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250  更なる強さを求めて

 

 吸血鬼の起源、その仮面の下の素顔は、シモンというプレイヤー、だった……?


ユフィリア:

「知り合いの人?」

ニキータ:

「家族、みたいね……」


 いやいやいや。冷静に考えて、吸血鬼の起源が家族にいる訳がない。……あれ? いないとも言い切れない、のか? 少なくとも、その家族がベアトリクスたちのようなプレイヤーでないことは確実だろう。


ベアトリクス:

「シモン! 兄さん!」

シーン:

「待てっての。ここで会話できたら、逆に困るだろ!?」


 意識を乗っ取られていなかった場合、攻撃してたのはシモンってことになってしまう。


ジン:

「あ~っ? 要するに、倒していいのか? ダメか? どっちだ」


 結局はそこだろう。このレイドを終わらせるには、たぶん倒すしかないと思われる。でも、――それでいいのだろうか?


葵:

『精神寄生体? 精神生命体? その場合、倒したらどうなる?』

スタナ:

「次の回に持ち越し、とか……?」

ベアトリクス:

「だ、ダメだ! それは、困る」


 普通、プレイヤーは死ねば大神殿や、定められた復活ポイントで死に戻る。しかし、もし体をレイドボスに乗っ取られていたとしたら? そして、そのままボスを倒してレイドを終了してしまったら? もしかすると、大神殿じゃなく『レイドボスのリポップ』で復活するのかもしれない。その場合、もう一度レイドに挑戦しなければならなくなる、という可能性だ。

 いや、次があればまだいい方かもしれない。ゲームが現実になったことで、レイドクエストはクリアしてしまうと、二度と発生しない可能性だってありうるのだから。


シュウト:

「と、とりあえず、次に持ち越すより、今回でなんとかしたいってことですよね?」

ネイサン:

「そうだね。みんな悲観的だけど、素直に倒せば、そのまま彼が戻ってくるかもしれないじゃないか」


 そういう可能性は、確かにあるかもしれない。むしろそうであって欲しい。だけど、そこまで楽観的にもなれないのは確かで……。


葵:

『……ジンぷー、足止め・拘束を優先で』

ジン:

「そんな長くはもたないぞ」


 とりあえず、いろいろな意味で確認が必要に思えた。


スタナ:

「ちょっと、兄って、どういうことなの?」

ネイサン:

「固定された満月を動かした時、外の吸血鬼問題は解決したんじゃなかったかな?」

ベアトリクス:

「シモン……、兄以外は、連絡が付いたのだが」

シーン:

「シモンだけ見つかっていなかったんだ。そこはここんとこ疑問だったんだけど、報告は、すまん、してなかったと思う」

アクア:

「なら、他人のそら似じゃなく、本人の可能性が高いわけね?」

葵:

『まぁ、報告されてても、結局、どうにもならなかったよね』


 どちらにしても、ココにいるのだから見つけようもなかった、ということだろう。


葵:

『んー、聞いちゃおっか。……カインくん、あれって、どういうことなん?』


 リコに向かって質問をする葵。すると、シャドウバット、『影の蝙蝠』が召喚?されて現れ、リコの頭の上に止まった。吸血鬼の起源の前で、実体化する気はなさそうだ。


カイン:

「……見覚えはあるな。タルペイアの奴が、あの男の体を依代にしたのだろう」


 言外に、知らなかったことが伺えた。タルペイアの独断専行だろうか。カインにしても言い訳する気はなさそうだけど、そこを追求しても話が先に進まないだろうから、止めておいた。


葵:

『そもそも、吸血鬼の起源ってどういうもの?』

カイン:

「アルヴ族の滅亡を回避する目的で産み出されたものだ。共感因子を増幅するための、……中間的な生命体というべきか」

シュウト:

「中間的って……?」

カイン:

「貴様らで理解できるかわからんが。……具体的な処理の問題からのアプローチだ。研究者の一人に、共感因子を注入することで進化を促そうと考えたものがいた。しかし、一人ずつ処理していては、いくら時間があっても足りない。そこで、各個体間で連鎖的に反応させることを考えた」

マリー:

「吸血鬼という結果から考えて、……接触感染を狙った?」

カイン:

「基本的なアイデアとしては、そうだ。そして一定期間後、自動的に連鎖反応系を消滅させる、というものだ」

葵:

『はぇ~。吸血鬼じゃなくて、なんつーか、注入鬼だったわけだ』

ネイサン:

「えっと、つまり進化のための病原菌みたいなのを作って、アルヴ族全体を感染させ、吸血鬼の真祖にするって感じの計画かな?」

スタナ:

「それで一定時間か、世代かを経たら、真祖としての特性が消えて、〈共感子〉(エンパシオム)が強化された『新しいアルヴ族』になるはずだったわけね?」

カイン:

「…………」

葵:

『あれ? なんか違ってた?』

カイン:

「いや。概ね、それで間違っていない」

ネイサン:

「完璧な計画じゃないか」

葵:

『上手くいってればね。あんまり上手くはいかなかったみたいだけど?』

カイン:

「まだ実験前の段階だった。調整中に自我らしきものが生まれていたようだが、それに気付くのが遅れた。性質的にもゴーストに近い、……亡霊だ」

葵:

『その時、近くにいた不幸な誰かの体を乗っ取って、「吸血鬼の起源」になったわけか』

マリー:

「共感因子の塊が、精神生命体として自我を得たもの。……相当に厄介」

葵:

『あー、んー。カインくんの中にもいる(、、)って感じか』


 大体のあらましは理解できたように思う。


レオン:

「問題は、どうすればあの男を助けられるか、だな」

葵:

『それはちょっと違うかも。これって「最初のボタン」を掛け違えてるって話なんよ』

カイン:

「……ほぅ?」

葵:

『ずっと違和感があった。これって何のためのレイド?って。本当は、最初っから、「彼を助けるためのレイド」じゃなきゃいけなかったんだと思う。なのに、最初のボタンを掛け違えたまま、もう3週間が経っちゃってるんだ』


 葵の言わんとすることが、なんとなく分かる気がした。この場で急遽、3週間分のロスを埋めなくてはいけないのだ。そこをサボってしまうと、何かの理由・原因で失敗してしまうのではなかろうか。そんな気がした。


スタナ:

「ごめんなさい、そこまでは分からないんだけど、普通に助けるんだったら、別の何かに、本体?を、一度、移動させないとダメよね?」

ネイサン:

「ギリギリまでダメージを与えて、何かに移動させる、とかだね」

マリー:

「なにも準備していない。人形とか、ともかくプレイヤーじゃない何か」

カイン:

「本当なら、専用のホムンクルスぐらいは用意したいところだが……」


 マリー達が解決策を模索しているが、本命の葵はまだ自分の思考に集中していた。姿が見えないから分からないけれど、何かブツブツ言ってる気がする。


葵:

『……見切った。96人いる(、、、、、)っ!』

ジン:

「おっ? 『11人いる』ってか」

葵:

『そうじゃねーってばさー!!』

ラトリ:

「……そうかっ! レギオンレイドの人数規制!」

スタナ:

「ああっ! そうよ! このままじゃ、助けられないのね?」


 我らがギルマスがその本領を発揮。問題の本質を捉え返してみせる。『攻略の天才』、……その真骨頂だ。

 シモンというプレイヤーは、プレイヤーでは無くなっているのだ。故に、レギオンレイドの人数規制を越えた『97人目の存在』ということになる。


 シモンを仮に助けることに成功したとして、人数規制で弾かれてゾーン外に弾き出されたり、ゲストの形で特例として存在できればいいけれど、下手するとシステム的に97人目が受け入れられない可能性がある。その場合、救出失敗の根本原因になってしまうかもしれない。


ウォルター:

「オレが行こう」


 まず、レイドゾーン内のプレイヤー数を調整しなければならない。キャンプ地点から外に出るのだから、フリップゲートを使うことのできる〈付与術師〉が候補だ。そこまで先を読み、ウォルターが立候補していた。パーティーを解散させ、すぐに行動を起こせるように準備を始める。


ギャン:

「何かあった時に一人はまずい。オレも行く」

ウォルター:

「……いいのか?」

ギャン:

「お前だけにいい格好はさせられねぇな!」ニヤリ


 転移して消える2人。同時並行で、何に乗り移らせるかの話し合いがもたれていた。マリーの案で誰かの召喚生物に決まりそうだ。


ベアトリクス:

「申し訳ない」

ヴィルヘルム:

「気にするな。今は、上手くいくことを祈ろう」

ベアトリクス:

「……ありがとう、みなさん」


 しかし、準備不足は容赦なく僕らの足下をすくう。


ラトリ:

「なんだって……?」

ギヴァ:

「どうしたぁ?」

ラトリ:

「ウォルターから報告。すぐそこの水晶のトコに出た、って」

葵:

『うわっちゃー!(苦笑)』


 ヴァンパイア・ドラゴンロードと戦う前に問題になった『ギミックの水晶』のことだろう。すぐ隣の部屋でここから50mと離れちゃいない。ここでも結果的に葵の予想が当たっていた形になるのだが、もう今更というべきか。……もはや、失敗フラグを連想させる『えらく不吉な知らせ』の気がしてきた。


 ギャンが急いで走っても、レイドゾーン〈月光城〉を抜け出すのに5分や10分は掛かってしまうだろう。レギオンレイドの舞台だけあって、ここもかなり巨大な施設なのだ。外に出られれば、行き来のための簡易転移魔法陣を設置してある。その先は一瞬で済む。そこまでに、どれだけ時間が掛かるかが問題だ。


葵:

『ギリギリ、間に合いそうかな?』

シュウト:

「何も起こらなければいいんですけど」←フラグメイク

葵:

『そんなフラグを立てるようなことを(苦笑)……』


ジン:

「あっ」


葵:

『やめろよ、ジンぷー!? あっ、てなんだ、あっ、て!?』

カイン:

「チッ、……今すぐアレを倒せ! もたもたするなっ、急げ!」


 カインがシャドウバットのまま、器用に舌打ちする。

 吸血鬼の起源の様子が明らかに変わっていた。攻撃を止め、大きく仰け反っている。胸の当たりに、だんだんとエネルギーが増えていってるような……?


ジン:

「ちょっ、おいっ、どうなってる!?」

カイン:

「以前に1度だけ見た。依代を捨てる時に自爆したのだ」

葵:

『お? それじゃある意味、助かるってこと?』

カイン:

「素体は解放される可能性がある。ただし、あの爆発に情報因子を根こそぎ使うだろう。肉体を捨てる前に、有効に活用するわけだ」

シュウト:

「それって……」

ベアトリクス:

「兄は、どうなる?」

マリー:

「体は取り戻せるかも。でも記憶は残ってないかも」

スターク:

「それじゃダメじゃん!?」


 ダメなのだ。体だけ助かっても、意味がない。


スタナ:

「プレイヤーとして復活するとしても、蘇生場所は? それによっては、人数規制に引っかかるのは変わらないわよ?」

カイン:

「……さっさと決めろ。あまり情報因子をエネルギーに転換させるな!」


 イライラするカイン。ちょっと焦って来ているのが分かる。ああ、これ、かなりヤバいんだろうな、って。人間一人分の記憶、情報因子を使ったら、トンでもない規模の爆発になるだろう。


葵:

『あ、ダメだ。これ、この封印施設を吹っ飛ばして逃げるための自爆じゃん』

マリー:

「次回のレイド、無いかも?」

ジン:

「……やれやれ」


 ため息と共に動こうとするジン。その背後に飛び込んでくる人影があった。


ジン:

「うおっ!?」


 背後から不意打ちされるも、ギリギリで防いだ。体勢が悪く、壁際までノックバック、否、派手に吹き飛ばされるジン。攻撃したのは……、ここでまさかのレオンだった。


ジン:

「てめぇ、何しやがる! ……あぶねーだろ! 死ぬかと思ったじゃねーか!!」


レオン:

「チッ、……これも防ぐか」


ジン:

「なに舌打ちしてんだ、ゴラァ!!」


 唐突に裏切った? ……もう意味が分からない。全部がギリギリの状況で、余計なことしないでよ!

 レオンは傲然と振り返ると、高らかに宣言した。


レオン:

「お前達はそこで見ているがいい。……この先は悪者(ワルモノ)の出番だ」


 スペクトラム・フォースを武器に纏わせると、迷わず吸血鬼の起源に叩きつけた。虹色の暴風が吹き荒れる。派手なオンスロートだった。



ベアトリクス:

「兄さん、シモン兄さーん!!」

シーン:

「シモン……」


 どうにもできなかった。最後は、ただ成り行きを見守るしかなかった。レオンは吸血鬼の起源のHPを削り切った。自爆の阻止に成功する。神々しい光が、世界に充満する。



 ……戦いは、終わった。


 やることも無かったので、フォーカスライトで経験点を多めに獲得。レベル100以上には増えないけれど、レベル100でもギリギリ目一杯まで経験値を得ておきたいので。



ジン:

「負けた、か……」


 疲労感からか、うなだれるジン。ワールドワイド・レギオンレイドの長い長い攻略の果てに待っていた結末が、これだ。勝利の喜びも、制覇による達成感も、すべてを台無しにされた。


葵:

『ごめんねぇ……』


 葵と言えど、バッドエンドまでは防ぎ切れなかった。奈落に真っ逆様な勢いだったし、直前までにジンが与えたダメージ量が多すぎた。


ユフィリア:

「んー、と。これで終わりなの?」

リディア:

「ほんと、そうだよね」


 そうして、気が付いたら終わっていたぐらいの、あっさりとした終幕だった。


ネイサン:

「そうは言っても強制敗北イベントぽかったし、今回はこのぐらいにしといてやろうじゃないか」

スタナ:

「ほんと、懲りないわね(苦笑)」


ギヴァ:

「うむ。みな、思うところはあるだろうが、撤収するぞぉ」


 のろのろとドロップアイテムをかき集めたり、を始める。ヴァンパイア・ドラゴンロードの方も、奇襲されたので作業途中だ。あっちはアイテムとか金貨とか、ちゃんと残っているのだろうか。破壊されて溶けてたりしてそう(苦笑)


 そんな作業に従事していると、ウヅキに話しかけられた。


ウヅキ:

「おい、……これ」

シュウト:

「これって、封印のオーブですか?」

ウヅキ:

「ああ。タルペイアの分だと」

シュウト:

「っ! そういえば、タルペイアは?」

ウヅキ:

「アイツが殺した。瀕死で逃げようとしてたみてーだな」


 ケイトリンがいつの間にか、しれっとタルペイアをしとめていたらしい。こっちも『後始末は悪役の仕事』とか言いたいのだろうか。悪役さんたちは、何がしたいのやら(苦笑)


 その後、レイドゾーンの奥まで探索した。長い登り階段を登り、棺を見つけた。吸血鬼の起源の封印だろう。本来のシナリオではどういう展開になるのか分からないが、とりあえず、全部のダンジョンを網羅したと思う。クリアしたプレイヤー向けの、脱出用転移魔法陣で外へ。


 キャンプ地点に引き上げると、タイミング的に間に合わなかった男が一足先に戻ってきていた。


ラトリ:

「お疲れ~」

ギャン:

「ぜんぜん、間に合わなかったけどな! あの後、何がどうなったんだよ?」

ネイサン:

「特になんもなかったよ~?」


 レイドゾーンの出入り口になっている祠の壁面に『最初の踏破者』が刻まれていた。第一レイド部隊の僕らから順に、名前が96人分。一応、クリアとして認められたようだ。


ジン:

「殿下~ぁ? どこいった~? 出て来ぉーい!」

殿下:

「うにゃう!」


 呼ばれるのを待っていたみたいに、ジンの胸に飛び込む殿下。満足げに目を細めるジン。


葵:

『殿下くんさー、……どうだった?』

殿下:

「管理者殿が、背の低い女性を連れて出ていったな」ごろごろ

カイン:

「アンテノーラを連れて去ったか。……何が目的だ?」


 管理者サンクロフトも去った。面倒ごとの予感しかしないけれど、それも含めて、予定通りだろう。

 疲労困憊のため、この日はここで終了。ごく簡単なものを食べて、就寝。

 

 翌日、設置した転移魔法陣を手分けして回収。僕らは〈ヘリオドロモスの塔〉の頂上で封印をかけ直す作業に赴いた。魔法陣でサクッと屋上へ。


ユフィリア:

「うわぁ!」

ニキータ:

「これは、凄いわね……」


 封印装置を起動させると、星空がぐるりと巡った。満月の代わりに、太陽が固定される。久しぶりの太陽は、やけに眩しく、しかし嬉しさを感じるものだった。

 昼になると、景色も大きく違って見える。神秘的で、どこか恐ろしい雰囲気だったゾーンが、清潔で、生命力あふれた神聖な大地に見えてくるから不思議だ。しばらく塔のてっぺんからの景色を楽しんだ。


 こうして僕らは、すべての作業を終えた。


アクア:

「戻りましょうか」

ジン:

「だな」


 登る方は飛行規制が掛かるけれど、降りるのは楽ちんである。山頂に近いモルドベアヌから少し下り、ドラゴン輸送で移動する。夕方前にはプレイヤータウン〈アルバ・ユリア〉へとたどり着いた。ここまでくれば、ローマまではタウンゲートの転移で一瞬だ。


シーン:

「世話んなったな」

ベアトリクス:

「今回の協力には、本当に、感謝している」

ラトリ:

「打ち上げとかやるけど、ローマまで来ない?」

ベアトリクス:

「いや、遠慮しておこう。……ここでも、いろいろやらなければならないことがあるからな」


 問題を解決したとは言っても、後始末は丸まま残っている。それはこの地域の住民がなんとかしなければならないことだ。



レオン:

「ベアトリクス。……オレを恨め」

ベアトリクス:

「ふざけるな。そんなことが、できるものか」


 言葉とは裏腹に、ベアトリクスは複雑そうな態度に見えた。

 レオンは、恨まれるつもりだったらしい。正しいことをしたとはいえ、感情の問題はまた別だ。ジンに、恨まれる役まで押しつけるべきではないと思ったのかもしれない。その意味でいえば、むしろ僕がやるべきことだったかもしれない。



シュウト:

「この後は、アキバですか?」

ユフィリア:

「なんか、すっごく久しぶりだねっ!」

ニキータ:

「年を越しちゃったものねぇ」

ヴィルヘルム:

「いや、まだ君たちを帰すことはできない」

ジン:

「ん?」

シュウト:

「えっ?」

ヴィルヘルム:

「報酬が、まだだ」

英命:

「ああ、報酬の配分がまだでしたか」ニコニコ

ラトリ:

「……プッ(笑)」


 プルプル震えて笑いを堪えているラトリ。なにかあったっけ?


ヴィルヘルム:

「そうではない、そうではないだろう!?」

ジン:

「あー、なんだっけ? いしまる?」

石丸:

「……カレーパーティーの約束っスね」

ユフィリア:

「そっかー! カレーだぁ!」


 考えてみれば、葵(の本体)がローマに居るのだから、そっちでピックアップしてこなければならない。どちらにしてもローマに一度、戻ることになるのだ。とりあえず、カレーパーティーってことになりそうだ。

 


ギヴァ:

「……では、そろそろ終わりにしよう」

ヴィルヘルム:

「今回のレギオンレイドは、様々な意味で忘れられないものになった。特に結果に関しては、……重く受け止めたいと思う」

シュウト:

「…………」

ヴィルヘルム:

「最大の功労者が誰だったか、改めて問う必要はないだろう。……ジンくん。一言、頼めるだろうか?」


 視線がジンに集まる。何を言うつもりなのか、期待するような、それでいて、単に不安なだけのような(苦笑)


ジン:

「新しい武器が要るなぁ~」


 そうして、ジンはしみじみと語り始めた。


ジン:

「正直、これ以上 強くなったところで、使い道も無いし、使う場所もねぇだろうと思ってた。しかし、今回の結果はどうだ。……負けだ。ベアトリクス達に犠牲を押しつけて、形だけレイドを終わらせた。痛恨だろ。リベンジの機会があるなら、呼んでくれ。俺も参加したい。

 それはそれとして、武器が要る。結果から目を逸らすことはできないし、してはならない。……弱かったから、負けた。吸血鬼の起源みたいな精神体だろうと、ブッタ斬って倒しゃいい。それだけの力がなかった。だから、負けた」


 人類の最強が、自分の弱さを認め、さらなる強さを欲している。レイドは終わってなどいなかった。ジンが弱いのであれば、我々は、僕は、もっとだ。もっと先の力を求めなければならない。……灼熱の中に、いた!


ジン:

「マリー、ヴィオラート。俺に武器を作ってくれ」

マリー:

「おっけー」

ヴィオラート:

「喜んで、お手伝いさせていただきますっ!」

ジン:

「頼む。こんな悪意に、二度と負けないようにしたい。……以上だ」



 こうして気合いを入れ直したところで、ローマへと戻った。


 先に戻っていた〈スイス衛兵隊〉の第2レギオンは、凱旋式の準備を進めていた。盛大な儀式・式典を行い、白の聖女の遠征が成功したことをアピールするのだ。……レイドに負けたとはいえ、当初の目的だった『吸血鬼問題』は解決している。なによりも、失敗したなどと言うことは政治的に出来ない話だろう。


 僕ら、カトレヤ組は凱旋式を免除してもらった。出発前に一泊した宮殿で、のんびりとさせてもらっている。

 イベントを覗きにいくと、ヴィオラート様がスピーチをしていた。と言っても、スピーカー代わりのアクアが声真似することで、遠くまで声を届けているものだ。


ヴィオラート(アクア):

「タウンゲートによる通行の再開と併せて、トラヤヌスを新たな市場として開放いたします!」


 タウンゲートのあるフォロ・ロマーノの東に、トラヤヌスという商業施設を開放するという。これはタウンゲートを使った安全な交易に対応する、卸売市場を想定しているという。

 タウンゲートの向こうからやってきた〈大地人〉の商人たちは、今度からトラヤヌスの市場で売り買いすることになる。こうした常設で専用の市場は当初から望まれていたそうで、吸血鬼騒動前から完成を急いでいたらしい。手厚いサポート環境を得て、さらにこの地域は発展することになるだろう。


 さらに翌日。午前中からカレーパーティーを行うことになった。ヴィルヘルムがうっきうきである。


ジン:

「うげっ、美味い! なんだこれ!?」

葵:

『アキバから送ってもらったんよ!』

レイシン:

「凄い美味しいよねぇ~(笑)」


 班長特製・大人カレー。食卓の騎士団名義での期間限定商品だった。名称も、○○アキバカレーという法則を破っている。デフォルメされた猫顔のイラストがプリチーだと、わいわい騒いでいた。


 微妙に敗北感を漂わせているジンたちを余所に、ヴィルヘルムを筆頭に、カレーパーティー参加者は絶品カレーを絶賛していた。みんな美味いとか最高とかしか言わないので、これは割愛する。……いや、本当に美味しかったです。


アクア:

「ジン。……話があるの」

ジン:

「あぁ? なんだよ」

アクア:

「新しいギルドを作るわ。だから貴方にも、そのメンバーになって欲しいの。ギルドと言っても、常に一緒に行動するものじゃなくて……」

ジン:

「別にいいぞ」


 ごく軽い調子で引き受けてしまった。


アクア:

「……いいのね?」

ジン:

「ああ。連絡網みたいなのが必要なんだろ?」

アクア:

「そうだけど」

ジン:

「ギルマスはお前がやれよ? 多少、移動の都合を付けてくれんなら、仕事を回してくれて構わない」

アクア:

「成立ね」


 しっかりと握手する2人。


シュウト:

「あのー、僕も……」

ジン:

「お前は〈カトレヤ〉の顔だから無理」

シュウト:

「そんなぁ~(涙)」

ジン:

「おい、ちびっちゃいの。おめーも参加しねーか?」

マリー:

「いいけど、条件がある」


 てってってーと走っていった先は、石丸のところだった。


マリー:

「ほしい。ちょうだい?」

ジン:

「ハァ?」

シュウト:

「……ち、ちなみに、どうして欲しいんですか?」

マリー:

「高速演算装置しかも検索機能付き! わたしが使うべき!」

ジン:

「ダメだ!あげません!俺のだぞ!縦ラインは動かさないの!」


 凄い剣幕でダメ出ししていた(笑) ちなみにここでいう縦ラインとは、「ジン―ユフィリア―石丸」のラインのことを言っている。いろんな意味で最速を誇っている。


アクア:

「いきなり引き抜きは難しいわよ?」

石丸:

「申し訳ないっスが、自分も移籍は考えていないっス」

マリー:

「むぅ。仕方がない。……なら結婚してほしい。結婚して、わたしのパートナーになって」

シュウト:

「ちょっ!?」


 爆弾魔(ボマー)がいる。結婚だとか言って、まるで躊躇がない。一体、いくつ爆弾を落とせば気が済むのだろう。

 音便に済ませようということで、ネゴシエーションの結果、石丸先生もあたらしいギルドに参加することが決まった。これでマリーが念話でコンタクトが取れるようになる。必要な時に連絡がつけばいいらしいので、とても満足そうだった。……今から石丸先生の寝不足が懸念される。

 なんとかなったと思ったのだが、これに文句を言い出したのはなんとヴィオラート様だった。


ヴィオラート:

「わたくしも、その新しいギルドに入ります!……そうすれば、いつでもジン様と念話できるようになるってことですよね!?」

ラトリ:

「ええーっ。ローマを統一するギルド〈聖堂教会〉の象徴なんだよ? 抜けられるわけないよね?」

ヴィオラート:

「そんなぁ~(涙)」


 レオンも誘って、初期メンバーはジン、レオン、アクア、マリーとオーバーライド関係者がゾロゾロと参加することになった。


葵:

「ほーん。んで、名前どうすんの? いつもの無名騎士団とか?」

ジン:

「いや、今回はやめとく。……EWとかどうよ」

マリー:

「エクサワット?」

石丸:

「エンドレスワルツっスか?」

アクア:

「それ、いいわね。アーリー・ワーニング(早期警戒)とか?」


ジン:

「いや、……中身は各々で好きに当てはめてくれればいいから(苦笑)」

 


 その後、僕らは、久しぶりにアキバに戻ることになった……!

 

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