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245  封印の扉

 

レオン:

「オオオオッ!」


 昨日に続いて、再びジンとレオンが戦っていた。激しく打ち込むレオン。気勢が上がり、斬撃が加速する。


ジン:

「それだ。いいぞ、もっと来い!」


 盾なし、両手持ちブロードバスタードソードで付き合っているジン。レオンと幾たびも交錯し、力任せの鍔迫り合いで顔をつき合わせる。再び、離れ、斬って、受け流して、斬って、切り返して、……だんだんとレオンの斬撃の回転が速まっていく。


シュウト:

「ちょっ!?」

タクト:

「これは!?」


 異常な膂力を誇るレオンの、どこか力任せだった斬撃。それが洗練されてきている。ジンの動きを模倣しながら、その場その場で成長を繰り返す。1秒ごとに強くなっていくと言っても過言ではない。


ジン:

「あっはははははっ!」


 楽しげに笑うジン。斬り合いに熱がこもる。『噛み合った』のが分かった。レオンがジンのステージに登ろうとしている。互角の打ち合いが十数合に及んだ。


シュウト:

(あれって、何%だろう……?)


 明らかに60%以上、下手すると80%付近かもしれない。天才の努力が実を結んだ瞬間だった。さらなる高みを目指すレオン。だが、僅かな隙を見逃さず、ジンが蹴りで吹き飛ばした。


ジン:

「雑になるな!」

レオン:

「まだこれからだ! 『オーバーライド:リファインパワー』!!」


 恐ろしさに体がこわばる。……アレは、不味い。レフパワーに特化したオーバーライドが成功しているらしく、レオンの動きが更に凄みを増した。全体的に脱力が促進され、顔にも余裕がある。明らかに動作と動作の連携が良くなっている。


 ゆらりとゆれると、ジンの動作にぬめりが加わる。ズレるように躱し、するりと受け流す。するするとポジションを変え、的を絞らせない。レオンの『洗練』に対処するために、ゆるみ度を高めたのだろう。残像分身しているかのように、その場に寸前のジンが残っているかのように錯覚しそうになる。


 訓練を越えた本気の意思力がぶつかり合う。洗練を得たレオンは強かった。配分された筋力が意味を持ち、合理性が無駄を削ぎ落とす。厄介だった知性との相性も良さそうだ。


 それなのに、だというのに、ジンが少しずつ圧倒していく。激しい打ち込みはレオンの表情がゆがむほどに強烈。そしてノータイムで剛が柔へと切り替わり、滑らかすぎる受け流しでレオンに『たたら』を踏ませる。更に凄まじい速度の連撃でシャットアウト。最後にトドメの斬り抜けを放った。……レオンの完成度を高めつつ、ジンが一回り上の実力でもって圧勝してみせた。


ジン:

「なかなかえがった。いやぁ~、久しぶりに剣の訓練したって気分だぜ」

レオン:

「…………」


 荒い呼吸を繰り返すレオンは、何も応えられずにいた。


ウヅキ:

「ふざけんな、オッサン! なにそいつ、強くしてんだよ!?」


 ウヅキのそのセリフは、大枠において、僕らの総意だったと思う。


ジン:

「それな! 最近、俺の有り難みが足りなくない?とか思っててサー。どげんかせんといかん! と思ってたわけよ(笑)」

シュウト:

「はぁ……?」

タクト:

「有り難み、ですか?」


 これ以上、どう有り難がれと……?


ジン:

「幽○白書の某知将いわく、『組織の強さはナンバー2で決まる』だそうだ。そこでおいちゃん考えました。『そうだ、ナンバー2を強くすればいいんじゃね?』みたいな? てゆーか?」

ウヅキ:

「なにくだらないこと考えてんだ!? そんなことして、テメーだって勝てなくなったらどうすんだよ!!」ぷるぷる

ジン:

「べっつにー、ボクしゃん、まだまだ余裕あるしー」ふっふーん♪


 最悪、ここに極まれり。立ちふさがるナンバー2の長大な壁。ジンはさらにその遙か向こう、という構図。なるほど、確かに有り難み(?)は増している気がしないでもない。最悪だ。

 しかし、このタイミングで大事なことを見逃していたことに気が付いてしまった。


シュウト:

「あああ!? これは、ちょっとマズいんじゃ……!?」ガクガク


 ドヤるジンの背後で、呆然と立ち尽くすレオン。

 謝りたいとか言ってたのだ。「いつか自分の技を信じてで強くなれたら」とかなんとか。それを『ジンが』鍛えて強くしてしまった。それはちょーっとどこか違うんではなかろうか……? というか、その強さをさらに越えるの? 自分の技とやらを信じて? そんなむちゃくちゃな……。

 

 レオンの目元にホロリと涙が見えた気がした。そのまま、誰にも気付かれないように背を向けてしまう。


シュウト:

「ジンさん、なんてことを! やってていいことと、ダメなことがありますよ!?」

ジン:

「うっせー! テメーで努力して強くなりゃいいだろうが!」


 そういうことじゃない。でもタイムリーなセリフでもあり(涙)

 ……言えない。こんな微妙な話できるわけない。1段飛ばしで強くなったレオン。しかし、その悲しみは更に深みを増してしまった気がした。


タクト:

「ところで、ジンさんの剣って、柔と剛だとどっちなんですかね?」

リコ:

「ゆるんでたら、柔の剣なんじゃ?」

タクト:

「だけどパワーもスゴいんだ」

レイシン:

「んー? んー、どっちでもないよね?」

ジン:

「ああ。どっちでもないね。これは『水の剣』だ。柔と剛だと両方でもあるんだが、そうした性質の違う両側面のいいとこ取りをやるには、質性・クオリティの変化が必要になる。柔や剛は『運動のやり方』の話だが、水の剣だと『体のあり方』の話になるんだよ。これを武蔵でいうと、水は方円に接する、だな。つまり、器によって、四角くも、丸くもなるって意味だ」

シュウト:

「水だから、柔にも剛にもなれる、ってことですね」

レオン:

「フム、深いな」

ジン:

「水のもつ、質性の多重性があってこそだけどなー」


 水はどこまでもなめらかで、柔らかく、しかし重みもある。冷えれば氷のように硬く、温められれば、水蒸気が雲へと姿を変える。水圧のように重み・圧力があり、圧縮されると何でも切り裂くカッターの鋭さすら持つ。水の壁の質量はあらゆる武器を通さない。食料としても生命の維持になくてはならず、しかし、豪雨になれば川を氾濫させ、山をも崩す。


葵:

『そうしてみると、切り取られた概念みたいな「単一の質性」よっか、なんかの物質みたいなクオリティの方が多重性があっていいのかもねぇ~』

ジン:

「んなこといっても、人間が認識してるのなんて、地水火風に+αってとこだろ」

葵:

『それもそっか。厨2病的には、闇かな?』




 安定の脱線をしつつ、朝の訓練を終えたが、もうひとつ事案が発生する。全員を集めたところで、ラトリが発言の機会を求めてきた。


ラトリ:

「みんな、ちょーっといいかな?」

ギヴァ:

「どうかしたのか」

ネイサン:

「なに? エロい話?」

ラトリ:

「ちょっとだけエロい話」

葵:

『なにさラトリっち、セクハラ案件かよ』

ラトリ:

「ちょい見て欲しいものがあるんだよね~」


 キャンプ地点を離れて、戦闘特技が使用可能な隣接エリアへ。


ラトリ:

「いっくよーん」


 両手から魔力塊を放出。ふざけた調子かと思いきや、けっこう真剣な横顔に見えた。


ジン:

「おっ? 『魔力体』、使えたんか」


 魔力体を扱えるようになると、魔力を塊で使えるようになる。しかし、このままだと既存の特技との兼ね合いで巧く行かないのだ。


ラトリ:

「はい、ここからっ!」


 輝く魔法の腕、非戦闘用特技の〈マジックハンド〉を呼び出した。この特技は離れた位置から宝箱を開けたりするのに使う。鍵の掛かった扉を開けたり、罠の解除を行うこともでき、かなり器用に動かせる。地味に便利な技で、たとえば捕まって檻に閉じこめられたりしても、見える位置に鍵があれば、マジックハンドで盗ってこれたりするのだ。

 そしてラトリは、マジックハンドで魔力塊を丸めて押しつぶすように操作する。


葵:

『これは……!?』

ジン:

「圧縮したのか!」


 そして呪文詠唱を開始。マジックハンドで圧縮された魔力を呪文として解き放つ。明らかに威力・規模が増した閃光が炸裂する。


ラトリ:

「……って感じなんだけど?」

リア:

「うわああああ! どして公開するの? なんで?」

ラトリ:

「いや、みんな使えた方がパワーアップできていいかと思って(笑)」

リア:

「簡単だし、こんなの、便利すぎでしょ! うわーん(涙) 今回は勝ったと思ったのにぃ~!」


 〈妖術師〉のランキング2位で、今回はアストラル・ネバネバ・バインドで活躍中のリアが動揺しまくって、泣いていた。寸前で勝ちを逃してしまったようだ(笑)


ミゲル:

「これを公開するとはな、見事だ」

ジン:

「……やるなぁ、ラトリっち。石丸てんてー、これ、真似できそう?」

石丸:

「魔力体を扱えれば可能だと思われるっス」こくり

スターク:

「んー、ギルドやレイド全体への貢献度だからなぁ、やっぱラトリの勝ちになっちゃうね~(苦笑)」

アクア:

「やるわね、さすがMVP男」


 その後、各自でお試しタイムに。石丸も、リアも成功した。魔力体が操作できれば、〈召喚術師〉も〈付与術師〉も使えるとあって、かなり画期的な方法論になったようだ。


葵:

『ところで、名前は?』

ラトリ:

「ん~、『圧縮チャンバー』かな?」


 MP使用量と、マジックハンドの手の中に圧縮できる魔力量などの制限があるものの、+200~500点のMP量で相応のダメージアップが可能になっている。手順は別の非戦闘特技を挟む煩雑さはあるものの、全体的に簡便でもあって、ソロ戦闘はともかく、パーティー戦闘やレイドでなら準備時間を捻り出すこともできるだろう。新しい切り札が増えたといっていいだろう。







ロッセラ:

「ジン! 追加の一品、できたよ」

ジン:

「お、お、お、お~。まっってました!」


 受け取りにロッセラのところへ急ぐジンだった。そこにズシャア!っと地面の雪を巻き上げて、ユフィリアが参上する。


ユフィリア:

「なになに? 今日のなに?」

ロッセラ:

「コロッケだよ」

ジン:

「コロッケ? それにしては、でかいな」


 サイズ的にみると野球のボールよりも大きく、ソフトボールに近いサイズ感。とりあえず一口、とジンがかじり付いた。


ジン:

「ん? ライスボール? ライス・コロッケか」


 コロッケといえば、具がジャガイモのイメージだろう。しかし、ロッセラの用意したものは、中身がライスになっていた。


ロッセラ:

「真ん中にソースが入ってるから」

ジン:

「ほぅ、割っちまうか」


 手で半分に割ってみると、まるで果物の芯のように、縦にソースが入っていた。赤い色のそれは、たぶんトマトソースだろう。


ジン:

「どれどれ? ……これっ、うま!」

ユフィリア:

「わたしも! ……すっごく美味しい!」

ロッセラ:

「良かった」


 じっ、とジンを見つめるユフィリア。


ユフィリア:

「もう少し食べていい? いいでしょ?」

ジン:

「なに言ってんの? 俺専用の追加一品メニューですよ!?」

ユフィリア:

「ひとくちで終わりなのやーだー! 半分! はんぶんこでいいから~」

ジン:

「ばっか、おまえ、欲張り過ぎだろ!?」

ユフィリア:

「ニナにも食べさせてあげたいんだもん。 いいでしょ? いいよね? ありがと!」

ジン:

「ありがとうだの言えば、自分のものになるとか思うなよ!? この食いしん坊の、いやしん坊めっ!」

ユフィリア:

「ジンさんがそれを言うの? それなら私にも考えがあるんだよ。 …………私、知ってるんだから」

ジン:

「むむっ。なんぞ知られて困るようなネタなんかあったか? つーか、お前が知ってる時点で、手遅れじゃね?」

ユフィリア:

「そうなの?」


 言外に、嫌われて困る相手は、ユフィリアだけだと言っているのだが、本人はあまり深刻に受けとらなかった模様。


ジン:

「で? 俺を脅せるネタなんだろうな?」

ユフィリア:

「たぶん。……ジンさんのお部屋に、実は!」

ジン:

「ちょ、ちょっと待て。……なんでそんなプライベートなネタ掴んでんの?」

ユフィリア:

「星奈に教えてもらいました」

ジン:

「てめっ、きったねーぞ!」


 咲空と星奈は、お掃除や洗濯物を扱う関係で、すべての部屋の出入りを許可されている。ジンの部屋にも当然、何度も入っている。


ユフィリア:

「はんぶんこでいいんだよ?」にっこー

ジン:

「チィッ、仕方あるまい」

ユフィリア:

「わーい♪ ジンさん、だいすき」きらりん☆

ジン:

「くっそ、にゃんこ先生め。帰ったらおしおきだべぇ~」


 結局、ユフィリアに半分奪われていた。


レイシン:

「味見、いい?」

ジン:

「クッ、……殺せ!」

レイシン:

「はっはっは」


ロッセラ:

「プッ、……ハハハッ!」


 見ていて、思わず噴き出したロッセラ。彼女は満足そうに笑っていた。







ジン:

「これは……?」

葵:

『封印の扉か!』


 広めのバルコニーを横目に通過した先で、封印の扉を見つけた。しかし、開けようにも『魔力のオーブ』が足りなかった。……これではこの向こう側へは行けないことになってしまう。


ラトリ:

「ちょい、ちょい、ちょーい」

ギヴァ:

「まだこの先に探索していないスペースがあるだろう」

ヴィルヘルム:

「そこにタルペイアがいるかどうか、だな」


 魔力のオーブを持っているのは、タルペイアだけだろう。もしも居なければ封印の扉の向こう側にはいけない。吸血鬼の起源にもたどり着けない。ここで詰むことになってしまうのだから、タルペイアは確実に居るはずだ。

 


ジン:

「ちょっとマズい展開か?」

葵:

『…………』

ウヅキ:

「おい、どうなってんだ?」

英命:

「タルペイアは隠れようと思えば、隠れられるでしょうね。最悪、彼女を見つけられなければ、ここで足止めされることになりそうですが……」

タクト:

「でも、もし、封印の扉の向こうにいたら? オレたちには手の出しようが……」

リコ:

「何かがおかしい。吸血鬼の起源は封印されてて、封印を解くのが目的のはずでしょ? だったら、魔力のオーブを奪っていったのは、なんで?」

ケイトリン:

「ラスボスを攻略されないようにするためだろ。そして、今、攻略できなくなった。なにもおかしいことはないだろう?」クックック


 普段、興味なさそうにしているケイトリンの、絶望を煽るようなセリフ。状況の深刻さが加速して感じる。焦ってしまうのは気のせいだろうけど。ケイトリンが絶望させたわけではないのだ。彼女は単に、無駄な希望的観測を殺してみせただけ。

 この状況で、肝心の葵は沈黙している。答えを見いだせないまま、心が上辺をさまよう。……僕らは負けたのだろうか?


ユフィリア:

「うーっ。ジンさん、どうすればいいのかな?」

ジン:

「あ~? もう封印が解けたってんなら、吸血鬼の起源とやらはさっさと外に出て行けばいいじゃねーか。まだ外に出てないんだったら、やれることがまだあるってこったろ」

ユフィリア:

「そっかー」

シュウト:

「なるほど」

タクト:

「確かに」

ジン:

「今は、単に、葵のひらめき待ちだろ? その間に、探索してないとこに行くぞ。……んで、どっちだ?」

石丸:

「向こうっス」


 極めてシンプル。大枠で考えれば、まだ終わっていないのは明らかだ。ダンジョンの攻撃反応が静まれば、それは僕らにも分かる。次の瞬間にレイド失敗になる可能性はあるけど、それまではできることをしよう。


 未探索エリアを調査し、残るはこの先の広間だけ、という状況に達した。タルペイアに居て欲しいけれど、居なくてもなんとかしないといけない気もする。でも、どうやって?


ヴィルヘルム:

「では、いこう」

ジン:

「……ンッ」


 ジンが力を込めると、ミシミシと壊れそうな音を立てて扉が開いていく。広間には巨大な蜘蛛と、それに付きそう女性の姿があった。是非とも逢いたいと想っていた。前回の借りを返さなければ。


ジン:

「よう、少し見ない間に、ずいぶんと弱ったもんだな~?」にやにや

邪聖母タルペイア:

「あら、無敵のままが良かったのかしら? そうよね、負けたときの言い訳がなくなってしまうものね」

ジン:

「ふぅ~ん。でも、お前に負けた記憶とかこれっぽちもないんですけどwwwww」


 大草原に草を生やしまくる勢いでジンが嘲笑する。〈徒花の邪聖母タルペイア〉は、レベル107まで落ちていた。もはや無敵と(うそぶ)くこともできまい。迸る怒りと苛立ちとが、僕の口をついて出た。


シュウト:

「タルペイア! お前の持ち去った『魔力のオーブ』、ここで返してもらうぞ!」


葵:

『おおう! シュウくんが、シュウくんが主役主役しているっ! ここに来て勇者!? 勇者開眼なの!?』

ユフィリア:

「シュウト、かっこいー!」

ジン:

「オーブ盗られた責任感じて、胃が痛そうだったしなー(苦笑)」

レイシン:

「はっはっは」


 ちゃかしてざわざわするのやめて欲しい。赤面マッハである。


邪聖母タルペイア:

「ダメよ。まだ、ダメ。……貴方たちにはもう少し働いてもらわなくちゃならないもの」


 外野のざわつきをまるっと無視して、話を続けるタルペイア。冗談とか通じないタイプっぽい。


ラトリ:

「あららん、ここまで来させといて、ご褒美も無し? その上、まだ何かさせるつもりってこと~? ちょっと、しぶくなーい?」

邪聖母タルペイア:

「いいえ。もちろん、善い子のためのご褒美なら用意しているわ」


 そういうと、手から光を出し、それを傍らの巨大な蜘蛛に放射した。なんというか、戦隊ヒーローモノで怪人を倒した後で、復活させて巨大化さるみたいな感じだ。つまり、パワーを与えている風に見える。まだ一度も倒してないけど。


葵:

『むむっ。魔力のオーブの力で、蜘蛛をパワーアップだと!?』

邪聖母タルペイア:

「アラクネの糸を使えば、あの忌々しいカラスを引きずり下ろせるでしょう。それじゃあ、最後の封印もよろしくね?」

シュウト:

「ちょっ!?」


 あっさりと転移していなくなってしまった。


ジン:

「おい、居なくなったぞ……? どういうこった?」

葵:

『つまり、このダンジョンにも最後の守護者がいるってことだーね』

タクト:

「カラスって……?」


 そのタクトの問いには誰も答えられない。


葵:

『それはともかく、ボス戦だよん!』


 巨大な蜘蛛は、上半身に人型を生やしてアラクネにクラスチェンジ完了。さすがに、ちょっと強そう。


マリー:

「おお? 魔力のオーブの力を使えば、クラスチェンジできる?」

スターク:

「それ、人間やめる系の進化だよね? クラスっていうか、種族変更みたいな」

マリー:

「そうともいう。……それがなにか?」


 ひとつのオーブの力で、蜘蛛がアラクネに進化するんだとしたら、まとめてオーブを何個も預かっている僕はどこまでいっちゃうんだろう?

 あまりありがたくない方向に突き進みそうなので、試したりするつもりはないけど。ちょっと怖くなってきた。既に矢筒はしゃべるようになってしまっている気が……(苦笑)

 可能なら、ジンのようにほんのり種族変更して、外見そのままでパワーアップを希望したい。


葵:

『蜘蛛子はなろう最強系ヒロインだぞ。気をつけろジンぷー!』

ジン:

「それをいうなら、スライムの方が伝説 多くね?」←地龍より強い人

シュウト:

「なんの話ですか、なんの!?」


 とか騒いだりモメたりしている間に戦闘開始。


ジン:

「くうっ、なんて戦いにくいっ!(嬉)」

ネイサン:

「くっそ、なんて強敵だ!(笑)」

ラトリ:

「たー、たー、かー、いー、にー、くー、いー!(笑)」


 巨大蜘蛛に、女巨人の上半身がそそり立っている。そして巨大なおっぱいが、ぶるんぶるんと揺れ……。楽しそう&嬉しそうにガン見しながら戦う男子。一部の女子ドン引きという構図だった。

 その時、一本の矢が、ちょうど胸元に……。


ジン:

「あっ!?」


 脂肪分によるプルプルとした柔らかみではなく、蜘蛛の毛によるワサワサとした質感だったことが判明。……裏切られた男子の瞳から光が消える。お、オワタ。

 蜘蛛の足を集中攻撃して動きを奪うと、人型の手が届かない背後から攻撃を加えていく。ジンだけは正面から当たらない攻撃をいなし続けていた。最後は石丸が圧縮チャンバー方式で放ったフレアテンペストで燃やし尽くした。


 ……戦いは終わった。後味はむなしいばかりであった。


リコ:

「な、なんて効率的な連携……」

リディア:

「これができるんなら、いつもやればいいでしょ!?」

ジン:

「やだなー、いつもやってることじゃないかー(棒読み)」

ネイサン:

「そうだよ、普段と変わらない」


 裏切られた男性陣のそっけない態度で誤魔化しに入っていた。

 

オスカー:

「アラクネの糸ってアイテムは手に入ったけど、これをどこで使えばいいんだろう?」

バリー:

「守護者がどこかのフロアに隠れているってこと?」

ヒルティー:

「すべてのフロアは踏破しているし、隠しフロア用のスペースも見当たらなかったろう」


 諸要素の再検討が行われるが、〈スイス衛兵隊〉の知略でも見つからない。こうした見逃しは些細なアイデアであることが多い。こうなると、本格的に葵のひらめきを待つしか……。


葵:

『ほーん! そういうことかっ、ほほーん!』

ジン:

「マジか、どこだよ」

葵:

『とりあえず、歩いて戻ろっか(笑)』


 封印の扉の前に戻ってきたが、特に変化はない。更に戻って、バルコニー周辺へ。星空でもって暗いバルコニー。〈冒険者〉の用意した照明でも周囲を見回してみても、特になにもない。強いていうと、けっこう広いというぐらいの話だろう。


葵:

『ここだね。シュウくん、フライハイ!』

シュウト:

「は、はい!」

ネイサン:

「ここ? なにもない風にみえるんだけど?」


 スカイハイなんだけどなー、と思いつつ空を飛び回ってみる。

 すると程なくして飛行規制用のモンスターがわらわらと(笑)


シュウト:

「これっ、厳しいです! 厳しいんですけど!」

ジン:

「よし、頑張れ。空中で近接戦闘だ!」

シュウト:

「えええええっ!?」


 とりあえず、ショートソードを取り出して武装してみた。しかし、吸血蝙蝠の飛び方って、羽が欠けてるみたいな不安定さで攻撃を当てにくい気がしてしまう。というか、次の一歩のことを考えながら戦うのってむずかしい。なにもしなくても墜落しそうな気がしてくる。


葵:

『ごめん、とりあえずフォローしたって』

英命:

「……なるほど、そういうことでしたか」

ヴィルヘルム:

「ああ、これは盲点だった」

ユフィリア:

「えっ、えっ?」


 1分を越えてがんばったと思ったぐらいの頃合いだった。唐突に槍のような針のような物体で貫かれる吸血蝙蝠たち。……そして、舞い降りる銀色の巨人。


タクト:

「〈翼ある巨人コルウス〉!!」

ジン:

「てめぇか!ここであったが2週間目ぇ! 年貢の納め時を教えてやるっ」


シュウト:

「ちょっ!? 死ぬ、死ぬっ、ここにいたら死ぬぅ!!!?」


 2番目に攻略した〈獅子の空中庭園〉で、ちょっとだけ戦った飛行規制タイプのレイドボスだった。銀色の巨体が目の前に現れ、とんでもなく慌てて地上にダイブ。ぎりぎりで攻撃されずに済んだ。……ちなみにコルウスはその時、登場時のポーズをビシッと決めてたらしい。


オスカー:

「アラクネの糸ってどうやって使えばいいんだろ?」


 使用してみると、勝手に糸が飛んでいきコルウスを雁字搦めにした。地上に落ちたところを全員でフルボッコにする。途中で腹部に拘束されていた2本の腕が解放されて、4本腕の巨人になった。


 4本腕で放たれる超スピードの乱打系必殺攻撃をジンが避けたり防いだりしてしのぐと、リアが技後硬直にネバネバ・バイントを『てろん』と投射。身動きがとれなくなったコルウスをさらにフルボッコにして、……倒した。


 ややあっけなく、と言いたいところだけど、時間はしっかり2時間近く掛かって打倒した。


英命:

「これで、すべての封印が解けたことになるのでしょうね」

葵:

『吸血鬼の起源が復活するのと、あたしらが倒すの、どっちが早いか』

ジン:

「今日の内に、行けるところまで行くか……」


 MPを全快にするための短い休憩の後、封印の扉を解放して、最奥と思われるフロアへと突入した。



ジン:

「……出たか」


 悪逆の吸血公爵カインが、閉じていた瞳をゆっくりと開く。

 ジンとカインの因縁が、ここで決着することになるのだろう。


吸血公爵カイン:

「言葉を尽くす時間は終わった。ここからは力でもって存分に語り合おう」

葵:

『そりゃあいい。ウチらの勝利をもって、返答に変えさせてもらうよ!」にやりん


 タルペイアが出てこないのを不安に思いつつ、セットアップを終える。厳しい戦いになるだろう。ここからはレイドボスの連戦も覚悟しなければなるまい。


ジン:

「いくぞ!」

レオン:

「おお!」

吸血公爵カイン:

「かかってこい、人間どもめ!!!」


 マントを大きく広げると、内側の闇が溢れかえるのだった。

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