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246  悪逆の吸血公爵カイン

  

 まるで結婚式の会場のようなゾーンで、悪逆の吸血公爵との決戦がはじまった。広いスペースだが、『光が強ければ、その分、影も濃くなる』と言わんばかりに光量は十分。カインが広げたマントから、漆黒の闇が滲んで広がっていく。


ジン:

「先制する!」チィッ


 速度を優先させたジンの突撃は、縮地というよりは瞬動だった。瞬きする間にカインとの距離を詰めていく。最後の数メートルは魔術らしき迎撃を盾で防ぎながら、強引に突破。すぐさま白兵戦に入った。

 ジンの攻撃が何回か命中するのを確認し、ヘイト十分と判断して僕らも後に続く。


シュウト:

「いきます!」


 新装備〈空駆ける天馬〉は、跳躍を混ぜることでかなりの速度を得られる。超低空で地面を蹴る高さでも使えるし、ある程度の高さになれば、深傾倒度での移動にも対応できるだろう。使う側のセンスひとつで、さまざまな顔を持つことになる『武器』だ。


シュウト:

「風の矢!」


 矢筒に『風の矢』を要求し、MPを注ぎ込む。大回りするルートで接近し、射線を確保。3~4mの高さから、両足を揃えてジャンプ。カインに向けて、頭から突っ込む形だ。同時に狙いを付け、〈機動射撃〉でもって風の矢を発射。BFSで放つ最速の矢による超スピードの奇襲攻撃だ。


吸血公爵カイン:

「ィッ!?」


 顔に向けて飛んだ風の矢を嫌い、カインが腕で防ぐものの、弾くことはできず、そのまま突き刺さる。当然、そんな大きい隙を見逃すジンではない。


ジン:

「ボディが! がら空き! だぜ!」


 〈竜破斬〉3連発。胴薙ぎから続けて、∞を描くように、逆袈裟、袈裟の順に斬り捨てる。

 こちらはその間に足から地面に着地。ギリギリである。


吸血公爵カイン:

「いでよ、『連なるもの共』!」


 斬られたのに合わせ、バックステップで距離を取るカイン。ちょうどこちらの後続が追いついてくる絶妙なタイミング。マントから覗く闇が、爆発的に膨れ上がった。レイドゾーン最初の戦闘で見せた、膨大な数の眷属を召喚する技だろう。


レオン:

「雑魚は任せろ!」

ラトリ:

「倒したら、念入りにトドメさしちゃうよ!」


 カトレヤ組を除いた他のメンバーが大群を相手取る。カインに継続的にダメージを与えていくには、ジンを中心とした構成でフォローを厚くする必要がある。レイシンとタクトをそれぞれサブタンクとして、周辺に現れる敵に対処することで、ジンのためにカインと戦う余地を作る。


 周辺の敵に気を配るのだが、『真っ白な領域』に視線が引き付けられる。


 淡々と繰り返される殺撃の舞踏。死の粉雪が、しんしんと降り積もってゆく。硬化した羽のようなマントが、剣のように、もしくは槍のようにジンに襲いかかる。とても一人で戦える相手とは思えないのだが、普通に戦闘が成立していた。

 一方的にダメージを与え続けるジン。それで優勢かと言えば、決してそうではない。一方は2万点に満たないHPなのに対し、もう一方は数億に及ぶHPを持っているのだ。一方的に攻撃を当て、一切攻撃を貰わずにいて、ようやくの互角。カインは膨大なHPにあかせて、ジンのミスを誘いつつ、自分にとってのチャンスを待っていればいい。


吸血公爵カイン:

「どうした? 満月の我らに伍する力、ここで出さなくてどうする」


シュウト:

「っ!?」


 確かに不自然さはある。250レベルで戦えば、もっと圧倒的に叩き潰せるだろう。しかし、今、それはできない。


吸血公爵カイン:

「使わぬのか? ……いや、使えぬのか」

ジン:

「……」

吸血公爵カイン:

「クッククク。なるほどな。そうしてみれば、貴様の力は、『敵の強さと己を同調させるたぐいのもの』ということになるわけか」

ジン:

「……」

吸血公爵カイン:

「どうやら、図星のようだな」


ジン:

「…………なぜ分かる。俺、顔に出したか?」


 思わず(?)攻撃を止め、問いかけるジン。


吸血公爵カイン:

「いや、貴様からは何も読みとれん。しかし、そこの少年がな。その顔色がなによりも雄弁に語ってくれたぞ」ククク

ジン:

「……てんめぇ、シュウト、このヤロウ、馬鹿ヤロウ!」

シュウト:

「すみません!(涙)」

葵:

『あーあー、シュウくん、やっちゃった(笑)』

シュウト:

「わかってたんなら注意してくださいよ!(怒)」

葵:

『あたしのせいにしようったって、そうは問屋がおろさないよん♪』

シュウト:

「くうっ」


 確かに、自分の責任だ。あまりのアホさ加減に、腹が立つ。


ラトリ:

「ちょ~っと、面白そげな話をしてるよね~?」

レオン:

「……ああ、ジンはメンターシステムを使って、レベルをコントロールしているのだろう」


ジン:

「か~っ、手の内、剥かれていくかー(苦笑)」


 ジンのレベルブーストは、師範(メンター)システムをブーストすることで成立している。アクアによってもたらされたこれらの知見によって、レベルブーストは2種類の方式に至った。ひとつは従来式の、ブーストしてレベルを高める方法。ジンの特性の関係から、敵が強いか、数が多ければ、敵意を自分の戦力として味方に付け、ブーストに上乗せすることができる。

 もうひとつは、敵の強さを利用してキャッチアップする方法。通常、250もの高レベルまでブーストさせ、それを持続することは(リソースの問題で)不可能だ。しかし、元が師範(メンター)システムであることを利用できた。『弱い味方にレベルを合わせる』機能をブーストさせることで、『強い敵にレベルを合わせる』ことが可能になった。


 特に後者は、キャッチアップさえできてしまえば、それ以後は消費エネルギーを抑えることができる。システムに保証された仕組みを部分的に利用しているのだ。一方、従来式の前者では、リソースの許す範囲で、レベル上限がなくなる。例えば、弱体化した今のカインは109レベル。キャッチアップ式であれば、109レベルまでしか高められないが、従来式であれば、120、130……と高めることが可能である。



シュウト:

(そういえば、レイド×1なのか……)


 レギオンレイドの戦闘で、レイドボスがレイド×1のままだとは思えない。それはさすがに楽観が過ぎるというものだろう。つまり、カインは変身してレイドランクを高めるタイプのレイドボス、ということになりそうだった。

 大群による圧殺攻撃も打ち砕きつつある。大きくパワーアップしたレオンを中心に、連携が機能しているのだろう。


ジン:

「……そろそろ変身だろ? 早いとこ頼むぜ」

吸血公爵カイン:

「言われずとも、そうしてやろう」


 『連なるもの共』が、黒い霧状に変化し、ひとつの塊にまとまっていく。追撃で魔法をたたき込むのだが、霧散させるには至らない。同時にカインの側は、体が2倍ほどのサイズに膨れ上がっていた。剛毛に覆われた、狼のような、熊のような何か。


葵:

『ウェア・ビースト? 吸血鬼なのに?』

スタナ:

「こっちの黒い霧は、〈黒狼王〉になったわ」

葵:

『わっひゃぁー、なるほど、もう一回合体して最後にレイド×4になるパターンだ、こりゃ(苦笑)』


 それぞれレイド×2のレイドボスに変身していた。


ジン:

「こっちはしばらく俺に戦らせろ。向こうの算段、つけてこい」

葵:

『へいへーい、まかされた!』

ユフィリア:

「ジンさん、大丈夫? 私だけでも残った方がいい?」

ジン:

「ノープロ。図体がデカくなった系のパワーアップじゃ俺は倒せない」

ユフィリア:

「わかった。気をつけてね!」


 実際のところ、ジンの判断は有り難かった。ダブルレイドランクとはいえ、このクラスのレイドボスを初見撃破するのはレギオンレイドだろうと簡単ではない。レオンを中心に、すばやく攻略を組み立てていく必要がある。

 黒狼王は、なんというか、黒いフェンリルみたいな存在だった。2段変身の『つなぎボス』とは思えない強さ。メインは素早い突進からの体当たりや噛みつき攻撃。加えて、口から炎弾を連続で発射する技が厄介だ。猫型ではないためか、爪攻撃の頻度はそれほど高くないし、少し無理がある動作になっている。避けるのはそう難しくない。


葵:

『レオンくんが安定しているから、負けはないかな? 必殺技次第ってトコだね。もうちょい、攻めに配分しようか』

リア:

「ううっ、速くて当てられる気がしない……」

葵:

『火ぃ吹くから、溶かして脱出される可能性は微レ存』


 ネバネバ・バインドが決まれば、その後の数十秒はフルボッコ・タイムになるが、前後左右に移動を繰り返しているので、『てろん』としたやつがちゃんと当たるとは思えない。バインドを当てるのに、バインドが必要ってやつだ(苦笑)


タクト:

「オレが、行きます!」

葵:

『おっ、新技? 行けそー?』

タクト:

「なんとか」


 タクトの新技、それは……







ジン:

「タクトよ、告げる」

タクト:

「はぁ……?」


 いつだったか、ジンの講義が唐突に始まった夜のこと。


ジン:

「許可がおりた。貴様には新たなステージが用意されるだろう……!」

タクト:

「ええっと、はい」

ユフィリア:

「誰が許可したの? どうして芝居がかってるの?」

ニキータ:

「なんでかしらね?」

ジン:

「うるさいな、いろいろあんの、いろいろ!」

シュウト:

「えーっと、それで、なにをやるんですか?」

ジン:

「うむっ、これは大変に危険なプログラムなの、だっ……!」


 額に手を当て、首を振るようなポージング、なぜか芝居がかっている。


タクト:

「危ないんですか?」

ジン:

「これ以上なく」

シュウト:

「タクトだけですか? 僕らには……?」

ジン:

「まぁ、応用できないこともない」

レイシン:

「ちなみに、誰に、どういう風に危ないの?」

ジン:

「集○社の、もっとも発行部数の多いマンガ雑誌あたりにネタをパクられると広範囲に危険が及ぶっていう……」

葵:

『それジャ●プのことだべ? ジャン●のことだよな!?』

ジン:

「言ってない。俺は、何も言っていない」

シュウト:

「またそのパターンですか……」


 絶対に認めないパターンである。どっちにしろ、異世界で冒険しているのだから、現実の●英社が出てこられるハズもないと思うのだけど。


ジン:

「連中は、小手先のパワーアップ理論を欲している。そう、例えばフタエノキワミ」

葵:

『アーッ!』


 間髪いれずに叫びだす葵に、ちょっとビクッとしてしまった。


ジン:

「ネタをパクられてそこまで問題かと言われると微妙なんだが、知能指数というか、脳筋単細胞で喧嘩っぱやい連中に知られるとマズくてな」

リコ:

「あー、それって『効果があるから』ですよね?」

ジン:

「もちろん、そうだ。後輩とか下っ端をぶん殴って、ちょっと試してみよう!とかって話になると困ったことになるね」

タクト:

「その、やり方というのは……?」

ジン:

「うむっ、心して聞くがよい。『インパクトの瞬間、脱力せよ』」

タクト:

「は……?」

シュウト:

「えっ……?」

ユフィリア:

「んーっ?」

葵:

『まじで?』

レイシン:

「はっはっは」


 またなんか面倒なことが始まったな、と思った。


ジン:

「直感の逆だからなー。しかし、手を抜けと言ってる訳ではない」

タクト:

「違うんですか……?」

ジン:

「いいか? 大切なことは、信頼できる評価方法をもっているかどうか、それに照らして考えることなのだ。タクトよ、貴様の場合は、実ダメージを信じればいい。俺の言葉が信じられなくても、実ダメージを見て判断するのだ」

タクト:

「いえ、ジンさんを信じています」

ジン:

「いやいや、それじゃダメなんだって(苦笑) 俺が間違っている場合もあり得るんだよ。お前が信頼できる評価軸をもっていれば、騙される確率は下がるだろう? これは俺の持論だが、『とある能力の半分は、評価方法論で出来ている』ってな」

ユフィリア:

「ひょうかほーほーろん……?」

ジン:

「評価にそって努力は行われる。頭が良いとかは、なにを評価するか?って問題と切り離すことができない。学校のテストなら暗記力とかな。発明なら発想力とかクリエイティビティ。理解力やセンスもいろんな分野で大切だ。何をもって頭が良いとするのか、それはイコールで評価方法が問題なんだよ」

ユフィリア:

「うーっ、むつかしいね?」

ジン:

「そうだな、俺に説明のセンスはなさそうだ(苦笑)」

葵:

『んで? インパクトで脱力ってのの話はどうなるん?』

ジン:

「力を入れていると、作用反作用の問題というか、腕の質量とか運動量を巧く伝達できないんだよ。腕の中で引っ張り合ってしまう。……そもそも打撃技ってのは、足腰、背中なんかで発生させた『過去の運動量』を伝達する系統の技術なんだ」

タクト:

「確かに……」

ジン:

「それにインパクトの段階で筋力を使うと、『叩く』ではなく『押す』成分になってしまう」

シュウト:

「えっと、ジンさんって、実際にはどうしてるんですか?」

ジン:

「ん? 殴る場合なら、肩口でプレインパクト面を形成して、デコピンの原理で殴ってるな。デコピンでピンが外れたあとは力なんか入れないだろ?」

シュウト:

「いれませんね(苦笑)」

ユフィリア:

「うんうん」


 ユフィリアが実際にデコピンを繰り返していた。


ジン:

「某流派のストライクなんかもだいたいこの系統の技術なんだが、知らないだろうから割愛する。えっと、簡単に説明するには……。そうだな、除夜の鐘みたいな、鐘撞(かねつき)がこれの原理を利用してるかな。

 丸太みたいなのが縄でつり下げられてて、下がって位置エネルギーを蓄え、引っ張って加速させつつ、命中の瞬間は手を離す。すると、大きな良い音が鳴るわけだ」

ユフィリア:

「うん、わかるぅー!」

リコ:

「命中の瞬間は、質量の移動を邪魔しない方がいいんですね。ちょっとでも変な手を加えたら、良い音がしなくなりそう……」

タクト:

「インパクトの瞬間、脱力によって運動量の移動・伝達を阻害させない技術、ですか」

シュウト:

「これって、武器攻撃にも応用出来るんですよね?」

ジン:

「当然できるぞ。こんな実験もある」


 新聞紙を取り出し、魔法の掛かっていないダガーを渡される。重量的にも長さ的にも戦闘用のしっかりとしたものだ。


ジン:

「しっかり握って、ゆ~っくり突いてみな?」


 ゆっくりなせいか、新聞紙アキクロにささらなかった。ダガーの先端が新聞紙を押してしまう。刺さらぬこと、のれん のごとし。


ジン:

「次は指先に乗せるぐらいの感じで、おなじくゆーっくり突いてみ?」


 ダガーの重心を確認しつつ、人差し指に乗せ、親指は触れるかどうかの慎重さでバランスを取る。バランスを取っている関係で速くは動かせない。しかし、ザクリと新聞を突き破っていた。


シュウト:

「おおーっ!(嬉)」

ユフィリア:

「すごーい、なんでー?」

ジン:

「釣り鐘の理屈と同じだよ。ダガーの重みがしっかり利いたからだ」


 ここまで刃物を繊細に扱ったことはない。つまりしっかりと握ることでダガーの重みを打ち消してしまっている可能性があるようだ。


葵:

『……てことは、陸奥が虎砲の練習で布団を打ち抜くってのをやるけど、命中の瞬間、脱力させてるってことになるんけ?』

ジン:

「虎砲だと拳が布団に密着してる状態から放つからな。難易度はトンでもないことになっちゃいるが、言わんとしていることならば、そうだ」


タクト:

「釣り鐘、音。……あの、タイガーエコーフィストに応用できますか?」


 タクトの戦闘センスだ。鐘の音と、タイガーエコーフィストに良好な関係を見いだしたのだろう。


ジン:

「うーんと、極拳の握りだと、打撃面が小さ過ぎてタイガーエコーフィストとの相性は良くない。……やるなら掌底だろうな」


 タクトのアイデアを実現するべく、足りない部分をジンが補完する。なにそれ、羨ましいんですけど?


ジン:

「肘抜きは必須。立甲は追い追いだな。掌底も虎要素を残すために『虎爪』っぽくしておこうか」

葵:

『白虎掌~! 的な?』

タクト:

「あの、鐘つきの建物ってなんて名前でしたっけ?」

石丸:

「そのまま鐘撞堂かねつきどう、もしくは鐘楼(しょうろう)っスね」

タクト:

「鐘楼……」







レオン:

「隙は作ってやる、決めてみせろ!」


 黒狼王と打ち合いを演じ、押し負けたようによろめくレオン。ここぞとばかりに勢いこんで距離を詰めてくる黒狼王。……逆に、仕留めに掛かろうとした今こそがチャンスだった。


タクト:

「タイガーエコーフィスト改!『鐘楼白虎掌』!!」


 振り子のような踏み込みから、まっすぐに突き出される腕。後ろ足に近い胴に、横から白虎掌が決まった。黒狼王の巨体が少しズレる。振動波が全身に響いているのだろう、波紋状のエフェクトが全身を覆っていった。

 波紋エフェクト中は、防御力が下がるので大ダメージのチャンスになる。波紋エフェクトが終わると、内部破壊の追加ダメージが発生する仕組みだ。


レオン:

「攻めるぞ! 〈オンスロート〉!!」


 隙をさらすことでチャンスを演出したレオンが、立ち直り、素早く反撃に転じる。僕らもここぞとDPSを上げる。


 鐘音の残響は、長く長く続き、最後に「グシャリ!」と内部に向けてダメージを与えた。……辛口で採点しても、かなり良い。使える新技になっている。



 ――てろん。



黒狼王:

「!?」


 ネバネバ・バインドがレイドボスを捕らえる。


リア:

「マジックハンドを使うと、ネバネバさせる時間が半分になるみたい」


 脱出を図るが、上手く行かないと悟ると、炎弾による攻撃に切り替えてきた。火で脱出しようとは考えつかないらしい。こちらは射線から逃れるように散会し、回り込んでひたすらフルボッコにしてやった。

 

 しかし、一際高く吠えると、黒い炎をその身に纏ってしまった。タイミング的に必殺攻撃かもしれない。必然としてネバネバ・バインドも解除されてしまう。


ラトリ:

「ヤバそうな炎だよねぇ~?」

アクア:

「様子を見ましょう」

葵:

『ノン! 積極的にいくよん!』


 黒い炎の性質を調べるため、積極的に打って出ることに。

 冷気系の魔法攻撃で、黒い炎が増加することが判明。結果、燃えるように揺らめく『冷気の炎』だと分かった。冷気耐性を高めて対処し、火炎でもってダメージを積み上げていく。



 一方、ジンはというと、巨大化したカインを相手に戦っていた。敵のサイズアップによって回避率は下がったみたいだが、ウロコ盾を使えば、ソロでも戦えてしまう。普通に圧倒していた。


 それでいて、2人のプレッシャーは強まって感じる。獣化がカインの切り札かと思ったが、やっぱりそんなことはないらしい。ジンは、カインが切り札を切るのをずっと待っている。一瞬たりとも油断することなく、淡々とHPを削る作業を続けていた。近接戦闘という、カインとの濃密なコミュニケーション。殺意がしんしんと降り積もっていく。それを見ていられなくて、自分の方の戦いに集中することにした。



 黒狼王との戦闘は、レオンと葵が大活躍していた。メインタンクとして前線を維持するレオンと、攻略を捻り出して戦闘の推移を微調整していく葵。レオンが強くなるほど、ジンへの依存度が下がり、自由度が増すという構図だ。もちろん、アクアが下支えしているから可能になっていることは言うまでもない。


黒狼王:

「グルアアアアア!!」


 一際、高く跳躍した。着地地点のメンバーが慌てて逃げ出す。それを繰り返してくるものだから堪らない。


葵:

『チィッ。シュウ君、空中戦だよっ!』

シュウト:

「ムチャクチャ言わないでくださいよ!(笑)」

葵:

『ムゥ、ダメか。じゃあ、足止めをゆうせ~ん』


 とはいえ、そう簡単には止められない。空中で丸まり、ローリングアタックを放ってくる。自ら床面に回転突撃する黒狼王だった。痛くないのだろうか……?


葵:

『くっ! なんだかワンワンが主人公のマンガかアニメみたいな懐メロ攻撃しやがって!』


ベアトリクス:

「私が行こう」


 〈ヘリオロドモスの塔〉で一悶着おこした関係で、ここしばらくおとなしくしていたベアトリクスだった。最速の女騎士は、閃光の速度でもって肉薄する。跳ねてどんどん場所を変えるとなれば、短い間隔でヘイトリセットしているということ。移動のたび、真っ先にベアトリクスが追いついてダメージを叩き込む。ヘイトリセットされるなら、タゲを取ることにならない。取ってしまっても回避タンクすらやれる性能なので問題もない。


 それをしばらく繰り返すと、どんな条件によるものか、黒狼王の連続移動は終息し、ついにベアトリクスに牙を剥くことに決めたらしい。


レオン:

「代われ!」

ベアトリクス:

「別に貴方が出しゃばってこなくても問題はないと思うのだが?」

レオン:

「フッ、防御に不安があるなら、素直になった方がいい」

ベアトリクス:

「……フン」


 間を空けずレオンが飛び込んできて、メインタンク交代。しばらくして撃破に至り、そのまま第3形態へと移行した。


葵:

『管狐?』


 実体を失った黒狼王が『黒い炎』になり、人型にもどったカインに巻き付いたか、取り憑いたかしていた。左肩に、カインの頭と同じぐらいのサイズで、黒狼王の頭部が合体した形になる。これでレイド×4。最強の状態へ。



ジン:

「……さて、と」

葵:

『さてと何だよ?』

ジン:

「ん? 特にねーけど」

葵:

『最終局面だぞ? なんか気合い入るセリフとか、吐けや!』

ジン:

「んあ~っ、そういうの苦手なんだってば(苦笑) 硬くなるな、テキトーにゆるんでいけ!」

シュウト:

「はい!!」

葵:

『ちっがーう! そういうんじゃないんじゃよー!(涙)』

ジン:

「だったらお前がなんか言えばいいだろ」


 レイド×4、カイン1体になったことで、当然のようにジンがメインタンクに復帰。頼もし過ぎる背中に、精神力が回復して感じる(苦笑) 余裕があるのは良いことだろうけれど、油断に変換せず、ゆるみ度に変換させたいところだ。

 ジンと葵の言い合いに関しては、万年あんな調子なので、気にしたら負けである。


吸血公爵カイン:

「では、こちらから行くぞ。『呪式連装』!」

ジン:

「おっ、新技か」ワクワク


 空中で詠唱を開始、魔法陣が2つ並んで展開する。


葵:

『おおっ、いきなし同時詠唱? そんなこともできんの?』


吸血公爵カイン:

「【血獄】!【天獄】!」


 左腕に黒い炎、右腕に、闇色した雷撃を纏う。


葵:

『マギア・エレベアかな? 黒い炎の方は、冷気っぽいぞ、気ぃつけろ、ジンぷー!』

ジン:

「……逆転した炎、概念攻撃か?」

吸血公爵カイン:

「一目でそれを見抜くか」


 すさまじい勢いで突っ込んでくるカイン。盾に『呪われた雷』を纏わせて迎撃したジン。双方の雷撃がスパークし、火花と光とをまき散らす。


吸血公爵カイン:

「〈血氷の暴君〉」


 一転、攻撃魔法を無詠唱で発動させてくる。


ジン:

「しゃらくせぇ!」


 真っ赤な吹雪。大規模な破壊をまき散らす魔法を、竜の魔力(ドラゴンフォース)でいなすと、強引に前へ。さらに攻防の密度は増していく。さすがにレイド×4、やたら強い。なんといっても攻撃にタメがない。

 ひとしきりぶつかり合った後、間合いを取りあった。


葵:

『装填してると無詠唱になるのかも?』

ジン:

術式装填(スペル・ローディング)じゃねーな。アレは『呪い』を取り込んでやがる。マイナスの力を、攻撃力に転換する技。アンデッドの戦い方ってこったろ」


吸血公爵カイン:

「驚異的な眼力だ。よかろう。この技、見事打ち破ってみせろ!」

ジン:

「おもしれぇ!」カッ


 カインは更に【憐獄】を追加、呪式三連装である。


葵:

『なぁる、呪い『だから』多重乗せが出来るんか。……やるぅ!(歓喜)』


 超高温の固体を乱射。タイミングをズラして吹雪とも違う極低温の炎で炙られる。その合間を縫うように雷撃が飛び交った。雷撃だけは、ジンがすべて無効化してくれるので、麻痺になる危険は低い。


英命:

「低温の炎は、燃え移ると急激に体温を奪われます。水では消せないので、ご注意を!」

ウヅキ:

「水で消せなきゃ、どうすりゃいいんだよ(苦笑)」


リコ:

「高温の氷の方は、消えないからそのままトラップみたくなってる!」

タクト:

「逆だと、冷やしたら消えるのか?」


 さらに近接攻撃の合間に、呪文詠唱までしてくるカイン。


葵:

『マジか! 白兵戦しながら詠唱できるとか!』

ジン:

「チィッ、阻止が、間に合わん」


吸血公爵カイン:

「〈魂の井戸〉」


 カインが放った魔法は、エフェクトが薄くて効果が分かりにくい。何の呪文だろう。名前から考えると精神系か?


ジン:

「ぐうっ、重力デバフかよっ!?」

葵:

『ディスペル、急いで!』


 ジンが目に見えない力で足止めを食らう。解除を急がせる葵。それらを横目に、カインは既に本格的な詠唱に入っていた。


レオン:

「不味い!」

ヴィルヘルム:

「阻止しろ、やらせるな!」


 カインに殺到するレイドメンバーたち。しかし、近づくことはできなかった。体に巻き付いた黒狼王だったものが動き出し、自律的に攻撃・防御をこなして、カインのために時間を作った。

 詠唱を終え、邪悪な吸血鬼はその瞳をゆっくりと開いた。


吸血公爵カイン:

「これで終わりだ。……〈プラネット・ボム〉」


 高く飛び上がると、終幕を宣言した。途方もないエネルギーを秘めた『小さな球体』が、地面に向かって落ちていく。あれが炸裂したら、レギオン・レイドの全滅すらあり得る。もはや完全にゲームバランスの外側での攻防だった。モルヅァート以来の圧倒的な理不尽さに細胞が震えている。


ユフィリア:

「やらせないっ! 〈アイス・リフレクター〉!!」


 炸裂の瞬間、ユフィリアの切り札が割り込みに成功した。カインの側に戻っていく小球が、鼓膜を破るような轟音と共に爆発した。大破壊の威力と轟音が、ゾーンを粉微塵に変えようとしていた。



吸血公爵カイン:

「魔術反射とは、……少し驚いたぞ」


 しかし、極大の爆裂は唐突にかき消えた。否、打ち消したのだ。カインが、最大級の破壊力をもった呪文を、それ以上の力でもって。その事実があまりにも重かった。


ウヅキ:

「アレは、ヤベぇな……」


 さすがに、本気のカインは破格の強さだった。しかも、立ち位置的に、ラスボスのひとつ前ときている。立場を入れ替えて味方メンバーで考えれば、ジンと戦う前に、レオンにメチャクチャに圧倒されているような意味になる。これは、非常に不味い展開だ(苦笑)


吸血公爵カイン:

「アイデア・レベルでこちらの戦術を理解しているようだな。単立だが装填に近い真似事をし、無詠唱も実現している。見事だ。……やはりその女、我が養分に相応しかったな」

ユフィリア:

「いやーん(苦笑)」

ジン:

「……ハァ? んだと? 死にてぇのか? 死にてぇんだろ。こいよ、やってやんぞ」


 半ギレのジンが睨みを利かせながら近づいていく。もしかして、ドラゴンストリームで一方的に勝てたりして。……まさかね(汗)


 ヘイト高めている傍らから、無造作にケイトリンが突っかけた。難なく躱されたが、反撃の瞬間を狙ってウヅキが背後から斬撃を放っている。ウヅキの大剣を指一本で止めたところで、上からレイシンが浴びせ蹴りで強襲。上に意識を誘ったところで、足を取りにいくニキータ。


吸血公爵カイン:

「チィッ、厄介な」


 跳び退(すさ)った背後からタクトが白虎掌を叩き込もうとする。カインは半回転して腕を差し込むようにして阻止。このタイミングで『水の矢』を使った狙撃を入れた。


吸血公爵カイン:

「なにっ!?」


 対生物に特化した矢は、カインの想定を超えていたらしい。あっさりと弾け飛んだ右腕。黒い霧にして再生するにしても、わずかにタイムロスが生じる。そしてそうしたタイミングを逃すほど、我らのメインタンクはのんびりとはしていない。


ジン:

「オラァ!」


 なす術なく叩き斬られるカイン。

 いや、しかし、カトレヤ組の物理アタッカー陣が連携を仕掛けて、まともに入ったのが僕の矢だけ、とか。この相手はかなり危険だった。


レオン:

「ぬんっ!」


 激しすぎる自己主張でもって踏み込み斬りを放つレオン。そのままスムーズに連携に加わる。ジンとレオンが交互に攻撃を仕掛けていく。二大超戦士による、豪華すぎる吸血鬼討伐劇、開演中。逆に圧倒的過ぎて参加しようがないという噂も。

 カインのマントによるオート・カウンターでもって、レオンのHPが少しずつ削られていく。ジンには超再生もあるが、そもそも喰らう数がずっと少ない。


ミゲル:

「何とか足止めして、魔法でダメージを与えたいところだな」

ギヴァ:

「しかし、魔術反射はこちらだけの切り札とは限らんだろう」


 無詠唱の魔法を喰らい、よろめくレオン。レオンの位置にはベアトリクスが入ってフォロー。同時にレオンの回復とサポートを開始。

 カインは連続魔術攻撃を敢行。無詠唱の魔術攻撃2回目ぐらいでジンが割り込みを掛けて突撃した。


ジン:

「おせぇ!」


 魔術を放つ動作では、剣士の攻撃を阻止できない。相手の攻撃動作を逆手に取り、次々にいい斬撃を叩き込んでいく。フォローに入っているベアトリクスは、スピード頼みなものの手数が足りていない。風の矢で元・黒狼王の頭を狙い撃っておく。


 手数も厚く、質も熱い攻防が続く。ベアトリクス脱落で、ニキータが前線に繰り上がった。レオン復帰までの時間を稼ぐ算段だろう。霊槍アステリズムに持ち替えたレオンが、二列目から攻防にアクセントを加え始めた。

 ほぼ、エキシビジョン・マッチである。ジンたちが戦うのを見ているしかなかった。手出し無用の戦場。いや、僕はちょっかい出せる方なんだけど。背後に周り、精霊の矢のチョイスを考える。


吸血公爵カイン:

「貴様の矢は、厄介だからな」


 黒狼王の頭から炎弾が飛んでくるのを、躱す。無警戒に喰らってはくれないらしい。


レオン:

「〈ヘビーアンカー・スタンス〉!!」


 成立するギリギリの距離を見切って、足止めを発動。僕の方に攻撃した余分な一手が、明らかに対応を遅らせた。尖ったマントがレオンを串刺しにする前に、タクトが背後から割り込んだ。……こいつ、狙っていやがった。


タクト:

「『鐘楼白虎掌』!」


 そしてきっちりと新技を入れていくっていう。まさかこのレベルの戦闘で通用させてしまうとか。戦闘センス、侮り難し。波紋のエフェクト発生と同時にジンが背後へと斬り抜けて、これ見よがしにスペースを作った。


葵:

『今だ、全力射撃!』


 100人近い人数での遠隔攻撃だった。ガチで魔術反射が怖い(笑)

 最速のラピッドショットで、とりあえず魔術妨害は狙っておく。


吸血公爵カイン:

「ぐうううう、……がああああああ!!!!!」


 カインは両腕でガード。気合いと共に、攻撃魔法の大半を吹き散らしてしまった。魔術反射がこなかっただけ、よかった。



 ――てろん。



リア:

「ひゃっふー!」


 全部おわったかな?というタイミングで、ネバネバ・バインドが命中した。地味に性格が悪いのがよく分かる。


吸血公爵カイン:

「なんだ、こんなもの……」


 しかし、動けない。魔術を解析すれば、カインなら一瞬で解除できるだろう。しかし、その一瞬が命取り。〈妖術師〉数名のブーステッド・フラッシュニードルによる『串刺し公爵』出来上がり。


吸血公爵カイン:

「かはっ」


 タイガーエコーフィストの内部破壊でカインの動きが更に一瞬止まる。そのタイミングで、石丸が『圧縮チャンバー』からの『フレアテンペスト』を放つ。熱と光の乱舞でもって、ネバネバ・バインドも溶け落ちてしまうが、どちらにしてもこの相手にはそんなに長く効果が続くものではない。

 レギオンレイドのレイドボス、悪逆の吸血公爵カインとの戦闘は、その後もひたすら続き、ようやく残り3%の段階まで追いつめるに至った。


スタナ:

「残り3%!」

葵:

『すとーっぷ!』

ヴィルヘルム:

「攻撃を中止、戦線を後退させろ!」


 予定通りに、残り3%で攻撃を中断させた。



吸血公爵カイン:

「……これは、どうしたことだ?」


 カインは5%を切り、さらに3%になっても狂化することはなかった。火に、雷に、氷に、そして数多の斬撃に晒され、なお、戦闘開始前と変わらない姿で立つ。吸血鬼の真祖にして、ウェア・ビースト、さらに特級の魔術師でもある男。


ジン:

「ここから先は、俺が一人で戦う。……完全決着を、望む」

吸血公爵カイン:

「クッ、ククク。それは願ってもないことだ」


 戦闘開始前から打ち合わせで、この状況になったらジンに全て任せることにしていたのだ。

 カインも残り3%とはいえ、総HPが膨大なので、まだそれなりのHPが残っている。けっしてジンが有利とは言えない。それでも『こうする必要』があった。


 剣と魔術、暴力と技の、神髄・精髄が激しく交錯する。隙のない攻防が続き、ジンがカインのHPを徐々に減らしていく。



シュウト:

(残り1%、切った……!)


 

 何時くるのか?と思っていたが、それは一瞬だった。

 カインが何かを間違えたように見えた。ジンがその隙を攻めた。なのに、吹き飛んだのはジンの方だった。

 


葵:

『ああっ!』

シュウト:

「ううっ……!」


 軽くジンの動きに合わせて放たれた『それ』は、異常な濃度の魔力。吹き飛んだジンが地面に落ちた。受け身も取れず、まるで壊れた人形のように。

 全ては、この瞬間のためだった。しかし、成功したのかどうか……。緊張で眩暈(めまい)を引き起こしそうだ。


ジン:

「カハッ!」


シュウト:

(はぁ~っっっ!)


 無事に息を吹き返した。安堵の感情は、しかし、次の不安を呼び戻した。あの異常な魔力を、果たしてどうにかできるものだろうか?


吸血公爵カイン:

「生き延びたか。……なるほど、その盾を身代わりにしたわけか」


 〈ヴァイカリウス・シールド〉。死亡保険の特技だ。忍者でいう身代わりの術みたいなもの。相手の攻撃で死んだとしても、盾の耐久力を犠牲に、その死を無かったことにできる。


 控えめに言っても、カインは慎重な性格だ。切り札を『いつ切るか』がずっと問題だった。最終的に残りHP3%になってもまだ使ってこない場合、ジンがソロでタイマンを張り、その瞬間に備えようと打ち合わせていた。乱戦で唐突に使ってこられると、ヴァイカリウス・シールドのタイミングを読みとれない可能性があったからだ。わずかな間違いを避けるための、タイマン戦闘。しかし、まさか残り1%になるまで使ってこないとは(苦笑)


ジン:

「うぐっ。 あ、ああっ、 俺の盾が! 新品の盾がぁぁぁ……」orz


ミネアーを倒した後に手に入れたものだから、既に新品かどうかは微妙なところだ。問題のオケアノスの盾は、約1/3が吹き飛んで失われていた。耐久力が尽きたのではなく、リペア不能でお亡くなりになったらしい。ヴァイカリウス・シールドが成立したのも、この盾だからかもしれない。


シュウト:

「これって、どうなるんですか?」

葵:

『いや、おわったでしょ』

シュウト:

「終わったって、どっちの意味で?」

アクア:

「決まっているじゃない、盾を失ったことを嘆いているのだから、もう終わったのよ」


 だから、どっちの意味で終わったのかが知りたいんだってば(苦笑)


吸血公爵カイン:

「そんなに大事な盾だったか? ならば、後を追わせてやろう」

ジン:

「…………」


 ジンはうなだれたまま、壊れた盾を見ていた。カインが最後の慈悲(=死)を与えようと、手のひらを向けた。異常魔力によるプレッシャーが唐突に現れる。

 ジンは、動くことすらしなかった。そして打ち込まれる異常魔力。





吸血公爵カイン:

「なんだ、と……? どういうことだ!?」


 ……だが、ジンにはなんの影響も無かった。


ジン:

「(ニヤリ)いやぁ、参ったぜぇ。お前の切り札が何か、ずっと分からなくてなぁ~。実際、喰らってみるしかなくて、こっちは死ぬ覚悟をしなきゃならなかった。そんで身体を貫かれて、ようやくだよ」

吸血公爵カイン:

「なぜだ、何がどうなっている!? 説明しろっ!!」


 これに狼狽えたのはカインの方だった。よかった、そっちの意味で終わっていたようだ。


ジン:

「これが〈共感子〉(エンパシオム)とやらの使い方なんだろ? まさか情報因子をこうやって使うとは、完全に盲点だったぜ。情報因子なんて、なんなら単なる記憶だろ? ぐらいにしか思っていなかったもんなぁ」

吸血公爵カイン:

「貴様、何をした?」

ジン:

「これだろ? 情報因子、……いわゆる記憶や感情、経験値なんかを、分解して魔力に転換するっていう」


 ジンの右手から発したのは、カインと同じ、異常魔力そのもの。


吸血公爵カイン:

「っ!?」

ジン:

「人も魔物も、死ねば七色の光になるよな? つまり、あれは『分光』したってことだろ?」

葵:

『分光って、スペクトル?』

英命:

「あの異常な魔力が“分光の力”であれば、『スペクトラム・フォース』でしょうか」


ジン:

「そこまで分かれば、逆位相の力で相殺すればいい。分光する前の状態に戻すには、集めて束ねて、光に返してやれば……」

葵:

『つまり集光、「フォーカスライト」! やりやがった。スゲエぞ、ジンぷー!!』


吸血公爵カイン:

「バカな、……バカな!??」


 ジンの発した異常魔力『スペクトラム・フォース』が、左手で集光、『フォーカス・ライト』されていた。小さな循環が両手の間にあった。

 圧倒した。異常すぎる到達高度でもって、カインの心をへし折った。これこそが、ジンだった。ジンの本領だろう。



ジン:

「……さ、終わりにしようぜ」

 

 そうして、再び剣を構える。そこには一分の隙も無かった。

 


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