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248  閃光

 

 休憩を終え、ラスボスへ向かって出発。いつものお気楽な雑談も、覚えたばかりの新技のことに終始していた。

 

葵:

『ユフィちゃんがフォーカスライトを覚えたから、『フォーカスライト・キュア』で大抵のステ異常は解決できるハズだね』

ジン:

「レベルが足りればな」

ユフィリア:

「うん、がんばるっ!」


 大抵のステ異常というけど、これは『典災』と呼ばれるモンスターが関わっているらしき「新種のステ異常」のことが念頭にある。星奈と咲空が苦しんでいるのに、何もできなかった。そうした無力感はまだ鮮明な記憶として刻まれている。


葵:

『ところでスペクトラム・フォースだと何ができるん?』

ジン:

「ブーストみたいなもんだからなー、大抵のことはできんじゃね?」

シュウト:

「じゃあ、レベルブーストも?」


 ブーストで一番欲しい能力は、ジンのレベルブーストである。ちょっとイヤラシイ気持ちもあって、そんな質問をしてみた。


ジン:

「ん~? 経験点消耗して、一時的にレベルアップするのか? ……消耗、ハンパない気ぃすっけど」

タクト:

「確かに……」

葵:

『んじゃ、特技強化、ステ強化、武器強化あたりが無難かねぇ~?』


 スペクトラム・フォースに使われているリソースは情報因子、つまり記憶や経験点に近いものになる。そうなるとレベルブーストはやはり難しそうだ。残念。まぁ、そこまで期待していたつもりもないので、サクサクと切り替えて行こう。

 僕は何を強化するべきだろう。……やっぱり特技かな?


英命:

「スペクトラム・フォースで武器耐久力を強化できるのであれば、『精霊王の矢』が使えるのではありませんか?」

シュウト:

「へっ?」

ジン:

「うげっ」

葵:

『おっとー! ここで最強技きたか?』

リディア:

「た、試してみる?」


 なんとなく振り返ると、リディアと視線がぶつかる。期待と不安とに揺れているようにも見えた。

 手順としては、スペクトラム・フォースで弓を強化。リディアにインフィニティフォースを頼んで『無限の魔力』を矢筒に取り込み、精霊王の矢を創り出す。最後に、特技と併せて放つ、という流れだろう。スペクトラム・フォースだけじゃなく、リディアの協力も必要になる合成技だ。


ジン:

「〈インフィニティフォース〉の再使用規制って、24時間?」

リディア:

「(ぷるぷる)」

葵:

『約40分だーねー』

シュウト:

「微妙な時間、ですね(苦笑)」


 休憩を終えたばかりなので、40分でどこまで進んでしまうのか分からない。ラスボス戦とタイミングが合わないのも味が悪いだろうし。


葵:

『じゃあ、タルペイアが単独ボスで出てきたら、試してみよっか?』

シュウト:

「分かりました」こくり


 龍奏弓が壊れたら泣くほど後悔する。万一のことを思うと、実験は予備の弓でやるべきだろう。


 そんなことを考えているうちに次の部屋に到着。ちょっと変に感じるのは、扉の前に巨大な水晶のオブジェが配置されていたことだ。なんらかのギミックっぽい。でも『部屋の外』なのが気になる。


ラトリ:

「これは、なんだろうね?」

葵:

『この扉の向こうがラスボスかどうかも関係してくんよ』

バリー:

「扉は立派だけど、この奥がラスボスの部屋って感じはしないかな」

レオン:

「長めの登り階段でもあれば、それと分かりやすいのだがな」フッ

葵:

『うーむ。ここって封印施設を吸血鬼一味が乗っ取って、自分の根城にしたって設定っぽいからなぁー。まんま吸血城!ってノリでもないんだよね(苦笑)』


 これぞラスボスフロア!といった主張は足りていない気も、する。もっと禍々しいのをイメージしていたというべきか。(それはそれで安易かもしれないけれどw)

 ここかどうかはしらないけれど、封印のための特別な部屋でラスボスと対峙することになる、のかもしれない。


レオン:

「普通に考えればギミックだ。問題はどう作用するかだな」

葵:

『だぁね』

レオン:

「部屋の中に入り、もし扉が閉じられてしまえば、外にあるこいつを操作できなくなるかもしれん」

スタナ:

「……ギミックの内容次第では、全滅するかも」

ネイサン:

「でも、触ってみたけど、特に変化はしなかった。……そんなに凶悪なギミックなのかな?」

スターク:

「単純に、この扉を閉めさせるためのギミックかもだよね?」


 スタークの言った可能性もある。扉が閉まると開かなくなり、開けるためには水晶に触れる必要がある、とか。


ラトリ:

「外にメンバー、残しとく?」

アクア:

「戦力が減るだけよ」

ジン:

「だな」


 全滅が前提のゲームバランスだと、罠だとわかっていても飛び込まざるを得ない。戦うだけならたぶん負けないんだけど。困った。


ジン:

「んで? お前の予想は?」

葵:

『ん~。復活ポイントだったりすると嬉しいかなーって?』

ラトリ:

「え~っ!? ……そんなこと、ある?」

ヴィルヘルム:

「……ふむ」

葵:

『何気に、ここってセーフティポイントじゃない? モンスター出てこないし。普通だとレイドボスを相手にしたら全滅するからね。何度も挑むのに、やり直しポイントが遠いとシナリオ的にダレるじゃん』

ジン:

「あー、ゲーム的な都合の話か……」


 現実的にはありえない便利さではあるけれど、ゲームが現実化している世界なので、そのバランスを考えると、絶対にないとも言えない。その場合、特にデメリットもないのだから、問題ないということになりそうだ。


 ともかく、扉が閉じないように護衛を付けた状態で、一度中に入ってみることにした。外の水晶オブジェが一般的なギミックであるなら、扉が開いたままだと、中の敵が無敵化とか超強化とか超回復とかする『だけ』なので、大丈夫らしい(ちっとも、全然、大丈夫ではない)

 

タクト:

「ドラゴン!!」


 扉の奥の部屋にはレイド×4の巨大なドラゴンがいた。素早く名称を確認する。〈ヴァンパイア・ドラゴンロード〉だった。戦闘用のフロアもそこそこに広いのだが、さすがにドラゴンが居座っていると空間比率などがハンパないことになってしまっている(苦笑) ……戦うためのスペースが狭い。その分、取り囲めるともいえるが、それよりも後衛が安全な距離を保つことが難しそうだ。単純なスペースの問題なのに、それだけで難易度の高い構成になってしまう。


シュウト:

「吸血鬼化したドラゴン……? なんでドラゴンが……!?」

リディア:

「吸血鬼のクエストじゃなかったの!?」

葵:

『おひおひ。ドラキュラって、竜の子って意味やぞ? ドラクル公が竜公で、その子供だから、とかが由来なんやで?』


 ぱちくり。目をしぱしぱさせつつ、周りの様子を窺ってみる。


ジン:

「俺は知ってた」

レイシン:

「ウィキペディアに書いてあるよね」

英命:

「常識、かと」

ネイサン:

「ドラゴンから転じて、悪魔とか言われたりするようになったんだよ」

ラトリ:

「むしろ、1回ぐらい出てこない方がビックリしちゃう、かな?」

葵:

『てか、アンテノーラちゃんの代わりに配置されたのかな? もともとそういうシナリオだったりして』


 なにやら、自分の無知っぷりを晒しただけで終わった(涙)


リコ:

「見て! あからさまに怪しい光が! あのギミックから、こっちのドラゴンに向かって伸びてるっ!」

ジン:

「わー、ほんとーだー(棒)」

葵:

『これわっ、いったいどーなってるんだー(棒)』


 部屋の外の水晶ギミックからオレンジ色した光の粒子みたいなものが、うねりつつドラゴンに向かって延びていた。ジンたちは棒読みで驚きを表現。……これを考えた人が今頃きっと泣いているから、やめてあげて欲しい。

 

ジン:

「どれどれ、回復スピードをみてやろうじゃあないか(嬉)」いそいそ


 やめればいいのに、面倒くさい確認作業を始めるジン。

 一瞬で踏み込むと、〈竜破斬〉を次々と決めていく。戦闘開始。そのまま畳み掛けるようにラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。


ジン:

「うお、手応えが全くねぇ!」

葵:

『こりゃ無駄だな(笑)』


 初撃から霧状態で無敵を維持している。魔法も効果がないため、単なる幻影に近い。早くも扉を閉める方向で決定。念のため、扉を閉める前にギミックの水晶を破壊できないかも確認。予想通りにダメだった。破壊不能オブジェクトだ。

 珍しく、葵の予想が外れた形になる。まぁ、そういうこともあるのだろう。(本当にそうなのかなぁ……?)


ギヴァ:

「よし、閉めるぞ!」


 扉が閉まるゴリゴリ音に後ろ髪が引かれる気分。脱出不能ゲームのはじまりはじまり。不退転の覚悟で突き進むしかなくなった。とりあえず、目の前のドラゴンから嬲り殺しにしてしまおう(笑)


ジン:

「オラ! オラ! オラ! オラ! オーラァー!」


 ドラゴンの位置を強引に調整して角へと『押し込んで』行くジン。普通は、ヘイトを取ったらおびき寄せて、近寄って来るのを待ったりするんだけども。 そういう面倒なことはしないらしい。超近接して、攻撃のために位置調整するのを利用したり、噛みつきに来た顔を〈竜破斬〉で叩き斬って怯ませたりしていた。さらにドラゴンが体を少し起こすタイミングでブン殴って後退させている。こういうゴリゴリしたのを繰り返し、さっさと角に追い込んでしまった。これ真似できる人、たぶん、いない。


 戦闘用スペースが確保できたので、こちらの実験もしてしまおう。

 スペクトラム・フォースなどを戦闘で駆使するには、それなりに練度というか、練習が必要だ。でも白兵戦に比べたら、弓なんかは少しばかり余裕がある。さっそく実戦で試してみることにした。感情を浮かび上がらせ、魔力を息のごとく吹き込んで破裂させる。


シュウト:

「まずはこれだ。……〈乱刃紅奏撃〉!」


 弦をしぼると唸り声を発した龍奏弓から、赤黒い『瞳』が現れた。本来、6つまでのところ、虹色に輝いて『瞳』が18まで増えた。


葵:

『おーっ、すっげ!』

シュウト:

「いけっ!」


 6つずつ、3度の斉射でもって投射。速度がかなり増したせいで軌道を操作する時間もなく着弾。大砲のようなイメージだった。わずかに押し戻されるドラゴン。あの巨体を一瞬とはいえ、怯ませるパワーが宿ったようだ。


葵:

『やっべー(笑) これ、フォーカスライト無しだと、シュウ君に瞬殺される流れじゃん』

タクト:

「うっ!?」

シュウト:

「……そうかも?(笑)」←いい笑顔で


 ジンには回避されるけど、タクト辺りは瞬殺が可能だ。ふっふっふ、震えて眠るがいい。


葵:

『うりうり。やべーんじゃねーの、ジンぷー?』

ジン:

「何が?」

葵:

『見たべ? 超威力の砲弾が連射されんだぞ~』

ジン:

「むしろ、ほど良く避け易くなったように見えましたが、何か?」


 ですよねー。フォーカスライトが使えるジンには、砲弾化したところで影響はない。それどころか、〈乱刃紅奏撃〉の思考による追尾性が落ちたことが大きいらしい。これだとウロコ盾を1枚使わせられるかどうか、といったところか。


ジン:

「マジくっだらねぇ。……もう実力はいらねーってか?」

シュウト:

「あ、え? うぅ……」

葵:

『ブハハハハ! 力こそパワー!』


 格下殺しの特性をもつ僕のマーダーセンスと、スペクトラム・フォースの組み合わせ、相性は最悪と言っていい。初見の『わからん殺し』だけじゃない。相手からすれば何が来るか『わかってても』殺せてしまう。……故に、危険だった。勝てる相手には、更に余裕で勝ててしまう。こうして実力が不要になれば、それを鍛えられる場が失われる。それだとジンには永遠に届かなくなってしまう。

 だが、レイド中に、煩悶している暇はない。


レオン:

「こちらも試してみるか。スペクトラム・フォース!」


 戦闘のただ中で虹色の異常魔力を纏うレオン。そのまま武器を振りかぶると、必殺特技を繰り出してみせた。


レオン:

「〈オンスロート〉!!」


 途轍もない破壊力を秘めたオンスロートでもって、レイドボスに大ダメージを与える。虹色の魔力をまき散らしつつ、大破壊の嵐が噴き乱れる。まさしく超必殺技だった。


シュウト:

「あっちゃー(苦笑)」

レイシン:

「はっはっは」

葵:

『やっべー(笑)』

ジン:

「おいおい、ヘイト・コントロールが狂うだろうが(苦笑)」


 そういいつつ、平然と〈竜破斬〉を入れてフォローしている。ジンはスペクトラム・フォースを使うつもりはなさそうだ。


ニキータ:

「僭越ですが、私も失礼します」


 神護金枝刀にスペクトラム・フォースを纏わせ、特技を放つでもなく、そのまま剣舞を繰り出す。流れるように場所を変えつつ、強化された破魔の剣が何度となく閃いた。あちこちに深い斬撃痕が残る。ニキータの斬撃が集中した部分はボロボロになってしまっている。


葵:

『へいへーい、ドラゴン特効~』


 そしてタイミングを合わせたブーステッド・フラッシュニードルの一斉射。ヴァンパイア・ドラゴンロードのダメージが瞬く間に凄まじいことに……。


ヴァンパイア・ドラゴンロード:

「KYUUUUWAAAAAAAA!!!」

ジン:

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 金属を引っかいたような、甲高く耳障りな咆哮。

 しかし、ジンがカウンターシャウトでもってシャットアウト。さらに必殺攻撃のドラゴンブレスが来る。これは最悪の毒液系。だがそれもウロコ盾を駆使して防ぎ切る。

 そのほかにも、即死が付与されるであろう『噛みつき』や『踏みつぶし』を誘発するべくジンは至近距離で戦う。ハイリスクな選択のハズだがまるで問題にしていない。回避を駆使してハイリターンだけを生み出していく。


 厄介な恐怖・魅了・混乱・のレベル100バッドステータス類は、ヴィオラートの『信仰の光』でもってキュアを極大化して乗り切った(ジンには最初から効き目はない)


 ヴァンパイア・ドラゴンロードというぐらいで、圧倒的な物理的破壊力を持ちつつ、精神異常化攻撃の搦め手(からめて)を両立させてくる厄介極まりないレイドボスだが、攻略は極めて順調だった。


タクト:

「強いが、勝てる!」

葵:

『……シュウ君、リディアちゃん、いっちょやってみようか』

シュウト:

「わかりました」

リディア:

「いつでも、いけるよっ!」


 後退して安全な距離に退避。龍奏弓を仕舞い、予備のアーティファクト級ショートボウを取り出した。ここから先の手順も打ち合わせ済みだ。


シュウト:

「……スペクトラム・フォース」


 虹色の異常魔力でもって、弓の耐久力を強化。矢筒に準備するように指示を出しておく。


リディア:

「いくよ! 〈インフィニティフォース〉!」


 約15秒間のスーパーモード発動。体が黄金の光に包まれる。無限に沸き上がる魔力のすべてを、矢筒に託してそのまま待機。10秒以上の時間を掛けて、膨大な魔力の塊が矢の形をして現れつつあった。

 

シュウト:

(どうか気付かれませんように!)


 とっくに気付かれててもおかしくない。きっとジンがドラゴンの動きを封じ込めてくれているのだろう。部屋が狭いので、退避したとは言っても、攻撃が届かないほどではない。


葵:

『さぁ、行ってみよう!』

シュウト:

「〈ペネトレイト〉」


 ふと思いつき、ここで攻撃弱体化(、、、)バフを発動。特技の物理ダメージを下げる代わりに、貫通特性を付与するものだ。ドラゴンのような防御力の高い敵に対し、確実にダメージを与えたい時に使う。


シュウト:

(精霊王の矢……!)


 触れただけで指先が爆発しそうなほどの、膨大な力の塊。どうしても手で掴むのを躊躇してしまう。矢筒から引き抜き、恐る恐る弓にセット。


葵:

『いけそ?』

シュウト:

「なんとか」

リディア:

「が、がんばって!」

シュウト:

「(こくり)……いきます!」


 ここまで来たら、覚悟を決めるしかない。発射前に矢が崩れでもしたら『被害甚大』では済まない。もうさっさと射るに限る。


シュウト:

「行けっ!〈アサシネイト〉ッ!!」


 気合い一発、精霊王の矢を放つ。4色のエフェクトを纏ってレイドボスに飛んでいった。ついでにショートボウも壊れることはなかった。



ヴァンパイア・ドラゴンロード:

「!?」


 ドラゴンの巨体をあっさりと貫通し、向かいの壁で炸裂していた。……果たして、これは成功なのだろうか? 体内で爆発させた方がダメージになったんじゃ?


リディア:

「どうなったの?」

シュウト:

「わからない」


 レイド×1ボスで、最大HPは多くて2億点ほど。これが巨大ヒール持ちだと5000万点程度まで下がる。つまり、レイド×1のHPは、5000万~2億のどこか。……であるならば、レイド×4のレイドボスだと単純に計算してその4倍、2億~8億のHPを持つと考えられる。


 HPゲージは、詳細表示で0.1%刻み。レイド×4ではたとえ1%でも200万~800万点計算だ。『精霊王の矢』が100万点攻撃だったとしても、ヴァンパイア・ドラゴンロード相手では0.2%削れたらいい方だろう。というか、0.1%は削れていて欲しい。


シュウト:

「あれ? ……なんか、全然ですね」

リディア:

「変化なし?」

葵:

『だーねー。100万点いってねーな、こりゃ』

シュウト:

「あー、残念……」たはは

葵:

『要検証だけど、何がダメだったのかなー? おっかしーなー』


 もしかしてペネトレイトのせいかも?と内心でビクついてしまう。試射そのものは成功したものの、失意半分で前線に戻ることにした。


シュウト:

「戻りました~」

ジン:

「おう、さっきの矢、スゲェな! こっちまで死ぬかと思ったぞ」

ユフィリア:

「うん、スゴかったー!」

ニキータ:

「本当に」

シュウト:

「……えっ?」


 何故か、評価が180度ばかり違っていた。


葵:

『んんん? ロクすっぽダメージ出てなかったべ?』

ジン:

「ハァ? おまえ、技の本質を掴み損ねてねーか?」

葵:

『どゆこと??? マジでどういうこと???』

ジン:

「単体ダメージ向けの構成じゃなかったぞ? 今のだと、そうだな……、貫通レーザーとか、雑魚向けのバスターライフルとかだな」

葵:

『ああっ! ドギューンって撃ったら、ドパパパパってなる方か!』


 葵はイメージを掴んだようだが、こっちにはまるで伝わってこない。


シュウト:

「誰か、今の翻訳してください(涙)」

ジン:

「めんどくせーなー。直列に敵を並べて、貫通弾で全部殺すような用途で使うヤツなんだよ。ダメージは20万点ぐらいか? なんか20万点に物理限界その2だか3がありそうな雰囲気だったけど」

シュウト:

「……はぁ」


 雷撃魔法ならともかく、矢なのに貫通しまくるらしい。レイドボス1体だと20万点のダメージにしかならないが、ゴブリンか何かが直列に100体並んでいたら、それぞれに20万点のダメージを与えられる可能性だ。つまりモブ殲滅用なのだから、これは使い方が違っていたことになる。ペネトレイトが少し効き過ぎてしまったらしい。


葵:

『対軍宝具だったか。しめしめ』ぐっひっひっひ

ジン:

「なにを企んでんだ、なにを」

葵:

『いやいや、我が野望にまたひとつ近づいたなって?』

ジン:

「お前の面倒なムーブに巻き込まれたらかなわんのだが」

シュウト:

「アハハハハ……(苦笑)」


 大ダメージを与えたので、僕はしばらくヘイト関係で休憩。

 パターン変化が入り、強力な個体Mobの召喚でレオンたち第二レイドが離れていった。レイドボスの攻勢は分厚いが、ジンの安定感は増すばかり。


英命:

「どうやら、成功したようですね」

シュウト:

「へっ!?」


 英命先生がウロコ盾に障壁を張り付けることに成功した。かなり大ゴトの大事件の気がするんだけど、あまり事件っぽい扱いにはならなかった。

 実際には、これでブレスや魔法攻撃のほとんどを減殺することが可能になってしまっている。……『無敵』の言葉がチラつく。恐ろしいほどに、強い。


葵:

『うっし。安定パターン入ったな。しばらくダメージ量を抑制!』

ジン:

「おい、なにすんだ?」

葵:

『パラダイス・ロストの実戦投入』

ジン:

「おっ? やってみっか」


 必殺技3回に1度の暗黒魔法を狙って、パラダイスロストの実験3回目を実施。


葵:

『ウロコ盾を1枚放出!』

ジン:

「はいほい」

葵:

『はい、パラダイス・ロスト! 構えて!』


 パラダイス・ロストで構えている間、当然ジンは身動きすることができない。でも、ウロコ盾のコントロールは可能だった。通常攻撃を防ぐ。


葵:

『ついでだ、構えている間にウロコ盾を追加』

ジン:

「……無理だな」

葵:

『おっけ、みんな離脱してちょ!』

 

 魔法陣を浮かべて必殺技モーションに入るレイドボス。素早くダメージ範囲から離脱。直後に黒いレーザーのような魔法が発射され、それがジンのパラダイス・ロストに歪められ、吸い込まれていった。


ジン:

「ウオオオオオッ! ……〈パラダイス・ロスト〉!!」


 掲げられた光の剣と共に、レイドボスに突撃。正面から叩き斬った。斬撃痕が白熱化する。小爆発が3回。そしてトドメとばかりに本命の爆発が、空間をねじ曲げるようにのたくる(、、、、)


リディア:

「凄い……!」


 レイドボスの必殺攻撃をまるまる上乗せしたカウンター攻撃。実験で試し撃ちしたものとは爆発の規模がまるで違った。さらに、敵の魔法によるジンへのダメージはおおよそ1/10となる1000点ちょっと。……成功だ。


ユフィリア:

「やったね! 大成功!!」

ジン:

「……まぁまぁだな」

葵:

『ダメージコントロールで組み込むのは悪くないなー。ジンぷーには不要かもしんないけど』

ジン:

「技の引き出しは多くても困らない。これはこれでいいだろう」


 なんとなく平常心なのかツンデレなのか分からないセリフである。からかったりしたそうなユフィリアだったけれど、レイドボス戦の最中なので控えていた。


葵:

『実験、成功! そろそろDPS上げていくよー!』


 スペクトラム・フォースによる必殺攻撃もまた解禁され、使用可能な人がこれみよがしに使っていく。「絶対に使えるようになろう……」と周りを煽っていく効果がハンパない。……よかった、使えて。


 レオンの超必殺技を見ていると、タクトを横目にみて「ムフフ」とかやってる余裕すらない。向こうは近接戦闘しているのに、早くも使いこなしつつある。早いよ、早過ぎだよ! 一体、どこまで強くなるつもりなのやら。うーむむむ。僕も負けちゃいられない。


 パラライジングブロウや、ヴェノムストライクをスペクトラムフォースで強化して放つだけでも、お手軽パワーアップを実感できる。それはそれで強いとして、どこかコレじゃない感も漂っている。


シュウト:

(んー、なんか、あんまり強くなった感じがしない……)


 ハイパワー特技でテンションが上がっていたのは一時的なことだった。ときめきやワクワク感が持続しない。それはそれで贅沢な話の気もするけれど(苦笑) 大体、ダメージアップすれば、ヘイトが上がりやすくなる。ジンがタンクだからハネたりしないけれど、DPSに寄与するとも言い難いのではなかろうか。少なくともレイドへのプラスは、そこまで大きくない。


 ここでレイドボスに変化あり。ヴァンパイアの特性らしき『霧化』を駆使してきた。物理無効なので魔法攻撃のターン。しばらくして実体化すると、体表面が僅かに光り、魔法反射に切り替わっている。今度は物理攻撃のターン。……正直、よくあるギミックなこともあってか、難なく乗り越えることができた。


 残りHPが1割を切る。レイドは最終局面へ。ヴァンパイア・ドラゴンロードは狂ったように暴れ、ヘイトを無視して目に付く相手を攻撃し始めた。言ってしまえば、ヘイト無視攻撃すらも珍しくはない。しかし、ともかく部屋が狭いのがネックだ。避けるにも攻めるにも、スペースが足りない。最後の足掻きなのだろうけれど、これはこれで凶悪だった。

 空に逃げようにも、天井のある空間内だし、フライをかけて回るにも時間がかかる。トドメとばかりに、誰もいない上空に毒液のブレスをまき散らしたりしだした。地面にいたので被害はなかったけれど、デザイン段階で先回りして対策されているらしい。


葵:

『ジンぷー!』

ジン:

「任せろ!!」


 フェイスガードを引き下ろし、オーバーライドすると、そのまま突っ込んでいく。あえて名付けるとすれば『殲滅モード』だ。本気で戦う時のスタイルで、ときたま使っているのを見て知っている。

 ケイオスロードを仕留めた時のような、力ずくで強引なものとは違って、洗練された無造作の上に、パワーが上乗せされている。滅茶苦茶に暴れるヴァンパイア・ドラゴンロードの攻撃をいなして切り込んでいく。


 ファナティックでヘイトを無視していると言っても、目の前にいればターゲットになる。雑に振り回される爪を躱し、時にはウロコ盾で押し止めて、斬撃を加えていく。怒り狂うレイドボスを手の上で転がすように翻弄し、有利をもぎ取っていく。ジンは、そのまま「暴れ」を完全に封殺してのけた。


葵: 

『よっし、攻撃に転じる!』


 ジンの生み出したスペースを活用し、攻撃を再開。残りのHPを消し飛ばしてしまう。危なげのない、実力による勝利だった。戦闘、終了。


ヴィルヘルム:

「損害を確認!」

ラトリ:

「はいほーい。ドロップアイテムも回収しちゃおうねぇ」


 ここも初見で完勝できた。喜びよりも安堵の方が大きい。96人仕様なだけあって、そこまで細かなギミックは使ってこない。クリアするだけなら、このままの流れでもいけそうに思う。


葵:

『うーん。ここいらで長めに休憩いれたいねぇ~。この先、連戦になってもアレだし』

ジン:

「ああ。そろそろ、なんか口に入れてぇな」



 だんだん闘いの余韻が抜けてゆく、その瞬間だった。



ジン:

「!!」


 鋭い動きで反転からのダッシュ。ユフィリアに激突して見えた。



シュウト:

(なっ?…………いや、これはっ!?)



 奥の壁が唐突に吹き飛んだ。閃光がすべてを白く塗り潰していく。……敵の奇襲攻撃だった。



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