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223  リヴァイアサン

 

 更なる攻撃パターンの変化に対応するべく、僕らは急いだ。今度は方向転換できる広めの海中スペースに陣取るリヴァイアサン。その正面へと移動する。やはりというべきか、水中戦闘もやらなければならなかったらしい。


アクア:

「いくわよッ!」


 満を持して『水中リゾナンス』を開始。どんどん出力?らしきものが上がっていく。


ヴィルヘルム:

「流石だ……!」


 4.41倍をねじ伏せ、水中でのリゾナンスに成功。普段よりも効果が上がっている気がするぐらいだった。


ネイサン:

「なんだか勢いがあるね」

スタナ:

「攻めましょう!」


 接近して戦うのは難しいようで、ジンは離れた位置からアンカーハウルをメインにヘイトコントロールしていく。包囲した状態から、雷撃の魔法が次々と命中していった。水中で炎の魔法は使いにくいし、氷の魔法は効果があるか疑問なのだろう。フラッシュニードル以外は雷撃属性の魔法が多用される傾向があった。そのせいか、巻き起こる泡で視界が乱されがちになっている。


リコ:

「うーん、MPの回復が遅くなってるような?」

シュウト:

「えっ?」


 自分のステータスを確認すると、リコの指摘通りだった。成功したはずのリゾナンスが機能していないっぽい。それでも普通の永続式援護歌よりは威力があるんだけども(苦笑)


アクア:

「ちょっと、どうなっているのよ?」


 アクア本人も訳が分かっていない様子だ。


マリー:

「弾性の違いが悪影響を及ぼしている」

ジン:

「……悪い男に騙されたのか?」

葵:

『そっちの男性(、、)の訳ねーだろ!』

石丸:

「水と泡とでは弾性が異なるため、音波の進行に大きなロスが生まれるっス」

ニキータ:

「それは、どれくらい?」

石丸:

「通常1500m/sのところ、23m/sまで下がるケースもあるそうっス」


 桁数が唐突に小さく成りすぎてて、ナニソレ?って感じになってしまった。


ニキータ:

「対策とかって……?」

英命:

「泡の発生状況がまばら(、、、)ですので、調整は困難かと……」


 なんとも名状しがたい空気に。……というか水の中なので空気って言葉は使いにくいような? 雰囲気の方がよかったかな。

 どうするんだろう?とアクアの方をチラ見する。


アクア:

「わかったわ。それじゃ、雷の魔法は禁止ね」ドン!


 思いっきりナナメ上に舵を切っていた(笑)


スターク:

「えーっ!?」

ラトリ:

「いやいや、ちょっと待ってよ!」


 慌てる〈スイス衛兵隊〉メンバーたち。


ジン:

「ぷふーっ(笑) ダメだ(笑) オモロ過ぎる! 自分の援護歌を優先って!(笑) わはははははは!!!」

葵:

『ジンぷーめ、ツボりやがった』


 そしてレギオンレイドのメインタンクが轟沈。

 僕は基本的に関係なさそうなので弓での攻撃を続行しておく。プロックで生成した瞳も飛ばして攻撃だ。……というか、これどうするんだろう?


リア:

「雷系がなかったら、攻撃できる魔法がなくなっちゃう!」


アクア:

「それがなに?」ドドン!


 おっかない(小並感)


ジン:

「ばははははははは!!(涙笑)」

葵:

『ウケるwwwww ゆずる気ないわ、ありゃwwwwwwwwwwwww』


 こっちはこっちでさらに大爆笑っていう。


ラトリ:

「まーまーまーまーまー」

ネイサン:

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ」

オスカー:

「落ち着こう、ちょっとみんな落ち着こう!」


 そして宥めにいく〈スイス衛兵隊〉! 完全なる腫れ物扱い……!


スターク:

「アクアってさー! (ドゲシ)ぐえっ!?」 

ラトリ:

「じゃあ、こうしよう! 半々で」

オスカー:

「泡を出す時間と出さない時間を交互にするんだね!」

アクア:

「半々ですって?」ギロヌ

ネイサン:

「んじゃ、6:4で! こっちが4で、そっちが6でいいから!」


 正論で問いつめようとしたスタークを文字通りに蹴り出してしまい、取り囲んでの交渉が始まった。妥協に次ぐ妥協の嵐である。


スターク:

「ちょっと! 今ボクを蹴ったの誰さ!」

ギャン:

「ギルマス、今はそんな場合じゃねーから、な?」

クリスティーヌ:

「些事に構ってはなりません。ここは静観するべき場面です」

スターク:

「そんな場合ってどーいうこと!? ボクが蹴られたって些事ってことなの!?」


 そしてそれが面白くない人がひとり。


ジン:

「なんか俺より扱いがよろしくね? VIP扱いっていうか。 俺の時はもっと、ものすごーく雑だった気が……」

スタナ:

「はぅっ」


 さらに雑に扱った張本人様がうしろで呻いて大ダメージを受けていた。

 絶賛レイド崩壊の危機のまっただ中だったけれど、レイドボスは待ってくれない。新たな必殺攻撃のお時間である。


ユフィリア:

「ジンさん、来るよ!」

ジン:

「なんかやる気が失われつつあるんですけど?」

ニキータ:

「もう、そんなこと言ってる場合じゃ! ユフィも下がって!」

ユフィリア:

「うん!」


 不満たらたらのジンを残して後退。そして発動されるリヴァイアサンの必殺技。


 ――『深淵へ帰する大渦(メイルシュトローム)


ジン:

「なんだあの穴!? って、ちょっ、待て! これはヤバい!?(涙)」

 

 水中に真っ黒な穴らしきが開き、周囲の水を吸い込んで渦を作っているらしい。必死に抵抗するジンだったが、段々と吸い込まれて行きそうになって……。


ジン:

「ロープ、ロープ!!」


リコ:

「でも、水の中じゃイダさん死んじゃいそうだし……」←鋼鉄蜘蛛の話

タクト:

「いや、そんなこと言ってる場合じゃないって!(涙)」


ニキータ:

「……お願い」

ケイトリン:

「(こくり)」


 ケイトリンがモルヅァートのムチを放ち、見事にジンを捕らえた。


ケイトリン:

「……これは、無理」ぱっ

ジン:

「ちょっ!?」


 一瞬で諦めてムチを手放すケイトリン。実の所、そこまで(、、、、)読めていたので、レイシンと僕とでキャッチして役割交代。


ジン:

竜の魔力(ドラゴンフォース)!」


 ジンの側でも腕に巻き付けておいて、竜の魔力を発動。ムチも多少太くなっていた。タクトも飛びついて来て、みんなで綱引き状態に。


ユフィリア:

「おー、えすっ♪ おー、えすっ♪」

スタナ:

「なんて、重さなの!」


 レイドボスの必殺技も最高潮に達しているのか、数人掛かりで引っ張っているのに、まったく動く気配がない。下手すると、必殺技に僕らまで巻き込まれる危険が……?

 ちょっぴり黒い穴にジンの足が入ってしまっている気が……?


ジン:

「あっ! あっ!? なんかいるっ! 穴の中になんか! うわっ、こっちみてるぅぅぅぅぅ!!???」


葵:

『ありゃ、SANチェックだな』


 怖すぎる(涙) 本当に、こころの底から、アタッカーで良かった。


レオン:

「間に合ったようだな」

シュウト:

「レオンさん!」

レオン:

「ぬんっ」


 反対に位置している第2レイドからレオンが颯爽と現れる。もはや救いの神も同然だった。片手で鞭を掴むと、一息で引っ張りあげてしまった。ジンの一本釣りだ。

 水中でうずくまるジン。8000点はたぶん水圧によるダメージだろう。ユフィリアが回復呪文を投射。


ユフィリア:

「大丈夫? ジンさん……」


ジン:

「何かが、俺の足を、触った。ヌメっとしてた気がする……」



石丸:

「こ、これは……(汗)」

葵:

『抵抗に失敗したか。2~3日したら誰にもなにも言わずに失踪したり、自分のノドをかきむしって自殺したりするパターンだぁね』

シュウト:

「ちょっと、なんかわかんないですけど、やめてくださいよ!」


 唐突に叫び出してしまうジン。


ジン:

「うわぁぁああああああ!! いやだー! クトゥルフはダメだろ! 勝てないだろ、普通にぃぃぃぃぃ!!」

ネイサン:

「まぁ、クトゥルフは戦う相手じゃないよねぇ……」

葵:

『こりゃアカン。自分そっくりな誰かを見かけて、気が付いたら入れ替わっちゃってるパターンかも……』


リディア:

「会話に夢中になってレイドボスを無視するのって、良くないと思う」


 とりあえずレオンがメインタンクをやっていた。お任せである。


ヴィオラート:

「大丈夫です!」

ジン:

「ほへ?」

ヴィオラート:

「大丈夫ですよー。クトゥルフなんて出てきません!」


 力強く断言するヴィオラートだった。いや、あなた第3レイドから出てきちゃダメでしょうに(笑)


ジン:

「ほ、ほんとう?」

ヴィオラート:

「はい。だって〈エルダー・テイル〉ですもの。クトゥルフのモンスターを出すなんて、権利関係が難しいことをするはずがありません!」

ネイサン:

「クトゥルフって、二次創作は自由にしていいって解放されてなかったっけ?」

スタナ:

「だからって、ゲームのコンテンツには使えないんじゃないの?」

ヴィオラート:

「つまり、外宇宙からの侵入者なんていないんですよー?」ぴかー

ジン:

「おおおお!」


 どうしよう。今、まさに、信仰対象を見出した、みたいな顔しちゃってるんですけど! 聖女オーラ(パンダ型)にやられそうになっちゃってるんですけど!


葵:

『とかいって、典災が外宇宙からの闖入者って可能性はあるんだけどな!(笑)』


 こっちはこっちで、トコトンまでタチが悪い(苦笑)


ジン:

「うわああああ、ぐぎゃらー????」


レオン:

「いや、そろそろ替わって欲しいのだが?」

アクア:

「無様ね。……私のことを笑うから、そういう目に遭うのよ」



 ――カチリ。



 ――D・D・S発動。



レイシン:

「スイッチ入ったね。よかったよかった」にっこり

葵:

『あーんしんじゃ』

ユフィリア:

「あんしんじゃ」


 立ち上がり、リヴァイアサンに向かって一言。


ジン:

「オマエ、コロシテ、クウ。 テンサイ、ミナゴロシ」

葵:

『知能は戻ってねーな。かゆうまレベルか……』


 移動するリヴァイアサンを追いかけて陸の人に戻る。

 滴弾攻撃がウォーターランスに変化。見やすくなったが、多方向からの攻撃は激しさを増している。しかし、威力はどうなったかまでは分からない。全て躱してしまっているからだ。

 僅かに体をズラして回避し、攻撃し続けるジン。元の知性は見る影もないが、強さはまるで変わらない。それどころか、ますます強くなって見える。


葵:

『あれは、身勝手の極意……』


 ジンなら『おい、やめろ』とかツッコみそうだけど、僕の知ったことではない。


シュウト:

「今、そうゆーのいいんで、やめてもらっていいですか?」

葵:

『ホワッ!? シュウ君が、シュウ君が、ちべたい……(涙)』


 水中戦闘時の供給不足が祟り、MPが足りなくなってきた。


アクア:

「当然、こうなるでしょうよ」

葵:

『サンダーボルト作戦を実行する!』

 

 サンダーボルト作戦とは、〈妖術師〉の近接攻撃魔法〈サンダーボルトクラッシュ〉を連続して繰り出すことを指す。この攻撃後、一定時間敵モンスターが痺れ、その間、クリティカル率が大きく増幅される。〈付与術師〉のカルマドライブなどとシナジーさせることで、大きくMPを回復させようというものだ。クリティカル率が高まる時間を引き延ばすため、この間のDPSも増やせるということだ。大ダメージのチャンス。


 素早く準備を済ませたところで、作戦を発動。まずはネイサンから。


ネイサン:

「〈コールストーム〉! 」


 嵐の下にさらに雷雲が広がっていく。


ネイサン:

「いいよ、ジン! ネイサン・ブレイドだ!」


 ネイサンにとって〈轟天雷〉はあくまでもネイサン・ブレイドだ。


葵:

『ジンぷー、〈天雷〉だ!』

ジン:

「〈天雷〉」ぼそっ


 機械的な動作で〈天雷〉を決める。コールストームによって雷のパワーが増幅され、何倍にも激しくなった雷撃がリヴァイアサンを強く打った。

 この間に〈妖術師〉が近接まで接近し、順番に〈サンダーボルトクラッシュ〉を使っていく。


シュウト:

(僕も攻撃しなきゃ。どうやって攻めよう?)


オディア:

「〈デッドリー・ダンス〉!」


シュウト:

「!」


 離れた位置でオディアがデッドリー・ダンスを始めた。それに気付いたのは僕だけではなくて、ウヅキも同時に左腕を前に突き出した。


シュウト&ウヅキ:

「〈デッドリー・ダンス〉!」


 〈スイス衛兵隊〉の練度は流石に抜き出ている。テンポ良く〈サンダーボルトクラッシュ〉が連続していく。大ダメージを与え、MPを大きく回復できた。


 水中戦と陸上での戦闘を幾たびも繰り返す。特殊なギミックはなく、リヴァイアサンは攻撃力で押してくるタイプのようだ。激しい攻撃をすり抜けるようにしてジンが捌いて封殺していった。……やがて戦いは終盤へ。



ヴィルヘルム:

「まて、嵐が……!」


 いつの間にか嵐は過ぎ去っていた。もう慣れてしまい、星明かりの闇夜を晴天のように感じる。


アクア:

「気が付いている?」

葵:

『ごめん、なにに?』

アクア:

「遠くから迫ってくる。……津波かしら?」

葵:

『大海嘯』


 リヴァイアサンへの攻撃を続けていると、やがて僕らにも見えてきた。彼方からの津波が、まだ微かに盛り上がってるぐらいだが、ここに到達したらどれだけの高さになるのやら。


葵:

『アレが来る前に倒しきれるか……?』

ジン:

「…………」


 ジンは何も応えてはくれない。


ヴィルヘルム:

「間に合わない。……3人で組を作れ! 2人にフライの魔法をかけ、1人を運んで空へ!」


 ヴィルヘルムが決断する。たかが水と侮ることはできない。全滅の危機と判断したのだろう。たとえば押し流されて強制中断し、戦闘状況がリセットされれば最初からやり直しになりかねない。


マリー:

「こんなこともあろうかと! ……フライング・ユニットぉー!」


 リュックのようなものを背負ったマリーとヴィオラートが空に舞った。


ヴィオラート:

「ジン様!」

ジン:

「先に上がっていろ」


 一瞬だけ目線をやり、それだけ口にすると、リヴァイアサンにまた向き直ってしまった。確かに誰かがリヴァイアサン本体の攻撃を引き受けなければならない。そしてそれは、ジンの役目なのだ。


 津波がどんどん大きくなっていく。あれは、かなり巨大なのでは? 20mとかそんなレベルじゃない。100mぐらいあるかも……。まるで巨大な水の壁だった。壁が迫ってくる。


ジン:

「さっさと上がれ、間に合わなくなるぞ」

石丸:

「まだジンさんにフライの魔法が……」

ジン:

「必要ない。……シュウト」

シュウト:

「はい!」

ジン:

「お前をタゲる。分かるようにしとけ」

英命:

「では、障壁は私が」

シュウト:

「上で待ってます!」


 最後に残ったのは、レイシンとユフィリア、ニキータだった。


レイシン:

「2人とも、行くよ?」

ユフィリア:

「ジンさん!」

ジン:

「さっさと行け!」


 レイシンが2人を脇に抱える。〈竜鱗の庇護〉(ドラゴンスケイル)が4枚、階段のようにならんだ。それらを駆け上がり、高くジャンプ。さらにファントム・ステップ。一瞬で僕らの高さまで追いついて来ていた。


ユフィリア:

「大丈夫、だよね?」

ニキータ:

「ジンさんだし」


ウヅキ:

「もっと上がれ、波に呑まれるぞ!」


 〈スイス衛兵隊〉のみんなはもっと高い場所まで移動していた。たぶん、フライの魔法で到達可能な、限界高度だろう。早く移動しないと、ジンが適当に誰かをターゲットに選ぶことになってしまう。


シュウト:

「すみません、急ぎます!」

石丸:

「了解っス」

英命:

「お願いします」


 限界高度からの景色は凄まじいの一言だった。波の向こうは、同じ高さの水が、遙か地平の彼方まで続いていた。高波だなんて甘いものじゃない。どこまでも続く水の棚。映像でみた東日本の震災を思い出し、少し身体が震えた。


シュウト:

「フライの魔法を。……僕から離れてください! 光を僕の後ろへ!」



 目立ちたいと思うのは、案外、これが初めてかもしれない。遙か下のジンから僕は見えているだろうか。気が付いて欲しい。ここだと叫びたい気分になる。


ユフィリア:

「きっと、大丈夫」うん


 それは自分に言い聞かせているのだろう。……時間だった。

 巨大な水の壁が、もうそこまで来ていた。もうすぐジンのいる辺りに到達しようとしている。

 『星の海』は、まさにこの星の、海そのものだった。


 ブーストしたブレイジング・フレイムでジンが上がってくる。それはこの間みたような、高速で飛んでくるロケットみたいなものだった。


リコ:

「タイミングが……!」

タクト:

「間に合わない!?」

リディア:

「ああ、巻き込まれる!?」


 横から迫る水の壁に飲み込まれるのを、見ているしかなかった。


シュウト:

「まだだ!!」


 武器を構えて、ガードの姿勢を固める。きっと、来る。


ニキータ:

「来た!」


 少し離れた場所から、吹き上がる間欠泉のように、その巨体が姿を現していた。リヴァイアサンだった。


ジン:

「おおおおおおお!!」


 リヴァイアサンに遅れること一瞬、ジンもまた、上がって来ていた。凄まじい熱量の一撃に、障壁は吹き飛んでいた。ゼロ・カウンターでユフィリアのヒールを貰い、吹っ飛ばされて、どうにか役目を果たすことが出来ていた。


スタナ:

「青空?」


 太陽のない青い空が広がっていた。どこまでも続く空と、海。青と青の狭間、その僅かな空間に僕らはいた。絶景だった。心が狂いそうになるような、美しさ。月明かりの闇夜に慣れたつもりだったが、懐かしい青の景色に、心が奪われずにはいられない。


葵:

『幻想空間か。どうやらラストステージにたどり着いたってことだね!』

レオン:

「もう一息だな」

ヴィオラート:

「勝ちましょう!」


 リヴァイアサンは水で自分のコピーを形成していた。まるで同じ大きさの水のリヴァイアサンだった。


 水の上に立ったジンが僅かに腕を回した。


ユフィリア:

「ジンさんが、本気になってる……」

シュウト:

「えっ?」


 細胞が振動を始めた。心の奥の扉が開く、予感。それに期待する心。渇いていたことに、はじめて気が付いたかのよう。理想的な形での集中が、唐突に体現されていく。


ニキータ:

「〈ハーモニー・リンク〉!」


 欲しい時に、欲しいものが来る。まるでジンになったかのような笑みが、僕の口元に浮かんだ。力を持つ言葉を口にしようとした時だ。


アクア:

「それを、待っていたのよ!!」


 アクアがハーモニー・リンクに割り込もうとしていた。待ってみるべきか?と瞬間的にためらいが生じる。



『構うな、振り切れ』


 

シュウト:

「〈レイド=ライド〉!!」


 ジンのものでしかあり得ない思考が飛び込んで来て、それで全てを振り切った。残り90人を置き去りにしようと構わない。それよりもジンに付いて行くことの方が大事なことだった。


アクア:

「ハアアアアアアアア!!!」


 アクアもまた、抗う者だった。かつてない威力のタンブリング・ダウンが、青と青の世界に(こだま)する。


葵:

『レベルブースト……』


 103レベルになっているのを確認。たったの5レベルだが、それが96人に適用されることの意味は計り知れない。アクアは、とうとうたどり着いたのだ。

 口から光のビームを放つリヴァイアサン。〈竜破斬〉で打ち消すジン。もう、僕らの敵、足り得ない。



 リヴァイアサン、撃破。そして……




ジン:

「急げ! 時間がないぞ」


 ゼロ・カウンターでユフィリアが〈ソウルリバイブ〉をリヴァイアサンに投射、赤ゲージを大きく回復させていた。同時にジンが竜の魔力(ドラゴンフォース)で爆散するのを押さえ込みに走る。

 レイド=ライド中にどうするべきかの打ち合わせは終わっていた。つまり、お肉を確保するのである。


ニキータ:

「ユフィ、お願い!」

ユフィリア:

「任せて!」


 新妻のエプロンを首から掛け、続けてユフィリアが後ろで縛る。


ニキータ:

「神護金枝……刀!」じゃきーん


 何しろあの巨体である。肉を確保するにしても、一仕事であろう。エプロンを着たニキータが、なんでも切れる刀で大きく切り裂き、それをレイシンが切り取っていく作戦である。


ミゲル:

「手伝おう」

レイシン:

「助かります!」


ロッセラ:

「私たちも!」

ジュディ:

「急ごう」


ジン:

「もう無理! 爆発するぅー(涙)」

ユフィリア:

「ジンさん、がんばって!」


 さらに蘇生魔法を投射してから、ユフィリアがジンに抱きついた。それでも得られたのは本当に僅かな時間に過ぎない。


葵:

『シュウくん』

シュウト:

「何でしょう?」

葵:

『キーアイテムの確保に向かって。……来るぞ』


 満天満月な闇夜に光が走り、七色の輝きとなってリヴァイアサンの死骸は爆散した。


ジン:

「チィッ!」

ニキータ:

「敵です! もう囲まれている……!?」


シュウト:

「えっ?」

葵:

『止まるな、行け! 確保が最優先っ!』


 敵の接近警報に足が止まる。タルペイアの狙いはキーアイテムのはずだ。何よりも魔力のオーブを確保しなければならない。



 ――97



 矢筒から送られてきたイメージにぞっとする。ジンは、それとジンの能力をコピーしたニキータも、数を数えるのがそれほど得意ではない。ミニマップがあっても、その反応数までは把握していないのだ。だから現れた瞬間の反応を逃してしまうと、もう何人いるのか把握できなくなってしまう。


シュウト:

「既に、ここに入り込んでいます!」

葵:

『まじぃ、ジンぷー!』


 死ぬほどの気持ち悪さに襲われ、それから必死に逃れようとして、大きく横に飛んだ。『ピッ』という軽く引っかかったような音がしたと思ったら、腕が爆発したようなダメージを受けていた。


邪聖母タルペイア:

「あら、殺すつもりだったのに。……まだ生きているの?」


 ゆったりとした動作で、足下の水面に手を伸ばし、キーアイテムであろうオーブをその手に掴んでいた。淫靡な手つきで口元へ。舐めるように舌を伸ばし、顎の関節はどうなっているのか、ゴクリと飲み込んだ。


邪聖母タルペイア:

「ウフフフフ。これで、貴方たちはお終いね」


 レベル199。ようやく200未満に下がったものの、それでも未だに強大な敵だった。

 ジンがやってきたのはその直後だった。ドロップアイテムの大剣を引き抜くと、そのままタルペイアに剣閃をぶっ放した。


ジン:

「それを、返しやがれ!!」

邪聖母タルペイア:

「これでも私は忙しいのよ。貴方の相手はまた今度してあげるわ」

ジン:

「逃げるな!」

邪聖母タルペイア:

「また会えたら、逢いましょう? その時は、愛し合いましょう?」


 目的を果たしたからだろう。転移でさっさと消えてしまっていた。取り囲んでいたモンスターの反応も離れて散り散りになり、やがて消えた。



 ……戦闘、終了。

 

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