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241  悔悟の告白

  

シュウト:

「なんでしょう?」


 ケイオス・ロード撃破に続いて、〈ヘリオロドモスの塔〉の攻略にとりかかり、階段をひたすら上り下りしてクタクタだった。肉体的な疲労は綺麗さっぱり無くなっているのだが、精神的な疲労までなくなる訳ではない。そのためだろうか、レオンに呼ばれたものの、あまり緊張してはいなかった。クタクタが勝っていた。話しかけられたのだから、用があるんだろうと単純に思ったのだろう。


レオン:

「以前から、君と少し話してみたいと思っていた」

シュウト:

「はぁ……?」


 『えっ、何を?』とか思った途端に、緊張してきた。話題を提供しろとか言われないよね? というか、共通の話題ってなんだろう? やっぱりジンのことだろうか。しかし、弱点とか根ほり葉ほり尋ねられ、そんなのに迂闊に答えてたら裏切り者っぽい気がする。そんなことを考え始めたら、警戒心がムクムクと……


レオン:

「いや、そこまで警戒しなくてもいいんじゃないか?」ニヤリ

シュウト:

「そういうところが、人を緊張させるのでは?」

レオン:

「そうかな? そうかもしれないな(笑)」


 警戒心をばっちりと見抜かれて先回りされた。必死で言い返してみたけれど、余裕で受け流される。ヤバい、役者が違いすぎる。


 やはりなんというか、この人はイケメン分類ではない。ハンサムさんなのだ。ハンサムの笑顔、格好いい。お陰様で僕は自分の顔面にコンプレックスとかはないし、逆にもうちょっと普通でも良かったんじゃないの?と日頃から思っている。けれど、レオンと並べて比べられたら『もっと普通が良かった』だのが傲慢すぎる発言だと思い知らされた。身長175センチ(自称)では勝負になっていない。戦士としても、男としても。この人を相手に女性の取り合いだのに発展したら、泣いてジンにヘルプを頼みにいく自信がある(そういうのは自信とは言わない)。


 2人で邪魔されずに話ができる場所、というのも中々に難しい。結局、キャンプ地点中央にある、社の入り口階段に腰掛けることにした。ゴツい鎧を着ていないためか、レオンは随分とスマートに見える。かといって、ただ細いのとはまるで違う。しっかり筋肉が付いた上で、均整がとれている。比較して、ジンは厚みがあってゴロっとして感じるタイプなので、身長差も大きいのかもしれない。レオンは190センチを越えている。戦士として高い適性を有しているのは、体格の時点で疑いようもない。


レオン:

「日本のことについて、質問しても?」

シュウト:

「えっ? はい、どうぞ」


 会話の前振りなのか?と思ったけれど、ついでに情報収集してしまおうと思っているらしい。随分と真剣に耳を傾けていた。ところどころ鋭い質問がくるので、油断できない。


レオン:

「ところで、ジンと知り合ったのは?」

シュウト:

「あー、〈大災害〉の後ですね」


 ついにジンの話題がきたか!と思ったけれど、出会いだのの話題なのでそのままスルーしておいた。〈カトレヤ〉の成り立ちなんかを話していく流れだった。


レオン:

「では、ドラゴンを倒して金貨を稼いでいたわけか」

シュウト:

「その辺まで、全部、計算してやってたみたいです(苦笑)」

レオン:

「なるほどな。ありがとう、よく分かった」

シュウト:

「いえ……」


 気分良く会話が盛り上がって、多少、いらないことも喋った気がしないでもない。いや、だけど、当たりさわりないことばっかりだったよ? こんなのでよかったの?と疑問に思ってしまった。


シュウト:

「あの、……もっといろいろ聞き出さなくていいんですか?」

レオン:

「何について?」

シュウト:

「それは、ジンさんの弱点とか能力とか……?」

レオン:

「ほぅ。質問すれば答えてくれる、ということかな?」にこり

シュウト:

「いえ、そういう訳じゃないんですけど」あたふた

レオン:

「では質問しても仕方がないだろう」

シュウト:

「ですよね(苦笑) すみません」

レオン:

「ハハハ、冗談だ。……だが、せっかくだ。ひとつ、サービスで答えてくれないか?」

シュウト:

「……内容に、よりますけど」


 自分で話を振って自爆してしまった。何をやってるんだか、僕は。

 質問と言われても、オーバーライドやフリーライドは分からないことが多いし、話すのもマズそうだ。超反射や四肢同調性は秘密度が高くて、答えて良いのか微妙だ。けっこう難しい場面になってしまった。


レオン:

「ケイオス・ロードを倒した時の、アレは何だ?」

シュウト:

「うっ……!」


 本質的に考えて一番ヤバいものが選ばれてしまった。しかし、これは知っていることを話してしまっても影響がほとんどない。


シュウト:

「『ドラゴンストリーム』です。威圧で相手の能力を封殺するものです」

レオン:

「答えてくれたことに感謝する。……だが、話してしまっても大丈夫なのか?」


 逆に心配されてしまった。


シュウト:

「たぶん、平気です。理解したからってそうそう防げるものじゃないので(苦笑)」

レオン:

「それもそうか」

シュウト:

「ジンさんはメタ攻撃に近いから、防ぐのはかなり難しいって言ってました。同程度の意識能力で相殺して、後は耐えるぐらいしかないんだとか。意識がある、ないのレベルに働きかけるモノらしいです。

 それと技には、最高に分類されるものと、最強に分類されるものがあって、ドラゴンストリームは後者だとか。単に恐怖させるものって訳じゃなくて、身体意識の破壊を目的にしているみたいです」

レオン:

「メタ攻撃、意識破壊、意識に働きかける。……少し分かってきたかもしれん」

シュウト:

「どういうことなんでしょう?」


 説明する側だったのに、なぜか逆に質問していた。でも何が分かったのかは知っておきたかった。


レオン:

「有機生命体、『命あるもの』には意識があると仮定できる」

シュウト:

「……なければ、死んでいる、とか?」

レオン:

「そうだ。岩のような無機物や、草木にどこまで意識があるのかは、ひとまずおいておこう。こうした上で、戦闘が成立する最低限の要件を考えれば『互いに意識があること』といった辺りになるだろう。相手が寝ていれば、不意打ちによる暗殺や、一方的な虐殺となり、戦闘とは呼びにくくなるからだ」

シュウト:

「です、ね」


 1度目にツッコミを入れたら、2度目は先回りされた。

 日頃からジンの説明を聞き慣れていることもあって、するっと内容が入ってくる。特段、難しいことは言っていない。


レオン:

「では、戦闘時に振るわれる『戦闘技術』『魔法』『その他特殊能力』、これらを無力化するにはどうすればいい?」

シュウト:

「えっ、と。とりあえずドラゴンストリームが答えってことですよね?」

レオン:

「もちろんそうだ(苦笑) 肉体を駆使した戦闘技術、遠距離からの魔法攻撃、その二つに分類されない何らかの特殊能力。これらの一見して共通性のない、発動手順も異なる概念にまとめて対処するにはどうすればいいのか。……答えは『より根本的な構成要件』へ働きかけること、になる」

シュウト:

「戦闘の最低条件、『互いに意識があること』」

レオン:

「そうだ。メタ的に考えて、能力発揮や発動そのものを阻害してしまえばいい。つまり意識を破壊すれば……、いや、ほんの少し狂わせるだけでも十分かもしれん」


 僕の特質は呼吸能力だ。〈消失〉(ロスト)は発動が難しいが、発動してしまえば、妨害されにくい『かなり強い技』になっている。しかし、大元である呼吸能力が狂わされたら? そこでもうお手上げである。


 そしてジンのドラゴンストリームは、少し狂わせるどころの話ではない。レイド×1のレイドボス(そこらの枠組みを大きく逸脱していた気がしないでもない)、モルヅァートに続き、レイド×4のレイドボス、ケイオス・ロードをも、戦闘不能(厳密には行動不能?)にするだけの威力が確認されている。

 全力で発揮するには発動条件(怒るとかピンチになるとか?)があるかもしれない。けれど、別に全力じゃなくたっていい。ほんの少し、相手の身体意識を狂わせるだけで十分すぎるほど意味がある。

 少し調子が悪いとかの範囲でも、相手の能力を削ぐことができれば、それだけで勝敗の天秤は傾く。ジンであれば、生まれてこのかた、初めてなぐらいの絶不調に追い込むことができるだろう。


レオン:

「そうなると、次のレイドボスが少し心配だが……」

シュウト:

「えっ?」

レオン:

「いや、なんでもない」


 かぶりを振ったレオンの表情は、何かの憂いをそのまま振り払って見えた。気になったが、しかし、今はドラゴンストリームの話をしておきたい。


シュウト:

「なにか、良い対抗策とかってありませんか?」

レオン:

「……厳しいだろう。手順として考えると、まず1)害意を持ち、次に2)敵に攻撃する、となるが、あの技の対象にされると、2)攻撃手段の発揮そのものが阻害される。さらに威力が増し、意識が混濁する段階にあれば、1)害意そのものが発揮できなくなる。……こうなると後手に回るしかない」

シュウト:

「そうですね」

レオン:

「害意そのものを封じられるとすると、これに対抗するには『自動的に反撃するなにか』を用意するしかないだろう」

シュウト:

「そうか、ダメージシールド!」


 ダメージシールドというのは、ダメージに反応して反撃を加える効果を指す。(ex.やいばのよろい等) ダメージ遮断障壁はバリア(もしくはウォード)と呼ばれて区別されている。


レオン:

「ジンの〈竜破斬〉は一撃のダメージが極めて高い。オーバーキルだ。ダメージ値に反応してその何割かを反撃するタイプのダメージシールドであれば、攻撃を躊躇させられるかもしれん。……ただし、ダメージシールドの効果が発動するのは、こちらが死んだ後だがな(苦笑)」

シュウト:

(あ、しまった。〈竜破斬〉にダメージシールドは効かないかも?)


 ダメージシールドは近接攻撃に反応するものが大半なので、遠隔攻撃である魔法攻撃には反応しにくい。〈竜破斬〉は非属性攻撃なので、物理でも魔法攻撃でもない。このため、ダメージシールドが反応しないかもしれないのだ。非属性攻撃に一番近いのは追撃などの直接ダメージだ。しかし追撃に反撃するダメージシールドなんて聞いたことがない。


 一瞬、指摘しようかと迷ったけれど、ダメージシールドを仕込むこと自体はアリのような気がしたので、言わないでおいた。〈竜破斬〉以外には効果があるものだし。


レオン:

「しかし、実戦はともかく、試合ではドラゴンストリームを使ってこない可能性が高い」

シュウト:

「そうなんですか?」

レオン:

「最高と最強。試合では洗練された高度な技術を用いた競い合いになりそうなものだ。だいたい、ドラゴンストリームを使ったら試合になどならないだろう。一方、実戦では、相手に強みを発揮させないことが必要になってくる。勝ち方にこだわるのもほどほどにしなければな」

シュウト:

「確かに」


 そうして少し間があいた。居心地の悪さなどは既に感じなくなっている。時間や感覚を共有したことによるものだろう。次が本命の話題だろうな、とぼんやり感じていた。レオンにも言い辛い話題なのかもしれない。穏やかに待つことができた。



レオン:

「いつか、謝りたいと思っている」


シュウト:

「…………」


 口を挟まず、続きを促すことにする。胸中は複雑だった。そういう話だったか、と驚きが半分、納得が半分。


レオン:

「いつか、自分の技を信じて強くなれたら、あの日のことを謝罪したい。……誰かが、あの男が来るのを待っていなければならなかった。だが、私は、俺は、逃げてしまった」

シュウト:

「……でも、それは!」


 悔悟の告白。懺悔に近い内容に震える。男同士、戦士同士、だから、気持ちは分かる。そして掛けるべき言葉などないのも分かってしまう。


レオン:

「立ちふさがるべきだった。たとえ蹴散らされるだけだったとしても。なのに、俺は……!」

シュウト:

「だから謝るっていうんですか? そんなこと、絶対に許されませんよ!」


 カッとなって、口から言葉が、胸の内から気持ちが溢れた。


シュウト:

「あの日、あの場所に立つことができたのは貴方だ。それを謝る? じゃあ、こっちはどうすればいいって言うんですか!」

レオン:

「そうか。アレが許せないのは、ジンではなく……」


 レオンは、だから、僕には謝らなかった。本当にやってはいけないこととは、あの日、最強を決める戦いに参加できなかった数多の戦士たちに安易な謝罪をすることだ。


 情けなさに歪んだジンの横顔に、自分の弱さを恨んだ記憶。だから、強くなると決めたのだ。フラッシュバックが胸の奥を雑にひっかき回し、沈んでいた業火を再び燃え上がらせた。

 ジンの代理で怒っていたのではない。ただ自分のための怒りだと自覚する。少しずつ落ち着いていった。こうした激しやすさは、あまり変化していなかったらしい。


シュウト:

「これは僕の怒りでした。……すみません」

レオン:

「謝らないでくれ」

シュウト:

「たぶん、ジンさんは気にしてないと思います。最後、貴方は貴方自身として、あの人の前に立っていた。後ろで見ていても、あれは本当に、強かったですし」

レオン:

「…………」

シュウト:

「今にして思えば、逆にアレで良かったんじゃないかと。結果的に、ジンさんにとっても満足の行く戦いになってたみたいでした」

レオン:

「そう言ってもらえると、少しは救われる」

シュウト:

「…………」

レオン:

「…………」


シュウト:

「……なんか、お互い苦労しますね」

レオン:

「まったくだな」


 気まずさも大きかったけれど、なんだか、同じ種類の苦悩を抱えていることが分かり、なんとなくおかしくなってきて、この後で2人で大笑いしてしまった。

 その後は、取り留めもない話をいろいろした。レオンが取り出したワインのご相伴にあずかった。アルコールだから、あんまり飲まなかったけれど。


レオン:

「あの吸血鬼が250レベルだと分かった瞬間、どうすればいいのか分からなくなった」

シュウト:

「でしょうね」

レオン:

「内心ではすっかり諦めていたのだろう。……だから、ジンを目で追った。彼がどうするのか、意地の悪い興味が涌いた」

シュウト:

「確か、あの時って……」

レオン:

「ただ、突撃するタイミングを図っていた。まるで勝つことしか考えていなかった。衝撃だったよ」

シュウト:

「そうなりますよね(苦笑)」

レオン:

「慌てたな。一人で行かせるわけにはいかないと思った。だが、まだ迷いがあった。正直、負けイベントだと思っていた。なのに、突撃の瞬間、呼ばれた」

シュウト:

「最初から行くんだろうって計算に入っちゃってましたよね(苦笑)」


 それが羨ましくもあったのだけど。こっちは出遅れた!と思った。しかし、内実はレオンの側にも葛藤があったらしい。


レオン:

「これは人間として『裏切れない』と思った。いつになく心が軽かったのを覚えている」


 〈守護戦士〉は最前線のど真ん中で、敵の攻撃を跳ね返すクラスだ。味方の命を背負っているという意味では、レオンも同じことをしてきたのだろう。ジンに守られていると、確かに心は軽くなる。しかし逆に、守られているばかりでは強くなれないのではないか?という疑念も浮かんでくるようになるのだ。

 レオンは、理想的な〈守護戦士〉の有り様を見て感動したのかもしれない。しかし、レオンの仲間たちにとっては、彼もまた、理想的な〈守護戦士〉に違いなかった。


シュウト:

(ジンさんは……、理想的っていうか、困った人なんだけど(苦笑))

 

 あらゆる意味で振り切れてしまっている、というべきか。

 僕の方は、モルヅァートの話をしておいた。知性あるレイドボスとの出会い、葛藤、戦闘の日々と、その別れまで。レオンは静かに耳を傾けていた。


 考えてみると、レオンが〈スイス衛兵隊〉の誰かと積極的に語らっている姿なんかは見たことがない。会議やら訓練には顔を出すし、口も出すけど、普段は淡々とレイドをこなしている風にみえる。ローマでやらかしたばかりだから、まだまだ自重しているのだろう。


レオン:

「きっとジンは、君が来るのを待っているのだろう」

シュウト:

「ええ」

レオン:

「私もだ。再び、君と戦える日を楽しみにしている」

シュウト:

「それは……、勘弁して欲しいかなって(笑)」

レオン:

「どうした、自信がないのか?」←笑顔で挑発

シュウト:

「なに立ちはだかろうとしてるんですか!? ダメですよ!」

レオン:

「フハハハハ!」

シュウト:

「ジンさんは『今、この瞬間』が『一番弱い』んですよ。順番に倒すだとか、そんな悠長なことやってられる訳ないじゃないですか!」

レオン:

「ああ、成長し続ける相手と戦うなら、現時点が一番弱いということだな。なるほど。……だが、待っているぞ?」キリッ

シュウト:

「だから、やめてくださいってば!」


 そんなこんなで、レオンと少し仲良くなれた気がした。

 しかし、どう考えても兄的ポジションの人だった。勝てないイメージが先行するのは避けたいのだが、どうしたものか?と思ってしまう。兄貴分が相手だと、マーダーセンスが鈍るというか、なんというか。厄介な人だ、本当に、厄介な人だ。







シュウト:

「おはようございます」

ジン:

「おう」


 起きてきたジンに挨拶しておく。サンクロフトのところに行って、どうだったのかを訊きたいと思っていたのだ。


シュウト:

「剣の話とかって、どうだったんですか?」

ジン:

「あー、収穫がないのが収穫、かな? 『神位アダマント』とかいう特殊な金属らしくてな。なんでもアダマンタイト系列の最上位の合金?だとか」

シュウト:

「凄そうですけど、収穫がなかったんですか?」

ジン:

「分かったのは名前だけだ。製法も加工方法もとっくに失われてて、分からんらしい」

シュウト:

「それって、いろんな人に聞いてみるしかなさそうですね……」


 作られたのはアルヴの時代だろう。サンクロフト以外でアルヴ時代の知識のある相手って誰だろう? 〈竜翼人〉に質問してみるしかないか。それでダメならエルフの長老みたいな人を探すとか。


ヴィオラート:

「ジンさま~~」てってってって


 ニコニコのヴィオラート様が、こっちに向かって走ってくる。


ヴィオラート:

「おはようございますっ」ウフフフフ


 そのままジンの腕に絡みつき、大きな乳房を押しつけていた。


ジン:

「おう、おはようさん。…………取り巻きはどうした?」

ヴィオラート:

「さぁ? お休みの日ではないでしょうか?」ウフフフフ

シュウト:

「お休み、ですか?」

ジン:

「しまっ、そういうことか」

シュウト:

「……あっ」


 ロッセラの乳房を嬲り倒した影響で、お供の人がジンを敬遠したのだろう。……というか、ヴィオラート様はそこまで計算して放置してたってことだろう。ジンのミスでさらに逆転してしまった。まさに一進一退の攻防だった。


ヴィオラート:

「ああっ、癒されます、とても癒されます!」すりすり

ジン:

「おいおい(苦笑) 美少女が、危ない言動をするんじゃありません!」

ヴィオラート:

「ではジン様が、この満たされない心を慰めていただけるのですか?」

ジン:

「……バカだなぁ、慰めるなら心よりも体だろ?」

ヴィオラート:

「あぁん! それはなんという! よ、よろこんで……!」


ロッセラ:

「よろこんで、じゃないから。はい、離れて離れて」

ヴィオラート:

「ロ、ロッセラ!? どうしてここに!?」


 いつの間にかロッセラが現れ、ジンとヴィオラート様を引き剥がしていた。


ロッセラ:

「見過ごす訳にはいきませんから」

ジン:

「へぇ、気合い入ってんね」

ロッセラ:

「当然よ」


 照れる顔を見せないように、ジンに背を向けるロッセラ。ジンはかまわず後ろから抱きしめた。


ジン:

「なぁ、このあいだの続きが気になってたのか?」

ロッセラ:

「バカ。……でも、少しなら」

ヴィオラート:

「ロッセラ! 朝食の支度があるんでしょ、さぁ、戻りますよ!?」


 体を張ったロッセラのファインプレーで、ヴィオラート様の撃退に成功した。


ジン:

「助かった」

ロッセラ:

「……うん」

ヴィオラート:

「何してるんですか、行きますよ!」


 残心のような何かを残し、立ち去るロッセラだった。







アシュリー:

「やられた!?」


 〈スイス衛兵隊〉にまた被害者が出てしまった。2班に分かれての緊急対応が必要になる。ひとつは、被害者になったプレイヤーが吸血鬼として暴れる前に捕縛すること。もうひとつは、攻撃してきた吸血鬼を捕縛すること。


「〈パラライジング・ブロウ〉!」

「〈アストラル・バインド〉」


 より対応が難しいのは、攻撃してきた吸血鬼への対処だ。素早くステータスを確認すると、やはり〈大地人〉。HP量が足りないので、落ち着いて対処しないと簡単に殺してしまう。間抜けにも不意打ちされた〈スイス衛兵隊〉のプレイヤーなら、雑に扱ってもそうそう死ぬことはない。

 ボクは吸血鬼への対処に回った。召喚生物を盾に使うためだ。障壁を掛けた盾役と召喚生物で取り囲み、押しつぶす。死なないように取り押さえ、捕縛するのだ。


「状況、終了!」

「お疲れ~!」


 慣れきったもので、一瞬で済ませてしまう。こうした対処は日常茶飯事になっていた。


「ついに9人目か」

「そろそろ限界かもしれん」


 〈スイス衛兵隊〉の第2レギオン部隊の被害者は9人目。それでもまだ80人以上は残している。ただし、戦力の均衡が崩れるのは時間の問題だった。どこかしらで対処の限界を越えてしまうのだろう。


 現在のような長期間の防衛戦ではしっかりとした休息が不可欠。3班に別れて、常時2班体制で大地人都市〈ブクレシュティ〉を防衛しているものの、疲労の色は濃い。また1人やられたので、3班とも29名に調整することになるだろう。


 最初は何も起こらなかったのだが、年を越したぐらいから、段々と被害が増えていった。噂話ぐらいに思っていた住人たちも、今では恐怖におびえている。しかし、生きていくためには家の中に引きこもっている訳にもいかない。そもそも逃げる場所なんかないのだ。外はモンスターの蔓延る世界だ。


「さすがに、そろそろ援軍が欲しいが」

「セブンヒルから回してもらうにしても、練度が問題だしなー」

アシュリー:

「ウチのギルドなら大丈夫だと思うんだけど?」

「レオンのとこの〈ヴァンデミエール〉か、……アリだな」

「そういえば、あっちの進行状況は?」

「第一次目標のダンジョン『塔』に到達。昨晩、第七フロアまで踏破。残り5フロアとレイドボス。本日の昼過ぎにレイドボスと遭遇予定」

「…………」

「…………」

「……どうなってんだろうな、あっち」

「くっそー、羨ましい!」


 レギオンレイド用の小規模ダンジョンとは言っても、尋常じゃないスピードで攻略していく第1レギオン部隊。レベルアップも相まって、ここに来てさらに加速していた。昨日の段階だと絶望的に強いレイドボスに苦戦していたハズだ。5分ぐらいで撤退に追い込まれて、どうして、もう倒しきっているのやら? 2~3日は撤退を繰り返してもおかしくなかったはずだ。


「これなら夕方には結果がでちゃうね」

「いや、明日の昼までは掛かるだろ」

「どっちにしても、その程度ってことか」

「なんとかなりそうだな。こっちだけで保たせよう」

「それがいい」

「しかし、さすが、ヴィルヘルム隊長だな」

「いや、今回のはアクアさんがいるからだろ?」

「それを言うんだったら、アイツだろ」

「『神殺し』か……」

「とんでも無い化け物だからな」

アシュリー:

「レオンもいるんだけどなー!」


 ワールドワイド・レギオンレイドのため、攻略班と念話が通じる。そのせいか、伝言と又聞きで『神殺しのジン』の噂はなんだか訳の分からないことになっていた。正直、半分ぐらい嘘だろうと思っている。第2レギオン部隊の面々も半信半疑なのだ。4万点越えのダメージを連射しているとか、レイドボスの攻撃も回避しまくりで、1人で戦って1億のダメージ与えたとか、竜亜人とかいう古来種に種族変更しているとか、空飛ぶシールド技で味方を守ってるとか! ……もう人間ではあり得ないような話ばっかりだ。


「聞いたか? アイツを怒らせると、レイドボスも行動不能にするとか」

「聞いた! 10人ぐらいに念話したけど、やっぱりみんな本当だって言ってた!」

「らしいな。残り30%のとこからノーダメで削り倒して勝ったって聞いたぞ」

「ありえねー、本気で、ありえねー」

「向こうはもう楽勝ムードだよ。もうちょっとだから頑張れ!とか、逆に励まされてばっかり」

「そうなんだよね(苦笑)」

アシュリー:

「大丈夫かなー、レオン……」


 第一次目標の塔を突破したら、吸血鬼騒ぎは収まる可能性が高いと言われている。それが終わったら、レオンに念話してみようかな。

 油断のならない警邏巡回。攻略班の楽勝ムードが伝染したものか、みんないつもより少し明るくなっていた。それも『神殺し』のもたらした加護なのかもしれない。


 本日の〈ブクレシュティ〉は不気味な曇り空。このまま何もなければいいのだけれど……。いや、変なフラグを立てるのは止めておこう。うん、それがいい。

 


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