206 勝利主義者たち
ヴィオラート:
「新しい年を皆さんと一緒に迎えることができて、とても嬉しく思っています」シャララララン
ジンに対する強めアピールとは違い、聖女モードを発動して新年の挨拶をしているところだった。……いつもああしていればいいような気がする。年齢相応の恋心を否定するのもどうかと思わないでもないが、そもそも本当にジンの事が好きなのか、その辺りから疑ってみてしまう。
シュウト:
(なんか計算尽くっぽいし(苦笑))
ヴィオラート:
「……とはいえ、ローマで新年を迎えられなかったのは痛恨でした。政治・経済の中枢人材がほとんどココに来ているのとか、すっごくマズい気がしています」どよよーん
苦労が耐えない立場らしく、少しばかり同情してしまう。……本音でしゃべるのも、悪くないような気がした。
スターク:
「緊急事態だし、しょうがないよ(苦笑)」
レオン:
「そうだな。ウルスには、この機に乗じて反乱などは起こさないようにと、私から伝えておこう」キラン
スターク:
「そういうの余計に不安になるからやめて!」><。
レオン:
「……軽い冗談だ」にっこり
アクア:
「質の悪い冗談ね」
などと朝(月夜だけど)から毒々しい会話が繰り広げられていた。少なくとも新年の挨拶でやる内容ではないと思う。新しい年のスタートからして不穏だ(笑)
ヴィルヘルム:
「反乱はともかく、しばらくは機能するでしょう。代替要員の育成には力を入れています。我々がレイドに行く時間を捻出するのは最優先事項ですので。……ご心配をお掛けして、申し訳ありません」
年下の聖女相手に、恭しい態度で接するヴィルヘルムだった。仕事できる人たちの言うことは違うなーと思う反面、サボることに関して自分たちの右に出るものはいない、という強気な発言の気がする。それは果たして僕の勘違いなのだろうか?
オスカー:
「ジン、何か言うことある?」
ジン:
「特になし。新年だからって何も変わらない」
「ただ、ゆるめるだけ」と思っているはずだった。毎日の地道な鍛錬、その積み重ねだけが、僕らを遠くへと運んでくれる。……ちょっと未来情報でワープしてる気がしないでもないけど。そんなツッコミを入れても、きっと気のせいだとか言われるに違いない(苦笑)
ヴィルヘルム:
「アオイはどうだろう?」
葵:
『あけおめ、ことよろ。……あと、一点連絡。あたしの使ってる水晶球ってば特別製なんだけど、ちょちょっとMPを消費するのね。だから、MP補充要員が必要なんだわさ』
ギヴァ:
「何かあったのか?」
葵:
『いやぁ、みんなのレイドを安全に観戦できちゃうってんで人気でさぁ。新年ってことで新メンバーが追加になりました。おさげメイドのフランセスカちゃんと黒髪おっぱいのロザリアちゃん、それにちょっと機械チックなコッペリアちゃんデス。……あ、守秘義務的なのはたぶん大丈夫だから』
レオン:
「……そうか」
葵:
『でもまぁ、人の口に戸は立てられないっていうよね』
ジン:
「その一言が余計だって、なんでわからないんだ?」
葵:
『私の知らない兵器だとでもいうのか? 動け、ジ・オ!』
唐突な意味不明のセリフでほぼ全員をポカーンとさせる葵だった。
ヴィオラート:
「ちなみに、今は誰と一緒なんですか?」
フランセスカ:
『私です、聖女さま』
ヴィオラート:
「フランセスカ、貴方なの?」
そんなやり取りがあって、朝の練習へ。足ネバを疲れない程度にやっておいて、出発。山道まではひたすらにブレーキカット、山道になったらネバネバに変えて、ダンジョンまで登っていく。
ジン:
「連中どうだって?」
シュウト:
「寂しいとか、早く帰ってきてください、とかは言われましたけど(苦笑)」
ユフィリア:
「帰ったらもう一回、新年パーティーしようねって」
クリスマスの夜からギルドホームを開けているので、昨晩から今朝にかけて、何人かに念話しておいた。近況の報告という意味では、言えないことも多い。留守を任せているエルンストにだけ色々と伝えておいた。絶句するような内容だったらしく、感覚が色々と麻痺していると思った。麻痺してるぐらいじゃないと、やっていけないけど(苦笑)
レイシン:
「お節料理とか作りたかったなぁ。アキバに居られなかったのはちょっと残念だったよ」
ニキータ:
「総菜屋さんもですが、普段と違う食材も売ってたかも」
ユフィリア:
「イッチーさんなら教えてくれるよっ」
遠征が季節もののイベントと重なってしまうと、雰囲気が分からなくなる。なんとなくお餅というか、お雑煮が食べたくなってきた。
ジン:
「で?」
ユフィリア:
「で?」
ジン:
「殺人鬼の話は? どうなったって?」
シュウト:
「えっ?」
ユフィリア:
「うーん。そういえば、そんなお話もあったかもしれないね」てへっ
ジン:
「……お前ら、ちょっと抜けてねーか?」
殺人鬼の話は指摘されるまですっかり抜け落ちていた。今やってるレイドの内容が濃すぎるが原因だろう。1週間前の話なのに、もう何週間か前の話のようだ。短時間だけど自分でも戦ったというのに、すっかり過去になってしまっていた。
葵:
『んなっハッハ。やってらレントー。その話だったら、解決済みだってさ。深夜のアキバで、レイドやったらしいよ~』
ジン:
「マジかよ」
葵:
『詳しいトコまで把握してないけどね。帰ったら色々と探りを入れる予定』
〈カトレヤ〉の情報部門を1人で切り盛りしている人は違った。得意・不得意以前のレベルで、自分でも何かしなきゃいけない気がしてきた。みんなと一緒に行動しているから、僕の知ってる情報は、みんなも知ってるんだけども。
シュウト:
(そういえば、連絡してないな……)
情報源になってくれそうな相手が、かろうじて1人いた。〈アキバ新聞〉のユーノだ。しかし、彼女を利用しようという発想が今までなかった。利用と言ってしまうと、なんだか人聞きが悪い気もする。
どう表現したものか分からないが、彼女とは性別の枠を越えた友人のような気がしている。一度はデートしてみようだのの話になったものの、タイミング悪く、すれ違いになってしまった(すっぽかした僕が悪いんだけど)それ以来、そういう話にはなっていない。どうも男と女的な意味で付き合うのは、ちょっと違うのかもしれないと思い始めている。
不義理とか、冷たいだのの言葉が脳裏をよぎる。矢筒が言ったのか、自分のイメージだったかの区別は付かなかった。日本でもあるこのゾーンならば、念話でも連絡は付くかもしれない。新年の挨拶ぐらいした方がいいような気がしてきた。
シュウト:
(でも今って訳にもいかないし。後にしよう。うん、そうしよう)
―― へたれ。
シュウト:
(う、うるさいな!)
いや、矢筒が自分の意思でへたれとか言うハズがなかった。自分で要求したという自覚はまったくない、というと嘘になる気がする。「今のは違う。決してツッコミを望んだ訳じゃない!」と言い訳をしたくても、虚しいだけで意味はなかった。あまりの独り言っぷりに悲しくなる。ツッコミを要求しておいて、言ってもらったら、文句で返すとか。矢筒にごめんなさいと謝っておいた。
シュウト:
(あーあ。なんだかなぁ。……ダンジョンまで、あとどのくらいだろう?)
暇だから余計なことを考えるのだ。ダンジョン攻略に没頭していられれば、情けない思いなどはしなくて済む。
―― ……。
唐突にイメージが閃いた。周囲の人間の位置情報、そしてダンジョンまでの空間的な位置関係。
シュウト:
「まさか!? そんな、バカな……」
否定したくとも、状況は明白だった。ミニマップの情報で間違いない。僕は未だにミニマップが使えない。誰でも持っているらしいことや、機能しているっぽいことは分かっている。でも具体的にミニマップにアクセスしたり、意識的に利用できない。
そしてこうした制限は、矢筒や〈四天の霊核〉には関係がなかったようだ。矢筒はミニマップが使える。ミニマップから得た情報を、ロスが極めて少ない状態で僕と共有できる。結果、部分的に僕もミニマップを利用できる、ということになりそうだった。
シュウト:
「そんな、バカな……」
ジン:
「さっきから何が『バカな……』だ、このバカ!」
レイシン:
「はっはっ、どうかしたの?」
シュウト:
「す、すいません。えっとー、どう説明すればいいのか(悩)」
英命:
「結論を簡潔に。求められたら説明を追加、ですね」
シュウト:
「結論……、ミニマップを使えるようになりました」
ジン:
「は? おまえが? うそだろ~」
それはそれでヒドい言われようだと思う。でも気持ちは分かる。僕もそう思っていたから。
葵:
『まぁまぁ。んで? どうやったの?』
シュウト:
「僕じゃなくて、矢筒がミニマップを使えるらしいんです。その情報を、僕も共有できちゃうみたいで……」
葵:
『同一人物というか、脳は共有だもんね。そっかー』
英命:
「では、間接的にミニマップが使えるようになった、のですね?」
シュウト:
「はい。そういうことになるんじゃないかと……」
葵:
『なーるほどね~。やっぱ矢筒ちゃんってばアタリじゃん』
最初は懐疑的だったけれど、ここに至ってはアタリの気がしてきた。矢筒で何ができるのか、その全て知らなければならないと感じた。
それより矢筒ちゃんの「ちゃん」って部分で微妙に冷や汗が出た。ど、どこまで見えてるんだろう、この人……。
ジン:
「矢筒ちゃんでも矢筒くんでもいいけどさー。それ、お前より矢筒のが有能って話になんねーか?」
シュウト:
「ですよね。僕もそれで納得いくような、いかないような……」
葵:
『おいおい、バカにされてんのに納得しちゃダメだって。矢筒ちゃんが機械とかコンピューターみたいなもんだってことでしょ?』
機械ならしょうがないかな?とか思わないでもない(小並感)
レイシン:
「でも、あると便利なんでしょ? ミニマップ」
ジン:
「ん~、マップ機能としては微妙だけどなぁ~。今だと北がどっちかも分からないんだぜ? フィールドでの早期警戒には使うけど、ダンジョンに入ったら範囲が大幅に狭まるし。中だとむしろ亜呼吸空間とか、魔力感知の方が重要っていうか」
葵:
『ミニマップって機能拡張しないとイマイチだよね。目的の〈大地人〉をマーキングすんのとかは、あると便利なんだけど』
ユフィリア:
「そーなんだ?」
ジン:
「おう。ちなみに〈竜殺し〉だとドラゴンを見つけ易くなるぞ。だからどうしたってレベルだけど。……だから、まぁ、ミニマップはむしろ近接戦闘での必須能力だね」
シュウト:
「それは、どうやって使えばいいんですか?」
ジン:
「背後攻撃の察知に始まり、敵の配置と移動による変化をダイレクトに掴めると、かなり便利になってくる。キョロキョロしないで済むからな。俺はタンクだから、敵の射線と味方の位置関係の把握は優先度が高い。これが出来てないと体を入れて庇ったりは不可能だ。……あと回避運動な。聴勁って分かるか?」
シュウト:
「なんとなく、ですが」
なんとなく分かる、というのは、要するになんも分かっていないのと同じ意味でしかない。
ジン:
「聴勁とは、相手の動きを手で触れることで、聞き取るようにして感じて読みとるスキルだ。……これを応用して、手で触れる代わりにミニマップの空間感知で代用し、回避と連結させられる。超反射は細胞反応系だろ? 似てて近いが、微妙に別概念だ。あえて両方とも使うことで、複合感知に仕立ててやるわけだ」
シュウト:
「ミニマップが使えたら、僕にもできますか?」
ジン:
「まず普通の聴勁が必要だな」
シュウト:
「ですよね……」ガックリ
ジン:
「聴勁は内観を外部に延伸させたものだ。外に伸ばした段階で内観じゃねーだろって話なんだけど、要するに内観を『外観』にするんじゃなくて、触れた先で『内なる領域』を拡大するって話だな」
内観そのものは変えずに、内観で感知できる領域を広げる技術、らしい。相手の体ごと、相手の動きを、自分の内観で感じ取れればいいようだ。
ジン:
「運動は内観と切り離せないが、内観のレベルは人それぞれマチマチでな~。センスが高ければ、少し練習すりゃ使えるようになる」
シュウト:
「じゃあ、僕には無理そうですね。なんか、センスとか才能とか、素質がないと身動き取れない感じが凄いんですが(苦笑) ……専門の訓練法とかってあるんですか?」
ジン:
「うーん、あるっちゃあるけど、専門の訓練法をやっても聴勁はあんまり身につかないぞ? 結局は内観の規模とか精度の問題だから」
シュウト:
「はぁ……」
葵:
『なんだ、とっくに始めてんじゃん』
ジン:
「当然だ」
シュウト:
「なんの……? そうなんですか?」
葵:
『ゆるとか。ううん、ゆるだけじゃない。ジンぷーの要求してる練習って、内観の要求度がかなり高めっていうか』
ジン:
「筋トレで誤魔化せない世界だからなぁ。脳ミソあっぽーぺんで強くなれたら世話ねーっちゅうの」
シュウト:
「じゃあ、……僕も?」
ジン:
「相手の体に触れられれば、もうある程度まで動きが読めるはずだ。アキバに戻ったら、そー太とか朱雀で試してみろ。格下の動きは単純で読みやすい。武器同士が接触してる状態でもそこそこ分かるだろう。……逆に言うと、鍔迫り合いから自分の次の動きを、相手に読み取らせないようにする必要もあるってことだけどな」
シュウト:
「なる、ほど」
できそうだと言われると、途端に面白そうに感じてきた。
葵:
『ミニマップ利用のダイレクト回避みたいなのはまだまだ先だねぇ~』
ジン:
「そもそも、矢筒とどういう形で情報を共有してんのか?って話だろ。こいつ、ホントに大丈夫なのか? 不安とか心配しかないんだけど……」
シュウト:
「うぐっ」
さすがに信頼されていないのは精神的に厳しいものがある。日常の生活態度が、こういう時に形になって現れるというべきか。
葵:
『あたしが躾直すのでもいいけど、……少しは苦労を覚えようか? シュウくん』
シュウト:
「えっ?」
ジン:
「放置プレイだな? わかった。矢筒周りは計算に入れないでおく」
シュウト:
「えっ?」
英命:
「孤独が、少年を大人に変えるのですね?」フフフ
シュウト:
「ええええっ? ちょっ、待ってください! ミニマップとか、これってどうしたら?」
3秒ばかり間があった。もう興味をなくしたとばかりに一瞥して一言。
ジン:
「……さぁ? 知らんよ」
英命:
「好きにして良いのではありませんか?」
葵:
『あとは自分で考えよーぜ?』にひひひ
サクッと見捨てられた。そんな話をしている間に、〈獅子の空中庭園〉
はもう目の前に来ていた。
◆
スタナ:
「いいペースね」
ネイサン:
「ちょっと早すぎない? 休憩とかしないのかな?」
スタナ:
「さ、移動するわよ」
ネイサン:
「ちょっと~」
ネイサンの愚痴はいつものことなので聞き流しておく。言ってもいいタイミングだから言ってるのかもしれない。つい先日まで、子供っぽくて、迷惑で、イライラさせられる相手だと思っていた。でも今はテンションが上がりすぎないように、配慮も慎みもある愚痴なのが分かる。
攻略は順調、というよりも恐ろしいペースで進行していた。
あたかも、踏破済みで、攻略も確立していて、マッピングも全て終えている。そんな状態で、2度目か、3度目のトライのような、そんなペースなのだ。
基本的に一本道の〈ミリス火山洞〉とは異なり、複雑に入り組んだレギオン向け大型ダンジョン。フルレイド24人向けのものよりかなり大味とはいえ、攻略難易度は決して低くはない。
大幅なペースアップに最初こそ慌てたものの、夢中になってジン達を追いかけている間に、私たちは馴れてこなせるようになってきていた。
スタナ:
(やっぱり、ジンだけのワンマンチームじゃないんだわ……)
歩き方が変わり、頭が軽くなった。そのためか、まるで憑き物が落ちたかのように、変な力みが抜けた。そうすると、ごく自然に相手が求めているものは何か?と考えるようになっていった。ひたすら観察し、仮説を立て、検証する。この流れを繰り返すと、やがて少しずつ彼らのことが見えてきた。
世界最強の戦士、ジン。最初は彼がいるのだから、彼のワンマンチームだろうと思っていた。彼の仲間達も、個々の能力が高いことは分かっていたし、葵という声だけの参加者がかなりの指揮官であることも理解していたつもりだ。それでもジンのワンマンチームだろうと思っていた。
……その視点には変なフィルターが掛かっていたと認めなければならない。世界最強というパワーワードに目が眩んでいたのだろう。
前衛のタンク役が世界最強の戦士というのは圧倒的な強みだった。ヒーラーを必要としないほどの高い防御力と自己治癒力。絶対的とさえ言えるほどの高いヘイトキープ力。あまつさえ物理アタッカーすら超越した攻撃力まで備えているのだ。彼を前面に押し出せば、力押しでの攻略すら可能だろう。普通ならばそう考えてもおかしくない。
しかし、そんな無駄・非効率を彼らは選択していない。ヒーラーを減らせるならば、アタッカーを増やせる。例えそれが、レギオンレイドのプリマ・ディフェンダーがヒーラー1枚だとかいうキチガイ編成だったとしても、それがベストならそうするというだけなのだろう。
ジン達でレイドの指揮官ができるのは、たぶんジン、葵、シュウト、英命の4人。レギオンレイドだと、ジンと葵だけだろう。その他の戦士達は専門官、スペシャリストに相当する。
〈スイス衛兵隊〉の場合、フルレイドならば、レイドメンバー全員が指揮できる能力を保持している。レギオンレイドの指揮はさすがに人数が限られるが、各パーティーに1人以上は経験者・能力者がいる。全部で楽に20名は越えているだろう。……この特異性こそが、我々の強みだった。
戦闘用人材の大半をエスタブリッシュメントやエリート階級で固めていること。例外もいるが、逆に例外のメンバーはそれだけ高い実力を評価された結果の参加だった。全員が指揮官だからこそ、リーダーシップもチームワークも、高い水準で実現できる。そしてランキングのような競争にさらされているからこそ、能力に多様性が生まれる。人がやらないことを率先してこなせば、レギュラーに入れる確率が高まる。クロストレーニングで自らの代替性を高め、メインメンバー入りのチャンスを伺った結果なのだ。個の能力を高め、全体に貢献し、成果を出し、出し続けた結果だ。
ジン達の場合、ごくありふれたスペシャリスト集団で、特異性はジンという最強の戦士のみ。……そう思っていた。だが事実は少しばかり異なる。単一の指示系統に紐づけられた、よくあるスペシャリスト集団ではなく、圧倒的なスペシャリスト集団だった。
特に戦闘時は、リーダーの存在すら曖昧な、並列的な思考での戦闘が展開されていた。観察の結果として判明したのは、彼らに与えられているのは基本的な役割だけだということ。タンクは仲間を守る、アタッカーは攻撃する、ヒーラーは回復する。当たり前だ。そして声だけで参加している葵は指示ぐらいしかできないのだから、指示をする。
葵が指示をするのだから、葵がリーダーかと思えば、ジンが指示を出したり、シュウトが指示を出したりする。それどころか、行けると思えば、アタッカーは声も出さず、勝手に突っ込んでいく。その動きが最初から組み込まれていたかのように、仲間達が即席で戦術にしてしまう。ジンのヘイト・ワークがあって初めて出来ることなのだろう。日本人の和の精神とやらがどれだけか優れていたとしても、これではあんまりだ。
ジン達のチームは高い技量を備えている。それは認めよう。しかし、誰が中心かは分からなかった。ジンは献身的に見える。ではそれは何のため、誰のためのものか。どうして連携が成立するのだろう。そして私の求めている答えとはなんなのか?
スタナ:
(どこかで、期待している自分がいる……)
オスカーの言った秘密、ヴィルヘルムの期待、そしてジン達の謎。
ネイサン:
「わからないこと、知りたいことがあるのなら、質問しちゃえば?」
無邪気に、疑うことを知らないかのように、あっけらかんと口に出して言えてしまうのだ。大したことじゃないよ、と教えようとしてくれている。
どうしても自分でたどり着かなければ意味がないのではないか?と思ってしまう。でも、分かってもいた。憎たらしいことに、言っていることは正しい。私を信じてくれて、真っ直ぐに嘘のない瞳で見守ってくれている人。……それ故に、私が嘘だらけだと、自覚させられてしまう。
スタナ:
「教えてほしいことがあるの」
ジン:
「俺か? なんだ?」
スタナ:
「アナタの献身は、誰のものなの?」
ジン:
「献身……。さぁ? 考えたこともないね」
スタナ:
「クッ、バカにしているの?」
ジン:
「そんなイライラされても、なぁ?」
葵:
『まぁまぁ。せっかく質問しに来てくれたんだから、がんばって答えたげなよ?』
ジン:
「献身って、組織とか、みんなのため~とかってヤツだろ? 日本だとブラック企業なイメージっていうか?」
スタナ:
「ブラック、何?」
葵:
『あー、うーんと、労働者を違法な労働環境やら労働条件で束縛して、低賃金、且つ、奴隷以下の待遇でコキ使う連中を、日本ではブラック企業というのさ!』
スタナ:
「そうなの? 日本人の方が献身が得意なイメージだったのだけれど?」
葵:
『そーじゃない? でもほら、真面目に仕事したくなくてゲームやってる中年だからさー?』
ジン:
「失礼な! 俺はともかく、真面目に仕事もして、ゲームもがんばってる人に謝れ!」
スタナ:
「……質問が悪かったみたいね。貴方達の、誰が中心人物なの?」
葵:
『無論、SGGM、スーパーグレート・ギルドマスターの、あたしだ!』
ジン:
「だってさ」へらへら
シュウト:
「あははは(苦笑)」
スタナ:
「違うの、そういうことが聞きたいんじゃないのよ!」
ジン:
「あー? つまり、俺が中心人物で、リーダーだって言ったら納得するってことか? ……答えありきで質問に来て、求めてる答えと違ったら文句いうって、お前バカじゃねーの?」
スタナ:
「それは……」
英命:
「なるほど。スタナさんからは、我々がどう見えているのですか?」
スタナ:
「……誰もリーダーじゃないように見える。並列的な思考で行動しているみたい。もしくは、全員がリーダーなの?」
ジン:
「んだよ、そういうアレか。……ウチの連中は、〈大災害〉後に集められた傭兵プレイヤーの集まりだ。ソロだったり、ギルドからあぶれたり、はみ出したり、事情は様々だよ。バラバラの連中だから、バラバラなのさ」
葵:
『バラバラでも、別にいいじゃん』
スタナ:
「バラバラ……」
想定もしていない出自を明かされて、納得したような、余計に納得できなくなったような変な感覚になる。バラバラだから、細々とした指示を出したりはしないのだろう。いや、出来ないのかもしれない。バラバラだから、勝手に動いてしまうのだ。でもバラバラなのに、強い。個人主義の集団だと言い換えれば、むしろ非日本的かもしれない。
スタナ:
「バラバラなのに、中心がないの? それでいいの?」
ジン:
「中心はあるよ。ただ目に見えない、仮想的なものなだけだ。中心にこれでもかっ!って柱があったら、それはバラバラじゃないだろ」
スタナ:
「!?!?」
ジン:
「いやいや、そんな珍しいものじゃないって。イデオロギーとか、なんちゃら主義だって、中心的な主義や思想、概念があるだけで、具体的な模範解答が羅列されてるわけじゃないんだし」
スタナ:
「じゃあ、アナタ達はどんな主義の集団なの?」
ジン:
「んっ? なにかあるっけ?」
葵:
『んー、なんだろう?』
英命:
「自らを定義付けするのは難しいですね」フフフ
ウヅキ:
「オイ、そんなの決まってんだろ?」
シュウト:
「へ? 決まってるんですか?」
ウヅキ:
「勝利主義とか、そんな感じのだろ?」
バラバラの傭兵を集めた、勝利主義の集団。かなりイメージしやすくなった気がする。
ジン:
「だが待ってくれ。俺は理想論的、現実主義者なのだが?」
葵:
『いや、あたしのギルドはもっと高尚な理念に基づいて運営されてんだじぇい!』
ジン:
「今から考えてるヤツがよくいうぜ」
葵:
『にゃにおー! ちょっと待ってろ』
レイシン:
「まぁ、なんでもいいよ」はっはっは
ユフィリア:
「私ね、元気が一番だと思うの!」
ニキータ:
「ユフィが良ければ、それでいいわ」(ユフィリア第一主義)
石丸:
「自分はみなさんにお任せするっス」
シュウト:
「なんでもいいですよね(苦笑)」(総受け)
あまりにもバラバラで、バカらしくなって、くすくすと笑ってしまった。




