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217  レオン戦


 ゆったりと構えたレオンは余裕たっぷりに見える。勝って当然という態度は気に入らないが、それも戦いの技術だろう。ともかく相手の装備品をチェックしておこう。本気は出してこないだろうと思っていた。やはりミネアーの鎧は使わないようで一安心。黒い騎士鎧に合わせた武器は、好対照な白い大剣。名前はたしかアヴァランチ、幻想級だ。


 僕は左腕に龍奏弓を装備し、『消える移動砲台』スタイルで準備。本気も本気だ。〈乱刃紅奏撃〉での一発勝利も狙っていく。


レオン:

「準備は良さそうだな?」

シュウト:

「ええ」

ギヴァ:

「よし、両者は開始位置へ!」


 「はい」と返事をしたくなくて、「ええ」と言ってみた。少しでも気持ちで負けたくなかった。たかだか返事ごときでこれとは、余裕がなくなっているな、と自分を笑っておく。

 先に開始位置に着いたレオンは、大剣を青眼に構えた。


レオン:

「先駆者に敬意を示そう。『オーバーライド(、、、、、、、)・パワー』!」

シュウト:

「ぐっ……!」

ジン:

「フン」

 

 ジンに配慮してオーバーライドを名乗ることにしたらしい。5レベルの差など、一瞬で捲られてしまった。経験的に、筋力がどうこうよりも、濃密な意識を纏っていることが怖い。見かけ以上に実力を分厚く感じる。


シュウト:

(どこまで対抗できるか、じゃない。勝つ(、、)んだ!)


 最終チェックを兼ねたルーティーンを入れる。しかしどうしても肩が上擦ってしまう。本能的な警戒心や自覚のない恐怖で、下がらなくなっている。マズい。余裕がないのを自覚すると、余計に悪化してしまう。良くないパターンに入りそうだった。


シュウト:

(こういう時はどうするんだっけ……? 落ち着け、大丈夫。ちゃんと教わってる)



 ……『殺す』



 『倒す』とか『勝つ』では足りない。レオンを睨みつけ、本気の殺意を高める。同時に破眼も発動。程なくストンと肩が落ちた。まったくもって、物騒なリラックス法だな、と思う。……準備完了。


ジン:

「ふーん」

ユフィリア:

「ジンさん、なんか嬉しそう」

ジン:

「ここまでは合格点だ。……さて、どこまでやれるかな?」



ギヴァ:

「では、始めぃ!」


 大きく円を描くように右に動きつつ、レオンの様子を窺う。向こうは接近しないと始まらない。弓矢を警戒してか、ナナメ前方に向かって飛び出していた。ジグザグに動いて接近する模様。なんて悠長なことを考えていたら、あっという間に距離を詰めてきた。筋力強化型のオーバーライドは、速度特化のベアトリクスほどではないにせよ、かなりのスピードがでる。鎧を着てて、並のアタッカーより速いときた。まったく迷惑極まりない存在だ。


レオン:

「ぬんっ!」


 繰り出された薙払いを、早めに大きくステップして回避。相手の動作をチェックしながら様子見を続ける。隙を突こうにも、観察しないと始まらないからだ。

 数度の追撃をからくも逃れ、安全圏へ。間合いがなんとなく見えてきたぐらいの状況である。周囲に構造物がなくて対象のスピードが分かりにくかったが、近接で襲われるとやはりとんでもなく速い。避け切ったとはいえ、思ったよりギリギリで余裕がなかった。


レオン:

「どうした、逃げてばかりでは勝てないぞ?」


 すみません、とか思わず謝りたくなる。でもここは堪えて、挑発しかえすべき場面だろう。がんばって何か言い返さなければ。えーっと……。


シュウト:

「無闇に攻めたって、それこそ勝てないでしょう? それに僕には、ジンさんが授けてくれた秘密の作戦があ……」

レオン:

「ブラフだな」キッパリ


 一瞬で見抜かれたー。 ><;

 というか、最後まで言わせてさえくれなかったんですけど? ねぇ、ちょっと、葵さ~ん??


シュウト:

「や、やけに否定が早かったんですけど、それってやっぱり意識しちゃってるからでは? あなたでもジンさんだけは無視できませんよね?」

レオン:

「ああ、それは否定しない。だが、秘密の作戦が無いことは断言できる。もう一つ言わせてもらえば、秘密の作戦をチラつかせようというのは、葵の策だろう?」

シュウト:

「…………」

レオン:

「図星か」


 もう完璧に見抜かれてるんですけど? (ドラ)えも~ん!?


レオン:

「ジンに私を倒す『策』など思いつかないさ。ましてや、君が実行して成功する策など、分かるまい」

シュウト:

「あ、ああっ……!」

レオン:

「理解したようだな。そもそも私を倒すのに策など必要ないのだよ、あの男にはな」


 確かにそうだ。そう言われれば僕にも分かる。あの人は下手殺しが苦手なのだ。レオンを倒すだけなら、そもそも策なんて必要ない。圧倒的に強いんだから、そのままでいい。つまり、実力が拮抗していないのだから、均衡を崩す必要そのものがない状態なのだ。

 普通に考えれば、レオンの弱点か何かに気が付いて、それで策を練ったりするものだろう。じゃあ、レオンの弱点に気付いているか?というと、知ってても知らなくても関係ないのがジンなのだ。


レオン:

「さ、続きを……」

シュウト:

「確かに、秘密の作戦なんてものはありません。ですが、貴方に勝つための、新しい力はあります」

レオン:

「ほう?」


 ブラフは効かないと分かった。ならば、ここは正面から実力を見せていくべきだろう。試し撃ちすらまだだったので、ここでついでにやってしまおうという魂胆もあった。

 何より、レオンの親切な忠告に対して、フェアプレーで応えるべきと思ったのだ。心が卑屈になれば、それだけで気圧されてしまいかねない。堂々と挑もう。向こうに貸しを作る勢いで!←卑屈


シュウト:

「『風の矢』!」


 矢筒に手を伸ばして矢を受け取ると、そのまま龍奏弓にセット。弦を引き絞り、あえてレオンが武器を構えているところに向けて放った。



 キュン! ガツッ


レオン:

「なんだと!?」


 反応の遅れたレオンが驚愕し、うめき声をあげた。それもそのハズで、ちょっと見たことのないスピードで矢が飛んでいった。矢が来るのを分かっても、準備していなければ避けられないだろう速度が出ている。これはかなり嬉しい誤算だった。ここまで使える能力だとは流石に思っていなかった。


 破眼を使っているためか、だいたいの事情は理解できた。MP消費が約500点。自分のMP値からすると使用回数は最大で20回程度。重すぎないが、軽くもない。そして最大の特徴は、特技ではなく、『武装の一種』ということだろう。矢が『魔法的な効果』をもってしまっている。これに『特技を重ねて』放つことができるらしい。


 『精霊の矢×特技』で、威力や効果がかなり高くなる組み合わせも出てきそうだ。後でいろいろ試してみなければならないだろう。それと同時にMP消費はかなり重くなってしまうことにも注意が必要だ。たとえば『MP500点の特技』と重ねて使った場合、10回しか行動できないことになってしまう。戦闘の構成を判断すれば、2~3回の使用が限度になりそうだ。そして……。


シュウト:

(僕のサブ職が、〈矢師〉だからか……!)


 〈四天の霊核〉(エレメンタル・コア)が〈矢師〉の『矢を作る能力』を使ったのだろう。10秒掛からずに済んだのはシステムを介していないためだ。従って、サブ職を変更すると使えなくなる可能性が極めて高い。


 もともと〈カトレヤ〉では、サブ職によるキャラクター・ビルドの『方向付け』こそが、強くなるためのポイントだと予想されていた。たとえば、ジンのサブ職は〈竜殺し〉である。ゲーム時代はハズレのサブ職とされていて、追加特技を比較しても高性能とは言い難い代物だった。それが〈大災害〉による異世界化で全てが変化し、本来『単なる設定』だったものに背景や機能が補われた。その結果、ジンに『竜殺しという役割』が付与され、あそこまで強くなれたのではないか、というのだ。

 

 正直に言って、僕もかなり悩んでいた。強くなるためならなんでもするべきではないのだろうか。たとえ機能は大したことなくても、強くなれそうな『派手な名前のサブ職』に変えるべきじゃないのか、と。作成難易度の高い矢を作れる仲間がいたら、たぶんもっと前に変えていたと思う。


 だから、複雑な気分だった。変えなくて良かった、正しかったという思いはある。しかし変えるチャンスを失ったのではないか、本当に変えなくて良かったのだろうか?という気持ちも同じぐらいあった。でも、まぁ……。


シュウト:

(こんな可能性もあるなら、もう少し〈矢師〉(こいつ)でがんばってみてもいいかも……)


 そんな風に思えたことが少し嬉しい。ストンと何かが落ちて、収まるべきところに収まったように感じていた。


レオン:

「わざと外したのか?」

シュウト:

「ええと、時間がなくて試し撃ちもまだだったので」

レオン:

「ずいぶんと余裕だな。礼なら言わんぞ?」

シュウト:

「こっちは謝らなきゃいけないかもですね。……なんか僕が勝つかも?」

レオン:

「気の早いことだな!」


 近接では弓矢のオートアタックが停止する。至近距離からでもモーション入力を使えば、特技を強引に発動させることはできるが、レオンのスピードを考えるとリスクが高すぎる。オンスロートの直撃を喰らえば確実に即死だ。バックステップも危険なので、サイドステップからダッシュに移行。〈ポイズンフォッグ〉を撒いて最短コースでの追跡を阻害しておく。

 

シュウト:

「〈アトルフィブレイク〉!」


 レオンがポイズンフォッグを避けた直後を狙って麻痺+移動速度低下の特技を放つ。見事に命中し、ファーストヒットを奪った。咄嗟に間合いを詰めて大ダメージを狙いたくなるのだが、〈ヘヴィアンカー・スタンス〉で足止めされると即詰みなので我慢した。


 遠距離間合いから蜂の巣にするべく、矢を射ていく。同時になるべく距離を確保しておきたい。しかし、笑えるほどにダメージが通らなかった。〈ブロックミサイル〉のような射撃防御は発動に盾が必要なはず。確率発動の〈アイアンバウンス〉だと思いたい。ちらりと『筋力による肉の壁説』が脳裏を過ぎる。……いや、まさかね。いくらオーバーライドでも、そこまで滅茶苦茶が許されるとは思いたくない。


 それはともかく、レオンは目や反応も良い。距離があると武器で矢を防いでしまう。オートアタック分はまるっきり通用しなかった。こんなことをやっている間に、〈レジリアンス〉で全回復してしまいそうだ。


シュウト:

「『瞳』よ、行け!」


 龍奏弓は3連射ごとにプロックとして『瞳』が発生する。都合6射して2個の瞳を待機させていた。正面から崩せないなら、横や後から攻めればいい。コントロールを矢筒に任せ、次のアクションに意識を移そうとしたタイミングだった。


レオン:

「遅い!」


 〈アトルフィブレイク〉のデバフ回復が予想より早かった。幻想級装備の効果かなにかを見落としていたのだろう。十分に距離を取っていたつもりだったが、一瞬で詰められた。ここまで全速力は温存してたようだ。緊張か恐れか、微妙な感情が胸で揺れている。振り下ろし攻撃に合わせて、咄嗟にガード! ガード自体は間に合ったが、お構いなしに振り切ってくる。理解できない威力に青ざめる。凄まじい圧力。あっさりと吹き飛ばされた。



葵:

『ちょっ!? おいおいおいおい!!』

ウヅキ:

「ちょっと待て。なんだよアレ、なんなんだよ!?」

ジン:

「あーあ、受けちゃダメなんだよなー」へらへら

レイシン:

「んーと、……どういうこと?」

ジン:

「どうもこうも、見たまんまだろ? 筋力だけなら100レベルなんか軽く超えてんだから。耐えられないって」

ニキータ:

「あれって、どうすればいいんですか?」

ジン:

「シュウトにはどうしようもないなー。避けるしかねぇんじゃねーの?」

葵:

『いやいやいや、なんか、なんか無いの?』

ジン:

「でも、受けたらああなるしなー。受け流す場合、威力を完全に削がなきゃダメだ。レオン相手にそれをやる技術はシュウトにはない。後は、差し引きダメージ喰らうけど、相殺を狙って攻撃するかだなー」

レイシン:

「それも筋力で押し切られるんじゃないの?」

ジン:

「まぁ、負けっけど、ずいぶんマシにはなるだろ。相殺はゲームシステムが顔を出す部分だから、ダメージ値で判断されるし」

葵:

『ほーん。アタッカーのシュウくんなら、ちっとはマシってことか』


 レオンが立ち上がるのを待ってくれているので、寝ころんだまま解説をありがたく聞いておく。まさか、武器で防御したらHPの3割近いダメージを喰らうとは思ってなかった。受けたとして残り2回で負けるか死ぬかする。クリーンヒットなら1撃で死ぬっぽい。まさかここまでミスが許されない戦いだとは思っていなかった。

 それと相殺の話は重要だった。たとえ攻撃が物理的に軽くても、ダメージ値が高ければ相殺できるらしい。刃物の論理を使って、きちんと刃を利かせるのが良さそうだ。近接戦闘になったら相殺を狙っていくしかない。


シュウト:

(さて、ここからどうしたもんか(苦笑))


 やはり奇襲しかないと思い定める。だが、奇襲が来ることをレオンは知っていて、警戒している。だったらどうするのか。……正面突破にチャレンジだ。ぱっ、と立ち上がる。


シュウト:

「行きます」

レオン:

「ああ、来い!」


 脳内ステータスで弓をマジックバッグにしまってから、真っ直ぐにレオンに向かって走る。向こうがこちらの狙いに気付くかどうかは、距離に左右されるだろう。完全なる速度&反応勝負。踏み込み斬撃が来たとして、躱せるかギリギリのところまで一気に距離を縮める。最高速度での突撃。

 直後、瞬時に体をブッ倒す。脳内アイコンから、ノータイムでアサシネイトを発動。最高速のBFS式・動作最適化アサシネイト。奇襲を読んでいる相手への正面からの真っ向勝負。これも逆に奇襲かもしれない。絶対に倒れるはずの体が、システム・サポートで継ぎ足を繰り出し、強烈な加速が掛かっていた。レオンを捉えたと感じた。


シュウト:

「〈アサシネイト〉!!」

レオン:

「〈オンスロート〉!!」


 まさかのオンスロートでの迎撃だった。構わず、全体重を乗せた斬撃に全てを賭ける。凝縮した時間の中で、僕の意識は真っ白に燃えていた。武器同士がぶつかり合う金属の悲鳴をかきけさんばかりに、僕らは同時に叫んでいた。


シュウト:

「おおおおおおおおお!!」

レオン:

「アアアアアアアアア!!」


 僅かに均衡が破れた。その途端、前方にぶっ飛んで、転げ回っていた。



葵:

『どっち? どっち勝った?』

ユフィリア:

「シュウトが勝った!」

英命:

「差し引き4000点ダメージのようですね」

レイシン:

「おー、すごいすごい」やんややんや

ウヅキ:

「チッ、切り札きってたった4000ぽっちかよ」

葵:

『単発高威力のアサシネイトと、連撃のオンスロートだったから打ち勝った訳だろ?』

ジン:

「まぁ、そうだろうな」

ケイトリン:

「それより、どうしてあそこからオンスロートが間に合う?」

ジン:

「ん? 俺が答えるのか? ……具体的にはパワーで強引に間に合わせたわけだけど、それもこれも判断速度に由来してる。つまりあれが天才ってことだな」

葵:

『身も蓋もねぇー(苦笑)』

ジン:

「基本スペックが高い上に、ここぞという場面での勝負強さまである。今のアサシネイトにオンスロートをブチ当てようと思ったら、成立する時間幅なんざ3フレーム(約0.05秒)あるかどうか。……天才ってな、ああいうもんだ」へらへら

葵:

『シュウくんはキャッスル・オブ・ストーンを使わせたかったんだべ?』

ジン:

「どうだかな。とりあえず、超反射で戦いたいんだろ。あいつの魔眼は邪魔になっから、どうせならって感じにみえたけどなー」


 片っ端からバレッバレなんですけど(汗顔) どうやら実力上位の人には読心術がデフォルトらしい。僕にも読心術が必要な気がしてきた。


 次の展開が思い付かないので、決め打ちの展開に移行する。〈シェイクオフ〉で煙幕を発動。そしてレオンに確実に聞こえるように叫ぶ。


シュウト:

「〈乱刃紅奏撃〉っ!!」



葵:

『ほう、矢筒ちゃんはミニマップ使えるから、煙幕っといて『瞳』で攻撃するのは効果的だぁね~』

ジン:

「いやぁ、安易だろー。正面特攻しといて、次がコレとか説教もんなんだが。でも、んー、俺のセンスと合わないだけかぁー?(悩)」

タクト:

「ここでキャッスル・オブ・ストーンを使わせたいってことじゃ?」

ジン:

「じゃ、お前なら使うか?」

タクト:

「……たぶん、使いません」

葵:

『お? そうなん? どして?』

ジン:

「分かり切ったこと訊きやがって。……そもそも防御特技は、相手が完璧な流れで決めてきた必殺技を、『あ、やっぱ今のナシ』ってやるためのものだ。そうやって相手の流れを壊すのに使うんだよ」

タクト:

「なるほど」

リディア:

「わかりやすっ!」

ジン:

「これは煙幕の使い方がクソだ。見えない不安を利用したつもりになって、切り札使ってくれたらいーなー?とかの淡い期待がダダ漏れだろ。煙幕使って戦況をどう変えるか?って話だろ。相手の動きを待って、主導権譲ってどうする気だっつー。相手を動かして、隙を作れっての。

 だいたい(お説教モード)、負けると思ってる時は天才は凄い、絶対勝てるわけないとか『天才』を言い訳に使いまくるくせに、ちょっと勝とうと思ったら途端に手の平返して、根拠のない見下しを始めるんだよなー。天才ったって、同じ人間だし、どうせこの程度でしょ? みたいな。凄いヤツのさらに上を行って勝つとかって発想はないのか、この愚民どもが!」

アクア:

「貴方、本当に、誰と戦ってるの?」

ジン:

「世間の一般認知ですが、何か?」

葵:

『あ、煙幕が晴れるよー』←聞いてない



 戦闘中にお説教されてべっこり凹んでる愚か者は誰ですか? ……それは僕です。

 実際問題、本気で走って逃げられたらレオンに攻撃が当たると思えない。無駄撃ちになってしまうだろう。背後ぐらい取りたかったけれど、シェイクオフは音までは消してくれない。薄く雪のつもったフィールドでサクサク言わせてたら、場所がバレてしまいかねない。

 

葵:

『おっ、陣地を形成したってカンジかな、こりゃ?』

ジン:

「…………」

レイシン:

「(じー)ってことは、ここが勝負のポイントだね」


 当のレオン本人はというと、幻想級の武器を並べて突き立てていた。大剣2本と巨大な戦斧1つ、そして初めて目にする大型の盾を装備してどっしりと構えていた。


シュウト:

「ご立派な盾をお持ちですね? それも幻想級ですか?」

レオン:

「そうだ。君には言わなかったが、これでも一応〈守護戦士〉なのでね」

シュウト:

「知ってますよ、そのぐらい!(苦笑)」


 しらじらしい会話にも付き合ってくれる、正に貴公子。いや、元・皇帝だっけ。

 そのレオンがパッと動いて、地面を思い切り蹴りつけていた。地面の雪が広がりながら、こちらに向かって飛んでくる。何が狙いなのかよく分からない。煙幕の代わり?でも視界はクリアなままだ。この程度の雪に何ができるというのだろう……。


タクト:

「巧い!」

リコ:

「えっ? 何が? あんなのダメージにもならないでしょ?」

ジン:

「風船が全~部、割れちまうぞぉ?」


シュウト:

「!?」


 その意味するところに気付いて、慌てたがもう遅かった。〈乱刃紅奏撃〉で発生した6つの瞳の内、4つまでが雪に触れてはじけるように消滅していた。やられた……!


ジン:

「あーあ、やっちまいやがんの。でもまぁ、シュウト対策以外にも、河原で小石とか拾っとくと、便利に使えるよなー」

タクト:

「後で拾っておきます」

ユフィリア:

「もぉー、ジンさんはシュウトを応援してあげないの?」

ジン:

「そんなこと言われても。アドバイスしたらシュウトが反則負けになるだろ?」

ユフィリア:

「大事なのは、気持ちだと思うの!」

ジン:

「気持ちで勝てたら苦労しねーっつー(苦笑)」

葵:

『とはいえ、気持ちのひとつもなきゃ、勝てるものも勝てなくなるんだけどな!』

ジン:

「ホレ、シュウト、ビビんな、いけいけ~」←適当


 えっ、近接戦闘を挑めって意味だろうか? いやいや、ユフィリアに言われて応援しただけですよね……? 父親参観日的な緊張感の中で戦闘してる気がしてきて、これじゃ勝てるものも勝てないよ!とか言いたくなってきた。「言い訳すんのか? あ?」とか言われるのに決まってるけど。

 

シュウト:

「〈ラピッドショット〉!」


 次々と矢を連射してみるが、避けられるし、防がれる。やはり遠隔攻撃で大ダメージを狙うには、レオンの動きを止めるしかない。持っている手札を組み合わせて、可能な手を探っていく。こういう時は破眼があるといいのだけれど。


シュウト:

(ダメだ、僕が勝てるイメージが浮かばない……)


 何をやってもレオンに返される。そっちのイメージの方が鮮明だ。

 ほんと、奇襲しか思い付かないこの頭とかどうにかならないものだろうか?


シュウト:

(待てよ、……てことは、逆にレオンなら? 失敗しても、うん)


 オートアタック込みで3連射して『瞳』がひとつ現れた。これを随行させて突撃することに。腰に差している銀鞘の短剣を引き抜く。コイツがこの作戦のかなめだ。


 僕単体で突撃すると、オンスロートで迎撃されたみたいな返しが待っていそうなので、瞳を先に発射。続けざまに〈アクセルファング〉を発動させて斬り抜ける。レオンが振り返る動作にタイミングを合わせ、かつかつのMPから絞り出すように〈ハイドウォーク〉を発動。死角へと滑り込む。クリティカル率がアップした状態で、背後から〈ステルスブレイド〉で……。


レオン:

「〈ヘヴィアンカー・スタンス〉」

シュウト:

「なっ!?」


 振り向くことすらせずにヘヴィアンカー・スタンスを繰り出し、移動阻害してくるレオン。磨き抜かれたアヴァランチの刀身に、背後から接近する僕の姿が写っていた。そういう使い方もあるんだなぁ、と素直に感心してしまった。ミニマップがなくても、そうやって工夫すればいいらしい。


 ヘヴィアンカー・スタンスに捕まったのは、半ばやっぱりという気持ちが大きい。何をやっても通じないという予想は当たっていた。『悪い予感が当たったことを喜ぶ心理』みたいなちっちゃな嬉しさを覚えつつ、ここから先の展開に軽い絶望を覚える。移動を封じられた状態でレオンと打ち合わないといけない。


レオン:

「〈クロススラッシュ〉!」

シュウト:

「〈ヴェノムストライク〉!」


 相殺に成功。HP1000点ぐらい削られているけれど、まだ行ける。一発くらえば吹っ飛んで拘束解除されそうなものだけど、死なないように調整するのが厳しい。それにレオンは長身を活かして打ち下ろしてくるのでちゃんと吹っ飛ぶかどうか怪しい。天才様はまったくそつ(、、)がない。


レオン:

「〈マーシレスストライク〉!」

シュウト:

「〈パラライジングブロウ〉!」


 何かがゴリゴリと音を立てて削られていく。いや、HPも削られてるんだけど、集中力とか命とか魂とかそういうのの残量が減ってってる気がしてしかたない。


レオン:

「〈オーラセイバー〉!」

シュウト:

「それは避ける!」


 オーラセイバーばっかりは、相殺できるか分からない。キアヌ・リーブスばりに思い切り姿勢を崩しながらも、ギリギリで回避に成功。しかし、後が続かない。崩れた姿勢を立て直すよりも先に、レオンの次の攻撃が来てしまう。次のは避けようもない。



シュウト:

「…………」にやり


 思わず笑みがこぼれてしまった。これまでに生き残っていた『瞳』4つによる、オールレンジ攻撃。近接攻撃に耐えたのは正面から戦うことでこの攻撃を隠すためだったのだ。


レオン:

「っ!!」


 しかし、レオンは直前に察知し、跳びすさって緊急回避。信じられないことに、見事に躱してしまっていた。人の居なくなった地面に瞳が着弾して消滅した。


葵:

『そんな……』

ウヅキ:

「それも避けるのかよっ!?」



 だが、計算通り……!


シュウト:

「ここだっ、〈シャドウバインド〉!」

 

 銀鞘の短剣をレオンの着地点に投げ、拘束に成功。

 レオンなら、『瞳』による奇襲も避けるかもしれないと思ったのだ。天才は信じるに値した。そして回避したのだから、ヘヴィアンカー・スタンスの効果も消える。僕の目的は最初から移動阻害だった。

 弓による遠隔攻撃に移行する。


シュウト:

「『火の矢』を!」


 精霊の矢を呼び出すと、弓へとつがえ高くジャンプ。


シュウト:

「行け、〈アロー・ランペイジ〉!!」


 曲射の特技を、ジャンプすることで強引に打ち下ろしへと変化させる。即席の必殺技『火の矢・撃ち下ろし式アロー・ランペイジ』だ。こうすることで数多の矢が広がりきる前に相手に命中させることができ、集弾性を高められる。


レオン:

「〈キャッスル・オブ・ストーン〉!」


 強烈な火矢によるゲリラ豪雨を緊急特技でしのぐレオン。ようやく切り札を破棄させることに成功した。10秒の無敵時間が終わったら、あとは弓で削り倒すのみ。3射ごとに生まれる『瞳』を駆使すればなんとか勝てるだろう。弓でならエクスターミネイションも使えるし、スナイパーショットもある。MPはギリギリだが、まだ精霊の矢も使える。最後まで油断しないように、丁寧に詰めの作業を行おう。

 10秒の無敵時間が、切れる。


 レオンはアヴァランチを手放すと、巨大な戦斧に持ち替えた。今更、武器交換?と思いつつ、弓矢を構えて攻撃態勢に。


レオン:

「フンっ!」

シュウト:

「えっ……?」


 弓を撃とうとして足を止めていたところに、ブン投げられた巨大な斧が直撃した。あまりにも重い衝撃に、胴体が千切れたのかと思った。そしてレオンに距離を詰められて、あえなくゲームセット。なんとも、あっけない幕切れだった。


シュウト:

(斧に持ち替えて投げたということは、瞳を回避した先が、武器を突き立てていた陣地だったってことか……?)


 レオンの強運のなせる技だとしたら、余りにも理不尽だと思う。そのタイミングでジンとレイシンの会話が聞こえてきた。


レイシン:

「これが勝負のポイントだったんだ?」

ジン:

「ああ。木を隠すなら森の中。武器を並べたってことは、武器を目立たなくさせるため。じゃあ、何を? どれを?ってことだな。遠距離射撃中心のシュウトを相手にするなら、自分もひとつぐらい遠距離用の武器がないとだしな」

アクア:

「そういえば、ベアトリクスと戦ってた時、斧を投げていたわね」

ジン:

「そう。俺に向かってな」


 マジックバッグに入れておいて、必要になったら取り出せばいいのだから、武器を外に並べる必然はない。しかし、そうして武器を取りだして交換しようとすれば、そのことで意図がみえてしまう可能性がある。あえて出しっぱなしにして放置したことで、斧の存在が『意識の外』になってしまったということだろう。だから、投げられるまで気が付かなかったのだ。


シュウト:

(参ったな、奇襲で返されちゃったか)



 僕の負けだ。戦いは、終わった。

 けっこう良い線いってたと思うのだけど、本気はひっぱり出せずに終わった。やはり天才は強かった。正直、謙虚なレオンだったら、瞬殺されていたと思う。思い返してみれば、こっちの全力を引き出すような戦い方だった。お陰様で満足してしまっているけれど、これで満足してはダメだと思い直す。


レオン:

「良い戦いだったな」

シュウト:

「ありがとうございました」


 正直、返す言葉もない。


レオン:

「君は、ジンとはずいぶん違うようだ」

シュウト:

「はい。……まったく同じにはなれないと思っています」


 本音をいえば、それはかなり残念なことではある。僕が〈守護戦士〉だったら、まったく同じ状態を目指していた可能性すらある。そんなことをやったら呆れられただろうけど。


レオン:

「本音をいえば、ここまで苦戦するとは思っていなかった。それに、あの笑みを見たときは、肝が冷えたぞ」

シュウト:

「そう、ですか……」


 オールレンジ攻撃をする前に、笑っちゃったヤツのことだろう。


レオン:

「君は何か、本性のようなものを隠しているのではないか? なぜそれを使わなかった?」


 あの短時間で、僕の『内なるケモノ』にすら気付いたらしい。読心術にしてはあまりにも行き過ぎている。とんでもない洞察力の気がしてきた。


シュウト:

「ええと、動きがどうしても雑になってしまうので、今は勝つために使ってません」

レオン:

「……そうだったのか。分かった。ありがとう」


 どうやらご納得いただけたようだ。


シュウト:

「僕からも、ひとつ質問しても?」

レオン:

「なんだ?」

シュウト:

「僕の力を引き出すような戦い方をしてましたけど、アレは何故なんですか?」

レオン:

「そんなことか。……決まっているだろう? まだ弱い内に、手の内を暴いておこうと思ってな」ニヤリ


 負けた。今度こそ完敗だった。なんだかんだ、まだ相手にされてないもんだとばかり思っていた。それがとっくにライバル認定されてたとは。そりゃ、油断しない訳だよ。

 僕は僕で、ジンの後継者になろうと思っているのに、自覚が足りないのを思い知らされた。自意識過剰の逆、自意識がまるで足りていない。恥ずかしい限りだ。



シュウト:

「すみません、負けてしまいました」

ジン:

「おう、お疲れ。先に言っておくが、負けたからって値引きしないからな?」

シュウト:

「それは、大丈夫です。お金は後でお支払いしますので。……それよりも、その、あのー?」

ジン:

「なんだよ、ウゼーな、この負け犬」

葵:

『どしたのかな? 負け犬くん』

シュウト:

「ぐっ……」


 優しい慰めの言葉などを期待してみたが、罵倒しか返ってこなかった。切ない。


シュウト:

「敗因とか、どうすれば良かったのかなー、とか。この先、どうすればいいんでしょう?」

ジン:

「さぁ? 俺、こっちの世界で負けたことないから分かんない」

葵:

『あたしもー』

シュウト:

「そんなのって……!」

ジン:

「それは冗談だが、そういうのはテメーでグジグジ考えろ。得意だろ?」

シュウト:

「はい……」

レイシン:

「戦ってみて、感想は?」

シュウト:

「強かったです。実力差があって、やっぱり完敗でした。でも、思ったより戦えたかなって(苦笑)」

タクト:

「確かに、〈シャドウバインド〉に至る流れを読み切ってたのは凄かった。一体、何手先まで読んだらああできるのか……」

リコ:

「ほへっ? それなに? 偶然じゃないの?」

葵:

『偶然じゃないよ。タクトくんには見えたんだね~。えらいえらい』

ジン:

「短剣に持ち変えたところから始まってるからな。ヘヴィアンカーで捕まって、瞳で不意を衝いて、それを躱されて、で短剣を投げてるな」

葵:

『瞳で奇襲するために近接で相殺してみせてるのも入ってるしね』

リコ:

「なにそれ、すごっ」


 というか、完璧に把握されてた。ウチの上の人たち、ガチで最強すぎて怖い。やはり読心術が必要ってことなのか……。


ジン:

「だがあれは、相手がレオンだからだ。敵が弱っちぃとあそこまで成立しない。だから、あれはレオンのものとしてカウントしておけ」

シュウト:

「あ、はい」

葵:

『敵の強さを読みに組み込めたんだよね? その辺はとってもベリギューだったよん』

シュウト:

「ありがとうございます!」


 ジンが言っていたことを、また少しだけ理解できた。敵が強くないと、自分の実力を十全に発揮することはできない。レオンが相手だったからこそ、普段使わないような部分まで使わざるを得なかった。僕の力をレオンが引っ張り出したってことなのだろう。なんだか強くなった気になってしまっていたけれど、ジンのいうようにレオンのものとしてカウントしておかないと、マズい気がする。

 『敵の強さを読みに組み込む』というのは、僕の中では革命的な代物だった。ジンや葵がいるステージへと近づく、新しい扉のような印象である。我らがギルマスの言葉をありがたく胸に刻もうと思う。……ドラえもんの秘密作戦はまるっきり通用しなかったけど。


シュウト:

「負けちゃいましたけど、得たものも多かったので良かったです」

ジン:

「ちょっと待て。勘違いしてんじゃねーぞ、この負け犬が!」

シュウト:

「はい??」

ジン:

「負けて得られるものなんて無いんだよ。負けて強くなるとかありえないから!」

シュウト:

「いや、でも、戦闘経験は得ましたよね?」

ジン:

「あのな、負けたら基本的に弱くなるんですよ。『感覚の再現はタブー』だっつってんだろ? 負けた感覚を再現したって弱くなるだけだろうが。負けた試合はベストバウトに選ぶな。強くなりたかったら絶対的に勝て! 勝って勝ちまくった経験を積め!」

シュウト:

「負けて得られるものって、何も無いんですか?」

ジン:

「ない。ないと思っておくのが賢明だ。ボクシングなんかでも負けた次の試合、再起戦はナーバスになるものだ。感覚が狂うと、負け続けるようになったりするものだからだ」

シュウト:

「でも、毎日のようにジンさんに負け続けて来たんですが……?」

ジン:

「あれは訓練じゃねーか。弱いもん同士でいくらポコスカやっても、ハイレベルの攻防には付いていけない。だから稽古つけてんだよ」

シュウト:

「はぁ……」


 レオンとの攻防に付いて行けたのは、ジンと稽古しているおかげで間違いない。スペックで大幅に負けてるのに、なんだかんだ戦闘は成立していたと思うし。レオンが僕の実力を引っ張り出したのと同様に、ジンが僕の実力を引っ張り出して訓練してくれていたのだ。


ジン:

「いいか、大事なのは『殻を破る』ことだ。負けると限界を知ることになる。限界を知ることは、かなりのハイリスクだ。諦めたら、そこで成長は止まる。ゲームオーバーだ。しかし、殻を破ることができたら、次のステージへと上がれる」

葵:

『殻を破るには、限界を知らなきゃだから。でも負けただけだと、限界を知っただけになっちゃうでしょ?』

ジン:

「もっとゆるめ。ゆるめれば、限界だろうが殻だろうが、簡単に突破できるようになる。体が固いと、殻も硬くなるぞ」

シュウト:

「わかりました」こくり


 限界を認識して、突破するための訓練を行うべきなのだろう。負けた状態では何も得ていない。何かを得るのはここからだ。


シュウト:

「ところでお願いがあるんですが?」

ジン:

「お願いだと? なんだよ、いってみ」

シュウト:

「僕にもそろそろ読心術を教えてほしいんですが」

ジン:

「ハァ? 読心術ぅ?」

シュウト:

「強い人ってみんな読心術みたいなのを使えるじゃないですか? 僕も限界を突破するためには必要かなって」

葵:

『ぎゃーっはっはっは、ばはははははは!!(涙笑)』

ジン:

「知るか、このバカ野郎!」ごちん


 なぜか殴られた。いたひ(涙)

 

 

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