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205  最初の大晦日

 

 最初のギミック以降、特に戦闘もなく遺跡を進んでいくと、あからさまな場所に出た。絶壁がくり抜かれたような通路。右手はそのまま断崖だった。ちらっとみても底が見えない。これはもう、急に飛行系モンスターに襲われたり、『落下=リトライ』が定番になるシチュエーションであろう。こうまで分かりやすいのは良いことなのかどうか。


ジン:

「ところでお前、いつまで持ってんだ、ソレ?」


 行き場を無くした、〈白骨竜砲〉ホワイトボーン・ドラゴンの頭パーツの話で、まだ右手に持ったままだった。ダンジョン内に置いてくるのもどうか?という気がして、捨てるに捨てられずにいたのだ。


シュウト:

「じゃあ、捨てちゃいます」

葵:

『すとーっぷ、ポイ捨て!』


 せっかくの断崖絶壁(?)だ。投げて捨てないのも勿体ない気がしたのだが、ストップが掛かった。


葵:

『なんかで再利用しようじぇい!』

リディア:

「なにかって?」

葵:

『何かっていったら、何かだ!』

ジン:

「答えになってねぇだろ」

レイシン:

「はっはっは」

シュウト:

「再利用……。部屋に飾ったりとか、ですか?」

ユフィリア:

「でもコレ、あんまり可愛くないよ?」


 可愛くないのは認める。だって白骨だし。なんかの部族的な飾り付け風になりそうなイメージだ。


ジン:

「ハンっ、お前ら女子のカワイイとかって、その時の気分の話だろ? 自分の意見を周りに押しつける方法論っつーか」

ユフィリア:

「そんなことないもん!」

リコ:

「まぁ、否定はできないかも……」

ユフィリア:

「えっ?」

ニキータ:

「そういう意味合いも強めかな、って」

ユフィリア:

「えええっ!?」

ジン:

「正直でよろしい」うむ

ユフィリア:

「う~っ、ジンさんのイジワルっ! いじめっこ!(涙)」

シュウト:

「アハハハハ」


 女子に裏切られたけれど、悪いのはジンということにしていた。

 反撃されたものの、ジンは満足したようでどこふく風である。ユフィリアをいじめすぎたと思ったのか、ニキータは慰める方に回った。


葵:

『それはともかく、罠とか武器とかに使えんかのぉ?』

英命:

「それでしたらマリーさんにお願いするべきでしょうね」

葵:

『じゃあ、ちょっち止まって~、「全軍、停止せよっ!」』

シュウト:

「ええええ。今ですかっ!?」

ジン:

「あー、アクア? ちびすけ、……えっと、マリー呼んでくれ」


 ジンの内面では『ちびすけ』になっていたらしい。クソチビよりかは幾分かマシなのだろう。なんだかこっちの事情だけで勝手に進軍を止めたりして大丈夫なのだろうか?(苦笑)


 そうして第3レイドからマリーと、なぜだか一緒にヴィオラート様が僕らのところへやってきた。


ヴィオラート:

「ジン様、『わたくし』をお呼びでしょうか?」

ジン:

「ああ、そんなようなものだ」


 相変わらずの強めアピールだが、ジンの側はまるで意に介していない。受け入れて受け流すと、特別なことは無かったような雰囲気になるらしい。


マリー:

「なにか用?」

ジン:

「ちょい、プレゼントがあってな。……そら、新しい帽子だぞ~」ポコッ

マリー:

「帽子……?」


 〈白骨竜砲〉の頭パーツを、マリーの頭の上にのせるジンだった。地味にヒドい……。マリーの頭蓋骨と大差ないサイズなので、頭身が増えた形だ。


ジン:

「帽子は冗談だけど、そいつでメガマシンキャノン的なの作れねぇかと思ってな」

シュウト:

「メガマシン……?」

石丸:

「ガンダムF91の、胸部バルカン砲のことっス」

マリー:

「魔力を送り込めばそのまま動くかも。それでいいなら」

シュウト:

「……それ、危ないんじゃ?」

マリー:

「武器なんて、そんなもの」

葵:

『まぁ、そうだぁね』


 おおざっぱー、とは思ったが、でもやろうとしているのはそういうことの気もする。ギミックをそのまま武器として運用できれば、けっこう強かったりするかも?


葵:

『動いたとして、反動がどのくらいかだよね。誰に持たせるかってのもあんだけど、ハンドガンよか、ちょっと大きめに作った方がいいかも?』

マリー:

「そうする」こくり

ヴィオラート:

「もしかすると、これは一種のブレイクスルーかもしれません。

 我々の研究では、銃器を作成し、試射したところ、ファンブル的な挙動が起こりました。原因は装備者に要求されるレベルだろうと予想されたため、研究は装備レベルを下げる方に向かったのですが……」

ジン:

「なんか喰らったな、そんなの」

マリー:

「機械・魔法の複合式ハンドガン。必要装備レベル100付近。弾丸に生体部品を使い、先端だけ金属でコーティング。10発装填、1発辺りのダメージは約3000点」

ジン:

「貫通しないと3000もいかねーぞ? せいぜい800ぐらいだ」

マリー:

「普通の鎧なら貫通するはず」


 レオンの隠し玉の銃はやっぱり彼女たちが作り出したものだった。ジンに効果はなかったけれど。


ヴィオラート:

「仮にギミックをそのまま武器に転用できるとしたら、……装備レベルの問題を解決できるかもしれません」

ジン:

「解決しないのが、解決ってことだな。狙いもなんもなく、暴発させるタイミングと方向だけこっちで決めるっていう」

ヴィオラート:

「そうなると思います。……やっぱりジン様とは心が通じていますね」

ジン:

「そうだな」


 ロリコンと言われたら必死で否定するけど、上辺なら付き合う用意があるらしい。大人の対応である。


リディア:

「でも暴発させるのってどうなの? 危なくない?」

葵:

『ダイナマイトに火ぃつけて、ブン投げるのと一緒じゃん。十分だよ』


 手で固定して、方向を決める程度の『装備しない武器』とかの概念になるようだ。必然として使い方は限定されるだろう。例えば、モブが大量に出現した時に、弾をばらまくような感じで使うとか。逆に完全に密着してしまい、全部の弾を強引に当てるとか。そうしてイメージしてみると、戦力になりそうな気もしてきた。


ヴィオラート:

「大抵の場合、こうしたギミックは停止させる時に破壊されてしまい、再利用できなくなるのですが……」

葵:

『元からバラバラだったしね。デザインが甘かった部分はあるかも。それとシュウ君のお陰で、大したダメージもなくゲットできたのが大きいかな』

ジン:

「またあのギミックがあったら、量産用にゲットしていくか」

シュウト:

「……わかりました」


 お役に立てているようで何よりではあるのだけれど、なんとなく今からプレッシャーを感じてしまう。あれはあれで、そこそこ緊張する作業なのだが。……修行の一環ということにしておこう。


ジン:

「なに暗い顔してやがんだ。ウロコ一枚ぐらい飛ばしてやるって」

シュウト:

「はぁ」

ヴィオラート:

「ところで、ジン様? マリーにプレゼントしましたが、 わたしくには無いのですか?」

ジン:

「ぅん? あれは本気でプレゼントって訳じゃ、……えっと、こんな感じでどうだろう?」ナデナデ

ヴィオラート:

「……仕方ないので、それで我慢してあげます」


 しばし頭を撫でられて、我慢してくれることになった。まぁ、満更でもなさそうではある。マリーは所属の第3レイドに戻って行くとき、器用にも頭パーツを帽子のようにのせたまま歩いていたので、ヴィオラートは少し羨ましそうにしていた。マリーはあれで友達をからかって遊んでいるらしい。なんとも不思議な二人組だった。超のつく美少女と、超のつく天才。2人で西欧サーバーの最重要人物ときている。


葵:

『そういう訳なんで、ギミックがあったら報告よろしく!』


 やっぱり爆弾処理班的な流れになってしまった。修行、これも修行だと自分に言い聞かせる。


ジン:

「さてと、お客さんだ」

ニキータ:

「セットアップ!」







 襲って来たのは、やはりというべきか〈吸血蝙蝠〉だった。カインやタルペイアの手先として動くモンスターだろう。レベルは91~93。そこに違和感を感じていた。


 通常のレイドであれば、飛行規制の一種だと理解できる。こうして空に開けているダンジョンの場合、飛んでいけば色々とショートカットできてしまう。このため飛行系モンスターを配置し、飛んでいけないようにしてあるのだ。

 そうなれば当然、無限ポップでなければならない。地上で撃ち落として数を減らし、その後に飛んで行けば良いだけ、とはできないようにするためである。……であれば、ここでの問題は『なぜ100レベルじゃないのか?』ということになってくる。経験的に言えば、低レベル化は『無意味なモンスター』にするための処置なのだ。


 90~100レベル用のレイドダンジョンであれば、余程のことでもない限り、全員がレベル100で挑むことになる。ゲームであれば、レベル上げのためにレイドに行くことはない。自分だけ低レベルでは、周りのプレイヤーの迷惑になってしまうからだ。例外はレベル上げが目的として一致する状況のみ。アップデートによるレベルキャップ解放直後とか、新規参入で同レベル帯のプレイヤーを集めてギルド立ち上げた、とかだ。


 従って、〈吸血蝙蝠〉のレベル91~93というのは、とてもゲーム的な数字ということになる。レベル100からすれば、戦っても徒労に感じるモンスターなのだ。しかも無限ポップである。

 だが、91レベルの〈スイス衛兵隊〉にとっては、お手頃な強さのモンスターになる。しかも無限ポップである。これを利用しない手はない、というぐらいに都合が良い。


シュウト:

(てことは、最初から出てくる予定だった? シナリオ通りってことになるような……?)


 〈ミリス火山洞〉のレベル100吸血鬼の弱点属性のことを思い出す。真のランダムではなく、きっちり同数に近い形でバラバラに配置されていた。……そうなると、カインとタルペイアの行動以外は、おおまかに言ってシナリオ通りの可能性が高い。なんとなくモンスター側にももうちょっと意思とかがあって、指示とかしているものだとばかり。


シュウト:

(もしかして、アンデッドだから?)


 ゾンビやスケルトンに複雑な行動選択ができるとは思えない。アンデッドの思考力は限定的なのかもしれない。


葵:

『さぁ、射撃訓練っ。はーじっまーるっよー!』


 全軍を足止めして無駄に喋ってたつもりが、そうでも無かった気がしてくるから不思議だ。まるで計算尽くであったかのように、戦闘開始。


 96人の僕らは前後に間延びした状態で、側面からの襲撃を受ける形だった。前から襲ってくる敵は、極論でもなんでもなくジンがシャットアウトしてしまうが、これではそうもいかない。『各員の奮戦に期待』することになる。

 狭い通路とはいえ、学校の廊下と比べれば、教室サイズに近い。ポジションを整えたり、武器を振り回したりは十分に可能だ。各レイドの各パーティーがそれぞれ戦闘態勢に移行する。



 ―― 2時間経過



ジン:

「……つまんねぇ、飽きた」


 襲ってくる〈吸血蝙蝠〉を避けながら斬り捨てる。自動機械かと思うような正確さだった。斬り捨てられた〈吸血蝙蝠〉は反対側の壁のところで弾けて、金貨をドロップさせていた。


 最初こそ、飛行系モンスターに攻撃が当たらなかった〈スイス衛兵隊〉も、なんだかんだと工夫して当たるようになっていった。倒せるようになると、それをひたすら続けて戦果を叩き出していた。モンスターの数が減るや、葵は飛行部隊をでっちあげ、敵を釣り出す戦法を指示。これがまた大当たりした。強制リポップが作動したのか、ひたすら戦闘が続いた。そのまま2時間ばかりここで戦い続けている。


 空中の敵を倒すと「お金が落ちていく!(涙)」と嘆いていたジンだったが、もう飽きたのか、諦めたのか、さっきから単調な戦闘に不満を漏らすだけになっていた。


葵:

『全員が93になるまではここでやるから。あとちょっとだよん』

ジン:

「あーあ。せめてレア素材でもドロップすりゃいいのに」

シュウト:

「無限ポップですし、さすがに無理かと……」

ジン:

「んなこた、わーってるよ! ハァ、暇だ」

シュウト:

「えーっと、暇って……?」


 絶賛・戦闘中なのだけど。次の瞬間に〈吸血蝙蝠〉に襲われたりしているのに、やっぱり退屈そうに、でも当たり前に躱して斬撃を叩き込んでいた。チャリンと金貨が落ちる。……やっぱり自動戦闘かもしれない。

 強すぎるのも困った話なんだろうなぁ、と思いつつ、僕は矢の数を少し減らす作戦を続けていた。500~600は減ったと思う。


 それと発見がひとつ。龍奏弓は3射するとオマケのProc『瞳』が1つ発生する。それを飛ばして何かできないかと考えていたところ、矢筒に任せられることに気が付いた。何度か遊びのつもりで任せてみたのだが、特に外れたりもしない。〈乱刃紅奏撃〉も発動させた後は任せられるのは確認済み。自分で当てたい気分はあるけれど、状況的に忙しいなら任せてもいいような気がする。オプションが増えたのは、増えないよりもいいと思うことにする。


エルウィン:

「なぁ、アレ、なんかデカくないか?」

ネイサン:

「なにが?」


 1―3(第1レイドの第3パーティー)の〈暗殺者〉、エルウィンが最初の発見者だった。谷底の低空からこちらに向かって来ている。

 大型の飛行モンスターに各メンバーがざわつきはじめる。大型と言っているが、そもそも吸血蝙蝠自体が蝙蝠としては大型だ。正確な大きさや形は距離が離れていて不明だが、もしかするとレイドボス級とか、そんなもののような気がする。


葵:

『……なんかペナルティ関係かも?』

ユフィリア:

「ペナルティ?」

葵:

『んーとー、ダンジョンで同じ場所に居続けたりすると、徘徊する死神みたいな圧倒的に強くて勝てないモンスターが襲ってくる、みたいな展開が稀にあって』

シュウト:

「あんまり不吉なこと言わないでください」

リコ:

「でも、もう2時間半ぐらいここにいるし……」


 飛行規制を堅守するべく配置された強力なエネミーだとしたら、その強さは尋常ではないだろう。普通に考えれば、戦うべきではないモンスターだ。でも、今ならまだ逃げられるかもしれない。


ジン:

「よーし。シュウト、こっちに引き寄せろ!」

シュウト:

「……了解」


 とはいえ、ジンにそんな一般論が通用するハズもない。それは一般論ではあっても常識ではないからだ。大体、コンシューマーゲームなんかの場合、こういう強力な隠しモンスターを倒すとボーナスやレアアイテム、称号、トロフィーなんかがもらえたりするものだろう。下手すると2時間半もの作業プレイのご褒美と言えなくもない。ジンがこういう行動にでるのは予測通りというか、当然そうなるよね?ぐらいの距離感だった。

 でも、やるとなればテンションはあがってくる。僕も嫌いではない。


シュウト:

「〈ヴェノムストライク〉!」


 エフェクトが長く尾を引く。着弾したと思ったら腕のようなものに弾かれて見えた。満月の光に照らされ、その巨躯が垣間みえる。


レイシン:

「人型みたいだけど、名前とか見える?」

シュウト:

「いえ、……もう少しだと思います」

ジン:

「もっとこっちに寄せろ。撃ちまくれ」

シュウト:

「了解」


 立て続けに矢を射ていく。他のレイドメンバーも成り行きを見守るべく、谷底を覗きみていた。いつの間にか、〈吸血蝙蝠〉が居なくなっていた。同時に襲われたら厄介なのだが、そういう問題ではないらしい。その事がこの敵の危険度を表している。たぶん近づいてはならないタイプってことだ。


アクア:

『どうするつもり?』

ジン:

「戦うに決まってら。……それより、この先に開けた場所がある。先行偵察するようにヴィルヘルムに言ってくれ」

アクア:

『OK』

葵:

『そこまで引っ張っていくつもり?』

ジン:

「ここじゃ俺が殴れるかどうか怪しい。……なにより、倒したらドロップアイテムが谷底に落ちる」


 声だけでアクアとやりとりし、葵と素早く方針を決めていく。


ネイサン:

「ちょっといいかな? あのデッカいのと戦う気?」

ジン:

「そうだ。お前らのレベルアップに2時間も付き合ってやったろ。次は俺が楽しむ番だ」

ネイサン:

「でも、……強そうだよ?」

シュウト:

「ステータス判明!〈翼もつ巨人コルウス〉レベル110、レギオンランクです!」

リディア:

「それって倒せない感じのやつじゃ?」

ジン:

「問題ない。シュウト、撃ち続けろ!」

葵:

『みんな、わーってるよね? こっちに接近するまで、攻撃は控えて!』


 近づくに連れて外見の情報が増えていった。白いコウモリ的な羽と、黒い翼で2対4枚。〈エルダー・テイル〉は明確な天使や悪魔は出てこないので、配慮が感じられるデザインだ。

 服は片側タンクトップ、というより古代ギリシア的な服装で、胸元や太股はそのまま見えている。足は編み上げブーツだ。防御力そのものはあまり高くなさそう。特徴的なのは肌で、全身が銀色をしている。白人のようにも、黒人のようにも見えるのは、やはり配慮によるものか。

 頭部に髪の毛はなく、目元は布で縛られている。見えているのか、いないのか不明。最終的に戦闘直前になって判明したことだが、腕も4本で、比較的サイズの小さい下の2本がお腹の前でがっちりと拘束されていた。腹部を攻撃すると腕が邪魔になるだろう。コルウスは、どこか封印されたデザインをしたレイドボスだった。

 僕が集めたヘイトをジンがむしり取るように交換し、戦闘を開始。


ジン:

「よ~し、はじめっか」


 僕らの目線まで上がってきたコルウスが空中でホバリングしつつ、ビシッとポーズを決めた。……最新のレイドコンテンツって、そういうノリなの?

 ジンのタウンティングと同時に射撃が開始される。


ジン:

「雑になるなよ、いくぞ!」


 空中のレイドボスとの戦闘のため、近接・白兵攻撃ができない。やるとすればフライの魔法などを使って、ということになるだろう。まずは情報収集をかねて戦っていくことになる。

 コルウスの右手には輝く剣があった。左手は何も持っていない。片手剣士スタイルだろうか?と思った次の瞬間、特に前触れもなくワイド・カッター的な斬撃が飛んできた。剣閃による射撃攻撃。


ジン:

「ぬん!」


 ジンが〈竜破斬〉で相殺。『前触れのない攻撃』に対して、どうして特技を発動させて相殺できるのか、まったく理解に苦しむ。ひとつひとつの行動が地味に神業で、それの積み重ねが実力になっている。

 続けてコルウスの左手に魔力光のエフェクト。少々のタメから、細長い攻撃魔法がまき散らされた。巨人のレイドボスからすれば針のようなものだが、僕ら〈冒険者〉からみれば十分に槍サイズである。

 唐突な範囲攻撃で損害多数。きっちり防いでいるジンにダメージなし。ユフィリアがエリアヒールを投射。モーションは分かり易いので、次からは対処できるだろう。


タクト:

「必殺攻撃じゃないんだよな?」

リコ:

「通常攻撃でこのレベル……っ!」


 僕らの基準はモルヅァートだった。なので、モルヅァートより強いかも?と思えば不安という名の蛇が頭をもたげてくる。レイド×4、レギオンレイドランク。レベルもより高位の110。でも、だとしても「こんなものじゃなかった」という気持ちが強い。

 思い出は美しい。しかし、美化でもなんでもなく、本気のモルヅァートはもっと強かった。


 全部隊で攻撃を叩き込む。少しでもダメージを稼ぎたいところだが、無理は禁物だ。そろそろ『始まる頃』でもある。

 唐突にレイドボスが光り始める。明らかにパワーをため込んでみえるモーション。必殺攻撃の時間だ。


英命:

「お任せを」


 僕らの体ではなく、断崖にそうように障壁を展開。地形を利用することで防御の抜けを無くしつつ、障壁の枚数を減らしている。障壁の中に入るように移動しておく。

 

コルウス:

「オオオオオオ!!」


 叫び声と共に、人間サイズ程もある魔力塊が、数秒に渡り、無数に、全方位にばらまかれた。間断なく爆発が続く。恐ろしいまでの破壊力に僕らは身が縮む思いだった。ジンの〈竜鱗の庇護〉(ドラゴンスケイル)が既にカバーできるように準備されているのだが、それでも恐ろしい。


リディア:

「こんなの、崩れちゃう!」


 天井からパラパラと粉や欠片が落ちてきて崩れないかと心配になる。足下の床も揺れていて、抜けたり崩れたりするかもしれない。ここで生き埋めにされる訳にはいかない。生命の危機感もあるが、ダンジョンが崩れたら攻略ができなくなる。特段、インスタンスが生成されているようには思えない。この場所で何度も必殺攻撃を受ける訳にはいかない。


オディア:

「偵察隊、戻りました」

葵:

『ナイスタイミング! どんな感じ?』

オディア:

「150mほど先に広場を確認。敵影なし。当該ダンジョンの中継地点のようです」

ジン:

「広さは? そこで戦えそうか?」

オディア:

「全軍での戦闘も、可能と思われます」

葵:

『うっしゃあ!』


 ここからレイドボスを引っ張っていくことになるのだが、ジンはいわゆるカイティングはせず、戦いながら引き込んで行った。戦闘という全体の文章は変えないまま、行間、文字間、単語選択、あらゆるレベルで、丁寧、且つ、繊細に、まったく同時に強引に、そして徹底的に広場へと引き込んでいく。連続攻撃なら1撃目は避け、2撃目は敢えて盾で受け止めてズルズルと後退して見せるぐらいのことは平気でやっていた。更に時に押し返すことも忘れない。

 150mの移動に10分掛からなかった。5分か、6分か、そのぐらい。レイドボスの必殺攻撃をしのいで、広場へと向かう。


葵:

『あと一息!』

ジン:

「こっちへ来いっ! こっちだ!」


 先頭のジンが広場へと到達。タウンティングを重ねて放ち、最後の仕上げに取りかかった。周囲を素早く確認し、ポジションや自分の立ち回りを考える。

 しかし、ここまでだった。


ジン:

「チィッ、〈ベヴィアンカー・スタンス〉!」


 広場に立ち入った瞬間、〈翼もつ巨人コルウス〉は離脱を開始。ジンが移動阻害を試みるものの、届かなかったのか、効かなかったのか、そのまま去ってしまっていた。


葵:

『うあーっ、ダメかーっ!』

ジン:

「ちっきしょう、もうちょいだったのに。……なんでだ?」

英命:

「セーフティーゾーンか、それに近いエリア、なのかも知れませんね」


 振り返ると、巨大な岩棚が複数の層を成し、遺跡と溶け合って存在していた。分かり易くショートカットらしき場所がここからも見える。こうしたヒントが提示してあることはよくある話だった。つまり、ここがショートカットの集まる中継エリアなのだろう。

 ゾーン設定で戦闘不能になっていなければ戦闘自体は可能になるが、セーフティー的なエリアと思えば、理解しやすい。


葵:

『ここがこのダンジョンの「地の底」だろうね。飛行規制のモンスターと戦うには、流石にダメってことか』

ジン:

「かもな。どこかでヤツと闘えそうな場所を見つけよう」

葵:

『それも目的のひとつだね。そんでもって、このどこかにボスのいる「空中庭園」があるってことかな?』

レイシン:

「ハードな展開になりそうだね~(苦笑)」

葵:

『きっしっし。大歓迎だけどねぇ~』


 葵の気配は、好物を見つけた肉食獣が舌なめずりしているものに感じられた。高いハードルをご馳走と思っている。

 流石に昼にするには早すぎるということで、ダンジョンの攻略へ向かう。


葵:

『なんかさー、肩透かしっていうか。どう思うよ?』

ジン:

「はぁ? なんの話だ。こんなもんだろ?」

葵:

『いや、もっと理不尽かなって思うじゃん』

シュウト:

「えっ?」

ニキータ:

「十分、理不尽な攻撃を受けていると思うんですが?(苦笑)」


 カインやタルペイア、レベル200オーバーはやりすぎだと思う。というか、手応えとか噛みごたえがまだ足りないんですか?と言おうとして、足りないとか言われそうな気がしてやめた。


ジン:

「おまえが片言だとわかんねぇって。……だがまぁ、外の吸血鬼の方が理不尽か?」

葵:

『そうそう、それそれ!』

レイシン:

「なんのこと?」

ジン:

「あー、レイドボスが襲ってくる点を除けば、割合まっとうにレイドしてるって言いたいんだろ」

葵:

『そっそ。星奈と咲空が病気になったみたいな、どうにもならないような理不尽さが感じられないっつーか?』

リコ:

「ワールドワイド・レギオンレイドって時点で理不尽なんじゃ?」

葵:

『それはそうなんだけどね~(苦笑)』

英命:

「なるほど。では、典災と呼ばれるモンスターは関与していないと?」

葵:

『もしくは影響しててもかなり限定的なのかも。ゾーンの封印解いただけ、みたいな?』

ジン:

「……どっちでもいいけど、楽勝なら別にそれでいいだろ」

葵:

『それはまだ分かんないやん?』


 天上人の会話だな~と、なんとなく聞き流すみたいに耳にしていた。しかし、葵はこの段階でレギオンレイド全体の攻略、その詰めの作業に着手しようとしていた。違和感やその場で感じていることを言語化し、共有する作業であり、そこから攻略を『発生』させつつあった。攻略の種を僕らに植え付けた、というべきか。ジンが葵を評して、なんか独りでブツブツ言ってるだけ、というのがこれのことだった。


 〈獅子の空中庭園〉の攻略は順調だった。空飛ぶ石像モンスター、〈ガーゴイル〉を中心とした構成だった。飛行ユニットとの戦闘は面倒なのだが、それよりも配置が自由すぎる方が問題になってくる。

 ジンがいるので囲まれても問題ないとはいえ、無茶な突撃は〈スイス衛兵隊〉に被害が出てしまう。やはり基本通りに敵をプルして、小分けにし、各個撃破していくことになる。ところが、配置が自由なのでこれがやりにくい。たとえば、通過しようとする橋の真下にモンスターが配置されていたりしたからだ。……それを葵が事前に察知し、偵察できていたため、僕らは大過なくやり過ごすことができた。

 初めてのダンジョンではどうしても時間が掛かるものだが、まるでお構いなしだった。どこを歩いているのか分からなくなりそうだったが、〈スイス衛兵隊〉はこの辺りでは慣れたもので、地図作製と共有化は徹底されていた。不意の事故ではぐれてもそのまま行動できるようにするためだった。


 この日は結局、5層に到達。ふたつめのショートカットを確保したところで、お開きになった。アクアのおかげでリカバリー・タイムが短縮され、次々と戦闘できるのも大きく作用していた。

 〈スイス衛兵隊〉はレベル93到達者が出始めていた。タクト、スターク、クリスティーヌがレベル95へ。ニキータはもう少しで97に到達予定。しかし、ジンがまだレベルアップできずに95のままだ。流石に2倍以上の経験値を取得しているハズなので、ニキータに前後してレベルアップするだろう。


 キャンプに戻り、みんな満足した様子で仕事を終えた。確かな手応えがあった証拠だろう。明日への活力は食事と休息でまかなうことにする。

 その食事中、ジンが感想を尋ねてきた。


ジン:

「足裏、地足法はどうだった?」

ユフィリア:

「うんとね、『頼もしい!』って感じ」

ジン:

「俺が?」

ユフィリア:

「足裏が」にこっ


 変な日本語にツッコミを入れたくなったけど、感覚的に分かる話だった。


シュウト:

「崖が剥き出しじゃないですか、柵とかもないし。そういう場所だと足元が心許ない感じとかして、けっこう不安になったりするんですけど……」

ユフィリア:

「うんうん。頼もしいよね!」

ジン:

「俺がだろ?」

ユフィリア:

「あー、しー、もー、とっ♪」

タクト:

「確かに。移動力だけの話じゃなかった」

リディア:

「そういえば、あんまり怖くなかったかも。あのレイドボスは怖かったけど……」

レイシン:

「いい感じだね」

ジン:

「ああ、だな」


英命:

「……もしや、慣用表現の『足が地に付く』ということですか?」

ジン:

「ああ、それも身言葉の一種だろうな。個人的には『地に足が付く』の方を使ってる気がするけど。……こうしたものは、体の感覚が思考や感情にけっこうダイレクトに影響しているということを意味しているし、それを実地に経験してるってことになる。他にもたとえば、足元が寒いと、貧乏ったらしい考え方になるとかって言うね。おおざっぱにいえば、足裏が使えるようになってくると、大地の気を取り込み易くなるのかもしれない」

リコ:

「じゃあ、足元が疎かになったり、足元を掬われたり。こういうのも関係してるってことですか?」

ジン:

「卵とニワトリだな。どっちが先か? 身体意識が先、言葉が後だ。昔は言葉に実感がこもっていたってことだよ。共通認識として成立する程度に、『あるある』だった訳だ。今じゃまるでコンピューターが扱う、記号みたいな上辺だけのものになっちまってる。身体意識が衰えて弱くなったせいで、言葉の威力も弱くなったんだろう」

ニキータ:

「言語が認識を作る。でも、まず認識が言語を生み出したんですね?」

ジン:

「そうだ。……自分自身を含めて、まず世界を認識することだな」


 実感のこもった重いアドバイスだった。しかし、ユフィリアがその罪を告発した。


ユフィリア:

「うーっ、ジンさんがカッコつけてる!」

ジン:

「俺は元々カッコイイし。……なんだよ、ダメだったか?」

ユフィリア:

「ダメ」

ジン:

「カッコつけたら罪か? 悪か?」

ユフィリア:

「そう。だってイジワルのいじめっ子だし」

英命:

「実感がこもっていますね」

ジン:

「チィッ」


 こうして〈大災害〉最初の年末、大晦日は過ぎていった。パーティーめいたことをしようという案はあったが、浮かれて騒いでいられる状況でもない。……僕らの攻略はまだ始まったばかりである。


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