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236  ギョウザパーティー / 精霊剣

 

 ジンの新技開発(実質的にマリーの暴走)の影響で、〈パテル大墳墓〉初日の攻略は4層フロアボスを倒したところで終わってしまったが、すぐ先にショートカットがあったため、なんとなく丁度いいような形で終わった。この分なら翌日はレイドボスのところまで余裕で行けるだろう。



ユフィリア:

「餃子パーティー!」></


 ……だそうです、はい。

 結局、ミゲルの提案で、立食パーティーとかバイキング形式みたいな形にすることになった。みんなでギョウザというのを食べよう!という配慮らしい。1人ひとりの分量がわかりにくくなると食材を無駄にすることになりかねない。しかし、レイドの終わりが見えてきたことと、ダンジョン攻略後に一部の有志が食材ハンティングをやっている関係とで、大盤振る舞いが可能になったとか。


 ちなみに厨房の方は戦争状態だった。レイシンがひたすらギョウザの皮を伸ばして作り、包める人を総動員してひたすら作業している。チラッと見てきたけれど、もの凄いスピードだった。最低100人前、1人10個じゃ足りないだろうから、とんでもない数を作ることになるらしい。怖くなってさっさと逃げてきてしまった。ここで僕は無力である……。


ロッセラ:

「ジン。 頼まれたの、出来たよ~」

シュウト:

「揚げパンですか?」


 地味な色合いの料理に疑問を浮かべていると、ジンが飛んできた。


ジン:

「サンキュー、猿股、ペチコート! 本場の『揚げピッツァ』食ってみたかったんだ」

ロッセラ:

「お安いご用さ。……熱いよ?」

ジン:

「あっづ! お、んまっ、んま」

シュウト:

「いただきます」


 トマトとチーズを使わせたら、ロッセラは一流だ。詳しい食レポが出来る訳じゃないが、濃厚でトロけていながらサッパリとして、後を引く。風味が豊かってことなんだと思う。


ユフィリア:

「餃子、おまちどうさまー!」


 その元気な声に続々と人が集まってきて、物珍しそうにしつつギョウザの皿を手にとっていく。


ネイサン:

「よしよし、さっそく食べてみなきゃ」

ラトリ:

「食べ方、おしえてー」

シュウト:

「あ、えっと。醤油に軽くつけて食べてください。醤油にラー油っていうちょっと辛い油を混ぜても美味しいです」


 素早く見回してみたが、餃子用のタレや、お酢は無さそうだった。まず、このぐらいの説明で大丈夫だろう。念のために一皿受け取って、自分で食べてみせる。


ジン:

「あとは、よく冷えたビールでも飲みながら、ひたすら食えばいい」

ネイサン:

「エールってあったっけ?」

ラトリ:

「なんか面白い食べものだね~」


 そして何をするでもなく、殿下を撫でながらのんびりと時間を過ごすジンだった。


シュウト:

「料理、何か適当に持ってきますけど?」

ジン:

「いいから。お前も楽しんで来い」

シュウト:

「はぁ……」


 楽しめと言われても困ってしまう。何をしたら楽しいのか、良く分からない。こういう時に遊ぶ練習というものの必要性を痛感させられてしまう。


シュウト:

(仕事人間とかって、こういう感じなのかな……?)


 僕の趣味は〈エルダー・テイル〉だった。そしてこの異世界に来た時から、趣味が仕事になってしまい、別の趣味が見つからないでいるのだ。訓練が趣味というべきかもしれない。


ミゲル:

「そこの青少年! この皿を持って行け」

シュウト:

「えっ? ……これ、なんですか?」

ミゲル:

「アルボンディガス。牛肉団子のトマトソース煮込みだ」

シュウト:

「はぁ……?」

ミゲル:

「湿気たツラをするな。歓迎されたいんだろう? もっていけば分かる」ニヤリ


 へ? ほ? は?

 歓迎ってなんだろう? ……というか、これメチャクチャ美味しそうなんですけど。たぶん日本でいうミートボールだ。視線を感じて顔を上げると、一気に30人ぐらいからラブコールを送られてしまった。なるほど。どこに行っても歓迎されるチケットらしい。チラッとジンの方をみると、笑顔で「シッ、シッ、」っと追い払われた。好きなところに行けって合図だろう。

 カトレヤ組のところへ行くのは論外だろう。それは流石に冒険が足りない。ジンの評価も高いヴィルヘルム隊長と話してみたい気もするけれど、何を話していいのか分からない。準備が足りていない。そもそも料理が賄賂になるとは思えないし、あの人にはカレーを持って行くべきだ。レオンは、負けたのでちょっと心理的な抵抗感が無きにしも非ず。アクアはなぜか説教される気がするのでパスしておく。ちょっと思いついたのは、マリーのところに言って、何か素敵アイテムをおねだりするためのポイントを稼ぎたい、みたいなことだ。でも、それでは仕事の都合を優先させすぎている気がする。ぶっちゃけ、好みの美人の隣に割り込む根性の持ち合わせなどはない。……というか、そもそも好みの美人って誰だろう?って話からになってしまう。これも準備不足だ。


ギャン:

「おい、マジか、いいのか?」

シュウト:

「ええ。いっしょに食べませんか?」

オディア:

「感謝する!」←牛肉なら食べられる人


 アタッカーらしき集まりに顔を出してみることにした。西欧の方がMMORPGの先進国でもあるし、たぶん話が合うと思ったのだ。装備品やビルドの傾向なんかで聞きたいことが幾らでもある。それも仕事の話かもしれないけど、この際だから目を瞑ろう。

 しかし、失敗した。「トレンドとかってどうなんですか?」と質問してみたら『えっ? それを聞いちゃうの?』って顔をされ、……揉めた。こだわりと信念・信条のぶつかり合いで、揉めに揉めた。喧嘩を煽ってしまってヒヤヒヤしながらだったけれど、意外なぐらい楽しい夕食になった。







バーバラ:

「リア、そこのショウユ・ソースとって」

リア:

「はいよ~」

スタナ:

「?」


 リア・アントニウスは、この時も横着しようとした。醤油ソースに、ただ手を伸ばしたのだ。立ち上がれば直ぐなのに、無駄なことに魂を燃やすのである。


リア:

「ふぬゅぐぐぐ……!」


 私はそれを『愚かなる挑戦』だと決めつけて見ていた。()の友人は、男性にとって魅力的な外見をしているが、内面はとっても残念な人である。やれやれ、どうせいつもの結果になるのでしょ?と思ってしまっても、仕方がないことだと弁明したい。なぜならば……


バーバラ:

「ちょっとリア!? その手!」

リア:

「ごめん、ちょっと待っ…… 手がどうかした?」


 ドルイドの2位、バーバラ・パルヴィンが鋭く指摘した。

 リアが伸ばした手から、魔力のようなものがはみ出している。それは半透明の紫色をしていた。たぶん『魔力体』とか、そういうネーミングになりそうな現象である。


リア:

「うわああああ!? な、なっ、ナニコレ!?」


 本人が1番びっくり、というやつだ。誰に相談するにしても、まず現状を確認するところからだろう。


スタナ:

「たぶん魔力よね。私にもハッキリ見えるぐらい濃密」

リア:

「そっか、壊れたんじゃない、よね……?」

バーバラ:

「元から壊れてるでしょ、アンタは」

リア:

「そう言えばそうか。いや、そういう冗談言ってる場合じゃないから!」

スタナ:

「MPは減って無いわね。痛みとかも無さそうだけど……?」

リア:

「……スタナ、なんでそんなに冷静なの?」

スタナ:

「私に起こったコトじゃないもの。気になるんなら、ジンやアオイに相談するしかないけど?」

リア:

「だよね。そうしまーす」


 一緒に来て欲しいと頼まれて、ジンのところへ。(葵は基本的に目では見えないため、こうなった)

 ジンは、気怠げに『殿下』を撫でていた。具合が悪いのかと思うほど、ぐったりと力が抜けている。どうやら休息しているらしい。


スタナ:

「ジン、いいかしら?」

ジン:

「ああ。なんか用か?」

リア:

「あのね、これが、こんな風になっちゃって……」


 チラっと見て、事情を察したらしい。


ジン:

「へぇ~。おめでとうさん」

スタナ:

「これが何か分かる?」

ジン:

「いいや。初めてみたな。魔力の塊だろ?」

スタナ:

「『魔力体』ってことになると思うんだけど」

ジン:

「だろうな」

リア:

「……初めて見たのに、なんでオメデトウなの?」

ジン:

「うん? 口伝を作りたいんじゃないのか」


 手を伸ばしてマグカップを手に取ると、間を取るようにゆっくりと飲み下した。アルコールの薫りはしない。果物のジュースか何かだろう。そうしている合間に、『口伝』という言葉が私たちの脳細胞に染み込んでいった。


リア:

「……これが、口伝の始まり?」

ジン:

「だったら、何を訊きに来たんだ?」

リア:

「元に戻んなかったらどうしようって」

ジン:

「ふぅん、そうか」


 また、少し間をおくようにしながら、軽くリアに手を伸ばす。

 目には興味の光が宿っていた。休息は終わりだった。どろりとした雰囲気がジンを取り巻いていく。膨大なエネルギーの中心。


ジン:

「それに触ってもいいか?」

リア:

「別にいいけど?」

ジン:

「……本当に?」


 ゆったりとしたやりとり。ジンの念押しに、リアが微かに怯んだ。


リア:

「どういう、意味かな?」

ジン:

「肌よりも『内側のもの』に触られても、平気なのかってことさ」

スタナ:

「あっ」

ジン:

「ひどく、エロティックな可能性だってある行為だ。魔力は自分ではない? だから触られても平気?」

リア:

「さわったら感触があるけど、さわられた感触ってあったかな~?」

ジン:

「そこに俺のエネルギーを注いでみたら、どうなるだろう。俺の力が、お前の中でひとつに溶け合うんだ。力が溢れて万能感を得られるかもしれないし、全身に痛みが走る可能性もある。……俺としては、甘く痺れるような快感が、全身を貫く可能性が高いと思うんだけど?」

リア:

「えーっ? いやぁ、痛いのは嫌かな? アハハ」

ジン:

「なぁ、……それ、食べてみてもいいか?」

リア:

「えっ!? なんで?」

ジン:

「だって、魔力の塊だろう? 食べてMPが回復するなら、それだけで、もう口伝だ。歯で噛み千切れるか分からないが、お前の一部を食べてみたら、どうなるんだろうな?」


 ビクリと震えるリア。彼女の身体は性行為の準備を始めている。気まぐれな絶対強者に、視線と言葉とでなぶられれば当然そうならざるをえない。お戯れが過ぎる気もしたけれど、方法論としては間違ってもいないようだ。『魔力体』がどの程度に『自己』かを意識させようとしていた。これは身体性を延長させる試みでもあるのだろう。


リア:

「そ、そっかー、自分で食べちゃえばいいのかも」パクッ

ジン:

「ふぅん?」


 腰に手をまわされたら、ベッドまで悦んで付いていくだろうに(苦笑)

 意地か、矜持か。突っ張って『私は一筋縄ではいかないぞ』とアピールしてみせた。彼女のこういうしぶとさ、したたかさは尊敬に値すると思っている。お見事。

 ジンの方は関心を失ったように見えた。目から光が消える。良いタイミングに思えたので、少し疑問をぶつけてみることにする。


スタナ:

「でも、どうしてこんなことが起こったのかしら? マナ呼吸の影響?」

ジン:

「……精神に才能なんてものはありはしないんだ」

リア:

「どういうこと?」

ジン:

「精神活動・知的活動は、肉体を介在させることでしか成立しない。純粋な精神・精神体というものが存在できたとして、そこに才能はない。才能ってヤツは、肉体の側にしかありえないものだからだ」

スタナ:

「じゃあ、足ネバをやったりしたことが影響しているってこと?」

ジン:

「意識操作や身体操作の訓練だけじゃない。毎日、レイドで身体を使って戦闘していることも影響していたはずだ」

リア:

「じゃあ、気が付かない間に、魔力を扱う能力みたいなのが鍛えられてたってことなんだ?」

ジン:

「身体を鍛えた結果だな、広い意味で」


 これでまたひとつ訓練に弾みが付くだろう。魔法を中心に戦うタイプにとって、運動して意味があるのか?という疑問があったからだ。それに対して、リアが証明することになった。身体意識理論など抽象論と紙一重だろうに、目に見える結果を出してしまうことが凄い。


リア:

「じゃあ、じゃあ、口伝ってどうやればいいの?」

ジン:

「いろいろ試してみて、こんなの出来そうかなーってのを形にすればいい」

リア:

「どんなのがオススメ? どういうのを作ればいい?」

ジン:

「しらねーよ、どうぞご自由に?」


 リア本人もどこまで自覚しての行動なのか、体をジンにくっつけに行っていた。体というより、自分の匂いをこすりつけているのだろう。本能的な求愛行動のようにしかみえない。

 一方のジンの方は、やたら素っ気なくしていた。……もしかして、気が付いてない?


リア:

「つれないなー、一緒に考えてよー」

ジン:

「好きにしろって」

オスカー:

「アハハ、そういう聞き方をしたらそう言われるよ」


 傍観に徹していたオスカーが声をかけてきた。彼も『殿下』を撫でたくてジンの側にいたのだ。


リア:

「む。じゃあ、どうすればいいの?」

オスカー:

「ジン、口伝に関して、ちょっとだけアドバイスをしてあげてくれないかな? とっかかりが必要なんだ」

ジン:

「ちょっとだけだぞ?……特に口伝は、自分の納得が大事なんだ。俺の指示通りに作ったら、必ずあとで不満に思う。後悔する」

スタナ:

「そうかも、ね」

ジン:

「基本は出来そうだと思ったものを形にしていくことだと思うが、ひとつアドバイスするなら『度肝を抜け!』だな。これに尽きる」

リア:

「……どゆこと?」

ジン:

「初心者にありがちな『やらかし』ってのは、威力の凄いやつ!みたいな暴走とか、役には立つけどめっちゃ地味、みたいなのがパターンでな」

スタナ:

「地味なのもダメってこと?」

ジン:

「だいたいダメだな。装備品で代用できたりしがちで、使う意味がわからない。口伝の強みはシステムが対応してない状況を作り出すことだからなー」


 今のがきっとポイントだろう。システムが、対応していない状況を、作り出すこと。状況を、作る……?


リア:

「じゃあ派手なのにする! でも、超威力の必殺技はダメってこと?」

ジン:

「いや、全然かまわねーよ。単に、口伝勝負では、ピリリとスパイスの効いた、『面白いヤツ』が勝つってだけだ」

オスカー:

「あはははは! 確かに、そうなるかも(笑)」


 〈スイス衛兵隊〉で口伝競争が始まったとしたら、出来映えは有効性だけでの判断にはならないだろう。このチームでは多様性が前提だからだ。自分の価値を演出する武器としてみたら『威力だけ』では高い評価にはなりにくいかもしれない。……こういうのは実際のところ、ネイサンが得意そうな分野だ。


ジン:

「だいたい特技をあーだこーだ変形するものが大半だし、高威力の特技を基にすると、再使用規制の関係であんまり使えないんだ。練習するだけでもひと苦労って感じだが、決まればやはりデカいからな」

リア:

「そっか、練習しなきゃだもんね。いいこと聞いた!」

ジン:

「一方、小技だと威力が出しにくくて苦労するし、地味になりがちだ。でも何度でも使えるのが強みになる」

スタナ:

「繰り返し使えるのは大きなメリットだけど、同じ行動の繰り返しになってしまいそうね。それだと差別化が難しいかも。……なるほどね」

オスカー:

「ジンの〈竜破斬〉は、小技を大威力化したものだよね?」

ジン:

「ああ。白兵戦ではモーションの自由度や技後硬直なんかは無視できない要素だからな」

リア:

「そっか、戦う人はそういうのも考慮しなきゃだ。 ……私は魔法使いだし、高い威力の呪文を連発できる方向なんかが良さそう」

ジン:

「まぁ、それをどうやって実現させるか?って話だけどな」

リア:

「だね(笑) アイデア勝負かぁ、うっし、やるぞぉ~!」

スタナ:

「その前に、その能力で何ができるかってところからでしょ?」

リア:

「そうだった」

ジン:

「あとは自分のイメージと相談して決めるこった。自由な発想が大事だね。特に著作権的な意味で自由であることが大事だな」

リア:

「なんか思いついたかも?」


 笑顔でジンにお礼を言って、その場をあとにした。ジンから十分に離れたところで、声をかけておく。


スタナ:

「……大丈夫?」

リア:

「ちょっと、厳しいかなぁ(苦笑)」







 餃子パーティーも大盛況の内に終わって、翌朝。

 カトレヤ組だけの朝練タイムというか、なぜだか秘密会議のお時間らしい。キャンプから少し離れた地点に移動して来た。


ジン:

「んで、どうした?」

ニキータ:

「見て欲しいものがありまして」


 意外にもニキータが要求した集まりだった模様。スラリと〈神護金枝刀〉(こうごきんしとう)を引き抜いた。冴え冴えと澄み切った刀身には曇りひとつなく、滲み出す魔力に圧倒され、目を奪われる。

 ニキータは半分目を閉じ、集中した。すると、刀身に白い輝きが現れ始める。


ジン:

「分かった。もういいぞ」

ニキータ:

「はい」

ジン:

「誰かに見せたりしたか?」

ニキータ:

「いいえ、誰にも」

ジン:

「そうか。……よく1人でたどり着いたな、偉いぞ~」ナデナデ


 娘をあやすような雰囲気で、ニキータの頭を撫でていた。


ウヅキ:

「オッサン、今のなんだよ? 完全特技ってヤツだろ?」

ジン:

「……ここで喋るとアクアにも丸聞こえだよなぁ。葵のバカっていたっけ?」

葵:

『誰がバカだ、ボケナスぅ』

ジン:

「いんのかよ、まだ寝てろよ!」

ユフィリア:

「えっとー、私が呼んじゃった!」><

シュウト:

「もしかして、けっこう秘密な感じのヤツですか?」


 喧嘩で誤魔化されそうだったので、本題に引き戻してみた。ばつが悪そうな顔をするジンだった。やはり誤魔化そうとしていたようだ。あやしい。


ジン:

「今のは、……精霊剣だな」

葵:

『ああ!? まてまてまてまて!』

ニキータ:

「やっぱり。ジンさんも使えますよね?」

ジン:

「使えるっちゃ使えるんだが、素手限定の隠し技でな。今、仮説の誤りが微妙に証明された形になるけど」

シュウト:

「素手だと、『精霊拳』ってことですか?」

葵:

『素手限定? ……ぬっ! もしかして「精霊手」か!?』

ユフィリア:

「せいれいしゅ?」

石丸:

「『高機動幻想ガンパレード・マーチ』に同名のスキルがあるっス」

ジン:

「ああ、やっぱなー。ここでこの話って終わりにしちゃダメ? もうひとりでもたどり着くんだろ?」

葵:

『流石に情報が足りねーって。世界の謎掲示板はおっかけなかったし』

ジン:

「……秘密にできる? なんかすっごい口の軽そうなヤツが混じってるんだけど? 守れるのか?」

ユフィリア:

「守れるよー!」

レイシン:

「はっはっは」


 つい喋っといて「喋っちゃった(てへっ)」とか一番言いそうな人が約束を守れるそうなので、ジンは概要を話してくれることになった。ちなみにケイトリンなんかも悪意をもって喋りそうだけど、言いふらすタイプではない。秘密を知っているとほのめかし、周囲を翻弄して楽しむ最悪のタイプだ。


ジン:

「この世界の2大リソースは、生命力と魔力な訳だが、さっきのは生命力剣の上位技なんだ。特性的にもほとんどオーラセイバーみたいな感じだな。防御貫通攻撃が可能になっている」

タクト:

「オーラセイバーの上位技なのに、精霊剣、ですか?」

ジン:

「ネーミングは俺だけど、上位技だから精霊剣になるんだよ」

英命:

「原理的に正しいネーミング、ということですね?」

ジン:

「そう。情報強度が高めだから、割と理解されていない部分だな。人間にとっての生命力の表象(ひょうしょう)、表面的な現れ方が、気とか闘気だとすると、ファンタジー世界の場合、大自然にとっての生命力の表象が精霊になるんだよ」

葵:

『あっ、あっ、あっ、あっ!?』

ジン:

「そういうこと。外気功を応用したオーラセイバーが、この世界での精霊剣ってことだろう。無限の射程とかがあるわけじゃないんだけどな。この世界でのオーラセイバーから、生命力剣の方向性が定められての結果だろう」

ユフィリア:

「うーんと、どうして秘密なの?」


 それだ。ちょっと複雑なものっぽいけど、それだけで秘密にしなきゃいけない理由だのが見当たらない。


ジン:

「なんでだろうなー?」へらへら

葵:

『ツッコミどころ満載だろうが! 全時間オーラセイバー状態で戦えるってことじゃねーか!』

リコ:

「エグッ!?」

ウヅキ:

「おいおいおいおい(苦笑)」

ケイトリン:

「全時間……、特技はどうなる?」

シュウト:

「……えっ?」

ジン:

「そういうことだ。オーラセイバーより威力を高くできる上に、特技と組み合わせて使える。ただし、全時間は無理だ。30秒ぐらいだろ?」

ニキータ:

「はい」

リディア:

「どうして30秒?」

ユフィリア:

「HPが減っちゃうからでしょ?」


 そういうと、ニキータに小回復をかけた。30秒ですべてのHPを失うのは、やはり負担が大きいように思える。

 ちょうどこのタイミングでアクアが合流した。


アクア:

「まったく、イヤミなぐらい色々と出てくるのね?」

ジン:

「そんなに色々あるわけじゃねーよ」

アクア:

「それで? どうして腕でしかできないと思っていたわけ?」

ジン:

「そりゃー、籠手があったら使えないからだ。精霊は金気(かなけ)を嫌うとかって、よくあるファンタジーの設定が影響してんだろうと思ってたんだが、違ったらしいな」

葵:

『じゃあ、共感因子ってことだな』

ジン:

「間違いない」

ユフィリア:

「えーっと?」

リコ:

「金牙竜モルヅァートの2本の牙。その片方、ジンさんに埋め込まれた竜の因子が、共感因子。これは防御的な共感子を発する力だったの。もう一方の牙の共感因子は、ニキータさんの神護金枝杖に与えられて攻撃的な共感子を発する力になっているの」

タクト:

「ジンさんのは身体に、ニキータさんのは武器に、ってことだな」

アクア:

「モルヅァートは、戦闘前に防御的な共感因子をジンに埋め込んで移植してしまった。だから、私たちはあのドラゴンにかろうじて勝つことができたのよ」


 ちょっぴりしんみりしてしまう。しかし、約束したのだ。僕は、勝てたことを誇りにすると。


リディア:

「でも、精霊手っていうのは、モルヅァートを倒す前からなんですよね?」

ジン:

「そうだ。誰もが身体には共感因子を持っているらしいからな。それを使ってたんだろう」

シュウト:

「共感因子をもっている武器だなんて、……滅多にありませんよね?」

英命:

「そうですね。魔法が使えてしまうような代物ですから」


 専用のそうした武器がなければ、精霊剣は使えないということになる。

 精霊剣は、だ。ごく身近で似たような現象に心当たりがありまくるのだけど、それはちょっと後回しにしよう。話のコシを折りたくない。


タクト:

「だとしても、オレは修得可能ですよね」

ジン:

「完全特技の例に漏れず、至難だけどな。やってみせようか」

タクト:

「お願いします」

葵:

『あれっ、ダーリンは?』

レイシン:

「すぐ諦めたよ」はっはっは


 上半身の鎧を、ステータス・ウィンドウからマジックバッグにしまって、右腕の服(鎧下)を捲り上げた。準備完了である。


ジン:

「意識を高めることで、気を集める。集まった気の力で、血が集まってくる。ここまでだと極意だから、ここから先が問題だ。血の力、つまり生命力を呼び水として使って、周囲の精霊を集めるんだ」


 ジンのHPがかなりの速度で減り始め、一瞬遅れて超再生が自動的にスタートした。まだ超再生の方が少し早いらしく、ゆっくりとだがHPが全快しそうな状況だ。ジンの腕にどこからともなく白いエネルギーみたいなものが集まってきて、真っ白に輝いていく。


ジン:

「そして極めるとこんな風になります……!」

シュウト:

「ちょっ!?」


 清らかささえ感じていたのに、禍々しさを感じる形状にシフトしていった。暴力的なまでの力の奔流が、腕から漏れ出して溢れかえる。空間が軋んで、こちらの身体まで振動を及ぼすほどだった。


ジン:

「まぁ、ざっとこんなもんだ」キリッ

シュウト:

「さっき、オーラセイバーよりちょっと強いだけって言ってましたよね!?」

ジン:

「いや、途中で創造神の声が聞こえてな。『精霊手ならもっと派手にやっちゃっていいよ』って言うもんだから(笑)」

シュウト:

「創造神って、どんな言い訳ですか」

葵:

『それもうドラゴンフィストとかじゃん。……竜の因子が追加されたことでパワーがあがったんだべ?』

ジン:

「そんなところかな。……待てよ。これなら竜闘気(ドラゴニックオーラ)を圧縮して撃ち出す、あの伝説の技が? くっそー、オーラキャノンみたいな技があれば~」

葵:

『ああ、ドルオーラしても飛ばす方法が無いんだ?(笑)』


 精霊力を発射する手段がなくて頭を抱えていた。地味に噛み合っていない感じからすると、本来〈武闘家〉用の完全特技なのかも?


リコ:

「それ、タクトでも修得できますか?」

ジン:

「がんばり次第ってとこだな。正規ルートだと難易度が半端ないことになるな。むしろ、出血ダメージを利用して、精霊と交信する練習した方が近道かもしれねぇなー」

葵:

『〈召喚術師〉が練習に付き合ってあげたら、効率がちょっとは上がるんじゃない?』

リコ:

「がんばろっ! 精霊拳? 精霊手?を修得して、オーラキャノンしよ!」

タクト:

「あ、ああ……」


 途方もない難易度に引き気味のタクトと、それに気付かず、役に立てそうなのを喜んでいるリコ。タクトは融通が効かないタイプだから、正規ルートで精霊拳までたどり着きたいだろう。しかし、完全特技の難易度だと数年掛かりでも修得できないかもしれない。

 オーラキャノンのオーラを、全て精霊力に転換した『精霊砲』が本当に実現できたら大したものだ。……HPは全損しそうだけど。


ユフィリア:

「それで、何が秘密だったの?」←しつこい

ニキータ:

「ちょっと待っててね?……あの、シュウトの事なんですが」

ジン:

「ああ、その話もあったな」

シュウト:

「あのぉー、精霊の矢とかの話でいいんですよね?」

ユフィリア:

「精霊の矢がどうかした?」


 僕にもなにが言いたいのか分からないので答えようがない。


英命:

「そうですね。……現代ファンタジーでは、エレメンタルを精霊と解釈するようになってしまったようですが、精霊を正しく訳した単語はスピリッツです」

ユフィリア:

「スピリッツ?」

ジン:

「スピリッツは霊だの魂だの妖精だのをひとまとめに扱っているだけだから、精霊をエレメンタルと呼ぶのが間違っているとは限らないという可能性がなきにしもあらずだと思うんだがな(苦笑)」

葵:

『苦しいっつの(笑) 英語としてはスピリットだね。もともと火のエレメンツと呼んだのを、火の精霊ってのと勘違いしたんだと思うよ。エレメンタルは要素とか元素だから、火の元素ってことなんだ』

ユフィリア:

「???」

ジン:

「あー、つまり、『私は火のエレメンタルの精霊です』と自己紹介するのが正しいんだ。でもそれじゃ、ちょっと長いってのもあるし、火の精霊が自分を紹介する場面で、自分を『精霊です』と言うかどうかって話もあるからであってだな?」

リコ:

「自明だからってことですね?」

タクト:

「そう言われてみると、エルフやドワーフに対して、人間ですとかって自己紹介はしないか……」

リディア:

「〈冒険者〉です、とは言うかも?」

ウヅキ:

「そりゃ、〈冒険者〉かどうかは見た目じゃわかんねーからだろ」


 ちょっと勘違いがあったらしきことはわかったけれど、これが何の話だったかはよくわからない。


ユフィリア:

「結局、どういうこと?」

ニキータ:

「エレメンタルとスピリッツは違うってことね。……つまり、シュウトの精霊の矢には、もっと大きな可能性があるの」

シュウト:

「大きな可能性……?」

英命:

「精霊剣は何属性の精霊でしたか?」

シュウト:

「え……」

リコ:

「あっ!」

タクト:

「じゃあ、エレメントじゃなくて、スピリッツだったってことか」

ニキータ:

「〈四天の霊核〉の力を使えば、全属性の矢を作れる可能性があるかと思って」


 ――可能。ただし、膨大な魔力量が必要。



シュウト:

「矢筒はできると言ってます。ただ、膨大な魔力量が必要なのだとか」

リコ:

「膨大な魔力かぁ~。そんなの引っ張ってくる方法なんてある?」

リディア:

「……ある! 膨大な魔力を供給する方法。〈インフィニティフォース〉!」

ウヅキ:

「おお?」


 盛り上がる仲間たち。しかし、ジンや葵は冷淡だった。


シュウト:

「……もしかしなくても、完全に分かった上で放置してたんですか?」

ジン:

「まぁな」

葵:

『当然っしょ』

シュウト:

「……ちなみに、それはなぜ?」

葵:

『そりゃ、自分で思いつくかなぁ~って?』

ジン:

「どっちみち、強すぎる力には色々と制限が付きまとうからなぁ。矢筒はモルタル野郎のだから上方無限だろうけど、矢で飛ばせるかは結構ビミョーだぞ?」

シュウト:

「そうなん、ですか?」ぱちくり

葵:

『まっすぐ飛ばないぐらいならまだしも、射出器の弓が壊れたりするかもだよね。教えるにしても、ラスボス直前とかっしょ』


 そう言われてしまうと実験してみることもできない。……予備の弓で? いやいや。矢筒にしても、作れるとは言っても、飛ぶところまでは保証できないみたいな回答をしてきた。これ、割と悪質な詐欺だと思う。


葵:

『四天の矢、もしくは「精霊王の矢」とかって感じかな?』

ジン:

「実現すれば、俺だろうと即死の超必殺攻撃かもしんねぇな」

シュウト:

「でも、パーティー・プレイ前提ですから(苦笑)」


 ソロ戦闘で倒さなければ、勝ったうちにカウントできないし、するつもりもない。


葵:

『とりあえず、ジンぷーすら未到達の100万点ダメージの大台にのるかもだぁね?』

ジン:

「ちょっと待て。……わっかんないじゃん。カインと戦った初戦のファイナルエンドが100万行ったかもしんないじゃん!?」

葵:

『ないない。せいぜい70万ぐらいだから』

アクア:

「はいはい、今度、訊いておいてあげるわよ」

リコ:

「誰に……?」


 ド正面からブロードバスタード1本を犠牲に放ったファイナルエンドのことだろう。250までレベルブーストしていたから、かなりのダメージ値だと思われる。

 ……こうして張り合ってくれるのなら、100万ダメージにちょっと魅力を感じてきたというか(笑) 現金なものだけど。


ジン:

「パーティープレイ用の技ってんなら、俺が手伝ってやる手もあるぞ?」

シュウト:

「そうなんですか?」

ジン:

「真っ直ぐ飛ばないのはレベルブーストすれば大抵どうにかなる。矢だけ作って、俺が〈パワーショット〉で撃ってもいいし」

葵:

『うーわ、きったねー(苦笑) 横からかっさらおうとしてんよ、コイツ』

ジン:

「んなことするかよ!」

葵:

『そもそもあたんねーじゃん、パワーショット』

ジン:

「まぁ、当たらないけど(笑) ……あとは、弓が壊れるってんなら、竜の魔力(ドラゴンフォース)で保護してやれなくもない」

シュウト:

「それは、お願いしたいです!」

ジン:

「弦が切れても、張り換えりゃいいんだろ?」


 耐久値が全損するとかじゃなくて、完全に壊れて二度と使えないことを想定している模様。100万点攻撃とかって、そういうレベルらしい。


ユフィリア:

「それで、ジンさんの秘密ってなんだったの?」

ジン:

「うん、難しい問題だな」

ユフィリア:

「……今度の二十日(はつか)が私の誕生日なんだよ?」

ジン:

「ああ、知ってる。唐突にどうした?」

ユフィリア:

「だから、ジンさんの秘密を教えて欲しいなって」

ジン:

「誕生日プレゼントってこと?」

ユフィリア:

「だめ?」

ジン:

「その日は、俺が『大人のキス』をプレゼントするから」

葵:

『自分がしたいだけだろ』


 けっこうワクワクしているみたいで、期待の瞳でジンを見ていた。


ジン:

「大した秘密じゃないんだけどなぁ。……ちょっとだけだぞ?」

ユフィリア:

「うん!」

ジン:

「はぁ、なんでこんな色気のない話を……」

葵:

『まぁまぁ(笑)』

ジン:

「……まず、自然の生命力は精霊っつったけど、宇宙は気が満ちていて、あんまり精霊って感じはないんだ。このことからも生命があるから、精霊の力があるっぽいんだな。そうしてみると、『気』と『マナ』とがあって、中間に精霊かも?って感じになってくる」

シュウト:

「はぁ……」

ジン:

「生命をリソースとして支払うことで、精霊にアクセスできる。当然ながら魔力でもアクセスできる。その場合、魔法としてはエレメンタルだ。本当はソーサラーとシャーマンは別だとかの文脈があるんだけど、ここでは省略な。生命を使う場合は大まかにしかコントロールできないからスピリッツってことだ」

葵:

『つまり、生命力だとえり好みできないわけだ』

ユフィリア:

「ふんふん」こくこく

ジン:

「HPで操作できる力だから、MPを使うスキルとかけ算が可能になっている、とも考えられる。じゃあここから逆に、オーラセイバーって何?ってことになるよな」

タクト:

「はい……?」

ジン:

「気ではない。じゃあ闘気って何?ってことだ。精霊力かって言われると、似ているけど、そのものではない。大きくメタに考えて、人間も生命体だから、その生命の力って考えられるんだよ。つまり人間のスピリッツがオーラってことになりそうな訳だ。てことは? 人間は精霊かってことが問題だ。まぁ、物質的な身体があるから、カテゴリとしては妖精の一種というべきだが……」

リコ:

「ちょ、ちょっと飛躍していませんか?」

ジン:

「そうかー? この世界のヒューマンって、エルフ・ドワーフと並べられてんだぜ? じゃあアルヴってなんだ?ってことにならねーか?」

リコ:

「それは……」

ジン:

「ハーフアルヴが生まれることを考えても、この世界のこの時代の人間には『程良くアルヴの血が混じって』いる。そこは間違いない。そもそも魔法を使える人間ってだけで、充分に特殊だわな。俺たち現実世界の人間とは異なり、この世界の人間は、俺たちから見ればほぼ妖精みたいなもんだってこと。その生命の力は精霊と本質的に同じものと考えられる。それが闘気、オーラってことだろう」


 そう言うと、黒翼剣を手に持った。


ジン:

「オーラセイバーが使える関係から、オーラであれば剣に纏わせることが可能だ。オーラとは、気ではなく生命の力だから、精霊を集める要領で、しかし精霊を集めるのではなく、自分の生命力を送り込んでやる」


 オーラセイバーと同じ輝くライトエフェクトが剣を覆っていた。つまり『オーラ』ということだろう。


ジン:

「しかし、『これ』にはオーラセイバーと同種の効果はない。じゃあなんなんだ?って話だな」

英命:

「生命因子、なのでしょうね」

葵:

『オーラセイバーはMPを使っている現象ってことかな? 更にいえば、精霊は両方の性質を持つところから、マナを内包していると考えればいいのかも。だんだん分かってきたぞ!』

ウヅキ:

「ちょっと待てよ。そのオーラに、魔力を込められりゃ、オーラセイバーが再現できんじゃねーのか?」

葵:

『……そうか! 完全特技が可能なら、特技を手動で行う「再現特技」もありうる。そうした再現特技は、完全特技の性質をもつことになる!』

ユフィリア:

「えっと?」

ニキータ:

「技後硬直や再使用規制なしで、普通の特技を使えるってことね」

ウヅキ:

「おいおい! それじゃアサイシネイトを連発できんのか!?」

ジン:

「いや、第三のリソース『時間』の関係から、毎秒アサシネイトとかはさすがに無理かも。それでも、ゲーム的な都合・制約による『長すぎる再使用規制』はカットできると思う。長くても1分とか、30秒とかのペースで使えるようにはなるんじゃないか?」

ウヅキ:

「1分でも充分すげえだろ……」

ジン:

「こうした生命力と魔力とを合成した技術を、仮に『精魔剣』と呼ぶことにするが、これこそが現状で考えられる究極の剣技だろう」

葵:

『だよなぁ。これまでシステム・アシストなしじゃ使えなかった特技って、「人間の上を行くもの」だったわけだべ? でも精魔剣で再現特技ができれば、システム特技をようやく超えられることになるわけだかんな!』

ジン:

「そうなるといいんだがなぁ(苦笑) なんと言っても、魔力コントロールの難しさはどうにもならない。予想するに、それぞれが得意な属性に絞って訓練するしかなさそうでな」


 ここでもエレメンタルの問題が顔を出すらしい。火が得意な人は、火炎系の再現特技は可能だけど、氷を使った再現特技はできないってことになるのかもしれない。


英命:

「その場合、再現特技は『クラスに縛られたもの』になるのですか?」

ジン:

「気付かれたか(苦笑) まだまだ未研究の分野だが、別クラスの特技を再現するのも不可能じゃないと思う」

シュウト:

「じゃあ……!」

ジン:

「どうしても使いたい特技があるなら、訓練するのもいいと思うけど、かかるコストに見合うリターンがあると思わないことだ。俺がアサシネイトやダンスマカブルを使っても、専門職同様の威力にはならない。ぶっちゃけ、余所のクラスには欲しい特技がないってのが本音だ。魔法が使えるようになるわけでもないしな」

アクア:

「それが賢明ね」

葵:

『ジンぷーの領域まで来るとそうなるか。……もっと別の、そう、〈古来種〉の特技でもあれば別かもしんねーな』

ジン:

「そうだな」


 〈古来種〉の特技と言われたら、確かに魅力的だ。とはいえ、エリアス・ハックブレードのアクアなんちゃら~とかいう技だと、水流が飛んでいってまるで魔法みたいだ。アレは流石に真似られるとは思えない(苦笑)


ユフィリア:

「ねぇ、どうしてジンさんは〈竜破斬〉を使っているの?」

ジン:

「ファッ!?」ビキッ

ユフィリア:

「その精魔剣がきゅーきょくだったら、どうして〈竜破斬〉ばっかりなの? どうして?」


 目が泳ぎ、少し肌寒いにも関わらず、汗を流していた。


葵:

『どうやら……』

英命:

「ええ」

ケイトリン:

「核心を突いたな」ニヤ


 精魔剣と再現特技に至る怒濤のラッシュで誤魔化しきれると思ったのだろう。しかし、ユフィリアは飛び越えてしまった。僕らの頭では追いつかない理解の先へと飛躍したのだ。

 

葵:

『言われてみれば確かに変だったわー。ジンぷーなら「ネギま!」だって読んでいるし、咸卦法のことは理解しているはずだよなー。……んで?』

ジン:

「ハァ。……生命力と魔力とを巧いこと混ぜると、消滅するんだよ。消滅の力の利用法は基本ふた通り。片方は、ポップのメドローア。消滅エネルギーでもって敵や対象を消滅させる攻撃に使うものだ。モルタルのドラゴンテンペストも近い領域の攻撃だったな」

シュウト:

「もうひとつは?」

ジン:

「お兄さまのマテリアルバースト」

リコ:

「お兄さま?」

葵:

『当然、その辺がくるわなー(笑)』

ジン:

「極大のエネルギーを発生させる方法は、物質をエネルギー転換するもので、要するに『核エネルギー』のことだ。核エネルギーを取り出す方法は、核分裂か核融合。もう一つ似たような現象があって、反物質と通常物質の衝突で発生するエネルギー、いわゆる反物質爆弾の方法になる。消滅の力ってのは、反物質的な使用法がありうるというか……」

シュウト:

「つまり、それらの技術を用いているのが……?」


 極小にして極大、ジンの必殺攻撃〈竜破斬〉だった、ということだろう。


ジン:

「……そんな単純な話じゃねぇよ(苦笑) 理論と実践は別物。魔力コントロールなしじゃどうにもならないから、再現特技はお蔵入りしてて、精魔剣も使ってない。システム・アシスト様のお力添えをいただいて、極小の特技で消滅力を使って、ブーストさせて、いろいろゴチャゴチャやって、非属性化させたんだ。……後は知っての通り」


ユフィリア:

「でも、それがあれば勝てるんだよね!」

ジン:

「……いや、どうだろうな?」

葵:

『ジンぷー?』

シュウト:

「ジンさん……」


 重苦しい雰囲気が立ちこめる。先行きの不安が天候まで曇らせたような気がしてくる。満天の月夜のままなんだけども。


ジン:

「カインの絶対的な自信の裏にあるものが何かってことだ。もしかすると何か見逃しているのかもしれない……」

葵:

『心配しすぎだって!』

英命:

「……〈共感子〉(エンパシオム)を強化した実験的な人類種ということですしね。その力はアルヴ族を上回ると考えて良いでしょう」

ジン:

「ヒントが欲しい。なにか切っ掛けがあれば……。ぶっつけで探り入れるしかないのか……?」

リコ:

「こういう時にモルヅァートがいてくれたらなぁ~」


 数ヶ月すればリポップする可能性はあるんだろうけれど、どこに出現するのか分からないし、出会えたとしても、もう僕らの知っているあの友人ではなくなっているだろう。


葵:

『……そういえば、どうしてモルヅァートって負けたんだろ?』

アクア:

「典災も〈共感子〉(エンパシオム)を使うからってこと?」

ジン:

「間違いないだろう。巻き込まれた〈竜翼人〉がいた。状況から見て、負けていたのを途中でひっくり返したんだろう」

シュウト:

「たぶんオーバーライドですね」


 最終的にオーバーライドがあれば何とかなると思いたい。けれど、今回は嫌な感触が長く後を引くことになった。

 


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