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213  相反から相補へ / 献身を捧げる

 

ジン:

「あー、くっそ、あのウンコロリめ、ムカつく~」


 葵にやりこめられ、そのまま勝ち逃げされたことでご立腹のジンだった。


シュウト:

「……ですけど、どうすればいいんでしょう?」

スタナ:

「奥ではモンスターと戦う必要があるのだから、入り口だけああした仕組みがあるのかも? 解除する方法も見つかるかもしれない」

英命:

「ですが、ゲームとして考えても『解除できる必要』はなさそうです」

スタナ:

「敵がああしたギミックを利用してくるとか、私たちに対して明確なデメリットがあれば……」

シュウト:

「そうか、逆なんですね。もっとデメリットがあれば、解除もできるっていう」


 こうしてゲーム世界にいる不思議さに面白味を感じる。もっとデメリットがあって欲しい!と思うだなんて、〈エルダー・テイル〉をプレイしていた時には思いもしなかった。


アクア:

「そうなると、鍵は『ゲームかどうか』って部分にありそうね」

ジン:

「もういいって。明日のことは明日考えよーぜ。それよっか、メシだ、メシ!」


 攻略の正否に関わる問題なので、『もういい』とはならない。ジン抜きでも立派に攻略できると言いたいけれど、現実はそう甘くはない。


アクア:

「ラスボスの時はいてもらわないと困るけれど、それ以外はレオンを中心にすれば……。やっぱり厳しいのかしら?」

シュウト:

「そうですね。レオンの実力そのものに不満はないんですが、やっぱりトータルの戦力バランスの話だと思うので。ジンさんがいないと、僕らは遊撃の攻撃部隊をやるしかありませんし……」


 レオンがいくら強くても、ヒーラーは3枚必要になる。ユフィリア、ネイサン、英命を集めて急拵えの3枚体制にするよりは、今の第2レイドをそのままもってきた方がいいだろう。一方でレベル上位者である僕らは、ジンを前提にしてしまっている。ジンが抜けると、どうしても実力を発揮しにくくなるのだ。格下相手ならなんとでもなるけれど、ワールドワイド・レギオンレイドの戦闘だと、ちょこちょこ格上が出てくる。ちょっとした効率の低下も命取りになりかねない。

 今のところボス以外の戦闘で余力を残せているのは、ジンを中心にレイドを組んでいるからだ。ジンがメインタンクで、レオンがサブタンクなのだから、強くて当然というものだ。


ロッセラ:

「あのさー、ちょっといっかな?」

ジン:

「なんだ?」

シュウト:

「僕らにご用でしょうか?」


 話しかけて来たのは料理班長のひとり、南イタリア料理担当のロッセラだ。僕らと同じ第1レイドでもある。ロッセラの背後に誰かいる。かばっているのか、隠れているのかは微妙な辺りだ。


ロッセラ:

「サービスすっからさ、この子の話を聞いてあげてくんないかな?」


 背後の人物を盗み見ようとするのだが、巧いこと隠れられてしまう。なかなかやるな、と思った。ジンの方は、ロッセラに顔を近づけて密談の構えである。悪い顔をしていた。


ジン:

「……で、サービスというと?」

ロッセラ:

「んー、甘いのとかで手を打ってくんない?(苦笑)」

ジン:

「スイーツだな? よし、引き受けた!」にんまり


 閉鎖的な環境なので、たとえお金があろうと、誰かが作ってくれなきゃ食べられない。料理人はこうした状況での交渉では滅法強かった。


ジン:

「じゃあ、メシの後でいいな?」

ロッセラ:

「……どしたー? 返事しないと」

オディア:

「(コクリ)」


 ロッセラの背後から少しだけ顔を見せたのは〈暗殺者〉の女の……子? 子って年齢なのだろうか? ともかく女の人だった。海外の人にしては低めの背格好で、顔の上半分は整っている。下半分はスカーフ?みたいな布で隠れていてわからなかった。


 緊張しているのか、無口の人なのか、人見知りなのか、情報が足りなくてよく分からない。しかし、よくよく考えてみると〈スイス衛兵隊〉にコミュ障とか言われるようなタイプなんていないことに気付いた。個性てんこ盛りな集団ではあるのだけど、しゃべるのが苦手、みたいなタイプがいるとは思えない。なにしろエリート集団なのだから。



ジン:

「なぁ、オディアって子、どんなタイプ?」

ネイサン:

「あの子はね、モサドの暗殺者なんだよ」ニヤリ

スタナ:

「そういうと怒るけどね。ウチの〈暗殺者〉の1位。物理アタッカーだと、〈盗剣士〉のギャンと僅差で2位」

シュウト:

「それじゃ、かなりの実力者ですね?」

ネイサン:

「もちろんだよ。西欧サーバーでのランキングだって、あれでトップ争いの本命だもの。強いよ、彼女」

ジン:

「ふーん。口元隠してっけど、あれはなんだ? 無口?」

ネイサン:

「いや、カッコつけてるんだよ。必要なことしかしゃべらないようにがんばってるみたいだけど、巧くいってるとはちょっと言い難いね」

スタナ:

「興味のあることに対してはむしろ饒舌よ。威厳が足りないのを気にしているみたい。まだ若いし、それに彼女、背が低いから……」

ジン:

「なるほどな。参考になったぜ」

ネイサン:

「ところでこれってなに? どういう話? プライバシー?」

シュウト:

「いえ、ジンさんに相談があるみたいで」


 ジンという人は大雑把そうに見せて、事前にリサーチをかけて最低限の情報は押さえる『細やかさ』も持ち合わせていたりする。神経質なほど細かいことまで気にするかと思えば、大らかに受け流してしまうこともある。その剣が大胆でありながら精密であるように、ジンの中で両極端な性質が矛盾しつつ、矛盾せずに同居しているのだ。どちらかが正しい(、、、、、、、、)なんてことは無いのだろう。両方あるに越したことはないのだから。



ジン:

「…………」

オディア:

「…………」

シュウト:

「…………」


 食事を終えてから、仲間と食べているテーブルを離れ、僕らはオディアと卓を囲んで(?)いた。ジンが何を話すのか気になって、つい、一緒に来しまったが、失敗だったかもしれない。席についてから無言が続いている。気まずい時間の、はじまりはじまり……?


ジン:

「……とりあえずさぁ」

オディア:

「!?」ビクビクッ

ジン:

「その顔の布を取れよ。話があるんだろ?」

シュウト:

「え、でも個人的な事情とかが、あるんじゃ……?」

ジン:

「〈冒険者〉の体で、顔に傷だのがあるか? 見せられない理由が思いつかないんだが?」

オディア:

「えっと……」


 割合あっさりと布をはずしてみせたオディアだった。特にに恥ずかしがるような理由は見あたらない。可愛らしい整った顔つきをしていると思った。完全に美少女のそれだ。


ジン:

「んだよ、可愛いじゃねーか」

オディア:

「っ!?」ビクビクッ

シュウト:

「僕もそう思います」

ジン:

「なんでもいいけど、なんで顔を隠してんだ?」


 とりありずなんかしゃべろうぜ? ぐらいの気楽さで質問していた。オディアは斜め下を見て、言葉を探している風だった。


オディア:

「何歳に、見えますか?」

ジン:

「んー、18とか?」

シュウト:

「16とか?」

ジン:

「あー、でも外人さんって俺ら日本人の感覚とズレるからなぁ。聖女ちゃんもハタチ超えてると思ってたし。4歳ぐらい足して、22歳?」

シュウト:

「……それ逆じゃないですか? 見た目よりも若くなるんじゃ?」


 ヴィオラートは、見た目:20歳以上。 実際:17歳、だった。

 オディアの場合、見た目:16~18歳。実際:それより下、になる?


 でも、ヴィオラートのバストサイズが、ジンの年齢判断に影響している可能性はちょっとありそうな気がした。ご立派なものをお持ちなので。


ジン:

「あー、そうだそうだ。じゃあ、14ぐらいってことか?」

オディア:

「24です」

ジン:

「…………」

シュウト:

「…………」

オディア:

「24歳です」


 10歳も外れると、流石に気まずい。彼女の言わんとすることが少しだけ分かった気がした。しかし、童顔とはいっても、彼女の場合は少々、度を越しているような? 海外の基準だと更に凄い落差がありそうだ。

 美少女とか思ってたけれど、僕より年上の美人お姉さんとかいう罠だ。考えてみると、〈スイス衛兵隊〉に参加してる段階で、成人してるのが普通なのだ。そのあたりがまるっと抜けていた。


オディア:

「24なのに、ハイティーンに見られるんです。……この苦労が分かりますか?」


 ローティーンやミドルティーンじゃなくて?と瞬間的に思ったけど、怒らせそうなのでツッコミはやめておいた。スルースキルは命綱みたいなものだと、この頃 強く思う。


ジン:

「まったくわからん(笑) てか、どっちだっていいだろ、そんなの」

シュウト:

「いやいや、それはヒドくないですか?(苦笑)」

ジン:

「どうせ30過ぎたら、若く見えた方がお得になっていくんだ。自分でもすぐ自慢になるっつの。……いや、待てよ。もしかして、ロリコンしか寄ってこないのか? それは、問題、だ、な」うーむむむむ


 なにか大幅に脱線している気がしたけれど、雑談なんてそんなものかもしれない。


ジン:

「どっちでもいいが、俺に恋愛相談しても無駄だぞ? 大してモテない人間のアドバイスなど役に立つ訳がない」

シュウト:

「あれ? 僕はアドバイスされた記憶があるんですが?」

ジン:

「お前は、『雑用 兼 おもちゃ』だからいいんだ」


 ひどい(確信)。


オディア:

「あのー、恋愛相談がしたかったわけでは……」

ジン:

「じゃあ、なんだ? やはり愛の告白か?」

オディア:

「いえ、それでもなくて……」

ジン:

「なんだよ! 違うのかよ! じゃあなに? もう帰ってもいい?」

オディア:

「でも、……ファンです! 応援、してます……」

ジン:

「…………」

シュウト:

「あー、そういうのですか」


 見るからに照れて、恥ずかしそうで、急速に顔が赤くなっていった。ロッセラの背中に隠れていたのはそういう理由だったらしい。ジンの暗殺を狙っていたわけではなかったようだ。←?


ジン:

「ファンか……。ファンは、そりゃ~大事にしないとなァ……」


 栄えあるファン第1号は、もしかすると、もしかしなくても、僕かもしれず。最近は念話もごぶさたな〈ハーティロード〉のさつき嬢もいるわけで、オディアは何番目かのファンってことになりそうだった。


 しかし、今の自分はいまだにファンのままという可能性に思い至り、そのあまりの微妙さに憮然としてしまった。結局、弟子にしてもらえないから、不明瞭な立場だからだ。しかし『世界最強の弟子』が弱いと迷惑をかけてしまうばっかりなので、自分のせいとしか言いようもなくて。もっと強くならなければと強く想う。


オディア:

「その、ど、どうやったら、強く、なれますか?」しどろもどろ


 緊張もピークに達しているのか、もう顔が真っ赤っかで、必死になって声を絞り出していた。緊張感がこっちにまで伝わってきてしまい、僕の方まで緊張してきた。これは、少し助けてあげたくなってしまう。というか、みんな強くなりたいよね。僕も強くなりたいです。


ジン:

「まー、俺に相談ったら、んなこったろうとは思ってたけどさー」

シュウト:

「デスヨネー(苦笑)」

ジン:

「しかし、そんなもんが一言で語れたら、世話ねーっつの」

オディア:

「す、すみません……」


 恐縮至極の様子に、ジンが少し折れた気がした。ファンには優しい。というか、オディアは今にも泣いてしまいそうだ。ジンは体裁を気にしたのかもしれない。ちっちゃい子を泣かせてたら、悪人としてユフィリア辺りの追求を受けそうだし。


ジン:

「軽くだぞ? ……まず基本中の基本の話だが、『強くなるためには、強くならなければならない』んだ。わかるか?」

シュウト:

「えっ?」

オディア:

「えっと?」


 アクアだったら『トートロジー?』と聞き返しただろう。


ジン:

「最初がズレてると手遅れになることがあんだよ。強いという状態は、相手よりも強くなければならない。しかし、戦闘回数、試行回数が増えれば、負ける確率は必然的に増えていくだろ? 言い換えれば、不敗ってどういう状態かって話なんだ」

オディア:

「(コクコク)」

ジン:

「数学的に考えれば明白だ。条件が平等に近づけば、必ず負ける。つまり『必敗』だ」

シュウト:

「ということは……」

オディア:

「相手よりも『強く』なければならない。対等じゃダメって意味ですね」

ジン:

「そういうこと。さらに言い換えると、『ゲーム』に近づくほど、負けやすくなるってこった。ゲームに近づくということは、より平等な条件、対等な条件で戦うという意味だからだ。本来、『戦闘』ってのは、『ゲーム』の対義語に近しい。戦闘とは、ことのはじめから、相手よりも有利な条件で戦うことが『正しい』という概念だからだ」


 脳髄をブッ叩かれたようなショックを覚えていた。まず今更ショックを受けている自分こそがショッキングだった。でも身体は深く納得していて、当然のこととして受け止めている。改めてジンのイズムを言語化されると、訓練を通じて身体に深く刻まれていたのを知った。戦士としの僕は、とっくの昔にゲーマーなんかじゃなくなっていた。


ジン:

「対等な条件下で勝つのをプレイヤースキルとかいって持ち上げる風潮と、チートを卑怯とか反則・違反行為と捉える感覚はセットになっている。それらはゲームってのを成立させるための詐欺みたいなもんだな。

 ……そりゃ、ゲームやってんなら正しいぞ? でも異世界に召喚されるような異常事態で、んな事いってられるか? いつまでもゲームにしがみついて、対等じゃないとか文句を言って、ぶっちゃけテメーより強い奴はみんなチートとかレッテル貼ってるヤツらは白痴のたぐいだから(苦笑)」


 言われてみれば、当たり前すぎて、今にも叫び出しそうだった。誰か、僕の愚かしさを罰して! できればついでに赦してください! あああああああああああ!!


ジン:

「この手の話は、良いゲームの条件みたいな視点で考えるともっとよく分かるようになる。やっぱり白熱したゲームにするためには、連勝しにくく作るようになっていくもんだからな。プレイヤースキルがすべてを決してしまうようなものだと、下手だとまったく勝てなくなってつまんなくなる。そうすると、運とプレイヤースキルのバランスが良くて、納得感のあるものを目指して作るようになるはずだろ?」

シュウト:

「ゲームとしての楽しさを追求した結果なんでしょうけど、視点を変えて自分が強くなろうと思ったら、不利な条件が揃っちゃいますね」

ジン:

「そういうこと。プレイヤースキル・オンリーで、運の入り込みにくい将棋みたいなゲームの場合、プロ同士の試合だと連勝記録がたったの30ぐらいでもう大騒ぎだ。対等に作られたゲームってのは、そのぐらい勝ちにくいって意味でもある」


 29連勝で大騒ぎしていたのは記憶に新しい。確かに言われてみれば、将棋というのは、たったの30連勝もできないほど厳しいゲームだということになる。必ず負けるゲームなのだ。


ジン:

「格闘技のように、『戦闘』に近づくほど、連勝記録は伸ばしやすくなる。まぁ、同時に試合数は限られてくるって部分はあるけどな。アメリカのプロボクサーでチャンピオンクラスにもなると、30連勝なんてザラだな。適用されるルールは平等でも、肉体性能の差が、勝敗の決定因子として作用するのが格闘技だ」

オディア:

「格闘技の方が勝ちやすいのは、分かります」

ジン:

「ただ、日本の相撲も格闘技だが、ルールの影響でかなりゲーム性が高くなっている。現役期間が長くなってくると、1000試合ぐらいこなすんだが、連勝記録は100にも満たなくて、60ちょっと。

 単純な無敗記録でいえば、ヒクソン・グレイシーが400戦無敗。そのグレイシー柔術のルーツにコンデ・コマ、前田光世ってのがいて、そっちは1000試合無敗の記録を作ってる。江戸時代の剣術家にも1000試合負けなしの記録を持ってる真里谷円四郎がいる。さすがに殺し合いでこの試合数は無理だから、道場での試合だな。あとは宮本武蔵の60戦して負けなしってのが有名だ」

オディア:

「ミヤモトムサシの五輪書は有名ですね!」

ジン:

「1000試合無敗の後だと、60ちょっとの話はショボく聞こえるかもしれないけど、よく考えないと本当の価値は見えてこない。勝負したとしか書いてないから、真剣か、木刀を使ったかは分からないんだけど、木刀でも頭に当たれば死ぬのは一緒だしな。単純に60戦したんなら、60人殺したって話かもしれないし、あんまり誉められたもんじゃないんだけど、何よりも60戦したこと自体が凄い。当時の医療技術だと、輸血すらまともに出来ない。最初の1戦目から最後の60何戦だかまで圧勝し続けないといけない。負けたら死ぬ。大怪我でも死ぬ。戦い続けるにはすべて軽傷以下に抑える必要がある。軽傷でも怪我する場所が悪けりゃ武術を続けることができなくなる。目が潰れたりとかな」

シュウト:

「武蔵の時代じゃ、ワンミスすら許されないんですね……」

ジン:

「まぁ、武蔵はさほど強敵とは戦っていないという批判もあるけどな。それでも国民総剣術時代。勝負するような連中はみんな力自慢・腕自慢だろう。バスケでいうNBAみたいなレベルだと思って良い。

 晩年の自画像が残されているけど、四肢欠損どころか、顔にも大きな傷跡は描かれていない。虚栄心の可能性もあるけど、俺は本当に怪我をしなかったんだと思ってる。そういうことまで理解して眺めるべき絵ってことだな」

オディア:

「なるほど」


 回復呪文があって、蘇生呪文も、神殿での復活もあるこの世界が随分とぬるいのが分かる。その代わり、魔法や幻想の怪物が跋扈しているというバランスなのだ。武蔵がいくら強くても、ドラゴンと戦う経験はしていないだろう。


ジン:

「1の話は分かったな? じゃあ、次は2の話をしてやろう」

シュウト:

「2の話?」

オディア:

「お願いします」

ジン:

「強くなれとは言ったが、じゃあどういう状態が強いのか?という問題になる。強さも人それぞれだ。戦闘以外にもいろいろな強さがある。短期的な強さもあれば、長期的な強さもある。だからといって人それぞれ、様々、オンリーワンとか言ってしまうと指標にはならないからな。まず大きく、有能とはどういう状態か?と考えていくことになる」

オディア:

「専門分野を越えた判断基準、という意味でしょうか?」

ジン:

「そうだ。これはふたつの要素の組み合わせで判断することができる。真面目かどうか。そしてゆるんでいるかどうか。真面目さを横軸、ゆるんでいるかどうか?を縦軸にして、それぞれ10段階で評価する。理想的な状態は、(10,10)の位置にあると考えるんだ。ゆるみ度がわかりにくければ、とりあえずユーモアやふざけ度だと思っておけばいい。この場合、お前ら2人とも真面目度は高いが、ゆるみ度は足りてないっぽいな。……じゃあ、適当にその辺の連中を当てはめてみな?」


 そう言われてみると、ジンは真面目度も高いし、ゆるみ度というか、ふざけ度もかなり高い。葵の方は真面目は真面目だけど、ふざけ度は10じゃ足りなくて振り切れている気がする。ユフィリアも気合いと根性の国のお姫様な上に、バカだろ?とか思うぐらいはっちゃけた性格しているので高評価になってしまう。ちょい納得がいかない。レイシンは真面目度が少し下がって、7~8ぐらいだろうか。付き合ってみると、案外ちゃっかりした性格だったりして、ふざけ度も7~8ぐらいでやっぱりバランスがいい。ニキータは(5,5)ぐらいだろうか。控えめで、生真面目そうだけど、意外にユーモアがある。笑い上戸だし。まぁ、ユフィリアのことに関しては真面目度が15ぐらいになって、お風呂の話題だとユーモア(?)も15ぐらいになるんだけども。石丸は真面目だけどさほど熱心には見えない。ユーモアも少し足りていないように思える。でも本人はごく楽しんでいるっぽくて、外からだとよく分からない人だ。後は英命先生もかなり高い数値になると思う。最近ごぶさたのエルム氏も真面目度はどのくらいか微妙ながらも、ゆるみ度はやっぱり高い。

 結論としては、(ユフィリア以外)だいたい当てはまって感じる。


オディア:

「うーむ。ヴィルヘルムのユーモアは3か4ぐらいだろうか?」

ヴィットリオ:

「でもサボリ魔だぜ……?」

ギャン:

「だな(笑)」

ジン:

「真面目度10で、ゆるみ度1の場合、融通が利かない上に熱心なタイプになるんだよ」

リア:

「それ、一番迷惑なヤツ!」

オディア:

「なら融通は利く人かも? もしかして、ユーモアも高い?」

ロッセラ:

「だと思うよ」

ジン:

「真面目さが前面に出てると、ユーモアが見えなくなる場合もある。それに自分の真面目度が高いと、相手を判断するときに、真面目かどうか? どのくらい真面目か?みたいな目で見ちゃってたりしてな。……しかしだ。あの舐めプ野郎はフザケきってやがる。表面的に真面目っぽいフリしときゃ、許されるとか思ってるだろ、マジで!」

シュウト:

「アハハハハ(苦笑)」

オディア:

「だったら……。ネイサンだとユーモアは10だけど、真面目度は1とか2?」

ロッセラ:

「いやいやいや(苦笑) さすがにおふざけが勝ってるけど、むしろ熱心な人だよ? 何にでも口出してくるというか、バイタリティ高い感じ?」

オディア:

「そうなんだ? アレが真面目……?」

ジン:

「おいおい。真面目度を、性格の硬さとかで判断してないか?」


 集まってきた仲間たちと、ワイワイと議論になっていた。

 しかし、くそ真面目で頑固親父っぽいギヴァが、実はオチャメとか、笑うとカワイイとか言われてて戦慄する。いや、60歳過ぎて〈エルダー・テイル〉がんばってるおじいちゃんって段階で、心が遊んでるんだけども(苦笑) やはり仲間のことは、みんなよく見てるし、見えてるんだなぁと感心した。


ジン:

「問題解決能力だと、真面目さで解決できるものと、『機転』が必要になるものとがあるだろ? もっとクリエイティビティが必要な場合とかもある。『ゆるんでいること』や『ユーモア』が、高度な能力を発揮するための下地になってたりするわけさ」

オディア:

「でも、性格はそんな簡単には変えられないと思います」

ジン:

「そりゃそーだ。しかし、地の性格が硬いって思ってるなら、そりゃただの勘違いだ。性格が硬いのは、単に身体が硬いからってだけさ。赤ちゃんの時代は身体がべろべろに柔らかいんだから、下地の性格は柔らかいのに決まってんだよ。性格や個性は人それぞれだけど、実は身体が硬いことで、個性の発揮が阻害されてる人が多いんだ」

オディア:

「…………」


 あまり納得がいってなさそうだ。まぁ、それはそうかもしれない。明日からいきなり頭を柔らかくしろ、と言われても上手く行くものでもない。


ジン:

「じゃあ俺が特別に訓練メニューを出してやろうか?」

オディア:

「本当ですか?」

ジン:

「おうよ。がんばれるか? やり遂げるって約束できるか?」

オディア:

「がんばります!」

ジン:

「(ニヤリ)……じゃあ、今からその顔を隠す布地は無しだ。普段はなるべく可愛い服を来て、にこにこしていること」

オディア:

「いや、でも、その……」しどろもどろ

ジン:

「戦闘になったら、その布で口元を隠して、ニコリともせずに冷徹な〈暗殺者〉に徹してみな。これが第一段階」

シュウト:

「あれ? 第二段階もあるんですか?」

ジン:

「第一段階がちゃんと出来ないと、第二段階は厳しい。呼吸と同じでなー。息をすっかり吐き出さないと、強く吸うことはできないだろ? 集中なんかも同じで、深くリラックスしないと、本当の意味で深く集中することはできないんだ」

オディア:

「!」

ジン:

「お前は真面目さが強さだと思っている。だから、常に真面目に、集中しなければならないと思ってんだろ? 第一段階のポイントは落差だ。リラックスして、副交感神経をちゃんと機能させて、そこで初めて、交感神経を強く機能させることができるようになるんだ」

ギャン:

「そういうことか」

ヴィットリオ:

「流石だ……」


 おふざけが過ぎているようでいて、ちゃんと機能する訓練メニューだったりする。真面目さとおふざけの高い次元での共存。これもジンらしさと言えそうだ。


オディア:

「第二段階も教えてください。 ちゃんとやります!」

ジン:

「よし。深く集中するのはいいが、戦闘中に機転が利かない状態だと入れ込み過ぎだし、連携もしにくい。つまり使いにくい強さになってしまうんだ。深い集中のメリットを得ながら、連携もこなしたいし、機転も利かせたいだろ? それにはつまり、真面目・ゆるみ度を同時に高めてやることが必要だ。これが第二段階の概要だな」

オディア:

「なる、ほど……」

ジン:

「コツも教えておこう。実際にやってみると分かるんだけど、リラックスしている時は集中できないし、集中している時にリラックスは難しくて、この2つは相容れない、相反関係になっている。そうなると、100%中の集中%とリラックス%の割合の問題になってくる。いわゆる反比例の状態だな」

オディア:

「はい」

ジン:

「だが、そこで諦めてはいかん。集中とリラックスを(5,5)で満足するのではなく(10,10)まで持って行くことが目標であり、目的なんだ。相容れない相反関係にあっても、諦めずに工夫と努力を続けなさい。少しずつ限界がのびていくからな。最終的には、相反関係から、相補関係へと逆転する。深いリラックスなしに、深い集中は得られないからだ。互いが反発しあう相反性を利用して、互いを高め合わせるとでもいうかね~」

シュウト:

「ライバル関係みたいな感じですね……」

ジン:

「ちなみにこれが超サイヤ人1から2へ移行する際の、内部構造と思われるものだ。作者すら分かってるかどうか怪しいやつな。単純に合計200%にのばすというよりは、面積のほうで考えたい。5×5は25だろ? 10×10だと100だから、超サイヤ人2は少なく見積もっても4倍以上のパワーアップってことになるわけだ!」

シュウト:

「…………」

オディア:

「…………」

ジン:

「くっそぉ! ヲタク相手に開陳してやったら、かなり食いつくはずの話題なのに! なんでこの話の価値がわかんねーんだよぉ(涙)」

シュウト:

「いやぁ、いきなりドラゴンボールの話とかされても……」

オディア:

「すみません」

ジン:

「ダメだ、手応えが無さ過ぎる(涙)」しくしく


 しかし、ジンが凄いのは今に始まった話ではないので、僕に関して言えば、少し慣れて反応が鈍くなっただけだと思う。


ジン:

「まぁ、ともかくやってみな? 悩みもそれで解決するはずだ」

オディア:

「悩み?」

リア:

「普段はニコニコしている可愛い女の子なのに、戦闘になると冷徹な〈暗殺者〉になると知ったら、やっぱり箔が付くものね?」

ジン:

「そういうこと」

オディア:

「…………」


 まだ実感はなさそうで、オディアは口を半開きにして、ぽけーっとしていた。


ロッセラ:

「約束の甘いの、ジェラート作ったんだけど、やっぱりケーキも作ることにした! 本当、ありがとう!」

ジン:

「うむ、くるしゅうない。馳走になろうかや」


 当然の権利・報酬としてジェラートを食べようとしたら、ユフィリアが飛んできて、半分ばっかりもぎ取っていった。……南無阿弥陀物。(ちーん)







 食事を終え、打ち合わせとも言えないような雑談になった頃。ヴィルヘルムに呼ばれた私は、少し緊張していたと思う。


ヴィルヘルム:

「どうやら気付いたことがあったようだな。 我々にも君の話を聞かせて欲しい」

スタナ:

「ええ、もちろんです。ヴィルヘルム」


スターク:

「スタナのパワーアップの話?」

オスカー:

「そうみたいですね」

ネイサン:

「これは楽しみだ」


 みんなが期待しているのはやはりその話だろう。パワーアップしたのかどうかは、まだ分からない。ただ、自分でも『噛み合った』という感触は得ていた。それを上手く言葉にできるかどうか。


スタナ:

「でも、どこから話したらいいか?」

ミゲル:

「結論からだ」

スタナ:

「そうですね。……これは、献身と貢献の話なんです」

ネイサン:

「そうなの?」

スタナ:

「たぶん、そうだと思う。ここに来て最初の夕飯の時にヴィルヘルムがスピーチをしたのだけど、覚えているかしら?」

バリー:

「たぶん大丈夫だよ。ジンに向かって、献身と貢献が必要、いや、求められるって言ってたと思う」


 各人の反応を確認してから、ゆっくりと歩を進める。


スタナ:

「そう。レギオンレイドにもなれば、そのメインタンクには大きな献身と貢献が求められる。それに対してジンはイヤそうな顔をしていたの」

オスカー:

「確か、僕ら次第だって言ってたっけ?」

ヴィルヘルム:

「そうだ。間違いない」

ネイサン:

「もっと仲良くなったら考えてもいいってことでしょ?」

スタナ:

「私もそういう意味だと思っていたの。でも、第1レイドでジン達の戦闘を見ていて、だんだんと違和感が増していったの。彼は献身と貢献を果たしているように思えたのよ。それは最強の戦士としてのスキルを駆使した結果だったかも知れない。でも、私たちに向けられてはいなかった」

ラトリ:

「じゃあ、〈カトレヤ〉の仲間に向けられていたってことかな?」

スターク:

「違うよ。ジン達はそんな小難しいことはやってないはずだよ。そんな細々としたこと、言われたことないもん」


 突飛な話になりそうなので、受け入れられるか不安だったが、共に戦った経験のあるギルマスがいてくれる。そのことでひとつ安堵できた。


スタナ:

「そうなんです。彼らはきっと勝ちたいと思っているだけ。途中で、〈スイス衛兵隊〉主導でのレイド攻略から、全軍でひとつのレイドチームになるように、体制を変化させましたが、彼らの態度も変化しませんでした」

ヴィルヘルム:

「なるほど」


 穏やかに、私が焦らないように、結論へと誘導してくれた。


スタナ:

「ミネアーとの戦闘で、私はどうしようもなく勝ちたくなったのよ。みんなと共に、ジン達と一緒になって、戦って、勝ちたかった。勝利を目指した。目的が一致したのでしょう。それ以上に、私は自らの献身と貢献を捧げたのです」

ネイサン:

「それは、仲間にではなくて」

ウォルター:

「勝利に対してってことか」

スタナ:

「そうしたら、彼らはそこに居た(、、、、、)のよ。ジン達の考えが唐突に理解できるようになったの。姿かたちが似ているだけの宇宙人みたいに思っていたけれど、違ってた」

スターク:

「あー、それなんか分かる気がするナー。単に勝ちたいだけっていうか」


オスカー:

「……ということは、最初のジンのセリフって?」

スタナ:

「そうなのよ。思い返してみると、彼は最初からすべて分かっていたんじゃないかと思ってて」

ヒルティー:

「献身と貢献は、他者に対して捧げるものではなく、勝利のような概念に対して捧げるべきものってことなのか? だが、なぜだ?」


 それは私も疑問に思っていたことだった。みんなの知恵があれば分かるかもしれないと思った部分はある。


スタナ:

「勝つことがあまりにも当たり前になっていたのだと思います。貢献度ほしさに、仲間内での競争も妨げになっていたのでしょう。足の引っ張り合いこそしてないにせよ」

ギヴァ:

「人数が増えれば、それだけの思惑を抱えることになる。純粋なレイドというのはやはり難しいだろう」


 しばらく議論になったが、結論はでないようだった。

 そんなタイミングで、私はオスカーに声をかけることにした。感謝の気持ちを素直に表せる事、それ自体に喜びを感じていた。昨日までなら、負けたような気持ちになっていたかもしれない。


スタナ:

「ありがとう、オスカー。大切な話をしてくれて。……嬉しかった」

オスカー:

「……見つけたんだね、秘密を」

スタナ:

「ええ。これが、きっと私のやり方なのね」


 微笑みに微笑みを返す。オスカーの笑顔が心地よかった。


ネイサン:

「ちょっと、なんかいい雰囲気になってない?」

スタナ:

「良いところなんだから、邪魔しないでちょうだい」

ネイサン:

「そりゃないよ~!(焦)」

オスカー:

「アッハハハハハ!」


 そして締めくくりの言葉を言うべく、みんなの前へ。


スタナ:

「ギルマス」

スターク:

「うん、どうしたの?」

スタナ:

「私は、これからも勝利に対して、この身を捧げたいと考えております。お許しいただけますか……?」


 これは仲間よりも、勝利を優先すると宣言したに等しい。過剰な勝利主義が抱える問題もあると知っている。それでも尚、献身と貢献は、勝利に対して捧げるべきだと思った。今のこの感情を信じたい。


スターク:

「もちろんだよ。今のスタナを、ボクは歓迎する!」


スタナ:

「この身は、勝利へ!」


 騎士の礼をとり、誓いの言葉を口にする。仰々しいやりとりかもしれないが、そういう気分だった。はっきりとみんなの前で宣言しておきたかった。弱い自分がブレてしまわないようにするために。


ネイサン:

「美しい。まるで古代の戦場の将軍たちのようだ……」

オスカー:

「そうか、そういうことかも!」

バリー:

「宗教用語とか、決まり文句じゃなくて、意思疎通のための実際的な方法論ってこと?」

ミゲル:

「通信システムの発達に依存したからか。意思疎通そのものがお座なりになってはな……」

ヴィルヘルム:

「通信はただの道具に過ぎない。大切なのは、意思を疎通させること、か」

ウォルター:

「アイツは、一体、どんだけ先に行ってやがんだよ!」

 

 ジンが触れた部分が、少しずつ変化していく。次はきっとあの子の番なのだ。私たちは、最も熱いレイドのただ中にいる。そのことにようやく気が付きはじめたところだった。



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