194 再契約
〈フリップゲート〉でレイドチームごとにキャンプ地点まで戻った。レイド1からレイド4までの無事を確認。戻ってこられたことは良い。素早い撤退は特に大切である。しかし、負けて撤退したことに釈然としない気持ちは少なからず残るものだろう。逆にまるで悔しくないとしたら、それはそれで不味い気もする。
ギャン:
「なんだよ、アレ。全回復するレイドボスとか、アリなのかよ?」
ネイサン:
「いたもんは、しょうがないけどさ」
オスカー:
「回復系のギミックがゾーンにあって、見逃していたのかもしれない」
なんとなく反省会的ムードになっていたところで、ジンが声を上げた。
ジン:
「ちょっと言っておきたいことがある」
レイドボスに対しても無類の強さを見せつけた最強の戦士だけあって、一瞬で全員の視線が集まる。励ましの言葉を言うのか、もしくはふがいなさを責められるのか、期待と不安が混ざり合った状態で次の言葉を待つ。
ヴィルヘルム:
「どうかしただろうか?」
ジン:
「いや。……昨晩、たいへんご好評いただいたウチのお風呂なんだが、今日から1人金貨5枚いただきます。よろしく!」
がっくりと力が抜ける。〈スイス衛兵隊〉にも沈黙が走ったが、一瞬のことだった。
ギャン:
「金、取るのかよっ!」
スターク:
「話って、そのこと!?」
ヒルティー:
「いきなり何を言い出すんだ」
当然というか、なかばブーイングめいた騒ぎになった。ジンは素知らぬ顔をして平然としている。
シュウト:
「あはははは(苦笑)」
リディア:
「ちょっとは空気、読んでよ!」
リコ:
「いや、逆かも? 敗戦ムードだから空気を壊しに行ったんじゃない?」
それは深読みし過ぎの気がする。たぶんレイドが終わったから、みんなが集まってるタイミングで言っておこうと思っただけだろう。
そもそも、敗戦ムードとかどっちだっていい人なのだ。そんな空気なんざ知るか!とかって言うタイプである。負けてウジウジして、愚痴言って、傷をなめあっていたら勝てるだろうか。それで勝てるなら、ジンだって参加するはずだ。……僕としては、気分転換のためのワンクッションみたいな状況は、必要な気がしないでもないのだが。
そんな状況だが、流石に100人もいれば、文句を言う声もあるらしかった。
後方からの声:
「おい、ふざけるな! 俺たちが負けたのはお前のせいだろ。最強の戦士だから助っ人で呼ばれたんだろ。勝てないんじゃ意味がない。責任を取るべきじゃないのか!?」
ジン:
「はぁ? 俺だけ強くたってレイドで勝てる訳ねーだろ。負けた途端、人のせいにしてんじゃねーよ。第一、俺はまだ負けてない。なんなら、今からもう一戦こうか。敵の回復力が尽きるまで、5周でも10周でも付き合ってやるぞ」
反論の声が途切れる。ジンにまだまだ余裕があるのは本当だろう。誰よりも先に空腹を感じてそうだけど。本当に出かけることになったら、まず食べものを要求すると思う。
ジン:
「おう、なんとか言えコラ!…………チッ。いいか? 俺はビンビンのギンギンのカッチカチだが、お前らはもう撃ち止めの、萎びた汚いチンポなんだよ。従って! 負けたらお前らフニャチンのせいで、勝てたら俺のおかげだって前世から決まってんだろ!」
汚い言葉だったけれど、思いの外ウケた。半分ぐらい笑ってるだろうか。ラトリやネイサンあたりは、ハラがよじれる勢いで爆笑している。
負けたら助っ人のジンのせいで、勝てたら自分たち〈スイス衛兵隊〉の実力と言っていることになる。ジンの言い分とどっちが正しいのか、どっちがよりマシかといえば、ジンの言ってることの方が(不思議なんだけども)少しばかり正しい気がする。
ジン:
「まぁ、テメーらがいくら弱かろうと、勝つのが俺の責任だ。なにをどうやってもお前らじゃ勝てないとわかるまで、しばらく付き合ってやってもいい。ありがたく思うんだな!」
凄まじく恩着せがましいそのセリフに、苦笑いするしかない。
僕らは当然、勝つまでやるつもりでいた。だからジンは(言い方はともかく)ごく当たり前のことを言っただけだったりする。
ユフィリア:
「ジンさん!」がるるるる
ジンの放言にユフィリアが噛みつこうとしたところに、ヴィルヘルムが先に前に進みでていた。
ヴィルヘルム:
「つまり、こういうことだろう? ……実力を磨き、工夫し、その上で諦めない限り、君の助力は最後まで我々と共にある、と」
ヴィルヘルムは真っ向勝負を選択していた。
『何をどうやっても勝てないと分かるまで』を見捨てるための条件として置き換えて考えたらこうなる。研鑽を惜しまず、工夫を続ければ、条件を満たせなくなる。そして何より、諦めて戦意を失わないのであれば、見捨てることはできないということだ。
ジン:
「……よくもまぁ、そんだけ自分に都合良く解釈したもんだ」
スターク:
「でも否定はしないんだ?」
睨みつけられ、クリスティーヌの後ろに隠れるスタークだった。それは流石に格好悪い(苦笑)
ヴィルヘルム:
「だからだ、こちらも誓おう。……君の献身と貢献に、相応しい我々であり続けることを」
大きな暖かさがあった。熱意や情熱が、体感的な温度を持って伝わってくる。人間としての器の大きさみたいなものに、感銘すら覚える。
そんなヴィルヘルムの態度に接して、ジンはどうするのかが気になる。
献身と貢献は、レイドゾーンに入った最初の晩餐で出た内容だ。あの時は、誠実さが金で買えると思うな!と突き放していた。そして今度は、誠意でもってジンの誠意と向き合おうとしているようだ。つまり、『再契約』の話をしているらしい。
まったく意味も何もが分からない。朝、怒らせたと思ったら、夜にはもう口説き倒しにかかっている。僕がぼんやりしている間に、ヴィルヘルムは王手を宣言していたということか。
ジン:
「あのなぁ、言葉ではなんとでも言えんだよ。行動と! 態度で示しやがれ!!」
突き返すように、喚いて振り払うかのようだった。まだ詰みにはなっていないようだ。
ヴィルヘルム:
「では、行動と、態度で示すことにしよう。……それから、これを受け取って欲しい」
ジン:
「ん?……500金貨」
1枚で金貨500枚分の価値がある、分厚くて重たい金貨だった。
ヴィルヘルム:
「今日は、私のオゴリだ。風呂で体をあたためて、しっかりと休んでくれ!」
スイス衛兵隊:
「「「うおおおおお!!」」」
ジン:
「……コイツ、……全部もって行きやがった」
威圧的なやり口のジンを、友好的なやり口のヴィルヘルムが、一方的に押さえ込んで圧勝してしまっていた。これは流石に役者が違うということだろう。……強い。こうなっては最強の戦士も形無しだ。
デッカくしたお風呂でプカプカ浮かぶのを今日はやってみた。水圧が体を掴んでいる感覚があって、安心感みたいなものがある。弱く浮力が掛かり続けるのだけれど、中心付近を通過すると、浮力の向きが変化するので、その一瞬が本当に無重力みたいな感じだった。
◆
3日目の夕食はカレー最終日であり、僕もカレーを食べると決めていた。カレー最終日だからか、今日も長い列ができていた。先頭は、やはりというかヴィルヘルムだ(苦笑)
ユフィリア:
「おまちどうさまでーす!」
お客たち:
「「うおおおおお!」」
僕がカレーを受け取って戻ると、既に3人座っていた。左から、ベアトリクス、ヴィルヘルム、ヴィオラートの順だ。美女に挟まれたヴィルヘルムの男っぷりが上がっている気がしないでもない。
ジン:
「へぇへぇ、今日も並んだ訳ね」
ベアトリクス:
「評判が良いので、私も食べてみたくなった」
ヴィオラート:
「とても美味しそうです。それに、ジン様と一緒に食事できてうれしく思っています!」
ジン:
「ありがとうな。……さ、どーぞ召し上がれ」
ヴィルヘルム:
「では、……感謝を」
そんなやりとりを横目に着席する。今日のは、野菜カレーだった。焼き上げられた野菜がメインという意表を付くもの。しかし肉類もきっちりで、唐揚げを別皿にもってある。もうそれだけでヨダレものである。
ジン:
「あー、くっそ。今日は唐揚げかよ。そっち行くべきだったのか」ぬむむ
シュウト:
「ダメですよ、僕のはあげませんよ」
ジン:
「なんも言ってねーだろ、オラァ」
ヴィオラート:
「あ、あの、おひとついかがですか?」←チャンスで瞳キラキラ
ジン:
「う~っ、……俺はいいから、まずは食べてごらん」
食欲よりも、紳士であることを優先したらしい。
フォークで突き刺してみると、カラりと揚げられた表面が瞬間的に抵抗するものの、中まで吸い込まれるようにズブっと突き刺すことが出来る。口に入れる遙か手前から美味しい。噛みつく寸前に香りのジャブを浴びて美味しい。あっさりと噛みちぎってまた美味しく、口の中で弾けるように美味しい。
シュウト:
(これこれ、レイシンさんの唐揚げ!)
ベアトリクス:
「……旨いな」
ヴィオラート:
「本当に、美味しい、です。……あれっ、どうして?」
ジン:
「どうしても、何も。旨いから旨いんだよ」
きっと侮っていたのだ。お金持ちのお嬢様だから、美味しいと言ってもどうせB級グルメ的な美味しさだろうと思っていたのだろう。そういう部分が単純なユフィリアとは違うところだ。年齢から来る『世間知らず』がマイナスに働いてしまっている、というべきか。
ネイサン:
「うおおおお! 何これっ!? めっちゃ美味しいんだけど!」
ラトリ:
「これ、何? なんていう食べ物!?」
英命:
「からあげ、です」
ネイサン:
「かろあげ、最高!」
ジン:
「からあげ、だ!」
ラトリ:
「かああげ、最高だよ!」
お酒が入っているのか、何を言ってもダメそうである。
そうしてカレー本体に着手する。ごく普通に美味しいと思った瞬間だった。
シュウト:
「!?」
ヴィルヘルム:
「これは、チーズか?」
本日のメニューは『野菜のチーズカレー、唐揚げを添えて』だ。ところどころランダムにチーズが仕込まれていた。チーズ独特の香りと、強いうま味が爆発する。喩えるならば、うま味の地雷原だった。
普通のカレー、チーズカレー、普通のカレー、普通のカレー、チーズカレー、普通のカレー、チーズカレー、チーズカレー。
チーズカレーは美味しいが、普通のカレーも食べたい。しかし、普通のカレーばかりだと、少し物足りない。チーズが続けてこないと、もう終わってしまったのか?と寂しくなった。
ヴィオラート:
「お野菜が、甘くて美味しい」
ぽつりとつぶやいたヴィオラートの言葉が印象的に響いた。
試してみたくなって、僕も、ヴィルヘルムも野菜に手を伸ばしていた。焼き目を付けられた野菜は自然な甘みを増していて、確かに美味しかった。
野菜が美味しくて、カレーが美味しくて、唐揚げが美味しい。それらが相乗効果のようにどんどん美味しさを増していった。
一足先に、すべて平らげたヴィルヘルムが、感無量の感慨を表すかのように、そっとスプーンをおいた。
ヴィルヘルム:
「……3日目だというのに、さらに美味しくなっている。なんてことだ」
ヴィオラート:
「本当に美味しかったです! 私としたことが、ペロリと食べちゃいました」
ベアトリクス:
「ああ。すばらしかった」
シュウト:
「最高のカレーでしたよ、レイシンさん!」
レイシン:
「……そう、よかった」
ちょうどいいタイミングで現れたレイシンに感想を伝えておく。ジンは羨ましいのか、ちょっと仏頂面をしていた。
ゆっくりと立ち上がったヴィルヘルムがレイシンの前に立ち、お辞儀するようにゆっくりと頭を下げていた。
ヴィルヘルム:
「レイシン、たいへん素晴らしかった。どのカレーも最高に美味しかった。私の完敗だ」
レイシン:
「うれしいけど、勝ったとか、負けたとかは違うと思うから。……美味しく食べてくれて、ありがとう」
ヴィルヘルム:
「ああ……。すまないっ。まさか、こんなに美味しいものを食べさせてもらって、礼まで言われるとは」
ヴィルヘルムの頬に涙が伝う。感激して流す涙、感涙というやつだろう。爽やかで、平和な光景に、僕らも涙を誘われてしまう。洋の東西を越えた友情がここに……。
ラトリ:
「すっごい美味しかったよ、レイシン!」
ネイサン:
「ホント、あんなの初めて食べたよ。だけど、どうして野菜カレーだったの?」
レイシン:
「日本だと、美味しいカレー屋には野菜カレーがあるってジンクスがあるらしくてね」
シュウト:
「そうなんですか? じゃあ、あのチーズは?」
ヴィルヘルム:
「あのチーズの仕掛けは素晴らしかった」
レイシン:
「あれは、どこかのテレビで『味覚の数値化』をやってて、ココイチのカレーだったと思うけど、一番美味しいトッピングは何か?って調べたら、チーズだったから。ちょっと真似してみたんだよ」
ラトリ:
「味覚の数値化か」
ネイサン:
「科学の手法だったとは、驚いたな!」
レイシン:
「小さなブロック状に切ったチーズを、パラパラってユフィさんに散りばめてもらったんだけど、……巧くいってよかったよ」
あの絶妙なチーズの配分は、ユフィリアが関わっているからだったのか。なにか納得した。たぶん食べる人ごとにちょうどいい、絶妙の配分になっていたのだろう。そういう職人芸とか奇跡に分類されるようなものを、テキトーと一生懸命だけで実現してしまうのだ。
ヴィルヘルム:
「……ところでものは相談なのだが、何日かしたら、またカレー・ライスを作ってもらえないだろうか?」
レイシン:
「それなんだけど、ごめん。日本から持ってきたスパイス・ブレンドは使っちゃったから、もう作れないんだ」
マジックバッグから取り出した絶品アキバカレーのお徳用パックは既に空になっていた。考えてみれば、それはそうだよね、と思った。
ヴィルヘルム:
「…………なん、だって?」
レイシン:
「いやぁ、まさか3日連続でカレーを作るとか思ってなかったから。……あれ、どうかした?」
崩れ落ちるヴィルヘルム。ここで真の完全敗北が決定した。
あまりのショックで電源が落ちたみたいになっている。駆け寄る隊員が数名。大げさだけど、そう大げさでもないのかもしれない。なにしろピクリとも動かなくなっている。
ミゲル:
「こちらでもって来ている香辛料の組み合わせで、どうにかならないのか?」
レイシン:
「うーん。買ってきたやつだから、美味しさが全然違うんだよねぇ」
繰り返すけれど、カレーはレイシンの得意料理という訳ではない。ご家庭向けの平凡な味のカレーなら作れても、ここで作ってきたような味にはならない。とても満足させられないと断っている。
アクア:
「諦めることね。レイドが終わったら、アキバに連れてってあげないこともないわ」
アクアのそうした口約束は本当に口約束なので、実現するかどうかはかなり運に左右される。エビチリを食べたいと言っていたエリオが戻ってきたのは何ヶ月後だっただろう。
葵:
『なんか揉めてんね、どったの?』
シュウト:
「えっと、それが……」
一通りの事情を葵に説明しておいた。説明してみると、ほぼ馬鹿げた笑い話みたいな内容だ。
葵:
『なるほどにん。んじゃ、こうしよっか。このレイドが終わったら、ローマでカレー・パーティーを開こうじゃないか』
ヴィルヘルム:
「カレー・パーティー?」
死んだ目をしていたヴィルヘルムが微かに動いた。
葵:
『アキバからスパイス・ブレンドを取り寄せておくよ。ギルドの共用倉庫を使えば楽勝だしね。ここのレイドが長引いて、食料の追加を持って行くことになりそうだったら、その荷物にも入れてあげる。……どう?』
ゆっくりと、だが確かな力強さでヴィルヘルムが再起動する。
ヴィルヘルム:
「つまり、このレイドを終わらせれば、カレー・パーティーで食べ放題。そういうことだな?」
葵:
『そっそ。良いモチベーションって感じじゃない?』
ヴィルヘルム:
「了解した! ……このレイド、さっさと終わらせるぞ!!」
シュウト:
「ええぇーっ!?」
ジン:
「最初っから本気でやれっつの」
ついに本気になったヴィルヘルム。しかし、なんとも理不尽な気がしてしかたない。早くカレーが食べたいから、今から本気を出しますって、そんなバカな……。
やる気を燃えさせたヴィルヘルムは「会議を始めるぞ、集まってくれ!」と声をかけると、足早に天幕へと消えていった。
◆
ヴィルヘルム:
「一刻も早く、レイドを終わらせる必要が出来た。協力して欲しい」
レオン:
「そんなにカレーが食べたいのか?」
ヴィルヘルム:
「そうだ」
アクア:
「必要も何も、カレーが食べたいだけでしょう?」
ヴィルヘルム:
「その通りだ。……巻き込んでしまい、本当に申し訳なく思っているっ」
申し訳なさそうには1ミリも見えない。最初から巻き込む気まんまんでしょうに(苦笑)
しかし、憎めないというか、協力したくなる人ではあるのだ。カレーが食べたいからっていう理由も、可愛らしいというか、なんというか。
ヴィオラート:
「でも、美味しかったので、お気持ちはわかります」
ヴィルヘルム:
「そうでしょう」
レオン:
「うむ。確かに旨かったな」
ヴィルヘルム:
「そうだろうとも!」
シュウト:
「まぁ、今日のは本当に美味しかったですしね」
ヴィルヘルム:
「君もそう言ってくれるのか。ありがとう、シュウト君」
今までのカレーの中では1番だった気がする。
ギヴァ:
「だが、問題はあのゴーレムをどうするかだろう」
ラトリ:
「ですねぇ。倒しても結局は体力が最大に回復してしまう」
アクア:
「葵、あなたはどう?」
全員の視線が、見えない葵に集まった。まぁ、適当に空間を眺めているだけなんだけども。
葵:
『今週もサービス、サービスゥ! エバーによる、四体同時撃破作戦を進言いたします。……瞬間、心、重ねて!」
スターク:
「エヴァンゲリオン! ミサトさぁん!」
ヴィオラート:
「流石です。ミサトさんって、エヴァをちゃんと発音できてなくて、エバーって言ってるんですよね?」
シュウト:
「ヴィオラートさんまで!?」
レオン:
「根拠を聞かせて欲しい」
葵:
『4神合体した状態では、体力が完全回復して元のマテリアルゴーレムに戻ってしまう。ならば合体させてはならないことになる。合体前に倒しきることを考えたら、4体同時撃破が最有力の方法だよ。
もうひとつ、火&土の合成ゴーレムになった時はHPがマックスになっていたけれど、4神合体のエレメンタルゴーレムでは、HPが少ない状態からスタートしていた。だから回復が始まった』
ラトリ:
「確かに、そうだった」
ベアトリクス:
「なるほど。それまでに与えていたダメージが、エレメンタルゴーレムになった時、ある程度反映されているということか」
葵:
『これが最も勝率が高い作戦よ。4体同時撃破できれば、それでよし。ダメなら合成ゴーレムも2体同時撃破を狙っていく」
アクア:
「それでもエレメンタルゴーレムになってしまうなら?」
葵:
『モチ、回復されるより先に削りきって倒す!』
ヴィルヘルム:
「いいだろう。回復ギミックを探すなどの案はあったが、葵の作戦を第一とする」
葵:
『じゃあ、以後、作戦名を、「ミリス作戦」と呼称します!』
なんだか、行けそうな気がしてきた。
レオン:
「だが、そんな簡単に同時撃破できるのか?」
言われて見れば、そんな気がする。いっせーの、で倒せるなら、難易度はそう高くないことになる。
葵:
『まだ知らないギミックとかありそうだけど、まずは基本方針ってことで!』
ギヴァ:
「我々の連携を高める必要があるな」
スターク:
「つまり、ツイスターゲームってことだね?」キラン☆ミ
ヴィオラート:
「まぁ! それは、禁断のゲーム!」
ベアトリクス:
「なんの話をしている?」
ラトリ:
「んー、エヴァンゲリオンの話だけどね」
シュウト:
「えっ、ラトリさんもご存じ、なんですか?」
ラトリ:
「うん。あんまり詳しくはないけど、日本の有名作品だからね」
レオン:
「一般常識の範囲内だろう」
ヴィルヘルム:
「そうだな。ジブリ作品や、キタノ作品、エヴァンゲリオンなどは西洋でも知名度が高い」
逆に考えてみて、西欧の有名作品をいくつ知っているだろう? それらを一般常識として観るような旺盛な知識欲を、正直なところ、僕は持っていない。言うまでもなく、ただのゲーマー大学生だ。
彼らにはアニメに対する変な偏見とかもなさそうだし、高い文化的素養ってのを目の当たりにすると、自分の不勉強っぷりが痛い。
アクア:
「萌えが分からなければ、日本のアニメを分かったことにはならないと思うのだけれど、……それはいいでしょう」
ヴィオラート:
「声優文化が分からないと、日本のゲームをプレイしても楽しみが半減してしまいますしね」
スターク:
「さすが、ヴィオラート。よく分かってる!」
この空間にいると、何が普通なのかよく分からなくなってくる。言語翻訳されているはずなのに、別世界の言葉でしゃべっているかの様でもあり……。もしアニメの話題を振られたら、『日本人なのにそんなこともわからないの?』とか言われてしまいそうだ。
シュウト:
「あ、あ、あ、葵さん?」
葵:
『んー? どったのシュウくん』
シュウト:
「僕も、アニメとか観た方がいいんでしょうか?」
葵:
『無理はしなくていいと思うけど、偏見はなくした方がいいかも。一般文芸の中にも、ライトノベルみたいな作品はいっぱいあるし。日本のSF
は概念が拡大しすぎて普遍化しちゃったから、なんでもかんでも、みんなSFと言えないこともないんだよ。ジャンルにとらわれず、個々の作品の善し悪しを評価していくしかないんだよ』
シュウト:
「そうですか……」
葵:
『まぁ、ヲタクもまたジャンルだからね。そうしたカテゴリーで分類して、人の善し悪しをジャッジしようとするのは無理があるってことだよ』
ラトリ:
「それはただの差別だしね」
アニメを観ないのは個人の自由としても、それが当たり前だとか、観ている奴らはおかしいとか言っているのは単なる差別ということだろう。少し考えてみると、自分と同じ態度をとるように要求するための理屈として、差別を利用しているというべきか。個々の自由や趣味の違いを尊重できない人の『やり口』ということのようだ。
葵:
『教養ってのは日本じゃ古典のこったからなー。古くさくなるまで、なかなか教養扱いされないっつーか。でも、最新のものに触れないと、勉強は中々おもしろくならないんだよね』
レオン:
「ゲームも同じだな。古い低レベル向けイベントは古典みたいなものだろう。最新のクエストやイベントに挑まなければ、本当に楽しんだことにはならない」
シュウト:
「そうか。古典を知らずに、最新にたどり着いても片手落ちなんですね」
アクア:
「すべてを追いかけることはできないでしょう。でも、不勉強で抜け落ちてしまった知識のモザイクもまた、きっと個性なのよ」
最後は雑談になってしまったが、こうして会議はお開きになった。
ジンたちと合流し、夜は料理素材の探索に出かけた。
月明かりの下、雪を踏みならしながら歩くのは、探索というより散策が近い。会議での内容を報告したり、たわいないおしゃべりをしながら、ゆっくりとゾーンを歩く。それは攻略とは違う、不思議な行為だった。満月の光がそう思わせるのか、まるで世界を楽しんでいるみたいな気持ち良さがある。幻想的な散歩みたいに思えた。
ジン:
「向こうの森の方にいってみっか。木の実とか果物とかあるといいんだけど」
ユフィリア:
「うん、いってみよう!」
ユフィリアの後を付いていけば、何かしらあるだろうというこすい計算もあった。案の定で、この日は鹿に似た動物を捕まえてお肉をゲットしたのと、木から果物を手に入れ、キャンプへ戻った。