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208  リディアの災難

 

ジン:

「う~ん……」


 朝練でレオンに付き合い、変形の素振りというか、打ち合い3分を終えたばかりのことだった。微妙な顔つきをしているジンにレオンが気付く。


レオン:

「どうかしたか?」

ジン:

「それが、どうもしっくりこなくてな。あんま力が出てない」

シュウト:

「……手抜きとか、手加減とかしたんですか?」

レオン:

「いや、私はいつもと変わらなかったと思うが」


 ジンの力が出ないのであれば、レオンが手抜きしていないとおかしい。レオンが手抜きしていないのなら、ジンの感覚の問題になりそうなものだ。


ジン:

「いや~、その~、ホントは力が出たり出なかったりすんだわ」

シュウト:

「普段からってことですか?」

ジン:

「前のダンジョンでピンチになったろ。あん時にイヤボーンして竜亜人の力に目覚めたんだけど」

シュウト:

「イヤボーン?」

石丸:

「フィクションでの能力覚醒やパワーアップを表現する言葉っス」

ジン:

「超パワーを潜在的に秘めてた女の子が、イヤー!って叫んで、ボーン!って爆発するんだ。前にも言わなかったっけか?」

シュウト:

「イヤボーンとかはアレですけど、やっぱり目覚めてたんですか?」

ジン:

「まぁな。ステータスも竜亜人に変更されてるはずなんだけど」

シュウト:

「パワーアップですか、……また」

ジン:

「またとか言うな。んで、昨日・おとといのダンジョンアタックで、力が出たり、出なかったり、出なかったりでな~」


 ジンにもこんな悩みがあるのが珍しいというか、面白いというか。


シュウト:

「……ちなみに、その出たり出なかったりの割合というのは?」

ジン:

「9割方、出てない」

シュウト:

「それ、ただの気のせいなんじゃ?」

ジン:

「うるへーわ、1割出てるっちゅーの!」


 つい、本音でツッコんでしまったが、冗談として受け流してもらえたようだ。気のせいであって欲しいという僕の願望がダダ漏れな気がした。


レオン:

「レイドボスと戦っていた時はどうだ?」

ジン:

「銀ハゲの時は出てたな。ライオンの時は、引き上げで逃げる時にようやく出た感じだ」

シュウト:

「じゃあ、相手が強いからってわけでもないんですね?」

レオン:

「HPが半減するほどのダメージを受けた、などの条件は?」

ジン:

「そもそもそんなにダメージ喰らってねーし」


 『それもどうなんだ』という無言の認識をレオンと共有した気がする。無闇に避けるし、無闇に硬いし、無闇に相殺する。少しはダメージを喰らってあげないと、レイドボスが可哀想だと思う(←ユフィリア風の感想)。


シュウト:

「んーと、葵さんとかアクアさん、マリーさんに相談しますか?」

ジン:

「めんどくせぇな……」

シュウト:

「いやいや、めんどくさいとか言ってる場合じゃないですよね?(苦笑)」

レオン:

「〈古来種〉になったのだろう? 誓約か何かの設定が影響しているのではないか?」


 〈古来種〉だと、パッケージデザインに出てくる魔法剣士エリアスは、モンスターにトドメを刺すことができない。誓約というよりは制約の気がするけれど、そうした何かが影響しているのでは?と言いたいのは分かった。


ジン:

「見知らぬ〈古来種〉の誓約とか言われてもなぁ~。……ハァ、今どき説明書とか電子化してんだし、適当にシステムで表示しろっつーんだよ」

シュウト:

「アハハハハ(苦笑)」


 元々が20年前のゲームだからか、全体的に説明不足な感が否めない。それもこれも動作を軽くするための処置だと思われる。PC環境は個人差が大きいので、低スペックでも動くようにする必要がある。結果、UI(ユーザーインターフェース)よりも動作快適性の方が優先度が高いのは仕方がない部分だった。


シュウト:

「そういえば……」

ジン:

「あん?」

シュウト:

「あの時、確か、『それは守るための力』とかって言ってたような? 頭の中でそんなのが聞こえて、矢筒のセリフだってのは後から分かったので、今まで忘れてたんですが」

レオン:

「ほう? 興味深いな」

シュウト:

「〈古来種〉とかって、『人界の守護者』とか言いますよね? もしかしたら……?」

レオン:

「誰かを守ろうとする時だけ、発動するという事か」

シュウト:

「ええ。どうでしょう?」


 自分でも良い線いってる気がするのだが、ジンの反応はぐったりしたものだった。


ジン:

「あー。めんどくせー仕様だなぁ~」

レオン:

「確かにな」クックック

シュウト:

「とりあえず、試してみましょう!」


 なんだかジン本人よりも僕の方がやる気がある変な状況だった。その辺りは気にせず、手近なところでリディアに協力を依頼することにした。


ジン:

「じゃあ、そこに立っててくれ」

リディア:

「はぁ……。なにするんですか?」

ジン:

「俺とレオンが今から打ち合いをするんで、付き合ってくれ。俺が、お前を守護(まも)ってやるからな」

リディア:

「え、ぜんぜんうれしくないんですけど?」

シュウト:

「まぁ、まぁ(苦笑) さ、お願いします!」


 そんなこんなでセットアップ(笑)


レオン:

「では、彼女を巻き込むように攻撃すればいいんだな?」

ジン:

「とりあえずそれでいってみっか」

リディア:

「それって、もしかしなくても、わたし死ぬんじゃ……?」ぱちくり

ジン:

「だから俺を信じろって。ちゃんと守護(まも)ってやる!」きらーん

リディア:

「人を巻き込んでおいて、何を信じろっていうの!?」ギャース

シュウト:

「ごめん、僕も代わってあげたいんだけど、……今はリディアの協力が必要なんだ」


 彼女の手を握り、必死の説得を試みる。

 だって女の子じゃないとやる気でないっていうんだもの。ユフィリア達は朝食&お昼用サンドイッチの準備中なので手間を掛けられない。食事の支度は大事だと僕も思う(うんうん)。

 

リディア:

「しょ、しょうがないなー」モジモジ

葵:

『うわー、流されやすい子(笑)』

シュウト:

「葵さんは余計なこと言わないでください」ぴしゃり

葵:

『ぐはぁ!? シュウくんが冷たい(涙)』しくしく


 いつからいたのか、煽ってくる葵に文句をいっておいた。まずは試してみること。順番にやらなくてはならない。←使命感


ジン:

「よーし、はじめるぞー」

レオン:

「行くぞ」

ジン:

「かかって、こいっ!」


 鋭い斬撃がジンとその背後のリディアに向けて振り下ろされる。

 打ち合いというよりは、リディアを守るべく防御一辺倒のジンだった。


リディア:

「ひギャー! 無理無理無理!」


 嵐のような斬撃が鼻先で展開していれば無理もないが、リディアはあっさりとしゃがみ込んで震えていた。逃げないだけでもありがたい。


ジン:

「おっ、いい感じの悲鳴じゃないか。守ってる感あるぜ。……よし、もっと来い、もっとだ!」

レオン:

「おう!」


 更にレオンの回転が上がる。リディアはもう怖すぎて逆に目が離せなくなっているようで、2人の戦闘を震えながら見続けていた。


リディア:

「もう、許して~(涙)」はわわわわわわ

ジン:

「はっはー! 一撃も当てさせるかよ! ……リディアは、俺が守護(まも)るっ!!」


 ノリノリである。……とか言ってる間に、レオンがフェイトから深く踏み込んでいた。リディアの首めがけて大剣を薙ぎ払う。


リディア:

「ぴぃ」


 完璧に首が飛ぶタイミング。しかし、ジンは間一髪でこれも防いでみせた。火花の代わりにエフェクトが散る。


ジン:

「な? 大丈夫だろ」

リディア:

「…………(涙)」コクコクコクコク

レオン:

「これも防いだか。……で、どうなった?」

ジン:

「発動したぜ。更にここから竜の魔力(ドラゴンフォース)を纏って、と」


 ステータスアップしてもそれが目に見える訳ではない。それでも、感じるもの、伝わるものがあった。


シュウト:

「オーバーライドなしで、この圧力って(困惑)」

ジン:

「フム、まぁまぁだな」


 満更でもなさそうなジンだった。


レオン:

「……少し試してもいいか?」

ジン:

「構わないけど、本気でこねーと死ぬぞ?」ニヤリ


 ジンとレオンが同時に斬りかかった。斬撃が交わり、金属の炸裂音が悲鳴となって周りの空気を押しのける。レオンの体はズレるように後退。そのHPゲージには赤いダメージバーが点灯していた。

 ジンとレオンは、互いの斬撃を相殺しあった。つまり相殺した部分を越えた威力が、レオンのダメージとして刻まれたのだ。これはジンの攻撃力が大幅に増加したことを示す。破眼で今のを見ていたけれど、しかし、筋力にそこまでの差はないはずだった。


シュウト:

「筋力は変わらないハズなのに、どうしてダメージが?」

石丸:

「仮に筋力が同等だとすれば、ダメージ発生の原理や計算式が変化した可能性があるっス」

シュウト:

「……ってことは、アタッカー並の攻撃力が?」


 単純な筋力の比較ではタンクに軍配が上がる。けれど、物理ダメージを発生させる能力では、アタッカーの方がかなり上なのだ。


ジン:

「そら、2発め!」

レオン:

「うおおおおおお!!!」


 裂帛の気合いと共に放たれたレオンの斬撃は、しかしそれでも片腕のジンに押し負けた。都合4度の打ち合いでHPゲージを半減させたレオン。それまでとしてジンは切り上げた。


シュウト:

「凄いです」

ジン:

「だなー。とはいえ……」


 かったるそうに言いよどむジンだった。でももう、僕にも答えは分かっていた。


シュウト:

「ソロでも使えそうですか?」

ジン:

「シチュエーションにもよるんだろうが、お前の言いたい意味では無理だ」

シュウト:

「です、よね……」


 誰かを守るための力だとしたら、ソロでの1対1でこの力を発動させることは難しいだろう。従って、僕にはあまり影響しないことが予想できる。積極的に実験に協力した理由が、これだった。

 当然ながら、パーティー戦闘やレイドでは使える可能性が高いので、味方としては強くなったことになる。その方が良いに決まっている。

 何にせよ、いろいろな意味でホッとした。


葵:

『ソロでも使えるシチュエーションって?』

ジン:

「だから、誰かがピンチになってるところに駆けつける、とか?」

リディア:

「ジンさんって、そういうことしなさそう……」

ジン:

「失礼だな、チミは」

レオン:

「〈大地人〉の村がゴブリンに襲われていたら、使える可能性があるわけだな?」

葵:

『でもそれってさー?』

ジン:

「わぁーってる。条件がこまかく分岐する可能性があんな」

シュウト:

「えっと、どういうことですか?」

レオン:

「村人がまだ生きていて、それを目撃したのなら発動できるかもしれん。では、ゴブリンが村を襲っていたが、既に村人が全滅していたら? その場合、村人の姿を目撃することが必要条件なのか、生きていて助けることが条件なのか? 死体を見たら発動できるのかどうか。そもそも視覚情報は必須なのか、悲鳴を聞いただけではどうか?」

シュウト:

「なるほど……」


 守るための力と一言で表現しても、発動に必要なパターンは様々だ。細かく分析して知っておかないと必要な時に利用できないことになる。


ジン:

「誰かがピンチになるまで待って、助けに入るのとかイヤなんだけどなぁ~。どうせ曖昧な条件だったら、心が動いた時、とかにして欲しいね」

レオン:

「そうだな」


 よく考えると怖ろしい話だった。無傷でも助けられるのに、もしも誰かが傷つくまで、ピンチになるまで見てた方がパワーアップできて有利だったとしたら? 下手したら見捨てることの方が正しいことになりかねない。これはシステムが人間の善悪に影響する可能性の話だった。


リディア:

「あのー、わたしはどうしたら?」

ジン:

「おう。実験は成功だ、ありがとよ」

シュウト:

「リディアのお陰だ。ありがとう」

葵:

『これでレイドの成功率がそこそこ上昇したけど、ソロでは強化されなくてシュウくん大喜び!』

シュウト:

「な、なんの話ですか?」キョド

ジン:

「はぁ? 喧嘩売ってんの?」

レオン:

「ざまぁみろ、ってことだな」

ジン:

「言ってろ」


 しかし、リディアの災難はこれで終わらなかった。

 朝食を終えたところで、マリーが僕らのところへとやってきた。


マリー:

「できた」


 不格好な銃のようなもの。より詳しく説明すると、〈白骨竜砲〉の頭パーツを先端にくっつけて、銃の本体部分を木で付くってくっつけただけのものだった。サイズ的にはライフルやマシンガンの大きさだ。


マリー:

「名付けて、〈ドラゴンキャノン〉」バッバーン

ジン:

「なるほど……」


 そのまんまなネーミングである。

 受け取って眺め回すジンだった。左腕は側面から突き出た棒を握る形になっている。握って固定しやすくなっているようだ。


ジン:

「よし、試してみっか。……おい、リディア」

リディア:

「はい?」

ジン:

「お前が担当だ。さ、使ってみろ」

リディア:

「えーとー、なんでわたしなのかなーって?」

ジン:

「いや、最初っからお前用に作らせたんだが?」

リディア:

「えっ? えっ、えっ、そうなの?」

葵:

『〈付与術師〉の火力増強っしょ。MP使用コストからしても、リディアちゃん一択だよ』


 ジン達のやることには不信感を覚えるらしく(苦笑)、しばらく疑っていたが自分のパワーアップ・アイテムだと理解すると、ようやく笑顔になった。


リディア:

「ちょっと、試し撃ちしてくる!」

シュウト:

「うん」


 新しいことをやっているためか、人が集まって来ていた。しかし、セーフティゾーンでは何も起こらないため、少し外れたところまで移動する必要がある。

 少し離れたところで、僕らに背を向けて、ドラゴンキャノンの引き金を引くリディアだった。


リディア:

「ん? あれ? あれれー?」

ジン:

「ちょっと待てって、それじゃ弾は……」

リディア:

「壊れてるのかなー? ぜんぜん動かないんだけど」くるっ


 振り返るリディア。一瞬だった。頭部パーツの目が光り、弾が吐き出される。ジンは瞬間移動して肩に被弾。これは背後の味方を守ったのだろう。僕ら第1パーティーは反応が間に合ったので回避運動を始めていた。ジンはそのまま〈竜鱗の庇護〉(ドラゴンスケイル)を展開し、防御に回していた。


シュウト:

「リディア、手を放して!」

リディア:

「いやぁあああああ!!??」

葵:

『ダーリン! 』


 混乱するリディアはトリガーから指を離せずにいる。葵がレイシンに指示を出した。レイシンは飛び上がると〈ワイバーンキック〉でリディアを強襲。レイシンに火炎弾が飛ぶが、ジンがウロコ盾を飛ばしてフォロー。

 火炎弾が停止する。リディアを直接蹴ったというよりは、ドラゴンキャノンとリディアの間に割り込む形を狙ったのだろう。


 時間にしたら5秒未満といったところか。僅かな時間に10数発の火炎弾がまき散らされたが、結局のところを被弾はジンだけで済んでいた。


スタナ:

「これだけの事故で、被弾1ってこと?」

ウォルター:

「不意の事故でも、この対処力ってことかよ……」


 体がゆるんでいるのは重要だなと改めて思った。特に対処力は普段からの心がけの問題でもある。体がコチコチだと、ウッとなって咄嗟に動けない。今回もマンゴーと言わずに済んだ。


シュウト:

「大丈夫?」

リディア:

「わたし、わたし……」


 リディアは味方を攻撃してしまったことで、落ち込んでいた。


ウォルター:

「なぁ、あの武器だが、俺たちで使ってやろうか?」

ジン:

「気持ちは有り難いんだが、……アレはあいつに使わせる」

ウォルター:

「いいのか?」

ジン:

「ああ。一度失敗したぐらいでイチイチ見捨ててたら、誰も仲間になんかならないだろ」


 そう、ジンという人は鬼だが、同時に悪魔でもあるのだ。←?


ジン:

「さ、リディア。もう一度だ」

リディア:

「……」プルプル


 目を瞑り、首を横に振って拒絶するリディア。それが通用する相手だと思うのだろうか?(驚愕)


ジン:

「どうした、やりたくないのか?」

リディア:

「…………」コクリ

ジン:

「じゃあ、クビにするぞ? いいのか? ん?」

リディア:

「ひぃぃ、ヒドい!(涙)」


 本気でヒドい(笑) さすがにヒドすぎたのか、ユフィリアが参戦。


ユフィリア:

「ジンさんはすぐにそうやって意地悪をするー!」

ジン:

「じゃあお前が説得してみるか?」ほれ

ユフィリア:

「えっとー、……がんばろ? なんとかなるよ、きっと!」


 ユフィリアの根性論とか、ジンに輪をかけてヒドい(笑)


葵:

『だははは。任せてらんねーっつか。いいかい、リディアちゃん。その武器はね、装備したつもりでも装備できないんだよ。勝手に弾を発射する装置なの』

リディア:

「そう、なの?」

ジン:

「お前は一体、何を聞いてたんだ?」

マリー:

「魔力を供給するだけの簡単なお仕事」ふんす

リディア:

「でも、わたし。みんなを殺そうとした……」

ジン:

「だから誰も死んでないだろ。てか、この程度で殺せるとか思ってる部分がムカつくんだが?」

シュウト:

「あはははは(苦笑) 少なくとも、僕らはこの程度じゃ死なないよ?」


 自分でもそれはどうなんだ?とか思わないでもない。でも、僕らはこの程度では死なない。死ねないし、死ぬつもりもない。この程度で死ぬようだと、ジンに付き合ってられない。最強を目指すことなんて、とてもじゃないけど許されない。


ジン:

「仕組みはもう分かっただろ? さ、もう一度だ」

リディア:

「でも……」

ジン:

「慣れろ。それともクビにされたいのか?」

リディア:

「がんばりましゅ」


 説得ではなく脅迫でもって強引に立たせると、リディアの前方、15m?ぐらいの位置にジンは移動していた。


ジン:

「さ、撃ってみろ。撃ってみればどういうものか分かる」

リディア:

「んじゃあ、いきます」


 トリガーを握ると同時にカウント開始。次々と火炎弾が放たれる。


リディア:

「えーっ? なんで? なんで当たらないの? ファンブル?」ズドドドドドトド


マリー:

「そもそも、狙いを付ける機能がない」

葵:

『……だーね』

レイシン:

「はい、ストーップ!」


 結局、ジンに向かって飛んだのは、10秒で2~3発だけだった。30発以上発射していたから、15m程度でこの命中率はかなり低い(苦笑)。


ジン:

「って訳だ」

リディア:

「壊れてる! ぜったい不良品!」

スタナ:

「使えるわね。これはこれで使い道があるでしょう」

リディア:

「……そうなの?」

ウォルター:

「それで、性能はどうなんだ?」

石丸:

「10秒測定で、1秒あたり3.5発、1秒あたり300点のMP消費、1発あたりのダメージは概算で5000点っス」

ジン:

「素でくらったから、けっこー、痛かったぞ」

スタナ:

「1秒あたりMP300点消費? 多いのか、少ないのか微妙ね」

リディア:

「えっと、わたしだと……?」

石丸:

「リディアさんだと最大57秒間連続で使用可能っス 199発、総ダメージ99万5000点っス」


 リディアはビートホーフェンの創った特殊なケープがある。そのMPは17000点を僅かに上回っていた。レベル95だと装備を幻想級で固めたとしても、14000点に届くかどうか。〈冒険者〉としては圧倒的な世界最高値のハズだ。……それでも連続使用は1分に満たないということらしい。


ユフィリア:

「でも、当たらないんでしょ?」

ジン:

「ああ。よっぽど近接で使わないと当たらないだろうな」

リディア:

「でも、そんなの無理だよね? ね?」


 近接戦闘しろと言われないか不安で仕方ないのだろう(笑)

 実際には白兵したがる魔法使いもそこそこいたりするけど(苦笑)


スタナ:

「使い方が違うのよ。本来の使い方だと、そうね。籠城戦で敵が襲って来ているような時に、城壁の上から狙いもつけずに弾をバラまく、だとか」

ジン:

「そういうこった。モブが大量に出現して、狙わなくて良い状況とかな」

シュウト:

「部屋中にモンスターがいるとか、やたらデカい相手とか……」

葵:

『勝手に弾がバラケるから、逆に狙わなくてもいいんだよ』

リディア:

「そっかー……、それなら私でもなんとかなりそう」

葵:

『味方が近くにいても反応しちゃうから、ジンぷーのケツに叩き込むことになりそうだけどね(笑)』

ジン:

「リディア、俺のケツになんか恨みでもあるか?」

リディア:

「ないです」

ジン:

「避けられる時は避けるけど、俺のケツにむけて撃つなよ?」


 同様のトラップ解除を4回ばかりやっているので、試作1号機だけ僕らのものにして、あとはローマの人たちに譲ってしまってもいい。

 10秒でMP3000点だから、消費は意外と重いかもしれない。2発当たればダメージ1万点だと思えば、決して弱くもないのだが、ハッキリいってしまうと、避けられなくもない。落ち着いていて、10mもあれば回避は可能。慌てると逆に食らってしまいそうな気がする。〈ガストステップ〉で背後に回ってしまうのもいい。リディアが使っている限り、そこまで脅威にはならないだろう。

 では、僕が使えばどうなるのか。近接して背後などから密着、2秒斉射して7撃35000点のダメージ、といった具合で使えるかもしれない。でも強さとしてはそこで行き止まりだ。これはジンに通用しない。僕が使う意味はあまりない。


リディア:

「普段は使わなくていいんでしょ? だったら大丈夫! ……たぶん」


 不安だ(笑) 口に出しては言えないけど、そこはかとなく不安だ(笑)


ジン:

「……誤射しないようにトリガーガード?みたいの付けてくれよ」

マリー:

「必要性を認める。そのための試作品」


 苛立たしげな雰囲気でケイトリンがこっちを睨んでいる。ちょっと引いてしまうような顔だ。殺気をピリピリさせながらジンに問いかける。


ケイトリン:

「……なぜ?」

ジン:

「何が? 新しい武器のことか? そりゃー、リディアの火力を補ってやろうかと」

ケイトリン:

「違う。どうして庇った?」

ジン:

「あー、そっち? 回避が間に合ってなかったからだ」

ケイトリン:

「くっ」


 冷めた目つきで断言するジン。ジンがこう言えば、それは決めつけではなく事実になる。ケイトリンも天才肌だし、どうやら悔しかったようだ。『最強』に一方的に守られる立場が我慢ならないのだ。その感覚はとてもよく理解できる。僕の身近にもあるものだ。それだから努力するのだし、せざるを得ない。悔しそうなケイトリンに少しばかりいい気持ちにさせてもらった。


ウヅキ:

「……だとして、自分で喰らう必要はなかったろ?」

ジン:

「ああ、ワザとらしいってか?(苦笑) 別に恩に着させるつもりはねーぞ? お前らそんな殊勝な性格してねぇし。……あれはー、なんでだっけ? えーっと、単に間に合わなかったからそうなったんだけど。うーん、そうか。ウロコ盾は枚数出そうとすると足が止まるんだな。1~2枚なら平気だけど、その後に続く弾を防ぐには移動してから出すしかなかったんだろう。うん。そんな感じだ」

葵:

『完全に感覚的なモンで動いてんな(笑)』


 もの凄く理屈っぽい人なのだけど、戦闘時はもの凄く感覚的に動いている。ここを勘違いすると、まるで別物になるのだろう。


 今のは弱点の吐露でもあった。〈竜鱗の庇護〉(ドラゴンスケイル)2枚までは足が止まらないが、3枚以上を出そうとするとジンの足は止まる。居着く。ここを狙えばいい事になる。

 しかし、僕らを守るための行動なのだ。僕らを守って隙を晒して、それでジンが落ちたとしたらそれは僕らの失態だ。誰のせいとか言う人ではないけれど、僕らのプライドの問題なのだ。たぶん今の会話・発言はカトレヤ組の全員がチェックしているはずだ。万一に備えて、『自分が』フォローするために。……ユフィリアは、わからないけど(苦笑)


ケイトリン:

「次は、見捨てていい」

ジン:

「ご意見は承ったが、それは俺が決める」

ケイトリン:

「…………」


 唇を噛むぐらいしていそうだが、負けん気が強い人なのだ。そんなのを見せるほど可愛げがあるはずもない。


 朝はここまでで、集合すると〈獅子の空中庭園〉へ。今日は〈獅子神王ミネアー〉を倒す予定だ。……まだギミックとかわかっていないけれど。







 中継地点から、11層最奥へショートカットを利用して移動。ここから12層へ入れば、ミネアーまでは一本道になっている。モンスターが出現することもない。


シュウト:

「葵さん、作戦とかないんですか?」

葵:

『でぇーじょーぶ! このあたしに秘策アリ!』

シュウト:

「それ、なんも無いときのヤツじゃないですか……」


 12層を抜けて、ミネアーのいるフロアへ到着。前回と同様、四角い広場の中央で丸くなって寝ている。


スタナ:

「それで? どういう作戦でいくの?」

葵:

『うむ、ジンぷーが1人で戦って、その間にみんなでギミックを考える。以上!』

ジン:

「なんだそりゃ!?」

シュウト:

「さっき、秘策があるって言ってたじゃないですか!?」

葵:

『ふっふーん。これが秘策なのだよ!』

ヴィルヘルム:

「…………なるほど、そういうことか。了解した」

シュウト:

「えっ? えっ? 今ので一体なにが分かったんですか?」

葵:

『やってみりゃーわかるよ、……たぶんね』

ジン:

「それ、俺だけ働けってことじゃねーか!」


 

 全軍の配置完了を待って、しぶしぶとジンが進み出る。お疲れ様です、と内心思ったけれど、ソロ戦闘とか絶対に嫌いじゃないはずなのだ。


シュウト:

(あっ、そういうことか!?)


 これが自分にとってかなりまずい状況なのを悟る。早くしないと成長してしまう。レギオンレイドのレイドボス相手にソロ戦闘をやって、成長しないでいられる人だろうか。ありえない。


シュウト:

「ちょっと、行ってきます!」

葵:

『いってらー(笑)』

タクト:

「どうしたんだ?」

リコ:

「さぁ?」


 ジンとミネアーが戦っている脇を、少し大回りしたぐらいで走り抜ける。ミネアーがこっちを見た気がしたけれど、そういう隙をジンが見逃したりはしない。


レオン:

「どうした?」

シュウト:

「ちょっと急ぎます、奥の庭園へ!」

バリー:

「試してみたけど、入れなかったよ!?」

シュウト:

「上からは? 上から入れませんか?」

ヒルティー:

「飛行規制に引っかかるぞ」

シュウト:

「……僕なら抜けられます」

ギヴァ:

「わかった。……彼に飛行呪文を!」


 〈消失〉(ロスト)と飛行呪文の組み合わせは試したことがなかった。呼吸が乱れないなら、移動手段として有用かもしれない。僕は呼吸をなめらかに、穏やかに落とし込んで行った。

 


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