんばったら勝てるみたいに聞こえんだけど?」

ジン:

「まぁ、しんどいけど、やってやれなくはない」

カイン:

「……フン」

名護っしゅ:

「マジか」


 逆に言えば、勝てたからここに居るわけで(苦笑) ジンの攻撃力でも、ソロで打倒しようと思えば、数時間はかかる。……そもそもレイドボスはソロで勝てるような相手ではないのだから、『数時間しか』掛からない、というべきだけど。


葵:

「次ね」

コッペリア:

「コッペリアはコッペリアといいマス。チーズケーキが好きでス」

イッチー:

「あっ、チーズケーキ、用意できてまーす」

コッペリア:

「……貴方が、神ですカ?」

イッチー:

「い、いいえ、神さまとかじゃ、ないです(焦)」


 初対面で神認定されそうになり、さすがに焦って否定するイッチー。


ジン:

「いや、合ってる。……そいつが神だ」

コッペリア:

「ヤはり」

イッチー:

「えーっ!? いつの間に神様??」


 アキバに何人かいるという噂の、神パティシエとかの意味なら、……間違いない。彼女が神である。


葵:

「コッペちゃんはローマから出向?みたいな形なんだけど、ウチのギルド預かりだから、テキトーに仲良くしたげて?」


 チーズケーキに誘われてフラフラと歩いて行ってしまったので、かなりおざなりな挨拶になった。このbot、自由すぎる。


葵:

「最後ね」

ジン:

「咲空、星奈、お土産だぞぉ?」


 抱っこしていた殿下を2人の前に下ろす。

 〈時計仕掛けの猫妖精〉。レベル98のパーティー×6。バーティー×6とは、同レベルの6人パーティーが討伐適正人数とかの意味。僕だとソロ討伐はかなり厳しい。まず無理。ただし、スペクトラム・フォースを使えば、無理矢理なんとかできるかも?とかってクラスの相手だ。……だというのに、レイドボスの後だと、なんとかなりそうな気がしてくるのが怖い。パーティー×6は、6人パーティーでのボスと同格だ。


咲空:

「ねこさん、ですか」

星奈:

「機械、です」

ジン:

「そうだ。可愛がってやってくれ。それと、2人で名前を付けるんだぞ」

咲空:

「名前ですか! わぁ、どんな名前がいいかな?」

星奈:

「なまえ、なまえ……」


 これは大苦戦しそうだ。


ジン:

「殿下、この2人を守ってやってくれ。基本は見守るだけでいい」

殿下:

「了解である」

咲空:

「えーっ、しゃべれるんですか!?」

ジン:

「ああ、すげぇだろ? 高性能なんだ」←得意げ

そー太:

「てか、殿下って呼んでるじゃんか。それ、名前じゃねーのかよ」

名護っしゅ:

「まぁ、敬称とか、尊称とかだろうなぁ」


星奈:

「……ねこさん、おなまえは?」


 名前を付けろって言われたのに、なぜか本人に質問する暴挙に出る星奈。とても素直な反応だと思う。喋れるんだったら、質問してみるよね。


殿下:

「我が輩は殿下。名前はまだ無い」


大槻:

「何を、とは言わないが、何かを狙っているのは明らかなような?」

トガ:

「いっそ、長靴を履かせるのはどうかな?」

葵:

「ふむふむ。要素を追加することによって、オリジナリティへと昇華させようってわけだね?」


 名前を付けてしまえば、夏目漱石的なニュアンス?(エッセンス?)は薄まる。それだと長靴を履いた方向だけ残ってしまうような気がしないでもない。僕は何を考えているのだろう……?


星奈:

「……でんか!」


 そして正解を見つけたとばかりに、輝く瞳でジンに報告するっていう。さすが星奈である。かわいい。


ジン:

「いや、だからホラ、でんかを名前にしちゃうと、でんか殿下になっちゃうだろ?」

星奈:

「???」


 ちょっと難しかったかもしれない(笑)


雷市:

「あれ、『時計仕掛け』だよな? 危なくないのかな?」

汰輔:

「喋れるんなら、大丈夫じゃないか?」

朱雀:

「シュウトさん、……よく連れて来られましたね」

シュウト:

「まぁ、いろいろあってね(苦笑)」


 積もる話が山のようにある。全部をちゃんと思い出せるのか不安になるほどだ。


ジン:

「あっ、そういうことか……!」

ユフィリア:

「今度はどうしたの?」

ジン:

「いや、アキバの都市結界が消えてるみたいなんだが。どうなってんだ? ……衛兵って、今、どうなってる?」


 アキバに戻って来てから、なんか違和感があるって言ってたのは、どうやら都市結界の話だったらしい。……まったく気が付かなかった。


エルンスト:

「その件か。詳しくはわからないが、街中でレイドを行ったようだ」

大槻:

「何日か、夜の外出を禁止していた。その時レイドで、殺人鬼が退治されたと聞いたな」

シュウト:

「ああ、殺人鬼!」


 出発前にごく短い時間だけ戦った相手だ。エンバート・ネルレス。衛兵の鎧を用いた、〈大地人〉の狂戦士。


ジン:

「おいおい、だいぶ大事になってんじゃねーか」

葵:

「はー。テレポート対策で、アキバの都市結界を消したってこと? また大胆な手を打ったもんだけど。……逆にそれぐらいしかない、か」

タクト:

「だとしても終わった話では? なんで元に戻さないんですかね」

英命:

「戻さないのではなく、戻せない、のかもしれません」

エルンスト:

「特に告知はなかった。知り合いに聞いたところでは、ずっとこのままらしいが……」


 相変わらず〈円卓会議〉は、一方的というか、やったらやりっぱなしというか(苦笑)



 実際のところ、この段階で円卓会議崩壊は、既に予兆が現れていたことになる。

 クラスティの行方不明で、〈D.D.D〉が空中分解寸前。なまじ巨大だったせいもあり、機能不全は深刻でつなぎ止めるので精一杯。同時に〈円卓会議〉の方も司令塔が不在な状況が続くことになる。


 アキバ都市結界の消滅で、衛兵システムがダウン。復旧の目処は立たず、治安の悪化が懸念される状況で、〈黒剣騎士団〉はマイハマに常駐することになる。

 これは、マイハマのコーウェン公爵家の価値が相対的に増大したことが原因だった。日本によく似たヤマトという国家の主体は、あくまでも〈大地人〉だ。西と東の、大地人同士による政争・戦争にくちばしを突っ込むには、僕ら〈冒険者〉はあまりに余所者に過ぎる。……そう思っていたのだが、そう思っていたのは僕らアキバの〈冒険者〉だけだったらしい。

 ミナミの〈Plant hwyaden〉の運営には、大地人貴族が深く関わっていた。意思決定のプロセスに〈大地人〉が関わることで、その思惑も内包することになる。結果、ミナミの〈冒険者〉たちは、大地人同士の政争に参戦し、僕らアキバの〈冒険者〉も否応なく巻き込まれることになる。


 こうした政治情勢を鑑みれば、〈黒剣騎士団〉の不在は仕方がないというのはわかる。わかるのだが、説明がまるでない。そうなると、〈黒剣騎士団〉はアキバを放り出して、マイハマで遊んでいる、という風にしか見られなくなる。


 従って、アキバで機能している有名どころの規模の大きめな戦闘系ギルドは〈西風の旅団〉だけということに。もう一方の〈ホネスティ〉は、〈妖精の輪〉の周期調査が失敗に終わってしまう。これは公共事業に性質が似ていたこともあって、失敗と判明すると『調査打ち切り』となってしまう。そうなると、仕事やら収入やらを失う〈冒険者〉が大勢でてくる。そのダメージの大半を〈ホネスティ〉が引き受けることになってしまう。



ジン:

「やることを明確にしようか」

葵:

「うむ。今日はこのまま時差調整。明日は朝一で『おにぎり屋さん』するんでしょ?」

ユフィリア:

「そうだった! 早く寝て、にぎにぎしなきゃ!」

ニキータ:

「……一応、お味噌汁がメインですけど(苦笑)」

レイシン:

「うーん。少しはお正月したいけど、おせちいる?」

ジン:

「餅ぐらいは食いてぇな。可能な範囲で頼めるか?」

レイシン:

「りょうかーい」

英命:

「新年のご挨拶もしなければなりませんね」にこにこ

ジン:

「げふっ。……借金を返してこなきゃ(汗)」

石丸:

「ジンさんは、武器の調達も必要っス」

葵:

「そんで20日にユフィちゃんの誕生日会だね」


 いろいろとやるべきことはある。僕も挨拶なんかしてこなきゃ。


ジン:

「で、誕生日プレゼントって何がほしいんだ?」

ユフィリア:

「えっ、くれるの?」

ジン:

「なんで意外そうにしてんだ(苦笑)」

ユフィリア:

「なんでも大丈夫だよ?」

ジン:

「じゃあ、大人のちゅーでいいな? すっごいのしてやるよ、すっごいの」

ユフィリア:

「ヤー! ヤー! ヤー!」必死

ジン:

「……じゃあ、なんか言えよ」

ユフィリア:

「えー? えっとねー、……優しさ?」

ジン:

「そういう抽象的なのヤメろ(苦笑)」


 僕なら何をお願いするだろう?と少し考えて、あまりにも考えなしだったことに気が付いた。欲しいものはひとつしかない。それは既に、毎日のように、少しずつ受け取っている。


シュウト:

「そういえば、みんなの誕生日ってどうするんですか?」


 自分のことを考えて、みんなの分をどうするのか気になった。僕自身は12月生まれなので、あまり考えに含んでいない。


葵:

「30人もいると、10日ごととかになるかもだから、希望者は月単位でまとめてやろっか。毎月、誕生日会を開催!」

ジン:

「毎週やってもいいぞ」

葵:

「キサマはケーキ食いたいだけやろがい!」

ジン:

「バレたか(ニマニマ)。……じゃあ、その日は特別に、食べたいものを指定できる権利とかどうよ?」

英命:

「それは魅力的な提案ですね」


 毎月、誕生日プレゼントを選んだり、考えたりするのは大変だから、食べたいものを指定できたらどうか、ということだろう。大賛成である。


レイシン:

「こっちはいいけど、……食材集めは手伝ってね」

シュウト:

「わかりました!」

ニキータ:

「あの、すみません。食べ物もいいんですけど、温泉も捨て難くて」

ユフィリア:

「そうだ! まだ温泉 行ってなかった! ジンさん、骨休め!」

ジン:

「レギオンレイドから戻ったばっかだろ。ちょっと休ませろよ」


 骨休めをするのに、休みが必要という状況(苦笑)


葵:

「あー、だったら、もうちょっとイベント指定権みたくしよっか? みんなでお願いを叶えてあげるヨ的な」

ジン:

「年間30クエか、……いけるか?」

葵:

「やってみてだけど、なんとかなるんじゃない?」


 レベル上げも終わっているし、暇になる可能性もあるかもしれない。もしかしたら、ちょうど良かったりするかも?


シュウト:

「個人的なお願いというか、誰か1人にお願いするのとかってアリなんですか?」


 主に、ジンに個人指導をお願いしたりとか。


静:

「それ、とっても気になるんですけど! 隊長とデートとか!」

シュウト:

「あっ」


 かなりの墓穴だったことに気が付かされた。盛大なやらかしである。これがホームでの実力ってことなのか……。そうしてみると、ユフィリア辺りと個人的にデートとかってお願いも可能になってしまう訳で、あまり良い提案ではなかったかもしれない。


ジン:

「それは個人的にやれよ。誕生日権で強要して楽しいか?」

静&りえ:

「「楽しいです!」」


 だが、2人はブレなかった。


そー太:

「『レベル上げ、手伝ってください!』とかならいいんだろ?……いいんだよな?」

名護っしゅ:

「カニ食べたいとか、食べに行きたいとかな」

葵:

「そそ。そゆのだね」


 「え~っ、デートはぁ?」とかの追撃をいなしておいた。それと、英命先生がなにかニコニコしているのが、ちょっと不気味だ。都合のいい何かを思いついた顔をしている、ような……?


葵:

「ユフィちゃんってば、どんなイベントを希望? 食べたいものでもいいよ?」

ユフィリア:

「うんとねー、おっきなケーキに、ロウソクをたてて、ふーって消したい!」

ジン:

「いや、それはデフォルトでいいんじゃねーか?(苦笑)」

レイシン:

「小さいロウソクって、売ってるかな?」


 こうして、1月20日の『ユフィリア誕生日祭り』に向かって、ちゃくちゃくと準備を整えていくことになった。

 


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