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180  戦士の格

 

静&りえ:

「「ジンさん、おかえりなさーい」」

ジン:

「なんだ? キモチワリーな」


 とてもニコヤカな笑顔で出迎える不自然な2人組。そこで思わず本音が漏れ出てしまうジンだった。こればかりは仕方がないと思う。


りえ:

「失礼な! この美少女をつかまえて」

静:

「てか、倒したんですよね? 殺人鬼。新聞の1面飾っちゃいました?」

ジン:

「うんにゃ、倒してない」

静&りえ:

「「うそぉ!?」」「意味ないじゃーん」「媚びて損した……」

まり:

「どうしてですか?」

サイ:

「見つけられなかった、とか?」

ジン:

「いや、思ったより事情が複雑でな。政治的な問題が絡んでたりして」

英命:

「それはまた……」

りえ:

「あっ、小難しい話はけっこーでーす☆」ばちこーん


 とりあえず室内へ。今後の打ち合わせと遠征の準備を進めることに。

 レイドメンバー12人に、葵を加えて遠征班とした。

 殺人鬼に関する情報は大人組に伝達し、居残りのとりまとめもエルンストたちに頼んでおく。

 

 そー太や朱雀は一緒に行きたがっていたが、半端な実力では迷惑になるだけなので、居残りさせることに決まった(苦笑) ジンもアクアもこの辺りは容赦がない。

 葵も可能ならお世話係のいるアキバに残しておきたかったのだが、竜眼の水晶球の力がサーバーを越えられるか分からなかったので同行することで決まった。その方が時差のズレなどは気にしなくてよくなる。


アクア:

「セブンヒルに無いものだけ用意して。向こうでも準備しているから」

ジン:

「醤油とか味噌とかの、日本にしかなさそうな調味料は忘れないでくれ」

レイシン:

「じゃあ、白米も持って行かないとだね」


 とりあえず2週間の予定で準備し、出発することに。


咲空:

「いってらっしゃいませ」ぺこり

星奈:

「が、がんばって!」

そー太:

「隊長、みんな、ファイト!」

名護っしゅ:

「こっちは任せろ」

エルンスト:

「武運を祈る」


 カンダの〈妖精の輪〉から、一気にセブンヒル北側の〈妖精の輪〉へ転移。なんとなく前回見たような、来たような場所だった。時差は8時間というので、周囲はまだ明るい。

 森を抜けると、開けた平地の向こうにセブンヒルを囲む城壁が見える。前回この光景を見たときは、〈冒険者〉がそこら中に待ちかまえていた。今回は逆にがらんどうに見える。


 ローマ、……セルデシア世界でいう〈セブンヒル〉は、〈大地人〉が暮らす巨大な都市であり、同時に〈冒険者〉5万人を抱えるプレイヤータウンでもある。

 城壁が近付くにつれてウズウズし始める人が若干名。門から中に入ると、人目もはばからずにユフィリアが叫んでいた。

 

ユフィリア:

「すっごーい! セブンヒル! きちゃった!!」

ウヅキ:

「デケぇな」

リコ:

「ひっろ!?」

タクト:

「これがセブンヒル、ローマか……!」


 キャーキャー言ってるのでそれなりに注目を集めてしまっている。


リディア:

「これって、お、お、怒られない?」

英命:

「フフフ。怒られるかもしれませんね」

アクア:

「さぁ、行くわよ」


 感動もそこそこに、アクアが先を促す。ドライである。


ユフィリア:

「ジンさんって、もう来たことあるんだよね? シュウトも」

ジン:

「おう」

シュウト:

「うん」


 来たことは来た。この辺りの場所とか質問されても何も答えられないけど。ここがドコかも、正直に言うと分かっていない。(→ポポロ広場)


ユフィリア:

「うー、ずるい」

シュウト:

「いや、今さらズルいとか言われても……」

ジン:

「こんなとこ、人が住んでるだけだぞ?」


 ジンのドライ過ぎる意見はどうかと思ったが、僕もあんまり人のことは言えない。スタークに観光案内はするだけしてもらったが、2人とも大して興味も無かったのはバレバレである。……とか言ってる間に、ユフィリアの興味はもう別のところへと移動していた。


ユフィリア:

「このとんがってるの何かな?」

石丸:

「オベリスクっス」

ユフィリア:

「オベリスク?」

石丸:

「古代エジプトの記念碑、宗教的なモニュメントのことっス。ギリシア語で焼串という意味っス」

ユフィリア:

「……ギリシャのお肉も美味しかったのかな?」

シュウト:

「そういう問題?」

ユフィリア:

「じゃあ、どういう問題?」

英命:

「そうですね。エジプトからローマに運ばれ、戦車競技場などに建てられていたのですが、やがてこうして広場の中心に配置されるようになったのです」

ユフィリア:

「そうなんだぁ」


 そうしてみると、広場に何気なく立っているオベリスクにも歴史が感じられる。ゲーム内のオブジェクトでしかないのだろうけれど、古代エジプトからやってきて、ローマの戦車競技場を経て、こうして広場の中心に立っている、のかもしれない。


英命:

「西洋的な都市景観の特徴のひとつが、こうした広場と言われています。これは日本には元々ないものですね。日本でも広場という概念を輸入したのですが、あまり巧く馴染みませんでした」

ジン:

「へぇ~? そこ、ちょい詳しく頼む」

英命:

「西洋型の都市は、外的の脅威に対して城壁で囲んで防御します。このため、人が生活する建物は自然と密集させて建てる形になりました。広場は共用スペースの意味合いがあったわけですね」

葵:

「城壁を作るのも守るのも大変だから、なるべく狭くするためだね。……日本の場合は?」

英命:

「城壁の変わりに『へい』で庭を囲む形になるのでしょう。つまり、個人用のスペースを囲って持っていたことになります。このため、日本では交差点のような『(つじ)』や、神社の境内のような場所を公共スペースとして利用しているようです。江戸時代であれば、井戸端でしょうね」


 イメージ的には渋谷の駅前の巨大な交差点だろうか。ハチ公前が待ち合わせ場所になっているけれど、あそこも辻に分類されるのだろうか?


ジン:

「なるほどなー。ファンタジーの街並みっつーか、村とかもだけど、どこにでも広場があるのは、そういう背景があったんか。そう考えてみると、団地とかの集合住宅には公園が付きものの気がするなぁ~」

アクア:

「広場はギリシアでいう『アゴラ』ね。ローマだと『フォルム』。フォロ・ロマーノもフォルムよ」

ユフィリア:

「おもしろーい!」


 あっちこっちそっちこっちとユフィリアの興味が移っていく。


シュウト:

「もしかしなくても、ユフィリアと一緒だったら観光も楽しめたのかも(苦笑)」

葵:

「ジンぷーと一緒じゃ、楽しめなかったんだ?」にま

シュウト:

「いや、そういう訳じゃ……」


 そんなツッコミにドキっとし、人のせいにしていることに気が付いた。

 逆なのかもしれない。僕が、興味だの何だのが枯れている可能性だ。ユフィリアにできていることが、僕には出来ていないのではないのか。


 そんなことを悶々と考えている合間に到着した。

 見覚えのある階段をあがると、これまた見覚えのある像が立っていて、見覚えのある幾何学模様の床を歩いていた。ここはレオンと戦った時に来た場所だ。クリスマス向きの飾り付けなどはされていないらしい。


シュウト:

「ローマ市庁舎。たしかセナトリオ宮殿、でしたっけ?」

アクア:

「そうよ」


 中に入ると、真っ白なドレスを着た女性が落ち着かない様子をしていた。もの凄い美人。こちらに気が付くと、笑顔で叫んでいた。


ヴィオラート:

「ジン様!」

ジン:

「……様?」


 ちゃっちゃっちゃーっと走ってくると、ジンめがけて跳びかかる、というか抱きついていた。何事も無かった風にそのまま抱きとめるジン。


ヴィオラート:

「ああ! とてもお会いしたかった。私のこと、覚えておいででしょうか?」

ジン:

「えっとー、……聖女のニセモノちゃん?」

ヴィオラート:

「そうです! この『ヴィオラート』を、覚えていてくださったのですね。 嬉しい」


 今の、覚えてた内に入るのだろうか……?

 自分の名前を強調する押し強めのアピールといい、どうなっているのだろう。テンションに大きなズレもある。喜びを全身で表現するヴィオラートと、密着状態でキャワキャワやられておいて『ふーん』と眺めているジン。


アクア:

「ニセモノじゃないわ。説明したでしょう? 白の聖女は2人組だって」

ジン:

「そうだっけ?」

シュウト:

「たしか説明してもらってます」


 アクアが紹介しようとすると、すがりついていた腕を離し、さっと姿勢を正す絶世の美少女・ヴィオラート。登場とその方法には驚いてしまったが、ちゃんとしていれば、さすがに美人度は高い。ユフィリア級というべきか。ユフィリア本人と比べても遜色のない美貌の持ち主だった。


アクア:

「『白の聖女』の、政治・外交担当。つまり『顔役』が彼女、ヴィオラートよ」

ヴィオラート:

「お初にお目にかかります。白の聖女・ヴィオラートと申します。みなさま、セブンヒルへようこそ」


 しゃなり、とスカートの裾をつまんで上品、且つ、丁寧に挨拶と言う名の特技を繰り出してくる。どことなく後光のようなものがキラキラと放たれて感じる。聖女オーラとは、なかなかのツワモノっぷりだ。


ユフィリア:

「すっごーい! 超カワイイっ!」

ヴィオラート:

「えっ? 貴方は……?」



 そして2人は出会った。

 引かれ合うようにして歩み寄る。抱きつくような距離でお互いの手を握り合い、鏡でものぞき込んでいるつもりなのか、呆然もしくは陶然と見つめ合っていた。


ユフィリア&ヴィオラート:

「「お友達に……」」


 どうやら2人だけの世界に行ってしまったらしい(苦笑)


葵:

「あはは、相思相愛みたいだね」

ニキータ:

「トモダチに飢えてますから」

葵:

「ところでジンぷー、隠れてやることやってんじゃん?」

ジン:

「男として常にそうありたいと思ってはいるが。……おい、シュウト?」

シュウト:

「なんでしょう?」

ジン:

「いつの間に仲良くなったんだ、俺?」

シュウト:

「ですよね。……僕の見てない時に何かあったとか?」

ジン:

「何にもないない。ここでちょこっと挨拶しただけだろ。てか、あの時なにしゃべったかも覚えてないんだが。変なこと言ったかな?」


 しかし、ジンにわからないものが、僕に分かるハズもない。

 そんな雑談に興じていると、アクアが柱のところに呼びかけていた。


アクア:

「マリー、挨拶するのでしょう? なぜ隠れているの?」


 おずおず、といった感じで現れたのは、鉄仮面の人だった。

 どうしてそうなった、という感じ満載だ。……沈黙が痛い。


マリー?:

「…………」

アクア:

「そのマスクは何? どうしたの?」

マリー?:

「あの男、きけん……」


 プルプルと震える指先で指し示した先にいたのは、これまたジンだった。


ジン:

「……俺か? うむ、危険な男とは、なかなか良い響きじゃねーの?」

ニキータ:

「そういう問題じゃありません」

リコ:

「ジンさん、……わざわざローマまで来て何やってんです?」

ジン:

「おいおい。俺が何かやらかしたって前提なの、おかしくねー?」

葵:

「やらかしたんだろ? 吐けよ。吐いて楽になっちまえ」


 葵に賛同するように各人が頷いている。ジンは孤立無援なのを悟ったようだ。


シュウト:

「そうだ。確か、あの時デコピンしたじゃないですか。すっごい痛がって、転げ回ってたような……」

マリー?:

「(こくこくこくこくこく)」

葵:

「だから、オデコ守ってるん? ……つっても、痛覚緩和されるのに、そんな痛がるって、どーゆー?」

ジン:

「あー、それな? 新技の痛覚緩和キャンセラー&痛覚ブーストの超デコピンだ。しかも痛みでしばらく特技を使えない状態にできる。フハハ、怖かろう」

葵:

「機械がしゃべることかぁ!」

シュウト:

「えっ?」


 無視されて話はそのまま続いた。


ジン:

「……そんでもって企業努力でダメージを0点にしたった。街中で使っても衛兵が来ない優れものだぜ。そんかし装甲は貫通できないから、素肌にデコピン当てるのが条件化しちまったけどな」

英命:

「それは、魔法使いの無力化に便利そうですね?」

ジン:

「そっそ。思わぬ副産物的な?」

シュウト:

「それが副産物って、主目的はなんだったんで……すか?」


 言ってて途中で自分で気が付いてしまった。……僕だ。


葵:

「知らぬが仏、的な?」ポン


 そんな恐怖の想像はともかく、挨拶で鉄仮面は無いだろうということになった。仮面を脱いだら、オデコに更に装甲を装着していた。某少年誌 で超有名だった忍者マンガで使っていたものに似ている。


アクア:

「そんな訳で、彼女が白の聖女の『頭脳』。研究・開発担当の……」

マリー:

「マリー。よろしく」(・△・)

ジン:

「相変わらずスゲー上丹田だな(笑)」


 ぼんやりして、のんびりとした口調。あんまり頭脳労働担当には見えない。


シュウト:

「そうだ、これをお返しします」


 拾ったアイテムを返却することにした。レオンが捨てた復活アイテムだ。即時蘇生&完全回復を12回も使える異常に強力な装備品だが、復活用のエネルギーが枯渇しているため使い道がない。


シュウト:

「すみません。拾いっぱなしで持って帰ってしまって……」

マリー:

「べつに、いい。気にしていない」


 アイテムを渡すと、なぜか手を握られた。そのままさすったりしている。


マリー:

「手、おおきくない」

シュウト:

「そうですか? 日本人なので、こんなものじゃないかと……」


 独特なペースの人だった。なんとなく距離が近かったので観察してみた。いわゆる学者的な、天才っぽい天才の人らしいのだけど。


シュウト:

(あ、そばかすだ……)


 背の小さい、普通の女の子にしか見えなくかった。NARUTO風の額ガードがまるで似合っていない。上丹田というのも、見た目で区別とかはできなかった。

 マリーと手をつないだまま、執務室に案内された。


スターク:

「やっと来たね!」

クリスティーヌ:

「またお会いできましたね、みなさん」


 ソファでくつろぐスターク。その傍らで控えているクリスティーヌに視線で挨拶する。そして奥には〈スイス衛兵隊〉のトップ3人が揃って僕たちを見ていた。


ラトリ:

「いやぁ~、待ってた、待ってた」

ギヴァ:

「今回も、よろしく頼むっ」


ジン:

「……ああ、来たぜ」


ヴィルヘルム:

「正直、心強い。今回は、どうやらハードな戦いになりそうなのでね」


 ヴィルヘルムの穏やかでいて、力強い視線が、空気を静謐なものにしていた。口元のシニカルな笑みは、それだけで今回の件がハードなものだと理解させる種類のものだった。


ジン:

「いよぉ、ぼっちゃま。今回はご依頼ありがとうございます、だ」


 座ったままのスタークの頭を強めに撫でつけている。


スターク:

「どうせ、ヨダレ垂らして飛びついたんでしょ?」

アクア:

「ええ。もちろん!」

ジン:

「人聞きの悪い。仕方なく助けに来てやったんだろ?(笑)」

スターク:

「それは、……本当に感謝してるよ」


 スタークの目が真剣さを帯びている。ジンはふと微笑んでいた。


ジン:

「流石にギルドマスターか。責任を背負った目をするようになった」

スターク:

「そんなの、当たり前じゃないさ」


 照れたような、それでいて嬉しそうなスタークだった。


シュウト:

「だけど、そんなにマズい状況なんですか?」

ギヴァ:

「正直、一刻を争う」

ラトリ:

「ま、多少あせったところで、失敗が増えるだけなんだけどね」

葵:

「ちげーねー(笑)」


 一息、間を取って、困った様子で謝罪するヴィルヘルムだった。


ヴィルヘルム:

「挨拶もまだなのに、性急にすまない」

葵:

「いいって、いいって。ステータスはお互いみれるしね」

ヴィルヘルム:

「そう言ってくれると助かる。まず、こちらで分かっていることを説明させてほしい」


 タウンゲートの限定的な解放と、〈冒険者〉のモンスター化が起こったこと。〈緑の庭園〉という東欧の名門ギルドのメンバーが吸血鬼化していたらしいことなどを教えて貰う。


ヴィルヘルム:

「〈緑の庭園〉の責任者と連絡が取れたため、現地で合流することになっている。場所は『アルバ・ユリア』というプレイヤータウンだ」

石丸:

「ルーマニアに同名の都市があるっス」

葵:

「ふーん。んで? アルバ・ユリアの状況は?」

ヴィルヘルム:

「十数人が吸血鬼化したそうだが、現在は問題ない。残念だが、被害者は出てしまったそうだ」

ジン:

「ん? 被害者ってのはなんだ?」

ヴィルヘルム:

「〈大地人〉だ。吸血鬼化した〈大地人〉をやむなく攻撃し、殺した。〈冒険者〉は死ねば大神殿で蘇生できるが、モンスター状態は解除されないままだと聞いている」

英命:

「予想よりも、遙かに危険な状況のようですね……」


 〈冒険者〉は殺してしまっても問題ないが、〈大地人〉は殺さずに取り押さえなければならないようだ。

 僕たちは吸血鬼化しても死にはしないようだが、性質的にリトライ不能なのが痛い。


ケイトリン:

「それで、作戦的なものは?」

ラトリ:

「それなんだけど。ルーマニア最大の大地人都市〈ブクレシュティ〉を防衛しつつ、元凶になってる何か、クエストみたいなものを探すことになると思うんだよねぇ~。カルパティア山脈って分かる?」

葵:

「とーぜん。吸血鬼伝説の本拠地っしょ? ブラン城にいけばいいの?」

ギヴァ:

「そうではない。ブラン城のあるポイントには、我々ですら行ったことがある」

ラトリ:

「しょっちゅうとは言わないけど、吸血鬼関連のイベントがあれば利用しているさ。西欧サーバーのサービス開始から、もう長いからね」

ジン:

「それは、……つまり?」

ヴィルヘルム:

「うむ。カルパティア山脈は広大なフィールドゾーンだ。その何処かで発生しているであろう元凶となるクエストを発見し、クリアしなければならないと、我々は予測している」

ジン:

「んー? ……カルパティア山脈ってどのくらいの大きさ?」

石丸:

「日本でいえば、北海道ぐらいっス」



 えっ、と……? 北海道は、さすがに、でっかいどう……。



ジン:

「ちょっと待てぇい! またか? またなのか?」

アクア:

「そうよ、またよ」

葵:

「ようこそ、バーボンハウスへ」

ジン:

「メチャクチャじゃねーか! しかも解決の目処も立ってないし! 現時点で作戦もアドリブ満載の、行き当たりばったりってことかよ! いつもこうなのかよ!」

リディア:

「誰かバーボンハウスにつっこんで」

シュウト:

「無理です(苦笑)」

ラトリ:

「いやぁ、でも、ウチらも巻き込まれちゃったんだよねぇ~」

ヴィルヘルム:

「本当に、申し訳ないと思っている」

ギヴァ:

「正直、来てくれて助かった」

スターク:

「そーゆー訳だから、よろしく頼むね!」

ジン:

「ばっかじゃねーの? お前ら、ばっかじゃねーの?」


 そーゆー訳というのがどういう訳なのか、小一時間説明して欲しい。

 そんなタイミングで超絶美人姉妹が遅れて登場した。どちらが姉なのかは推して知るべし。


ユフィリア:

「ねーねー? 何かあったの?」

ジン:

「いや、いい。なんでもない」

葵:

「敵を倒すだけだろうと思ったら、敵のいる場所を見つけるところからやって?みたいな内容で、ジンぷー激おこぷんぷん丸ってカンジ?」

ユフィリア:

「ジンさん」

ジン:

「あんだよ?」

ユフィリア:

「大丈夫だよ、きっと巧くいくから!」


 ええと、話も聞いていなかったのに、その自信はどこから……?


ジン:

「ああ……。コイツらの舐めプはともかく、やるしかないもんな」


 その傍らで、瞳をリンリン・ランランと輝かせている人がいた。

 神々しい聖女のオーラが、まるで愛らしいパンダの形をしている気がしてきた。


ヴィオラート:

「此度の遠征、わたくしも参ります……!」ずもももも

ラトリ:

「はぁ?」

ジン:

「ん?」

ヴィルヘルム:

「なる、ほど」

スターク:

「ちょっとヴィオラート! なにバカなことを! 危ないよ、危ないって!」

葵:

「へー、ほー、ふぅ~ん?」にやにやにやにや

英命:

「これは、面白いことになってきましたね」ニコニコ


 絶対ダメ!と認めないスタークと、絶対に行くと言って耳を貸さないヴィオラート。なんとなくこの2人には関係がありそうだと思った。スタークに対しては言葉遣いも少し『ぞんざい』なヴィオラートだった。


スターク:

「ダメったらダメ!自分の身だった護れないくせに!」

ヴィオラート:

「大丈夫よ。だって、ジン様が護ってくださいますもの!」

ジン:

「えっ、俺?」


 一瞬、ちょっと面倒くさそうだった。そりゃ、護る人が少ないほど戦い易い。戦士としては正直な感想だろう。


スターク:

「なっ、なっ、なに言ってるの?」

ヴィオラート:

「ジン様への報酬は『私が』お支払いするのだから、正式な依頼人はわたしでしょう? ……依頼人にはサービスしてくださいますよね?」

ジン:

「もちろんですよ、姫。……いや、失礼。聖女様」きらりん

ヴィオラート:

「まぁ! ウフフフフ」


 高額の依頼人にはとことん(やさし)い。というか、いやらしい(笑)


スターク:

「ちょっ、なに顔赤くしてんの!? ジンまで、なにカッコつけてんのさー!!」

ジン:

「依頼人の利益になることをする。それが俺のジャスティス!」


 正義(ジャスティス)が聞いて呆れると思うのは、僕だけだろうか。


スターク:

「だいたい『私が払う』とか言ったのってセブンヒルの公金じゃないか。私的横領だよ!」

ヴィオラート:

「いいえ、許容される範囲内での公私混同です」キリッ


 それダメなんじゃないかなー? でも言っても無駄そうだしなー(苦笑)


マリー:

「だったら、わたしもいくー。わたしも聖女だしー」のほほーん

スターク:

「みんなして、みんなして、なんなのさー!?!?!?」

ジン:

「落ち着け。そんなんじゃスタークも、ハゲに引っ張られるぞ?」

スターク:

「そうさせたのは、アンタじゃないかー!?」


ヴィオラート:

「マリー、いいの? 大丈夫?」

マリー:

「今回の件、すこし調べたりしないとだし。面白そうー」

ヴィオラート:

「じゃあ、決まりね! ……すみません、そこの床の印のところを空けていただけますか? ありがとうございます。……(念話)……ウルス様? 可及的速やかにお越し願いたいのです。はい、絶対的最優先です♪」


 床に描かれていたバッテンの近くから何人か移動したのを確認すると、ヴィオラートは誰かに念話していた。

 次の瞬間、バッテンのところに熊みたいな人が現れた。床の印はテレポート用の座標指定点だったらしい。


ウルス:

「何の御用でしょう。貴族達との会合の途中だったのですが……?」


 身につけているのは、レオンの使っていた衛兵鎧だろう。たしか名前は『赤き皇帝』と言ったか。レオンの背も高かったが、ウルスは更に大きい。2メートルは越えているかもしれない。


ヴィオラート:

「ウルス様、わたくし、吸血鬼退治に同道することに決めました!」

ウルス:

「それは、はぁ、分かりましたが……」


 本当にいいの?という表情でヴィルヘルムを見ていた。意志決定権が本当は誰にあるのか、分かる動き方だった(苦笑)

 ヴィルヘルムの方はそれには答えず、彼を紹介した。


ヴィルヘルム:

「彼はウルス。2代目皇帝をやってもらっている。ウルス、彼らが……」

ウルス:

「貴方が、神殺しのジンだな」

ジン:

「ああ、……それが?」


 睨みつけるようなウルス視線に、つまらなさそうに返事するジン。

 ウルスの表情には複雑なものが浮かんでいた。事情はよく分からないが、熊のような大男は言葉を絞り出すように口にした。


ウルス:

「貴方に礼を言わせてほしい。我々のリーダー、レオンは貴方のおかげで間違いを正すことができた」

ジン:

「そうかい。……んで? 望むなら、手合わせぐらいしてやるが?」


 ウルスから怒りや憎しみのようなものを感じとったのだろう。礼を口にしておいて、憎しみを漲らせる。その非礼に恐縮したのか、縮こまって謝罪していた。


ウルス:

「……申し訳ない。しかし、もしその機会を本当にいただけるのなら、是非、我らがリーダーのために使わせて欲しい」

ジン:

「いいだろう。アイツが望む時に再戦を受けてやる」

ウルス:

「重ねて、感謝を……」


 ウルスの発していた怒りのような、憎しみのような圧迫感は、悲痛な、沈痛なものへと変化していた。ジンの言葉が癒しになったという訳でもないらしい。

 どうやらウルスはずいぶんとレオンを慕っていたようだ。

 自分と立場を置き換えて考えてみる。ジンがレオンに負け、僕らの元から去ったとしたらどうだろうか。レオンと僕がここでこうして出会ったとしたら? たとえ本人達が勝敗に納得していたとしても、僕はレオンを恨まないでいられただろうか。


 雌雄を決するひとつの戦いがあり、そこで明暗が分かれたのだろう。スタークやヴィルヘルム達〈スイス衛兵隊〉は『明』の側であり、レオンの仲間達、ウルスなどは『暗』の側なのだ。

 そうして考えてみると、ウルスを2代目皇帝にしていることの政治的な理由も見えてくる。レオン派閥のプレイヤー達の不満を分散させるため、ではないのか。


 ジンにしてもそうだ。技を見せることに対して、ソウジロウに求めた謝礼を、ウルスには求めなかった。明暗を分けた責任、勝者しての義務を果たす覚悟のようなもの、かもしれない。


ウルス:

「申し訳ない、会合に戻ります」

ラトリ:

「ごめんね~。詳しいことはまた後で」


 衛兵鎧を駆使しているようで、ラトリの言葉に軽く頷くとテレポートで消えた。


ジン:

「この後の予定は?」

ヴィルヘルム:

「すぐにでもアルバ・ユリアに乗り込みたいところだが、こちらの準備がまだ済んでいない」

ラトリ:

「暗い時間帯に動くのはなるべく避けたいから、明日の朝イチから行動で、どう?」

ジン:

「なんでもいい。そこは従うさ」

ヴィルヘルム:

「では、今日のところは時差を調整してくれ。明日、この建物の裏手にあるタウンゲートから出発する。……宿泊先だが、この建物か、もしくは近場の宿に案内しよう」

葵:

「宿を希望する人は名乗り出て」

ユフィリア:

「もしかして、自由時間?」

アクア:

「そうよ。あまり遅くならないようにね?」


 瞳を輝かせると、ユフィリアはヴィオラートの手を取った。


ユフィリア:

「ねぇ、一緒に街を見て回ろう? こっちもクリスマスだよね?」

ヴィオラート:

「あの、……ごめんなさい。私は、ダメ、なので」

ユフィリア:

「えっ? なんで? どうして?」

ギヴァ:

「彼女が『白の聖女』だからだ。護衛を付けなければならない」

ユフィリア:

「そう、なんだ……?」

ヴィオラート:

「どうぞ、皆様で楽しんでいらしてください」ニコリ


 諦めきれない様子で、無い知恵を絞っている。


ユフィリア:

「んーと、じゃあ、ジンさんが護衛するんだったら?」

ジン:

「コラ、俺を勝手に使おうとするな」

葵:

「その本音は?」

ジン:

「女の買い物になんぞ、付き合っていられるか!」

ユフィリア:

「いじわる! けちんぼ! お金の亡者!」

ジン:

「好きに言えっつーの」


 クリスティーヌが代わりに切り出していた。それはヴィオラートの視線を受けてのものだった。 


クリスティーヌ:

「では、代わりに私が案内しよう。ユフィ、服を見に行かないか? セブンヒルには、フランスの生産職プレイヤーも大勢来ているぞ」

ユフィリア:

「そうなの!?」


 結局、葵とウヅキを除いた女子プレイヤーはそちらに付いていってしまった。リコも逃げられず、タクトと離ればなれだ。


ヴィオラート:

「皆様、食事はお済みでしょうか?」

ジン:

「こっちもパーティーしてたからなぁ」

シュウト:

「おなかは、いっぱいです」

マリー:

「わたしの工房をみせてもいい」


 残ったメンバーは、なんとなくの流れで白の聖女の工房を見に行くことになっていた。







ラトリ:

「凄いね。正直、予想以上だった」

ギヴァ:

「うむ。レベルも高いが、それだけではないな」

ラトリ:

「ウチのギルマスも一皮剥けて戻ってきたし、あんな風に、どうやって育てたんだかなぁ?」

ギヴァ:

「理想的な成長だ。少年らしさを残しつつ、己の分を弁え、頼るべきところは頼ってくる。責任を感じつつ、しかし、周囲が見えている。あのバランス感覚は良いものだ」

ラトリ:

「それもこれも、旦那の思惑通り?」

ヴィルヘルム:

「いや。……きっと、ジン君は『何もしなかった』のさ。あの年頃の少年は、ひとりでに成長する。それが彼には分かっていたのだろう」

ギヴァ:

「ううむ。そういうものかぁ」

ラトリ:

「やっぱり、旦那の思惑通りじゃないか」

ヴィルヘルム:

「フ。……彼らには戦士として、風格が備わって来ている。97のシュウト君もそうだが、ジン君は更に凄みが増した。もはや別人かと思う程にな」

ギヴァ:

「戦士の格は、戦った敵の履歴で決まる」

ヴィルヘルム:

「モルヅァートと言ったか。……余程の強敵だったに違いない」

 

 

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