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193  シンセサイズ

 

 やっぱり攻略には行くらしく、出発前の会議に参加することに。


ヴィオラート:

「短く済ませましょう。では最初に、……どうしてジン様を怒らせるような真似を?」

スターク:

「そうだよ、怒られたのボクなんだからね!」

ラトリ:

「ええっと、それは~」チラッ

ヴィルヘルム:

「申し訳ありません。私の不徳の致すところです」

葵:

『あー、なんてーか、タイミングも悪かったかなって。あたしも直前に喧嘩して怒らせてたし……』


 確かにそれもあった。考えてみれば、その前にケイトリンのお遊びにも巻き込まれている。朝の短い時間帯に4連発でおちょくられて爆発したというのが正確なところかもしれない。……まぁ、おちょくる方が悪いんだけど。


葵:

『たぶんジンぷーの師匠とかが関係してたんだ。師匠関係にケチ付けたら怒るのも当然だーね。あたしもちょこっと不注意だったかな、って』

スターク:

「こっちはいいとばっちりだよ!」

葵:

『ごみん、ごみん。……んで、チビんなかった?』

スターク:

「だっ、大丈夫! というか、そういうこと訊かないでよ」ムスッ


 ヴィオラートの前でその質問は可哀想だ。ちょっぴりチビってても言えるハズもなく。チラッとズボンの前のところを見てしまった。特に汚れているようには見えなかった。よかった。


ヴィオラート:

「本当に、大丈夫なのでしょうか……?」

アクア:

「平気よ。そこまで深刻な話にはならないから」

スターク:

「そうかなぁ? 本当に大丈夫?」

アクア:

「そのハズよ。盗みたいと思うほど『価値がある』と認めていたことになるもの。アレで、悪い気はしていないでしょう」

葵:

『盗人猛々しいって話ではあるけどね』


 意外にあっさりと怒りが収まったのはそうしたことが背景にあったのかもしれない。なにしろ最後は統一棒のコピーを認めたぐらいだし。(「現実に戻ったら買え」って叫んではいたけど(苦笑))


シュウト:

(あれ? ということは、……そうなるのか?)


 アクアのセリフで、今回のヴィルヘルムの態度が不審に思えてきた。というより、どこかで見たような行動というべきか。ジンがたまにやる、一見すると理由もなく他人を不快にさせる行為に似ていると思えてきた。

 ヴィルヘルムはジンが認める程の、いわゆる傑物だ。そんな人が大した理由もなくジンを怒らせたりするのだろうか。……あり得ない。内心、確信に近い感覚になってきた。

 そう捉え直すと、アクアの言っていることの意味が見えてくる。ジンの主張を価値あるものとして認めること。それは、一時的に喧嘩になって揉めたとしても、やるだけの価値・必要性があったことなのかもしれない。

 なにしろ変態的説得力の持ち主なのだ。最終的に上手く行けばいいと思っているのかもしれない。ゲーム的にいえば、フラグを立てたというか、プロセスとして喧嘩のシーンだっただけかもしれない。

 ……では、そうまでして行動を起こしたヴィルヘルの目的とはなんだというのだろう。


シュウト:

(ジンさんと仲良くすること? じゃなきゃ、……レイドの成功?)


 怒られて、殊勝な態度を見せているが、見ようによっては平然としすぎている。底知れない何かを感じさせる人だった。

 ジンの後継者としての自覚を持つならば、こうした些細な違和感を無視してはならないと思う。いちいち負けてなんていられない。


 そして流れるように『葵の時間』が始まった。


葵:

『んじゃ、あたしからもほーこくー』

ヴィオラート:

「お願いします」

葵:

『昨日までに分かったことから、だいたいの仮説をでっちあげてみたよ。結論からいうと、吸血鬼の王様?皇帝?だかの、封印解除を手伝わされてるっぽい』

ヴィオラート:

「そう、なのですか?」

ヴィルヘルム:

「……なるほど」

ラトリ:

「ええっと、……反応に困るんだけど?」

スターク:

「いーの、いーの。これ、アオイのいつものヤツだから」

シュウト:

「だね」


 昨日ダンジョンに潜ったのを含めても、このゾーンに入って2日しか経っていない。ここは反論を考えるよりも、最後まで話を聞いた方が賢明だろう。


レオン:

「つまり、最初に出てきた200レベルのバケモノ共は、我々の実力を試していたということか」

葵:

『そっそ。このレイドゾーンを突破できないような連中は、あの時点で排除なんだろうねぇ』

アクア:

「辻褄は合いそうね。封印を解除できるのは〈冒険者〉だけなんでしょう。だから自分たちのために、私たちを殺し尽くさなかった。なぜならば、利用しようと思っていたから」

葵:

『そゆこと』

ラトリ:

「ゲーム的に考えたら、全員100レベルじゃないと認めて貰えなかったのかも」

ギヴァ:

「可能性はある。ジンたちに来てもらって正解だったな」


 少なくとも吸血公爵カインの出したモンスターを全滅させる必要があったのだろう。レオンが暴れ回ったこともあり、比較的スムーズに倒せてしまっていた。


スターク:

「んー、封印されてるなら放っておけばいいんじゃない?」

葵:

『外の吸血鬼騒ぎがなければ、そうしてもいいんだけど?』

ベアトリクス:

「そうされては困る。しかし、外の吸血鬼騒ぎを終息させるには、まんまと敵の意図通りに踊らされ、封印の解除をしなければならないのか……」

葵:

『だろうね。そうすると今度は吸血鬼の皇帝が復活?とかするから、それを倒すまでやるハメになるって寸法だよ』

ギヴァ:

「仮説なのは分かっているが、なにか根拠は?」

葵:

『ジンぷーとも話してるんだけど、ミリス火山洞って下の階層にいくとどんどん聖域っぽくなってるみたい。アイツ、一身上の都合で呪われた身体だから、ちょいピリピリするって』

シュウト:

「〈竜魂呪〉ですか……」

ヴィオラート:

「呪われたままで、ジン様は平気なのですか?」

葵:

『いまんとこはだいじょび。その内、入れない部屋とか出てくるかもだけど』

ラトリ:

「なんか色々と規格外なのね」

レオン:

「その問題は、また後で考えることにしよう」


葵:

『話を戻すけど、奥に行くほど、吸血鬼の出現頻度が下がってんだよね。これも根拠かな』

ヴィルヘルム:

「それは我々も気が付いていた」

ラトリ:

「全体を眺めると、状況と一致してそうだね」

ヴィオラート:

「はい。聖域ゆえに、アンデッドは近付くことができないのでしょう。それは封印を解かれないようにするため」

葵:

『他のダンジョンも調べれば分かると思うヨ』

スターク:

「モンスター同士で争ってるように見えるんだけど、……何これ?」


 スタークの言い分も分からないでもない。封印の解除をしたい吸血鬼サイドと、封印している謎の勢力の争いに巻き込まれた形だからだ。


葵:

『吸血鬼の親玉を封印したのは、過去の超文明だか、魔法文明かなんかでしょ。普通に考えれば、封印の効力が弱まるか何かして、復活しそうになってるって感じだよね』

アクア:

「通常のクエストであれば、そうした導入のストーリーがあるはずだわ」

マリー:

「イレギュラーが起こっている。たとえワールドワイド・レギオンレイドだろうと、西欧サーバーから進入できたのはおかしい」

アクア:

〈典災〉(ジーニアス)、でしょうね』

ラトリ:

「ごめん、それ、何の話だっけ?」

葵:

『……連中がどのくらい関わってるかワカンナイけど、地脈(ランド・マナ)の弱体化の話とかも影響しているかも』

マリー:

「ここのゾーンの問題でいえば、封印の魔法術式が書き換えられてる、と思う。固定された満月、アレ、本当はたぶん太陽」

レオン:

「そういうことか」

ヴィルヘルム:

「問題は対策を立てられるか? どう対策するか?ということだろう」

葵:

『序盤は吸血鬼用装備だけど、途中からダンジョンごとの方向性をみながらって感じかなぁ~』

ヴィルヘルム:

「後でいいのだが、少し試したいことがある」

シュウト:

「?」







 巨大な音が鳴り響く。それは何度も、何度も繰り返された。硬質な音でもって、辛うじて金属同士がぶつかっていることが分かる。


レオン:

「おおおおおっ!!」

ジン:

「うらぁあああ!!」


 出発前のほんの数分の間に、ジンとレオンが打ち合っていた。遠くから取り巻くように、〈スイス衛兵隊〉のメンバーが観戦している。僕もその中の1人になっていた。

 ジンはブロードバスタードソードを両手持ちし、フェイスガードを下ろした姿。オーバーライドで相手をしている。激しい打ち込みに、負けじと幻想級大剣〈アヴァランチ〉を振るうレオン。こちらも全力だ。


ギヴァ:

「これは、何をやっている?」

シュウト:

「レオンさんに稽古を付けてます。たぶんパワー練じゃないかと」


 目的などは聞いていないが、ジンが本気ではないのは一目瞭然である。技も何もなく、ただ真正面から武器を打ちつけ合っていたからだ。やっていることを見れば、パワー練だろうと思った。それだけのことだ。


石丸:

「時間っス」

ジン:

「うーっ、しんど。5分とか長すぎだろ、3分で十分だな」


 石丸のタイムアップと同時に戦闘を切り上げている。決着を付ける気もないらしい。

 フェイスガードをあげたジンが、惜しむようにブロードバスタードソードをなでている。あんな打ち込みをしていたら、武器耐久力はあっと言う間に目減りしていくからだろう。


レオン:

「これは、何が目的の鍛錬だ?」

ジン:

「もうそろそろレベルが上がんだろ。上がり幅を把握するには、今の筋力を知る必要がある」

レオン:

「……そうだったか。すまない」

ジン:

「いいさ、お前とまともに打ち合えるのは、俺ぐらいだもんな」

石丸:

「もしくは、巨大な大型モンスターっスね」


 雑談になったので近付いていくことにする。


シュウト:

「お疲れさまです。……今のって、どのくらいのレベルですか?」

ジン:

「知りたいか?」

シュウト:

「はい、是非」

レオン:

「なんの話だ?」

石丸:

「ジンさんのオーバーライドはレベルブーストっス。レベルいくつで今の訓練をやっていたのかという質問っスね」

ジン:

「言っちゃったか。秘密にしてないけど、秘密だったのに」

シュウト:

「秘密なのかそうじゃないのか、どっちなんですか?」

ジン:

「日本あたりではヒミツだ」

レオン:

「予想はしていたが、そうハッキリ聞かされると複雑な気分だ」


 あまり複雑そうな表情はしてみえないが、たぶん複雑なのだろう。自在にレベルを増幅する相手と戦って勝てる訳が無い。


シュウト:

「それで、いくつだったんですか?」

ジン:

「下げる方はともかく、上げる方は感覚的なもんだからなー。俺は余裕をみて120ぐらいだと思う。レオンもたぶん110は越えてる。115ぐらいかなぁ?」


 115ということは、衛兵を越えるパワーの持ち主ということになる。

 西欧サーバーは上限値の関係でまだ衛兵が100レベルのはずだから、西欧サーバーの衛兵など、遙かに越える筋力ということだ。

 以前ジン戦った際は、衛兵鎧でレベル100に引き上げられていた。それが現在90レベルに戻った状態から、115レベル水準のパワーを発揮していることになる。プラス25レベル分と思うと、想像を絶する威力だ。オーバーライドの使い手は、やはり常軌を逸した人ばかりだ。


ジン:

「あん時よかスケールアップしたか。かなり鍛え直したみたいだな」

レオン:

「……思うところもそれなりにあったのでな」


 受け答えでは軽く流して聞こえるけれど、その心境やいかに?と思って聞いていた。いやらしい気持ちだったせいか、矛先がこっちに向いた。


ジン:

「パワーは近接戦では『万能の力』といっていい。攻撃のみならず、防御力にも作用するからな。当然、スピードも上がるし。最もレベルアップに近い効果の能力と言えるだろう」

シュウト:

「うううっ」


 『万能の力』、その言葉の重みがのし掛かる。

 近接戦で筋力で勝ることは、圧倒的に有利だ。しかもレオンのそれは単純な最大筋力の問題ではなく、『パワー』、つまりスピードを兼ね備えたものだからだ。単なる筋肉バカであれば、まだ何とかなりそうな気もするが、レオンの怖さはむしろ、そのパワーを使いこなす頭脳にこそあると知っている。

 呼吸の力だけで果たして勝てるものなのか?と思うと、かなりプレッシャーを感じてしまう。それでも呼吸の能力があるだけ遙かにマシなのではあるけれども。油断できる相手ではないし、弱音を吐けば済む状況でもない。できることを積み上げていくしかない。〈消失〉(ロスト)の練習をちゃんとやろうと決意を新たにする。


レオン:

「どうやら、今のは私を褒めたわけではなさそうだな」フフッ

シュウト:

「……?」

レオン:

「そろそろ出発しよう」

ジン:

「ああ」


 ミリス火山洞に行くまでの距離を、レオンにレクチャーしながらの行軍となった。たぶんモンスターは出てこないだろうし、ジンに限って話に夢中になっていて気が付きませんでした、ということもないのだろう。


ジン:

「筋力周りもそんな簡単な話じゃないんだが、代表的な話をすると……」

ユフィリア:

「構造筋力配分!」

ジン:

「覚えてたか、偉いな。 なかなかの記憶力じゃないか」

ユフィリア:

「でしょ? もっと褒めてくれてもいいんだよ?」ウフフフ

ジン:

「いい子だ。……んで、内容は?」

ユフィリア:

「えーっと(焦)、脱力がとっても大事だよってカンジ?」きらん☆

ジン:

「光って誤魔化したか。まぁ、間違えちゃいないけど(苦笑)」


 内容の方はゆるゆるであった。……ゆるゆるというか、だるだるか。


レオン:

「その、構造筋力配分というのは?」

ジン:

「第一段階は筋力の諸要素の話。脱力とかな。第二段階は筋力配分は体つきに現れるって内容になる。よく使う筋力は鍛えて、よく使わない筋力は動きの邪魔にならないようにあまり鍛えないでおくべきってな」

レオン:

「常識的な話のようだ。問題点は?」

ジン:

「筋トレ方法との兼ね合いだ。自分の競技に必要な筋力を高めることはパフォーマンスアップに繋がる。しかし、筋トレ方法や筋トレマシーンが、構造筋力配分と一致するかどうかは運の問題だ」

レオン:

「その場合、真の問題は指導者の認識力になるのでは?」

ジン:

「その通り」


 概要をまとめて話しているのを聞いていると、途轍もなく常識的な話をしていたことがわかる。知識も認識力もなにも無くて、それらを少しばかり与えて貰っていたのだと知った。


シュウト:

「ところで、僕らの構造筋力配分ってどうなったんでしたっけ?」

ジン:

「ちゃんと仕込んであるだろ。モモ前の筋肉はブレーキ筋、じゃあモモ裏の筋肉は?」

ユフィリア:

「アクセル筋!」

ジン:

「モモ上げする時はどこを使うべきなんだ?」

シュウト:

「腸腰筋です。モモ前のブレーキ筋を使ってはダメです」

ジン:

「な? 構造筋力配分になってるだろ。走るというのは種目間の共通性が最も高い要素だから、足の使い方を中心に構造筋力配分が働くように概念を埋め込んである。その他にも真下を踏めとか、カカトダッシュとか。『早度』もそうだし、ラフパワー・レフパワーも構造筋力配分の概念だ」

ニキータ:

「じゃあ、もうずっとやって来てたんですね?」

ジン:

「簡単じゃなかったけどなー。この世界だと筋トレにはほぼ意味がない。だから、筋トレしながらその部位の意識を高めることがやりにくい。使うべき筋肉と、使うべきじゃない筋肉とが、より平等な形で選択肢として存在してしまうんだ」

レオン:

「力を発揮した時の、『パワー感覚』の話なのだな?」

ジン:

「マジ、話が早くて助かるわー。間違ったパワー感覚を打ち消すことが重要で、一時的に実力が下がろうが、止めさせなきゃならん」

レオン:

「それは、……苦労が偲ばれるな」

シュウト:

「と、ところで、構造筋力配分といえば、内転筋のお話はまだだった気がするんですけれども?」


 過去の失態を(えぐ)られる前に、ちょっと強引に話題を転換してみた。

 東欧・アルバユリアに移動する前に、ヴィオラートに内転筋のことを話していた。それで、いつか訊こうと思っていたのだ。


ユフィリア:

「ないてんきん、っなぁに?」

葵:

『転勤の話はなくなりました。『無い、転勤』ってことじゃね?』

ジン:

「ドゥアホゥ。わかっててちゃかすな。内転筋はフトモモの内側の筋肉の事だが……」


 いつの間にか葵が現れていた。攻略の準備が済んだということだろう。


シュウト:

「やっぱり難しいんですか?」

ジン:

「難易度は、そりゃあ、それなりだな」

ニキータ:

「どのぐらいの規模の内容ですか?」

ジン:

「四肢同調性よりは下の領域だけど、一般的な重要度はむしろ上かもな。威力の方はというと、例によって例のごとく、どうして今まで教えてくれなかったんですか~とかって涙目で文句言われるレベル。別段、秘密ではないはずなんだけど、トップシークレットの扱い」

葵:

『なんぞ、それ? 秘密じゃないのに、秘密? 黄金体験鎮魂歌?』

ジン:

「それだと『秘密じゃないのが、秘密』になるだろ。いろいろあんだよ」


 なんとなく凄そうなのだけは伝わってくる。ジンが凄いと言って凄くなかったものはない。今度のにも期待してしまう。


シュウト:

「ええっと、それは、その~?」にへっ

ジン:

「今からなんて、やんねーよ! てかお前もいやらしい小細工ばっか覚えたもんだな。……もしかして俺が悪いのか? まぁ、いいや。

 例によって例のごとく、訓練自体は既に始まっている。しかし、中途半端に教えられる内容でもない。区切りを考えて、火山のダンジョンをやっつけたらにしようか」

葵:

『うん。ちょうどいい目標かもね』

英命:

「ということは、『アレ』のお話ですね」フフフ

タクト:

「何かわかったんですか?」

ジン:

「そーゆーのヤメロ!」

 

 これまでは鍛錬のついでにレイドをやっていたけれど、今回はレイドの踏破を優先しているらしい。葵の言うように、ちょうどいい目標だと思える。なんとか火山を突破して、新しい訓練メニューを解放したいと思っていた。





 


ネイサン:

「葵、僕らも攻撃に参加していいかな?」

葵:

『ぜんぜんいーよー。基本こっちでフォローすっから。やばそーな時は指示出しするけど、それ以外は好きにやっちゃって?』

ネイサン:

「ありがとう」


 メインタンクであるジンのフォローは、『今のところ不要』という結論に至ったのだろう。

 最初は散発的な魔法攻撃だったけれど、だんだんと攻撃に厚みが出てきた。「私、攻撃に参加するの久しぶりかも?」みたいな会話をしているのが聞こえたりしていた。レギオンレイドの第1レイドに参加するぐらいなので、役割的に防御的なプレイが得意な人が集まっていたのかもしれない。


 大型のモグラ型ドラゴンを撃破し、昼食へ。

 統一棒で腕立てをして、「これいいかも!?」なんて会話をした後、午後も引き続きダンジョンにトライ。そうして夕刻、ついにミリス火山洞のレイドボスがいるらしきゾーンに到達した。たぶんここが最下層だろう。

 

ヴィルヘルム:

「今日はここらで引き上げるという手もあると思うのだが……」

ジン:

「不思議だ。レベル上げしてから挑みたいって話なんだろうが、そんなにカレーが食べたいのかよ?とかって思っちまう」

レイシン:

「はっはっは」


 レベルが上がっているのは、我々の仲間内だけで、まだ〈スイス衛兵隊〉に91到達者はいない。(スタークとクリスティーヌを除く)

 よほど死にまくっていなければ、もうすぐだろう。それこそレイドボスを倒せば、91への到達者が続出するはずだ。


 しばらく前にレイシン・石丸が97に到達。ニキータは96に上がるのが遅かったのでそのまま維持、ジンも95のまま、ユフィリアはジンを追い越して一足先に96へ。一時的にせよ、始めてニキータとユフィリアのレベルが並んだことになる。ウヅキも96、ケイトリン、リコ、リディア、英命とアクアが95へ。スタークとクリスティーヌは94のままだ。別れて1月弱だから、経験点が少し離れたのだろう。タクトは僕と同じタイミングで94に到達しているので、もう少しで95に上がりそうだった。


葵:

『まぁ、中に入って様子見ぐらいはしなきゃだよね』

ジン:

「倒しちまってもいいよな?」

シュウト:

「あれっ、……珍しくないですか?」

 

 ジンが好戦的な発言をしているのは、ちょっと記憶にない。別に慎重派ということでもないんだろうけれど。


葵:

『へっへぇー。レイド×4と戦ってみたいんだろ』

ジン:

「ああ。あのモルタル野郎よりもシステム的に強いだなんて、血がたぎってくんだろ」


こちらは逆に、あのモルヅァートよりも強いって考えただけで、血が冷たくなっていくようだ。

 確かにレイド×4との戦闘はレギオンレイドでもなければそうそう経験できるものでもない。しっかりと味わいたいと思う。

 

葵:

『展開によっては、ここで倒しちゃおう。そうなると、アクアちゃんに1曲頼むかも』

アクア:

「任せておきなさい」


 葵の言う1曲というのは、戦闘曲をハミングするあの技の事だろう。今のところレギオンレイドでは使用を控えている。使えば、〈スイス衛兵隊〉の戦力がアップするのは間違いない。一方でアクアの支援効果を自分の実力と勘違いさせてしまうことにもなりかねない。レギオンレイドの成功を考えればこそ、成長を最大化させたい。状況では使いどころが難しいというのはわかる話だった。


シュウト:

「そういえば、あの技って、名前はなんて言うんですか?」

アクア:

「『スウィング』にしたわ。音楽に合わせて、自然とからだを揺らす(、、、)ところから来ているのよ」


 ゆする、ゆれると考えると、ゆる体操との兼ね合いも考えていそうだ。逆にゆるにもリズムの心地よさを取り込める可能性もあるかもしれない。


ヴィルヘルム:

「では、行こう。様子見が目的だが、倒せるようなら倒してしまうぞ。全員、臨機応変に」


 支援効果の魔法を付与し終わったタイミングでヴィルヘルムの号令がかかる。気を引き締め(僕らは身をゆるめて)、レイドボスの間へと進入する。



ジン:

「なんだよ、もぅ~」


 ジンのがっかりした声が広い空間にこだまする。それもそのハズで、レイドボスが4体いたからだ。当然、それぞれの強さはレイド×1である。それぞれ属性違いの、火、水、風、土のマテリアルゴーレムとの戦闘が始まろうとしていた。


ヴィルヘルム:

「ポジションを修正! 引き離して対処しろ!」


 当たり前といえばそうなのだけれど、それぞれのレイドチームで1体ずつ引き受ける形になる。範囲攻撃に巻き込まれる危険を避ける為にも、上手に引き離して戦闘をしていくことがベストだ。ヴィルヘルムの意を汲み取り、レイドチームがそれぞれにバラけて散っていく。


葵:

『あたしらは、一番攻撃力の高いのの相手だ!』

ジン:

「ってことは、火でいいのか?」


 他のレイドチームのポジションが確定するまで、攻撃をジン一人で捌いて受け流していく。普通はそれなりに苦労する一仕事なのだろうけれど、楽々とこなしていた。アクアのタンブリング・ダウンを合図に戦闘開始。

 正直なところ、苦戦すると思えなかった。さっさと倒して、他のチームのヘルプに行けばいい。そうして僕らは火力を上げていった。さすがにレギオンレイドのボスだけあって、HP量は大きい。必殺攻撃も力押しの素直なタイプで、特に問題にはならない。

 そのまま1体目を倒しきって、2体目へと向かう。


ジン:

「よーし、次!」

葵:

『んじゃ、次は防御力高そうな土だね』

シュウト:

「了解、移動します!」

スタナ:

「ちょっと待って!」

ジン:

「んあ?」


 倒したはずのマテリアルゴーレム(火)が起き上がり、これから向かおうとしていた、マテリアルゴーレム(土)と合体してしまっていた。


シュウト:

「なっ……!?」

葵:

『なんじゃっ、そりゃああああ!!?』

ジン:

「えっ、合体? 合体しやがったのか?」

英命:

「なんとも珍しい、シンセサイズゴーレム、つまり合成ゴーレムですね」

葵:

『だが、ちょっと待て!』

ジン:

「どうしたロリちび」

葵:

『これって、3体倒したら、4神合体するパターンなんじゃね?』キラン

ジン:

「ヤバイだろ、それ! ……ついにエルダーテイルもここまで来たってことなのか!?」


 作業的に相手していただけのジンのテンションがだだ上がり状態へ。内心では苦戦するだけなんじゃ!?とか思っていたけれど、言えるハズもなかった。基本的に、なるようにしかならない。


ジン:

「よし、あの合身ゴーレムは俺が引き受けた。お前らは他のゴーレムを倒すのを手伝ってこいっ!」

シュウト:

「は、はぁ……」


 目がキラキラしていて、もはや止めようもない。最低限のリカバリー人員を残して、他のゴーレムにダメージを与えにいくことに。

 ほどなく、水のマテリアルゴーレムを相手していた第2レイドが倒しきり、第3レイドの風のマテリアルゴーレムと合体。僕らはジンのところに引き返すことになった。

 火&土の合成ゴーレムをジンが、風&水の合成ゴーレムをレオンが引き受けて、戦闘を再開。かなりの時間を掛けて火&土のHPを削り倒したところで、お望み通りの4神合体(?)となった。

 一度、合体が解除され、4体のゴーレムが集結して合体・変形する派手なモーションは誰が作った!?とか問い合わせたくなる派手な演出だった事を、ここに記しておこう。


葵:

『でた! ……これが!?』

ジン:

「おおお! やっべー、4神合体したらどうなるんだ!?」


 もう完全に興味はそっちに向かっていた。ほぼ攻略失敗だと思うのだが、当人たちはそんなことお構いなしである。


アクア:

「エレメンタルゴーレム!」

レオン:

「正直、予想はしていたが……、安直なネーミングだな」


 長時間戦闘でくたくたになりかけているのだが、まっっったく関係ない感じでジンが突撃した。タフである。


ジン:

「うっしゃあああ! 勝負だ!!」

葵:

『ちょっと待て、ジンぷー!』


 破壊エフェクトだけみても凄まじい。避けてしまうジンには関係ないけれど、レイド×4のレイドボスは強いことは強いらしい。

 それとは別に、火山のゾーンからパワーを得て、HPがみるみる回復していく。ジンが攻撃を加えているものの、まるで焼け石に水だった。最大までHPを回復したところで、合神を解除、4体のマテリアルゴーレムがHPを最大にして復帰した。……それは無敵ってことじゃ?


ジン:

「…………」

葵:

『…………』


ヴィルヘルム:

「よし、撤退するぞ!」


 ヴィルヘルムの救いの声にすがるように、ゾーンから撤退。

 なんというか、最初のレイドボスからして一筋縄ではいかなさそうな相手のようだ。凄まじい徒労感を抱えたまま、キャンプに戻ることにした。あんなの、どうやって倒すんだろう……?

 

 

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