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EX  極拳2

少し過去の、モルヅァートが生きてる時のお話です。

 

ジン:

「んじゃ、お前の方もやろうか」

タクト:

「よろしくお願いします」

ジン:

「はい、……お願いします」


 タクトの礼に、ジンも礼を返す。大分、素直になったタクトだったが、それがなんだか不気味だ。というか、少し気持ち悪い。

 僕は不本意ながらもこの場に参加していた。タクトの練習に付き合うためではなく、ジンが話す内容を聞き逃さないために。レイシンも一緒だったが、彼こそタクトの練習相手をやるためだろう。

 実際問題としてモルヅァートは強すぎた。少しでもパワーアップできるのなら、どん欲になっておくべきだとも思う。


タクト:

「質問いいですか?」

ジン:

「おう。なんだ?」

タクト:

「四肢同調性のことなんですが、もしかしてパンチスピードも……?」

ジン:

「もしかもなにも、当然だ。今のところから1~2段階は軽く飛躍するだろう。まぁ、ちゃんと同調すればだけど」


 習ったばかりの四肢同調性だったが、当然、攻撃速度にも影響するだろう。僕も攻撃が『遅い』とさんざん罵られまくった記憶があり、少々トラウマ気味だったりする。……考えてみたら、ジンに攻撃をまともに当てた記憶がそもそもなかったかも?


シュウト:

「その『ちゃんと』というのは?」

ジン:

「股抜きが必須なのは当然として、『四肢』が同調するから、右パンチ中に、左肩・左腕の脱力もできてないとダメなんだ。それから背骨周りの拘束にも影響を受ける。そっちもほぐしながらだな。そうして先の領域まで見据えて鍛錬していく必要がある」

シュウト:

「奥が深いんですね……」

ジン:

「浅かったら、めっちゃ寂しいぞ~」

レイシン:

「そうなんだよねぇ」はっはっは


 朗らかに笑うレイシンだった。改めて、キリなんてないのだと思う。ジンの示す練習の限界点は遙かに遠い。無限の努力・訓練が必要だが、それは『温かいこと』だと思える。

 この世界はレベルと装備で能力が決定してしまう『冷たい』側面が大きい。実際の戦闘になった時に実力を発揮する難しさはあるし、レイドで複雑な連携をこなせるようにすることにも意義はある。それでいて、肉体鍛錬はどうせ何も鍛えられないと思わずに居られない。

 体を動かさないと、体の動かし方は学べない。にも関わらず、どこかで『やっても無駄』という感覚が付きまとう。

 ジンは鍛錬や努力に意味を与えて『あたたかく』してくれたのだ。


タクト:

「それで。今日は何を?」

ジン:

「まずは手の握り方だ」

タクト:

「それはもう、習ったと思うんですが……?」

ジン:

「コブシの握りじゃなくて、手の握りだよ」


 手の内の話だろうな、とピンと来る。それは前に教わっていた。何も知らないであろうタクトに対して、少し優越感を覚える。


ジン:

「手は柔らかく握らなければならない。これには2つの意味がある。コブシを強く握り込むと、それだけで筋肉が働いて、パンチングマッスルを阻害してしまう。腕全体のブレーキが発生するわけだ。これがひとつ」


 極意拳術の握りは、コブシを強く握り込まなくていい。通常、パンチの際にコブシを強く握り込まなければならないのは、怪我を防止する目的からだ。極意拳術は『拳頭部のみの打撃』であるため、正しくヒットさせれば柔らかく握っていても怪我はしないようになっている。


 更に脱力した状態から軽く握った位置であるため、スジや腱にとって最も自然な状態になる。無理に強く握らないことで、腕の動き・パンチ動作を邪魔しにくいという『積極的なメリット』が発生する。最も合理的なパンチだった。


ジン:

「もうひとつが、脳内の硬直を回避するためだ。手に割り振られている脳内の範囲はかなり広い。強く握ると、脳が硬直の指令を発する。それは全身の柔らかさ・硬さにも影響してしまう。この脳の硬直からくる全身の硬縮を『把捉性拘束』と呼ぶ」

タクト:

「それは、四肢同調性にも影響しそうですね……」


 このため、『手の内』は柔らかくなければならない。僕たちは『武器を持つ』ので当然ではあるのだが、手を握るだけのタクトも同じようだ。手の内の柔らかさを追求しなければならない。


ジン:

「これまで2万発パンチの時は、柔らかくタマゴを握るようにって言っておいたけども、これからは極意拳術の握りでやってもらう」

タクト:

「…………」

ジン:

「お前、もうやってんな?」

タクト:

「……それは、えっと。すみません」


 ジンに言われる前に変えていたようだ。しかし、まぁ、たぶん僕でも同じことをしただろうと思う(苦笑)


ジン:

「しょうがねぇなぁ。握ってみろ。見てやっから」

タクト:

「はい……」


 普通に、極意拳術の握りを作るタクト。ちょっとした動作だったけれど、手慣れて感じる。相当やり込んでいるようだ。負けていられないな、と思った。……極意拳術はやらないけど。


ジン:

「まだ硬い。その形のまま、指の力を抜いてみろ。血が流れ込む感覚があるだろ」

タクト:

「えっと……」


 見た目はほとんど変わらないと思う。


ジン:

「巧く行けば『広がりながら、まとまる』感覚になる。液体の圧力を感じれば成功だ。この状態を『液圧の握り』という」

タクト:

「『液圧の握り』……」


 手の内の話題から半歩先の内容の気がした。広がりながら、まとまる感覚とはどういうものか。自分でもショートソードを抜いて握ってみる。握った所から指の力を抜いて、その感覚を確かめてみるのだが、なかなかに難しい。液体の圧力を感じる持ち方というのなら、矢をつがえる時にも応用ができそうだ。要練習、であろう。


タクト:

「…………」

ジン:

「難しいか? まぁ、しっかり練習することだ。こうして手をさすって、こすりあわせて柔らかくするんだ。何度も何度も、丁寧に、心地良く」

タクト:

「わかりました」こくり


 ちょっと悩むような感じで、ジンが話題を変えた。


ジン:

「うーんと、そうだなぁ。ちょっとズレる話なんだけど。30歳前だったか、後だったか、手のアブラがなくなっちまってなぁ」

シュウト:

「えっ?」

ジン:

「書類をめくろうにも、指先がカサカサしてめくれなくなったんだよ」

レイシン:

「うん。そうなるよね(笑)」


 どうやら中年あるあるの話題らしい。どうして突然そんな話を?と思ったけれど、たぶん関連があるのだろう。


ジン:

「指サックしてもいいんだけど、皮膚がふやけるっつーか。だから、アレなんてゆーの? 100円ショップとかで売ってる、こう、乾いても書類が汚れない、コラーゲン入りのベタっとするヤツ。……それを使うようになったんだよ。お前らは若いから、まだ分かんないかもだけど」

シュウト:

「はぁ……」

タクト:

「そうですか……」

ジン:

「まぁ、それはどうでもいいんだ。要するに何が言いたいかというと、どうも指先が硬くなってたらしいんだな。仕事を速くやろうとして、書類を高速でめくろうと思うと、どうしても自然と指先が硬くなっていたんだ」

シュウト:

「あぁ、そういう話なんですか?」


 手の内の話と繋がった。指先の柔らかさというべきか。


ジン:

「うむ。単に指サックすりゃいいだけの話だけど、意外と『達人への道』に繋がっているというか。職人の丁寧な手の使い方にも通じている」

レイシン:

「そうなんだ?」

ジン:

「ちょっとの差なんだよ、指先が柔らかいと紙を掴むというか、絡みつくというか。皮膚に余裕があると紙をめくりやすくなる。……単なる書類仕事なら出来なくたって別に文句もないぜ? だけど指先を使う仕事なんかだと、数年で差が生まれちまうかもしれないんだよなぁ~」


 指先の硬い職人と、柔らかい職人。5年でどれだけ差が付いてしまうのか?と考えると、そう簡単な話では終わらないだろう。当然、柔らかい方が良いに決まっている。


ジン:

「こういう話を抽出して、広めていく力が日本にどれだけあるのかって話でもあんだよね。……俺も若い頃に『書類は丁寧に扱え』とか言われたこともあるよ。だけどそんなん『ふざけんなよ、ただのお題目だろ?』とかぐらいに思ったさ。大して意味もないこと言ってんじゃねーよって。破れなきゃいいだろ、みたいな」

シュウト:

「なんか、分かる気がします(苦笑)」

ジン:

「この話だって、書類がどうのの話じゃねーと思うよな? 自分の指が柔らかくなればいいって話だもんよ。まぁ、確かに柔らかく触れればいいって感じの内容だわな。……でもコレが違うんだなぁ~」

レイシン:

「そうなの?」

ジン:

「ああ。自己完結は良くないんだよ。やっぱり『書類を丁寧に扱う気持ち』の方が、指先を柔らかくする効果が高いんだ。『書類に触れる』だけだと自己完結する一方通行なんだ。だけど『丁寧に扱うべき書類』に『触れる』のだと双方向になる。その方が意識量が増えるというかね。質も高くなりやすい。

 ……いや、書類を丁寧に扱えとか言ってた上司は、こんなこと絶対考えてなかったと断言できるけど(苦笑)」

レイシン:

「そっかー。じゃあ、愛着のある道具の方がいいかもしれないねー」にこにこ

シュウト:

「あっ」

タクト:

「そうか……」


 そうなると、愛着のある武器を丁寧に扱った方が、手の内は柔らかくなるのかもしれない。


シュウト:

「新しいショートソード買おうかな……」ぽつりぬす

ジン:

「テメェは、ストレッタだかストレットだかを手に入れたばっかりだろうが!」

シュウト:

「いや、そうなんですけど(笑) やっぱり愛着がわくような強い武器が欲しいなっていうか……」


 ストレットは次の人を強化する装備なので、個人用武器としてはあまり魅力を感じていない。

 銀行に貯めてある正確な額は覚えていないが、金貨15万枚ぐらいなら捻出できるような気がする。後で武器屋にいってみようか? と半ば本気で考えていた。

 そんな脱線話も終了し、元の流れにようやく戻ることになった。


ジン:

「液圧で握れるようになれば、指なんかに液体の感覚や、液体のもつ重みを感じるようになる。液圧の『重み』でパンチを打て。『筋力』から『重み』にパンチの質を変えていくことだ」

シュウト:

「筋力よりも重みの方がいいんですか?」

ジン:

「そんなもん、完成度による。重みでリードできるようになれば、腕の質重量を有効に、効率的に使えるようになる。筋力はレベルで固定なんだから、威力になりそうなもんを別のところから引っ張ってこないとな」

タクト:

「分かりました。やってみます」

シュウト:

「うーん……」


 たぶんファストパワー・ストロングパワーの関係なのだろう。

 腕を『速く』動かすことと、腕を『強く』動かすこと。このふたつの両立は出来ない。

 強く動かそうとすれば、ゆっくりと押す動作になり、速度は出なくなる。逆に、速く動かそうとすれば、押す力は弱く、つまり『軽く』なってしまう。

 これらは腕の使い方であるのと同時に、頭の使い方の問題だからだ。

 この理屈・論理では、筋力ステータスは一定値で変わらないという呪縛から逃れることは出来ない。


 だから重みの話をしているのだろう。重み、質重量、重性世界。ファストパワーではジャブのような軽いパンチにしかならない。それに重みを加えることで、ジャブのままストレートのようなパンチになるのだとしたら画期的なことだろう。


ジン:

「次は、AFSとBFSだな。簡単にいえば、移動し終わってから攻撃するのがAFS。移動しながら攻撃するのがBFSだ」

タクト:

「それって、どっちをやればいいんですか?」

ジン:

「状況に応じて変えるべきものだが、基本的にBFSを練習してもらう」


 AFSは腰の回転運動を主な動力とする。移動していても停止し、踏み込みをブレーキからブロッキングに変えてしまうため、移動の勢いは殺してしまう。

 BFSは体重移動をそのまま威力に利用する。走ってそのまま体当たりしてもBFSということになるのだ。


ジン:

「簡単な例題を見せよう。レイ、頼む」

レイシン:

「りょうかーい」

ジン:

「今からシュウトに向かってパンチをする。まずAFSな」

シュウト:

「えっと、僕は?」

ジン:

「避けていいぞ」

シュウト:

「は、はい……」


 AFSなら話は簡単だ。突進しても停止するから、突きまでの間に逃げる時間が十分にある。そうして実際に停止のタイミングで避けて無事に済んだ。……問題は次である。


ジン:

「今のがAFSだな。じゃ、次」

シュウト:

「あの、……ですから僕はどうしたら?」←真剣と書いてマジ

ジン:

「だから、避けていいってば(笑)」

レイシン:

「いくよ~(笑)」


 2人とも笑ってるし。意地悪だ。ユフィリアが居てくれたら、きっとジンにツッコミをしていただろう。そうしたらその間に誤魔化せたかもしれないのに……。

 BFSの場合、相手がレイシンなので、動いた瞬間ぐらいに避けないとそのまま打撃をもらってしまう。でもタクトに見せるための例題としては、ここで喰らった方がいいような気もする(言い訳)。


レイシン:

「……」(フッ)

シュウト:

「しまっ!」


 一瞬だった。余計なことを考えていたためか、僅かに反応が遅れた。わき腹をかすめるようにパンチが突き抜けている。寸止めではなく、外してくれたようだ。


ジン:

「なーんだ。吹っ飛ぶシュウトが見られると思ったのに」

シュウト:

「ううう……」

レイシン:

「はっはっは。今回はたまたま巧くいったみたいだね」


 レイシンの謙遜に頭が下がる。

 いつでも超反射が使えればいいのだが、まだまだ練習が必要だった。超反射は『破眼』と相性が悪いため、自力で発動させなければならない。そうなると発動確率はそうそう上がらない。


タクト:

「凄いですね。圧倒的なスピードだ……」

ジン:

「こうした飛び込みパンチがBFSだな。主な使い手は伝統空手系。まぁ、試合形式だと寸止めだけど。あまり知られていないが、実際のBFSは日本武術の特色を成している重要な要素だ。剣道も腰の回転を利用してないから、面も突きもBFSに分類される。それから最近だとアマレスや総合格闘技のタックルもBFSだな。特に総合格闘技のタックルは一時期流行しただろ? グレイシー柔術、特にヒクソンの勝ちパターンが、タックルからテイクダウンとってマウントからパンチ。隙を見て関節技か締め技、って流れだった。始めタックルは特殊な戦術として有効性が疑われたんだけども、流行して広まった結果、逆に有効だと結論されることになった。日本の場合、山本KID選手がアマレスの経験があって、タックルを活かした飛び込みパンチの使い手だったんだが……」ペラペラペラペラ


 立て板に水というのか、こういう話をさせると止まる気配がない。


シュウト:

「あの、ジンさん……?」

ジン:

「あ? なんだよ。今、良いところなのに…………、やりすぎた?」

レイシン:

「ちょっとね」


 咳をするフリで誤魔化すと、サッと切り替えた。ずるい(確信)


ジン:

「……という訳で、BFSを覚えてもらう。この場合は順突き、伝統空手でいう『追い突き』になるな。レイ」

レイシン:

「りょうかーい」


 例題の追い突き。一瞬、沈むような動きからの、突発的な突進突きだ。

 速度・威力ともに申し分なさそうだけれど、例題なのでゆっくりやってもらっているのだった。


ジン:

「どうだ?」

タクト:

「いや、凄いと思うんですけど。……これで〈ライトニングストレート〉って出せるんですか?」


 打ち終わりの姿勢が、半身で、右腕、右足の方向が一致している。追い突きはナンバに近い動作でもあって、ストレートパンチ系のライトニングストレートとの相性はどうか?という感じがするのだろう。ストレート系のパンチはAFS的な腰の回転運動を必要とするのだ。


ジン:

「むむっ。それもそう、か。……追い突きは伝統空手でもとっくに失伝しちゃっててオススメではあったんだがな?」


 失伝してるからオススメってなんだろう? それと失伝したものをなんで知っているんだろう? とか思ったけれど、口にするのは止めておいた。危険が危ないのである。


タクト:

「あの、この間やってたのは?」

ジン:

「この間? ……ああ、崩滑落(ほうかつらく)からの重突(じゅうとつ)のことか?」


 ドン、ドンドン!っと三連突きを放ってみせる。瞬間移動的でありつつ、重そうな突き。それをこうもあっさりと連射されると、内心シビれるような心地になる。……格好良さに秘められた、躱せそうもなくて諦めにも似た心境、というか。


タクト:

「それです! それは……?」

ジン:

「これはけっこうムズいヤツだぞ? 頭から順番に前に崩れて行って、倒れつつ前進。体幹起立反射を発生させないようにしながら、突きを繰り出すんだけど……」

レイシン:

「ライトニングストレートとは合わないんじゃないかな?」


 モーションレス過ぎて、ライトニングストレートのモーション入力を入れる余地がなさそうなような? それに、かなりの柔らかさが要求される気がする。

 タクトのがっかりしている様子からして、崩滑落からの重突に憧れがあったようだ。確かに、使えるようになってみたい技だ。


ジン:

「いっそ、逆順体やらせっか。じゃあ先にインパクトだな」


 インパクトも前にも少しだけ教わったことがあるけれど、あまり理解できなかった。なんだか今日は程良く復習になっている。テンポが速いのでタクトは大変かもしれないが、僕は半分ぐらい耳にしたことがある内容なので、丁度良かった。


ジン:

「通常のインパクトというのはこういうヤツのことだ」


 腕を伸ばした状態から、コークスクリュー的に手首を回転させつつ――


ジン:

「インッ、パクトォ!」


 一気にネジり込んでいた。


ジン:

「さぁ、ご一緒に!」

シュウト:

「インッ」

タクト:

「パクトォ!」


 右腕・左腕と交互に、イン・パクト!と3人で繰り返す。レイシンは笑顔で見ているだけだった。ちょっぴり恥ずかしい気分と、楽しくなってくる感覚が同居している。


シュウト:

「インっ、パクトぉ!……ってこれ、どんな効果があるんですか?」

ジン:

「ん? ないけど?」

シュウト:

「えっ?」

タクト:

「はっ?」

ジン:

「だから、あえてこういう事をやるのが、……しまった、ヤツか!?」


 『キッ』とギルドホームの方を睨むジン。そこに人影が現れる。リコと、葵だった。


葵:

「フハハハハ。話は聞かせてもらった! 続きはこのあたしに任せて貰おうか!」







勇者タクト:

「大魔王ジン! 貴様をここで、倒すッ!」

大魔王ジン:

『フハハハハ! 勇者め。お前との因縁もここまでだ!』

勇者タクト:

「うおおおおお!」


 勇者タクトと大魔王ジンの最終決戦的な場面、だそうで。

 レイシンが葵にどう説明したのか、なぜか始まってしまう小芝居。というか、もはや学芸会的なノリである(脚本、葵さん)。そんなのに巻き込まれ、僕は半分泣きそうだった。どうしてこんなことに……?

 ちなみに大魔王のアテレコ?は葵が担当している。

(ジンさんは「セリフなんか覚えらんねぇ」といってあっさり投げた)

 勇者タクトはかなり本気で戦っている気がしたが、大魔王を演じるジンは余裕で避けて、捌いて、していた。実際、実力的には大魔王みたいなものである。


大魔王ジン:

『フン、勇者の力とはこんなものか』

勇者タクト:

「ぐっ。……ならば! 月の加護を得た俺の技を受けるがいい!」

大魔王ジン:

『ほお。見せてみろ、勇者よ!』

勇者タクト:

「ハアアア! ファイナル・ヘブン・ストライクッッ!!」


 月の加護はどこにいった?とか思う技名を叫び、ジン、じゃなくて、大魔王ジンに殴りかかるタクト。それをあっさりと止めたジン。まぁ、特技エフェクトとか無かったので、普通に殴っただけだろう。止められて当然というか。展開的に止めるところなのかもしれない。


大魔王ジン:

『ククク。ふははは! 破ったぞ、ファイナル・ヘブン・ストライク!』

勇者タクト:

「なんっ、だと!?」


 勇者の技名をしっかり覚えている大魔王の優しさに感涙である。あるあるな勇者が苦戦する展開のご様子。速く終わらないかな?


大魔王ジン:

『貴様の負けだ。死ね、勇者! 第3部、完っっ!』

レイシン:

「第3部なんだ?」

リコ:

(シッ!)


 唐突に第3部とかメタ発言をかましつつ、きっちりと逆転負けフラグを立てる葵。……じゃなくて、大魔王ジン。なんというか、タクトの演技が意外とノリノリな気がして見ててつらひ。ヤツはなんで平気なんだろう。もしかして、ガチで勇者さまなの?


勇者タクト:

「まだだ! うおおおおおおっ!」

大魔王ジン:

『何をする気だ! まさか、この力はっ!?』

勇者タクト:

「ルナティック・ドリル・インッッ、パクトぉぉぉぉ!!!」

大魔王ジン:

『名前ちがっ、ぐあああああっ! おろおろおろっ、べぇぇええ!ぐあああああ!』


 とりあえず月の加護とかの設定を回収したかと思ったら、必殺技ネーム勝手に改変したっぽかった。本当にありがとうございました。なんだかきちゃない叫び声をあげつつ、吹っ飛ばされる大魔王ジン。ルナティック・なんちゃら、つよい(笑)


大魔王ジン:

『くふふ……』

勇者タクト:

「何を笑う、大魔王!」

大魔王ジン:

『ワレが倒れても、第2、第3の魔王が……、グフッ』


レイシン←(ナレーション係):

「こうして、勇者タクトの活躍により、世界に平和がもたらされた」


シュウト←(ライバルA):

「や、やったのか、タクト」←棒読み


 僕の出番はここだけなのだが、もう本当に勘弁していただきたい(涙)



リコ姫←(お姫様の役・自薦):

「タクト様!」

勇者タクト:

「リコ姫……」


 姫って。どうしてこれを平然と言えるんだ、コイツは!?

 そして明らかに役得を狙って抱きつきにいくリコ。デレっと笑う口元が僕の位置からは丸見えだ。『計算通り』という思惑が透けてみえてますよ、姫?


リコ姫:

「タクト様……」

勇者タクト:

「リコ姫……。 ってちょっと待て。何を!?」

リコ姫:

「何を言ってるの? 物語のラストといえば『2人は幸せなキスをして終了』よ?」←純真無垢な瞳(笑)

勇者タクト:

「いや、演技! これ演技だから!」


 役得を狙ってキスを迫るリコ。それに気が付いたタクトが抵抗する。あんたら何やってんのさ?とは思ったけれど、別にタクトがリコとキスしようがどっちでも良いので放置だ。

 ラストでキスするか、キス寸前で場面転換するか、どちらが良いかは議論の分かれるところかもしれない。


葵:

「面白いから見てても良いんだけど、やっぱりカーット!」

リコ:

「チッ」


 ……そこで舌打ちするなよ、リコ姫。黒いって。


リコ:

「えっと、つい演技に熱が入っちゃいました」テヘッ

タクト:

「まったく。悪い冗談は止めろよな?」さらっと爽やか

リコ:

「ごめんね?」←反省する気、絶無


 いや、どう考えても言い訳になってないから。その言い訳で突っ走る気200%じゃないさ! とツッコミたかったけど、ナントカは犬も食わないというし、我慢である。

 ……というか、爽やかに(たしな)めて終了とか、タクト側にも問題があるとしか思えない。リコがここまで増長してるのって、お前が悪いんじゃないの?


シュウト:

「……それで、これって結局、何だったんですか?」

ジン:

「えっ? いや、だから、特に意味はないんだって」

シュウト:

「いやいやいや、意味ないのにこんなに長々とやったんですか?!」

ジン:

「でも好きだろ?……こういうのを『熱い展開』とか言って盛り上がっちゃうわけじゃん? 熱いとか言っとけばバカなのを誤魔化せると思ってるわけぢゃん?」

葵:

「とーぜん。ドリルは男のロマンだろ!」

ジン:

「ドリルはロボのお約束だから! ……だいたい、弱点箇所にドリル突き立てて、貫通するまでロクに反撃も無しって、どんだけザコいんだよ。ドリルならまだ作劇上の都合って分かるけど、コブシでやるなよ、コブシで!」

シュウト:

「アハハハハ(苦笑)」

葵:

「そういってやるな、熱い展開は正義!」


 どこに正義があるかは良くわからないが、無理があるのは分かる。


タクト:

「……結局、どういう意図だったんです?」

ジン:

「えー? だからぁ。こんだけ恥ずかしい事を先にやっておけば、『インパクト燃え』展開が好きそうなオマエラでも、さすがにドン引きするかな、って」

シュウト:

「……そんなことのために」ガックリ

タクト:

「そっすか。まぁ、楽しかったからいいんすけど」

葵:

「そーゆー意味でも、あたしの脚本はパーペキだったな!」ふんす


 ケロっとしているタクトを余所に、僕のダメージは甚大だった。なにか癒しが必要だ。ああ、もっとストレス耐性がほひい。

 大魔王をやめたジンが、唐突に態度を改める。クッションが終わったら跳ね上がる、そんなトランポリンみたいだった。


ジン:

「通常のインパクトは、腕が伸びきったところからコブシひとつ分手前で発動させる。停止させるための面状の意識、『プレインパクト面』を形成し、そこを突破させる形になるんだ」

シュウト:

「前にも話してたと思うんですが、どんな意味があるんですか?」

ジン:

「パンチに関してはあんま意味はないかな。たとえば、野球のバッティングで言うと、インパクトを作ることは、打点・打面を形成する意味合いがある。スウィングスピードとしてはむしろ鈍化するんだが、バットがボールを捉える瞬間の部分でのコントロールを行うのに使われたりするね」

シュウト:

「じゃあ、バットの芯でボールを捉えたりするためのものなんですね?」


 唐突な野球の話題にちょっと癒されている自分がいたりする。


ジン:

「そんな感じ。武術的に打面形成はあんまりだなー。通常のパンチの場合、小指側に当たんないようにやることはやるけど、当て勘としてはむしろ距離感の方が重要だ。

 全身の運動量でパンチを作った場合、肩からコブシまでの距離で加速させたり、威力を増やすことは出来ない。足腰や背筋に比べたら、腕の筋力は弱すぎるからだ。そうした人体構造から、特に打撃技は『過去に作った運動量を伝達する』という意味合いが強い」


 話の内容が一気に濃い口になっていく。塩分濃度はひたすらにお高めである。


ジン:

「パンチの場合、打点は運動量伝達と関係する。打点がコブシひとつ分手前ってのは、程良い距離になるんだ。あんまギリギリだと表面だけでパチンとなるし、逆に『奥』を狙いすぎると、パンチの腕が伸びきる前に当たって、グイッと押す成分が強くなる。それだともう『打撃』ではなくなってくるわけだ」


 そうした細かい話になってくると、パンチとして成立する距離はかなり狭い範囲に限られてくるような印象に変わってくる。


タクト:

「分かります」

リコ:

「でもそれだと、インパクトには意味があるような?」


 この場合、プレインパクト面は『敵の体表面』とぴったり重なる位置に存在することになるはずだ。敵の体に当たった位置から、コブシひとつ分ネジ込んでやればいい。

 リコも言うように、それなら意味があるような気が、してくる。


ジン:

「それな! それをやるとどうなるかというと、小手先の力感に惑わされるんだよ。自分の力感と、敵の損害(ダメージ)はイコールじゃないからな」

タクト:

「自分の力感を増やしても、ダメージアップにはならないんですよね」


 手応えを信じるなと飽きるほど繰り返し注意されている。

 マッチョイズムのダメな点がこれで、手応えさえあれば、結果はどうでも良くなってしまうという。マッチョイズムは、強くなるためにマッチョになるのではなく、マッチョになることを目的にマッチョになることをいう。

 同様に、ダメージを与えた時の手応え、それ自体を目的化してしまう。


ジン:

「ほぼ腕が伸びきった状態から、ドリル・インパクト!ばっかりがんばるようになる。さらに重症化すると、プレインパクト面までは力を抜いておいて、最後にドリルだけやりたいとかね。それがイマドキの若い連中であり、『熱い展開』でのお約束と、その悪癖だね」

シュウト:

「インパクトの部分が一番力感が強いからですね……」


 さっきまでの小芝居はこのためだった。学習効果があったかどうかはともかく、インパクト頼みになる滑稽さを表すため、ということらしい。パンチ全体よりインパクトの方が強いだなんて、考えてみれば馬鹿げた話だ。止められたところからネジ込むより、連打するべきだろう。


葵:

「じゃあさー、インパクトってなんのためにあんの?」

ジン:

「では答えの時間にしようか。インパクトは、『デコピンの原理』を利用するためのものなんだ」

シュウト:

「デコピン、ですか?」


 ジンに指示され、親指で押さえる普通のデコピンと、親指なしのデコピンをやってみた。


ジン:

「逆の手の指にでもデコピンしてみれば、その差が分かるはずだ」


 慣れてくると親指のある/なし で、スピードの差はあまり感じられなくなった。しかし威力に関しては、まさにその差は歴然としている。比較して2~3倍近い差があると感じた。


葵:

「なるほど。つまり、近すぎたわけか……」

ジン:

「そういうこと」

シュウト:

「近いって、何が近いんですか?」

葵:

「デコピンのピンまでの距離だよ。プレインパクト面が実際の打撃箇所と近いから、デコピンの原理が働かなくて、中途半端なものになっちゃってたんだね」

リコ:

「ですね」

ジン:

「だいたい正解。だけど、ここでデコピンの話を先にしちまうと、インパクトに関連したモヤっとしたものの意味が分からなくなって、あっさり捨てちまうんだよ」

タクト:

「分かりにくさまで含めて、理解しておく必要があったのか……」


 あまり分からなかった部分の意味が分かってかなりスッキリとした。ただ、分からない部分の『分からなさ』にも、いろいろな事情があると知っておくべきなのだろう。


ジン:

「パンチ動作の場合、プレインパクト面が肩口(かたぐち)に近づくほど、デコピンの原理が強く働き易い。こうした作用は、しばしば『タメ』とか呼ばれることがある。……だが実際、筋力や運動エネルギーは蓄積が効かない。タメとかいっても、実際にはなんも溜まっていないんだ」

葵:

「じゃあ、デコピンの原理効かせようぜーって合図なわけだ?」

ジン:

「そうなるね。プレインパクト面は意識だから、理想的な『親指』なんだよ。一定の力とか圧力を掛けるとブレーキが外れて、しかも何も残らない」

シュウト:

「なるほど」


 だんだんと自分の方でも応用できそうな話になって来ている。


ジン:

「例えば野球・テニス・ゴルフなんかで、得物をスウィングさせる時、腰の回転とバットやラケットの回転が一致してしまい易いんだ。それは、テイクバックでプレインパクト面が形成されていないから、なんだ。

 そうしてデコピンのように『からだのしなり』なんかからエネルギーを取り出す話になってくると、伸張性収縮や重み、質重量体の操作なんかの領域に入っていくことになるな」

シュウト:

「『重性世界』ですね」


 奥深い技術領域への入り口になっていることが分かってくる。ほんの少しの話かもしれないが、出来る・出来ないの差は『ほんの少し』なんて悠長なことを言っていられるものではない。数倍の実力差になってしまうことも珍しくないのだ。


ジン:

「んじゃ、インパクトについて理解したところで、『逆順体の突き』いってみよう。これは本来、崩滑落が使えるようになった人がやるやつなんだけど……」

シュウト:

「えっ?」

タクト:

「今、なんて?」

ジン:

「(無視)右の逆突き・ストレートパンチを打つべく、左足前、左腕前に構える」


 タクトと一緒に、あわてて構えをとる。


ジン:

「とりあえず一度、その場で逆突きしてみ?」


 腰を回転させながら、右腕でパンチ。『逆突き』、もしくはボクシングでいう『ストレート』だ。


ジン:

「戻して。今の要領で右パンチを打つんだが、プレインパクト面を肩口に形成してストップ。同時に体幹部移動で前にポンと出る。そこまでドウゾ」


 パンチを打とうとしつつ、体幹部移動をしてみる。前にポンと移動。


ジン:

「戻して。普通に考えたら、体幹部移動とパンチじゃ、パンチの方が速いに決まってらーな? でもここでは逆に体幹部がパンチを追い抜いて置き去りにするつもりでやるんだ。

 右のパンチが始まっていることで、右腰の回転運動が発生する。でも右足は後ろに残ったままだ。ここで体幹部を移動させる。崩滑落が理想なんだが、今はいいとしよう。

 体幹部の前方移動がとある段階を越えると、右足が『後ろ過ぎる』状態になる。すると、割と大きめの回転運動量(モーメント)が右足にかかる。そこで転倒回避の自然反射と合わさって、右足だけが前にすっ飛んでくる風になる。

 転倒を回避してからじゃ遅いんで、その前の(ホウ)が高い状態でパンチを繰り出す。右足が一気に追いついてくるから、ねじりとねじれの解消とが右パンチの動力に加わる感じだね。そうして終わってみたら、右手・右足がそろう『順突き』の位置関係になっている。……これを『逆順体』という」


 崩滑落によるものだろう。消えるみたいな高早度突進からの突きが繰り出され、重い震脚に合わさる。ストレートパンチだったのに、追い突きのような全身でぶつかって行くものに変化していた。


葵:

「いや、ムズくね?」

ジン:

「ムズいか? まぁ、ムズいだろうけど、……やればいいと思うよ?」キラリン♪

リコ:

「てっ、てきとー!?」


 歯を見せ、笑って誤魔化そうとするあたり普段のジンだった。


ジン:

「形を真似るだけならそんなに難しくもないって」

シュウト:

「じゃあ、なにが難しいんですか?」


 形を真似られたら、それでいいと思うのだけれど。ライトニングストレートをモーション入力する下地としてのものだろうし、難しさのポイントを絞っていくのは大事だ。


ジン:

「移動部分にきまっとろうが。……タクト、最低距離6mだかんな? だいたいからして、一瞬で10mぐらい詰めないとシュウトには当たらないから、そのつもりでな?」

タクト:

「わ、かり、ました……(汗)」

レイシン:

「というか。遅いと、先にライトニングストレートが出ちゃうんだよね~」

タクト:

「!?」


 レイシンのコメントでだいたい理解できた。最初の時点でライトニングストレートのモーション入力になってしまうのだ。その後、特技が『始まるまで』に移動しておかないといけないのだろう。それで最低6mとなるとなかなか愉快な難易度になりそうだった。

 たかだか6mの移動など〈冒険者〉にとって問題になるはずもない。しかしその猶予時間が僅か数フレームとなればまるで話は違ってくる。


シュウト:

(これは、ヤバいやつだ……(笑))


 試しにタクトがやってみたライトニングストレートの、みっともないほど微少な移動距離を見て吹き出しそうになる。アレだと実戦でも空振りしまくるだろう。

 そんな楽しすぎる状況を眺めつつ、葵が問いかけるのを耳にしていた。


葵:

「つか前から思ってたんだけど、武術の技を教えるよか、気の増幅法とかを教えんのじゃダメなん?」

ジン:

「その場合の『気の定義』にもよるけど、大ざっぱにいって使い道がないんだよ」

葵:

「そーなん?」

ジン:

「ドラゴンボールみたく『気が増えたら、戦闘力が増える』って仕組みがねぇんだっつーの」

葵:

「あー、はいはい」


 筋力などのステータスはレベルで制限されている。気を増やしても、それから先が問題になるのだ。

 ジンの場合、レベルをブーストさせている。しかし、レベルブーストするには、まずオーバーライドしなければならないという。オーバーライドによって、疑似特技〈極意〉を発動させ、その選択的ブースト能力によって、レベルブーストしているそうだ。そうした概要の説明はしてもらったけれど、今も何を言ってるのかさっぱり分かっていない。


ジン:

「気を使って戦力を高める方法を手に入れなきゃならないんだよ。さらに、そもそもの気を集めてくる手段、気を操作するやり方なんかを学ばなきゃならん。

 気を増やすとか操るとか簡単に言ってるけど『気を扱うこと』なんか、誰もやったことないんだぜ? 天才でもなきゃ、そのへんの努力抜きでどうにかしようってのは流石に都合が良すぎる話だし」


 やればできるみたいな前提でいたけれど、そもそもコントロールできるとは限らない。僕自身、虚脱感の時にえらく苦労したのを思い出す。アレはアレで気力が飛んでいってしまうので使いにくかったりするのだ。


葵:

「うーん。……で? 気を集めるには?」

ジン:

「意、至る、気。気、至る、(けつ)。これは意識から気へ、気から()へと至るロジックだ。『形而上的』な概念である意識から、実体としての血へと論理を飛躍させる理論だな。結果、意識の集まるところに、気は集まることが言える。そして、このロジックを逆転させたものが鍛錬ってことだ。肉体を鍛えることで、血を、そして気を高め、最終的に意識を強くしていくわけだ」

葵:

「ふむふむ。なるほどね」

ジン:

「極意とは、極まった意識のことだ。つまり極めて濃密な意識のことをいう。極めて濃密な意識には、当然、極めて濃密な気が集まる。タクトの場合でいえば、極めて濃密に高めた意識でパンチを打てばいい」


 シンプルにして明快な答えだった。安心して習い、覚えていけばいいのだと再確認する。安心感からか、信頼感からか、ちょっぴり泣きそうだった。なにも成し遂げていないというのに、報われたような気持ちになる。


 一方で、自分がまだ『極めよう』とまでは思っていなかったことに思い至る。『意識を極める』のが目的だった。大事なことなので、後でなにかに書いたりしようと思った。


葵:

「じゃあさ、カドルフくんのヤツはどうなん?」


 それはまた、面白そうなフリではありませんか。カドルフもまた、何らかのパワーアップをしていたのは間違いない。


ジン:

「まぁ、世界の何らかの仕組みを利用しているので間違いないだろ」

葵:

「最後はゾンビだったし、なんか外法って感じだったじゃん?」

ジン:

「ゾンビはな。だが、むしろ外法やってんのは俺の方かもしれん」

葵:

「ふーん。例の『うちゅう の ほうそく が みだれる!』ってヤツ?」

ジン:

「いんや、逆だ、逆」


 逆って、なにが逆なのだろう。逆になる部分がどこに?


葵:

「ん? どゆこと?」

ジン:

「俺は宇宙の法則には逆らっていない。あえて言っちまえば、世界の法則に対して、宇宙の法則を押し通したというか。どう考えたって、宇宙の法則のほうが偉いっつーか、正しいっつーか?」

葵:

「へぇ~。それがオーバーライドなんか」


 ゲーム的異世界の法則を、現実の宇宙の法則でもってねじ伏せたのがオーバーライドということになりそうだった。やっていることがメチャクチャ過ぎて、乾いた笑いしか出てこない。


リコ:

「普通に考えたら『変人』なんだろうけど、ここまで突き抜けちゃったら勝ちってことよね」


 ひとつひとつの説明は論理的というか、むしろ常識的とすら思うのに、全体の印象が変な人になるのは何でなのだろう?


レイシン:

「まだ、ちょっと厳しいかな」

ジン:

「だろ? やっぱ追い突きからだな。……頼む」

レイシン:

「りょう~、かい」


 タクトの練習を見ていたレイシンだったが、ギブアップを伝えてくる。仕方ないだろう。ジンは追い突きから順を追うように指示した。


 この後、モルヅァートにミスティカルパスを通過する方法を教えてもらい、タクトは『ディメンションステップ』を習得することになるのだが、それはまた別の物語。

 

 

逆順体は格闘マガジンKの5号(1998年、アスペクト発刊)からです。


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