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197  エレメンタルゴーレム

 

スターク:

「よし、行こう!」

全軍:

「「オオオオオオ!!」」


 第13層で最終の打ち合わせをし、バフを残らず掛けたところで、ボスのいるゾーンへ進入する。

 僕ら第1レイドは、前回と同じく物理攻撃力の高い火のマテリアルゴーレムへ。レオンのいる第2レイドは物理防御力の高い土のマテリアルゴーレムを受け持つ。ヴィルヘルム、アクア、白の聖女コンビのいる第3レイドは、魔法攻撃力の高い風のマテリアルゴーレムの担当だ。これは聖女がいることで全体回復力が高いためである。メインタンク役はヴィルヘルムではなく、デジレという女性のガーディアンが務めている。最後の第4レイドは、ベアトリクスとシーンを擁し、魔法防御力の高い水のマテリアルゴーレムを物理で叩くことになっている。メインタンクはドワーフのガーディアン、オリヴァー。〈スイス衛兵隊〉がレイドを行う際のメインタンクの人だ。


 おおまかに、ミリス作戦では4体同時撃破を狙っていくことになる。前回の結果から、攻撃力の高い僕ら第1レイドが帳尻を合わせる役目になっていた。DPSを抑えめに戦闘し、他のレイドチームが十分に削った後で、一気に追いつくという役割である。なぜそんな面倒なことをするかというと、同時撃破を狙うと何らかのギミックが作動すると葵が予想したからだ。


 無事に同時撃破できたとしても、第二段階・第三段階の可能性がある。

 前回は火と土のマテリアルゴーレムが合体したが、葵は別のゴーレムと合体する可能性も想定していた。火なら、風もしくは土と合体するだろう、というものだ。前回同様、火&土、風&水の組み合わせになれば問題ないのだが、万一、水と土が合体してしまうと、物理防御&魔法防御の双方が高い、弱点のないシンセサイズゴーレムになってしまう。その場合、同時撃破を狙うのはかなりやりにくくなってしまうだろう。


 こうした基本情報を頭に叩き込み、戦闘開始。前回同様の動きで火のマテリアルゴーレムとジンが戦端を開き、単独で誘導して他のレイドチームの移動をフォローしていく。第1、第2、第3レイドまで準備が完了する。


ラトリ:

「第4レイド、準備完了! お待たせ~」


 全ての部隊が準備できたところで、アクアのタンブリング・ダウン開始。天が崩れ落ちる重圧も心地好い。スウィングの方は、もう少し先まで取っておくことになっている。


 順調すぎるほど順調、というか、逆に手応えが足りない。第4レイドが5%以内になったら、第2・第3が5%以内へ、そして僕ら第1レイドが最後に5%以内になるようにコントロールする。ネイサン達にもジンの口伝技アーマーブレイクの話はしてあるので、タイミングよく大ダメージを与える算段はつけてある。

 後はダメージマーカーを多めに設置するぐらいだ。ケイトリンのブレイクトリガーで一気に差を詰める予定である。この時、追加効果の大爆発がたくさんあると、ダメージを稼ぎすぎるかもしれない。けれど、そんな心配は杞憂に終わるだろう。


ジン:

「まーだーぁ~?」

シュウト:

「全然まだです」

葵:

『鬱憤はためとけって。あとでまとめてドン!しろよ』

ユフィリア:

「どーん!」

ニキータ:

「ユフィ、気が早い」


 第4レイドではベアトリクスが戦ってはいるのだが、レイドボスのHP量では遅々として作業は進まない。逆に張り切りすぎても、今度はヴィルヘルムたち第3レイドのDPSと差が付きすぎてしまうだろう。

 しかし退屈したらしきジンが盾を荷物に納め、〈天雷〉の練習を始めてしまったぐらいである。


ジン:

「すーっ、……らっ!!」


 超々速度攻撃。付随する雷撃が火のマテリアルゴーレムの動きを停止させる。弓を射ながら、その動きを見ていたけれども、やっぱり目では見えない速度が出ていた。……あんなの避けられる訳がない。


ジン:

「ふーっ、……だっ!!」


 システムアシストの存在しない『完全特技』には、技後硬直も再使用規制も存在しない。けっこうなMPを減らしつつ、〈天雷〉を連続で使っていく。


ネイサン:

「ちょっと、ちょっと! ……あの技って何? あれもクデンってやつ?」

葵:

『口伝っちゃ、口伝かな? 自分の体だけで特技っぽい効果を発生させるもので、完全特技って分類だよ』

ネイサン:

「完全特技だって!?」

スタナ:

「自力で特技効果って、そんなことが可能なの……?」

葵:

『ジンぷーだし、今更じゃね?』


 三度、雷撃がマテリアルゴーレムを打つ。論より証拠と言ってるかのようなタイミングだった。まぁ、出来ちゃったのだから仕方がないというか。


ネイサン:

「ちょっと待ってよ。何もない所から雷が落ちてるじゃないか」

スタナ:

「MPも減少しているし、魔法的な効果なんでしょう? 他の雷撃魔法だって同じじゃない」

ネイサン:

「そうさ。だからだよ。……ジン!」


 前の方に走って近づくネイサン。


ジン:

「おう。なんか用か?」

ネイサン:

「合図したら、もう一回、今の技をやってみてくれる?」

ジン:

「〈天雷〉か? 別にいいけど」


 なんとなく、ネイサンがやろうとしていることの想像が付くというか。


ネイサン:

「〈コールストーム〉!」


 やはりである。小規模の嵐が戦場を覆うように発生する。他よりも天井が高いとはいっても、地下なのだ。雲が巻き起こるような高さではない。見た目は霧とか、煙に近く、その中を雷光がチカチカする光景はちょっと怖ろしげだったりした。あまり高く跳び上がりたくない感じ。


ネイサン:

「じゃあ、どうぞ!」

ジン:

「いや、まさかね。……うらっ!」


 そのまさかだった。目映い純白の雷光が網膜に残像を残す。轟音がその威力を物語っていた。スタン時間が延長されたのか、マテリアルゴーレムが停止し続けている。6秒か、8秒か、そのぐらいだ。


ネイサン:

「ほら! ほら! ほらあっ!」

ジン:

「マジかよ(汗)」

葵:

『ライデインがギガデインになったな』ふーむ

レイシン:

「はっはっはっ」

英命:

「〈森呪遣い〉と連携したことはなかったですしね……」


 そもそも〈コールストーム〉の効果は使用者本人にしか適用されないハズなのだ。〈天雷〉は完全特技なので、特殊なシナジーが生まれたのかもしれない。いや、理由はともかく立派な合成特技ということになりそうだった。


ネイサン:

「そうだ、名前! ネイサン・スペシャル・ライトニング・ブレイド……どう?」

ジン:

「ダサい、長い」

葵:

『却下』

ネイサン:

「じゃあ、大胆に省略してネイサン・ブレイド」

スタナ:

「別に〈コールストーム〉が使えれば、貴方じゃなくてもいい訳でしょう?」

ネイサン:

「なんで? 発明者に命名権があってしかるべきだよ」

スタナ:

「そもそもジンがいなければ成立しないでしょうに」

ネイサン:

「そうだけどね。……ちなみにスタナだったらなんて名前にする?」

スタナ:

「私? ……ホワイトフォール、かしら?」

ジン:

「おっ?」

葵:

『ほっほう。なかなか……』


 〈森呪遣い〉が〈コールストーム〉から〈ライトニングフォール〉に繋げる基本連携が前提になっていて、見た目からホワイトフォールと連想したのだろう。日本語なら白落といったところか。


ネイサン:

「ジンは? ネイサン・ブレイドと、ホワイトフォールだったらどっちがいいの?」

ジン:

「そのふたつだったらホワイトフォールだろ。まぁ、個人的な趣味でいえば、漢字2~3文字がベストだが」

ネイサン:

「たとえば?」

葵:

『普通に「雷神剣」とかだね』

ネイサン:

「ワオ。ネイサン・ブレイドに勝るとも劣らない……」

スタナ:

「どうして真顔でそれが言えるの?」


 レイドボス戦中だというのに、ネイサン主催の必殺技名コンペが始まった。ジンは『長いの、ダサイの、ふざけすぎは却下』と方針だけ決めて、あとは傍観を決め込んでいた。ネイサンが納得すればそれでいいらしい。

 結果、〈轟天雷〉に決まった。命名者はリコで、轟音の天雷だから、とのこと。なかなかに安直である。


ネイサン:

「ゴウテンライ。素晴らしいね」

ジン:

「……割とマトモで助かった」

葵:

『ジンぷーならギガ・ブレイク一択だと思ったのに』


 そんな暇つぶしをしている間に、マテリアルゴーレムとの戦闘は次のステージを迎えようとしていた。……勘違いしてはならない。余裕なのは僕ら第1レイド部隊だけで、他のところはちゃんと(?)がんばっていたのだ。というか、遊んでいたのはネイサンであって、僕らもそこそこ真面目に戦っていたと思う(思いたい)。


 無事に第4レイドが残りHP5%圏内に到達。第3レイドが5%圏内に入るまで、そこまで時間はかからない見込みだろう。イレギュラーに備えて慎重に、しかし、素早く攻撃していく。


 3―1に配置されたクリスティーヌが、大きな胸を揺らしながら(失礼)デバフやダメージマーカーを設置していく。海外の人にしては割合小柄な女性〈暗殺者〉、オディアが風のマテリアルゴーレムの背後からアサシネイトを叩き込んでいく。――その時だった。


ギャン:

「なんだってんだ?」

葵:

『やっぱりか! 何がくる?』


 第4レイドの担当する水のマテリアルゴーレムの周囲に魔法陣が出現していた。続けて第3レイド担当の風のマテリアルゴーレムにも魔法陣が形成される。


マリー:

「召喚魔法陣!」


 輪郭の曖昧な人型精霊が現れる。人間より大型の2.5mぐらい。それぞれ2体ずつの、水と風の、〈スローター・スピリッツ〉だ。誰よりも早く、葵が檄を飛ばす。


葵:

ENK(エンク)、クラウドコントロール! サブタンク急げ! 処理を開始!』


 今回は各レイドに2名の〈付与術師〉(エンチャンター)が配置されている。それはMPやバフの管理だけでなく、唐突なAddへの対処も目的である。数秒の時間を作れるかどうかは、攻略の鍵を握っているも同然なのだ。


英命:

「slaughter、『殺戮の精霊』ですね」


 従ってマテリアルゴーレムを守護したり、回復するのではなく、僕ら〈冒険者〉を排除するのが目的の『攻撃的なエネミー』ということだろう。一撃一撃のダメージが高い部類になりそうだ。


葵:

『第1レイド、様子見は終わりだ! 追いつけ!』

ジン:

「やるぞ、俺に続けっ!」


 ブロードバスタードソードを両手持ちしたジンが瞬間移動みたいにマテリアルゴーレムとの間合いを詰める。そのまま〈アーマークラッシュ〉の口伝技『アーマーブレイク』を決める。物理&魔法防御が極限まで低下。当初8秒程度だった効果時間も今や15秒まで延びている。

 透かさずケイトリンがブレイクトリガーを発動。黒炎剣のダメージマーカー接触による特殊Proc、小爆発のなかに3つの大爆発が紛れこんだ。確率3%というので、なかなか運がいい方だろう。


 人間に制御できていたのはここまでだった。

 第2レイドの5%到達で、更に土のスローター・スピリッツが召喚される。第2~第4の各レイド部隊に3体・3種類のスローター・スピリッツが襲いかかった。マテリアルゴーレムと併せて4体の敵。

 ……こうなると、僕らの第1レイドが5%圏内に到達した場合、更に追加でスローター・スピリッツが出現することになるのは明らかだ。

 スローターの早期排除が目下の課題なのだが、厳しいと言わざるをえない。僕らが5%圏内に突入しなければこのまま状況を維持できるものの、結局はジリ貧なのだ。マテリアルゴーレム4体同時撃破が遠のいて感じられる。



 ――♪♪♪、♪~



 ハッ、となった。瞬間、ハミングに気を取られ、それが焦る気持ちを忘れさせた。変形してアクアの指先に装備された炎奏の指揮棒から、柔らかな光のウェーブが放たれ、戦場全域を暖かく撫でる。

『スウィング』が効果を発揮し、経験という曖昧な感覚が、確かな実感を伴って立ち上がる。


 そうしたタイミングで第1レイドも5%圏内に到達。召喚魔法陣から数秒して火のスローター・スピリッツが全てのレイドチームに襲いかかった。他のレイド部隊はサブタンクに余剰人員などいない。〈スワッシュバックラー〉が代理を務めることになるだろう。あとはタンク代わりになれる召喚生物がいれば、積極的にフォローに回す展開だ。

 

 ヴィルヘルムはスローター・スピリッツの排除を早々に諦め、マテリアルゴーレムの同時撃破を優先させた。引きつけているサブタンクが死なないように拮抗させておくだけで限界だ。これ以上のリソースを割いても、肝心のマテリアルゴーレムの撃破が遅くなるだけだった。


 決死隊のような緊張感あふれる戦闘が続く。スローター・スピリッツのダメージは一撃4000点前後。レイシンなどはある程度まで避けられるので心配しなくていいが、タクトは苦戦している。とてもではないが、サブタンクとヒーラー1枚でいつまでもしのげるものではない。


葵:

『第3、第4、全体回復! 30秒後、第2も全体回復!』


 葵もフル回転していた。まさかレギオンレイドまで指示だし出来るとは思っていなかった。

 そしてもう1人。たまたま被弾したレイシンにタイミング良く回復魔法を投射したのは、当然のようにユフィリアだった。その違和感の無さが凄まじい。我らがプライマリヒーラーはピンチでこそ輝く異能の持ち主だ。

 

ラトリ:

「準備完了!」

スターク:

「こっちもいけるよ!」

ギヴァ:

「まだだ、もう少し……。よーし、いいぞ!」

シュウト:

「いつでもいけます!」


 同時撃破を狙って、慎重に残り1%まで削る作業をやってのける。

 ジンのいる僕らはそこまでの難易度ではないものの、他のレイドチームにとっては神業が要求されるシチュエーションかもしれない。

 ちなみに、タクトの戦っていたスローター・スピリッツは時間が余ったため撃破済みである。


ヴィルヘルム:

「アクア!」

アクア:

「3カウント! 3、2、1、ファイア!!」


 各レイドチーム共に全力を振り絞る。完全に同時とは行かなかったが、合体モーションが始まる前に4体を撃破できたのは間違いない。スローター・スピリッツの動きが停止する。


葵:

『どうだ!?』


 見えざる手に引っ張り上げられるように浮かぶマテリアルゴーレムたち。合体モーションである。ギリっと歯を食いしばる音が聞こえてくるかのようだった。歯を食いしばり、踏みとどまり、作業を続行する。


葵:

『まじい! 火と風だよ。第3、第1に合流!』


 事前に予測した通りになっていた。

 ここでは僕らが攻撃力の高い火&風のシンセサイズゴーレムの相手をすることになった。戦力としてのジンを、より防御的に使うことを選択したことになる。


ヴィオラート:

「ジン様! ご一緒ですね」

ジン:

「おう、ちゃんと下がってろよ?」

ヴィオラート:

「……はい」しゅん


 戦闘中にくっつきに来るのは流石に勘弁でしょう(苦笑)

 ここでもスローター・スピリッツが改めて出現する。火と風のスローター・スピリッツ2体だ。この召喚は前回にはない挙動でもあり、正しく攻略できている合図に見える。

 数こそ減ったものの、シンセサイズゴーレムの強さと相まっているので負担は小さくない。レイシンとデジレが対応しに向かう。


デジレ:

「ヴンッッッ!!」


 デジレは野太い声を出しながら、強烈な攻撃を受け止めている。ワイルドだ。

 シンセサイズゴーレム2体も同時撃破を狙っていくことになる。スローター・スピリッツを早めに排除することも考えなければならない。僕はデジレが担当する風の殲滅精霊に狙いを付けることにした。


タクト:

「クソッ、追加かよ!」


 スローターが1体追加。HP割合によるものだろう。しかも直接攻撃のみならず、魔法のような範囲攻撃が始まっていた。サブタンクの人数的な不安はなくなったものの、攻撃の厄介さはむしろ上がっている。


レイシン:

「オオオオ!!」


 獣化フリーライドのレイシンが吼える。蹴り技のコンビネーションからジャンプ。敵の体を蹴りつけて更に上空へ。宙にいるレイシンを狙い続けるか、地上でダメージを与えてくるアタッカーを狙うかで、スローターが一瞬、迷うような動きをした。攻撃の届かない高さに一瞬だけ出て、自然落下で戻ってくる。そうした間合いのコントロールでもって、敵に隙を作ったのだ。鋼竜双角棍に闘気エネルギーが集まる。一直線に落下しながら特技が放たれた。


レイシン:

「〈オーラキャノン〉!!」


 短距離砲撃技を、至近距離から。しかも真上から真下に向けて放つことでエネルギー・ロスは最小になっている。吹っ飛ぶことも出来ずに直撃するスローター・スピリッツ。

 そこに石丸と、リアという女性ソーサラーが同時に氷系魔法で追撃していく。間をおかずにケイトリンの特技が炸裂した。


ケイトリン:

「〈アイシクル・レイン〉」


 無数の氷柱(つらら)が突き刺さるような、高速の連突が火のスローターを凍らせていく。そしてトドメは背後からウヅキが首をはね飛ばし『もの』にしていた。1体撃破。

 しかし、見計らったかのように更に1体のスローター・スピリッツが追加される。


シュウト:

「〈乱刃紅奏撃〉!」


 シンセサイズゴーレム同時撃破までの時間を計算し、再使用規制20分のこの技を使っておくことにする。もうここまでくれば、4神合体のエレメンタルゴーレムになるものだと思って戦っていくだけだ。安易な希望的観測は捨て、出来ること・可能なことを再構築しながら戦っていく必要があるだろう。



 そうして20数分後、シンセサイズ同時撃破目前に至った。

 アクアがいなければ絶対にたどり着けなかったと確信するほどの大激戦。4回MP切れしてお釣りがくる戦闘も、ようやく終局を迎えていた。


葵:

『同時撃破直後、合体モーションに慌てずポジショニング修正! 忘れないで! そしてジンぷーの攻撃後、同時攻撃!』

ヴィルヘルム:

「了解した!……アクア!!」

アクア:

「同時撃破、行くわよ! 3カウント、3、2、1、Go!!」


 高揚と興奮を押さえ込み、威力の高い攻撃特技を繰り出す。


スターク:

「よし、成功!」

ネイサン:

「撃破っっ! もういっちょおおお!!」

葵:

『ボジショニング修正、ユフィちゃん、タイミングよろ』

ユフィリア:

「うんっっ!!」


 撃破モーションが収まると、光りながら分離を始めた。四方に散ると、ここからゾーン中心で合体を行うのである。まだHPゲージはゼロなので攻撃を始めても意味がない。合神してエレメンタルゴーレムになった途端にHP回復が始まる。一瞬のロスが命取りだ。


リディア:

「スローター、倒し切ってなくて大丈夫かな?」

シュウト:

「分からない。今は、集中しよう」


 ポジショニングを終え、頷く仲間達。派手派手しい合神モーションが始まった。ジンがブロードバスタードソードを両手持ちして待ちかまえている。


ユフィリア:

「ジンさん!」

ジン:

「おおおっ!」


 合神完了、そしてステータスの表記がひとつに、名前がエレメンタルゴーレムに切り替わるぎりぎり、その直後だった。


ジン:

「『アーマーブレイク』!!」


 葵の「攻撃開始」のかけ声などかき消される密度の、同時最大攻撃。


シュウト:

「〈アサシネイト〉!!」


 待機させてあった〈乱刃紅奏撃〉の『瞳』に、弓矢で最新版アサシネイトを乗せて放つ。

 勝負は一瞬で、削り切れるかどうか。敵のHP量もかまわずに乱射する。


ジン:

「どうだ!?」


 最大魔法の豪雨から逃げてきたジンが尋ねる。あらゆるエフェクトが乱れ飛ぶ中で、誰も答えなど分からない。


ユフィリア:

「!!……だめっ、回復しちゃう」

ジン:

「チィッ」

葵:

『攻撃続行!!!』


 僕も再び弓を構え、矢をつがえる。可能な限り高い威力の技を繰り出すべく……。


ジン:

〈竜破斬〉(ドラゴンバスター)


 本体意識量を注ぎ込むジンの最大攻撃。次々とジャベリンが投擲され、命中しては爆発を起こした。


シュウト:

「〈ラピッドショット〉!……〈アローランペイジ〉!!」


石丸:

「〈フレアテンペスト〉!!」


ラトリ:

「〈フリージング・スフィア〉! どうだっ!?」


ユフィリア:

「ジンさん!」


 ジャベリンを投げ続けるジンに背後から抱きつくユフィリア。


ジン:

「どう、なった?」

ユフィリア:

「やったよ、……私たち、勝ったよ!!」


 20本を越えるジャベリンの投擲の末、遂に、エレメンタルゴーレムは沈んだ。歓喜が、歓声となって爆発した。まだ最初の一体だが、これで先に行けるという確かな手応え。



 戦いは、終わった、……かに思われた。

 


ニキータ:

「嘘っ、これって!?」

ジン:

「マズい。来るぞ、葵、アクア!」

アクア:

「セットアップ! 急ぎなさい!!」

葵:

『ンナロー、よりによって、このタイミングかよっ!』



 悪逆の吸血公爵カイン、そして徒花の邪聖母タルペイア。レベル200超のレイドボス2体が、エレメンタルゴーレムを倒した直後のゾーンに現れる。


葵:

『ジンぷー』

ジン:

「……もうちょい掛かる」


 ブースト〈竜破斬〉のジャベリン投げでもって消耗した本体意識量のせいで、ジンはオーバーライドが出来ないのだろう。敵の戦闘目的によっては、一瞬で決着が付いてしまうこともあり得る。


アクア:

「それで? ここに何か用でもあるのかしら……?」


 踏み込んで対話、というよりも時間稼ぎを選択するアクア。その肝の太さに舌を巻く。しかし、ああでなければならない。


邪聖母タルペイア:

「大した用じゃないわ。……でも、褒めてあげる」

レオン:

「褒めるだと? ああ、貴様達にはできないことだったな」

邪聖母タルペイア:

「あら、賢い子もいるのね」

アクア:

「貴方たちは聖域に近づくことはできない。エレメンタルゴーレムを倒す役目を、私たちに託したのでしょう?」


 どうも相手の狙いや目的を代理で説明することで、時間を稼いでいるらしい。綱渡りにも程がある。


葵:

『そんで何しに来たわけさ?』

マリー:

「いや、分かる。再封印されないようにするため」

英命:

「なるほど。エレメンタルゴーレムやこの聖域を再使用できなくするのが目的、ということですね?」


邪聖母タルペイア:

「人間も侮れないわね」

吸血公爵カイン:

「待て、おかしいぞ。……あの戦士はどこへ行った? ジンとか言ったハズだな」


 人混みに紛れるように、ヒュッと首をすくめて隠れようとするジン。最強戦士のそんな姿に、思わずニキータさんが吹き出しそうになる。


吸血公爵カイン:

「いま笑ったのは誰だ!? 何がおかしい!」

邪聖母タルペイア:

「もういいわ。それより、さっさと済ませてしまいましょう」

ヴィルヘルム:

「そちらの用件を伺おうか」


 リーダー役というのか、前に進み出て交渉相手であることをアピールするヴィルヘルム。


邪聖母タルペイア:

「ウッフフフ。知る必要はないわ。……だって、これから貴方達には死んでもらうのだからァ!」


 来るっ。


葵:

『クエストアイテム、キーアイテムを探して!!』

オスカー:

「了解!」

ネイサン:

「そういうことか!」

邪聖母タルペイア:

「小賢しいっ、させるものか!」


 戦闘開始。ジンはまだオーバーライドが使えない。時間稼ぎするにしても、エレメンタルゴーレムとの戦いで特技はあらかた使い切っている。


 しかし、エレメンタルゴーレムがドロップしたクエストアイテムだかキーアイテムだかを奪われると、ここから先の攻略に差し障る。絶対に勝てない相手だが、相手の目的を阻止することは不可能ではない。キーアイテムを発見し、誰かがマジックバッグに入れて離脱、もしくは死体が消滅する状態になれば自動的にキャンプに戻ることが出来る。

 ということは、『誰が持っているか分からない状態』にすることができればいいということだ。


吸血公爵カイン:

「出てこい、戦士ジン!」

レオン:

「……すまないが、まずは私が相手だ」


 カインの前に立つレオン、そしてタルペイアを迎え撃つのは彼女だった。


ベアトリクス:

「ハアアアア!」


 神速の女性騎士 ベアトリクス。彼女の速度ならば、あるいは……?


邪聖母タルペイア:

「へぇ。アナタ、人間にしては、すばしっこいみたいね?」

ベアトリクス:

「アンデッドに褒められても嬉しくはないがな」

 

 

 エレメンタルゴーレムはどうにか撃破したものの、こうして引き続きレイドボスとの戦闘が始まった。

 

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