227 ノーマル
ダンジョンへの移動が簡易転移魔法陣で時短されたことにより、朝の自由時間が延長されていた。自主練しようかと思っていたが、なぜか人が集まっていて、その中にジンの姿を見つける。珍しい気がして、声を掛けておくことにした。
シュウト:
「おはようございます。……これって、何してるんですか?」
ジン:
「おう。ゴーレムの改良ってヤツだな」
料理部門長のミゲルは〈召喚術師〉なのだが、どうやら『ゴーレム使い』でもあるらしい。そんな彼のゴーレムを改良するのだという。
ゲームが現実化したことで、〈召喚術師〉はかなり需要が高まったクラスだ。飲み水や、調理用の火力などの大半を召喚生物で賄っていることもある。生活を支えるのに欠かせない能力を数多く保持しているからだ。
一方で、戦闘力の強化はもっとも難しいクラスになってしまった。考えられるとすれば、召喚生物の『新しい使い道』を考案するか、『新しい召喚生物』と契約するか、ということになる。前者は口伝ということになりそうだが、戦闘中にあまり複雑なことをしている時間も余裕もない。後者は『新しい』からといって『強い』とは限らないのがネックになる。〈大規模戦闘〉に挑戦して新しい召喚生物をみつけても、マイナーチェンジ的な能力の召喚生物だったりはしょっちゅうだった。
シュウト:
「強化ですか。……問題は、ランクが『ミニマム』ってことですよね?」
ジン:
「ああ」
〈召喚術師〉の実力は、召喚生物1/3、術師本体2/3の合計と言われている。ミニマムランクの召喚生物を強化しても、術師より強くなれる訳ではない。アキバでもゴーレムの改造に挑むプレイヤーの噂は耳にしているが、僕はそこまで詳しくはない。
葵:
『甘いな、シュウ君。その程度のことは想定内だじぇ!』
シュウト:
「えーっと、実際問題どうするんですか???」
葵:
『無論、ナイツマする!』
ジン:
「無論て、おい! まさかネタをパクろうってのか!?」
葵:
『アニメ化したんだから、もはや既知情報じゃよ』ふぉっふぉっふぉっ
シュウト:
「あの、ナイツマってなんですか?」
ジン:
「ナイツ&……、説明が面倒くさい。聞き流せ」
たぶん漫画か小説の話なのだろう。アニメ化って言ってたし。
葵:
『ゴーレム・パンチだのの攻撃力に期待してもしょうもないから、別に攻撃用ギミックを用意し、その運搬と運用補佐に利用する。つまり!ゴーレムの方を「備品」として扱うことにする!』
ジン:
「またありがちな(苦笑) てか、人様のゴーレムをどうしてお前が……」
ミゲル:
「物は試しだ。構わんからやってくれ」
葵P:
『本人の許可、頂きました!プロデュースは任された! そして城攻めなんかに使われる大型のボウッ!ガンッ!と合体させる!!』
ジン:
「まんま『ナイツマ』じゃねーかっ!」
葵P:
『あっちはパワードスーツだけど、こっちはゴーレムだしぃ~♪ ぜんぜん違うしぃ~♪ こんなの誰でも思いつくしぃ~♪』
なんだろう。なんだかもの凄くダメな匂いが……。
マリー:
「試作機できたー。ゴーレムのパワーで、大型ボウガンの弦を引けるようになってる、はずー」
葵×マリーのコラボ作品らしい。ダメな匂いがいっそう濃く漂い出したのは気のせいだろうか……?
葵P:
『名付けて、ゴーレム・スナイパーカスタム。試作機をロールアウト、だっ!』
ジン:
「スナカスって……。まぁ、形状的にはジムキャノン、か?」
ミゲル:
「どれ、試してみよう」
ミゲルがゴーレムの背中に張り付く。足場や取っ手が増設され、ゴーレムの背中に掴まってって移動できるようになっていた。そうなれば当然、正面からの攻撃はゴーレムが盾代わりになるのだろう。
右肩に設置された大型ボウガンに、専用の矢をミゲル自身が装填する仕組みのようだ。腰に設置された巻き上げ装置のレバーを用いることで、ゴーレムのパワーを使い、ボウガンの弦を引けるようになっている。……短時間で作業した割に、本格的な改造だった。
葵P:
『うっし! 続けて試射もいってみっか!』
シュウト:
「あのー、アレって狙いはどうやって付けるんですか? なんか、がっちり固定されてる様に見えるんですけど」
葵P:
『えっ……?』
マリー:
「あっ……!」
ジン:
「まさかとは思うが、お前らのオリジナリティってのは、そのアホさ加減のことなのか?」
葵P:
『あれれっー? ナイツマってどうなってたっけ?』
ジン:
「腕に装備」
葵P:
『そうだったー!?』ぎゃぴー
マリー:
「むぅ。左右に狙いを付ける場合、巻き上げ装置の設計をやり直し……」
ミゲル:
「左右の狙いはゴーレム側で行えばいい。上下にだけ動くようにしてくれ」
マリー:
「それならなんとかなる」コクリ
案の定というべきか、試作機はダメ出しされて中止になった。さっそく改良に取りかかる。
シュウト:
「……それにしても」
かなり大型のボウガンだ。船や城壁の上に設置するタイプだろうか。人間相手にはまったく必要のないサイズであり、巨大な魔物に撃ち込むのに使いたい代物というか……。人が運用する場合、持ち運びするのは現実的ではない。しかし、こうしてゴーレムにセットすれば、一応、移動することもできる。
シュウト:
(というか……)
たぶん、矢筒や〈四天の霊核〉の能力なら、アレの矢も用意できる。大型ボウガンによる連射攻撃。戦法のひとつとして覚えておいた方が良いかもしれない。
シュウト:
「あの、ジンさん」
ジン:
「んー? なんぞ」
シュウト:
「こういうのって、口伝になるんですかね?」
ジン:
「さぁ? ……口伝だとして、誰の口伝かって話になりそうな気もすっけどなー。アイデアはアキバ発だろ。具体的に考えたのは葵かもだけど、大型ボウガンとか用意できる〈スイス衛兵隊〉も大概だわな」
シュウト:
「ですね(苦笑)」
料理が口伝なら、ゴーレム改造も口伝ということになるのかもしれない。アキバの噂話からゴーレムを改良することにして、話をこじらせたのが葵ということになりそうだ。
一方で、大型ボウガンはたぶん『レシピ』を持っていて、この場で素材から生み出したのだろう。街でやるなら分かるが、〈大規模戦闘〉中のキャンプでやってのけてしまう辺りが、ちょっと頭おかしい人たちではある。
ジン:
「しかし、〈召喚術師〉にしておくのは、ちょい惜しい人材だな」
シュウト:
「……?」
ダンジョン攻略へと出発するまでに、改良を無事に終えていた。ミゲルはゴーレム・スナイパーカスタムを駆り、この日、斯く斯くたる戦果を上げることになった。
◆
ジン:
「どうだ?」
葵:
『うん、間違いない。大玉ころがし、だーね』
シュウト:
「…………」
〈ペルセスの地下迷宮〉の攻略は順調だった。戦闘だけなら問題なく、今日中にレイドボスのところまでたどり着けそうな気がする。しかし、罠・ギミックの類いはそうもいかない。あると分かっていて、それでも行くしかないような罠の足止めを食う。迂回ルートがあれば迂回するのだが、解除方法が分からないものは、強引に突破を図るしかなかった。
レオン:
「いつでも行けるぞ」
ジン:
「よし、いくぞ!」
数度の実験の後、大玉を止めるのがベストだと判断した。
通路に飛び出したジンとレオンが坂を駆け上がる。玉に加速が付く前に、止めてしまおうという作戦だった。
ゴゴンッッッ!!
天井から大玉が現れ、通路へと落下。轟音が鳴り響く。時間が止まったかのように揺らめいたかと思うと、間をおかず、ゆっくりと加速を開始する。
ジン:
「〈竜鱗の庇護〉!」
駆け上がりながら、ウロコ盾1枚目を飛ばすジン。しかし、正面からでは押しとどめることが出来ず、1秒と持たずに破壊される。
葵:
『下だ! 差し込め、ジンぷー!!』
ジン:
「だらっ!」
大玉と床の接する面に、ウロコ盾2枚目が突き刺ささるように放たれた。ひび割れが大きくなるが、巨大な玉がフワリと浮くような挙動をみせた。ノータイムで3枚目が、空中の大玉を押し返すように、叩きつけるように放たれる。
ジン:
「ブースト!〈ステップオーバー〉!!!」
強引に突破を図り、罠を一時停止させる特技〈ステップオーバー〉をブーストして放つ。……流石に大玉が砕け散ったりはしなかった。
ジンとほぼ同時にレオンも体当たりし、大玉の進行を阻害しに掛かる。
レオン:
「グウッ!!」
ジン:
「重てぇ!!」
大玉の回転は止まったが、踏ん張っているジンたちの位置が少しずつ下がって来ている。ブーストした〈ステップオーバー〉でも、大玉の落下を阻止するところまでは行かないらしい。(回転しないだけマシ?)
葵:
『止まらないか!?』
シュウト:
「……ッ!」
咄嗟に体が走り始めていた。ハッキリ言って無駄かもしれない。でも、あの2人を黙って見殺しにすることはできなかった。ジンとレオンの間に入り込むと、肩から体当たりをかける。一瞬遅れて、レイシンとタクトが左右からぶつかっていった。ズルズルと落ち続けていく大玉の勢いが少し、弱まった気がした。「足ネバ、足ネバ……」とつぶやきながら、必死で支える。
ユフィリア:
「ジンさん、がんばって!」
ジン:
「おおおっ! オーバーライド!!」
真っ白く、眩い意識光が弾ける。飛び込んできて正解だった。ジンに必要な『一瞬』を生み出すことが、きっと僕らの役割なのだろう。
ジン:
「よし、OKだ」
片手で大玉を押しとどめるジン。溢れ出る力が皮膚越しに感じられるようだった。かなりの高レベル状態なのだろう。従って、あまり時間はないと思うべきだ。敵がいない状況でオーバーライドをするのは負担が大きい。
タクト:
「さすが……」
葵:
『つか、体重だの質量だのの限界だとか、ぜんぶ無視してんよな?』
レオン:
「ああ。だが、レベルとはそういうものだろう?」
レイシン:
「はっはっは」
アクア:
「安全地帯を確保!」
葵:
『うし、順に離脱するよー』
こうして死者ゼロでの突破に成功した。
◆
ヴィオラート:
「ジン様、お疲れさまでした!」
大玉を回避した先で休憩になった。さっそくヴィオラート様がやってきて、ジンに絡みつく。だんだんと遠慮がなくなって来ていた。こうしたことの回数が増えると、こちらもだんだんと気にしなくなる。
シュウト:
「ちょっと思ったんですが、このレイドって、ジンさん無しだと厳しすぎませんか? かといって、ジンさんがいれば楽勝って訳でもないんですけど……」
葵:
『ああ、案外、そーなのかもよ』
ネイサン:
「なんの話? 主語かなんかがないような感じだけど」
スタナ:
「私たちにしかクリアできないバランスなのはおかしいってことでしょう? 考えられるとしたら……」
葵:
『援軍だね。〈古来種〉のサポートが前提だったのかもしんない。ガイドを兼ねてというか、1人といわず、2~3人とか』
ヴィオラート:
「内容的に、負けるとかなり危険なレイドですしね……」
複数の〈古来種〉がサポートで出てくるレイドは、確かに危機感を煽る演出としてアリかもしれない。
葵:
『そうしてみると、ジンぷーがここで〈古来種〉っぽい力に目覚めたのも辻褄が合うってゆーかね』
ジン:
「じゃあ、システム側の都合ってか?」
葵:
『んー、最低でも〈古来種〉が1人「いなきゃいけなかった」のかも』
矢筒が最初に喋った時の、『護るための力』だとかの言葉をなんとなく思い出す。しかし、〈古来種〉に選ばれるにしても、ジンである必要があったのだろうか……? 誰よりも強いから、さらに力に選ばれたのか? 介入される余地という点で考えてみれば、『誰よりも不安定』だったから、となりそうなものだ。ということは、安定してしまったら、弱い状態のまま固定される、のかもしれない。
マリー:
「ふむ。時間改竄もののストーリーで見られるような、世界改変、いわゆる『辻褄合わせ』のようなものがあるとしたら、予定調和的なストーリーの存在を意識する必要がある、ことになる」
葵:
『メタ・ストーリーだね。常に意識してるよん』
スタナ:
「本来のストーリーから離れ過ぎている場合、調整が入ってプラスに働くのなら、ありがたいことだけど」
葵:
『問題は逆の可能性だぁね(苦笑) まー、確かに、ちょこちょこマイナス調整入ってる気がしないでもない(笑)』
アクア:
「そんなこと言って、最悪のマイナス調整が入っても知らないわよ?」
あんまりシャレになっていない気が、する……(苦笑)
話は変わって、マリーからのお願いされることになった。ヴィオラートがジンの左腕に絡みついている関係で、マリーが近くにいるってことなんだろう。
マリー:
「お願いがある」
ジン:
「俺たちにか? なんだよ」
マリー:
「〈幻影宝石〉を確保して欲しい」
ジン:
「……なんだそりゃ?」
シュウト:
「えっと、〈幻影宝石〉は、時計仕掛け系モンスターの指揮官みたいなモンスターです。限られたレイドにちょこっと出てくるぐらいなんですけど……」
ラトリ:
「知ってるんなら話は早い。それをちょっちょっと巧いこと確保できないかな、って」
ジン:
「壊すなっつーことか?」
日本サーバーの場合、ミラージュとジュエルを重ねて表記してしまった関係で、〈ミラージュエル〉と呼ばれている。言語が自動翻訳されている関係で、下手すると『鏡の宝石』とかになりそうなので、僕は〈幻影宝石〉と呼んでいる。
しかし、そうしたモンスターが存在することと、強敵なことぐらいしか知らない。確保する目的なんかは想像も付かなかった。
マリー:
「AIアイテムの素材に使える可能性が高い」
葵:
『ほう? 念のため、どういうこと?』
ラトリ:
「〈幻影宝石〉を宝珠として埋め込んだら、AIアイテムになればいいなーって」
ジン:
「そのまんまじゃねーか(苦笑) そもそもAIアイテムって役に立つのかよ?」
ラトリ:
「うーん(苦笑)、ウチのギルドには何個かあるんだけど、惜しいんだよねぇ~」
シュウト:
「そう言われてみると……」
アキバで有名なのは〈西風の旅団〉の『剣聖』ソウジロウの持つ〈小烏丸〉だろう。実際に見たことはないが、烏天狗のエフェクトが現れるらしい。そうしてみると、〈幻影宝石〉と似ている。武器から人型の幻影が出るか、宝石から幻影が出るかの差ということになりそうだ。
ジン:
「なにが惜しいんだよ? だいたい、お喋りアイテムなんてボッチ用だろ? そんなんいらねぇぞ」
葵:
『TRPGからの流れだと、GMが助言するために生み出されたのかもしんないんだけどねぇ(苦笑) まぁ、ペッパー君とか秒で飽きそうだもんな(笑)』
ラトリ:
「いやいや、お喋り機能はみんなオフにして使うから(笑) ヒントなんて役に立たないし、レイド中に無駄話されてログが流れると、勝敗に影響しちゃうでしょ」
AIアイテムは幻想級なので、レイドに行かないと手に入らない。レイドに参加して入手可能な時点でボッチではないため、お喋り機能とかは無用の長物ということになる。生まれからして悲しい存在の気がしてきてしまった。
マリー:
「問題はゲーム世界に移動してきた現在。こちらの世界だと、ある程度の人格形成が確認できる」
葵:
『ほへー。んじゃ、こっちに来てからは役に立ちそうなんだ?』
ラトリ:
「もともとHP残量とかの条件にあわせて、特殊な特技を発動したりはしてくれるんだけどね。あとは、オートアタックで自動的に戦ってくれたりとか?」
ジン:
「特技かぁ。でも、いらねーなー(苦笑)」
それでもジンは否定的だった(笑) 特殊な特技と言っても、役に立つかどうかは博打でしないからだろう。幻想級装備でガチャとか言われたら、僕だって走って逃げる。
逆にいえば、狙って作れるならガチャにならない。そのための確保要請、ということか。
ラトリ:
「そもそも、〈幻影宝石〉って、アルヴ族を滅ぼされた恨みで自動的に攻撃してくる設定らしくて」
ジン:
「じゃ、ダメだろ」
葵:
『あー、「この中」なら、確かに例外になりそうなもんだ』
ラトリ:
「そうそう。だけどその代わりに、吸血鬼の封印を守るために戦えって命令されてると思うんだよね」
ジン:
「じゃ、ダメじゃねーか(笑)」
ヴィオラート:
「盲目的な恨みよりは多少マシかもしれませんが、使命感を持っているとしたら、同じぐらい厄介な感じでしょうか」
ジン:
「だろうな」
マリー:
「でも、1個ぐらいなら話が通じるかも」
研究熱心というか、知的好奇心を満たしたい感情らしい。それは僕も共感するところだ。話が通じる相手とも思えないけれど、初めから無理だと決めつけるのも良くない気がする。
ヴィオラート:
「ところで、ジン様の異性の好みをお訊きしたいのですが?」
ジン:
「ん? 俺の好み? かなりノーマルだな」
ヴィオラート:
「そうなのですか? では、髪の長さは?」
ジン:
「スキンヘッドとベリーショートは流石にヤダな。あとは長かろうが、短かろうが、似合ってりゃ良くね? むしろチリチリパーマは好きくないってぐらいだぞ」
葵:
『いや、ジンぷーは長い方が好きだね!』
ジン:
「なんでテメーが俺の好みを語ってんだよ!」
葵:
『(無視)こいつ、髪型の変化に弱いんよ』
ヴィオラート:
「そうなのですか!?」←激しく食いつく
葵:
『結んでたのを解いて、サラサラーってやると喜ぶんよ』
ジン:
「ぐふっ!?」←つうこんのいちげき
ヴィオラート:
「なるほど! 髪型に変化を付けるには、必然的にロングって事ですね」
ネイサン:
「でも、それノーマルだよね」
ラトリ:
「別に普通だと思うなぁ~」
普通かどうかは知らないけれど、アブノーマルにならない範囲の好みの問題ではありそうだった。
ヴィオラート:
「では、胸の大きさは?」
ジン:
「いや、胸の大きさとか、変えられないのとか関係ないんじゃ?」
ヴィオラート:
「ただの好みの質問ですよ?」
葵:
『こっちの世界なら外見の変化は可能だしなー』
ジン:
「小さいよりは大きい方が好きですが、なにか?」
ネイサン:
「ノーマルだ」
ラトリ:
「ノーマルだね」
ジン:
「あんまちっちゃいと子供っぽいというか。でも大きすぎて垂れちゃうのはアレなんで、そこそこ大きいぐらいが一番じゃね? でも言っとくけど、豊胸手術は無しだ。それは小さい方がマシ」
ヴィオラート:
「では、わたくしぐらいの大きさは?」
ジン:
「大変、ケシカ……すばらしいものをお持ちだと思います」
葵:
『口調が変わってやんの(笑)』
ジン:
「うっせーな! 女性に自分の好みを押しつけようだとか、傲慢にもほどがあんだろうが!」
アクア:
「良識が、逆に痛々しいわね……」
確かに居たたまれない気分になってくる。「おっぱいデカいねーちゃんが好きに決まってらーなー!」ぐらい言いそうな人だけに、好みの話がリアル過ぎて、聞いてて恥ずかしい。いや、内容はノーマルだし、恥ずかしい部分はないハズなんだけども。
ヴィオラート:
「では身長は?」
ジン:
「あんま低いと子供っぽいから、低いよりは高い方が好みだけど、俺より高いのはちょっと抵抗を感じるかな」
ヴィオラート:
「では、顔と性格だとどちらを選びますか?」
ジン:
「それも程度問題だろ。顔なんてそこそこで文句ないし。長く付き合っていくなら、性格の方が重要だろ? 金遣いが荒かったり、すぐ浮気したり、特殊な性癖があったりすると生活が破綻するからな」
アクア:
「ノーマル過ぎて、ちっとも面白くないわね」
とかいいながら、なぜか満足げな態度の気がしました。(下手なことを言ったら殺されるけど)
ヴィオラート:
「……年齢。本当に年齢だけが問題なのですね。それ以外だと、私ってむしろ高評価(涙)」
葵:
『それは流石に、自信無くしすぎじゃない?』
紛ごうことなき絶世の美少女です。ユフィリアにも負けてません。(ただし2人とも性格に若干の問題あり?)
質問タイムが終わったのを見計らったかのようなタイミングで、攻略を再開した。
そして問題は9層フロアボス戦で起こった。
ジン:
「なん……だと……?」
スターク:
「うわーっ、クロックメイデン、キター!」
〈時計仕掛けの巫女姫猫〉(クロックワーク・ミコヒメキャット)、日本の、巫女モチーフらしき、人型で、鋼鉄の、時計仕掛けモンスターだ。……誰だよ、デザインしたの。
スターク:
「絶対、日本人のデザインだよ。繊細で、大胆で、わー、最高っ!」
身内の恥的な概念で幻の頭痛を感じてしまう。ピクリとも動かないジンに、一応、声を掛けておく。
シュウト:
「でも、倒すんですよね? ……って、あれ? ジンさん?」
ジンの視線の先には、例のクロックメイデンではなく、別の時計仕掛けがいた。2本足で立つ、猫型の、時計仕掛けモンスター。ケット・シー型だろうか。そちらも初めて見る型だ。身長は60センチもあるかどうか。
葵:
『おい、ジンぷー、まさか』
そのまさかだった。1人でテクテクと歩いて近づいていく。寄ってきた敵モンスターを薙払い、その猫型クロックワークの元へ。そして片膝をつくと、優しく語りかけた。
ジン:
「キミ、……ウチの子にならないか?」
時計仕掛けの妖精猫:
「!?」
戦闘中に相手を勧誘しにいくとか、どんだけフリーダムなのだろうか。
同時に、無視されてむかいつたのか知らないが、例のミコヒメキャットがジンの顔面に回し蹴りを放った。〈冒険者〉を越える、恐ろしい速度の蹴りで、クリーンヒットしたかと思った。けれど、そんなわけがなかった。
ジン:
「残念ながら、俺に巫女属性はない」
顔の前で足をキャッチすると、振り上げて地面に叩きつけた。
ジン:
「ネコミミ属性もない」べしん
再び反対側の地面に叩きつける。
ジン:
「蹴られて喜んだりもしないし」べしん
巫女服を模した装飾というか、外装がグシャグシャに壊れていく。
ジン:
「ドールも趣味じゃない」べしん
あまりの勿体なさにスタークが震える。
ジン:
「もっというと、フィギュアも欲しいと思ったことはない」べしん
叩きつけた衝撃で、靴型アーマーが一部破損し、ジンの手をようやく逃れることに成功した。姿こそヨレヨレだが、HPで見れば7割以上残していた。
一時はどうなることやら?と思ったが、無事に勝利して状況終了。
あの猫型時計仕掛けがいなくなっていたため、ジンは慌てたものの、葵が逃げたのを見ていたため、ほっと安堵のため息を付いていた。
ジン:
「……あれ欲しいなぁ。なんとかならんもんかなぁ~?」
どうやらもう一波乱ありそうな展開だった。




