222 水神
〈ニュンフスの水中神殿〉最終12層のラスト、中ボスとの戦闘も最終局面に入っていた。残りHP数%からの最終形態で、大蛇もしくはヒョロ長い龍のような形態に変化。敵の攻勢も激しいが、こちらの勢いはもう止められない。
ジン:
「とっとと決めろっ!」
〈竜破斬〉でがっつりとHPを削りつつ斬り抜け、ジンが叫んだ。殺到するアタッカー達。中ボス〈レムリア・クイーン〉の打倒に成功する。戦闘終了。
ネイサン:
「今の、蛇女か龍女みたいだったね。……蛇は脱皮を繰り返すことから、不死性、豊穣、そして多産の象徴なんだ」
スタナ:
「タルペイアのことね?」
ネイサン:
「そう。彼女はラミアとか、その辺りのモンスターなのかもしれない」
葵:
『多産っていうとエキドナかなって気もすんだけどね』
ネイサン:
「確かに。ラミアクイーンならそう表現されただろうし、〈エルダー・テイル〉だと大体サファギンとセットだよね」
スタナ:
「ここは淡水だし、リザードマンとセットだった。亜種ってことかしら?」
ネイサン
「レムリアだと仮想の大陸のことになるけど」
何が言いたいのか、ちょっと分からなかった。
シュウト:
「えっと、つまりどういう……?」
英命:
「ひとつはラミアのような魔物が、不死の魔物、ヴァンパイアになっているものではないか? という意味ですね」
ジン:
「人間が吸血鬼になったんじゃねーってことだな」
ラミアの吸血鬼化、モンスター×モンスターという掛け算になっているかもしれない、という話らしい。なるほど、それなら分かる。
人間が吸血鬼になってパワーアップすることを思うと、最初から強い何かの化け物が、吸血鬼化して更にパワーアップしているのかもしれない。それは、確かに危険なニオイがする。
英命:
「もう一つは、今の蛇女が多産モンスターだとすると、彼女の名前の由来が理解できるかもしれません」
ユフィリア:
「んーと?」
ニキータ:
「徒花の邪聖母。徒花は咲いても実を付けない花のこと。徒花なのに、邪聖母なのよ」
葵:
『アンデッドになったことで、産めなくなったのかもね~』
シュウト:
「なる、ほど……」
ネイサン:
「タルペイアといえば、ローマ建国伝説の裏切り者の名だ。彼女はウェスタの巫女と言われていた。そして聖なる炎。この水中神殿のモチーフは、火床をつかさどる女神ウェスタとその巫女から来ているはずだよ」
設定の裏話のようだ。なるほどそういうものか、と思うばかり。
リア:
「産みたくても産めないのとかって、恨み深そうな設定だね~(苦笑)」
ヴィルヘルム:
「なにか深い執着がありそうだったが……」
ラトリ:
「子供か、子供の代わりがいるのかもしれないね。母は強し、みたいに」
回復と準備を終えたら、そのままレイドボス戦だ。精神的にもまだまだ余裕がある。今回は初見撃破を狙っていく。万全を期してさえ、足りないと思うべきだろう。
中ボス部屋の奥から、転移魔法陣が並んでいる部屋に転移。ここから外に出ると、そこはもうレイドボスとの戦場だろう。
ここばかりは本番用装備にチェンジである。レオンはミネアーの鎧を装着済みだ。アクアはGGコートを着ている。普段は頑なに拒んでいるリコも、まっ金金のカワイイ・ローブを着用していた。
ミゲル:
「全員、装備の確認は終えたな?」
ギャン:
「準備万端!」
ほぼ全員の目がヴィルヘルムの方を向いていた。
ヴィルヘルム:
「私から特に言うべきことはない。ここまでしても万全とは決して言えないだろう。だが、可能な限りの準備はできている。全員、実力を示せ」
「「おう!」」と全員で返事。100人でやっているので怒号みたいなものだ。
ヴィルヘルム:
「ジン君、何かあるだろうか?」
ジン:
「そうだな。……当たって砕けろ」
スターク:
「勝つんでしょ!? 砕けてどうするのさー!」
スタークの全力のツッコミが見事に決まった。微笑ましさでリラックス・ムードに。素晴らしい。こうでなくてはならない。
葵:
『んじゃ、あたしからも一言。敵への対策だのは相手を見てからだから、アドリブが必要だぁね。でもまぁー、必殺攻撃の類いは、ジンぷーが引き受けるから、心配しないでいいよ!』
ありがたい。心の底からありがたい。こんなに心強い話があるだろうか。いいや、ない。レイドボスなどの強敵との戦いになる度、ジンの強さに助けられてきた。僕ら全員の勝算であり、希望そのものだ。
葵:
『ただし、範囲攻撃に巻き込まれた場合、当局は一切関知しないのでそのつもりで。なお、このメッセージは自動的に消滅する……。でんっ、でんっ、でんでんでん! ちゃら~』
やっぱり笑いに走ってしまった。〈スイス衛兵隊〉にも伝わっているようだが、ネタがよろしくない。みんな苦笑いしている。非常に残念な空気が漂っていた……。
スターク:
「そのまんまじゃん。ワールドワイド・レギオンレイドの、レイドボス初見撃破とかさぁ……」
ギヴァ:
「まさしく、不可能なミッションだな(笑)」
ジン:
「不可能かどうかは、やりゃあ分かる」
ヴィルヘルム:
「よし、行こう!」
ミッションインポッシブル、スタート。
ジン:
「うおい!」
葵:
『悪天候!? なんじゃこりゃ!』
ここまで雲ひとつなかったのに、唐突なる嵐に見舞われていた。レイドボスらしきものが湖面からのそりと立ち上がる。巨大な蛇のような、もしくは、龍のような、首。敵の情報を知るべく脳内ステータスを素早く操作する。
シュウト:
「まさか、アレは!!?」
〈リヴァイアサン〉、レベル105。水系モンスターとして考えても最上位だろうし、実力も知名度も群を抜いている。しかし、戦ったことのない、未知のモンスターだった。ほとんど水の神とか、そういう類いの相手ではなかろうか。ついでに僕らにはもう一つの意味で待望の……。
ユフィリア:
「あれって、『美味しいお肉』のリヴァイアサン?」
ニキータ:
「かもしれない、のリヴァイアサンね」
スタナ:
「ちょっと、……何の話をしているの?」
シュウト:
「ベヒモスのお肉がとんでもなく美味しかったんで、次はリヴァイアサンだね、って話になってまして……」
ネイサン:
「美味しいの? モンスターだよね?」
アクア:
「ベヒモスは最高ランクの和牛さえ、軽く凌駕していたわね」
ラトリ:
「そんなに!? それ、アクアも食べたってこと?」
アクア:
「当然でしょう」
ジン:
「肉も美味いが、出汁も最高だったよな~」
ユフィリア:
「今夜は、ごちそうだねっ」
レイシン:
「お昼ご飯もまだだよ?」
勝てれば、お昼もごちそうって話になりそうだ。負けると夕飯前に再チャレンジのコースかもだけど。
葵:
『だーっ! ちょっと待ったっ! あたし、食べられないじゃーん!(涙)』
ジン:
「今頃かよ(笑)」
ローマから接続してる葵が食べられる訳もない。
葵:
『残しとけよ!ずぇったい、残しとけよ!』
ジン:
「どうかなー? 100人で食ったら瞬殺だったりして?」にんまり
葵:
『ブチ殺す。アタシの分が無かったら、絶対に許さない!』
ジン:
「知るかよ、レイに頼んどけ(苦笑)」
黄金竜のオーラが立ち上がる。竜亜人全開のジンは、フローティング・スタンスで水面を走り、リヴァイアサンへと向かった。僕らは5分ばかり観察して、動きや必殺技を確認することになっている。これらはジンが居て初めて可能な戦法だ。
根本的にメインの戦闘はジンに任せ、僕ら〈カトレヤ〉組がフォローしつつ、残りの84人で火力支援を行っていく。
アクアの永続式援護歌と同時に、ジンの戦闘も始まった。想像よりもリヴァイアサンのサイズが大きい。ジンがまるで小人にみえた。
ラトリ:
「列車サイズ? 進行方向に陣取ってたら、それだけで大量殺戮されちゃいそうなんだけど(苦笑)」
ヴィルヘルム:
「まずは地上戦を想定したパターンでいこう。各レイドチームで別々の地点に陣取り、全身に攻撃を加えていく」
葵:
『いしくん、弱点属性とかどう?』
石丸:
「光輝属性への耐性が少し低いような色合いっス」
英命:
「日を詛ふ者、ですね」
ジンの体が、鋭くサッとズレる。
レオン:
「待て。今、なにかを避けたようだ」
シュウト:
「見ました。でも、一体なにを?」
英命:
「リヴァイアサンは噛みつくなどの行動を行っていませんね。……とすると、何か別の要素による攻撃でしょう」
タクト:
「見えないオートアタックか……?」
葵:
『可能性としては、針みたく見えにくいだけかもだけど、真空波みたいなのもあるかもだし。まぁ、見てきた方が早そうだね……』
葵の声が遠ざかっていった。人知を超えた何かが起こっていそうな予感がする。僕らはあんなのと戦わなければならないのか。というか、既にジンは戦っているのだけど。
当のジンは〈竜鱗の庇護〉を出した。2枚。
レオン:
「回避の手間を嫌ったか」
シュウト:
「攻撃を優先、ですね」
〈竜破斬〉で次々とダメージを与えていく。その合間に、ウロコ盾が動いて、ダメージを無効化していった。一定のリズムなのでやはりリヴァイアサンの通常攻撃だろう。
アクアが「なるほどね」とつぶやく。ジンと葵の会話がこの場所からでも聞こえるのだろう。内容は気になるが、葵が戻ってくるまで言うつもりはなさそうだった。
葵:
『滴弾、いわゆる水滴での攻撃だってさ。ほとんど魔力の塊みたいなもんだって。魔力感知ができれば避けられるらしいよ?』
レオン:
「なるほど……」
なるほど、とか言える状況じゃないと思う(笑)
リア:
「えっとー、大雑把な方向ぐらいなら感じ取れる、の、かな……?」
スターク:
「それ結局、避けられないヤツじゃん(苦笑)」
葵:
『そーともいう。あの感じだと、攻撃対象者の近くにいると巻き込まれんじゃないかな? 距離に注意』
ヴィルヘルム:
「了解した」
ジンが避けまくるせいで忘れてしまいがちだが、基本的にゲーム時代、レイドボスの通常攻撃は避けられないものだった。命中補正が高いこともあって、〈武闘家〉ですら回避の確率はかなり低くなる。〈守護戦士〉に至っては全て当たるのが前提になっていた。
しかし、この異世界でゲーム時代と同じように戦おうと思ったら、多少なりとも自力回避をしないと足りないような気がする。プレイヤーの戦闘スキルまで加えて、ようやくバランスとしてゲーム時代と同等なのではなかろうか。
……とはいえ、ジンのアレは躱しすぎなのであり、比較したらダメだと思う。本職の回避タンクであるレイシン(日本最強クラス)ですら及ばないと来ている。
石丸:
「そろそろ必殺攻撃のはずっス」
水柱のようなものが幾つも幾つも立ち上がる。柱というには細すぎる。言うなれば『水の刃』だろうか。刀身だけで3~4mはゆうに超えている。それが、十重二十重と重なり、リヴァイアサンを覆う。ジンは陸地に下がって防御態勢へ。フォートレス・スタンスに変更。
一斉に放たれた水の斬撃が疾走し、周囲を切り裂いた。逃げ場のない範囲攻撃。威力も恐ろしげだが、……ジンに損害なし。何かの防御特技を使ったのだろう。HPではなく、なぜかMPがごっそりと減っていた。2000点ばかり使った計算である。
シュウト:
(一体なんの特技だろう、……アレかな?)
更に観察を続けていくと、今度は首を振り回しての噛みつき攻撃が来た。動きはそこまで速くなさそうに見えたが、サイズ感からすると途轍もない話だろう。車で言えば大型のバンや小型のトラックのような大きさのものが、15~20台ばかり連結されているような感じなのだ。避けるのにも大きく移動する必要がある。ベアトリクス並のスピードがあれば別だが、見てから余裕でした、とは行くまい。
葵:
『おっ、来た来た。これを待ってた。さって、どうなるっかにゃー』
5分ほど経過した頃だろうか。そろそろ参戦しようか考えていると、リヴァイアサンがジタバタを始めた。たぶん、移動の前兆。全身がのたうち、移動しようと足掻いて見える。巨大な質量が停止慣性を振り切ろうとしていた。ジンは水上から陸地側へ移動を済ませていた。リヴァイアサンの進行方向から避けた形だ。
ジン:
「!?」
しかし、……なんというべきか。リヴァイアサンはそのまま、ジンに向かって突撃をかました。てっきり水中を移動するものだとばかり。ジンもただの戦士ではない。ギリギリだったが反応して回避していた。……が、のたうつ巨体の全てを躱し切ることはできなかった。ここからだとよく見えないが、どこかの出っ張りか何かがカスったみたいに見えた。
葵:
『おーっ、錐揉み(笑)』
打ち上げ+錐揉み。ギュンギュンと独楽のように回転して吹っ飛ばされる。ハニュウユズルどころかシライケンゾウも超えた。そんな回転力を捌いて、着地。さすがのジンもフラフラしていた。HPもそこそこ減っている。
ラトリ:
「うーん。これは困ったね(苦笑)」
ギヴァ:
「水中を移動するものだとばかり思っていたからな」
ヴィルヘルム:
「現実化の影響か」
レオン:
「ああ。ゲームなら水の中を進んでいただろう。現実になったことでヘイトトップに向かって突き進むことを選んだ。なにも間違ってはいないが……」
スタナ:
「難易度は大きく上がってしまったわね」
もともと、移動の予兆を察知したら、陸に上がって退避するつもりでいたのだ。ああして突っ込んでこられたら、逃げる場所もない。1人がどう、とかの話ではないからだ。なるべく仲間を巻き添えにしないようにしなければならない。しかし、それだとタンク役に死ねと言ってしまっているようなものだ。
レオン:
「ジンと私とで受け持とう。幸い、予兆は分かり易い。なんとか躱してみるさ」
葵:
『地上だと大きく避けなきゃだし、……水の中の方がマシだったりして(笑)』
スタナ:
「ちょっと待って。タンク一人分の塹壕が作れればいいのよね?」
オスカー:
「落とし穴とか?」
対策が練られていく。そちらはお任せして、僕らはジンの元へ急ぐことにした。
ユフィリア:
「来たよっ!」
ジン:
「おう」
まずは水滴攻撃の見切りからだが、浮いている水滴の数が思ったより多い。そのどれかが攻撃してくるらしいのだが、そのどれかを判断するのに『魔力感知が必要』ということらしい。……というか、そもそも嵐みたいな天候で雨も降ってるんですけど。これはちょっと無理ゲーだ。
葵:
『滴弾に注意して!』
ウヅキ:
「だが、突っ込まなきゃ始まんねぇだろ?」
葵:
『そりゃそうだね。「圧縮シールド」用~意っ』
ユフィリア:
「うんっ!」
リディア:
「いくよ、〈マナトランス〉!」
ユフィリア:
「んぎゅーっっっ。〈シールドパクト〉ぉぉぉ、……はいっ!」
ユフィリアは戦闘中のマナ呼吸ができない。しかし『春の女神と氷の女王』があるため、魔力圧縮能力は断トツに高かった。これらを勘案した結果、リディアからMPを供給してもらって、魔力圧縮する手法になった。スパイラルメイスで魔法そのものもブーストしてから放っているので、通常のシールドパクトを遙かに超えた威力に到達している。
それらを横目に見ながら、弓矢で攻撃していく。全軍の配置が完了して、他のレイドチームも攻撃を始めた。ぶっといフラッシュニードルがアチコチで炸裂していく。
シュウト:
「ところで、さっきのって〈竜血の加護〉ですよね?」
ジン:
「そうだ」
葵:
『〈竜血の加護〉ってアレからどうなったん?』
ジン:
「パッシブ」
葵:
『パッシブスキルだぁ?』
けっこう忙しいらしくて、片言会話になっていた。レイドボスとは長期戦になるので、のんびりというわけには行かないが、会話する時間はそれなりにある。リヴァイアサンが厳密にドラゴンなのかは分からないが、もうドラゴンみたいなものだろう。ドラゴン戦は意外に久しぶりで、妙にしっくりくるというか。
会話内容的には、竜の魔力と結びついて、常時ダメージカットに変化したらしい。それ、完全にチートです。本当にありがとうございました。
シュウト:
「でも、それだとさっきの無敵状態の説明にならないですよね?」
ジン:
「アストロン」
葵:
『はぁ? パッシブでダメージカット、アクティブでアストロンだぁ?』
ジン:
「フルボディ」
皮膚や肌だけの鋼鉄化が、全身、たぶん内蔵なんかまでも、鋼鉄化した結果の無敵状態のご様子。
ユフィリア:
「アストロンってなぁに?」
石丸:
「ドラゴンクエストの特技みたいなものっスね。全身の鋼鉄化でダメージを無効化するっス」
シュウト:
「それで、MP2000点なんですね」
ジン:
「1000点、1000点」
葵:
『鋼鉄化で1000点、解除で1000点か。ヒデェぼったくりだな』
通常の〈守護戦士〉だとMPが6000点ぐらいなので、3回も使えばガス欠だ。竜亜人になったことでジンのMPは9000点に増えている。なんとか4回は使える計算だ。
再使用規制も短いっぽいし、強いは強いんだろう。でも消費コストが厳し過ぎる。ほいほい便利に使えるものじゃなかった。個人的にはほいほい便利に使われたら困る。余計に勝てなくなるから。けれどレイドのメインタンクとしては、ほいほい使えるものであって欲しい。本当に困った話だ。
ユフィリア:
「んーと、鋼鉄になった後で、MP足りなかったらどうなるの?」
それは……、至極もっともな疑問だろう。
ジン:
「任意解除、そのまんま」
滴弾を躱し、〈竜破斬〉でひたすら攻撃を続けている真っ最中なので片言が続いている。しかし、意外と通じるというか(苦笑)
葵:
『任意解除だぁ? ……てこたぁ、ヘイトたっぷり稼いでおいて、鋼鉄化してりゃいいじゃん?』
ジン:
「ダメージは! どうすんだよ!?」
これは、さすがに怒鳴っていた(笑)
石丸:
「そろそろ時間っス」
葵:
『んじゃ、実験ね。しばらく鋼鉄化してろよ!』
ジン:
「どうなっても知らねぇぞ!」
敵が必殺攻撃の準備時間中なので、今のはまともにしゃべっていたけれど、こっちは安全地帯まで離脱しなければならない。あわただしく退避。
ジン:
「〈竜血の加護〉、フルボディ!」
『水刃嵐舞』を防ぐジン。そのまま実験で動かないでいると、リヴァイアサンがあっさりとこちらをターゲットに変えた。
リコ:
「跳ねたーっ!!?」
葵:
『まぁ、そんな都合のいい話とかねーわな(笑)』
レイシン:
「フェイクデスと変わらないってことだね」はっはっは
鋼鉄状態を1回攻撃すると、もう対象から外れるぐらいヘイトが減少するらしい。何回も使えるキャッスル・オブ・ストーンかと思ったが、MPコストとヘイト・コントロールに大幅なマイナスがくっついていて、なんというか、いつも通りの残念な仕上がりだった。
慌てて鋼鉄化を解除し、ヘイトを取り戻すべく突撃するジン。
ジン:
「めちゃくちゃじゃねーか!」
葵:
『まぁ、いつも通りじゃん』
ジン:
「レイドボス相手に、やることか!」
ごもっとも。まったくその通り。とかいいつつも、あっさりとヘイトトップを取り戻すジン。最強は伊達じゃない。
シュウト:
「さすがにMP消費が重そうですね」
ジン:
「くっそ、キャッスル・オブ・ストーンの方を使おうと思ってたのに!(涙)」
葵:
『まぁいいじゃん。ホレ、さっさと龍穴開いて、リチャージしちゃえよ』
ジン:
「なんの、話だ!」(戦闘中)
龍穴から龍脈にマナが流れていく。だから龍穴を開けばMPをチャージできるはずだ。滴弾を捌きながら、次々と〈竜破斬〉を決めていく。1人でダメージを荒稼ぎしていた。
シュウト:
「エレメンタルゴーレムに勝った後、カインとかが出てきて、全滅しそうになった時なんですけど、龍穴を開いてMPをリチャージしてましたよね?」
ジン:
「レベル!」
シュウト:
「レベル? レベルが足りないんですか?」
170とか、250近くまでレベルブーストしていたから、リチャージできたって話らしい。……なぜだろう?
英命:
「なるほど、どうやら魔力操作力の問題のようですね。200レベルならリチャージできるのかもしれません」
葵:
『フラッシュレジスト使えば? 一瞬なら200とか300ぐらいまでレベルブーストできるんだべ?』
ジン:
「無理! どっちか!」
どうやら難しいらしい。龍穴を開いて、フラッシュレジストも同時にやって、となると負担が大きいのだろう。要するに、敵が弱いとがんばれないって話なのだ。
……ってことは、どうなるんだろう?
葵:
『おめー、MPをリチャージする方法は? なるべく短時間で』
ジン:
「カルマドライブ」
ブースト〈竜破斬〉はクリティカル認定されるので、カルマドライブでMPを回復する時に強烈なシナジーを発揮する。うん。既知の内容だ。
リコ:
「龍穴みたいな特異能力があるのに、利用できないってことですか?」
英命:
「これは工夫の余地がありそうですね」
葵:
『んじゃー、実験しようぜ! じゃじゃん! パート2』
ジン:
「だから! レイドボスと、戦ってんだっ、つの!」
このタイミングでリヴァイアサンが首を振り回しての噛みつき。大きく後退して回避成功。
葵:
『ジンぷー、アーマークラッシュ。ユフィちゃん、魔力圧縮開始。リディア、マナトランス始め。いしくん、シュウくん、ダーリンは全力攻撃30秒!』
ジン:
「チィッ、『アーマーブレイク』!」
始まったら止められない。アーマーブレイクを合図に全力での攻撃を開始する。今は精霊の矢があるので、MPを吐き出すのは簡単だ。むしろ30秒も掛からない。石丸も同様で、いろいろと上乗せしつつ30秒で吐き出していく。
葵:
『今の6人を対象にマナチャネリング。今だジンぷー、龍穴解放!』
ジン:
「ヤケクソだ、うらぁぁあああああ!!!」
龍穴が開き、とんでもない量の魔力が『ジンから』溢れ出る(笑)
リディア:
「〈マナチャネリング〉!……って、ぎゃー!?(涙)」
そのとんでもない量の魔力がまとめてリディアへ(笑) 完全に巻き添えというか。闇色をしたケープが魔力を帯びて光り始める。涙目で堪えたリディアが、魔力を再配分。対象6人のMPが一瞬でMAXに到達。さらにゲージが金色に塗り変わっていった。魔力圧縮状態。もったいないから1撃ぐらいしておくべきだと思い、水の矢・エクスターミネイションを放っておく。もう当然ぐらいの勢いでリヴァイアサンを貫通していた。
葵:
『じっけん、大・成・功ぉー!』
ジン:
「やかましいわ!」
これで龍穴の有効活用もできることになった。この方法ならリソースが足りない状況からでも魔力を充填できる。またまたリディアの重要性が増した形だ。
しかし、膨大な魔力があっても使いこなせないのがジンだってことになる。まだまだ成長の可能性を残していると考えるべきかも。でも魔力操作力に関しては〈守護戦士〉のままではどうしようもない問題の気がする。
ニキータ:
「このまま行けば、なんとか倒せそうですね」
アクア:
『いいえ、お気楽なのはそのチームだけよ』←声だけ
シュウト:
「えっ?」
ネイサン:
「マジ?」
葵:
『んー、やべーかな? ちょっと行ってくるわー』
お気楽極楽だった葵も少しばかりシリアスになってどこかへ移動した。
リディア:
「一体、どうなってるの?」
スタナ:
「滴弾攻撃よ。回避が難しい上に、エリアエフェクトでヒーラーにダメージを与えているみたいね」
エリアエフェクトはちょっと分かりにくい部分がある。たとえば爆発の魔法などでは、範囲全体に威力が及ぶ。しかし、飛び火や連鎖するエリアエフェクトは、効果の基点から、その隣の相手にも効果が及ぶ、といった形を取る。ジンの隣にヒーラーのユフィリアがいるとして、ジンがダメージを受けると、ユフィリアに効果が飛び火してダメージ、という働き方をするのだ。この効果が及ぶ範囲外に出てしまえば、一番近い隣人だったとしても、大丈夫になる。
つまりジンの場合、自分のところでシャットアウトしているため、ユフィリアに飛び火していないだけなのだ。近くにいる僕やレイシン、ニキータにも飛び火することはない。
これがレオンやデジレであれば、回避し切れずにダメージを負うことになる。当然、レオンのダメージを優先して回復するべく、ヒーラーは近くにいなければならない。しかし範囲攻撃が飛び火すると、そのヒーラーこそダメージを受けることになってしまう。レオンの第2レイドで言えば、バリーやヒルティー、メルヴィルのことだ。
こうしたエリアエフェクトを断ち切る装備品や特技もあるが、カット率にも限界がある。レイド慣れしている〈スイス衛兵隊〉が苦戦せざるを得ないということは、非常に強力な通常攻撃だったということだろう。
もっというと、ジンが片言な段階で気付いてもよかったかもしれない。
ウヅキ:
「おい、ジタバタが始まったぞ」
スタナ:
「ジン、お願い!」
ジン:
「あいよ」
僕らを陸地に残し、ヘイトトップのジンはフローティング・スタンスで水上に立った。
英命:
「さて、どちらに移動するか、ですね」
ジンが水中を移動するように誘導しに行ったので、これでやっと事前に想定していた作戦に戻せる形だった。ここから水中を移動すると仮定すれば、行き先は2方向。その片方はリコがシューティング・スターで阻害してある。
ジン:
「ウェーイ!」
変な掛け声と共にジンが跳躍して回避。そのまま水中を突き進むリヴァイアサン。ここまでは想定通りで、リコが封じた進行方向へと向かっていく。問題はここからちゃんと引き返してくれるのか、どうか。
リコ:
「ああああっ!?」
まったくお構いなしで巨岩へとぶちかまし、足止めを乗り越え、行きたい方へ移動していく。リコの陰の努力はあっさり水泡へと帰した。
リコ:
「(プルプルプル)……許さない! くらえ、〈シューティング・スター〉ぁぁぁ!!!」
5秒後、着弾できっちりダメージを与えていた。かなり精密なコントロールが必要な気がするのだが、その辺りが努力のもたらした成果なのかもしれない。
ここまではOK。強いは強いが、搦め手が少ない分、気持ち的に楽だ。頭側をレオンに任せ、僕らが尾ひれ側を交代で受け持つ。たびたびヘイトをリセットして移動されるのは鬱陶しいが、ただそれだけだ。
状況が変化してきたのは、リヴァイアサンのHPが80%を切った辺りからだった。ちょうど滴弾への対処に慣れてきたところで兆候あり。
葵:
『おっと、パターン変化したかな?』
ジン:
「ブレスか? やっぱブレスがくんのか?」
葵:
『まさかとは思うが、水圧カッターなブレスを薙払ったりしないだろうな? それなんてモンハン? どこのヴォルガ●ス?』
ジン:
「おい、やめろ。あんなん誰だって思いつくだろ。著作権が発生するほどのオリジナリティがあるとは思えない」
石丸:
「その前に、ガ●トトスではないっスか?」
シュウト:
「いや、来ますって!(笑)」
モーションエフェクトというか、顔の辺りが光って、これから攻撃しますね?と分かり易いことになっている。予想の通り(笑)に、薙払いブレスだった。あっという間に僕らのところを通過する番になった。
ジン:
「ユフィ、避けろよ?」
ユフィリア:
「がんばる!」
ヘイト無視、防御も無効な一撃死の攻撃だ。損害報告が相次ぐ。軽く10名以上がダウン。かすめただけでも部位欠損して大ダメージらしい。ヘイトを中心とした戦闘に習熟しすぎているせいか、こうした無闇で適当な攻撃への反応は遅れがちだ。
葵:
『また!?』
リヴァイアサンが水面へ顔を浸す。そしてターゲットを定める。無論、ヘイトを高めているジンが狙いだ。
ジン:
「い、一応、離れてろ」
僕らは躊躇うことなく、ササッと離れた。なんとなく心にやましいものが残る。けれどどうすることができたというのか。リヴァイアサンがブレスモーションに入る。口を開いたところでジンは特技を発動。
ジン:
「〈キャッスル・オブ・ストーン〉!!」
ドボボボボばばばはばずばびズバビばだだだだばばだばばびばびばじゅらばじゅらズだだだだばばばばばびじゃー。
ブレス(呼吸)なんて甘いものじゃなかった。家庭用お風呂何杯分だろう。大型バスとか電車の車両1両分に相当すると思われる『大量の水』を用いた純粋物理攻撃だった。いったい何トンの水を浴びせられたのだろう……。
葵:
『まさかの滝行ブレスwww』
英命:
「大瀑布も真っ青ですね」
リコ:
「近いのだと、ダムの放水とか?」
タクト:
「へ、平気なのか……?」
ジン:
「だっはー!」ゼッ、ゼッ
シュウト:
「大丈夫、ですよね?」
キャッスル・オブ・ストーンなのだから、絶対的に平気なはず。それは分かっていたのだが、訊かずにはいられなかった。水圧というか、重みだけで骨折とかしていてもおかしくない。
ジン:
「くっそ、体が重い。スタミナゲージをもっていかれたか……」
葵:
『ねーよ、そんなもん(笑)』
今日のグダグダさを見ると、リヴァイアサンはかなり強いらしい。数々のチート級スキルをもつ『最強』ですらそんな調子なので、レギオン全体だと大苦戦といったところか。
そしてこの後、ついに恐れていた水中戦闘が始まるのであった。




