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174  まっ金金

 

リコ:

「……このまっ金金はなに??」

タクト:

「あぁ、オレのつるはしも金色だな」

スターク:

「それを言うなら、ボクのだって面白い杖になっちゃってるんだけど!」


 後片付けの最中、モルヅァートの置き土産の品評会が始まっていた。しかし、デザインは面白いぐらい全体的に金色。僕の矢筒も縁取りは金色になっている。もちろん、そんな些細なことは気にしないつもりだが。(全部が金色じゃなくてよかった……)


アクア:

「いいじゃない。私は気に入ったわ」


 そういうと、ゴールドに輝くコートをさっと着てしまうアクアだった。暗闇の中、魔法の明かりに照らされてほのかに輝いている。際立つ黄金の存在感。Oh、ゴージャス……。

 

リコ:

「ゲー、丈が短いし。ローブ頼んだのに、これ上着ってこと?」

ニキータ:

「とりあえず、着てみたら?(苦笑)」


 丈が長かったら長かったで、全部まっ金金になりそうな話だが、何かにつけて文句を言いたいらしい。さすがの神の子・モルヅァートであっても、女子のお眼鏡にかなう服となると荷が重かったようだ。


ジン:

「さすが、自分大好き野郎。金色ばっかじゃねーか(笑)」ケッケッケ


 ジンの分の専用報酬はない。だから無関係で楽しそうにしていたが、当のジン本人は黄金竜のオーラが出る体質になってしまっている。たぶん道連れが増えて喜んでいるのだろう。


エリオ:

「この輪っかはなんでござろう???」

英命:

「なんでしょうね?」

ウヅキ:

「フレーバーテキストがどうなってっかだろ」


 エリオはエリオで、不思議そうにしていた。外側が緑色、内側が金色で塗られた輪っかが2個。使い方が分からない。


葵:

『ちょっ、あたしの! あたしの外観変更アイテムは!?』

レイシン:

「うーん、どこだろうね?」

ジン:

「忘れられたんじゃね?」


 そんな話をしていると、恐ろしいものが見えた。ケイトリンの手に握られているものは、もしかしなくてもムチだった。彼女は他者支配ができる首輪もくしはムチを希望していたのだ。


シュウト:

「いや、それって……?」

ケイトリン:

「丁度いい。試してみるか」ククク


 酷薄な笑みを浮かべると、ムチをビュンビュン言わせて振りかぶる。まさかモルヅァート? 本当に他人を支配できるムチを作ったりしてないよね!?


シュウト:

「待って、う、嘘でしょ?」

ケイトリン:

「そらっ!」ズビシ!

シュウト:

「あうっ!……ってあれっ? 全然痛くない」


 もの凄い先端速度で避けられなかったのだが、当たったはずのムチは全く痛くなかった。ふにょんと触れた感触のみ。特に変化はなく、操られているとも思えなかった。

 結局、モルヅァートは痛みを与えられないムチを作ったらしい。その名も〈愛のムチ〉。他者を支配する機能はないようだ。


ケイトリン:

「チッ……」

シュウト:

「いや、チッ、じゃなくて! いきなり人で試すのとか止めてよ!」


 聞こえないフリで逃げるケイトリンだった。なんて汚い。

 他方ではジン達が騒ぎ始めていた。現場はZenonのところである。


ジン:

「まさか、それってアレなの?」

スターク:

「ねぇ、覗くの? 覗きに使うんだよね? 犯罪者でしょ?」

Zenon:

「誰が犯罪者だ! 覗かねーよ!」

バーミリヲン:

「『まだ』予備軍だろう?」

Zenon:

「おぃ?!」

ジン:

「まーまーまーまー、とりあえず、見てやるから装備してみろって」

スターク:

「そうだよ、仲良くしようよ! ボクら大事な仲間じゃないか(笑)」

Zenon:

「だから、イヤラシいことには使わないっての!(苦笑)」


 そうはいいつつ、さっとマントを身につけるZenonだった。いつまでもからかわれ続けるつもりはないのだろう。本人も試したかった様子でもあった。


Zenon:

「どうだ? どう見えてる?」

ジン:

「おっ?」

アクア:

「へぇ?」

スターク:

「えーっ、消えてないじゃん。見えてるじゃん。なんだぁ~。はい、解散~」

Zenon:

「ンだァ、見えてんのかよ」

リディア:

「やっぱり残念そう……」

Zenon:

「ち、ちがう。違うぞ、そうじゃない。心配して損をして、だな?」

アクア:

「……なかなか高性能ね。装備した途端に、鎧の音も聞こえなくなったわ」

ジン:

「だな。ミニマップでも感知できなくなってる。丸見えだけど、ちゃんと隠れて使えばそれなりに便利そうだぞ? ……丸見えだけど」

Zenon:

「マジか……」


 本来の偵察などの任務では威力を発揮するかもしれない。姿が丸見えでも、前衛職の気配を消す必要がある状況はいくらでもありそうだ。鎧の音が消えるだけでも、味方の耳を邪魔しないから敵の接近を感知しやすくなる。また、鎧を来たまま隠れて接近できる距離が違ってくる。逃げる場合でもメリットが大きい。


 未だにリコが絶賛ふてくされ状態で、ユフィリアたちがひたすらに慰めている。


ユフィリア:

「でも、すっごく綺麗だよ? 布はとっても薄いし、いいものだと思う」

リコ:

「でも金色なんて、こんなの街じゃとても恥ずかしくて着られない」

ユフィリア:

「大丈夫、カワイイよ!」

ニキータ:

「上からコートとかマントとかを羽織ってもいいし、スカートとかパンツを工夫すれば、少し派手なぐらいでしょう?」

リコ:

「少しじゃないと思うけど……」


 確かに、『少し』ではない。『かなり』とか『だいぶ』、もう少し正確には『目一杯』に派手かもしれない(苦笑) クエストでモンスターを倒すのには不必要な派手さ加減なのは間違いない(笑)


タクト:

「なんだ、着ないのか?」

リコ:

「だって……」

タクト:

「似合うかどうかなんて、着てみなきゃ分かんないだろ?」


 そんなことを言っているタクトは、リコの方は見ていなかった。つるはしを早く試したい様子で、リコのシューティング・スターで落ちてきた隕石を掘ってみようとしていた。……あの隕石は戦闘が終わっても消えないもののようだ。サイズ的にかなり重そうなので、使い場所を間違えると、片付けで困ったことになるかもしれない。心にメモしておく。


リディア:

「そういえば、英命先生のって……?」

英命:

「はい。生地をいただいています」

リコ:

「うわっ、これも金の竜がアチコチにいる~」

ニキータ:

「その布ってどうするんですか?」

英命:

「竜翼人の里で加工して貰おうと思っています」にこにこ

シュウト:

「それって……?」

英命:

「ええ。〈神祇官〉の衣装は、凝った形状になりがちです。簡略化された『狩衣』などでも複雑ですからね。モルヅァートに任せるのは少し心配でした。それに〈竜翼人〉のセンスが良いのは確認済みですから」

リコ:

「ず、ずっちー(涙) そういうの、先に教えといてください!」


 つまり、素材をモルヅァートに要求し、作るのは竜翼人の里で頼めば、すべて解決したということだろう。

 装備品の能力やランク的には、幻想級を越えたものまで作れるモルヅァートが上だが、見た目のセンスの良さでは、〈竜翼人〉達の方がだいぶ上だった。お、思い付かなかった……。


クリスティーヌ:

「私のもらった服は、割と真っ当な配色なのだが?」

ジン:

「ブッ……!」

スターク:

「うぎゃぁぁああ! なんで? 普通クラシックスタイルになるトコでしょ? なんでヴィクトリアメイドじゃないの?」

葵:

『フレンチメイド、キタ━(≧▽≦)━!!!!』


 いつの間にかメイド服を着込んでいたクリスティーヌが平然と立っている。けれどもフレンチメイドというか、もう『ハレンチメイド』が相応しいデザインだった。大きすぎる胸を溢れそうにさせつつ、肌にぴっちりとフィットするデザインのメイド服は、なんというか、風俗的というか、扇情的な感じ? を醸し出している。


 確かに色は白と黒?(周囲が暗いので濃紺かは判別できない)の様子。真っ当な配色であり、胸元にさり気なくブランドロゴみたいに金竜がいるぐらいである。どうして他のもこうできなかったんだ、モルヅァート?と思わずにはいられない。


ユフィリア:

「ステキ! すっごくカワイイ!」

クリスティーヌ:

「そ、そうだろうか?」

リコ:

「へー。色がまともだと、デザインはこうなるんだー? 割と計算高いんだ? あのダメドラ」

ジン:

「まー、目的はスタークを悩殺することだしな?」

スターク:

「だからぁ! そういうの止めてってばぁ!」

ジン:

「なに狼狽えてんだエロガキ。お前好きだろ、この手の服?」

スターク:

「好きだよ! 好きだけど、ボクにだって事情があるの! クっ、クリスティーヌだって恥ずかしいでしょ?」

クリスティーヌ:

「……いえ、私は構いません。ギルマスに喜んでいただけるのであれば、それで」

スターク:

「ダメ! ともかくダメだからね!」

葵:

『わぁ~お。年下なのに過保護になっちゃう感じ? ……それって~』

スターク:

「うるさいな!」

Zenon:

「でも、性能とかスッゲーんだろ? 着せないの勿体なくね?」にやにや

ジン:

「なに照れてんの? 事情ってなんだよ、俺にも教えろよ~」ニマァ


 普段いじる側のスタークも、いじられる側に回ると弱いらしく、ギャーギャー叫びながら顔を真っ赤にしていた。こういう所は年齢相応ということらしい。


ニキータ:

「雪……」


 ゾーンに、というか、この地域全体に雪が降り始めたらしかった。ニキータが手のひらで粉のような雪を受け止め、それが水滴になる様子をなんとなく見ていた。さり気なく絵になる人である。

 そんな状態でぼうっとしていたら、ケイトリンに軽く体当たりされ、よろめくことになった。……僕がいったい何をした?


ジン:

「む、ついに降り始めたか」

Zenon:

「よく今日までもったよな~」

葵:

『いやいや。雪もモルヅァートが阻止してたんだと思うよ』

Zenon:

「そういうことかよ……」


 このところ天気に恵まれていた理由は、このゾーンに来るのが億劫にならないように、といった配慮だった可能性もあるらしい。


ウヅキ:

「んで、どうすんだ?」

シュウト:

「どうって、あとは帰るだけじゃ?」

ウヅキ:

「ちげぇだろ、バカか」

葵:

『あははは。つまりモルヅァートの復讐というか、(とむら)い合戦の話だねぇ』


 葵のノンキな発言に場がピリっと引き締まる。


スターク:

「当然、そうなるよ」

英命:

「避けては通れない話題ですね」

ケイトリン:

「人の獲物に横から手を出したらどうなるか、思い知らせるの、賛成」

ウヅキ:

「まさか、タダで済ませようなんて思ってねぇだろうなァ?」


 確かにそうだった。たとえモルヅァートが満足して逝ったとしても、それとこれは別の話だ。中途半端に済ませていい訳がない。

 ジン達はどうするつもりなのだろう?


英命:

「何にしても情報が足りません。今は相手の名前すらわかっていない」

葵:

『それでも分かる事はいろいろあんだけどね。……どうする、ジンぷー?』

ジン:

「俺はハラが減ったんだが、……無理してでももう一度、竜翼人の里に行かなきゃだろうな」

アクア:

「どっちを優先するつもり?」

シュウト:

「どっち?」

ジン:

「目の前にいりゃ、先にブチのめすに決まってる。……が、雪が積もる前にレイドを終わらせないとな。ここで放り投げる訳にもイカンだろう」


 どうもモルヅァートが死んで終わった気になってしまっていたが、レイドクエストは続行中であり、クエストの達成期限が目前に迫っている。11月末日まで残り4日。今日これからは厳しい話なので、残りは3日ということになりそうだ。(末日までならば、だけど)

 次の探索場所をモルヅァートが触れなかったので、竜翼人の里に行って確認しなければならない。この用事を翌日に回してしまうと、明日の時間をロスする結果になるのだ。ついでに黒い竜翼人に話を聞けば、モルヅァートの仇の情報も得られるはずである。


 つまり、どちらにしても竜翼人の里には行く必要があるということで、僕らは再び出発した。道中、葵に確認しなければならない事もある。


シュウト:

「葵さん、今の段階で分かることって何ですか?」

葵:

『うん。まず状況を整理しよう。さっきのゾーンにたどり着いた時、モルヅァートは浸食されてて、自由意思を奪われそうになってた。これは竜翼人の里で、黒い子が実際にワケ分かんなくなってたから、事実だろうと思う。

 で、時間がないと言ってたモルヅァートが最初にやったのが、ジンぷーに呪いを掛けることだったよね』

ジン:

「んで?」

葵:

『これは最悪のシナリオを避けるため。つまり、ジンぷーが自由意思を奪われるような事態を最優先で潰しときたかったってことだよ』

アクア:

「モルヅァートの目的は、竜の因子よりも、呪いの方だったってこと?」

葵:

『そっそ。対抗策って言ってたし。ジンぷーは人間サイドの切り札だけど、同時にデッカイ弱点でもあるかんね』


 自由意思を喪失したジンが人間を襲って殺すようになったら、どれだけの被害が出るのやら? お酒を飲んだ時のイメージからして、絶望しかなかった。


英命:

「我々も自由意思を奪われる危険があるわけですね」

葵:

『そう思う』

リコ:

「そんなこと、可能なんですか?」

葵:

『精神のバランスを崩すぐらいなら、酒や薬物でもいいし、通常のバッドステータスでも可能っしょ。そこから一歩踏みこんで、特定の方向付けをするのはそんなにムズくないやね。不可能でないなら、可能ってことだよ』


 さらりとそんなことを言ってしまった。僕たちの自由意思が保証されないという種類の危機なのに、だ。実感があるとも分かるとも言えないが、やはり不気味な気がする。少し怖い話だ。


葵:

『それとモルヅァートが『異世界からの来訪者』と感じたぐらいだから、敵ってのがメタ的な発言とか、行動とかしたんだと思う。で、ここからはあたし独自の予想なんだけど』

ジン:

「前置きはいらん。とっとと言えばいいだろ」

葵:

『んじゃ、遠慮なく。 モンスターの姿をしてて、見たことのない攻撃をしてくる敵。そのこころは、……『典災』ってヤツだろうと思ってる。従って、典災は、異世界からの来訪者ってことになるね。更に付け加えると、帰還するための何らかの情報を握ってる可能性がある』


 絶句していた。千里眼かと思うような透徹した何かだった。

 ここまでに知り得た情報から補足していくと、星奈・咲空が患った『疫毒』という回復手段のないバッドステータスを使うモンスターが典災だとされている。

 また、ミナミから来た死に取り付かれた狂戦士カドルフ。ヤツの情報源も典災かもしれない。


 一方で、モルヅァートに呪いを掛けた、異世界からの来訪者という敵。完全に一致する特徴はない。典災とは関わりのない別種の敵である可能性の方が高いだろう。それでも、カテゴリーとして纏めてしまった後だと、典災という『敵の形』がより鮮明になった印象を受ける。


ジン:

「それヤベェやつだろ。俺たちの一存で異星人だか異世界人だかと戦争おっぱじめる気か?」

シュウト:

「えっ?」

ウヅキ:

「なっ!?」


 そもそも論というのか、トンでもない話を笑顔でさらっと言われて困惑する。言われてみれば、そういうことになりかねない、のか?


スターク:

「あー、エイリアンとの戦争ってこと?」

英命:

「いえ、侵略されているのは『この世界』ですね。我々もエイリアンですから、立場は変わらないのでは?」

ユフィリア:

「どういう、どういうこと?」

リコ:

「え、だから、良いエイリアンと悪いエイリアンの対決、とか?」

ジン:

「怖い怖い。弔い合戦とか、完全にパーティーリスクだな」

葵:

『部分最適は、合成の誤謬ってね(苦笑)』


 感情的にはモルヅァートにお悪戯(イタ)した相手を許せない。しかし、全体的に見れば異界の住人に喧嘩を売る意味に成りかねない。これは、……困った。


タクト:

「だけど、敵、なんだろう?」

ジン:

「まだ分からんぞ。敵かどうかは、向こうの態度や目的による。現実世界の帰還を意図的に邪魔するようなら、そこではじめて敵ってことだ」

ユフィリア:

「でも、悪人だよ。モルヅァートに無意味に死を振りまけって命令した」


 ユフィリアは難しいことが分からなくても、本質からは眼を逸らさない。彼女の前では、僕らの方がねじくれて感じてしまう。

 反論そこしなかったが、『悪人だから敵とは限らない』とジンなら言うだろう。典災の狙い、目的が僕らの帰還と関係ないのなら、スルーするという選択肢もあっていい。……そうして自由度を高めるのであれば、一部の悪党だけ倒すというオプションもアリかもしれないわけである。


アクア:

「……思い出した。典災(ジーニアス)〈共感子〉(エンパシオム)が目的の、エネミー。世界の脅威」

ジン:

「エンパ……、なんだって?」

アクア:

〈共感子〉(エンパシオム)よ。何かエネルギーみたいなものが目的ってことでしょう。私も話を聞いただけ」

葵:

『ふむ。カドルフ君のことから察するに、死んだら取り出せるものってことだから、感情とか、記憶、魂みたいなもんかな?』

ジン:

「やれやれ。面倒なこって……」


 不穏すぎる会話だった。先行きの不透明さにおののきつつ、竜翼人の里へと道なき道を急いでいった。







エリオ:

「到着でござる……」

ジン:

「うむ、ご苦労」


 武器を失った状態なので、エリオがメインタンクをやらされ、倒れそうになるころに到着した。アタッカーの僕らの負担も小さくない。モルヅァートとみっちり長時間(バト)った後でなので、レベルがあがっていようと、見えない消耗の方が大きかった。早く眠りたい。


 通行許可になっている飾りをかざし、森のような木立の中を進む。いつも立っている入り口の見張り役が居ないのを不思議に思った。


ユフィリア:

「おじゃましま~す」


 夜だけど、夜だから? あまり大きくない声で挨拶して中へ。黒い竜翼人が暴れた痕跡は、そこそこ片付けられていた。そのまま魔法武器屋のテントへ入っていく。


ジン:

「よぉ、居るだろ?」


 茶色の竜翼人が現れるまでしばらく入り口で待つ。


茶色の竜翼人:

『来たのか。……モルヅァートを倒したのだろう?』

ジン:

「話が早いな」

茶色の竜翼人:

『うむ。里の者が出かけたからな』

アクア:

「戦いの続きでしょう? その場所を教えて欲しいのだけれど?」

茶色の竜翼人:

『構わんよ』


 奥に入るように促される。里の中の静かな雰囲気はレイドと関わりがあるようだ。ふと、いったい何しに行ったのだろう?と思った。なぜ、そう思ったのか分からないが、自分的にも良い傾向のような気がした。僕は言葉を鵜呑みにするところがあるらしい。……とはいえ、特に答え的なものは思いつかなかった。


 テーブルに地図を広げ、最後の地点をおおまかに確認することができた。礼を言って石丸が略図をしまう。『行けば分かる』ということなので、目立つ外観をしてそうだ。十中八九、ダンジョンだろう。問題はその規模だ。普通のレイドは5体~10体のレイドボスを倒す。フィールドレイドとはいっても、既に5体ものレイドボスを倒している。残りの数はそんなに多くないとありがたい。


英命:

「お願いしたいことがあるのですが?」

ユフィリア:

「私も!」


 英命が取り出した生地を見て茶色の竜翼人は唸り声を上げた。

 更にユフィリアの涙石を見たら震えて落としそうになっていた。はっと気が付いて僕たちの方を振り返る。モルヅァートの作ったアイテムを持っていることに気が付いたらしい。


茶色の竜翼人:

『少しでよい、見せてもらえないだろうか?』

ジン:

「こっちの用が先だからな」


 英命の生地は、女性めいた格好をした緑色の竜翼人が預かることになった。緑色の竜翼人は数が多いので区別などは無理そうである。顔などの判別は、傷などの特徴でもなければ不可能だと最初からあきらめている。


茶色の竜翼人:

『これを首にかけられるようにすればいいのだな?』

ユフィリア:

「うん。お願いします」ぺこり


 ユフィリアの涙石は本人が鎖でペンダントに。

 簡単な作業らしい。それでもミスリル銀らしくジャラジャラとした音がしない。鎖の輪のひとつひとつが小さく、繊細な作業を必要とするもののような気がした。


茶色の竜翼人:

『素晴らしい宝に似つかわしくないが、身につけるならこのぐらいが良いだろう』

石丸:

「この鎖は、かなり良いものの様っスが?」

茶色の竜翼人:

『師への礼儀だ。気にせずとも良い』


 どうやらモルヅァートを師と思っていたらしい。彼なりの弔いなのかもしれなかった。ユフィリアもありがたく受け取ることにした。


 英命の服ができるまでの間、モルヅァートの作ったアイテム類を見せることに。どれもこれも個性的で様々な術理で作られているという。すべて作ったら数百年必要な装備品らしいが、モルヅァートは10日も掛かっていない。その事がさらに驚異であり驚嘆すべきだと言っていた。どうやら、かなり苦労をかけてしまったのかもしれない。


茶色の竜翼人:

『これが、金枝の力か……』


 最後はニキータの〈神護金枝杖/刀〉だった。マジックバッグから取り出しただけで濃厚な魔力が辺りに漂う。やはり異様だった。呪われていると言われたら信じてしまうだろう。今のところ、ニキータも使うつもりはなさそうにしている。補修には幻想級素材が必要なので、無理して使う必要もないだろう。


茶色の竜翼人:

『これほど強い魔の力ならば、魔法すら易々と切り裂くだろう』

ジン:

「ふぅ~ん。後で試してみっか」

ニキータ:

「はい。わかりました」

アクア:

「……まだあるでしょう」

ジン:

「なんかあったっけ?」

シュウト:

「ジンさんの『竜魂呪』がモルヅァートの最後の作品だそうです」


茶色の竜翼人:

『なんという……。これは竜の魔力(ドラゴンフォース)か?』


 ジンの体に触れると、竜の因子の存在に感づいたらしい。

 この新しい力はまだいろいろと不明な点が多い。特に竜の魔力がどういった性質なのか、とか。


茶色の竜翼人:

『魔法に干渉する力がある』

ジン:

「打ち消したりとかできんの?」

茶色の竜翼人:

『そうした性質はない。攻撃に使われる魔法を多少弱める。もしくは作動を少し遅らせるものだ』

ジン:

「ふぅ~ん」


 モルヅァートの魔法攻撃を弾いて逸らしていたのは、そうした理由によるものらしい。マジックキャンセルまで行かないけれど、ジンであれば使いこなして強力な利点に変えられるだろう。


ジン:

「なぁ、全力出すと武器が爆発するんだけど、なんとかなんないか?」

茶色の竜翼人:

『……使っている武器は?』

ジン:

「今は、爆発したから、ない」

茶色の竜翼人:

『力を加えすぎだろう。じきに慣れるのではないか?』


 そんな話をしている内に、英命の新しい服が完成していた。


英命:

「素晴らしいですね」

リコ:

「私もお願いしたかったなぁ~」


 格衣(かくえ)というらしい。着物で作ったおおきなポンチョというかダブダブのジャンパーのようなものである(表現力の限界……)。白地に金竜があちこちにいるものだ。

 内側は普通の着物になっている。色違いの上着?とズボンのような袴?(表現力の限界……)がピシッと決まっている。その上から格衣を羽織っている形だ。


英命:

「ありがとうございます。……皆さん、おまたせいたしました」

ジン:

「じゃあ、用事を済ませて帰ろうかい。黒いのはどうなった?」

茶色の竜翼人:

『案内しよう』


 一度死んで、復活した黒い竜翼人は意外と元気そうだった。殺しただけで呪いが解けるかちょっと不安になっていたのだが、ちゃんと元に戻れたらしい。


黒い竜翼人:

『世話になった。礼を言う』


 寝床らしいところで休んでいるところに押し掛けた形だが、座ったまま頭を下げていた。正常な状態に戻れたことをうれしく思う。


葵:

『何があったか、話してくれるかな?』


 残念ながら、得られたのは断片的な情報だけだった。精神支配前後の記憶は曖昧なようだ。外観は羽のある巨人の姿であり、水を使うこと、話しかけられると混乱した、といった内容しか得られなかった。特に話していた内容に付いての記憶が曖昧なようだ。名前が分からなかったのは痛いが、外観は何となく分かったのでよしとしたい。


 黒い竜翼人の見舞い 兼 情報収集を終えて、外に出る。

 帰りは帰還呪文なので、この場でお別れになる。


ジン:

「世話になったな。後は向こうに泊まりで終わらせてくる」

茶色の竜翼人:

『うむ』


 この先は竜翼人の里とダンジョンを往復する時間すら惜しい。泊まりがけで一気に突破するつもりだろう。そのための準備もしなければならない。


ジン:

「……んで、俺たちに頼みたいことがあんじゃねーの?」

茶色の竜翼人:

『…………』


 うつむく表情は〈竜翼人〉のそれなので読みとれないものの、深い葛藤のようなものを感じた。やはり事情があるらしい。

 深いため息のような何かの後で、苦しげに言葉を放った。



茶色の竜翼人:

『どうか、救ってほしい……』

  

 

モルヅァートから獲得した主なアイテムですが、別作品あつかいの「世界設定」の「アイテム・装備」で触れたため、今回詳しい記述は避けています。

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