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221  落とし穴

 

ジン:

「うー、ハラ減ったなぁ~」

ユフィリア:

「わたしも~」

ニキータ:

「もう少しだから、がんばりましょ?」

ユフィリア:

「うんっ!」


 ようやく目的の12層目に入ることができた。いつもなら夕食を終えている時間なのだが、予定通りに攻略を優先する。明日は12層を最終的に突破し、この水中神殿のレイドボスとの決戦になるだろう。今日の内に進められるだけ進めておきたい。


ジン:

「!?」


 ジンが微かに反応を示す。私のミニマップに反応はないので、モンスターではない。もっと別の何か。軽く手を挙げ、後列のスローダウンを促しておく。隊列は急には止まれない。


ジン:

「床が少しおかしいな。罠かもしれん。慎重にな?」

シュウト:

「わかりました」


 シュウトが頷いて受け答えしている。ジンのアレは、たぶん地足法に使っている感覚を拡大させて『足裏センサー』として使っているものだろう。言われてみると微かな違和感を確認できた。


ユフィリア:

「きゃっ!?」


 ……直後、床が抜け落ちた。否、床面が消えていた。


ニキータ:

「ユフィ!」

ジン:

「チィッ!」


 意外にもユフィリアが逃げ遅れた。普段、誰よりも早く反応するあの子が落ちるとは予想外だった。とっさに私も穴へと飛び込む。同時か、それより早くジンは動いていた。一度は穴を避けたところから、〈竜鱗の庇護〉(ドラゴンスケイル)を出し、蹴りつけてユフィリアに向けて跳んだ。その段になって私は自分の失敗を悟っていた。


ニキータ:

「すみません!」

ジン:

「マジか!」


 キャッチしたユフィリアを投げ上げて、その後、自分もウロコ盾を階段のように使って戻ってくるつもりだったのだろう。ところが、私の位置が悪い。邪魔になってユフィリアを投げ上げることができない。敢えなく穴の中へと仲良く落下していく。


ジン:

「ええい、ファンネルっ! ……フチに掴まれ!」


 ウロコ盾を複数 発生させ、落下している数人に掴まるように指示。ユフィリアを小脇に抱えつつ、自分もぶら下がるジン。

 

ユフィリア:

「このまま上がれそう? ジンさん」

ジン:

「コイツにそこまでのパワーはねーな。落ちてみるっきゃなさそうだ」


 この間にどのくらい落ちたのか、上は天井が閉じてしまったように真っ暗だった。

 スーっと落下。どんどん下がっていく。軽く20~30mは降りただろうか。下に小部屋のような行き止まりが見えてきた。ウロコ盾から手を放して、じゃぼんと着水。足首まで水の溜まった部屋?に到着。


ジン:

「フム、とりあえず助かったようだが……」


 現状のメンバーは、ジン、ユフィリア、ニキータ、ケイトリン、英命、リディアの6人。


ジン:

「ほとんどわざと(、、、)落ちたっぽいメンバーだな」


 ケイトリンはたぶん付いてきたのだろう。英命先生はどっちかわからない。ゆったりとした微笑みは、楽しんでいる風にしか見えない。


ユフィリア:

「ふつうに落ちました!」

リディア:

「私も普通に。なんでみんな、あんな反応できるの……?」


 カトレヤ組は天才に秀才に英才に奇才みたいな人が集まっているので、気後れするのは仕方ないと思う。ハーモニティアが使えなければ、私も普通に落ちていただろう。


ユフィリア:

「ごめんね、ジンさん」

ジン:

「別にいいさ。……んで?、センコーはどっちなんだよ」ニマニマ

英命:

「もちろん、私も普通に……」

リディア:

「避けるの止めて、飛び込んでましたよね?」


 悪意のないツッコミというのか、普通に落ちてたと言おうとしていた先生を遮ってしまっていた。それでにっこりと微笑み、前言を翻すことにしたようだ。


英命:

「そうですね。第1パーティーの皆さんが回避すると、犠牲者を求めるように第2パーティー側にまで穴が広がってきたのです。少し変わったトラップのようでした。それと魔力のようなものを感じたので、落ちてみることにしたのですが……」

ケイトリン:

「それを見て、追いかけることにした」

葵:

『なるほどね。6人だし、規定人数に達したってことかも』

ジン:

「来たか。上はどうだ?」

葵:

『通路に大穴が開いてたから、まだ調べてる。完全に元通りになってたよ』


 葵がこちらに来たようだ。上の様子を確認してから、一度解除して、もう一度接続したのだろう。

 それにしても、完全に元通りというと、やはり魔法的な罠のようだ。


リディア:

「これって、どうすれば?」

ジン:

「そこそこ落ちたが、ギリ生き残っても不思議じゃない高さだったよな」

葵:

『ふーん。こうした落とし穴で強制的にロストにさせるなら分かるけど、これはちょっと変わってるやね』

ユフィリア:

「うーんと、つまり、どういうこと?」

英命:

「脱出できる可能性がある、ということですね」

ジン:

「……だな」

葵:

『もう一歩踏み込んで、お宝の隠し部屋かも!』

リディア:

「それって都合良すぎる気が(苦笑)。罠でジワジワなぶり殺しにされたりしない?」

葵:

『そっちの可能性もあるけどにん!』


 お宝はともかく、無事に脱出できるとありがたい。痛いのも苦しいのも好きではない。


ジン:

「上の連中に念話してみてくれ」

ユフィリア:

「ここ、念話は通じないみたい。それに魔法も使えないっぽいよ?」

ジン:

「マジで?」


 〈竜鱗の庇護〉(ドラゴンスケイル)が1枚、ポンと出現。


ジン:

「……普通に出せるんだけど?」

リディア:

「でも、普通の特技も全部『暗く』なってるし」


 念話も特技も、入力を受け付けない表示として『暗く』なっているのを確認できた。


ジン:

「モーション入力はどうだろ? ……ダメか」


 壁に向かって何かの特技を出そうとしてみたようだが、出せなかった。システム経由の特技は使えないらしい。

 その直後、地響きのような音がしたと思うと、勢いよく水が降り注いできた。


ユフィリア:

「やーん!」

葵:

『おや? こりは水牢的な罠ってか……?』

リディア:

「今のって、ジンさんが特技を使おうとしたから?」

ユフィリア:

「ジンさんのせいってこと?」

ジン:

「ちょっ、俺が悪いのか?」

ニキータ:

「ともかく、脱出経路を探しましょう」


 そこそこの広さがある小部屋なので、すぐに水がいっぱいになったりはしない。水中呼吸の魔法は使えなくなっているが、20分やそこらではおぼれる心配まではない。お風呂で考えると、溺れるような水量になるまで軽く4時間はかかりそうな具合だ。

 全員で手分けして壁などを調べていたら、スイッチになりそうな突起物を発見した。


リディア:

「ここなんだけど……?」

ジン:

「これ、もう嫌な予感しかしねーんだけど(苦笑)」

ニキータ:

「でも、他に何もないですし……」

葵:

『一か八か、押すだけ押してみればー?』

ジン:

「てめぇ、溺れないと思ってお気楽だな!」

葵:

『たりめーよ。どうすんでい、おう、とっととあきらめろい!』

ジン:

「諦めろってどういうことだよ(苦笑)」


 とかなんとか言いつつ、意を決して、突起を押し込んでみるジン。


ジン:

「やっぱダメだったか。ヤバい!(笑)」


 仕掛けが動く轟音と共に、左右?の壁が、私たちを挟み込もうとゆっくりと動き出した。部屋が狭くなるのに伴い、水位がみるみる上がっていく。


ジン:

「壁伝いに上に登るのが正解ルートか? ユフィ、肩に乗れ! 上の様子を見てくれ」

ユフィリア:

「うんっ!」


 水の中にしゃがむと、ユフィリアを乗せて立ち上がる。上から落ちてきた時の通路部分までは壁が閉じないハズだ。最悪、ユフィリアだけでも逃がそうという判断だろう。


リディア:

「どう?なにか見える? あああ、もう壁がそこまで……!」アワワワワ


葵:

『そろそろかな。センセー』

英命:

「ええ。この辺り、でしょうか?」


 位置を微調整するように移動すると、先程のジンと同じように、英命もどぼんと水の中へ。数秒で音が止んだ。……迫り来る壁が停止していた。


ユフィリア:

「えっ? どうなったの?」

ジン:

「うげっ、下かよっ!」

ケイトリン:

「クックック。誰もが上を見てる状況で、下。とんだ天の邪鬼(あまのじゃく)。それも2人も」


 また轟音が始まり、瞬間的にリディアが怯えたものの、今度は壁が逆に引っ込んで行った。どこかで排水溝が開いたらしく、室内の水がどんどん抜けていく。

 壁が元の位置に戻ると、更に音が重なって床が開き、下へ向かう階段が現れた。


葵:

『どーよ、ざっとこんなもんだっつー』

ジン:

「あー、はいはい。すごいすごい」

葵:

『最強のくせに、こんな罠も見抜けないのぉ~? プークスクス。だらしなくなくなーい?』

ジン:

「るっせーな!近接戦限定だぞ? 罠まで知ったことか」

葵:

『ハッ、どうせヤバそうだったらステップオーバーでどうにかしようとか思ってたんだろー? この脳筋がぁ!』

ジン:

「ギクッ(汗)」


 〈ステップオーバー〉とは、〈守護戦士〉の特技で、ダメージ床、トラップ床をダメージを受けながらも強引に突破してしまう特技だ。こうした水牢みたいな罠で使うものではないのだが、ジンの場合だとブーストしてしまえばなんとかなってしまいそうな気がする(苦笑) 壁を押し返す程度なら、普通にできるような……?


リディア:

「でも特技も出せないんじゃ?」

ジン:

「その辺は気合いでどうとでもなる!」キュピーン

リディア:

「でも、システムがダメって……」

ジン:

「ん? この世界のシステムはそんな意固地なヤツじゃねーぞ? 絶対ダメって部分もあるっちゃあるんだが、他の部分は融通が利かなくもない。交渉しだいというか、ノリとか、気合い、力業でなんとかできる」

葵:

『テメェ、どこのラカンだこの野郎!』

ケイトリン:

「存在がバグ……」

ジン:

「負け犬の遠吠え、ご苦労。 しかし実際問題、システムがコチコチだったら、今の半分ぐらいしか実力がなかったかもしれん」

リディア:

「それでも半分はあるってこと……?」

英命:

「そうしてみると、システムの限界を越えてからが本番のようですね」

ジン:

「強くなりたきゃ、システムと巧く付き合っていくこったな」


 力業でなんとかしていたというのだから頭が痛い。

 しかし、半分ぐらいは分かる気もするのだ。コーラスのサブ職を得たとき、システムの承認を体感した。あれは決して悪いものではなかった。


 普通はシステムの穴を突くとか、抜け道を探すといった具合にシステムを敵視してしまいがちな気がする。そうしてシステムを敵視することで、ある種、絶対的な限界としてしまうのではなかろうか。不満を言いつつも、限界の範囲内で行動しようと自らを縛り付けてしまうというか。

 ジンの言うように、巧く付き合っていく相手というのは、意外と正しい感覚なのかもしれない。


葵:

『ちなみに今のは、罠を発動させた後に解除法を見つけるパターンのヤツだね』

ジン:

「じゃあ、わざと押させたのか」

葵:

「そっそ。ゲーム的にフェアにするには、死ぬ最後のギリギリまで解除する方法が存在してないとだから」


 罠を解除した地点は部屋の中央からかなり偏った位置にあった。つまり、壁の移動速度が左右で異なっていたらしい。小部屋の中央部分には階段が出てきている。罠を発動させないと解除方法が分からないというのも、間違いではなさそうだった。


ユフィリア:

「そろそろ、いこっ!」

ジン:

「はいほい」


 完全に水が引いたところで階段へ。硬質な石の階段はまだ湿っていて滑りそうな怖さがある。壁に触りながら、確かめるような足取りで下に降りていく。狭い階段の窮屈さが少し怖さを助長している気がする。


葵:

『なるほど……』


 清らかな青い輝きに照らされた部屋には、数々の宝が置かれていた。武器や防具のような大きなものは見あたらない。小物ばかりだが。軽く20やそこらの数がある。


英命:

「これも罠、でしょうか……」

葵:

『たぶんね』

ジン:

「罠? ったって、どんな罠だ?」

葵:

『そこらに解説あんじゃねーの? まぁ、だいたい分かるけど』

ジン:

「ふーん」


ユフィリア:

「どれを選ぶか、迷うね?」

ニキータ:

「そうね」

ケイトリン:

「なぜ選ぶんだ? 全部もっていけばいいじゃないか」

ジン:

「……あー、そういうことか」


英命:

「奥に魔法陣がありますね。……ふむ」

葵:

『あった、あった、なになに?……「鍵を選択せよ」か。だいたい予想通りだね』


 脱出用らしき魔法陣と、ヒントを示すらしき言葉が刻まれたプレート。一応、プレートが外れないかどうかを確かめて、持ち帰れないことも確認してある。


ユフィリア:

「んーと、結局どうすればいいの?」

ジン:

「そりゃー、アレだよ」

ユフィリア:

「アレって?」

ジン:

「正解のアイテムを選ぶとか、そんな感じ」

葵:

『たぶんね。この罠を生き残った報酬なんだと思うけど、多くもって帰ったらボッシュートされるか、別の場所に転移させられてデッドエンドってトコかな』

英命:

「ひとり1つにしておくのが無難ですね」にっこり

葵:

『だから、まー、自分が欲しいもの(、、、、、、、、)を選んじゃえばいいんじゃねーの?』ケッケッケ

ジン:

「ん! あー、そういう罠か……」

リディア:

「えっ? 自分が欲しいのを選んじゃダメってこと?」

英命:

「6人でダンジョンを探索しているならともかく、96人で行うレギオンレイドの最中です。報酬をどうするか?というメタ的な罠にもなっているのでしょう」

ユフィリア:

「んーと……?」

ケイトリン:

「黙ってれば、この6人は好きなものを手に入れられる」ニヤニヤ

ニキータ:

「私たちのモラルが試されているのね」


 6人だけを選択的に穴へと落としたのは、こうした罠が準備されていたから、だろう。当然のことながら、報酬は公平に分配するのが正しい。しかし、生き残れたのはこのメンバーの努力や機転があればこそ。失敗すれば死んでいた。そうしたリスクを乗り越えて勝ち取った品を、残りの90人に差し出すべきかどうか。


ユフィリア:

「よくわかんないけど、欲しいのをもらっちゃだめってこと?」

ジン:

「いや、外の連中に秘密にするのかって話だな。みんなの分はたぶんもって帰れない」

ユフィリア:

「そっかー、でも、みんなで分け合えばいいんでしょ?」

ジン:

「でもバレなきゃ、ここの6人はアイテムが貰えるわけだろ?」

ユフィリア:

「そんなの、よくないとおもう!」


 さらには、6人で6つのアイテムを手に入れたとして、3個のアイテムを外の仲間達に、残り3個を私たちが受け取るように配分したとする。そうした場合、一見すると公平に思えても、私たち6人の中で得をする人間と、損をする人間ができてしまう。黙っていれば6人は満足できるのだから、そうした不満を生み出すように仕掛けられた罠にもなっているのかもしれない。


ジン:

「まー、そうなんだけど、たとえば欲しいのを選んだとするよな?」

ユフィリア:

「うん」

ジン:

「6つのうち、2つを、俺たちがもらうとするだろ」

ユフィリア:

「うんうん」

ジン:

「そしたら、その2つは、選んだヤツのとこに渡すわけだ。てことは、この中で貰えるのは2人だけ。4人は我慢することになるだろ?」

葵:

『ジンぷーとユフィちゃんにだけあげる。他の4人は我慢してね?って』

リディア:

「黙ってたら、みんな貰えるのに……」

ユフィリア:

「私は別に、なくても大丈夫だよ!」

ジン:

「でも、連中が俺たちに回してくるのは、お前の選んだ、お前の欲しいアイテムかもしれない。お前の欲しかったアイテムに、俺たちはなんの興味もないかもしれないだろ。……違うか?」


 最初から不公平な設問なのだ。人数に対して、アイテムの数が足りない。全員が満足する回答などはあり得ない。


ユフィリア:

「じゃあ、じゃあ、私は誰かにあげるためのプレゼントを選ぶ!」

葵:

『おおっ!?』

英命:

「なるほど」ニコニコ

ユフィリア:

「みんなもそうしよう! ……だめ?」

ジン:

「んー、……意外と悪くないかも知れん」

リディア:

「プレゼントする権利を貰えるかどうか、ってことね? まー、それなら別に損することにはならない、かな」

ケイトリン:

「受け取りを拒否しないなら」ニヤリ

ニキータ:

「あははは(苦笑)」


 私が「もらえない」と拒否するなら、この話は無しにするという半ば脅迫めいた提案だった。ここは場の空気を優先するべきだろう。ケイトリンがもし権利を得たら、受け取ることに決めた。


ユフィリア:

「じゃあ、えらぼっ! 誰にあげよっかなー、何をあげよっかなー♪」

ジン:

「誰にするか、それが問題だ。日頃の感謝でレイにするか、それとも石丸にするか。ああ、聖女ちゃんに何かあげてもいいかもなー」

葵:

『あたしに寄越せや!』

ジン:

「ざけんなよ、誰がお前に!……って、そうか。にゃんこ先生にお土産って手もあるな」ムムムム


 ユフィリアにあげるのもいいけれど、日頃の感謝だとするなら、ジンにアイテムを押しつけるチャンスの気もする。武器や鎧は拒む人なので、こうした小物なら迷惑になりにくい。問題は何を選ぶかだろう。


ユフィリア:

「ジンさん、どれか決まったー?」

ジン:

「おう、決めたぜ。これにする」ビシッ

葵:

『マジか!(笑)』

リディア:

「それって、アリなの?」


 ジンが指さしたのは、壁に設置され、この部屋を照らしている青い炎の照明器具だった。ダンジョンのギミックに使われている、聖なる炎と同じものだろう。透明度の高いガラスで覆われたランプの形状をしている。


葵:

『だれ向けだっつー(苦笑)』

ジン:

「みんなで使えるかなーって。ギルドの噴水のところに置いてもキレイかもだろ? いや、むしろ冷蔵室においといて、食べ物が腐りにくくなったらいいんだがなー」

英命:

「温度のない光ですしね。……おや、〈聖なる種火〉? 種火としても使えるようですね」

葵:

『種火ってんなら、まず戦闘利用だべ。アンデッドに効果の高い、聖なる炎の矢とか作れるかも』

ジン:

「おいおい、少なくともシュウトになんぞやらねーぞ?」


 聖なる炎の矢であれば、〈矢師〉であるシュウトの出番だ。結局は、シュウトが使うとになりそうだ(苦笑)


 銀の櫛や手鏡など、思い思いの品を選んでいく。私は、〈修復キット(15)〉なるものにしておいた。幻想級の装備品の耐久値を回復するには、幻想級素材が必要になる。この修復キットは、そうした幻想級素材の代わりになるものらしい。15とあるので、15回分だとすると、お徳用なのではなかろうか(←主婦っぽいケチさ)


ユフィリア:

「じゃあ、戻ろっか!」

ジン:

「そうだな」


 それぞれにアイテムを手に持ち、魔法陣から転移する。出てきたのは落とし穴があった地点。唐突に現れた私たちに、みんな驚いていた。


 事情を説明し、この日はさすがに切り上げることになった。







ジン:

「んじゃ、とっとと脱げ」

アクア:

「わかった」


 サイドポニーにしている髪留めを外すと、サラリと銀髪がほぐれて波打った。躊躇なく、ぺろんとシャツを脱ぐと、下着を外しに掛かる。スレンダーなボディに、形の良い乳房、綺麗な色の乳首を惜しげもなくさらしてしまう。


アクア:

「いいわよ」


 裸を見せつけて、堂々とした態度だった。


ジン:

「……Tシャツぐらい着たらどうだ?」

アクア:

「どうせ脱ぐんでしょう?」

ジン:

「そうだけど。まぁ、いい。下向いて寝ろ」

アクア:

「ン」


 明日のレイドボスとの決戦の前に、アクアはジンの提示した『最終手段』とやらを試すことにした。ジンの出した条件は『おっぱいを揉ませること』で、それをあっさりとOKし、今こんな状態になっている。さすがに2人きりはジンもマズいと思ったらしく、「ニキータに見張らせろ」ということになった。ユフィリアにアクアの胸を揉んでいるシーンを見せるわけにもいかなかったのだろう(苦笑) それで私も含めた3人でテントを使って、なにやら怪しげなことをやろうとしていた。


ニキータ:

「結局、何をするつもりなんですか?」

ジン:

「体を柔らかくするしかねぇだろ。肋間筋を直接触って、サモンする」


 この場合のサモンは『身体意識を喚起すること』の意味で使っている。


ニキータ:

「だから胸を揉ませろってことなんですね?」

ジン:

「背中だけじゃ済まないからな。脇と胸の下も触ることになるだろ」


 アクアの体にのし掛かるジン。そういう意図はないんだろうけれど、そういう雰囲気がまったくないかという、そうともいえないような……?


ニキータ:

(……!)


 心臓が跳ね上がる。ジンの両手が真っ白に輝いていたからだ。

 最初はゆっくりとほぐすように撫で回して……愛撫?……えっと、マッサージしていく。アクアの呼吸音が微かに乱れていくのが聞こえてしまう。なまめかしく、官能的な体験だろうことは間違いない。

 ジンに撫で回された経験からいうと、あんなことをされると、いろいろと煮えたぎってしまうというか、なんというか……。


ジン:

「じゃあ、肩胛骨を剥がして、その下の肋骨触っていくからな?」ぐいっ

アクア:

「あッ!」

ジン:

「痛かったか? スマン。なるべく優しくするから……」ズボボボ

アクア:

「深ぃ、っ……そんな、奥まで……?」

ジン:

「ん~? さっきから微妙にセリフがエロくねーかー?(苦笑) 酒でも飲んでんのかよ?」

アクア:

「そんな訳……っ!」

ジン:

「じゃあ、ちょっと我慢なー」ズブリ

アクア:

「んグゥッ!」


 ずっぽりと、かなり深いところまで指を突っ込んでいる。アクアが不安になるのも当然だろう。しかし、ジンはお構いなしだ。丁寧に撫で回し、肋骨の形を脳に刻みつけていく。何度も何度も肋間筋に指を這わせ、刺激を高めていった。雰囲気がピンク色に染まる。


ジン:

「じゃあ、脇な。脇は弱くやるとくすぐったく感じやすいから、ちょっと痛めにするぞ?」

アクア:

「ハァッ!」


 苦悶の表情、揺れる乳房。ドSっぽいアクアが、ジンの前だと実はドMであると知ってしまった(のかもしれない)。……もはや果てしなくエッチだった。でも、私にはどうすることもできなくて……。


ジン:

「じゃあ、前な。ちゃんと座ってろよ」

アクア:

「え、ええ」

ジン:

「さてと……」


 後ろから抱きしめるように腕を回すと、右の乳房に手が伸びていく。ほのかに張りつめた乳首、それを……邪魔そうに押しのけると、その下の肋骨にむしゃぶりつくように……、いいや気のせいだ、完全にただのマッサージに徹していた。乳房にも、乳首にも何の興味も、興味の欠片も示さず、肋間筋をほぐすように肋骨をさすっていく。行為としては、むしろスペアリブにしゃぶりついて、周りの肉をこそげ取るような、そんな執着に近いなにかだろう。


 同様に左の乳房の下の肋骨にも刺激を加えていった。

 一通り終えると、腰、足、首と、周辺のマッサージも加えていく。これらは、全身がつながっているためで、胸郭だけ刺激しても全体のバランスで見なければならないから、らしい。

 ものすごくウェットでありつつ、まったくドライな一連の行為を終えた。


ジン:

「こんなモンかな? ……ちょっと後ろ向いて立ってみな」

アクア:

「どうかしら……?」


 アクアの背中が一回り大きくなっていた。少し、男らしく感じるというか。


ニキータ:

「大きくなってますね」

ジン:

「ああ。父親の大きな背中が、年老いて小さくなった、とかってエピソードがあるだろ?」

ニキータ:

「はい。じゃあ、あれは……?」

ジン:

「そうだ。子供の身長が高くなって、相対的に父親の背中が小さくなっただけじゃない。身長と同じだ。骨と骨の間がつまって背が低くなるように、背中も硬縮が進むとだんだん小さくなる」

アクア:

「肋骨の可動性が低くなるわけね?」

ジン:

「そういうこと。かなり無理矢理、外から広げた形だからな。特に〈冒険者〉の体は復元力が高くて元に戻りやすい。どのくらい保つかワカランが、明日の昼までは保たせろよ」

アクア:

「ありがとう。助かったわ」


 手を伸ばして握手を求めてくるアクア。当然のように上半身は裸のままだ。目のやり場に困った様に、かるく顔を逸らすジン。


ジン:

「いや、もう終わったから、服 着てからにしろよ」

アクア:

「さんざん揉みしだいておいて、今更なに? 照れてるの?」

ジン:

「うーわー、可愛い声で鳴いてたくせに。終わった途端に強気かよ?」

アクア:

「なによ、文句あるわけ?」

ジン:

「お前こそなんか文句あんのか?」

ニキータ:

「まぁまぁ。もう良いじゃないですか(苦笑)」


 素直になれないというか、不器用というか。きっと葵も同じで、喧嘩してる方が楽なのかもしれない。アクアは慣らしで歌いに外へ出ていってしまった。


 可能な限りの準備は終えたと思う。これで明日は最高の状態でレイドボスに挑むことになるだろう。昂ぶる気持ちはあるが、しっかり休むのも大事な準備だろう。


ジン:

「じゃあな」

ニキータ:

「お休みなさい」

ジン:

「おう」

 

 その後、しばらく歌い続けたアクアの歌声を子守歌にして、深い眠りへと落ちていったのだった。

 


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