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238  伏龍 / おっぱい講座

 

 〈ケイオス・ロード〉攻略のため、〈スイス衛兵隊〉側も上位メンバー総出演で会議が始まっていた。その中心にいるのは、葵、石丸、英命のカトレヤ知力組である。特に石丸先生の記憶力は秒単位の行動ログをもっているのに等しく、本当に強力な武器になっている。

 

ラトリ:

「……どこ行くの?」

ジン:

「俺のやる事はそんな変わんねーし、任せるわ」ぴらぴら


 数分いただけで、ジンは飽きてどっか行ってしまった(苦笑) 主役の片方がいないって、それはマズい気がする。


ミゲル:

「……流石だ」

ヴィルヘルム:

「うむ」

シュウト:

「居なくて、大丈夫なんですか?」

葵:

『まぁ、交替のタイミングはこっちで指示すりゃいいだけだし、やること変わんねーっちゃ、変わんねーんだけどね(苦笑)』

レオン:

「理屈ではなく、戦いの流れは既に掴んでいるのだろう」

シュウト:

「それはそうなんでしょうけど……」


 果たしてそういう問題なのだろうか……?


ミゲル:

「確かに我々がやるべき事は変わらない。だが、なかなかああして断言できるものじゃあない」

ヴィルヘルム:

「彼ほどの『逸脱した強さ』に至れば、自然と『逸脱した戦い方』になってもおかしくない。しかし、ジン君は『タンクの本質』からは逸脱していない、ということなのだろう」


 最高到達点の凄みに身が引き締まる。タンク役・〈守護戦士〉としての基本を押さえつつ、逸脱した強さに至っている。それらは中心軸によって各種パフォーマンスが高度に統合された結果だろう。

 やることは確かに変わらない。僕はアタッカーなのだから、細かい条件の違いはあっても、ダメージを与えて敵を殺せばいいだけだ。無駄な気負いが肩から剥がれ落ちた気さえする。


 ジンはその有り様だけで、他者をゆるませることができる。ヴィルヘルムの洞察も『名人は名人を知る』のたぐいだろう。


葵:

『メインタンクほっぽって、ソロやってた気もすっけど(笑)』

バリー:

「……ジンは怖くないのかな?」

葵:

『いや、怖いっしょ。でも余計な口出ししない方がいいと思ったのかもよ。まとめたもんは後で見せとくから、だいじょび』

レオン:

「そうだと分かっていても、この場を立つことができずにいる」

シュウト:

「わかります」


 レオンの謙虚さにしみじみと同調するしかなかった。好感度が高すぎる。謙虚なレオンは強すぎて、(今のところ)勝てる気がしない。


スタナ:

「今度の作戦、中核にあるのは青ゲージの処理ね。これは基本的にジンとレオンでタンクを交替しつつ、ゲージを回復させる方法になるでしょう」

ネイサン:

「そうしてみると、レオンに〈ミネアーの鎧〉を渡して正解だったね」

ヒルティー:

「それは詰まるところ、ジンが先を見通していた、ということか」

スタナ:

「本当にね。……彼、こうした状況を想定していたのかしら?」

葵:

『まっ、さっ、かっ』


 絶対にそんなこと考えていない。幻想級素材とかのランニング・コストのことしか頭にないと断言してもいい。


アクア:

「まったく考えていないってことは無いでしょうね」

シュウト:

「……そうなんですか?」

レオン:

「ああ。オーバーライドは無敵の力ではない。むしろ『個の限界』を突きつけられる種類のものだからな」

葵:

『ふぅ~ん』

ネイサン:

「そうなんだ?」


 ジンはソロでレイドボスに挑んだりしている。だからオーバーライドを無敵の力のように思っていた。でもレオンにとってはそうではないらしい。なかなか興味深い意見だった。そうして考えてみると、オーバーライドに到達した自分のイメージがかなり漠然としていることに気付く。未来の自分は、どういう風に、どのくらい強くなっているのだろう。果てしなく強いってどんな状態……?


アクア:

「個人の強さで突破できてしまったら、レイドの意味がないもの。デキのいいレイドって、そういうものでしょう?」

葵:

『確かにね』


 個人の強さだけでは突破できないのだから、きっと『良いレイド』ってことなのだろう。ちょっと難易度が高くて手に負えなくなって来た気がするけど。


ラトリ:

「打ち合わせを続けよう。まずタンク役の保全からだけど、青ゲージが溜まって来たら交替ってことでいいんだよね? 具体的にどうしたらいいかな?」

英命:

「特に問題になっているのは、ヒーラーが機能不全になってしまうことでしょう」

スターク:

「バリアを貫通する時に、ダメージアップまでするんでしょ? それじゃバリアが使えない」

英命:

「そうですね。しかし、それは通常攻撃だけの様です。青ゲージ蓄積量の大きい必殺攻撃では、バリア貫通能力が発揮されていませんでした」

ヒルティー:

「それは朗報だ!」

葵:

『じゃあ、問題はハイ・ヌーンだとかで反撃の構えしてる時だね?』

石丸:

「反撃時のダメージでは、青ゲージは増えないっス」

英命:

「ええ。カウンター攻撃は左腕の補助武器で行う様です。このことから、障壁突破能力が付与されていないのでしょう」

アクア:

「ならカウンター・スタンスになったら、むしろ攻撃のチャンスってことね」

英命:

「ある意味では。この時、マグニフィセント・セブンの対策が同時に必要になるでしょう。事前にダメージ値の上位7名を選定し、障壁を展開。さらにダメージ値8位以下の平均ダメージ値の底上げまで行うことができればベストです」

レオン:

「……これは、頼もしい味方が現れたようだ」

英命:

「恐縮です」にこり


 味方の間は頼もしい。でも、一歩下がった位置から眺めているような雰囲気が少し変化しているように思えて、ちょっとドキドキする。


シュウト:

「ところで、マグニフィセントってどういう意味ですか?」

ネイサン:

「あれ? 知らないの?」

葵:

『なんか有名なやつ?』

オスカー:

「技名だと翻訳されないからかな? 有名な西部劇なんだけど」

ネイサン:

「元になってるのは日本のクロサワの超傑作映画だよ」

葵:

『……七人の侍? てことは、「荒野の7人」ってこと?』

バリー:

「そう、それ」

シュウト:

「じゃあ、ハイ・ヌーンとか、レッド・デッドも?」

葵:

『「真昼の決闘」? あー、だから、早撃ちガンマン的な意味でカウンターってことなんか?』

バリー:

「レッド・デッドは、『レッド・デッド・リデンプション』からかな?」


 良く分からないけれど、マグニフィセントで壮麗と訳すらしい。荒野はワイルドになるので、荒野の7人だとワイルド・セブンになりそうなものだ。つまり実際に直訳すると『壮麗な7人』ってことになる。

 

 西部劇とかの意味がわかったところで、作戦構築の続きになる。ところが、そのタイミングでベアトリクスが割って入って来たのだった。


ベアトリクス:

「今日中に、ケイオス・ロードに挑むのは難しいのだろうか?」

ラトリ:

「まだ準備が不十分だし、もう夕食の時間になっちゃうんだけど……」

レオン:

「焦っても解決はしないだろう」

ベアリトクス:

「わかっている。……わかっては、いるのだがッ!」


 激しくテーブルを叩いた。穏やかとはいえなくても、冷静な人物像を抱いていただけに、驚いてしまう。


ベアトリクス:

「……っ、すまない。後は頼む」

ヴィルヘルム:

「任せてほしい。……間に合わせてみせる」

ベアトリクス:

「……ありがとう」


 唐突な感情の暴発にみえたけれど、ヴィルヘルムには理由が分かっているらしい。顔に「?」が浮かんでいたのかもしれない。葵が説明してくれた。


葵:

『まぁ、地元だし。きっちぃやーねぇ』

シュウト:

「てことは、……外の状況のことですか?」

レオン:

「ああ。吸血鬼被害が激化しているのだろう。……ここは念話が通じるからな」


 知らないところで、知り合いから救援を要請されているのかもしれない。あと一息というところまで来ているのだ。ケイオス・ロードを倒せば、ダンジョンは残りふたつ。いや、次の『塔』を突破できれば、とりあえず満月を終わらせることができる。それで外の吸血鬼被害は終息するはずなのだ。……そう思いたい。

 ここでケイオス・ロードをなんとしても倒さなければならない。その為にも徹底的に準備し、連携を構築しなければならなかった。







シュウト:

「これが、草案になります」

ジン:

「…………ふぅん」


 攻略のアウトラインが完成したので、ジンに見せておく。とはいえ、これから全体周知→疑問点や抜けの洗い出し→ブラッシュアップ→必要なら連携訓練と続くので、まだ始まったばかりと言えなくもない。


ジン:

「んで? どういう心境の変化だ、……センコー?」

英命:

「特には」にっこり

ジン:

「嘘こきやがれ。あのメンバー相手でも、頭抜(ずぬ)けるのかよ」


 軽く読んだだけで誰の仕業か見抜いたらしい。かなり細かい点まで詰めてある。その流れをリードしたのが英命先生だった。


ジン:

「……なるほど、こりゃ気付いてなかった。わかった、試してみよう」

英命:

「ありがとうございます」


 やっぱり味方で良かったと思いました。


葵:

『でさでさー、またまた新技 考えたんだけど!』

ジン:

「どうせ、またくだらないこと言うんだろ?」

葵:

『精霊を全身に纏って、神衣とかどうよ?』

ジン:

「今度はテイルズか。……どうしてお前は、俺がやっていないと思うんだ?」やれやれ

シュウト:

「ですよねー(苦笑)」


 葵が考えつくことは、だいたいジンも思いつくという。


葵:

『いいから、どうなった?』

ジン:

「だから、鎧を脱がなきゃダメだったんだって」

葵:

『そんで?』

ジン:

「いや、ロクすっぼ検証とかしてねーけど、当時は超再生がなかったから。HPが減っていくから防御にゃ使えないわけで」

タクト:

「……だから〈竜破斬〉を作ったんですか?」

ジン:

「おーざっぱに言えば、そういうことだ」

葵:

『そんだけ?』

ジン:

「そんだけとか言ってるけどなー、コップに水を1.5倍とか入れたら溢れるか壊れるかするんだぞ!」


 コップというか、段ボールに荷物をいっぱいいれたら、パンパンに膨らむし、そりゃ壊れるだろう。そういう性質のもの、らしい。


英命:

「愚考いたしますに、オーバーライドとは器を大きくする技法では?」

ジン:

「ぐっ、やりにきぃ。……どっちみち、ケイオス・ロードのあの剣には通用しないから、一緒だな」

葵:

『それもそっか。……じゃあ、次』

ジン:

「まだあんの!?」

葵:

『ユフィちゃんに新技を試してもらおう!』

ユフィリア:

「わたし?」

ジン:

「ほぅ、どんなやつ……?」


 自分のじゃなくなった途端にノリ気だった。葵にあまり口出しされたくないのかもしれない。


葵:

『創作特技だじぇ。魔法を反射する「氷の鏡」みたいなの! どうだ!』


 再現特技の更に先、特技そのものを創作してしまおうとする試みだった。遂に始まってしまったようだ。まさに禁断の試みである。……ユフィリアばっかり、どんどん強くなっていきそう(涙)


ジン:

「マホカンタだぁ? なんか簡単そうに言ってるけど、そんなに上手く行くもんじゃねーからな?」

葵:

『でも、氷と、魔法反射でエネルギー制御。氷の女王と春の女神の条件はクリアしてんべや』


 そう言われてしまうと、ユフィリアにおあつらえ向きの気がしないでもない。魔法が反射できたら、けっこう便利な気がする。レイドボスばっかり反射してきてズルいので、こっちにもあったっていいと思う。


ジン:

「ふむ。……よし、先に基点になる特技を作るか」

ユフィリア:

「きてん?」

ジン:

「エリアス=ハックブレードの場合、剣が水属性だったと思う。そうした属性剣の力を借りつつ、水属性の特技を仕掛けていたんじゃねーかな? いっちょ、真似してみっか」

葵:

『つーことは、ユフィちゃんの装備品に氷属性の何かを用意するか、基点になるような氷系の特技を作るってことだな。氷結モード!みたいな』

ジン:

「氷と光か……」じーっ

ユフィリア:

「えへっ」


 じっとユフィリアを見つめるジン。見つめられて照れるユフィリア。

 ……ジンに口伝を考えてもらえるのが羨ましい。どうも戦闘センスでもって思考を加速? 飛躍?させているような雰囲気だった。


ジン:

「ダイヤモンドダストって、知ってるか?」

ユフィリア:

「どういうの??」

ジン:

「北海道とかのさっむいトコの山の中で見られるらしいんだけど。 ……あー、説明変わってくれっか?」

石丸:

「大気中の水分が、粉状に氷結して浮遊する大気現象っスね。太陽の光を反射してきらきら輝く様子をダイヤモンドに見立てて、ダイヤモンドダストと呼ばれているっス」

ユフィリア:

「なんか聞いたことあるような気がする。みんなで見てみたいねっ?」

ジン:

「だな。……うーんと、朝とかに、光の中をホコリがばーっと流れて動いていくのとか見たことあるだろ?」

ユフィリア:

「うん」

ジン:

「いや、ホコリじゃなくていいんだけど、自分の周囲の水分を、ダイヤモンドみたいに硬い、氷の粒、粒子みたいにできるか?」

ユフィリア:

「……わかんない」

ジン:

「自分の周辺を取り囲むように、キラキラした氷の粒子が浮かんでいるイメージだ。物理攻撃も魔法攻撃も、威力を減衰させる防御特技。いや、バフがいいな。自分が動いても邪魔にならないやつ。持続時間は3分から5分ぐらいあると嬉しい」

ユフィリア:

「やってみるっ!」


 防御バフのようだ。目を閉じてイメージするユフィリア。


ジン:

「生命力に魔力を混ぜて、精霊みたいにしてやるんだ。疑似精霊でもって、自分のイメージを投影し、力を送り込み、実現させてやればいい」


 ユフィリアでも難しいのか、顔をしかめているようにみえる。


葵:

『共感因子を利用しなきゃ。周囲の空間を変換する前に、全身の共感因子でもって、エネルギーを放つ』

ユフィリア:

「うーっ!」


 やはり難しいらしい。さすがに彼女であっても、創作特技はそんな簡単にはいかないらしい。安心と同時に別種の不安が頭を()ぎる。ユフィリアで出来ない創作特技が、果たして僕にできるのだろうか……?


シュウト:

「大丈夫、きっとできるよ。いつも何も言わなくたって、キラキラさせてるんだし」

ユフィリア:

「……キラキラ?」


 思わず励ましのセリフを言ってしまった。その直後、ユフィリアの周辺から冷風が吹き上がり、キラキラとしたものが無数に漂っていた。


葵:

『おっと、上手くいった?』

ジン:

「どうだ?」

ユフィリア:

「氷のつぶつぶ~って思ってもうまくいかなかったけど、きらきら~って思ったらできたの!」


 なんだそれ?と思ったけど、口に出すのは止めておいた。ちょっとしたニュアンスの違いが結果に影響することを、僕はもう経験して知っている。呼吸に絡めただけで、出来ないことが出来るようになる。彼女のそれも、同じ様な話なんだろう。


葵:

『シュウくん、お手柄じゃよ』

ユフィリア:

「シュウト、ありがと!」

シュウト:

「いや、まぁ、……うん」


 なんか、感謝されるのもいいなって思いました。


ジン:

「ちょっと打ち込んでみっか。盾でガードしてみ?」

ユフィリア:

「さっ、こい!」


 ジンが軽く振り下ろした様に見えても、「キュボッ」とか音がしているのがおっかない。剣はユフィリア周辺のダイヤモンドダストに阻まれている。連続して硬いものにぶつかる音。ジンはそのまま強引に振り抜いたが、ユフィリアが盾で受け止めていた。威力の大半は逃されていた様子。しかもジンの持つ黒翼剣には氷がビッシリと張り付いている。かなりの凍結力。


英命:

「これは……、打撃のエネルギーを氷結力に転換して防いでいるようですね」

リコ:

「ダイヤモンドみたいに硬いのかと思った(笑)」

ジン:

「とりあえず、大成功って感じだな。名前はどうすっか? ダイヤモンドダストって漢字でなんだっけ?」

石丸:

「細氷っスね」

ユフィリア:

「さいひょう?」

ジン:

「こまかい氷ってことだな。んー、ちょっと変えるか。でも氷の埃じゃあんまりだし、……氷の塵で、氷塵って辺りか?」

ユフィリア:

「ひょうじん?」

ジン:

「氷塵で対応する英単語ってある?」

石丸:

「氷塵の説明がダイヤモンドダストになっているケースと、氷塵の英訳がクリオコナイトになっているケースとがあるっス」

シュウト:

「クリオコナイト?……って何ですか?」

石丸:

「氷河の表面に形成される直径0.2~2.0ミリ程度の、黒色の粒子っス。藻の一種、シアノバクテリアが成長しながら、砂や有機物を巻き込んでできているものっスね」

ジン:

「黒いゴミとか、チリってことかな? ……関連も薄そうだし、氷の(じん)と書いて、ダイヤモンドダストにしよう。いいか?」

ユフィリア:

「大丈夫。〈氷塵〉(ダイヤモンドダスト)だね」


 もう基点特技ができてしまった。ちなみに塵の字は石丸先生に教えてもらっていた。鹿を書いて、そのまま下に土を追加すればいいらしい。鹿の下の比較の比みたいな字を忘れなければ、僕にも書けそうだ。


葵:

『じゃあ、次は魔法を反射させる鏡だね。アイス・ミラーでいい?』

ジン:

「いや、もうちょい反射のニュアンスを強めたい。〈アイス・リフレクター〉だな。〈氷塵〉(ダイヤモンドダスト)を利用して、氷の反射板を出してみな?」

ユフィリア:

「こう?」


 手鏡よりかなり大きい、盾ぐらいのサイズの反射板が現れた。


葵:

『リディア、ガンド!』

リディア:

「えっ? えっ!?」

ジン:

「パルスブリットだ」


 ガンドでは伝わらなかった。僕だって分からない。あわてたリディアがパルスブリットを発射。あっさりと跳ね返された。リディアにぶつかる寸前に割り込み、ダメージを肩代わりしておく。


リディア:

「あ、ありがと」

シュウト:

「いや、ぜんぜん」にっこり


 まったく関係ないけど、魔法を相殺できる武器か、特技が欲しい。カッコ付け過ぎた気がしてちょっと気まずかった。笑顔でごまかせただろうか……?


ジン:

「シュウトの腐れイケメンっぷりはともかく、ちょっとMP使用量がデカいな」

ユフィリア:

「そうかも?」

石丸:

「2066点っスね」

英命:

「どうやら〈氷塵〉(ダイヤモンドダスト)は体術の延長の様ですね。MPコストも抑えられています。しかし〈アイス・リフレクター〉は魔法にカテゴライズされてしまうのでしょう。魔力を増幅する手間を省いてしまうのが原因かと……」

ジン:

「無詠唱だから実現してるんだろうけど、……しばらく保留すっか。そのまま使っちまえ」

葵:

『切り札だし、リディアちゃんに補給してもらう手もあるもんね』

ユフィリア:

「わかった。そうするね!」


 ジンがダメージを食らいにくい関係で、ユフィリアのMPは余りがちだ。2000点越えのMPコストは痛いが、出し惜しみしなくたっていい。創作特技はどうやら正規の手順を踏まない関係で、MPコストが大きめになる傾向があるのかもしれない。







シュウト:

「おはようございます」

ジン:

「おう」


 可能な限りの準備を終えて、翌朝。ジンに挨拶したら、なぜか反応が微妙に悪かった。不機嫌なのかな?と顔色を窺おうとすると、視線がぶつかった。どうにも僕の方が観察されていたようだ。


シュウト:

「なんでしょうか?」

ジン:

「いや、……お前も『らしく』なったもんだと思ってな」

シュウト:

「らしく? らしくって、何らしくの話ですか?」

ジン:

「アスリートらしさ、かな? 気のサポートが入って、外見に変化が出ている」

シュウト:

「そう、なんですか?」


 なんとなく体を確かめてみるが、特に変わった点があるようにも思えなかった。毎日確かめている訳でもないし、逆に毎日確かめていたら、違いに気が付きにくくなりそうなものだ。


シュウト:

「そういうので何か変わったりするものなんですか?」

ジン:

「そりゃ、大違いだ。……そうさなぁ。インドア派でゲームやってる青白い一般ピーポーが、精悍さを漂わせた運動選手にクラスチェンジしたようなもんだ。身長も微妙に高くなってそうだし」

シュウト:

「えっ? 気のサポートがあると、背って伸びるんですか?」

ジン:

「まさか。物理的な身長は変わらねーよ。ただ、姿勢が良くなったことで、腰の位置が高くなったのと、背骨周りの目詰まりが解消されるってだけだ」

シュウト:

「……2センチぐらい伸びてますか?」

ジン:

「知らん。他のヤツに聞け」


 僕の身長は173センチだ。しかしその173センチというのは、背中が目詰まりしたまま測定した結果かもしれない。1センチでも嬉しいけれど、2センチ伸びていたら、175ってことになる。それはかなりの朗報といえよう。けれど、ほとんど同時に別の可能性にも思い至る。……相対的に、2センチ胴長になったら、その分の比率、短足になるかもしれない。でも175は夢がある。そんな気がした。足の関節の目詰まりよ、解消しろ!と念じつつ、軽く動かしてみる。


シュウト:

「身長以外にはないんですか?」

ジン:

「なかなか欲張るね。微妙に効率は良くなってるはずだぞ」

シュウト:

「……微妙、なんですか?」


 それはなんとも微妙な話である。確かに欲張りすぎているか。


ジン:

「パンピーとアスリートの間には超えられない壁があるけど、気の補助があるかないかがけっこう重要な問題でな」

シュウト:

「つまり微妙に差があるってことですか?」

ジン:

「そっそ。気のサポートがあると、あたかも念動力が使えるかのような感じになるんだけど」

シュウト:

「念動力、ですか……?」


 怪しい話になってきてしまった。いや、こっちの世界でならアリかもしれないけど。


ジン:

「重いものをもっても、妙に軽く感じたりする。筋力で持ち上げる時に、同時に念動力が利いている『気がする』っていう」

シュウト:

「はぁ……?」

ジン:

「バカにしてやがんな? 人間が生きてるか、死んでるかだって微妙な差の問題なんだぞ。中心軸があるか無いかだって、能力には決定的な差が生じるものの、やはり微妙な違いでしかない。中心軸で骨格が微調整されることや、内蔵の位置が調整されることも、血行や代謝が促進されるかどうかも微妙な差でしかない。ガス交換比率上昇、五感の鋭敏さアップ、運動補助、思考力にプラス、思い付くかどうかといった発想全般。全部が微妙な差の話だ」

シュウト:

「そんなのズルいですよ! 念動力はどこに行ったんですか???」

ジン:

「教えるか、バーカ! 自分でなんとかしろ!」ぷんすか


 また怒らせた。どうしてこう、上手くいかないのやら? いや、念動力は信じてない。そこが原因なんだろうけど。

 どうやって宥めようとか考えていた、ヴィオラート様がロッセラを連れてやってきた。


ヴィオラート:

「ジン様、おはようございます」キラキラキラキラキラ

ジン:

「おう。よく眠れたか?」

ヴィオラート:

「いえ、このところ『邪魔』が入るせいか、寝付きが良くありません」しんなり

ロッセラ:

「誰のことですか。それ、誰のことですか」

ジン:

「大変そうだな。何かあったら言えよ。俺が力になるから」

ヴィオラート:

「まぁ、どういたしましょう! では、朝のハグを……」

ロッセラ:

「ダメに決まってるでしょ」


 表面上、穏やかな会話というか、ジンとヴィオラート様はスイートな会話をしている風なのだが、実際にはロッセラと激しい攻防戦をやっていた。抱きつこうとするヴィオラート様、それを阻止しようとするロッセラ。『もう必死』ってヤツだ。


ヴィオラート:

「少しだけ、少しだけですからぁー!」ぐぎぎぎぎ

ロッセラ:

「ダメったら、ダメっ!」

ジン:

「おいおい(笑)」


 ジンに接近しようとあがくヴィオラート様。そしてそれを押しとどめようとするロッセラの体が、ジンと接触していた。いわゆる『おしり』がくっついている。迷惑かけられて困っちゃったなーという顔をしているジンだったが、顔の下半分は嬉しそうである。自分から退()いたりする気配は皆無だ。


ヴィオラート:

「ロッセラ、貴方はそろそろ朝食の支度をするべき時間です。いいのですよ、行ってきても。わたくし、おとなしくしていますので!」

ロッセラ:

「白々しい嘘を!」


 ロッセラは南イタリアの料理を担当している人だ。僕らと同じ第1レイドのテンプラーである。レイドに出ている時は、やたら分厚い鎧を着込んで戦っている。聖女ことヴィオラート様もクラスは同じくテンプラーなのだが、彼女はビルドの違いからか、ドレスのような魔法のローブを着用している。


 その一方、ジンはロッセラのおしりに夢中だった。


ジン:

「こういう肉付きのいいおしりって良いよな。日本人のケツは貧相なのが多くて……」

シュウト:

「やっぱり歩き方が関係してるんですか?」

ジン:

「そうだ。運動不足なのに加えて、ハムストリングスが使えていないからな。そして、このウエストのクビレが、ヒップのエロさをより格調高いものにしているわけだ」ナデナデ

シュウト:

「はぁ……(苦笑)」

ロッセラ:

「ちょっと、何やってるの!?」


 よく分からないことを言ってるけれど、ともかく話を合わせておいた。

 ロッセラのくびれたウエストをジンが撫でていると、腰がもぞもぞと左右に動いた。抵抗しているつもりなのだろうけれど、その動きはどうみても逆効果としか思えない。


ジン:

「そんな風に動いたら、気持ち良くなってしまうではないか」むふー


 ロッセラのお尻がジンの股間に擦り付けられ、……って、朝から何をやってるんだろう(苦笑)


ロッセラ:

「なんでっ!? まってってば!」

ジン:

「待てと言われて、待つ俺ではないね」


 ちょっと慌て始めるロッセラ。あえて遠回しな表現をすると、健全な男子の生理的に自然な反応が起こったのだろう。

 ジンは腰だけ器用に動かし、下方向からロッセラを突き上げていた。仰け反るロッセラ。その背中から首筋にかけてのラインは美しく、扇情的だった。


ヴィオラート:

「ジン様、なにをしていらっしゃるのでしょうか?」ゴゴゴゴゴ

ジン:

「んー、と。……国際交流?」

ヴィオラート:

「それは国際交流じゃありません、ただのセクシャルハラスメントです!」

ジン:

「そうかー? イタリアの首相でメディア王とか言われてるオッサンが、後ろ向いて気付いてない警官だかに腰振ってるのテレビでみたぞ。あれが挨拶みたいなもんじゃねーの?」


 そう言いつつ、ロッセラの首筋に唇を這わせていった。


ヴィオラート:

「……その人は例外です。みんなあんなだと思われても困ります」

ジン:

「そうなん? ……どっちにしろ誘ってきたはコイツの方だぜ。メス(、、)に挑戦されて、おめおめ逃げるわけにゃいかねぇだろ、最強(オレ)としては」


 肋骨を期待させるような動きで撫でつつ、腰はじっくりと時間をかけて擦り上げていく。顔を赤くしたロッセラは、声を出さないように口元を押さえて我慢していた。


ジン:

「じゃあ、ここいらで、『おっぱいの正しい触り方』を教えておいてやろう!」

シュウト:

「ここで、ですか!!?」

ジン:

「お前、おっぱい星人だろ? あの〈D.D.D〉の子、背の割にかなりデカかったじゃないか」

シュウト:

「なっ、なんの話を……?」わなわな


 禁断の話題に踏み込みつつ、訳知り顔で講義を始めてしまうジンだった。ヴィオラート様の好奇に満ちた視線を感じて痛い。しかし、そう言われてみると『背の低い子だったらジンさんと競合しないかも?』とか冷静に考えている自分もどこかに居たりする。なんだろう、なんというか、よくわかりません。


ジン:

「乳房ってのは脂肪の塊な訳だが、実は触られてもロクに感じないのが分かっている。かろうじて乳首は性感帯に含まれるんだけど、そこ以外はさっぱりだ。このことから、男がおっぱいで至福の(とき)を堪能していたとしても、女性側からしたら、無駄な時間だなーとか、なにが嬉しいんだろう?とかって思ってしまっているらしい」

ロッセラ:

「っ!?」

シュウト:

「……そうなんですか?」

ヴィオラート:

「わ、わたしに質問しないでください。まだヴァージンですっ!」キュピーン


 そんな堂々とヴァージン宣言されてもこっちが困るんですけど。ロッセラの反応からしても、どうやら事実っぽい。


ジン:

「性格のいい子でも、喜んでるんだから触らせてあげといたらいいんじゃない?とかね。性格キツいと、さっさと乳首触れよグズ! みたいな(苦笑) ガールズトークだと『なんで男っておっぱいが好きなの?』『赤ちゃんから成長してないんじゃない?』『きゃはははは』ってな。……悲しいことに、俺たちの至福は女性とは共有されないのだ」

シュウト:

「それは、なんというか……(困惑)」

ジン:

「そう。まともな性格をしてりゃ、この問題を放置してしまうのは良くないとわかるものだ。だが安心するがよい。最新研究によって正しいおっぱいの触り方は既に判明している。HENTAIの国を舐めるなよ? ……どうだ、少し興味が出てきただろ?」


 さすがジンさん、やることが汚い。

 こんな風にプレゼンされたら聞かない訳にいかないではないか!(自己正当化)


ジン:

「……というわけなんだ。学術的な話だから協力してくれるよな?」

ロッセラ:

「どうして私が!?」

ジン:

「あっ、そう。……ヴィオラート、悪いけど頼めるかい?」

ヴィオラート:

「もちろんです。覚悟はとうにできております!」ドドン

ロッセラ:

「そんなのダメに決まって……!」


 すかさず、背後のジンが言葉を被せていく。


ジン:

「悪いな、『そういうこと』だから」ニヤリ

ロッセラ:

「……この、卑怯ものぉ~!」

ジン:

「協力の意志を確認。これでセクハラはクリア、と」


 さすがジンさん、やることが汚い……!(褒め言葉)


ジン:

「じゃあ、さっそく手技の説明に移っていくんだけども!」うっきうき

ロッセラ:

「うううう(涙)」

ジン:

「ふつーに考えると、ティクビしか感じないんなら、さっさとティクビ触れよって話になりそうなもんだが、実は、スペンス乳腺に対する刺激で、絶頂(エクスタシー)に到達できるという話がある。スペンス乳腺の重要性はかなり高いと言えよう。ま、個人差もあんだろうから、おっぱいイキにあまりこだわらないこと。スペンス乳腺の位置は、乳房の側面。横乳だな。ここに刺激を加えてやります」


 乳房の横、スペンス乳腺とやらをさすっていた。もちろんロッセラの乳房のことだ。服の上からなのだが、脇腹と乳房の境界付近らしい。そこを指先で上下に何度もこすっている。


ジン:

「スペンス乳腺に痛くないように刺激を与えながら、乳房の下に手を差し込みます。そして手のひら、指まで全部を使って、乳房を包み込むように、ゆっくりと撫で上げていきます」

ロッセラ:

「ふぐぅ!?」

ジン:

「……これが基本となる正しい触り方だな」


 スペンス乳腺と思われる部位を指先でなぞりつつ、下から乳房を支えるようなポジションへ。手のひら全体で、乳房全体を、時間をかけて撫でていた。揉んだりなどはしないらしい。ジンの教えにしては簡単でちょっとあっけに取られる。これなら僕にもできそうだ。…………相手がいないけど。


ヴィオラート:

「えと、こう、ですか?」

シュウト:

「!?」


 無邪気というのか、脳天気というのか、自分のおっぱいを、自分で寄せて、上げてしてみるヴィオラート様だった。服を着ていても暴力的なおっぱいが、形を変えていくのを見せつけられ、僕の心に動揺が走った。


ジン:

「さらにマンモ・リラクゼーションの技術を応用し、背中や脇腹から脂肪細胞を胸の方に移動させつつ、おっぱいの重さを味わうように、持ち上げていきます。クーパー靱帯をリセットさせるには、少し揺らしてやるのが効果的だな」ぶるんぶるん

ロッセラ:

「んーっ!?」

ヴィオラート:

「マンモ・リラクゼーションというのは?」

ジン:

「おっぱいケア、マッサージ手法のことだ。大胸筋から脂肪細胞を剥がしつつ、乳房が垂れるのを防ぐのを目的としている。夜用のブラジャーを使った予防も重要らしいけどな」

ヴィオラート:

「なるほど……」

ジン:

「この辺りの技術はおっぱい星人にとって基本スキルだ。理想的なおっぱいの形成・維持のためなら、連中は全てを捧げるだろう。さらにこの上の段階では、肩凝りの解消も狙っていくことになる」

ヴィオラート:

「肩凝りですか?」

ジン:

「もちろんさ。おっぱいが大きいと肩か凝るっていうだろ? 余程のサイズでもなきゃ都市伝説に過ぎないんだがな。実際、肩凝りの改善には、広背筋をほぐしてやるのが効果的なんだ。腕を上下に挟み込むように上から巻き込んでいるのが僧帽筋で……」


 ロッセラの背中をマッサージするように撫で上げて、肩や鎖骨付近へ手を伸ばしていく。一般的に肩が凝る場合はこっちのことだろう。


ジン:

「腕を持ち上げようとしたとき、ここの僧帽筋が硬くなって動きが悪くなる。痛くなる部分が僧帽筋だ。だから僧帽筋を揉んだり・ほぐしたりしようとしてしまう」

ロッセラ:

「ふわわぁ~」


 僧帽筋を揉まれてロッセラが嬉しそうにしていた。


ジン:

「しかし、実際の原因はもう一方の筋肉、広背筋にある。……広背筋は、腕を下から挟む形になっているんだ」


 背中から脇腹、乳房にふれずに肩の側へなで上げ、マッサージしていく。


ジン:

「広背筋は脇の下から腰までの広い逆三角形をしている。腕を持ち上げる時、広背筋が硬くなっている分まで一緒に持ち上げなきゃいけなくなる。これで僧帽筋に余計な負荷が掛かってしまうのが、肩凝りの原因だ。しかも、僧帽筋の負荷が高くなると、背中も丸まってしまいやすい。そうなると乳房の形にも影響が出てくる。……おっぱいの重さが原因じゃないのに、肩凝りが酷いからっておっぱいを悪者にしてしまうんだ。酷いと、小さく整形しようとすることもある」

ロッセラ:

「あああ! 気持ちイイ~っ!」


 説明しながら、広背筋をマッサージしていくジンだった。たぶんエロティックな悦びはあまりないのだろう。マッサージの気持ちよさで声を上げるロッセラだった。


ジン:

「技術的な問題でのポイントは、主に速度だな。男性が心地よいと感じるスピードの1/7が女性の喜ぶスピードと言われている。おっぱいを一撫でするのにおおよそ0.5秒だとすると、最適時間はその7倍、3.5秒付近が目安になってくる。男はせっかちなのだ。……逆にいえば、感じさせたくなければ、0.5秒でいいってことだ」

シュウト:

「男女差ってことですか……」


 広背筋から乳房に戻ってきて、ゆったりとなで上げる。ロッセラはもう抵抗を諦めていた。スペンス乳腺に触れられる度に、細かく震えているようだ。


ジン:

「とはいえ、技術的な問題は全体の3割にも満たない。7割強を占めるのは心の問題だ。おっぱいの真髄とは『相手の心を満たす』ことにある。つまり、おっぱいコミュニケーションだ!」


 また変なことを言い始めた。いや、心の問題は大事そうなのに、言い方が悪ふざけにしか聞こえない。おっぱいコミュニケーションとか言われたら、念動力とどっこいだと思う。


ジン:

「後ろから抱きしめることで密着感が安心感に変わる。まぁ、相手から好意をもたれていることが前提だがな(苦笑) ゆっくりと触れることで、痛くしないと相手に伝えることも重要だ。誠実さ、これ大事。広背筋のマッサージは特にプラスに働くだろう。肩を揉むよりイチャ付くのに向いてるしな」


 再び、乳房へと手を伸ばしていく。もはやジンを自然に受け入れているロッセラだった。


ジン:

「両手に感じる重み、充実感。触れているだけで幸福を感じていると、相手に伝えることも大切なことだ。…………最高だよ」

ロッセラ:

「ンンッ!」

ジン:

「男性に尽くしたいという欲求を持っている女性も多い。自分のおっぱいが相手を幸せにしていると知ることで喜びを得られる。また、ゆっくりとなで上げていく時、掌に触れる乳首への刺激を微調整してやる必要がある。痛くしないのは大前提。その上で、当て方を相手によって変えなければならない」


 左の人差し指をくわえるようにして、声にならない呻きを堪えるロッセラ。最終局面に入っていた。


ジン:

「あとは気の使い方だな。俺みたいに極意に到達していれば、膨大な気を無理矢理に送り込むこともできるが、普通はそうも行かないだろう。相手の皮膚といった『境界』を越えるのにちょっとしたコツが要る」

シュウト:

「そ、それは?」

ジン:

「合掌してみ? すると、右手で左手を、左手で右手を『触れている状態』になるだろ。一方で、右手は左手に、左手は右手に『触れられて』いるハズだ」

ヴィオラート:

「わたくし、知っています。禅、ですよね?」

ジン:

「外人さんはそういう風に理解しているっぽいね。……4種類のベクトルと感覚とが合掌には混在していることが言えるわけだ」


 右手は触れていて、触れられている。左手も触れていて、触れられている。なるほど、4方向だった。


ジン:

「マッサージの場合、施術者と被施術者の関係に変わってしまうが、基本は変わらない。俺はおっぱいに触れているが、実はおっぱい様からも触れられているのだ」


 遂に、おっぱい様に格上げされてしまった……!


ジン:

「俺に触られてるおっぱい様も、実は、俺の手のひらを触っていることになる。単純な能動と受動の関係を逆転させるんだ。それには、受動的な触り方がポイントになる。これら能動と受動の感覚の狭間に、シュタインズゲートが、つまり気の通り道が生まれる……!」

ロッセラ:

「~~~~ッッッ!!!?」


 悲鳴のような呻きと共に、ロッセラの体から力が抜ける。崩れ落ちる前に抱き留めるジンだった。


ジン:

「うーん、今日もいい仕事したっ!」まんぞく

ヴィオラート:

「というか、そういう国際交流は、わたくしとしてください!」

ジン:

「フッ。……お酒と国際交流はハタチになってからな」きらりーん

ヴィオラート:

「ジン様は、いじわるです」


 力の抜けたロッセラを抱き留め、ヴィオラート様は恨めしげな顔でジンを睨んでいた。


ラトリ:

「いや、何がスゴいって、おっぱい触るだけで、どんだけ理屈コネられるんだよってことでしょ」

バリー:

「ホントにね(苦笑)」


 いつから聞いていたのか、ラトリたちはグロッキーのロッセラを休ませるべく、運んでいった。

 

ヴィオラート:

「ロッセラはともかく、マリーが戻ってこないのです」

ジン:

「ちびっちゃいの、どこいった?」

シュウト:

「念話してないんですか?」

ヴィオラート:

「後で帰る、すぐ帰る、レイドまでには帰ると、帰るとばかり言って切れてしまうのです」

ジン:

「たぶんあそこだろう。……様子を見に行くか」

ヴィオラート:

「はい!」


 もう放さないぞという意気込みでジンの腕に絡み付く。そんな調子で、マリーを捜しに出かけることになっていた。

 

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