表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
245/260

239  ケイオス・ロード

 

ジン:

「何やってんだ、お前?」

マリー:

「ん?」


 マリーを探して、サンクロフトのところへ転移。ジンの予想通り、尋ね人を発見していた。室内はゴチャゴチャと散らかっていた。サンクロフトの所にマリーが来ていた理由や目的を考えると、徹夜だろうことは明白だった。


マリー:

「おおう。……なぜここに?」

ヴィオラート:

「マリー、もう朝食の時間よ?」

マリー:

「もうそんな時間……?」


 ずっと満月なので、朝だから明るくなったりはしない。時計でも持ってなければ分からないといえば、分からないのだろう。一応、それでもツッコミを入れると、マリーが時計もってなきゃ、誰が持ってるんだって話ではある。目覚まし時計だってたぶん作れただろう。

 これではレイドに連れて行っても、マリーの活躍は期待できない。途中で寝ちゃうんじゃなかろうか(苦笑)


ジン:

「何をやっていたか説明して貰おうか」

マリー:

「研究……?」

ジン:

「ここでやってるってことは共同研究ってことだよな」

シュウト:

「でも、サンクロフトさんをどうやって説得したんですか?」

マリー:

「説得? …………誘っただけ。説得、してない。必要だった?」

サンクロフト:

「!?」


 こちらの話に入ってこないようにしているサンクロフトが、それらの言葉に意外なほど反応を示していた。


ジン:

「なるほどな。……共同研究の誘いに、飛びついた訳だ?」じー

サンクロフト:

「あ、新しい刺激が……、その、300年以上も1人だったわけで、仕方がない側面もあるのではないかと……」


 ジンの冷たい視線にあてられ、完全にしどろもどろになっているサンクロフト。迫力が段違いなので、仕方がないと思う(苦笑)


ヴィオラート:

「ジン様、何か問題ですか? むしろ有意義かも知れないと、わたくしは思うのですが?」

シュウト:

「ですよね」


 正直、僕も同じで、ジンが何を心配しているのか良く分からなかった。


ジン:

「へぇー、ほー、ふぅ~ん。……本当に何もしていない、と?」

マリー:

「有意義な研究はした。むしろたくさんの発見があった」ドヤッ

サンクロフト:

「マリー博士は、本当に素晴らしい研究者です。短い時間でしたが、尊敬の念を抱いております」

ジン:

「じゃあ、一切『むこうの世界の話』はしなかったんだな?」

マリー:

「いや、えっと、それ、は……」キョド

ジン:

「科学体系が違うのに、それ系統の話はなーんもしなかった、と?」

マリー:

「よ、良い共同研究では、互いの知識を素直に開示することが大事!」

ジン:

「やっぱ喋ってんじゃねーか、このヤロウ!」ズビシ

マリー:

「ノォォオオオ!? 油断! 久しぶりで油断したァァァああああ!!?」


 ジンのデコピンがものの見事に炸裂した。マリーは翻筋斗(もんどり)打ってひっくり返ると、身悶えし始めた。息も絶え絶え、救いを求めるように手を伸ばす。その腕は小刻みに震えていた(笑)


マリー:

「……って、あれ? あんまり痛くない?」

ジン:

「今回、『痛覚緩和キャンセラー』は無しにしておいた。……言っておくが、次はないぞ」ゴゴゴゴゴゴ

マリー:

「(コクコクコクコクコク)」


 恭順の意を示すマリーは、もうほとんど壊れた人形みたいだった。


ジン:

「……で?」ギロリ

サンクロフト:

「いえ、確かに色々と察して余りあるのですが(苦笑) それはそれで仕方がないものではないかと!」

ジン:

「あっ、そう。じゃあ、お互い『ここを出るまで』は、共同戦線ってことでいいんだな?」

サンクロフト:

「こちらは一応、管理者ですので、外に出るかどうかは……」

ジン:

「いいんだな?」どどん

サンクロフト:

「もちろんです」


 強引にねじ伏せたー。問題を先送りしただけかもしれないけど、今はこっちに構っている暇はないので、これがベストな選択だと思う。


ジン:

「よーし、話はまとまったな。有意義な共同研究とやらは、当然、続けて構わないぞ?」にっこり

マリー:

「いいの?」

サンクロフト:

「それは、……どういう?」

ヴィオラート:

「続けて構わない、というのは、『続けろ』という強制的な意味合いを多分に含んだ言い回しです」にっこり


 ヴィオラート様、はっきり言っちゃった!

 ジンは戦闘回避を諦めたようだ。現段階からどう含みを持たせたところで、確かに手遅れではある。ここのレイドゾーンを出た後、サンクロフトが敵になるなら『その時に叩き潰せばいい』と方針を変更したことになる。それなら今の内に手の内を暴く方がいいに違いない。


ジン:

「この際だ、よく勉強させてもらうといい」

マリー:

「わかった」コクコクコク


 この共同研究の成否が、今後の技術レベルに大きな影響を及ぼすだろうことは、想像に難くない。新たな技術革新すらありうる。

 

ジン:

「ところで質問しときたいことがあるんだが、ちょっといいか?」

サンクロフト:

「私に答えられることでしたら、なんなりと」

ジン:

「レイドボス……、えっと、ダンジョンの守護者のことじゃない。ここに封じられた吸血鬼のことなんだが。共感子を使った攻撃ってのがあると思うんだが、どんなものだか知っているか?」

サンクロフト:

「残念ながら、分かりかねます。防ぐことの難しい、かなり強力なものの様ですが、噂レベルでしか知りません。基本的に資料は外部に保管されていました。成り行きで管理者に登録されましたが、そうした資料にアクセスする手段もありません。……もしかしたら、既に失われているのかも。

 吸血鬼の起源が封印されたのは、私がここに閉じこめられた時点で、数十年昔のことだったのです」

ジン:

「……じゃあ、カインの野郎のことはどうだ? 同じような攻撃が使えるのか?」

サンクロフト:

「カイン……? ああ、公爵を名乗る吸血鬼のことですね。彼はもともと起源(オリジン)の研究者で、最初の犠牲者の1人なのです」

シュウト:

「えっ?」

ジン:

「……つまり、事故った原因でもあるわけか」

サンクロフト:

「そうなります。最初期に生み出された吸血種、『第一世代』の生き残りです。第一世代は、起源(オリジン)から共感因子を植え付けられて生み出された、最強の従者たちです。規模はともかく、起源(オリジン)と同種類の攻撃をしてくる可能性は十分にあるでしょう」

シュウト:

「そっ、か。起源(オリジン)はカインよりも強いんだ……」


 カインは力尽くでねじ伏せることができたとしても、起源(オリジン)はカインと同種の更に上のレベルの攻撃を仕掛けてくる。対策を講じなければ、結局は太刀打ち出来ないってことだろう。


ジン:

「ま、カインの野郎に勝てなきゃ、起源(オリジン)もへったくれもないんだけどなー」

ヴィオラート:

「いいえ。どんな困難も、ひとつひとつ越えていくだけです。なんとかなります! だって、私たちにはジン様がいるんですもの!」

ジン:

「よーし、いい子だ。そうだぞ、よく分かってるじゃないか」ナデナデ

ヴィオラート:

「えへへ、エヘヘヘヘ(嬉)」


 ジンに撫でられてゴキゲンのヴィオラート様だった。たぶん撫でられたり、褒められたくて一緒にいるのだろう。そうしてみると、でっかい愛玩動物みたいなものかもしれない。とはいえ、ここまで美形のワンワンは滅多にいるものじゃないけど。ちょっとしつこいぐらいに撫でられているのに、逆にそれが嬉しそうだ。

 ヴィオラート様の言うとおり、ジンが一緒にいるというのは、絶対的な希望だ。希望という言葉のイメージほど『細い可能性』なんかじゃない。しっかりとした太い可能性、頼みの綱だった。早いか遅いかの違いだけで、確実に勝利して終わると保証されているようなものだ。このことの精神安定効果は比類なく大きい。


 マリーを連れてキャンプに戻り、朝食。その後、朝練をこなし、レイドボス戦の連携を最後に確認し、僕たちは準備を終えた。







 〈パテル大墳墓〉に戻ってきた。対策を練ってきたとはいえ、最初の数分戦っただけで、その先の変化に対応できるかは分からない。緻密な連携だけではなく、個々人の能力が要求される高いハードル。濁った雰囲気が緊張感を高めていく。

 そういう雰囲気とは関係ない一言で目が覚まされた。


ユフィリア:

「シュウトって、もしかして、背、伸びた?」

ニキータ:

「私もそれ 気になってた」

シュウト:

「ほ、ホント?」きらきら


 気のサポートで背が伸びただのの話題、まさかユフィリアたちに拾われるとは思っていなかった。なぜだろう、なぜだが、背が伸びたって分かってもらいたい欲求が強まっていた。


ジン:

「だから言ったろ? 自分の身長付近のヤツの方が、そういうのって敏感なんだよ」

シュウト:

「いえ、言われてませんけど」

ジン:

「あれ、そうだっけ?」


 「知らん。他のヤツに聞け」で終わりだったと思う。そっけなくされただけかと思ったけど、意味を含ませてあったということか。ニュアンスで読みとれとか言われても、不可能だけど。


ユフィリア:

「うん。目線がちょっと高くなったかなーって」

ニキータ:

「ね」

シュウト:

「それって、2センチぐらい高くなってる? ないかな?」←必死

ニキータ:

「うーん、2センチ……?」

ユフィリア:

「わかんない」ふるふる


 残念ながら微妙な違いまでは分からないらしい。それもそうか。

 でもでも、何も言わなくても確実に背が高くなったと感じるってことなのだから、1センチ以上は堅いような気がする。だって、1センチ程度の誤差で背が高くなったとか気付くとは思えない。1.5センチかもしれないけれど、2センチの可能性だってそれなりにあるのではないだろうか。


タクト:

「1センチでも2センチでも変わらないだろ。ちょっと必死すぎないか?」←178センチ

シュウト:

「うるさい、黙れ」

ジン:

「まー、男にとっちゃ1センチの差はでかいよな。上も、下も(笑)」

ユフィリア:

「下? ……靴のサイズ?」

シュウト:

「さ、さぁ、レイドボス戦、がんばっていこう!」

タクト:

「そ、そうだな、絶対に勝とう!」

葵:

『おりょりょ? こういう時だけ仲良くするなんて、ずっちーなぁ?』によによ

ユフィリア:

「ねぇ、下ってなぁに?」

ケイトリン:

「もちろん、ズボンの()下の長さだよな?」ニヤニヤニヤ

ジン:

「ぶぁっハッハー!(涙)」


 余計なツッコミ等はご勘弁願いたいのであります。 

 そんなこんなで、第13層、レイドボスのフロア前までやってきた。


ジン:

「さてと。俺はダメージより優先すべきことがある。しばらくはお前らに任せたからな」

シュウト:

「えっ? あっ、はい!」

葵:

『ダメージより優先すべきことってなんだ?』

ジン:

「ビビってたら勝てないからな。じゃあどうするかっつーと、馴染ませる(、、、、、)んだよ」


 唐突な宣言に面食らう。予定していた連携がどう変わるのか頭を巡らせるが、ジンのやりたいことが分からないのでは対策も立てられない。


レイシン:

「出たとこ勝負なのはいつものことだしね」はっはっは

ウヅキ:

「ああ。『波』を捉えりゃいいんだろ?」


 大雑把な指示でも上手いことやればいいだけ。つまり、いつも通り。


 準備完了の合図を受け、ボスフロアに進入。混沌から、その主が姿を現す。なんでもないように突っかかったジンがタウンティングを決めて、戦闘開始。


ジン:

「よいしょー!」


 振り下ろされる『死神の剣』をギリギリで避けていく。地面に半ばめり込んだそれに近寄ると、軽く剣で叩いていた。どんな音がするかと思ったが、殆ど鳴らなかった。実はゴムのような材質なの?と僅かに混乱する。


シュウト:

「あれが馴染ませるってこと?」

ニキータ:

「たぶん。色とか形だけじゃなくて、金属の匂いだとか、硬さ、叩いた時の音もそうだし、触ったときの感触とか温度みたいなものとか。そういうたことをひとつひとつ細胞に理解させて、馴染ませる作業のことだと思う」


 それは未知を既知へと変えていく作業だった。

 圧倒的な恐怖を乗り越えることの難しさを想うと、最初から諦めたくなってしまうものだろう。ああしているジンも、戦闘中に恐怖を乗り越えることはできないかもしれない。それでも未知を既知に変えることはできる。……まるで古い友人であるかの様に、そば近くに侍らせ、慣れ親しんでゆくのだ。


石丸:

「10秒前っス!」

葵:

『レッド・デッドがくるぞ~』

英命:

「〈禊ぎの障壁〉!」


 ターゲットのジンを護るべく、英命先生がダメージ遮断障壁を展開。通常攻撃が終わった後の、完璧なタイミングで投射された。

 〈レッド・デッド・スラッシュ〉は現在のところ回避不能の必殺攻撃。防いだつもりでも、2段攻撃のようになって、ダメージを受けてしまう。

 この時、ダメージ遮断障壁はジンを護り切ることを目的にしない。

 もしも護り切れてしまった場合、障壁の耐久値は残り僅かなものになってしまう。次の通常攻撃の際、対障壁突破能力でもってダメージアップした攻撃を受けることになると、大きなマイナスが生じてしまうのだ。



 ――〈レッド・デッド・スラッシュ〉



 防御不能攻撃だが、障壁は自動的に反応してダメージをカット。ジンも強制停止させられる。1秒に満たない時間で〈禊ぎの障壁〉が破壊され、斬撃がジンに襲いかかった。すべて予定通り。


ジン:

「エナジーシールド!」


 英命による献策がこれだった。〈禊ぎの障壁〉とエナジーシールドの組み合わせ。エナジーシールドは圧縮生命力を防御に使う口伝技だが、ジン本人が失敗作だと思って放置していたものだ。障壁によって攻撃方向を確定させ、エナジーシールドを『使えるように』していた。

 むき出しの生命力がレッド・デッド・スラッシュによって削り取られる。しかし――。


スタナ:

「ダメージは、受けてる」

ネイサン:

「けど、青ゲージはちょっぴりだよ!」


 赤ゲージの端に、最小幅と思われる青色の縦線が引っ付いていた。それも数秒と持たずに消える。同時にリアクティブ・ヒールの輝きが弾け、超再生が僅かに減ったHPを元に戻した。


レオン:

「エイメイか!」


 「エイメイがやった」「エイメイが凄い!」と賞賛の声が続いた。ジンの青ゲージがなければ、レオンとの交代回数を大きく減らすことが可能だ。連携をやめられる程ではないが、リソース面の改善効果や自由度はまるで違ってくる。レイドボス側がこまめにヘイトリセットしてくれなければ、タンクを交代する戦術はとても手間が掛かるものなのだ。

 この時点ではっきりとした勝利の予感を得ていた。もう勝ったと言ってしまっても良いはず。


葵:

『秀で過ぎる能力を抑え込むかのように、か。……本気だせないのも納得だぁね(苦笑)』

英命:

「…………今は、違いますから」


 あるいは、本気を出せる場所を探して彷徨(さまよ)っていたのかも知れず。寂しげな微笑みを打ち消すかのように、不適に笑う先生だった。


ユフィリア:

「もう大丈夫」うん


 ユフィリアが何を大丈夫と言って頷いたのか。それはかなり後まで分からなかった。この時を境に、彼への言いしれぬ不安は消えていた。


 〈ショック・ウェーブ〉は第1パーティーを残して退避させる。ジンのウロコ盾で第1パーティーは防御。すぐに回収して、再使用規制のタイマーをスタートさせる。〈竜鱗の庇護〉(ドラゴンスケイル)は1/3消耗でジンの体に戻しても、再使用規制は1枚90秒のままだ。計2枚分しか使っていないでもったいないが、すぐに引っ込めないと次のショック・ウェーブに間に合わなくなる。


 リープエッジのような回避不能技が通常攻撃にもあるため、少しずつ青ゲージが蓄積していく。これはリディアの〈フォースステップ〉で緩和する。もしタイミングが読めれば、〈ミラー・ミラージュ〉で逸らしてしまう手も使えるだろう。……ちょっと難しそうだけど。

 2回目の〈レッド・デッド・スラッシュ〉も無難にやり過ごし、いよいよ安定してきたと確認できた。しかし、最強のアタッカーでもあるジンが攻撃参加していないため、なかなかケイオス・ロードのHPが減っていかない。ジンは必殺攻撃の合間をみて、馴らし作業を続けている。……こうしてみるとDPSを高めるのが目下の優先課題かもしれない。



シュウト:

(弦が、……軽いな)


 龍奏弓で攻撃しているのだが、さっきから矢をつがえる動作が楽々とこなせていた。それは『まるで念動力のよう』でもあり……。こうして体感してしまうと、ジンが言っていたことを否定できなくなってきた。


 しかし、決して念動力ではないのだと思う。

 ジンも最初から(、、、、)言ってたように、念動力っぽい『だけ』というか(笑) これはけっして往生際が悪いのではなく、言ってしまうのであれば、気力剣を使えるようになった影響なんだから、むしろ『気の力』で筋力上昇!とかの方が的確だろうと思うのである(敗残兵)


シュウト:

(なんだけど……)


 全身の筋力をまんべんなく使えるようになっている、というか。気のサポートを受けている影響だろうけど、筋肉を使う場合の『偏り』を感じ取り易くなっているようだ。弓を構えて、弦を引くと、右腕だけで引っ張ろうとしてしまう傾向がある。僕自身、弓道経験者でもないし、〈冒険者〉の筋力ならそれでも十分にイケてしまうというか。

 右腕、左腕のバランスもあるし、体幹部だと大胸筋(ぐらいしか名前がわからない)と背筋(僧帽筋とか広背筋とか)をひっくるめたバランスも取った方がいいような気がする。気のサポートを得て、全身の筋力をバランスよく使えるようになった、と思う。それは筋力を合わせること、たぶん合力(ごうりき)的な概念ではなかろうか。……射法・合力。



シュウト:

「……!」


 戦闘曲のハミング。アクアの『スウィング』だ。〈冒険者〉の体に眠る戦闘経験が、バックボーンとして屹立する。ハイ・ヌーンのカウンター・スタンス発動に合わせて奥の手を発動したらしい。

 ハイ・ヌーンではジンが攻撃参加した。マグニフィセント・セブンのターゲットになるべく、最大ダメージを狙う。カウンター・スタンスのシフトに合わせて攻撃の主軸を切り替えていくのだが、スウィングの作用も相まって、これはほぼ完璧にこなすことができた。



 ――マグニフィセント・セブン


ジン:

「ぐっ!」

葵:

『損害確認!』

ラトリ:

「死者なし、これも成功!」

葵:

『よっしゃ! 青ゲージの消去を優先して!』


 マグニフィセント・セブンの封殺にも成功。これでパターン変更までのルートが確保されたことになる。注意は必要だが、丁寧に連携を確認していけばいい。問題はレイドボスの膨大なHP量だ。ジンの攻撃参加が必要だった。それも、もうしばらくは待つ必要がありそうだった。


 戦闘開始から20分が経過する頃、ジンがリープエッジを躱し始めた。30分が経過すると、ほぼ当たらなくなっていた。


ジン:

「よし、待たせたな」


 ようやくジンが攻撃に参加。

 時たま武器を片手ハンマーに持ち替えて、ブーストした〈アーマークラッシュ〉を当てていく。黒翼剣ではアーマーブレイクが使えないので、結局はハンマーを使うことにしたらしい。たぶんこれも英命先生の献策だろう。

 

 

 そして事件はケイオス・ロードのHP残り30%到達の際に起こった。


ジン:

「嘘だろ!?」


 ケイオス・ロードのパターン変化、否、必殺攻撃の追加だった。魔力を漲らせたと思ったら、なんと口からビームを吹き出してきた。まるでドラゴンブレスのようで、ジンが驚きの声を上げていた。技の名前はレッド・サン。


ユフィリア:

「〈アイス・リフレクター〉!」


 予見したのか、無詠唱だから極めて短時間の内に対処できたのか、ともかく、ユフィリアが魔法反射させ、レッド・サンをケイオス・ロードに突き返してしまっていた。


ユフィリア:

「やったね!」

ジン:

「やるじゃないか。えらいぞ」

ユフィリア:

「ほめられると、伸びる子なんだよ?」うふふふ

ジン:

「あとでたっぷり褒めてやるから、離れてろよ?」

ユフィリア:

「うん!」


タクト:

「……マジかよ(苦笑)」

シュウト:

「さすが秘密兵器(苦笑)」


 まさかレイドボスの必殺攻撃まで反射させるなんて、と思っていた、その時だった。


ジン:

「なんっ!?」


 ケイオス・ロードが混沌をゲートのように利用して転移。ユフィリアを直接狙ってきた。振り下ろされる死神の剣。


ジン:

「成敗!」


 成敗剣を発動させ、強制割り込みを掛けるジン。ケイオス・ロードの顔の高さに現れ、叩きつけていた。左目が潰れるも、レイドボスは止まらなかった。更に強制割り込みでウロコ盾を飛ばした。滑り込んだように見えたが、ユフィリアはそのまま両断された。


ニキータ:

「うそ……」


 まるで木でできた人形、洋服売場にあるような、なんて名前だったか、そんなのみたいだった。胴を斜めに切り離されたユフィリア。崩れ落ちてコミカルな『ぽん』という音と共に、煙を出していた。よいことなのか、悪いことなのか、跡形も残らなかった。


シュウト:

(強制的にロストさせられた……? なんだ、どうなって……?)


 また死神の剣の能力だろうか。そうして混乱していると、消えたユフィリアの上の辺りの空中に、唐突に扉が現れて、パカッと開いた。



ユフィリア:

「さぷらーいずっ♪」パンパカパーン



 ……ユフィリア再登場。2mぐらいの高さを飛び降りてきた。


葵:

『マジか、妖精女王の能力!?』

ニキータ:

「ユフィ!」

ユフィリア:

「だいじょう、ブイ!」ビクトリーV


 いやいやいやいや。ありえないでしょ、なんだその能力!?

 ……とかお約束的なお笑い展開だと思っていました。でも、この時は、そんな甘い話では済まされなかった。約1名が激烈に『おこ』でした。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴガガガガガガガガガガガギギギギギギギギギギ


リコ:

「ちょっ!?(涙)」

リディア:

「また? もぅ、やめてよぅ(涙)」

シュウト:

「ジン、さん……?」

葵:

『あー、オワタ。このエピソード、オワタ(笑)』

ユフィリア:

「ジンさーん? 私だよ? だいじょうぶ。ほら、無事。ね?」


ジン:

「俺が、無事じゃねーんだよ!」




 恐怖の鎧(ドラゴンストリーム)



 なんか、今、もの凄いものが見えた気がした。全身から発するドラゴンストリームがまるで鎧のようだ。

 ユフィリアがシリアスを破壊したと思ったら、ジンがさらにひっくり返した。禍々しき黄金竜のオーラが立ち上がる。その瞳は光り輝き、怒号を放っているかの様だった。竜魂呪の『呪われた雷』が吹き出す。それはまるで体の中から追い出されたみたいに見えた。生命の危機、人生のクライマックみたいな、どうにもならない状況を、ただ見ているしかなかった。


 どうでもいい理由でモルヅァートに怒って、殺しに行った時とは比べものにならなかった。触らぬ神に祟りなし。誰も止めることなんて、できやしない。人類の最強、その理由が、圧倒的な嵐を、雷を、伴って逆巻いている。ケイオス・ロードの死はここで確定した。



葵:

『あっ、ちょっ!? 嘘だろ? 見たい! この続き、見……』ぽしゅ


 竜眼の水晶球から見ていて、絶対に外部から干渉できないはずの葵が吹き飛ばされた。意識には干渉不能さえも関係がない。


 驚愕か恐怖か、顔色を変えたケイオス・ロードがジンに死神の剣を振り下ろした。ジンは造作もなく弾き返したが、そのままカインの黒翼剣は粉々になって消えた。さらに追撃を繰り出すケイオス・ロード。しかし、空中で巨大な剣は停止する。呪われた雷(カースドライトニング)が剣に巻き付いて動きを封じていた。雷で作られた巨大な腕が、剣を掴んで放さない。

 ちらりと死神の剣を見上げる、ジン。


ジン:

「おい、いつまでそいつに使われてんだ。そろそろこっちに来いよ」


 ほぼ同時に、ケイオス・ロードが剣を手放していた。持っていられなかった風で、まるで剣に拒絶されたみたいに見えた。


英命:

「そうか。本当に借り物の武器だったのかもしれません。彼が所有権を主張したことで、システム的な疑義が発生したと考えられます」

タクト:

「いや、でも、そんなことって……」


 全ては偶然の結果に過ぎない。けれど、傲岸不遜な物言いが、時たまプラスに働くことだって、きっとあるのだ。時には、欲しいものを欲しいと叫ぶ必要があるのだと思う。

 もしかすると、あの馴染ませている時間に、意識の交流のようなものがあったのかもしれない。ジンとの関係性が高まっていって、それであのセリフにつながった、とか。



ジン:

「レオン!」


 名を呼ばれるや、武器をかなぐり捨て、文字通りにレオンはその強烈無比の脚力でもって飛んでいった。そして巨大な剣に抱きつくようにつかみ取る。


レオン:

「ウオオオオオオオ!!!」


 ジンとレオン、二人掛かりで死神の剣を振り回そうとしていた。全長10m近く、重量は軽く200キロはありそうだったが、そんなことはどうでもいい話だろう。


ジン:

「レイ!」


 ここしかないという最高のタイミングと角度で、レイシンの〈ワイバーン・キック〉が巨大な剣に命中し、斬りに行く速度を加速させた。最高の相棒、至高のコンビネーション。あまりにも格好良かった。何度も思っているけれど、僕もああいう風になりたい。


 レオンが押し切りの動作を、ジンが素早く引き切りの動作に転じていく。いつの間にか参加していたニキータも、この一連の運動に貢献していた。

 かなりの速度で振り回された死神の剣は、ケイオスロードの左腕の肘より少し上の部分に直撃した。骨(と思われる部分)に食い込んで停止する。


ジン:

「ヴィルヘルム!」


 腕を高々と掲げたヴィルヘルムは、少しのタメの後、それを振り下ろした。


ヴィルヘルム:

「討て!」


 討滅の合図を受け、魔法や弓矢が次々と炸裂していく。僕も攻撃に参加した。葵がもどってきたのは、ちょうどこのタイミングだった。


葵:

『ちょっ、これ、どうなってる!? どうなったん?』


 ケイオス・ロードは抵抗する意思も、能力も失っていた。事実上の戦闘不能状態だったと思う。こちらの攻撃は全て命中し、最低でも3倍の威力になっていた。右腕に持つべき剣はなく、左腕はその剣が刺さって動かせないでいる。左目の潰れたケイオス・ロードは、うつむいたような格好で、ただその時を待っていた。ジンは攻撃には参加せず、『くたばれ!』とばかりにただ睨み続けていた。この一方的な虐殺行為が終わるまで、そう長くは掛からなかった。



 戦いは、終わった。

 ジンの逆鱗に触れた。それが全てだった。ヘイトを無視してユフィリアを狙ったこと。そうしたほんの少しのゲスさは戦闘中であれば仕方ないものだと思う。だが、だからこそ、その自我らしきものの存在がドラゴンストリームという『最悪の災厄』を招いてしまった。ジンからすれば粉砕できる自我があるならば、粉砕すればいいだけ、となる。レイド×4のレイドボスだろうと、身体意識が破壊されればどうにもならない。根本的な戦闘性能を封殺されて死ぬしかなかった。


ジン:

「ユフィ!」

ユフィリア:

「うんっ!」


 死神の剣がケイオス・ロードと一緒に消えてなくならないように、押さえ込みにかかった。ニキータが、そして英命先生もまた素早く並んでいた。


英命:

「微力ですが、我々の共感因子もあった方が良いでしょう」

ネイサン:

「どうすればいいか分からないけど、手伝うよ!」

葵:

『手、繋いでみよっか(苦笑) なんもしないよかマシかなって程度だけど』


 しゃがんで両手で刀身に触れつつ、隣の人と触れ合わせるようにする。

 短い時間だったけれど、ぐるっと一周するだけの人が集まってくれた。最後の方は両手を可能な限り広げて、その間に人が入ってを繰り返した形だ。

 やがて虹色の光が膨れ上がってきた。死神の剣が溶けて消えようとしていた。


ジン:

「押さえ込め!」

ユフィリア:

「んーっ!」


シュウト:

(僕に出来ることって、やっぱり呼吸法かな……?)


 なんとなく力を込めてみる。さわっている部分から光が溢れてきていた。皮膚呼吸でマナを圧縮する感覚だろうか。しかし、圧縮すべきものは体の外にある。気を通す方法は朝のロッセラ事件で習っていた。触れるだけではなく、触れられていなければならない。被接触感を高めつつ、溢れる光を体の中へ招き入れるつもりで呼吸に集中していく。


葵:

『魔力を圧縮する感じかな? ともかく、弾け飛ばないように、押さえ込んで!』

英命:

「我々の共感因子は繋がっています。全員がひとつになったつもりで!」

ユフィリア:

「んんんーっ!!」

ジン:

「おおおおおおお!!!」


 激しくなる明滅、その虹色の光の中で、一瞬、全員が繋がった気がした。それと同時に手の中で光が圧縮されるのを感じた。また、僕自身が光っているのを知覚していた。


ネイサン:

「うおわっ、たっ!?」


 唐突に触っていた金属が消え失せ、数人が一斉につんのめった。


ラトリ:

「無くなっちゃったけど、……失敗?」

アクア:

「……いいえ、成功みたいね」

リディア:

「残った! 少しだけだけど!」


 全員を代表してジンが歩み寄り、大切そうに拾い上げた。

 剣だったものの残骸だが、確かに残っている。ジンが持ち上げた際の大きさの対比から、一本分は取れそうな量だと分かる。金属片の先端は折れ曲がり、そこだけ刃が多少、残されていた。どうやら折り返しの部分が残ったらしい。見た目はボロボロの板の先端に、草むしりで使うような鎌が引っ付いているような印象だ。さすがに加工して形を整えないと、武器として使うことはできそうにない。


スターク:

「これで、世界最強の武器が作れるよ! やったね、ジン!!」

ジン:

「ん~? そんなの作れると思ってないんだけど。せいぜい、ちょっと頑丈で丈夫な剣ってぐらいだろ」

スターク:

「いまさらなに言ってんの? 作んなきゃ、最強の剣!」

ジン:

「剣は剣だぞ。多少、切れたからって誤差に過ぎねぇよ。そもそも最強の剣ってのの定義を考えたことがあるのか?」

ネイサン:

「ちょっと待って。本当に、硬くて壊れないだけの武器にするつもり?」

ジン:

「そうだけど、……何か問題か?」

葵:

『まぁ、フェイト的な聖剣・魔剣って、要するにエネルギー発射装置だったりするからなぁ(苦笑)』

ジン:

「あれの本質は水鉄砲だからな。いや、ある意味『最強の剣』は俺も欲しいんだけど」

レイシン:

「耐久力が減らないヤツでしょ?」

ジン:

「そうそう(笑) 修繕しなくていいヤツ。修繕用の素材とか手に入るかわかんないし」

葵:

『ガバガバだな!(笑)』


 なーんだ、という空気になりそうなタイミングで、英命先生が静かに語った。それだけで周囲が耳を傾ける程度には、立ち位置を確保している。


英命:

「……最優先は本当にその辺りでしょうね。そして次点で、自分のフルパワーに耐えられる武器なのでしょう」フフフ

スターク:

「そっか、そういうことなんだ? じゃあ、やっぱり最強の武器ってことだ?」

レオン:

「ジンが使うことで最強になる剣、もしくはジンが使わなければ最強にならない剣だな」

ラトリ:

「結果的に最強ってことか。それなら納得」

ジン:

「くっそ、やりにきぃ!」がー

 

 強引にケイオス・ロードを仕留めてしまったので、今日はまだまだ時間が残っている。この後、塔に向かうことになるだろう。ドロップアイテムの回収などの後片付けを急ぐことになった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ